第271話―かつての仲間達と再会する―
「お前たちも……無事だったんだな……ゔぅ……」
「……泣くなよ」
シンキはハルマサ達と手を取り合いながら、泣き出した。俺と初めて会った時のように、よほど、感極まっているらしい。ここまで隣で皆との再会に喜んでいる奴を見ると、俺はどうしていいのか分からなくなる。
皆が、シンキを慰めていると、背後から呆れるような声が聞こえてくる。
「まったくだ。大の大人が情けねえな。お前の泣き顔なんざ、一回見れば充分だ」
俺達の所に来たエンヤは、やれやれと腕を組みながらシンキを眺めている。ハルマサ達は、エンヤに気付くと、少しだけ頭を下げた。
「あ、エンヤさん、どうもです」
「お元気そうですね」
「おう……って、反応薄いなあ……」
「そりゃあ、俺達とは、ついこないだまでノアの中で一緒だったからなあ」
「俺とツバキに関しては、数か月前までで、そこからはザンキと一緒だったし、特に驚くことでもねえよ」
ハルマサの言葉に、ツバキも黙って頷く。アキラの言った、「ついこないだ」も、数百年単位だがなあ、と何となく可笑しな気持ちになって、俺には笑えたが、エンヤはムスッとしている。
「む……何となく傷つくが、まあ、良いか……で、ザンキ。お前の感想は?」
「いや、驚いている。ハルマサとツバキにはどこかで会えるかもとは思っていたが、まさかトウヤたちにも会えるとはな……さっき、ちらっと聞こえてきたが、ハルマサ達は、ツバキに渡したツバキの……ややこしいな。この世界のツバキに渡した、あの簪に宿っていたのか?」
「うん……良い人……見つけた……ザンキ」
ハルマサとツバキは頷く。エンヤが無間に宿ったときに、ハルマサとツバキも、俺が持っていたあるものに宿ったと聞いたが、まさか、簪だったとはな。
らしいと言えば、らしいのだが、二人いっぺんに宿ることが出来るんだな、と言うと、夫婦だから出来たとのこと。
よく分からないが、二人はそうやって、俺がこの世界に来た時から常にそばに居て、俺や、こちらのツバキのことを見守ってくれていたという。
「なるほどな。俺だけじゃなくて、ツバキのことも……ホント、ありがとな」
二人に頭を下げると、ハルマサから、また、らしくないことをするなと笑われた。
すると、ここで少し離れて様子を見ていたコモン達がやってくる。コモンは、ニコッと、どこかいたずらっ子のような表情を俺に向けていた。
「どうですか、ムソウさん。驚きました?」
そう言われて、俺は全てが分かり、コモンに笑った。
「なるほど……これはお前が仕組んだことか……」
「僕、というか、トウヤさんですけどね……これが、僕の秘密です」
「この野郎……驚いたに決まってんだろ」
コモンを小突くと、満足そうに笑いながら頷くコモン。
どうやらコモンは、トウヤと、皆のことをあらかじめ知っていたようだ。
聞けば、コモンは昔、トウヤが宿っていたもの……現在は、コモンが持っている大槌だが、少し前まではトウヤを象った石像を偶然発見し、それが何なのか調べるために、精霊の声を聞こうとした時、トウヤと出会ったらしい。
トウヤは、例に漏れず、邪神大戦のことは伏せた上で自身のこととEXスキルのことについてコモンに説明し、そこから二人の関係が始まったという。
時々、コモンが武具の改造だったり、調整だったりで行き詰ったときなどは、トウヤと相談していたという。
更にコモンはトウヤから、俺のこと、というか、「無間という大刀を使う男」の話を聞いていたらしく、ミサキから俺のことを聞いた際に、トウヤと俺の関係に気付き、それまで聞いていた話が本当だと知ったと語った。
「アキラたちのことも知っていたのか?」
「そこは、憶測でしたが、EXスキルで何となくですが……」
コモンはトウヤから聞いた話の中で、少なくとも、十二星天内に三人、俺と関わりを持つ人間が居ることを突き止めた。
アキラのEXスキルを継いでいるレオパルドと、エンヤのスキルを継いだシンキ。そして、これは俺は知らなかったことだが、ナツメのEXスキルを継いだジェシカである。
ただ、確証は無かったので何も言えず、いずれ、俺に会った時に二人に言おうと考えていたらしい。シンキについては、先の一件で確執もあったので、疑っていたが……。
「あれ? てことは、レオはトウガ達の前の飼い主がアキラってのは知っていたのか?」
「ん? いや……何せ、コイツ等が何も言わねえからな」
レオパルドは、トウガ達を指しながら、呆れたようにそう言った。いつの間にか、アキラとの再会を喜んでいるトウガ達はぐぬ、と黙る。
そして、レオパルドの言葉を聞いたアキラは、目を丸くして、口を開く。
「え……何か話が合わねえと思ったら、お前ら言ってなかったのか?馬鹿なのか?」
「馬鹿って言うな。俺は狼だ」
「俺は鷲っす……」
「俺は猿――」
「そう言うことじゃねえって!そこは言えよ!俺は、そこのコモンって奴と違って、レオと直接話せないんだからな!」
「いや……そもそもレオがアキラを知っていたことも、今知ったのだが……」
アキラの詰問に、苦し紛れといった感じで、トウガがそう言った。すると、レオパルドは口を開く。
「あ、俺のEXスキルの前の持ち主が、アキラって名前の奴なのは知っていたぞ」
