第272話―俺の家族について明らかになる―
タカナリは、初代クレナ領主に就いてエンヤとの間に二人の子をもうけた後、この世界でも皆よりも早く死んでいった。
前の世界では、民たちに看取られながらの最後だったが、この世界では、親族と、タカナリの魂をカンナとコウカの元に届ける役を任されたサヤのみ。何となく寂しいなあとは思いつつも、死後も皆と過ごせるということに喜びを感じていた。
さて、そうやって、タカナリの葬儀はつつがなく行われ、サヤはタカナリの肉体から飛び出た魂と共にエンヤの元を訪れ、最後の挨拶を済ませていた。
「じゃあ……私もカンナとコウカちゃんの所に行くね。二人と合流したら、ノアちゃんの所で待ってるから」
「おう。つっても、俺はなかなか死なねえからな。まあ、首を長くしてゆっくり待ってろ」
「フフッ、頭領さんらしいね。でも、本当に何歳なのか分からないよ」
タカナリ曰く、エンヤは何年経っても、見た目がほとんど変わっていなかったらしい。その時も、六十はとうに過ぎていたはずなのだが、少し小じわが出てきている程度で、今までと同じくらいに若々しかったという。
これは、確かに、あと百年は老いで死ぬことは少なくとも無いだろうなと、タカナリは笑っていたという。
もっとも、その笑い声はエンヤに届くことは無く、一人、タカナリに頷いているサヤに、エンヤは首を傾げていた。
……と言っても、そこから十年足らずで、エンヤも死んだがな。ちなみに死因は、ナツメ曰く、煙管の葉っぱの中に、強い毒を含んでいるものがあったらしく、それによる中毒からだったらしい。流石にこれには、俺とタカナリは爆笑した。
話を戻そう。エンヤ達と別れた後、サヤとタカナリは、今で言う、精霊女王の懐という山に向かった。
ここにはケアルとエンマが残していった、とある術式を組み込んだ装置があるという。それは、精霊族や神族、鬼族が使うことで発動する代物なのだが、要は死んだ魂がどこに行ったのか分かるものだという。
近くの魂なら、魂の状態でも感知することが出来るが、遠く離れていると、その気配を追うことは難しくなる。
そこで、人の肉体になっているとはいえ、元々が精霊族だったサヤは、魂の管理において神族たちが利用していたその装置を用い、世界のどこかにあるかも知れない、カンナとコウカの魂を探すことにした。
しかし、そこで予想外の事態が発生する。世界中どこを探してもカンナとコウカの魂が見つからなかった。流石の二人もこれには慌てる。
「ど、どういうこと!? ふ、二人はどこに……?」
「落ち着くのだ、サヤ殿。もう一度、心当たりのある場所から……」
サヤは、心当たりがある場所を思い返しては、何度も装置を使ったが、それらしい反応は無く、二人はひどく落ち込んだ。
「まさか……」
世界中をくまなく探した二人は、ある一つの結論に行きついた。それは、既に二人の魂が、大地に居ないということだ。
恐らくは、大地とは別の亜空間である魂の回廊か、ケアルが居る天界、可能性が高いのはコウカの父、エンマが統べる冥界に行ったか。
「ふむ……しかし、冥界や天界に行ったとなると、どうしようも出来ないな」
「ええ。確か、こっちから行くことは出来るけど、向こうからこっちには自由に来れないんだよね?」
「うむ。ケアル様達が言っていたな。自由に行き来できるのは、精霊族か、神族、それに鬼族だけだと……」
大地、天界、冥界の間には、強力な結界が存在する。それにより、こちらから二つの世界に干渉することは出来ない。出来るのは、結界を張った神族か鬼族、もしくは強力な魔力を持ち、魂を操る術を持つ精霊族のみ。
ならば、サヤが天界か冥界に行けば良いという結論に至ったのだが、もし、そうならば、ケアルか、エンマから使いが来ているだろうと考え、カンナとコウカの居場所がますますをもって分からなくなった。
「なら、魂の回廊かな……あそこってどうなってるんだっけ?」
「エイシン殿に聞いた話だと、あそこは広大な空間にそれぞれの魂の「部屋」があるという。その部屋には、主となる者の魂か、その者と深い絆で結ばれた者しか入られないと聞いたが……サヤ殿、二人の魂は感じるか?」
タカナリの問いに、サヤは、ずーんと分かりやすいくらいに落ち込んだ。どうやら感じていないようだ。カンナの母で、コウカの親友というのに二人との絆は無いのかという顔をしていた。流石に、聞く質問を間違えたと反省するタカナリ。
まあ、それは無いだろうと感じたタカナリは、すかさず謝った。
「す、すまん、サヤ殿」
「うん……でも、どうしたら良いんだろ……?」
