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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
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第269話―皆で祠に向かう―

 翌朝、俺達は飯を食い、庭に集合した。今日ばかりは誰もどこにも行かない。全員でトウショウの祠に向かう。

女中達も、昨日話を聞いたから、ということでたまと共に屋敷を開けることになった。

 屋敷の留守は、シロウ達が見てくれるということになったので、俺達は安心して行くことが出来る。

 庭で、それぞれ準備をしている様子は、さながら何かの祭りのようだった。


「別に、こんなに準備しなくても良いんじゃねえか?」


 俺は、どこか余所行きの格好になっている皆を眺めながら、ポツリと呟く。誰もかれも、少しばかり、こぎれいな恰好をしていて、それぞれはしゃいでいる様子だ。


 ジゲンまでも、昔、牙の旅団やサネマサから貰ったという赤い羽織を着て、どこか気合が入っているように感じる。今は、皆が歓声を上げる前で昨晩言っていたように、チョウエンと稽古という名のしごきをしている。


「ほれ、どうしたのじゃ? 儂の刀より速くなったと言っておったが、嘘だったのかの?」

「このッ……目にもの見せて――」

「遅いッ!」

「ガハッ!」


 ジゲンの挑発に乗ったチョウエンが、目にもの見せようと、刀を振り上げた瞬間、ジゲンが目にも止まらぬ速さで刀を抜き、峰打ちにて、三度チョウエンを叩き伏せる。

 呆気にとられる牙の旅団や、闘鬼神と、拍手をするたまの前で、ジゲンはチョウエンが起き上がるのを待ち、刀の柄に手を置いた。


朝からケガするなよなと、二人に呆れた。


 すると、横に立つツバキも、妓楼に居た時のような、煌びやかな着物を纏い、纏め上げた髪には、俺が渡した簪を差し、顔には少々、紅を差していた。

 こちらも、気合入った格好をしてるなと呆れていると、ツバキは、俺の顔を見ながら、クスっと笑みをこぼす。


「今日お会いするのは、ムソウ様の育ての親の方です。でしたら、これくらいはしないといけません。それに、闘鬼神の初代頭領ともなれば、皆さんも気合を入れます。

 私達が、ムソウ様の下でどれだけ幸せなのかを見せつけて差し上げなければ……」

「もう、見てると思うんだがな……」


 俺はツバキの腰に差してある、斬鬼の柄を叩く。実際、この中に居るわけだからな。今頃どんな気持ちでこの光景を眺めているのだろうか……。


 さて、皆の準備も整って、後はシンキを待つだけとなった。綺麗な着物を着て、その辺りを駆け回っているたまとリンネをぼんやりと眺めていると、庭の真ん中に白い魔法陣が描かれ、シュンッという音を立ててシンキが現れた。

その後ろにはアヤメも居るようだ。


「よお、待たせたな」

「おう……って、なんでアヤメも居るんだ?」

「コイツに呼ばれたんだよ。面白いもんが見れるって」


 俺の問いに、アヤメは困惑しながら頭を掻いた。まあ、牙の旅団の件もあるし、元々、ここに来るつもりではあったようだから、別に構わないが。

 そういえば、アヤメにも、世界の真実について話すのだろうか。昨晩は時間が時間だったから、ケリスのことも話せていないと思うが、このままアヤメもエンヤに会うとなると、恐らく困惑したままだろう。

どこかで、辻褄合わせの為にも、伝えないといけないなと感じた。

 しかし、一つ気になることがあり、シンキに確認してみた。


「面白いことって?」

「行けば分かる。だから、早速行こうか」


 ついて早々、祠に出発しようとせがむシンキ。よほど、エンヤに会いたいらしい。会った途端にこないだのように泣きだしたらどうしようかと、今更ながら心配するようになった。