「「「……は?」」」
レオパルドの言葉に神獣三体は目を丸くした。レオパルドは、既にコモンを通じて、EXスキルの前の使い手が、アキラという名前の女ということは知っていたという。
ただ、トウガ達が、邪神大戦のことを話さないあまり、アキラのことを伏せ、更にはアキラと自分たちの関係も話していないということで、レオパルドも、トウガ達とアキラの関係については知らなかったという。
「まあ、昨日のシンジの話で、全てつながったんだがな。ああ、コモンの言うことは本当だったんだなって。だから、シンジの話にはすぐに納得できた」
あ、だから、昨晩は、サネマサのようにグダグダ言うことも無かったんだな。それに俺からも話を聞いていたわけだし、更に確証が強まったと見るべきか。
そう言えば、コモンもジェシカも、特に何も言っていなかったな。
レオパルドの言葉を聞いて、更にアキラが神獣達に説教を繰り広げるのを横目に、なるほどなと頷いていると、今度はジェシカがクスっと笑った。
「ちなみに、私は魂の回廊でナツメさんと何度かお会いしていたので、コモンさんの話はすぐに信じられましたし、シンキさんの話も信じられました」
その言葉に、ナツメは微笑みながら頷いている。
なんでも、ジェシカはこの世界に召喚された際に、現在のシルバ領というところで、綺麗な首飾りを見つけたという。それは、かつて荒れ果てていたシルバという領の“最後の領主”と呼ばれた者に貰ったらしく、ジェシカはそれを受け取ると共に、シルバを再興させるという誓いを立てたらしい。
それに感銘を受けたナツメは、その首飾りに憑依し、これまでジェシカのことを見守りつつ、こちらも何かに行き詰った際に、ジェシカと魂の回廊を通じて出会っていたという。
「EXスキルを授けた後、それをどうするのか見届ける必要がありましたからね。しばらくジェシカさんの側で見守り、私の思いまで継いでくださったことを確認し、今後も微力ながら力になりたいと思っておりました」
「なるほど……アキラとトウヤも同じか?」
「おう! レオは良い奴そうだったからな。安心して任せられたぜ!」
「僕も同じ気持ちです。コモンさんは僕にも出来なかったことを成し遂げましたからね。もっと面白いものが見たいと思いまして……」
エンヤ達と別れ、ケアルやエンヤによって、コモン達にEXスキルを継がせた後は、コモン達がどのようにEXスキルを使っていくのか確かめたかったらしい。
一人がもつ力だけで世界を変える、もしくは、滅ぼす力があるからな。仮に、今の十二星天が自分の意に、ひいては人界に災害をもたらす存在であったならば、EXスキルを剥奪し、再び自分の意志を継いでくれる者がこの世界に訪れるまで待つつもりだったらしい。
そうやって、コモン達の側に常に居たのだが、自分の意志をきちんと継いでくれているということを確認した後は、その先も見てみたいと言って、それぞれ、コモン達がもつ何かに、憑依したという。
ナツメは先ほども言ったように、ジェシカの首飾り、トウヤも、同じくコモンの大槌。アキラに関しては、レオパルドが持つ、トウガ達の素材で作られた装飾品だという。
そうやって、それぞれ、皆と過ごすうちに、今日、俺やシンキとも再会できたってわけか。なんとも、面白い話だな……。
「でも、ザンキを見たときは感動したなあ~。ここ数千年で一番の感動だ」
「そんなにか?」
「ええ。しかも、行方不明になった時と全く同じ見た目ですからね」
「まあ、そう言われても、俺にとってはほんの数か月前の話だからな……お前らにも、一年ぶりってところか……」
「フフッ、ザンキさんの中では、僕たちに最後に会ったのはどの時期ですか?」
「そうだな……ツバキとハルマサの祝言かな……」
そうですかと、遥か昔のことを振り返る老人のような目つきになるトウヤたち。そういや、コイツ等って、前の世界でも大往生で、この世界でも普通に老いて、死んだんだよな。
何故、見た目は若いままなのだろうか。後で聞いてみよう。
そんなことを思っていると、こちらのツバキやジゲン達も寄ってきて、皆を見回しながら感慨深げに口を開く。
「ふむ……ムソウ殿はどの世界でも慕われておるのじゃのお。やはり、“死神”という異名は似合わないのではないか?」
「そうですね……私も、ハルマサ様や、ツバキ様とこうしてまた、お話しできて嬉しいです」
ジゲンが俺にとって、少しだけ嬉しいことを言ってくれる中、俺はツバキの言葉を聞いて、不思議に思った。
「また? 前にも話したことがあるのか?」
「ええ……屋敷での戦いの際に……」
そう言って、ツバキは語り始める。
話によれば、闘宴会に囚われ、気を失っている時に、ツバキも魂の回廊らしき所に行ったという。そこで、ハルマサとツバキに出会い、ツバキはそこでEXスキルを授かったという。その力のおかげで、屋敷を護ることが出来たと、ツバキはハルマサ達に頭を下げた。
「本当に……ありがとうございます」
「気にすんなって。ツバキが……ややこしいな。うちのツバキがお前に力を授けたのは、お前が、本気でザンキや、ザンキが護りたいものを護りたいって俺達に伝えてきたからだ。だからこそ、俺達も安心できたんだぜ」