二人は再び、思案を巡らせた。まず、カンナ達が何処に居るのか。そして、自分たち、特に魂だけの存在となり、外界からも無防備で、このまま時が経てば、強制的に冥界に行くことになり、そこから、この世界の魂の管理の問題で、輪廻転生の輪に入ることになるタカナリはどうすれば良いのか。
「ひとまず、タカナリさんはノアちゃんの所に送りたいんだけど……」
「うむ……ノアはまだ子どもじゃからのお。依り代の力を使うことは出来んじゃろう」
「トウガ君たちに任せるっていうのは?」
「トウガや龍族が居るのは、山奥の更に山奥とアキラやルージュ殿に聞いた。道中魔物も多く、サヤ殿では近づけんと思うが……」
「むぅ……悔しいけど……そうだよね」
当面の目的は、タカナリの魂をどうするか。一応、皆で予定していた、ノアという神獣の依り代によって残すという方法だが、この時は、その神獣にそのような力はなく、神獣が成長するまで、コウカやカンナと共に、この精霊女王の懐で精霊たちに護られながら過ごす予定だった。
それまでは、各々が用意した道具に憑依という形で魂を残す予定であり、サヤはタカナリの憑依先と決めていた一本の刀を持っている。
それが、現在のアヤメが持っている、花鳥風月であり、ひとまずは、タカナリの魂を大地に留ませておくために、タカナリが刀精になることは決まった。
「サヤ殿はどうする気なのだ?」
「私はこのまま、二人を探すよ。何にしても、二人が居なかったら、皆心配するだろうし……それに……いくつになっても、私の子どもだもんね」
ニコッとタカナリに笑うサヤ。世界が変わっても、この笑顔は変わらないらしいと、どこか懐かしい気持ちになったタカナリはフッと笑った。
「では、私もサヤ殿に付き合うとするか。二人を見つけて、我々でエンヤ達と合流した方が良いじゃろう。サヤ殿を一人にして、何かあったら、私はエンヤに怒鳴られてしまう」
「相変わらず、頭領さんには、頭が上がらないんだね~」
「ああ……まあ、それでも、良い妻だよ」
「あら、私よりも、かな?」
「さてな……ただ、ザンキ殿は、サヤ殿が世界一可愛い妻だと言っておったよ」
タカナリの言葉に、顔を赤らめ、照れだすサヤ。俺がそう言ったことを信じられないらしい。俺も若干恥ずかしいと感じてしまった。
……というか、このこと誰かに言ったっけ? どこかで言ったのかも知れない。俺、他にも変なことを言っていないのかと不安になった。
さて、その後、タカナリはサヤの手によって、花鳥風月に宿り、当時はまだ、精霊族の隠れ里があった「精霊女王の懐」を拠点としながら、サヤと共に、色々なところを回っては、カンナ達を探した。
しかし、山の装置に引っ掛からなかった二人の魂が見つかるわけも無く、ただただ時間が過ぎていく。
そこで、サヤは、とある提案をする。それは、サヤ一人で天界などの大地以外の地に赴き、ケアルやエンマの力も借りて、二人を探すと言うもの。
無論、唯人の魂であるタカナリは行くことが出来ない。しかし、あちらに居るのは神族と鬼族のみであり、大地に居るような、危険な魔物族は居ないということで、サヤ一人でも安全である。
タカナリは、サヤの申し出に頷き、最初に冥界へと向かうサヤを見送った。
「じゃあ、行ってくるね。何かあったら、頭領さんと、タカナリさんの一族に刀を渡すようにしているから」
「うむ。仮に、サヤ殿が戻ってこなくとも、私はあそこで人界の様子を眺めておくとしよう……エンヤ達には申し訳ない結果となったが、まあ、カンナ君たちを連れて来れば、あ奴も文句ないだろうな」
「うん! ……よし! そろそろ行こっかな。じゃあ、皆、タカナリさんをよろしくね!」
サヤの言葉に、山の精霊族は頷く。カンナを育てたというその精霊族達は、カンナを産んだ人間である、サヤとの約束は絶対守るという思いで居た。
このまま、サヤが戻らないようならば、約束通り、刀ごと、タカナリを現在のクレナに届けるということを誓い、サヤを見送る。
「では、気を付けて行くのだぞ、サヤ殿」
「はい! 行ってきま~す!」
サヤは空に向けて手をかざす。すると、何も無い所に一本の線が浮かび、そこから空間が割れて、真っ黒い穴のようなものが出現した。
そこからは、僅かに冥界の波動が溢れている。それは、冥界へと続く門のような術式。人界と冥界の間の結界を通り抜けるというものだ。
そして、サヤは皆に手を振りながら、冥界へと向かった。
タカナリは山に残りながらも、ケアルとエンマの助けが入るのならば、すぐにでも会うことが出来るだろうと考えていた。
……しかし、その日が、タカナリがサヤを見た、最後の日だったという……。
◇◇◇
「……その後、山に住む精霊族も数を減らしていき、そこに誰も居なくなる前に、私は最後の精霊族によって、この地に戻ってきた。あれから、三千年余り……
