第270話―刀精の真実を知る―
少しややこしい内容で長めです。
狙ったわけではありませんが、丁度、書き始めて一年経ったということで、記念になる話になったと思います。
しばらくすると、買い物を終えて、腹ごしらえも済ませた皆が俺達の周りに集まってくる。どこか不快そうな顔をするアヤメに、
何があったのかと聞いてくるコモン達に、俺は何も言えなかった。
すると、リンネとたまが飛び出して、不機嫌なアヤメの前に立つ。たまは、アヤメに臆することなく、その顔を覗き込んだ。
「りょーしゅ様、げんきないよ。だいじょうぶ?」
「……ああ、大丈夫だ」
「あのね、リンネちゃんとりょーしゅさまにおみやげかってきたの! ほら!」
そう言って、リンネが取り出したのは飴細工。綺麗な青紫色の花の形をした飴をアヤメの前に差し出した。
「アヤメおねえちゃん、おいしいもの、ありがと~!」
両手に串焼きを持って、それを高々と上げながら、満面の笑みを浮かべるリンネ。しっかりと満喫した様子だ。
リンネは、美味しいものを紹介してもらった礼をアヤメに言っているらしい。
差し出された飴を見て、目を見開くアヤメ。そして、フッと笑い、二人の頭を優しく撫でた。
「……ありがとう、たま、リンネ。元気になってきたよ」
「えへへ……りょーしゅ様にほめてもらえた」
頭を撫でられた二人は嬉しそうな顔をしてはしゃいでいた。ようやく機嫌が直ったかと思っていると、アヤメは俺とジゲンの間に立って、皆に聞こえないように、ジゲンの耳元で呟く。
「……まあ、最後の手段として、叔父貴に女差し向けて、叔父貴の子……つまり、俺にとっての従弟を生んでもらえば話が早いな……」
ニヤッと笑うアヤメの一言に、ジゲンは目を見開き、慌て始める。
「む!? あ、アヤメ、何を言っておるのじゃ――」
「うちの血筋で“刀鬼”ジロウの子って言えば箔もつくだろう……そうなりゃ、クレナも安泰だな……」
アヤメは、凄く邪悪な笑みを浮かべながら、そんなことを言っている。先ほどとは逆に、今度はジゲンの表情が悪くなっていく。
……あ、ジゲンにも苦手なものというのはあるのか。少し意外だな。
「あ、アヤメ、それは勘弁して――」
「今日から、戸締りはきちんとしとけよ、叔父貴……」
一体、俺の家で何をさせるつもりなのだろうか。はったりだろうが、アヤメの顔から本気なのかどうか分からない。本当にそういうことになれば、たまはジゲンから離し、俺達の部屋に泊めてやろうと誓った俺だった。
アヤメは最後に、ニヤッと笑い、ジゲンから離れていく。残されたジゲンは、何とも言えない微妙そうな顔をしていた。
「さて……腹ごしらえも済んだし、面白いもんも見れたし、そろそろ中に……って、どうした? サネマサ」
シンキが手を叩いて、祠の中に行こうとしたが、何故か落ち込んでいる様子のサネマサが目に入り、首を傾げる。
サネマサは、はあ、と長い溜息を吐いて、小さな袋を逆さにして見せてきた。
「……搾り取られた」
どうやら、それは財布らしい。クスクス笑っているシズネたちに話を聞くと、クレナ出身の十二星天だ、壊蛇を倒した英雄だとおだてられ、調子に乗ったサネマサは、全ての屋台でものを買ったという。
おかげで、持ち合わせて来ていた金を全部使う羽目になったらしい。
ただ、コモンによれば、それはここに来る度に毎回起きていることだそうだ。
そういや、店主たちに“伝説の金づる”とか言われていたな。なるほどと思い、皆でやれやれと頭を抱えた。
シンキは、はあ、とため息をつき、懐から数枚の銀貨を取り出す。そして、それをサネマサに分け与えた。
サネマサは信じられないと言った様子で、目を見開き、シンキの顔を見つめる。
「十二星天が文無しってのは、誰がどう見ても駄目だろ。それやるから、元気出せ」
「シンキ……お前……良い奴だなあ……」