「ツバキ……いい子……ザンキを……護ってくれる……私の……代わりに……だから……あげた……これからも……ザンキを……よろしく……」
ツバキの言葉に、ツバキは、はい! と頷き、再び頭を下げる。聞けば、ケリスがツバキを捕らえた際に、自身の手駒にするべく、あの、おぞましい眷属化の術式をツバキに行おうとしたらしい。
だが、それを簪に宿るハルマサとツバキが食い止めたという。本当に、俺だけでなく、ツバキをも見守ってくれていた二人には、俺の方からも感謝でいっぱいだ。
「……ツバキ」
「はい?」
「……ん?」
俺がツバキを呼ぶと、二人にツバキが、こちらに振り向く。
「ホント、ややこしいな……ちっこいツバキ」
「む……なに……?」
少々不機嫌な顔で、前の世界のツバキがこちらをジトっと見てくると、トウヤたちからクスクスと笑い声が聞こえてきた。
俺は、ため息をつき、ちっこいツバキの頭を撫で、ハルマサの胸の拳を当てた。
「……お前らのおかげで俺は大切なものを護りきることが出来た。そして、俺も……こうやって、生きている……本当に、ありがとう」
「……へへっ、ザンキに何度も感謝されるとはな……怒られてばっかの記憶しかないから、何となくむず痒いな……」
照れ臭そうにするハルマサ。何なら怒ってやろうかと言うと、それは辞めてくれと慌てるハルマサを見て、皆から更に笑い声が上がる。
ちっこいツバキは俺の言葉に頷き、こちらのツバキをジーっと見つめる。ツバキが不思議そうな顔をすると、ちっこいツバキは俺の顔を見上げた。
「ねえ……ザンキ……」
「ん? ……何だ?」
「ツバキ……いい子……サヤに……負けない……サヤと……同じ……ザンキを……護って……くれる……」
急に変なことを言い出すツバキ。俺以外の者達が、クスクスと笑い、俺が首を傾げていると、ちっこいツバキは更に続ける。
「ザンキ……ツバキと……夫婦に――」
「なんでだ!?」
不穏なことを言いそうなちっこいツバキの言葉を遮り、声を荒げると、周りから笑い声が聞こえ、こちらのツバキは少し顔を赤らめながら照れている様子で微笑んでいた。
そこで微笑む理由が分からないと思っていると、ちっこいツバキは真顔で更に続ける。
「大丈夫……ザンキの……側室なら……サヤも……文句ない……」
「そういう問題じゃねえ! お前は本当にサヤの友達か? なら、サヤの気持ちも考えろ!」
「ならザンキも……サヤの気持ち……考えて……サヤは……ザンキが……幸せになること……願ってた……」
「あのなあ……俺は今でも充分、幸せなんだって……」
「ザンキは……」
ちっこいツバキは、こちらのツバキに視線を移す。微笑をたたえていたツバキが、キョトンとすると、ちっこいツバキは、再び俺をまっすぐと見つめた。
「ツバキのこと……嫌い……?」
……この視線は苦手だ。コイツに、まっすぐ見られると、どんなにはぐらかしても、本心を見抜かれそうな感覚になる。
しかも、あの時から更に成長し、こちらに来てからも成長し、俺より歳を重ねたツバキの前では、どんなことを言っても通用しないように感じた。
流石に困り果てて、何も言えないでいると、ツバキがフッと笑い、ちっこいツバキに近づいていく。
「……ツバキ様」
「……何……?」
「以前から申していますように、今すぐどうの、という話ではないのです。ムソウ様のお心には、未だサヤ様がいらっしゃいます。これからも、ずっと……。
そこに無理やりにでも足を踏み入れるようなことは、私はしたくありません。
……それに、私も今のままで充分、幸せなのです。ムソウ様がいらっしゃって、リンネちゃんが居て……そして、皆さんがいらっしゃるだけで満たされております。
なにも、愛しい方と夫婦の契りを結ぶことだけが幸せではないのですよ?」
「でも……」
「でもではありません。幸せの形は人それぞれなのです……私は、ムソウ様が笑顔で、幸せな毎日を過ごされている側にいるだけで、幸せなのです……」
そう言って、ちっこいツバキにニコッと笑うツバキ。ちっこいツバキは真顔のままだ。
……だが、何となく俺達には分かる。真顔だが、ちっこいツバキの感情が……。
あれは、若干驚いているといった顔だ。目の前の女は何を言っているのだろうかと、自分の考えが及ばないことを言っている、と少しだけ混乱している感じだ。
そして、そばに居たハルマサや、他の者達も、目を見開いて、こちらのツバキ、更には俺へと視線を移している。
すると、俺の背後から手をパンパンっと叩く音が聞こえた。
「集合……皆、集合だ……」
声の主はエンヤだった。こちらも真顔になり、ハルマサとちっこいツバキ、それにトウヤ達と、近くに居たコモン達とジゲンを呼んで、円を作り、ひそひそと何か話し始めた。
「……おい、あの女、何なんだ?」
「何が、とは、何かの?」
「聖人か何かかよ……前からいい奴だなとは思っていたが、これほどとは……」
「サヤさんに負けず劣らずといった感じですね……」
「ああ。雰囲気は真逆だがな……」
「え、ムソウの嫁さんってどんな感じだったんだ?」
「そうですね……あ、ミサキさんて方に似ている感じですね。あそこまで、酷くはないですが……」
「意外と毒舌なんですね、ナツメさんって……」
「薬師ですから。というか、ジェシカさんもでしょ?