 しかし、この状況だと、これからアヤメに説明するのは難しそうだな。ひとまず、それは後でということにして、俺達は出発することにした。


「じゃあ、リンネ。デカくなってたまと爺さんを乗せてやれ」

「うん!」


 リンネは大きくなって、たまとジゲンの元に歩み寄る。たまはわ~いと言いながらリンネの背に乗ったが、ジゲンは乗らなかった。


「む……年寄り扱いは辞めて欲しいものじゃな。ここは、領主たるアヤメが乗った方が良いのではないか?」

「あ? 別に良いって。今更そんなこと気にすんなよ。叔父貴がたまと一緒に乗ってやれよ」

「やれやれ……アヤメは本当に良い子に育ったもんじゃの……」


 ジゲンがそう言うと、牙の旅団とサネマサ、それに、俺は、え? という顔をして、アヤメは顔を赤らめる。


「馬鹿言ってねえで、さっさと乗れ! ったく……」


 プイっとジゲンに背中を向けて、ずかずかと庭から出ていくアヤメ。ジゲンはフッと笑い、刀を鞘に治めてリンネに跨った。


「では、行くかの、たま、リンネちゃん」

「は~い!」

「クワンッ!」


 ジゲンの言葉に、大きく返事をしたリンネはそのまま、アヤメの後を追って、外へと出ていった。


「お、ジロウ行っちまった!」

「ぜえ、ぜえ……お、俺達も追いかけるぞ!」


 コウシとチョウエンの言葉に、牙の旅団は頷き、外へと向かう。サンチョは、ボロボロのチョウエンに、無理すんなよと言いながら笑っていた。

 しかし、ふとタツミが立ち止まって、サネマサの方を向く。


「あ、サネマサさん! 何をしているのですか? 置いていかれますよ!」

「いや、俺はコイツらとゆっくり行くよ」


 サネマサはそう言って、コモン達を指さす。どうやら、十二星天は十二星天で固まって行きたいらしい。

 それを聞いた牙の旅団はピタッと止まり、その中からシズネが鞭を振るって、その先から気で出来たひもを飛ばしてきて、サネマサの体に巻き付かせた。


「へ!?」

「何、団長が団体行動乱してるの!」

「さっさと行くぞ!」

「ちょっ!? あああ~~~~ッッッ!!!」


 シズネの鞭を、牙の旅団総出で引っ張るとサネマサの体が浮き、そのまま屋敷の外へと飛び出していった。


「む? では、我も一緒に行こうか……」


 そう言って、カドルは先に牙の旅団を追って飛び立っていく。


 俺達はやれやれと思いながら、その光景を見ていた。


「さて、と。クレナ一家が行ったことだし、俺達も行くか」

「ですね。……あ、シンキ様、それから十二星天の皆さん」

「ん? 何だ?」

「私達、闘鬼神も貴方たちとは別に行きますので、少し離れていてくださいね」


 ツバキの言葉に、残っていたダイアン達冒険者と、アザミ達女中も、一斉に頷く。別に良いじゃねえかと俺が頭を掻いていると、コモンが手を上げる。


「あの……僕は闘鬼神の一人ですからよろしいですよね?」


 恐る恐るといった様子で、そう尋ねてくるコモンに、女中たちが寄っていく。


「もちろんです。コモン様は私達と一緒に行きましょ~!」


 女たちは、コモンの腕を掴み、グイっと引っ張り、自分たちの集団の中へと引き込んでいく。嬉しそうながらも、どこか困っている様子のコモンを俺は、笑いながら眺めていた。