サネマサは殆ど半泣きで、金を受け取り、空っぽの財布の中に大事そうに入れた。
なんで、ここでサネマサが本当の意味でシンキと和解したのだろうかと呆れたが、これはこれで、まあ良いかと思い、俺達は何も言わなかった。
「よし……じゃあ、行くか」
「おう」
改めて、シンキの言葉に頷き、俺達は祠の入り口に立った。すると、俺の横にツバキとリンネがやってきて、俺の手を握った。
「ようやく、三人で来れましたね」
「いっしょにはいろ~!」
「ああ」
二人の言葉に頷き、せーので、祠の中に入っていく俺達。何度も言うが、マシロを発ってから数か月。長かったなあと思いながら、どんどん進んでいく。
俺達を見届けたシンキ達も、次々と中に入り、シンキとカドル、それにコモンが俺の横まで来た。
「どうだ? トウショウの祠の感想は?」
「いや、まだ、入ったばかりでよく分からないが、何となく不思議な感覚になるな」
「そうだろうな。じゃあ、この祠について、解説でもしていこう」
シンキは、トウショウの祠について、説明し始める。
元々、ここは邪神大戦の頃から、更に二千年くらいまで、精霊族が住んでいた場所だという。なので、精霊族特有の波動が、その辺りの岩や、壁に染みついており、どこか外とは違った感覚になるという。
カドルはなるほどと言って口を開く。
「ふむ、道理で懐かしい感覚になるわけだな。話には聞いていたが、我も来るのは初めてだ」
「それで、この波動がある場所ってのは人界でも限られている。例えば、マシロの精霊人の森だったり、後は王都近くの神山、聖地・精霊女王の懐だな」
「変わった名前だな。聖地ってことは何かあるのか?」
「ああ。この世界でシンラが最初に確認された場所だ。シンラがこの世界に来て、過ごし、精霊族によって育てられた場所ってことになるな」
つまりは、カンナが召喚された場所ってことか。エンヤから聞いたが、その精霊族達がいわゆるマリー達精霊人の祖先ということらしいが、数千年前の場所まで残っているとはな。
話を聞けば、シンキと人界王で、代々大切に護ってきたらしい。
そこでも、この祠のような波動が確認されているが、決して荒らしてはならない場所として、王都はそこにどんな人間も立ち入ることを許していないのだという。
ちなみに、地名となっている「精霊女王の懐」の、「精霊女王」の由来は、サヤらしい。これも、シンキが名付けたという。
カンナが育った場所……いずれ行ってみたいものだなと思っていると、シンキは更に続ける。
「で、この精霊族の波動に満ちているここでは、武具や道具に宿る精霊、いわゆる刀精が、その波動に反応して、実体化しやすくなっている……という話だが、ここで皆がやりがちな大きな勘違いについて説明しておこう」
「勘違い? 何のことだ?」
「実はですね……」
シンキに続くように、今度はコモンが説明を始める。ちなみに、これはジゲン達牙の旅団含め、クレナに住む者は聞いておいた方が良いとのことで、それぞれ、コモンの説明に耳を傾けた。
「ここでは、刀精が出現し、心を通わせるという場所ということになっていますが、昨日、シンキさんの話を聞いて、疑問に思ったことがあり、更にそこから新たな仮説が生まれました」
「それは、何かの?」
「ええ。もしかしたら、ここで会えるのは、武具に宿った精霊と、武具本来がもつ力が具現化したものと思われます」
コモンの言葉に、一同首を傾げる。いまいち、意味が分かっていないようだ。正直、俺も分からない。
どういうことかと説明を求めると、コモンは最初に刀精の説明を始めた。
刀精は、これまでの話から、武器に宿った魂のことをさしている。死んだ者の魂が、精霊族の秘術というものを使って、自らの魂を、色んな物質に宿らせるというものだ。今のエンヤがそうである。