……それにしても……なるほど、あちらのツバキさんがザンキさんと一緒に居る理由がよく分かる気がします」
「だろ? すげえんだよ、あの子。なんせ、うちのツバキも、スキルを継がせるのに納得したくらいだからな」
「ツバキは……いい子……」
「ええ、それは本当ですね。家でも、どこでも、ムソウさんだけでなく、誰に対してもお優しい方ですからね。それに強い方でもあります」
「うむ。エンヤ殿も、気に入っているのではあるまいか?」
「そりゃあまあ……あれほどの器量ならな。腕の方はもう少し鍛える必要があるだろうが、ありゃあ、伸びしろの塊みたいなもんだからな。まだまだ伸びるぜ」
「ほう……エンヤ殿もそう見るか。では、本題じゃが、エンヤ殿はあの二人のことをどう見る? やはり、ムソウ殿の“親”から見た意見というのも聞きたいのう……」
「う~ん……俺も悩んでんだよなあ。アイツの隣にはやっぱり、サヤが居て欲しいと思っている……が、こっちのツバキも言うように、そっちのツバキにも、居て欲しいと思っている……ザンキには、ああいう包み込んでくれるような優しさを持つ人間が必要だからな……」
「なんだかんだ、エンヤって面倒見が良いよな~」
「ですね。シンキさんのことも、付きっ切りで鍛えていましたしね」
「それと、カンナ君も。シンキさんはともかく、カンナ君は稽古をする度にけがをしては、よく私とサヤさんで治していたのですが、サヤさんが、呆れる前で、エンヤさんに鍛えられて嬉しいといつも笑っていましたよ」
「そうか……ザンキもカンナやサヤ、それにそっちのツバキみたいに、もう少し素直になって欲しいものだな……」
皆はこちらを見てきて、一様に頷く。
……ここからは何も聞こえない。一体、何を話しているのだろうか。恐らく、どうでも良い内容だが、何となく腹が立つ。
「おい、何話してんだ?」
「ああ、ちょっと待ってくれ……でよ、お前らは……」
俺の質問を流して、再び皆はひそひそと話しだす。気づけば、その周りには、リンネやたま、それに闘鬼神の奴らも集まって、聞き耳を立ててはうんうんと頷いている。
一人、アヤメだけ、コイツ等は誰なんだ、という顔をしながらも、ダイアン達と一緒にエンヤ達の話を聞きながら、妙に納得したような顔になり頷いている。
どうしても内容が気になり、口を出そうとすると、ツバキが俺を制し、口元に指を当てる。
「……何すんだよ?」
「いえ……このままにしておきましょう……ご覧ください。皆さん、ムソウ様の話題で一つになっているのですよ。邪魔をしては悪いです」
そう言って、ニコッと笑うツバキ。そういうものなのか、と呆れていると、再び皆がこちらを見ていることに気付く。
そして、また、ひそひそと話しだした。
半ば、イライラしていると、皆の中で意見が纏まったのか、話を終えて、代表者のような感じで、ハルマサが俺に近づいてきた。
「まあ……その、何だ……」
「……何だよ?」
何か言いづらそうにするハルマサは、突然ニカッと笑って、俺の肩を叩いた。
「頑張れよ、ザンキ!」
「何がだ!?」
ハルマサの言葉に困惑すると、周りから笑い声が起こる。たまやリンネ、それにジゲンまで笑い、洞窟の中なので微妙にうるさい。
しかし、全員の同じような笑顔を見て、怒る気も失せて、頭を抱えた。
そして、横に立つツバキに、これで良いのかと視線を送ると、ツバキはニコッと笑いながら頷き、それに返した。
皆が笑い、俺が怒っていると、先ほどまで泣いていたシンキが、真っ赤に腫らした目をこすりながら近づいてくる。
「話は……終わったようだな」
「なに、偉そうにしてんだよ。今までずっと泣いていたくせに……」
「泣いてねえよ……喜んでいたんだ」
再び出そうになる涙をぐっとこらえながら、シンキは皆の姿を見回した。俺は、ハイハイと頷き、シンキの横に立つ。
本当にシンキはここでハルマサ達と会えるということが信じられなかったようだ。一人一人の姿を、目に焼き付けるようにじっくり見ながら、ポツリと呟く。
「……ったく。俺が皆を驚かせようと思ったんだけどな」
シンキの言葉に、そう言えば、と思った俺は、口を開く。
「そういや、言っていたな。俺やアヤメに面白いものが見れるって。ハルマサ達のことじゃなかったら、何なんだよ?」
「ん? ……ああ、そうだな。そろそろ教えようか。……アヤメ、こちらに来てくれ」
シンキに呼ばれたアヤメは、未だこの状況が理解できていないようで、目を白黒させながら、俺達の元に来た。