 呆気にとられるシンキ達だったが、やがてフッと笑った。


「コモンはそちらにとられたか……まあ、良いや。じゃあ、俺達が先に行くか」

「だな。おい、トウガ。人界の宰相様にご足労かけるわけにはいかねえ。乗せてやれ」

「了解だ。俺達、神獣の造物主様には迷惑をかけられねえからな」

「いや、俺は別に……うおっと!」


 トウガに乗るのを拒もうとするシンキだったが、両脇からレオパルドとトウケンに抱えられ、トウガの背に放り投げられる。

 トスッとトウガの上に乗ったシンキはやれやれと言いながら、トウガの背中を撫でた。


「ったく……俺はこういうのは苦手なんだがな」

「文句言ってんじゃねえよ……じゃあ、ムソウ、先に行くぜ」


 レオパルドの言葉に頷くと、十二星天と神獣の一団は先に屋敷を出ていった。


 残ったのは俺とツバキと、冒険者と女中達、それにコモンだ。ここにたまとジゲンが加わって、闘鬼神となる。こうやって見ると、大きな家族だなと改めて思った。


 その後、シロウ達が来たと同時に、俺達は屋敷を出る。


「じゃあ、俺達も行こうか」

「ええ、ムソウ様」


 俺の隣で、ツバキが頷き、ぞろぞろと歩いていく。すると、皆の戦闘に居たダイアンと、アザミが話しかけてきた。


「こうして皆で歩いていると、初めて頭領と出会った日のことを思い出すっすね」

「あの時は、ジゲンさんはともかく、得体の知れない人についていくことに、少々不安でしたね……」

「それがたまと出会って、考え方を改めたってわけか?」


 そう言うと、アザミはじめ、女中の皆が大きく頷く。何とも、可笑しな気持ちになって笑った。


「まあ、あれから色々あって、もう何が起きても動じなくはなりましたけど……」

「コウシさんたちと初めて会った時のアザミ姐さん、凄かったもんね~」

「不審者だと思って短刀を振り回して、カッコ良かったよ」


 女中たちの言葉に、何のことかと聞くと、あの闘いのさなか、牙の旅団が屋敷に来た時に、見たことも無い異様な姿をしたコウシ達を、新手の敵だと思い、アザミはたまや皆を護る為に大立ち回りしたらしい。

 シロウやジェシカも居て、すぐに誤解は解けたが、アザミはその時のことを思い出し、クスっと笑った。


「まあ、私もクレナで育った女ですし、頭領の部下ですし、それに、あの時は、大事な人を護る為に一生懸命でしたから……」


 アザミはちらっとダイアンの方を見る。リアたちに小突かれながら、ダイアンは照れたように視線を外し、再び皆から笑い声が起こる。


「本当に、色々あったなあ……」


 ケリス達の闘いも含めて、ここに来てからのことを思い出し、感慨深くなる。最初はボロボロだった、昔ジゲンが使っていた屋敷も、皆の手で新しく生まれ変わり、今や、俺の家となっている。

 そういえば、会った時の皆もボロボロだったよなあと思い出し、よくもまあ、ここまで強くなったもんだと、皆の姿を見て感じた。


「そうですね……マシロを発ってからも、ずいぶん経ちますからね……」


 ツバキもどこか感慨深げにつぶやく。半ば強引に俺とリンネについて来たツバキも、妓楼で働いたり、俺の屋敷に来てからは、常に一緒に居たりと、俺のそばに居るのが当たり前となっている。