そして、ジゲンや牙の旅団、それにアヤメもサネマサも、ここで刀精と心を通わせることによって、刀精を具現化させる技、「偶像術」というものが使える。これは、武具に宿った力を全て解放するというもので、その威力や規模は凄まじいものとなっている。
一応、何度も聞いた説明で、皆はそれがどうかしたのかという顔で、コモンの顔を見つめた。コモンはコホンと咳ばらいをして、口を開く。
「では、ジゲンさん。貴方の刀に宿る刀精は一体、誰だと思いますか?」
そう言われて、ジゲンは首を傾げながら、腰に差していた刀を手に取り、ジッと眺めた。
そして、しばらくすると、ハッとした顔になる。
「……なるほど……そういうことか……」
「ええ、そういうことです」
ジゲンの行きついた答えに、頷くコモン。こちらとしては意味不明なので、どういうことかと聞くと、ジゲンは刀を皆に見せながら、説明を始める。
「儂の刀、帝釈天の刀精は「死神鬼」というが、これは儂が名付けたものであって、刀精から聞いたわけではない。
そもそも、ここで出会う刀精というのは何も語らず、儂らの前に立っていたり、辺りを飛び回るだけじゃからな。意識があるのかと聞かれると、確かに分からんところじゃ」
「だが、偶像術が使える以上は心を通わせたってことなんだろ?じゃあ、少なからず意識ってもんは――」
「いや……」
俺の疑問を遮り、今度はサネマサが口を開く。
「偶像術は、元々自分の力を武具に流し込んで、刀精に鎧を着させる感覚で出現させ、武具の力を開放させるという技だ。つまり、鎧を着させる対象が分かれば良いだけの話で、何も直接話したりしなくても良い」
「それに、儂らの刀は、零の刀じゃ。儂ら自身で抜き、常に大切に使っている分、他の者の魂が入り込む余地など無い」
ジゲンの言葉に、牙の旅団の何人かも、そう言えばという顔をする。
直接話したわけではないが、持ってきた武具から出てきたのなら、それは刀精で、姿を現し、更には友好的な態度になっていると、心が通ったことになったのだろうと、ジゲン達は語った。
だが、何人か実際に話をしたという人間も、聞いたことがある。というか、コモンは以前、アヤメの刀の刀精の声を聞いていた気がする。その辺りはどうなのかと確認すると、アヤメは口を開いた。
「俺の刀……花鳥風月には、叔父貴たちが言うのとは少し違うものが宿っているというのは間違いないな。こいつは実際話したりすることが出来るが……」
「はい。アヤメさんの刀はそうですね。僕がもつ道具のいくつかもそうです。こちらは、いわゆる死んだ方々の魂が入ったものと考えても良いでしょうね」
ちなみに、コモンの特殊な能力である、万物の精霊の声が聞こえるというものは、厳密に言えば、直接聞こえるものとそうでないものがあるということらしい。
それは初耳だったので、驚いていると、無間はエンヤの声が、アヤメの刀、花鳥風月からは精霊の声が確かに聞こえたという。
コモンは他にも、自身が持つ道具からもその声は聞こえ、実際に個々に持ってきたら、その道具に宿る魂が具現化され、もう少し大切に使うようにと、怒られたらしい。
一方、聞こえないものに関しては、声は聞こえないが、触れて、そこから出てくる武具本来の力の波動のようなものを感じるという。
コモンはその波動に応じて組み込む素材を決めたりすることが出来るらしく、合っていれば、その波動は強くなり、間違っていれば、弱まったり、流れが澱んだりするとのことらしい。それもそれで、すごいなあとコモンに感心する。
というわけで、アヤメの刀には実際にこの世界に生きて死んだ者の魂が宿っていて、ジゲン達やサネマサの刀からは力の波動は伝われども、声のようなものは聞こえないので、そこに刀精は宿っていないと結論付けたらしい。
「じゃあ、爺さんたちのは、結局何なんだ?」