「お、おい、シンジに、ムソウ……この状況は一体……?」
アヤメは、ハルマサ達、特にエンヤを見ながら、俺達にそう尋ねてくる。この際に、皆のことを説明しようとする俺よりも早く、シンキが口を開いた。
「まあ、その話は後だ。それから、“刀鬼”も、こっちに来てくれ」
「む? ……ああ、承知した」
ジゲンは、何故自分も呼ばれたのか、という顔をしながら、俺達の元にやってくる。
ハルマサ達の、何が始まるんだ、という声に、シンキはフッと笑って頷き、俺達の方を見てきた。
「さて、アヤメ……お前の刀の刀精を出してくれないか?」
「俺の刀精? 何でまた……」
「お前の刀精は、さっきも言ったが、“刀鬼”やサネマサのものと違い、コモンや、ムソウの刀のように、死んだ人間が憑りついたものだ。その正体を教えてやろう……」
シンキの言葉に、俺達は驚いた。何で、コイツがアヤメの刀精を知っているのか、まず、疑問だった。
そして、何故、この場で教えてくれるのかが分からなかった。
しかし、アヤメは自らの刀にどういった者が宿っているのか知りたかったらしく、多少困惑しつつも、広間の中ほどに立って、刀を抜き、瞑想する。
その光景を見ながら、シンキは一人、祈るように呟いている。
「……出てこい……居るんだろ……? ……いや、出て来てくれ……」
殆ど、願望のような言葉を何度も吐きながら、懇願するように手を合わせていた。一体これから何が始まるのか、固唾を飲んで見守る俺とジゲン、それにエンヤ達。
流石に、これからの展開を読めないようで、エンヤ達も不思議そうな顔をしながら、アヤメの刀を注視していた。
これから、何が起きるのか……その場に居る全員の気持ちが一つになった頃、アヤメの刀がほのかに輝き出し、それが段々と強くなっていった。
「……出てこい……花鳥風月ッッッ!」
アヤメが刀を高く掲げると、先ほどのエンヤの時に負けないくらいの強い光が放たれ、俺達は目を瞑った。
そして、目を開けると、そこには以前も見た、四本腕の大きな男の姿をした何かが立っている。それぞれの腕に刀を一本ずつ手にして、アヤメや、俺達の方を強いまなざしで見ていた。
アヤメは、ふーっと息を吐いて、シンキの方を向く。
「言われた通り出したぜ。……で、コイツの正体ってのは?」
「いや、まだだ。それは偶像術を使う時の姿だろ? ……元の姿に戻してくれよ」
「はあ~……あれ、力の調整が難しいんだよな……お前も協力しろよ」
やれやれと言った感じにアヤメがそう言うと、刀精は頷く。そして、アヤメが刀精の胸に手を置き、再び瞑想を始めると、刀精の体が輝きだし、その影が段々と小さくなっていった。
刀精が普通の人間の大きさになると、輝きは小さくなっていき、そこには一人の男が立っていた。深緑の衣を纏い、アヤメと同じ様な赤い羽織を纏った、優し気な男は、フッと笑みを浮かべ、アヤメに頭を下げる。
「ふむ……すまないな、アヤメ」
「おうよ……で?」
言葉を話す刀精に、アヤメは頷き、シンキの方を向いた。
シンキは、その場で少し震えながら、目を見開き、その刀精の姿を見つめる。
それは、その場に居た何人かも同様だった。俺と、エンヤ達、かつて、俺と共に闘った仲間達は、アヤメの出した刀精を、目を見開きながら、何も言えないで眺めている。
「嘘……だろ……」
「まさか……こんなことが……?」
ハルマサ達にも信じられない現象らしく、その男を見ながら、一様に固まっていた。
俺は……俺達は、その男に見覚えがあった。
ただ、少しだけ見た目が違う気がする。前に会った時よりも、ずいぶんと若い。以前は好々爺だったからな。はっきり覚えている。
優し気で、どこか間抜けた目つき。だが、全てを見据えているような、強い視線。
かつて、“名君”と呼ばれ、俺達と共に、大陸を平定した友……そいつが、俺達の前に立っていた。
一体、どうしてこんなことが起きているのかと、何も言えずにいると、刀精はゆっくりと口を開く。
「ふむ……なるほどな。あの後、どうなったのかは分からないが、私がここに居るということを、皆は知らなかったのか……まあ、あれでは無理もない話だな。
だが、こうして皆とまみえることも出来、更にはザンキ殿にも会うことが出来た。サヤ殿の行方も、いずれ……
さて……」
そう言って、刀精は皆の方に歩いていく。呼び出したのは良いが、これからどうすれば、という顔のアヤメを通り過ぎていき、闘鬼神の間を縫うように歩を進め、エンヤの前に立った。
そして、呆然とするエンヤにニッと笑う。