 リンネとは、本当の姉妹のように接し、皆とも、家族のような関係になっていて、あの時、無理やりにでも、ツバキの同行を拒否しなくて良かったと心から思っている。

 そして、あの時からの旅は今日、終わる。本当に長かったなあと思ったが、これからも、皆とずっと一緒に暮らしていくということには変わりない。

 邪神族が居ようと、俺達の幸せな日々を今度こそ手放さないと誓い、思わず笑みがこぼれた。


「あら、頭領、何か面白いことでもあった?」


 すると、俺の顔を覗き込み、リアが声をかけてきた。リアの言葉を聞いて、何人かが俺の顔を覗き込み、指を差しながら笑ってくる。


「本当だ。何一人で笑ってるんすか?」

「そんなに頭領の頭領に会うのが楽しみなんすか?」

「頭領も意外と子供っぽいところがあるんですね~」


 いつもの様子で、俺をからかってくる闘鬼神の皆。俺は更に可笑しくなり、笑いながら首を横に振った。


「いや、そんなんじゃなくてだな……」

「ひょっとして、ツバキさんの美しさに照れてるとか?」

「いや、ちが――」


 即答しようと口を開きかけるが、リアが俺を小突く。すると、ツバキが俺の肩を叩いてきた。


「……似合っていませんか?」


 真顔で、覗き込むような目で俺にそう尋ねてくるツバキ。俺は深くため息をついて、何もかも諦めた。


「……似合ってる」

「ありがとうございます!」


 ツバキはニコッと笑って、俺の言葉に喜んだ。頭を抱える俺を、アザミたちはニヤニヤしながら見てくる。こういう空気は、いつまで経っても苦手だなあと感じた。


「で、結局、何ににやついていたの?」


 意地悪そうな顔をしながら、リアが同じ質問をしてくる。完全に楽しんでんなあと思いながら、頭を掻いた。


「別に……ただ、本当にあっと今だったなあと思ってな……」


 そう言うと、今度は皆、目を丸くして、俺に聞こえないようにひそひそと話し合う。


「前言撤回。頭領、最近ジゲンさんよりもお爺さんみたいなことを言うよね?」

「ええ。やっぱり四十代に入ったらああなるのかしら?」

「そういえば、もう半年は経つからな……」

「言動を直して、きちっとすれば、頭領もまだまだ若い見た目なのに、勿体ないよね……」


 全部聞こえているがな。皆は、自分たちは良い感じに歳を取っていこうだの、ああはなりたくないだの、なんとも俺が傷つくことを言っている。


「お前ら……聞こえてんぞ」

「あら、これは失礼しました。ですが、本当にもったいないと思いますよ。また、以前のように化粧とかしたら、頭領もまだまだいけますって」

「何がいけるんだよ。俺はこのままで良いんだよ」

「またまた~。実は、また女装とかもしてみたいんじゃないんですか~?」

「何度も言うが、しないからな! って、コモン! 笑ってんじゃねえ! 何の顔だ!?」


 皆の中でニヤニヤしながら、話を聞いているだけのコモン。顎に手を置いて、何か考え事をしているようだ。


「いえ、次はどう、ムソウさんを美人に見せるか考えているところでして……」

「やらないって言ってんだろ! いつも無駄に働いているんだから、余計な労力を使うな!」

「無駄には働いていませんよ。ムソウさんが、毎回大量に素材を持って帰ったり、珍しいものを持って帰るのがいけないんです。

 それに、皆さんも僕が作った防具や、武器、それに着物を喜んでいらっしゃるではありませんか。ねえ、皆さん!」

「「「「「う~っす」」」」」

「「「「「は~いっ!」」」」」


 コモンの問いかけに、皆は大きく頷く。俺自身も、コモンの作るものに世話になっている以上、こればかりは何も言い返せない。

今日だって、これからエンヤと無間をどうするかについて決める予定だからな。

 ただ、それと、俺を女装させるというのは別だと思い、念を押すようにコモンを指さした。


「絶対やらねえからな!」

「はいはい、分かっております……ところで、ムソウさんは、花と動物柄ならどちらが好みですか?」


 何を言っても、コモン達からは、着物はどんな柄が良いか、頭につける飾りはどんなものが良いか、紅の色は明るめか、暗めなのかなど、次に女装するときはどういったものにするかに関しての質問が飛んでくる。

 俺は、呆気にとられ、これ以上話すのは無駄と判断した。


「もう知らん!」


 俺はプイっと皆から視線を外し、一人皆より先に歩き始めた。背後から、皆の大きな笑い声が聞こえてくる。楽しそうで、明るくて、これ以上面白いことは無いという、軽快なものだ。


 こういう理由で、ここ最近一番の笑い声をあげてんじゃねえと苛つきながらも、どこか嬉しい気持ちになり、俺も、自分にも呆れながら、笑っていた。


◇◇◇


 さて、しばらく皆と歩き続けて、俺達は街がある山を挟んで、丁度屋敷の裏側にあるトウショウの祠にたどり着いた。


 前から聞いているように、確かにどこも壊れていないようだ。ただ、人は少ない。以前来た時と同じように、屋台なども出ているが、どこも人が来ていないようで、それぞれの店の店主は落ち込んでいるようだった。