私の子孫である領主たちと共に、この世界を見てきたが……結局、サヤ殿、そして、カンナ君を見つけ出すことは叶わなかった……」
肩を落とすタカナリと、話を聞いたエンヤ達、それに、シンキ。サヤとカンナについて、何か分かることがあれば良いと思っていたが、タカナリの過去を洗っても、結論は今のまま。二人が何処に居るのか分からない。
何とも言えない、微妙な空気が辺りを包んでいく。先ほどまでは、皆盛り上がっていたんだがなあ……。
ふと、そんなことを思っていると、ツバキを始め、闘鬼神の皆がチラチラと俺に心配するような視線を向けてくることに気付いた。俺のことを思ってくれているのか。……何とも、ありがたい話だな。
俺は手をパンと叩き、落ち込んでいるタカナリ達の顔を上げさせた。そして、フッと笑い、口を開く。
「……まあ、行方知れずだった者達のうち、コウカは居場所……というか、安否が分かっている。だから、もう少し、お前らも元気になっていてくれ」
「ザンキ殿……しかし、カンナ君とサヤ殿が……」
「カンナについては分からないことだらけだが、サヤについては突然居なくなったと思われていたのが、取りあえず、冥界に行ってから行方不明になった、ということが分かった。それだけでも、一歩前進と言っても良いだろう」
更に言えば、三人と同じく、エンヤ達にとっては何の音沙汰も無かったタカナリもこうして、皆の前に姿を現すことが出来ている。現状では、それだけで十分ではないかと、皆に説いた。
すると、シンキとエンヤはクスっと笑い、徐々に表情を明るくさせる。
「確かに……それに、俺からしたら皆の話にしか出てこなかったザンキに会うことが出来ているからな。まったく……長生きはしてみるもんだな」
「ああ。しかも、俺はコウカには確かに会えた。残りは、カンナとサヤ……ザンキ達にはいつも手を焼かされる……」
「うるせえ。可愛い子供には手を焼かされるもんだろ?」
「お前のどこが“可愛い子供”なんだよ……?」
やれやれと頭を抱えるエンヤ。俺達のやり取りに皆も少しだけなごんだ空気になっていく。
まあ、今もカンナとサヤの行方を追っているため、俺は二人に手を焼かされていることになっているし、普通に過ごしていても、ツバキやリンネ、それにダイアン達とアザミ達に振り回されているからな。皆の“親”としては、そういう人生も当たり前のことだと思っている。そういうのも悪くないなと感じていた。
そして、俺はこれまで大地に残り、世界の情勢を見守りつつ、サヤとカンナの動向を探ってくれていたタカナリの前に立った。
「この世界でも、俺の家族を気にかけてくれてありがとな。ここからはまた、俺がお前らの代わりに力になってやる。
……俺は、“大陸王”であるお前直属の傭兵だからな」
そう言って、手を差し出すと、タカナリは目を見開き、フッと笑った。
「……ああ、これからも頼む。“古今無双の傭兵”よ……」
タカナリは俺の手をしっかりと握って、俺達は固く握手をした。
すると、ここでアヤメがやれやれと言いながら、歩み寄ってくる。
「はあ……俺の居ない所で、ムソウとご先祖様が話を進めてるなあ。これは、俺の方も手伝わないといけない流れか……」
「ここまで話を聞いて、手伝わないわけにもいかんじゃろう? それにムソウ殿には我らも世話になった。この恩は果たすべきじゃぞ?」
アヤメの言葉に、ジゲンはそう言って、俺の顔を見て頷く。アヤメは更にため息をついて、呆れたように口を開いた。
「ったく……ケリスのことが片付いて、今後はゆっくりさせたいと思っていたのに、叔父貴がやる気なら、俺もやるしかねえじゃねえか」
「じゃが、アヤメも満更ではないんじゃろ?」
ニコニコしながらアヤメの肩を叩くジゲンに、アヤメはふっと笑った。
「まあな……それにこの刀を持つ人間は、大切な人を最後に見送るという嫌な習慣があるらしい。
次にこの刀を持つ人間がそういったことにならないように、ご先祖様の未練ってやつは断ち切らないといけないな」
ふと、牙の旅団のほうからクスクスという笑い声が聞こえてくる。アヤメは、アイツらの最後の旅を見送ったわけだからな。
最後にサヤを見たタカナリと自分を重ね合わせてそういう結論になる辺り、アヤメも言うじゃないかと感心していると、アヤメとジゲンが、俺達の手の上に、自らの手を重ねてきた。
「まあ、というわけで今後も、お前の家族探しってやつに協力する。領主として出来ることがあれば、何でも言ってくれ」
「アヤメはこう言っているが、今までと何ら変わらない関係でいようということじゃ。今まで通り、儂はムソウ殿達と、あの屋敷で幸せに暮らしていくからの……我らが始祖の代わりにの……」