「お前も久しぶりだな。エンヤ……私の妻よ……」
「タカ……ナリ……?」
未だ、訳の分からないという表情のエンヤは、男の名前を口に出した。
アヤメの刀に宿っていた刀精は、俺の前の世界の友の一人、タカナリだった。
俺が聞いた話だと、前の世界では、大陸王になって大陸を統治し続けた後、ハルマサ達や、民たちに看取られ、命を落とした。
その後、この世界に転生し、エンヤ達とは違った形で人族を纏め、邪神族に対抗している勢力を設立。タカナリはその途上に、ハルマサ達と再会し、自分たちを「闘鬼神」と名乗った。
更に、後の人界王となる、シンラ……俺の息子、カンナを拾い、その後も共に戦い続け、邪神族を退けた後は、エンヤと夫婦になった。
だが、この世界で死んだ後は、サヤ、カンナと共に、行方不明となっていて、俺は、今回の一件が落ち着いたら、二人と共に、タカナリの魂を探そうとしていた。
その、タカナリが、今、俺達の前に居る。
呆気に取られていると、ずっと黙っていたエンヤが、チッと舌打ちしながら、タカナリの胸倉を掴む。
「テメエ……今まで何処に居たんだ!?」
「……見ての通りだ。私はあの刀に魂を残し、今日までこの大地に残り続けていた」
「その恰好は何なんだよ!? 死んだ時よりも若くなってんじゃねえか!」
「これか? 趣味だ、趣味。なかなか似合うだろう?」
「何言ってんだ!? 人が心配してるときに……ッ!」
「ほう……お前が私のことを心配してくれるか……なかなかないことだが、やはり嬉しいものだな」
「この……ッッッ!」
軽快に笑い声をあげるタカナリに、イラっとしたのか、エンヤは拳をタカナリに向けて放つ。先ほどのシンキのように吹っ飛ばされると思いきや、タカナリは、ひょいっとそれを躱しながら、俺の方に近づいてきた。
「夫婦喧嘩は後だ。少し待っていてくれ……」
タカナリに拳を躱されて唖然とするエンヤ。コイツらが結婚するための条件、エンヤにタカナリが勝つことと、コウカから聞いた。
どうやら、それは本当らしいなと思っているうちに、タカナリは俺の前に立った。
そして、ジッと俺の顔を見つめてくる。
「……刀に居たから前から会っては居るが……こうして面と向かうのは何とも久しぶりだな、ザンキ殿」
「あ、ああ……俺もお前の見た目に驚いている」
「む? 私がここに居ることには驚かないのか?」
「いや、充分驚いている。安心しろ」
「ハッハッハ! そうか。それは、良かった」
「お、おう……ところで、何でタカナリがここに?」
見た目だけでなく、どこか中身も若くなっているよなあと思いながら、頭を整理し、そう尋ねると、タカナリは頷き、こちらも呆然としているシンキの前に立った。
「これ、シンキ殿……何故、お主が固まっておるのだ?お主は知っていただろう?」
「い、いや……本当に居るとは思わなかった……」
「昨晩のアレで、何となく想像は付いていただろう? それに、ザンキ殿やアヤメ、それにジロウには勿体ぶるようなことを言っていたではないか。お主、私が出てこなかったら、今頃三人に斬られていたぞ」
「ゔぅ……恐ろしいこと言うなよ……」
「それに……私には泣いてくれないのか?」
「あ……涙はハルマサ達で枯れた。だからもう良いだろ」
シンキの言葉に、タカナリはキョトンとして、すぐさま、大笑いした。やはり、若くなっているのは外見だけでは無いらしい。
こんな笑い上戸だったっけ? と思いながら、俺はやれやれと肩を上げる。
「……で、なんで、タカナリがここに? それに、今までの口ぶりだと、アヤメも関係あるんだろ? 良いから話せよ」
「おっと、本当に斬られる前にここまでにしないとな。分かった……」
シンキはタカナリと戯れるのを辞めて、皆を集めた。
そして、タカナリと何か示し合わせるように、顔を見合わせ頷くと、シンキはタカナリを指し、口を開く。
「さて……ひとまずコイツの紹介だが、コイツは、タカナリ。エンヤ達同様、ムソウと同じ世界から、こちらに転生してきた男で、俺と過去、共に戦った仲間でもある」
「はあ!?」
シンキの言葉に、何も知らないアヤメが、早速戸惑う。
「ち、ちょ、ちょっと待て! 意味が分からない」
「ああ、だろうな。まずはそこから説明しないとな……」
慌てふためくアヤメに、シンキと俺達は、過去のこの世界の真実について話していった。今回は、アヤメ以外の者達は全員事情を知っているばかりか、シンキや神獣に加え、エンヤ達も居るので、アヤメに疑わせる余地を与えず、邪神大戦のことを話すことが出来ている。