「恐らく、この祠に充満する精霊たちの波動が、武具に流れる気のような力に触れて、具現化されているだけのものという可能性が高いですね。だからこそ、刀精もここにしか現れないですし、武具に宿る魂も、その波動に触れて、魂だけの状態から、一時的な肉体を得ることが出来るのかもしれません」
つまりは、この祠に満ちている精霊たちの波動が、この場所限定の依り代ということになっているという。なかなか頭がこんがらがるような話だが、要は、アヤメの刀に宿る刀精は、エンヤ達のように、昔死んで魂だけのようになった存在の、従来まで認識していた刀精そのもので、ジゲン達のものは、己の力を具現化させたただの力の塊のようなものとのことらしい。
なるほど、と頷くジゲンだったが、少し苦々しい顔をして、自身の刀に目を向ける。
「むう……となると、あの骸骨が儂の本性というか、力の源というわけか……それは何とも……」
「いや、ぴったりだろ……」
ジゲンの言葉に、サネマサが突っ込み、牙の旅団の面々は頷く。本当に、昔のジゲンはどんな人間だったのか、気になったとともに、俺はあることに気付いた。
「ジゲン達の刀精が、ジゲン達本来の力の源か……何かそれって……」
「ああ。EXスキルに似てるよな」
俺の考えをシンキが言い当てる。俺達が持っているEXスキルは、その者の魂に流れる魔力やスキルの源となる力が変異を起こしたものと聞いた。
昔のジゲンがどうだったかは知らないが、何となく、俺もジゲンの刀精がジゲンそのもののような感覚があって、サネマサ達の言葉に、納得した。
そう言えば、俺が抜いた斬鬼も、何でも斬れるというくらいに切れ味抜群で果ては、空間までも切り裂けるようになっているな。
俺の力の根源はただ、斬るという一点に絞られているのかと思うと、複雑な気持ちになるが、それも理解できた。
そんなことを思っていると、偶像術を使える牙の旅団の者達は、盛り上がっていく。
「じゃあ、私の場合は、好きな人をどこにも連れて行かせないって思いから出来たのかな?」
「それ、自分で言うか? シズ……見ろよ、ジロウを。すごく複雑な顔してるぞ」
ジゲンは少し苦々しい顔をしながらシズネの鞭を眺めている。それはそれで嫌なようだが、何故かアザミ他女中達、さらにたままでもが、素敵、と目を輝かせていて、何も言えないようだった。
「そうなると、ミドラの場合は何なんだろうな?」
「俺の場合は多分、手数が多かったら、軍略の幅も上がるって考えからだろうな。あらゆる攻撃をいろんな局面で繰り出せたら、最強だろ?」
「いえいえ、全てを薙ぎ払う強風こそ最強です。敵も敵の使う武器も飛ばすことが出来れば、そもそも戦う必要もないですからね」
「それじゃあ、意味ないでしょ。全部まとめて倒した方が良いに決まってるわ。後々面倒ごとも起きないしね」
「そういや、ジロウの刀は雷系統の技が基本だよな?これも、お前の考え方から生まれているのか?」
「じゃろうな。儂は、天を駆け巡り、大地を割る雷こそが最強の力じゃと思っておるからのお。なるほど……そう言ったところからも、この刀は儂に応えてくれていたのか……」
「流石、“刀鬼”殿は良いことを言うな」
最強談議に花を咲かせる牙の旅団。雷の化身であるカドルは、ジゲンの刀を眺めながら、うんうんと頷いている。
なるほど、話を聞いていると、確かに今まで使っていた偶像術がそれぞれの思いや、願望から生まれているようだ。
ちなみに、ナズナがミドラと同じ刀精を使っているのは、単にミドラの刀、「千手・千眼」の刀精は、あの、幾本もの腕を持つ女ということで定着しているからとのことだ。
ナズナがどれだけ頑張っても、やはり最初にあの刀を手にしたミドラの力しか顕現できないようになっているという仕組みだ。
牙の旅団の武器を継いだナズナやショウブが自身の刀精を生み出したければ、また、新たな自身専用の武器を作るか、ミドラやタツミの刀精を上書きするくらい、受け継いだ武具を強い思いで、使い続けなければならないとのこと。