何か、誓いを立てるように、フッと笑う二人。ジゲンに関しては、べつに改めて誓うことでも良いと笑うと、更に二人は笑った。
そんなことをしていると、エンヤがフッと笑って、タカナリと肩を組む。
「なかなかいい感じだな、俺達の子孫。何となく安心したんじゃねえか?」
「何を言う。私はアヤメとジロウが小さい時から見守っている。安心したのはお前じゃないのか? エンヤ」
「……まあ、な。俺の“息子”と、子孫が手を取り合うってのは見ていて気持ちがいいもんだ……」
二人は穏やかな顔で俺達を眺めた。本当の意味での家族と、子供を持って、やはりエンヤはどこか変わったようだ。こんな顔、俺は見たことが無い。
今日は驚くことが多い日だが、地味にこれが一番、俺の中での一番の驚きなんじゃないかと俺は笑っていた。
◇◇◇
ジゲン、アヤメ、それにエンヤとタカナリというクレナ領主一族の始祖と末裔というおかしな関係の四人と笑い合っていると、緊張の糸が解けたのか定かではないが、俺達を見守っていた奴らがこちらに来て、エンヤとタカナリに質問攻めを始めた。
瞬く間に皆の中に埋もれていく二人。皆の先頭にはツバキと牙の旅団、それにたまとリンネが立っている。
ツバキとリンネは、昔の俺のことについて、エンヤに目を輝かせながら聞いていた。
「ねーねー、おししょーさまって、すきなたべもの、なーに?」
「うん? そ、そうだな……基本的に何でも食べていた気がするな……うん。好き嫌いは無いと思うぞ、リンネ」
「毒キノコ食べさせたってほんと~? おいしいの~?」
「いやいや、あれはアイツだから出来たことだから、他の者達は真似しない方が良いぞ、たま」
「修行と称し、毒キノコを与えたり、真冬の川に突き落とされたり、まだ十二の頃に山賊の集団の中に放り込んだという話は本当なのでしょうか?」
「ん゛! ……あ、ああ……本当だ」
「ムソウ様、あの頃のことをすごく怒っておりましたが、大丈夫でしたか?」
「いっぱつぶっとばすっていってた~!」
「だ、大丈夫だ。皆、知っていると思うが、アイツは優しいからな。許してくれるはずだ」
そう言って、ちらっと俺を見てくるエンヤ達。そういや、毒物に関しては、大人になってからナツメにされたのが印象的過ぎて抜けることもあるが、事の始まりはエンヤだったんだよな。
それにツバキに言われて思い出したが、そんなこともあったなあと思い、真顔でエンヤに視線を移すと、エンヤはビクッとして、顔を逸らした。
なるほど……本当に、俺はエンヤにとっても恐れられる存在になったようだな。複雑だが、何となく嬉しい。
しかし、エンヤが子供に囲まれるというところもあまり見たことが無い。リンネとたまの扱いに若干戸惑っている様子のエンヤは見ていて面白いものだ。
恐らくだが、子供が出来ても、タカナリや従者にでも任せていたんだろうな。実質的な領主は、エンヤってことで、容易に想像できて、何となく笑えた。
他の奴らは邪神大戦のことを詳しく聞いたり、牙の旅団に至っては、ここクレナの歴史だったり、小さい時のジゲンや先代の領主について、タカナリに聞いていた。
「タカナリ様。俺達は、アンタたちの時代でも通用するほどの強さか?」
「昨日、シンキ様にそう言われたんだが、サネマサや、ムソウを見ていると自信が無くてな……」
「うむ……あの二人……特にザンキ殿が“規格外”なだけで、お前たちも充分強い。
だが、お前たちはまだしも、ザンキ殿の今の闘鬼神の者達は少々力不足かも知れないな。来る邪神族との闘いの為、そして、ここクレナの武人として、しっかりと稽古をつけるのだぞ」
タカナリの言葉に、コウシ、ミドラ、ロウ、ソウマ、チョウエンはニカっと笑って頷く。本人たちの知らない所でダイアン達が更に苦労することになったようだ。
しかし、アイツらはまだ邪神族と戦うにはまだ力不足か。当面は、俺もジゲンと一緒に、少なくとも牙の旅団に匹敵するくらいには、アイツらを強くさせる必要があるなと考えられる。いつ、邪神族と本格的に戦うかは定かではないが、転界教も居ることだし、早めに行動しておこう。
「それで、タカナリ様。まだ小さくて、私達と出会う前のジロウってどんな感じでしたか?」
「む?……そこまで変わっていなかったぞ。わんぱく坊主で、そこら中駆け回っていた。ただ、ガロウの言うことはよく聞いていたな」
「あ、それは想像つくわね。街の外でも中でも我を通していたジロウが、ガロウ様やカナ様の言うことだけは聞いていた気がする」
「皆さんから聞きましたが、アヤメさんが生まれた時が一番すごかったらしいですね、ジロウさん?」