アヤメはあっけらかんとしながらも、皆を見て、エンヤ達を見て、俺とジゲンに視線を投げかけてきた。
流石に困り果てているようすのアヤメにジゲンはフッと笑う。
「……まあ、お前の気持ちも分かる。儂も最初はそうじゃったからのお」
「お、叔父貴はこの話を信じるのか!? こんな……」
「荒唐無稽というわけでもないじゃろう。これだけの証人が居るのではな……信じざるを得まい」
「だ、だが……邪神大戦なんて、聞いたことも無いぞ?」
「うむ。それは、シンキ殿の努力によるところが多いじゃろうな……。
それに、今まで真実の歴史じゃと思っていた、100年戦争に関しても、証拠など出ておらんからのう。先日のケリスの一件もあり、我らの祖である人族が、神族や鬼族と戦っていたと言われるよりも、邪神という新たな種族がこの大地を襲っていたと考えた方が自然じゃろうと、儂は思った」
「な、なるほどな……しかし……」
アヤメは、ジゲンの言葉に納得したようだ。流石血がつながっているだけあって、アヤメもジゲンと同じく、物分かりが良いようだ。サネマサと違ってな。
それに、アヤメも前の一件では当事者の一人となっている。ケリスが神族ではなく、そこから派生した、邪神族の末裔と言われれば、確かに、そうだな、と頷いていた。
そして、改めて皆を見渡した後、俺に視線を移す。
「……流石に、もう慣れたつもりだったが……これは驚いたな……」
「ああ……まあ、黙ってて悪かったな」
「いや……うん……まあ、気にすんな。多分、ここで言われないと信じなかっただろうし……」
まあ、確かにこんな話、俺一人が言っても、誰も信じてはくれないだろうな。今日は皆居てくれて助かった。
「……しかし、分からねえな。その話だと、俺の刀精……タカナリは、行方不明のはずだろ? 何で、花鳥風月に入っていたんだよ?」
「そうだ! さっさと説明しろ!」
アヤメの言葉に、エンヤが激しく同意して、タカナリとシンキを責め立てる。ビクッと身を震わせて、声のする方を振り向くアヤメ。
エンヤが既に、自分のすぐ隣まで来て驚いていた。
シンキもタカナリも、急に近づいてきたエンヤの姿に目を白黒させながら、今にも殴りかかろうとするエンヤを制する。
「待て待て待て! ちゃんと説明するから、拳をしまえって!」
「相変わらずだな……ザンキ殿は落ち着いたようだが、お前は変わらないな」
「何、しみじみ語ってんだ。ザンキも未だキレたら怖いんだぞ!オラ、お前も何か言ってやれ!」
エンヤは、バシッとアヤメを叩いた。アヤメは少し痛そうにしながら、困り果てた顔で、俺の方を見てくる。いや……俺にどうしろと?
ただ、このままだと話が進みそうにないのは分かっている。仕方ないなと思い、三人に死神の鬼迫をぶつけた。
エンヤ達は言い争いを辞めて、一様にこちらを見てくる。
……ああ、エンヤにその顔で見られたことはあまりないな。何か、新鮮な気持ちになってくる。それに、エンヤに怖いと言われるとは思わず、少し嬉しかったが、感情を殺して、三人に冷たく視線を投げかける。
「……いいから話せ。皆も待ってる」
「お……おう。分かったから、それを解いてくれ」
「……な? ザンキは変わってねえ……いや、むしろ俺が生きている頃よりも……」
「分かってる。私もアヤメと共にあれを食らい続けたからな……」
タカナリはそう言って、身を震わせた。そういえば、部屋に入る度に、アヤメに襲われて、その度に浴びせていたな。流石に可愛そうになってきたので、死神の鬼迫を解く。
そして、深くため息をついたシンキはやれやれと肩を上げる。
「さて……どこまで話したんだっけか……」
「どこまでも話してねえよ。そうだな……取りあえず、アヤメとタカナリの関係についてだ。ここまではぐらかしてきた辺り、よほど、面白いことがあるんだろ?」
「まあ、お前にとってはな。それに、“刀鬼”も関係しているから、多分、面白く感じるぞ」
シンキの言葉に、ジゲンは首を傾げる。
「儂もか? ……はて……」
ジゲンは顎に手を置いて、タカナリを観察するようだが、答えは出ないままだった。ちなみに、エンヤも何か考えているようだが、何も思いつかないようで、先ほどよりも苛ついていく。
あんまり、アイツの機嫌が悪くなると、皆、特にたまとリンネが怖がるので、俺が抑えておいた。
すると、皆の様子を見かねたシンキと、タカナリがついに、秘密を語り出す。
「分かった。じゃあ、言おう。……驚くなよ?
