第273話―今後について話し合う―
さて、エイシンの説教も終わった後、俺、エンヤ、タカナリ、エイシン、それにシンキとジゲン、アヤメ、ツバキと、十二星天に加えて、トウヤとちっこいツバキも交えて今後どうするかについて、話し合った。
残りの者達は、ハルマサ達とわいわいしていたり、牙の旅団に関しては刀精になる方法などを聞いている。
リンネはアキラに任せた。たまやロロと一緒に、神獣達と遊んでいる。リンネが、俺に懐いている光景を見ながら、珍しいこともあるんだなあとレオパルドと同じく、感心しているようだった。
楽しそうにしている皆を眺めながら、ひとまず何について話そうと思ったが、さっきから、あることが目について、なかなか話が出来ない。そちらに目を向けながら、俺はため息をついた。
「……なあ、ツバキ」
「あの……ツバキ様……下りていただけますか?」
ツバキがそう言うと、ツバキの膝の上に座って、ご満悦な様子のちっこいツバキは首を傾げる。何を言っているのだ、という顔だ。
「……駄目?」
「いえ、駄目というわけではありませんが……」
「そうしていると気になるだろ。特に俺達が……」
「気にしなかったら……良い……」
「そういう問題じゃなくてだな……」
更にツバキににじり寄っていくちっこいツバキ。否が応でも下りない様子だ。どうしたものかと思っていると、コモンとトウヤがクスっと笑う。
「まあまあ。このままでいきましょう、ムソウさん」
「僕たちは気にしませんから。ツバキさんがこうなのは、知っていますからね」
トウヤの言葉に、エンヤ、タカナリ、エイシン、シンキもどこか諦めたように頷く。なるほど……こちらの世界に来ても、ツバキはそのままだったのか。当時は誰の膝の上に居たのだろうか……。
……あ、エンヤがガクッと肩を落としながら、ツバキに同情の視線を向けている。どうやら、あいつらしい。
意外だなとは思いつつ、俺も皆の言うように、このまま話し合いに入ることにした。
「ったく……。それで、サヤとカンナの行方だが、カンナは依然分からないが、サヤに関しては最後に、冥界に行ったところで終わっていたな?」
「ああ。私はこの眼でサヤ殿が冥界に行くところを見た。間違いない」
「ふむ……では、冥界に行けば何か分かるかも知れないな。シンキ、冥界ってのは、今すぐにでも行けるものなのか?」
皆の視線が注がれる中、シンキは難しそうな顔をする。
「う~ん……それは、難しいな。壊蛇の襲来の頃から、大地と冥界、それに天界を隔てている結界が強くなったからな」
「具体的には?」
「死んだ者の魂以外は、例え鬼族である俺であっても、自由に冥界に行けないようになっている。壊蛇を倒して、十二星天のことを伝えようと向こうに行こうとしたのだが、駄目だったな」
シンキ曰く、それまではタカナリも言うように、こちらから鬼族や神族、それに精霊族は自由に冥界などに行ったり、大地に帰ってこられたりしていたらしいのだが、壊蛇の襲来により、この世界を取り巻く次元に大きな歪が生まれた。
その結果、この大地や、冥界、天界、更には邪神族の居る亜空間を隔てている結界にも影響が生まれたという。
そこで、ここからは仮説だが、ケアルとエンマの手によって、結界が張りなおされたか、前よりも強力なものになっているらしく。それぞれの世界は完全に干渉することが出来なくなったとのことだ。
「では、そもそも行く方法が無いってことか?」
「ああ。あるとすれば、死んで魂だけの状態になることだ。ただその方法にも欠点はある。それは、一度元の肉体から離れた魂は、それこそケリスが使ってた神族の術が無い限り、元の肉体に帰ることは出来ないだろうな」
「なるほど……ケリスのあの技にはそういう意味があったのじゃな」
「だから、あらかた倒した魔物たちの死骸をいったん集めて、違う肉体にした上で魂を戻していたんだな」
ジゲンとサネマサは頷き合っている。二人曰く、屋敷での戦いにおいて、ケリスは大量の魔物の死骸を寄せ集め、神兵や神将などを作り出し、集めた魂を使って、その肉体を動かしていた。
サネマサとジゲンはそれを打ち破ったが、ケリスは倒された魔物を魔法で集めては再び大量の敵を出現させていたという。肉体を前の状態にしなければ何度でも復活することが出来るので、ケリスはいちいち、全滅するのを待っていたようだ。