「う、む……まあ、兄者もカナ殿も口を開いては、アヤメが泣くから離れていてくれじゃったからのお……あまり、このことは話して欲しくないのじゃが……」
皆のしている話に、ジゲンは苦い顔をして、戸惑うばかり。アイツにはまだ、面白い過去がまだまだあるようだ。全てを知っているタカナリには、流石のジゲンもたじたじと言ったところか。
「だが、私としてはアヤメの変化が面白かったな。あれだけ女性らしかったアヤメが、ジロウとサネマサのふるまいを真似していく様は何とも可笑しなものだった。
たびたびここに来ては、どうすれば、威厳ある立ち振る舞いに見えるかなど、私に聞いたりしていたな」
「ちょっと待て! それ以上言うなよ、花鳥風月! このことはムソウも闘鬼神も知らねえんだからな! 叔父貴たちもそれ以上は言うなよ!」
「いや、知ってるぞ」
昔のことを知られたくない様子のアヤメにそう言うと、口をあんぐりと開けて、へ? という顔をした。
すでに、ジゲン達からそのことは聞いていると言うと、アヤメはがっくりと肩を落として分かりやすく凹んだ。相当恥ずかしい様子のアヤメに、タカナリは笑っていた。
「ハハハっ! まあ、そんなに気を落とすな。私の妻のようになった今のアヤメは、前よりも愛着がわくぞ……ただ、もう少し、私の力を引き出せるようにならねばな」
「……一言余計なんだよ」
俺が思っていたことを、アヤメも呟くと、更に笑いに包まれるジゲン達。すると、ジゲンは、あ、と言って思い出したように口を開く。
「そういえば、始祖殿。先ほどの話じゃが、やはり次の領主も、クレナ家の者が良いじゃろうな?」
ジゲンの言葉に、アヤメは顔を起こし、あたふたする。先ほど、洞窟前でしていた、アヤメの結婚についてだ。
何のことだという顔のシズネ、エンミ、カサネの前で何も言えず、アヤメが慌てていると、タカナリは頷いた。
「ああ、あのことか……。私は別にどちらでも良いぞ。何も、今までが我が一族だからと言って、これからも一族の者が領主となるということに固執しなくても良いだろう」
予想外の言葉に、ジゲンは目を見開き、アヤメは若干表情を明るくさせる。そして、タカナリは更に続けた。
「今まで一族の者が領主となっていたのは、その時代にそれ以外の領主たる器の人間が居なかっただけだ。
というか、今の代にしても、ガロウが死んだとき、私はお前が後を継ぐものだと思っていたがな。お前に領主以外にやりたいことがあり、それを優先させてしまった結果、まだ幼いアヤメにクレナを任せる羽目になってしまった。
そんなお前が、アヤメの生き方にどうこう言う方が間違っている気がするな」
「う……む」
再び、ジゲンは苦い顔をして、先ほどのアヤメのように、分かりやすいくらいに落ち込んだ。
一族の始祖に、ここまで言われたアヤメは更に元気になっていき、さっきまでとは対照的になっていく二人。
タカナリは、アヤメの方を向いて、さらに続ける。
「……だから、アヤメも無理に結婚など考えなくても良い。というか、ジロウがしていないのだからな。したいと思った時、思った相手が見つかったときにすれば良いと思っている。
それが、子孫の幸せだと言うのなら、私は何も言わない」
タカナリの言葉に、アヤメは強く頷き、俺の肩を組んできた。
「やはり、アイツが俺達のご先祖様というのは本当だな。親父そっくりだ……」
「それは良かった。てことはやはり、爺さんはエンヤの血の方が濃いってわけだな。あの様子……今のエンヤにそっくりだ」
俺はツバキ達に代わり、今度はアザミ達に質問攻めに遭い戸惑っているエンヤに視線を向けた。力ではなく、言葉に圧されている辺り、二人はよく似ていると感じる。何となく、ガロウの言うことには、ジゲンも従っていたという皆の言葉の意味が分かった気がした。
そうだな、とアヤメが頷き、タカナリが先祖で良かったと言いながら、俺は、再びアザミ達とエンヤの会話を眺めた。
アザミ達については、タカナリとエンヤが結婚する経緯について知るために、エンヤを囲んでいた。
「エンヤ様もやはり強い殿方がお好きなのですね?」
「い、いや、あれはサヤに言われて仕方なくって感じだったからな……俺の趣味はどちらかと言うと――」
「エンヤ! それ以上は言うな!」
それ以上言ったら、場の空気がおかしくなると思った俺は、エンヤの言葉を遮った。
エンヤの趣味は、昔言っていたように、自分よりも強い女である。同性婚については特に俺も、何も思わないが、この場で言うと、何かおかしな状況になるかも知れないし、俺としては親がそういう癖であることをあまり知られたくない。それも、闘鬼神には知って欲しくない。