どちらも面倒だから、恐らくそのままで良いだろうと、ジゲン達は笑っていた。
何となく、刀精とそうでなかったものについて納得していると、アヤメが、コモンとシンキの方に向き直った。
「まあ、刀精については分かったが、じゃあ、俺の刀の刀精は誰なんだよ。俺の力ってわけじゃないんだろ?」
「ええ。それを確かめるためにも、先を急ぎますか」
「ちなみにだが、アヤメ。その刀はどうやって手に入れたんだ?」
「これか? これは親父から貰ったんだよ。代々うちに継がれているこの羽織と共に、クレナ家当主とクレナ領主の証だとさ」
「なるほど……くくっ」
何故か、シンキは頷きながら喉を鳴らした。俺達とコモンまでもが、首を傾げながら、シンキを眺める。
「何一人で笑ってんだ?」
「いやいや……やはり、アヤメを呼んで良かった。多分、面白いことが起こるぞ」
「あ? 何のことだよ」
「直に分かる。ザンキも楽しみにしてな」
「ん? ……ああ」
皆がぽかんとする中、シンキは祠の中を進んでいく。俺とアヤメは顔を見合わせて、何だろうなと思いながら、シンキの後に続いた。
やがて、通路を進んでいくと、俺達は大きな広間のような場所に出た。そこは、岩肌や、地面がぼんやりと光っているようで、灯が無くても、皆の顔が認識できるほどの明るさだった。初めて見る綺麗な光景に、俺はぼーっとし、リンネとたまは声を上げる。
「うわあ~! きれ~い!」
「ああ……そうだな……」
「ねねっ! おじいちゃん、ここはなんなの?」
「ここが、祠の最深部。「刀精の間」じゃ。ここで儂たちは刀精……いや、今となっては違うか。自分の力の源だったり、アヤメの場合は本物の刀精に出会ったんじゃよ」
なるほど……ここが、目的の場所ってわけか。辺りは広く、俺達全員が入っても、まだまだ余裕があるくらい広い。
元々明るいが、あちこちにたいまつもくべられていて、足元がよく見える。そして、上を見上げると、下からの光が所々で反射していて、それはまるで星空のようだった。
思わず、何も言わないで、その光景を眺めていると、突然ツバキが声をかけてきた。
「む、ムソウ様!」
「ん? ……何だ!?」
ツバキの声を聞いて振り返ると、その瞬間起きていた現象に驚いた。ツバキの腰に差してある斬鬼が、激しく光を出しながら明滅している。ツバキは慌てて斬鬼を鞘ごと抜いて、俺に手渡してきた。
「いや、どうしろってんだ!」
そこから、どうすれば良いのか分からず、あたふたしていると、シンキのため息が聞こえてくる。
「やれやれ……せっかちな奴だな。ザンキ、そいつを持って、もっと奥まで行ってみろ。そこが精霊族の波動が濃い場所だ……あの女が出てくるぞ」
そう言って、シンキは俺と一緒に、広間の奥の方へと歩き始めた。斬鬼からの光はどんどん強くなっていき、掴んでいる手元が見えないほどになっていく。
そして、何となく周りとは空気が違う場所に立ち、俺は斬鬼を天に掲げた。
「連れてきたぜ……出て来いよ、エンヤ!」
俺の言葉に呼応するように、斬鬼は強い光を放ち、辺りを光で包んでいった。
「あ、皆さんも、もう大丈夫ですよ!」
何か、コモンが後ろで言った気がしたが、俺とシンキは斬鬼から放たれる強い光に目を瞑ってしまった。
やがて、瞼の向こうで、段々と輝きが収まっていくのを感じたとき、俺の正面から、聞き慣れた声が聞こえてくる。
「よお……ザンキ……それに……久しぶりだな……シンキ」
俺達はゆっくりと目を開ける。そこには、黒い衣に、黒い袴を履いて、胸元をさらしで隠したいつもの姿のエンヤが立っていた……。
……おお、本当に出るとなると、やはり言葉を失うな。魂の回廊ですでに会っていたとはいえ、斬鬼に宿ったというところまではきちんと確認していなかっただけに、何となくホッとしてしまった。
シンキも隣で、言葉を失ったまま、自分の姿を確認しているエンヤをぼーっと見ている。どこか懐かしそうで、あの時のように泣き出しそうな顔だ。