「なるほど。では、俺が冥界に行くには、いったん死んでからということになり、更にこちらに戻ってきたら、何かの死骸に憑りつくか、刀精みたいにならないといけないってことか……」
「嫌ですよ……それは……」
心配するような顔をするツバキ。無論、本気じゃない。わざわざ冥界に行くために、一度死ぬというのは何とも馬鹿らしい話だ。安心しろと、ツバキに言うと、絶対ですよ、と頷いてきた。
「あ、ちなみに、サヤが冥界に行けたのは、まだ結界も当時のままだったからっていうのと、精霊族ってのが、ほとんど魂だけの状態に近い存在だからだな」
「ほう。じゃあ、コイツ等は、冥界に行こうと思えば行けるのか?」
俺は、エンヤ達を指さしながらそう言うと、シンキは首を横に振る。
「行けるかも知れないが、帰りがどうなるか、だな。それに、エンヤ達はすでに刀精となっている。それぞれ、刀だったり、その首飾りだったりが砕けない限り、抜けることは無いだろうな」
そもそもの大前提がそうだったことを思い出し、シンキに頷いた。それに、行きは良いが、大地に帰れるという保証はない。この提案も却下かなということで話を進める。
「なら、天界の方はどうなんだ?エイシン」
「天界も冥界と同じだ。いや、むしろ冥界よりもきついかも知れない」
「何故だ?」
「冥界は、大地にある死者の魂を集める場所だが、天界は新たな命を大地に根付かせる場所だ。下手をすれば、更に危ない奴を大地に生み出すことも出来る。だから、基本的には神族の者にしか、入ることは許されていない」
エイシンがそう言うと、エンヤは、あ、と何か思い出したかのように口を開く。
「そういや、お前、天界に結婚できた報告をしようと天界に行こうとしていたな。あの時も無理だったと嘆いていたが、そういう理由か?」
え……こいつ、結婚できたのか。少々驚いていると、エイシンは慌てながら、なんだその目は!?と言ってきたので、流石に失礼だと思い、謝った。
エイシンは咳ばらいを一つつき、頷く。
「まあ、そうだな。あの時は俺も、神族の力を完全に失ったただの人族になっていたからな」
「それは、すごい話だな。死んだ後のエイキとゴウキを再び鬼族として手元に置いたエンマはまだしも、仮にも神族の宰相を大地に置くとは、ケアルって奴も相当だな」
「ああ。だがまあ、そもそも、俺が宰相になれたのは、あの時代が戦乱の世だったからだ。平和になった後は、俺が居なくても他の者達で何とかなったと、壊蛇の襲来の時に言われて、何となく凹んだ」
はあ、とため息をつくエイシン。自分は用済みなのかと思ったようだが、後でエンヤ達に聞いてみれば、サヤとカンナを今度こそ護りたいというエイシンの我儘にケアルが応えただけとのことだ。
当初は、ケアルもエイシンを側に置きたかったらしいが、EXスキルのこともあり、その力を正しく継がせるためにも、大地に残った方が良いと判断したようだ。
それが良い判断だったのか、悪い判断だったのか分からないが、最終的に、俺はエイシンと会えた。ケアルの判断は間違っていないと思っている。
さて、というわけで、こちらから他の地に行けない以上は、サヤの動向もそれまでということになった。シンキは一応、もう一度王城を洗いなおしてみると言い、コモン達十二星天も頷いた。事情を知る者が増えれば、手がかりをつかむ可能性も高くなる。コモン達は、エンヤ達の、よろしく頼むという言葉に、強く頷いた。
「まあ、そういうわけだが、サヤとカンナについては後回しということになる。……ザンキ、それで納得してくれるか?」
「ん?俺は構わねえよ。今のままだと何も出来ないんだからな。……ただ、コウカには申し訳ないな……」
恐らく、サヤとカンナに俺と同じくらいの思いで会いたいと願っているのは、俺が魂の回廊で会った、コウカだ。カンナに会わせると言った手前、こういう結論になったのは、酷く申し訳ないことだと思っている。
「また……魂の回廊で会った時に、謝っておかないとな……」
「ああ。その時は俺も……って、そうか。俺は刀精になったから、もう無理なのか……」
エンヤが前回、俺達の居る魂の回廊まで来れたのは、無間が砕け、魂だけの存在だったからである。刀精となったエンヤは、もう、コウカに会うことは出来なくなった。ああ、そのことについても、謝らないといけないかと思った時、ふと、思ったことがあった。
「そう言えば、肉体から抜け出た魂ってのは、同じ肉体に戻らないんだよな?なら、なんで魂の回廊に行っても大丈夫なんだ?」