ジッとエンヤの目を見ていると、こちらの意図が伝わったのか、エンヤはわかったと頷く。
「ま、まあ、なんにせよ、タカナリと結婚したのは、サヤが、俺達にも幸せになって欲しいからって言ってきたからだ。アイツの言うことは流石に聞かないわけにはいかないからな……」
「すごい方なんですね、サヤ様って……」
「ああ。アイツも、俺の“子”同然だからな。アイツの悲しむところは、俺も見たくなかった……」
「エンヤ様はお優しい方のようですね……それで、俺より強い人間と結婚すると言って、タカナリ様と結婚することになったというわけですね?」
「あ、ああ……最初は、そんな奴居ないと思っていたんだが、何度も向かってくる度に、アイツも強くなっていったからな。七十戦目を越えたあたりから、俺も手を抜くわけにはいかないくらいまでになって、百戦目だ。気づいたら、俺は地面に大の字になっていて、空を見上げていた。
そばに居た、タカナリがフッと笑って、俺の手を取り、じゃあ、良いな? って言って……」
急に惚気始めたぞ、コイツ……。アザミたちが顔を赤らめながら、素敵! などと言っている。
すげえな、皆……どんどん、俺の知らないエンヤを引き出している。
エンヤも、皆のことを気に入ってくれたのかと、何となく安心した。その後も、ツバキ達もアザミ達に加わり、苛烈になっていく質問攻めに、エンヤも、タカナリもたじたじとなっていく。
これは、なかなか面白い光景だなと思っていると、あることに気付く。
皆の中に、十二星天とハルマサ達、それにダイアン達が居ない。何をしているのかと辺りを見回してみると、少し離れた所で、サネマサがコモンやシンキと何か話しているのが見えた。
それに、エンヤ達も気づいたらしく、話をいったん止めて、俺と一緒に、サネマサ達に近づいていった。
「お前ら、何してんだよ。こっちは盛り上がってんぞ」
「あ、ムソウ。丁度いい。少し聞きてえんだが」
サネマサが少し困ったような顔で俺に近づいてきた。そして、ハルマサ達を指さしながら、首を傾げる。
「なんで、コモン達やツバキの前には、お前の仲間が出てきて、俺の前には姿を現せないんだ?」
あ……そういえば、そうだな。コモンにはトウヤが、レオパルドにはアキラが、ジェシカにはナツメが、そして、ツバキにはハルマサとちっコイツバキが姿を見せている。
それぞれ、EXスキルという力で結ばれている者達だが、ハルマサのスキルの前の持ち主は姿を見せていない。
「これは、どういうことなんだ? シンキ」
「いや、俺にも分からないな。サネマサが、アイツが宿っているものを持っていないのか、そもそも刀精になっていないのかと思ったが、アキラたちによれば、その羽織に宿っているらしいが……」
シンキはハルマサが来ている羽織を指さす。それは牙の旅団の紋章と、十二星天の紋章二つが刺繍で描かれている赤い袖なしの羽織だった。
以前、ミサキが俺と手合わせしていた時に着ていた、能力を上げる十二星天の証のようなものだ。アキラやトウヤ曰く、これに、サネマサのEXスキル、究めしものの前の持ち主が宿っているらしい。
「ふむ……というか、サネマサのスキルの前の持ち主って誰なんだ? ここまで来ると、流石に分からねえな……」
「あ、それはだな――」
エンヤが俺の問いに応えるように、口を開いた瞬間、ダイアン達の方からスッと手を上げる者が居た。
「と、頭領! ちょっといいですか!?」
その言葉に、どこか呆れたようにため息をつき、ダイアン達が、手を上げる者がよく見えるように、バラバラと離れていく。
すると、身体を硬直させ、小さく震えているロロの姿があった。
「ん? 何だ? 今、大事なところなんだが」
「わ、私の方も大事なことです~!」
何か必死になっている様子のロロ。何だろうなと首を傾げていると、ダイアンとリアが口を開く。
「頭領、何とかしてくれても良いっすか? 俺達も黙っていてくれって言われて、すぐに言わなかったのが悪いんだが……」
「まあ、言おうとしても、そっちで盛り上がって、何も言えなかったらね……」
そして、同情の目をロロに向ける二人に続き、他の者達も頭を抱えながら、同様の視線をロロに向けた。
一体、何をしているのだろうかと思っていると、突然、ロロの背後から声が聞こえてきた。
「て、てめえら! 内緒にしてくれって言ったじゃねえか! このままやり過ごすつもりだったのに!」
その声は、どこか荒々しい風貌が想像できるような野太い男の声だ。何か必死になって叫んでいる。
そして、ロロは、その声と会話するように半泣きで口を開いた。
「も、もう、ここまで来たら、出てください~!」
「もう少しなんだから、動くなって!」