 ふと、先に行っていたアヤメの姿が目に入る。他の皆はどこに行ったのだろうかと思っていると、アヤメは何やら、串焼き屋の店主と何か話しているようだった。


「よう。こんな時でも店はやっているんだな」

「あ、アヤメちゃ……じゃなかった。りょ、領主様、どうもです。今日はまた、どうしてこちらに?」

「ちょっとした野暮用だ。まあ、俺のことはどうでも良いが、お前らはこんな時でも店やってんだな」

「そりゃあ、これが私達の仕事ですので……」

「しかし、客が来ねえと意味がないだろ。最近はいつもこんな感じなのか?」

「は、はい……あの事件以来、冒険者の姿はさっぱりです……」


 落ち込む店主を見ながら、アヤメはキョロキョロとする。そして、俺達と目が合うと、ニカっと笑って、店主に語りかけた。


「喜べよ、串焼き屋。それに、他の屋台の奴らもだ! 久しぶりに客を連れてきたぞ!」


 アヤメの言葉に、え!? という顔をした、店主たちが、俺達の方を見てくる。俺の姿を確認した店の奴らは、身を乗り出して声を上げた。


「うおお~~~! 客だ! 久々の客だ!」

「しかも、ありゃあ、下街の闘鬼神じゃねえか! こりゃあ、良い金づるが来たぞ!」

「よく見たら、コモン様も居るじゃないかい! あたしも今日は稼がせてもらうよ!」


 それは、客の前で言っても良いのかと思っていると更にアヤメは声を上げる。


「アイツらだけじゃねえぞ。他にも人界の宰相様や、十二星天様、それに叔父貴たちも連れてきた! ここの店の味が落ちてねえってことを証明してやれ!」


 アヤメの言葉を合図に、近くの茂みから、先に屋敷を出ていった、ジゲン達やシンキ達が飛び出してきた。その姿を見た店主たちは、更に活気づく。


「おっと! ジロウ様も居るじゃねえか!」

「それに生き返ったっていう牙の旅団に、シンキ様、レオパルド様、ジェシカ様、そして、“伝説の金づる”サネマサ様も居るぞ! すげえ顔ぶれだ!」

「俺は今日、死んでも良い! テメエら! 今日は客の取り合いは無しだ! 久しぶりに稼ぐぞ!」


 焼き魚屋の言葉に、立ち並ぶ屋台から、威勢の良い声が聞こえてくる。

そして、落ち込んでいたそれぞれの屋台からもくもくと煙が上がり、辺りに良い匂いが立ち込めるようになった。


 これは一体、何が起きているのだろうかと思っていると、ジゲンとシンキの話し声が聞こえてくる。


「ふむ……なるほど。急に隠れろと言われた時は何かと思ったが、こういうことか」

「ああ。“暴れ姫武将”が何故、領主として慕われているか分かった。こういうことは上手いよな……」


 などと言いながら、二人は屋台に向かって行く。


 ああ、なるほど。ああやって、落ち込んでいた奴らに、いきなり金づるとなる者達の姿を見せたら、驚きと、共に感動も与えるよな。上手いことを考えるなあと、思っていると、俺達に気付いたリンネがたまを連れてやってくる。


「おししょーさま、リンネたちもかってもいい?」

「ああ。今日は自由に食いたいものを選べ。ほら」


 何か期待しているような顔のリンネに、何枚か銀貨を渡すと、リンネはそれを受け取って、ニパっと笑った。


「ありがと~! いこ、たまちゃん!」

「うん!」

「あ、リンネちゃん、私も行きます。あなた一人ですと、綺麗な着物をまた汚してしまいますからね……」


 そう言って、ツバキは二人に手を引かれ、屋台の方に向かって行った。


「お前らも行って良いぞ。アヤメのお膳立てに乗ってやろうじゃねえか」


 俺と同じく呆然としていた闘鬼神の皆にそう言うと、ダイアン達は頷き、それぞれ飯を買いに走りに行った。コモンは女中達に手を引かれ、困り顔になっている。

ありゃあ、こってり絞られる感じだな。助けを求めるように、俺の方を向いてきたが、先ほどの恨みということで、無視した。

 閑散としていた祠の前が、急に活気づいていき、アヤメは満足げな顔になり、そばにあった長椅子に腰を下ろした。


 俺は甘酒と串に刺さった焼き魚を買って、アヤメの隣に座った。


「よお、領主さん。見事な腕前だったな」

「ん? まあな。これも叔父貴から習ったやり方だ」


 魚と甘酒を差し出すと、それを受け取りながらニカっと笑うアヤメ。すると、背後からジゲンの声が聞こえてくる。


「儂がか? 覚えておらんのう……」


 振り返ると、両手いっぱいに食べ物を持ったジゲンとシンキが立っていた。ジゲンは、そんなことがあったのだろうかと首を傾げている。

 アヤメはフッと笑い、口を開いた。


「あの時は色々詰め込まれたからなあ。数が多すぎて忘れたんじゃねえか?」

「むぅ……かもしれんのう。全く歳はとりたくないものじゃ……」

「それは、俺に対する嫌味か?」


 数千年生きているシンキが苦笑いしながらジゲンを眺める。ジゲンは笑って、これは参ったという顔をしていた。その光景を見て、俺達も笑った。


「まあ、なんにせよ、アイツらが活気づいて良かった。アイツらのカモは、ここを訪れる冒険者だが、クレナに来る冒険者は以前にも増して減少している。どうしているのかと思っていたが、案の定だったな……」


 なるほど……クレナに来る冒険者は元から少なく、来たとしても、妓楼か祠に寄るだけで、依頼はしないという者が多かった。その少ない冒険者を相手にしていたここの奴らは、先日の一件で更に冒険者が減り、商売が出来なかったようだ。