「ああ、それはな。俺もお前の後を追って、魂の回廊に行った時に分かったんだが、そこに行くのは魂の意識のみらしい。魂の大まかな部分は肉体に残って、一部分だけが、魂の回廊に行っていた感じだ」
エンヤの言葉に、一同頷く。誰もこのことは知らなかったらしい。
エンヤ曰く、あの時、俺の後を追って行く際に、俺の気配がする魂から、紐のようなものが伸びていたらしい。行きは分からなかったが、帰りにその紐が、俺の肉体と繋がっていて、肉体の中に、僅かながら魂が残っていたという。
恐らく、魂の中にもスキルや魔力の他に、その者の人間性だったり、性格だったり、その者の意識のようなものを司る部分があり、魂の回廊に行けたのは、俺の意識などを司る部分のみとのことだ。
ジゲン曰く、俺が倒れた時に、肉体の中に、弱く、小さくなった俺の魂というものを、トウガやリンネが感じたとのことで、確かにあの時には肉体に魂が宿っていたことを確認している。
恐らく、その紐が切れるか、魂がごっそり抜けた時には、すなわち、その者の死を意味し、元の肉体に戻れないとのことだ。
何となく、スケルトンなどに使っていたケリスの術を思い出し、先ほどの、神族の術について、更に納得が出来た。
「じゃあまあ、コウカの方は俺に任せてくれ。シンキのことも伝えておくから安心しろ」
「分かった。そして、いずれまた、皆でお会いしましょうとも伝えておいてくれると助かる」
シンキの言葉に、笑って頷く。エイシンと同じく、コイツも大した忠臣のようだな。
さて、ひとまず、カンナ達の行方についてはこれでまとまった。続いて、何を話そうかと思っていると、ジゲンとサネマサが同時に手を上げた。
「お、ジロウと久しぶりに考えていることが同じになったか?」
「サネマサと同じ考えか……何となく嫌じゃ……」
ジゲンの言葉に、サネマサは何だとお!?と怒り、俺達は笑った。
「で、何なんだ、爺さん」
「おい!そこは俺に――」
「黙れ……」
抗議するサネマサに、ドスを利かせた言葉を発し、サネマサを黙らせるエンヤ。サネマサはビクッと身を震わせて静かになった。目に見するほどに小さくなったサネマサを、エイシンがなだめ、俺たちはため息をつく。
「……で、結局なんだ?爺さん」
「う、む……邪神族の封印が解けそうだということじゃったが、具体的にはいつごろなのかじゃ。近い将来なのか、遠い未来のことなのか……」
サネマサも同じ思いかと思い、確認すると、小さくなったまま静かに頷く。続いて、アヤメもジゲンに頷きながら口を開いた。
「近い将来のことなら、俺もクレナに住む民の為に、何かしないといけないからな。その辺りはどうなんだ?シンキ」
邪神族が再び人界を攻めるとなれば、戦える奴らはまだしも、大地にはそれ以外に力を持たない人間も多く住んでいる。それは恐らくエンヤ達の時代よりも多いはずだ。来るべき事態に備えて、領主として、 また、ギルドの支部長として、アヤメは何が出来るか考えているようだ。
それは俺や、ツバキ、そして、十二星天も同じだ。皆、その時期がいつになるのかとシンキに向き直る。
すると、シンキは重々しく口を開いた。
「具体的には分からないが……ここ数年以内には結界が破られるだろうな」
シンキの言葉に、一同項垂れる……と、思いきや、皆はだろうな、と頷いた。
「あ、やっぱりそうなのか。まあ、ケリスや転界教って奴らの暗躍を聞いたら、そろそろだろうなとは思っていたが……」
「ふむ……闘鬼神は元より、シロウ達ももう一度鍛えなおした方が良いのか……」
「恐らく、壊蛇の一件が原因でしょうね。それと、僕たちがこの世界に来たから、何らかの歪が結界に起こったとか……?」
「あと、ミサキの魔法も何らかの影響を与えていたかもな。まあ、あれは仕方ないことだが……」
「ですね。ミサキさんの魔法で多くの人の命が助かったというのは事実です。しかし、そうなると、私も治癒士それぞれの能力を向上させる必要がありそうですね」
「それから、俺達自身も強くならねえとな。前はやられたが、次は邪神族に後れを取らねえようにしないとな。ツバキも手伝ってくれよ」
「ええ。大師範や、ジゲンさんとの鍛錬は楽しいですからね。もちろん、私も強くなりますから。ツバキ様、よろしくお願いしますね」
「う、うん……」