「嫌です~! 気持ち悪いです~!」
「お前! 言うことにかいて気持ち悪いとは何だ! もう少しましな言い方があるだろうが!」
「生理的に無理なんです~!」
何とも凄まじい暴言を吐くロロ。こういう光景もなかなか見たことが無いが、アイツはたまや、リンネが大好きで、事あるごとに抱き着いては、癒されると言う女だ。
そんなアイツが、生理的に無理とまで言い放つ相手……ロロは一体、何者と話しているのだろうかと、首を傾げていると、周りから小さなため息が聞こえてきた。
「はあ……あんなところに居たのか、まったく……」
「いくら探しても見つからないわけだ。隠蔽スキルでも使ってまで隠れたかったようだな」
見ると、ロロの方を見ながら呆れたような仕草のシンキとエンヤ。それにハルマサ達も同様の態度をしている。ロロの後ろに誰が居るのか、知っているようだ。ということはそいつが、サネマサのスキルの前の持ち主というわけか。
一体、どんな奴だろうかと思ったが、よりにもよって、ロロを盾にする当たり、大したことないのでは、と思っている。
……しかし、姿の見えない男の声にはどこか聞き覚えのある懐かしさのようなものを感じていた。
本当に、誰なんだろうなと思っていると、エンヤが更にため息をついて、前に出る。
「ったく……これじゃあ埒が明かねえな。えっと……ダイアンとリアだっけか?」
「う、うっす」
「ええ」
「ちょっと手伝え。アイツを引きずり出そう」
エンヤは二人を連れて、ロロに近づいていく。自分に向けられているわけではないが、エンヤのどこか苛ついている視線にロロは更に震える。
「こ、怖いです~! もう、無理です! 私、動きますからね!」
「ちょっと待て! 怖いって誰だ!? ザンキか!? 頭領か!?」
「と、とと頭領です~!」
「だから、どっちのッ! って、うわあ~~~っ!」
二人が何か話している隙に、エンヤはサッとロロに近づき、後ろに居る何かを掴んだ。
そして、リアとダイアンがロロの手を引き、ロロはリアに抱き着いた。
「怖かったです! それに、皆もひどいですよ! 助けてくださいよ~!」
「それはすまなかったって。ただ、危険な奴かもって考えたら無理に動かない方が良いだろう?」
「この場は、ロロに犠牲になってもらって……」
「な、何言ってるんですかあ~~~!?」
泣きながら叫ぶロロを、皆はまあまあと諫めている。
あそこまでロロが嫌がることをした奴ってのは、どんな奴なんだろうかと思い、エンヤの方を見ると、怒号が聞こえてきた。
「テメエ……あんな女の後ろに隠れやがって、それでも男か!」
「う、うるせえな! アンタやザンキに怒られるくらいならそんな尊厳もくそもねえだろうが!」
「あ゛!? 良いから、姿を見せろ! この野郎!」
「い~や! 俺はこのままやり過ごす! こんなとこ、アイツに見せられねえ!」
「見せられねえようにしたのはテメエだろうが! 良いから……」
エンヤは、手にした何かを放り投げるように大きく振りかぶり、俺の方に狙いを定めた。
「お、おい! 何する気だ!? スキルが解けるだろうが!」
「そのためにするんだよ! さっさとお前も、ザンキに怒られろ!」
「う、うわああああああ~~~っっっ!!!」
エンヤが何かを投げる仕草をすると、何も無い所から絶叫が轟き、俺の居る少し前の地面に見えない何かが叩きつけられた。そして、そこから一人の男が姿を現す。
少しばかり白髪が入り混じった頭をした、俺よりも少し年上……ロウガンくらいの歳だ。口元には髭を蓄えていて、声の印象そのままに、山賊や盗賊に居そうな顔をしている。
俺は、その顔を見て、そいつが誰なのか分かった。毎日見ていたから、間違えるはずない。
……そのまま呆然としていると、シンキが俺の肩にポンと手を置いた。
「見ての通り、アイツがサネマサのスキルの前の持ち主だ。聞いた話じゃ、不器用なアンタと違って、何でも出来る器用な男だったんだろ?」
そう言われたら、そうだ。コイツは武芸から、家事、洗濯、建築や俺達の身の回りのものを作ったりと何でも出来た。
カンナには、刀以外にも、芸事や礼儀作法を教えていた。見た目と違って、そんなことも出来たのかと、サヤと一緒に驚きながら笑っていたのをよく覚えている。
男は、エンヤに投げられ、体中をさすっていたが、一瞬、呆然としている俺と目が合うと、ハッとし、すぐさま、俺の前で地面に頭をこすりつけた。
「!?」
男の急な行動に、目を見開く俺。すると、男は泣きながら、周りの目も知らずといった感じに口を開いた。
「す、すまねえ、ザンキ! 俺が……俺がふがいないばかりに、カンナ君やサヤちゃんを死なせてしまった!