……結論から言うと、タカナリは、この領の初代領主だ」
「つまり、そこに居るアヤメとジロウは、私の子孫ということになるな」
「「「「……は?」」」」
あっさりと言った割には、衝撃が大きすぎる一言に、言葉を失う。ハルマサ達もキョトンとした目をしていた。すると、シンキは続けて語り出す。
邪神大戦が終わって、しばらく経った後、ちょうど、タカナリとエンヤが結婚した頃、人界王となったカンナもとい、シンラは、大地をいくつかの地域に分け、共に戦った、ハルマサや、タカナリ達に、それぞれの統治を任せた。
これが、現在で言うところの「領」であることは、コウカとエンヤから聞いた。
そして、ここクレナは、タカナリとエンヤが与えられた土地であり、タカナリは、クレナの初代領主ということになる。
そのことを知っていたシンキは、アヤメの刀に、意志のある刀精、つまり、かつて死んだ者の魂が宿っていることをコモンから聞き、昨晩、アヤメの家を訪れて、この屋敷の家系図を調べた。ひょっとしたらと思い、見てみると、祠の前で言っていたように、クレナ領は代々、タカナリを始祖とするクレナ家が領主を担っている。よって、アヤメとジゲンはタカナリの直系の子孫ということが明らかになった。
「それで、そういうことなら、代々受け継がれているアヤメの刀、花鳥風月に宿っている刀精はタカナリかと思ってな。
そう言えば、タカナリが持っていた刀もそんな名前だったなあと思ったんだが、まさか本当に居るとはつい、先ほどまでは思っていなかった」
「じゃあ、誰が居ると思ったんだよ。アヤメにあそこまで期待させておいて……」
「考えられるとすれば、先代の領主くらいだった。それはそれで驚くだろうからな。
ただ、先代のガロウ・クレナは刀精になる術を知らない。だから、その線は薄いだろうと考え、死んで魂だけ残し、クレナ家の刀に宿るとなれば、初代領主のタカナリしか居ないと考えていた」
シンキはうんうんと頷き、自身の考えていたことが当たっていたことを確認するように、タカナリを眺めた。コイツの思惑通りの展開になっていて、何となく感心してしまう。
ただ、タカナリが、アヤメとジゲンの先祖というのならば……と、考えていると、同じことを思ったのか、ジゲンがポツリと口を開く。
「……ということは、儂らはエンヤ殿の子孫ということになるのかの?」
その言葉を聞いたエンヤとアヤメはハッとし、お互いに顔を見合わせる。シンキとタカナリは、ジゲンの言葉に頷いた。どうやらそう言うことらしい。
何とも、奇妙な縁だなあと思っていると、皆の居る方から、
「ああ……どうりで……」
「なるほど……」
などと、何か納得するような声が聞こえてくる。
恐らく俺も、皆と同じことを思っている。常々、アヤメはエンヤに似ているなあと思っていたが、こういうことか、と納得してしまった。
「こ、コイツ等が……俺の……子孫……?」
「俺の……先祖……ということは親父も……?
……叔父貴のって言われた方が納得がいく……」
……なるほど。アヤメの父、ガロウという男は、エンヤ達に似てないようだな。失礼な話だが、一族の血は全てジゲンがもっていったらしい。
そして、アヤメもガロウとカナという母親の血も受け継いだんだろうな。皆が言うには、二人とも優しかったらしいし。
アヤメの今の性格はジゲンとサネマサによって出来上がった、ものであり、素の状態では少し落ち着いた感じだったと聞いた。
とてもじゃないが、エンヤの血が混じっているとは思えない。タカナリの血と言われた方がまだわかる気がする。
一方、ジゲンは、今はたまの為に好々爺のようになったと聞いたが、シズネとエンミ曰く、若い頃は、昔の俺よりも尖っていたという印象を抱いていたという。
時々、サネマサ達にぶつける気迫や、その強さなど、確かにジゲンだと、エンヤの血が流れていると言われても、不思議では無いなと思った。
そうやって、皆と一緒にクレナ領主一族について納得し、エンヤ達も静かになりながらも、どこか自分たちが血縁関係で結ばれているということに納得しているようだった。
……うん。シンキの思惑にはまったというわけではないが、驚いたし、この関係は面白いなあと思ってしまった。
前の世界で俺を育て上げたエンヤと、共に戦い続けた友、タカナリが、現在、俺の住んでいる街を統治しているアヤメと、俺の屋敷で一緒に、皆の統率を担い、俺の右腕的存在をしてくれているジゲンが、深い関係にあるということは、何とも面白い。少なくとも、俺にとっては、そう感じられた。
これからも、このクレナ一族に振り回されるんだろうなあと思っていた。
「……なるほどな。大体の事情は分かった。
……だが、一つ気になることがある。何故――」
「何故、タカナリがここに居るか。エンヤやハルマサと共にノア……神獣の所に行かなかったか、だろ?」
シンキの言葉に頷くと、少しだけ空気が変わった。ハルマサ達は、少しだけ真剣な眼差しになって、タカナリを見つめる。世界の真実を知り、俺の仲間のその後を聞いた、屋敷の奴らも同様に、話を聞く体勢になった。
数千年もの間、行方不明となっていたタカナリ。死んだ後、サヤに連れられ、カンナと再会していたと思われたが、そうではなかった。
その為、エンヤやハルマサ達は大層驚き、無論、心配もした。まさか、どこかで無に帰したのではないかと。
一体何があったのか……この、タカナリがエンヤ達から離れている間に、何が起こったのか、皆は静かに待っていた。
俺の方は、コウカとの約束もあるが、ここで、サヤと、カンナのことが分かるかも知れないと期待を込めながら、タカナリを見つめた。
皆を見回しながら、その空気を感じ取ったタカナリは、目を細め、ゆっくりと口を開く。
「うむ……ここからは、シンキ殿も、知らないことだな?」
「無論だ。だからこそ、さっきは驚いたんだよ。数千年もの間探し続けた魂が、あっさりと出てきやがったからな」
「まあ、そう言うな。私にも色々あったのだよ。
そうだな……あれは私が死んで、肉体から魂だけの状態になり、サヤ殿に連れられ、カンナ君の元に会いに行こうとしたことから話は始まる……」
タカナリは、シンキを含め、全員の前で、その時のことを語り始めた。