すると、俺達の視線とエンヤの視線が合う。その瞬間、エンヤは拳を握り、大きく振りかぶった。
「……え――」
エンヤはそのまま、シンキの顔を殴り、訳の分からないまま、それを受けたシンキは吹っ飛んでいく。
そして、エンヤは、殴ったその腕で、今度は俺の顔面に向けて肘鉄をくらわそうとして来た。
「うおっと!」
「チッ……やはり、お前には止められたか……」
間一髪、俺はエンヤの肘を止めて、攻撃を防いだ。どこか悔しそうにするエンヤに、俺はすかさず怒鳴る。
「テメエ! いきなり何すんだ!」
「あ? ぼさっと突っ立ってっからだろうが。隙だらけだぞ」
「何で常日頃から気を張り詰めてなきゃいけねえんだ! 疲れるだろうが!」
「……はあ、俺はお前をそんなやわに育てた覚えはないんだがな」
エンヤは腕を引いて、頭を掻く。何言ってんだ、コイツ……と、思っていると、エンヤはフッと笑った。
「……まあ、良いや。こうやって、普通にお前らに会えたってのはやっぱり嬉しいもんだな。思わず体が動いちまった」
「感動するのは分かるが、やり方を考えろ……ったく……」
そうは言っても、エンヤらしいな、と思ってしまった俺は、何となく納得して、エンヤの胸を小突く。
「……ずいぶんかかったが、改めて、またよろしくな。色々とまた、やることがあるからな。お前も手ぇ貸してくれよ」
「分かってる。大体の事情は、刀の中から見てきたからな……しかし……」
エンヤは俺に頷きながら、先ほど自分が吹っ飛ばしたシンキに目を移す。そして、エンヤもどこか懐かしそうな顔をして、フッと笑い口を開いた。
「おい、シンキ! コイツ等に面白えことがあるっつってたが、そのことじゃねえよな!?」
倒れているシンキにそう語りかけるエンヤ。すると、よろよろとシンキは起き上がり、殴られた頬をさすった。
「痛ててて……クソっ、泣きそうだったが、涙も引っ込んだ……このアマ! 何しやがる!?」
シンキも起き抜けに、エンヤに怒鳴り散らす。流石にあそこまでされたら、再会の感動も吹っ飛ぶよな。そんなことを思っていると、シンキに駆け寄る影が目に入る。
俺はその姿を見て、目を見開いた。
「シンキさん、大丈夫ですか?」
「チッ……ああ、問題ねえよ。あのアマ……ちっとも変わっていないみたいだな」
「けど、ザンキはすげえな。エンヤの一撃を防いだぞ。アイツ、俺達と居た時よりも強くなってねえか?」
「おい、それを言うと、俺が凄く無えみたいに聞こえるじゃねえか! 俺は、アイツの攻撃を耐えたんだぞ! もう少し褒めてくれたって良いだろ!」
「はいはい、貴方も充分すごいですよ……ところでシンキさん?」
「あ? 何だよ」
「……僕達の場合は、感動してくださらないのですか?」
「あ? ……は?」
シンキは起き上がりながら、声のする方へ顔を向ける。そして、そこに立っていた者達の姿を見て、俺と同じ様に言葉を失った。
「お前ら……なんで……?」
シンキは、信じられない光景を見ているような目になり、エンヤの時のように、泣きそうな顔になっていく。
すると、そんなシンキを見たエンヤが俺の隣で笑いながら口を開いた。
「お? あの反応じゃ、シンキが仕組んだわけじゃなかったみたいだな。まあ、俺も知らなかったから、驚いているが。なあ? ザンキ」
エンヤはそう言って、俺の肩に、ポンと手を置いた。
俺はゆっくりとシンキ達の居る所へと歩いていく。
何故ここに居るかは、分からない。
だが、エンヤと同じく、コイツ等もこの世界に来たと聞いた。
そして、エンヤと一緒に、魂のまま大地に残り、今の十二星天にEXスキルを継がせたと聞いた。
その際に、魂自体は輪廻転生の輪に帰ったと思っていた。
だが、心のどこかで、エンヤが残っているなら、コイツ等もどこかに居るだろうとは思っていた。