俺が、弱かったから……! お前の家族は必ず護るって約束したのに……ッ! 俺はお前を辛い目に遭わせてしまった! 本当に……すまなかったッ!!!」
男はそのまま、顔を上げようとせず、泣き始める。流石に、さっきまでコイツに怯えていた様子のロロも黙り、皆と一緒に、俺と男を眺め始めた。
エンヤやハルマサ達も、どこか暗い顔をして、全てを委ねるように、俺の顔を見ている。
周りが静寂に包まれる中、俺はふと、あの時のことを思い出していた。
全身に傷を負い、炎に包まれるタカナリの家の一室で、俺とサヤの前で静かに死んでいった、コイツのことを……。
……コイツは……あの時のことを未だに悔やんでいるのか。この世界でカンナとサヤに会えただろうに、やはり、あの時のことについては、俺に申し訳ないと思っているか……。
……大した忠臣だ……。
俺はそいつの前で跪き、固唾を飲んで見守る皆の前で、男の肩を叩く。
「……顔を上げろ」
「ッ! で、出来ねえ!」
「命令だ……上げろ!」
無理やりにでも顔を上げないと地面にへばりつく男の身体を、俺が無理やり起こした。不細工な男の顔は、涙と鼻水と、泥で更に不細工になっている。
「ったく……気にしなくて良いことを気にして、そんな顔してんじゃねえよ」
「ざ、ザンキ……ッ!」
俺は、男の顔を見て、懐かしさと、嬉しさが溢れて笑った。決して、男の顔を見て、可笑しいと思って笑ったわけじゃない。
まさか皆に続いて、コイツにも会えるとは思わず、つい、笑ってしまった。
困惑する男に俺は更に続ける。
「……泣くな……謝るな。お前は充分やってくれた。お前のおかげで、俺が行った時はまだ、サヤは生きていた。
お前は……最後まで、俺の家族を護ってくれた……それで、あの日のことは充分だ……。
それに、こっちじゃ、お前はサヤとカンナに再会できたんだろ? そして、こっちでも、二人を護ってくれたらしいじゃねえか。神族の宰相って座を降りてまでな……」
俺は、そいつの前に手を置き、もしも地獄とかで、コイツに再会することがあれば言おうと思っていたことを伝えた。
「……ありがとう……エイシン。お前は、俺の一番の従者で……親友だ」
最後の最後まで、俺の家族を護り、最後まで俺に忠節を尽くした男、エイシンに、俺が初めて感謝することが出来た瞬間だった。
「ざ、ザンキ……俺は……ッ!」
当のエイシンは俺の行動に困惑している。今なら分かる。あれだけコイツを鬱陶しがっていた俺が、突然頭を下げたら、困るよな。
そんなことを思いながら笑っていると、エンヤがため息をついて、エイシンの肩をポンと叩いた。
「受け取ってやれよ。コイツは、お前に謝罪されるよりも、今までのように接してほしいと思っているようだぞ」
エイシンは、エンヤの言葉を聞き、俺の姿を見て、ハッとする。そして、袖で自分の顔を拭いて、フッと笑った。
「ああ……こちらこそ、ありがとう……ザンキ。お前のおかげで、俺は最後まで幸せだった……」
「なら、良いんだ。今後もよろしくな」
俺は、エイシンの言葉に頷き、固く握手をした。
にしても、サネマサのスキルの前任者がコイツとはな。意外だとは思ったが、先ほども言ったように、コイツは何でも出来る人間だ。分かる気がする。
それに、元々が神族だったため、そこそこ強いらしい。それなら、サネマサにとってもいい刺激になるだろうなと笑っていた。
しかし、しばらくエイシンと笑い合っていた後、俺は、それはそれ、ということで、エンヤと共に、エイシンの両脇を組んで立ち上がらせた。
「お、おい……何すんだ? 二人とも……?」
困惑するエイシンに、俺達はニカっと笑った。
「まあ、前の世界に関しては、俺も何も言うことは無い……が、今の状況は別だ」
「取りあえず、顔洗って反省させるか……?」
エンヤの言葉に頷き、俺はダイアン達、特にロロの前にエイシンを立たせた。え? という顔のエイシンと、ロロに俺達はニカっと笑う。
「ザンキの時もそうだったが、コイツは仲間を困らせる天才らしい。死ねとは言わないが、流石に反省しておかないとな」
「だな。おい、ロロ。コイツの顔を水魔法で綺麗にしてやれ」
そう言うと、ロロはぱあっと笑顔を浮かべ、他の者達はやれやれと笑っていく。そして、ロロは杖を構えて、先端に魔力を込めた。
「了解です~! 放水ッ!」
「ち、ちょっとま……ッ! うわあああ~~~ッッッ!」
杖の先から勢いよく水が出てきて、エイシンの顔だけを通り過ぎていく。俺達はそんなに濡れていない。魔法の扱いに関してはよく分からないが、器用なことをするなあと、俺とエンヤはロロの腕に感心していた。
やがて、ロロは水魔法を止めて、さわやかな表情を浮かべた。反対にジゲンは髪の先から髭の先から水をぽたぽたと垂らしながら、力の抜けた顔をしていた。
「お? 綺麗にすっきりしたようだな。ロロもすっきりしたか?」
「はい! すっっっっきりしました~!」
「それは良かったな。じゃあ、後は俺達で説教するから、ザンキとしばらく待っていてくれ」
そう言って、エンヤはエイシンを連れて、シンキ達の元に行って、説教を始めた。
皆……特にスキルの持ち主であるサネマサに、みっともない真似するなと言われて、言い返そうとするが、エンヤ達に黙らされるエイシンを見ながら、俺達は笑っていた。