ニコッと笑い、ツバキは、ちっこいツバキの頭を撫でる。少々戸惑った様子ながら、ちっこいツバキは頷いた。この反応もなかなか珍しい光景だなとでも思ったのか、俺とトウヤ、それにタカナリは目を見開く。
皆は、邪神族の封印が近々解けるということは予想していたようだ。無論、俺もシンキの話を聞いたり、ここ最近起こっている転界教の動きを見て、何となくだが、予想はついていたので、シンキが驚くほど、動揺していない。
俺が知りたかったのは、具体的な時期だったのだが、それは分からないということで、少々残念に思ったが、その時期は近いと確信した今、ジゲン達の考えの切り替えは早い。
それぞれ、十二星天として、領主として、騎士として、自警団として、冒険者として、自分に何が出来るのか、何をするべきか話していく。
あまりの切り替えの早さに、呆然としていた俺のかつての仲間達だったが、皆の様子を見ながら、顔を緩めていく。
「流石、ケアル様やエンマ様が選んだ、僕たちの意志を継いでくださる者達ですね……」
「それは、自分への自慢にも聞こえるぜ、トウヤ。だがまあ、悪い気はしないな。俺もサネマサの頭の悪さをしっかりと補佐しておこう」
「お前も大概だろうが。エイキに比べりゃまだまだだろ。軍略においては、俺達の子孫の方が上をいってるな。そうだろ? タカナリ」
「ああ。ジロウも、アヤメも私達の子孫に恥じない者達だな。放っておいても、大地はもう大丈夫だろう……」
などと言いながら、エンヤ達はジゲン達を眺めている。だが、最後のタカナリの言葉を聞いて、アヤメ達はエンヤ達に視線を移した。
「はあ? 何言ってんだ、このご先祖様は。元はと言えば、アンタらが邪神族ってのを殲滅出来なかったのが原因だろ? アンタらも俺達と一緒に戦うんだよ。アンタは、花鳥風月として、俺とな」
「そして、エンヤ殿もこれまで通り、神刀・斬鬼としてその力を振るってもらう。それくらいはしてほしいものじゃの」
「無論、シンキもだ。昨日、俺達に協力してくれって言ったばかりだからな。俺も手伝ってやるから、邪神族との闘いの際は最前線に出るようにな」
「トウヤさんはこれまで通り、僕の聞いたことには全て返してくださいね。装備を整えることも、立派な仕事ですから」
「それと、後でナツメさんたちと一緒に、私達への修行もお願いします。サネマサさんが先ほど仰ったように、私達も強くならねばなりませんからね」
「まさか、この時代はムソウ様と私達に任せた! というわけではありませんよね?」
皆の言葉を要約すると、これまで通りこき使うから、よろしくな、ともとれるツバキたちの言葉に、目を丸くして、言葉を失うシンキとエンヤ達。
しかし、エンヤは、吹き出したように笑い、俺に肩を組んできた。
「ハハハッ!こいつは面白いな!まったく、お前の周りはいつも面白いことになっているみたいだな!」
「へえ、お前なら逆に皆の言葉に、苛つくと思ったんだが、違うみたいだな」
「いや、少しばかり、ムカついている……だが、コイツ等に任せるよりも、俺も直々に暴れた方が楽しいかも知れないな……」
「フッ……お前も相変わらずのようで、安心したよ。
……俺も、強くならねえとな……」
邪神族との闘いに向けて、それぞれが今よりも強くなろうと言っている。俺も、今よりももっと多くの命を護れるように強くなろうと感じていた。
そう思っての言葉だったのだが、それを聞いた皆は目を丸くして、こちらを見て、それ以上強くなってどうする気だ、と言ってきた。
どうするも何も、皆を護る為だと言うと、エンヤは更に笑い、他の奴らは頭を抱えながら、
「世界の均衡が……」
などと呟いていた。皆を護る為に、次元を歪ませたミサキも居るのだし、それくらい良いじゃねえかと思っていると、ツバキの膝に座った、ちっこいツバキが口を開く。
「ザンキ……ばか……変わってない……」
……何とも、失礼なことを言ってくるちっこいツバキ。何か言い返してやろうと思っていると、そんなツバキの頭を撫でながら、こちらのツバキが優しく口を開く。
「そんなことはありませんよ。ムソウ様の強さに、私達は幾度も護られてきましたから。
そして、これからは私達がムソウ様を御守りするのです。その為に、ツバキ様、そして、エンヤ様……どうか、私に協力してくださいね」
「う、うん……」
「お、おう……」
こちらのツバキは、ちっこいツバキとエンヤに、簪と斬鬼を持ちながらそう言った。ちっこいツバキとエンヤはどこか困惑している様子だ。