その考えは間違っていなかったということを、たった今、理解した。
俺に向かって、それぞれ微笑を浮かべている皆の顔を眺め、近づいていくと、突然、小さな影が、ツバキ達の居る方向から飛び出し、俺の方に向かってきた。
その影は俺の胸へ飛び込んできて、俺の顔を見上げる。
「久しぶり……ザンキ……」
それは、もうずいぶんと聞いたことが無いと感じる声だったが、あの時は、毎日のように聞いていた、俺を気遣ったりしてくれる、優しい声だった。
「……ああ……久しぶり……でもねえな……俺にとっては……数か月ぶりだ……」
「うん……でも……私達は……久しぶり」
「そう……だったな……」
俺は、顔を見上げてくるその、少女の頭を撫でて、その場に立たせた。すると、そいつはクスっと笑って、頷く。
すると、シンキの居る方から声が上がった。
「あら、ツバキさんも……やはり、あの簪って……」
「そうみたいですね。コモンさんから聞きましたが、ツバキさんとハルマサさんは、あの簪に宿ったようです」
「え、てことはハルマサも居るのか?どこだ?」
「……ここだ」
皆からの声に応じるように、コモン達が居る方から声が聞こえてくる。俺は再び聞こえてくる、どこか聞き慣れた声のする方向を見た。
すると、ツバキの横に、こちらも見慣れた、若く精悍な男が立っているのが見えた。ツバキは、さして驚いた様子も無く、斬鬼と同じ様に光っている簪を手にし、微笑みながら、その男を眺めている。
エンヤ達と同じく、身体がぼんやりと光っているそいつは、ツバキの肩をポンと叩いて、やれやれと言いながら、俺達の方を向いて、頭を掻いていた。
「……ったく……人の妻といちゃいちゃすんじゃねえって」
「あ……悪ぃ……」
「謝んな、らしくねえ真似されると俺が困る」
「あ……すまな……じゃなかった……おう」
「フッ……まあ、祝言じゃ、そいつの親代わりだったからな。それに、今までのこともあるから、正直どうでも良いがな……」
その男は俺の前に立ち、ニカッと笑った。そして、他の皆と合わせて、呆然とする俺とシンキの前に立ち、男は笑いながら、口を開く。
「本当に……久しぶりだな、シンキ……それに……ザンキ。いつも見ていたが、やっぱりこうやって、直接話せるってのは嬉しいもんだな」
「あ……ああ……まったく……驚いたぞ……」
シンキは目を見開きながら、胸を抑えて、そんなことを言っていた。本当に驚いているらしい。エンヤの言うように、この現象はシンキが仕組んだことではないというのが、確実なものになった。
だが、俺は、そんなことを気にしている場合じゃなかった。俺の顔を、どこか懐かしそうに見てくる、皆の姿を見て、男の言葉に、頷くのがやっとだった。すると、男は手をすっと出してきて、再び、ニカっと笑う。
「まあ、積もる話もあるが、その前に……また、一緒に闘っていこうぜ……ザンキ」
「……ああ……よろしくな、ハルマサ……それに、ナツメ、アキラ、トウヤ……ツバキ」
俺は、ハルマサの握手に応じて、ツバキの頭を撫でた。嬉しそうな顔をするツバキを見てから、ハルマサは、またいちゃいちゃしやがって、と俺を小突いてきて、ナツメ達は笑っていた。
どういう経緯かは知らないが、段々と状況が理解出来てきた俺とシンキは、そのまま、ハルマサ達と再会を喜び合っていた。
こういう設定に踏み込んだ話は苦手ですね。
後付け……じゃない、辻褄合わせ……違う。
取りあえず、大変でした……。
……まあ、恐らく皆さんからしたら、予想通りの展開でしょう。僕、伏線はったりとか、下手なんですよね……。日々精進。
さて、来週の更新を終えたら、しばらく休載します。かねてから予定していた(半年前の話……)、訂正・改稿祭りに入りますので、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。