 一応、この領は安全ということにはなっていて、冒険者達にも、それは広まっているが、なかなか、訪れる者達が増えるというのは難しい様子だ。

 何とかしてくれというアヤメの言葉に、シンキは頷いた。


「分かった。セインに掛け合ってみる。俺の方も色々とやっておこう。具体的には依頼の報酬を他の領よりも若干上げたりな」

「そんな金、今無えって」

「もちろんレインから補助は出す。後は、九頭龍の売却金があればいけるだろ?」

「それは……そうだな……分かった。早急に手配してくれ」


 シンキは、再びアヤメに頷く。こういうのを見ると、アヤメは本当に領主なんだなと実感する。印象のほとんどが、部屋に入った途端、俺に斬りかかってくる危ない奴というものしかないからな。

 それに、シンキにも物怖じせずに、領の問題点を口にするあたり、アヤメはシンキに対しては何とも思っていないような気がする。これだったら、シンキの正体を知っても、何も変わら無さそうだなと、安心した。

 ジゲンも、アヤメの領主たる姿に感心しているようで、静かに頷きながら、感慨深げにアヤメを眺めていた。

 すると、その視線に気づいたアヤメが、ジゲンの方を向く。


「ん? 何だよ」

「いやなに……立派になったものじゃなと……」

「何回それ言うんだよ。もう聞き飽きた」

「そうか……本当に、アヤメは立派に領主を務め、ショウブ達もこの街を護っておる。儂も、安心して隠居できるな……」

「そんな気、無え癖によ……」

「じゃが……一つだけ心残りがあるのお」


 ジゲンはフッと笑った。不思議そうな顔でジゲンの顔を覗き込むアヤメ。


「あ? まだ、何かあるのか? 叔父貴も今や、この街ただの住民だ。領主として叶えてやらねえこともねえぞ?」

「そうか……ならば……」


 ジゲンはアヤメに向き直る。会った時とは比べ物にならないくらいに、堂々とした様子のアヤメ。

言いたいことがあるなら、早く言えよと急かすアヤメに、ジゲンはゆっくりと口を開いた。


「そろそろ、お前の夫となる者、そして、姪孫の顔が見てみたいのお」


 ジゲンの言葉に、アヤメは飲みかけていた甘酒を吹き出し、むせかえった。口元を拭い、顔を真っ赤にしたアヤメは、ジゲンに怒鳴る。


「な、き、急に何言ってんだ!」

「急ではないじゃろう。ナズナもシロウといい関係になっておるし……」

「あの二人はともかく、ショウブもまだだろうが!」

「あの子は……良いのじゃ」

「諦めんな!」


 アヤメの慌てるような怒鳴り声に、ジゲンはほっほと笑っている。

 俺とシンキは、急な展開に何も言えず、その場で二人の様子を眺めていた。他人が口を出して良いものでもないしなあと思っている。

 そんな俺達の前で、アヤメとジゲンは更に続ける。


「チッ、百歩譲って、ショウブ達のことは置いておこう。で、なんで、俺が今更、伴侶を作らなきゃいけねえんだ!」

「やはり、跡取りというのは大事じゃからの。代々続いたクレナ家を背負って立つ子供というのは、儂も見ておかねば、兄者に失礼というものじゃ」

「別に良いだろ! 何も領主ってのは世襲制じゃねえんだ! 俺が引退の時はそれ相応の者を選挙でもして決める!」

「い~や、儂の知る限り、儂らの曽祖父の代から、領主は儂らの一族が担っておる。それをこの代で途切らせるわけにはいかんのお……」


 意外と本当に爺臭いことを考えていたんだな、ジゲン。少し意外だ。

ケリスや、貴族たちのこともあったが、ひょっとして、そういった思いもあって、幼いアヤメに領主を続けさせたのかという考えが浮かんで、思わず呆れた。

 自分がかつては好きに生きていたという責任でも感じているのだろうか。次の代の領主は、どうしてもアヤメの子にしたいらしい。

 そうやって、二人が言い争っていると、シンキが思い出したように口を開く。


「あ、そう言えばだが、クレナの領主は、初代からずっとお前らの一族のままだぞ」

「何!? それは真か、シンキ殿」

「ああ。流石に俺も途中は忘れていたが、昨晩、ここの家系図を見ていたら、初代から途切れることなく、お前らの一族が領主だったということが分かった」


 シンキの言葉に、しまった、という顔をするアヤメと、意外そうな顔をするジゲン。

 俺は一つ気がかりなことがあり、シンキに口を開く。


「なんで、お前がコイツの家の家系図を見たんだよ?」

「ん? ちょっとした調べものだ。後で言うが、面白いことが分かったぞ」

「面白いこと? アヤメに言っていたやつか?」

「ああ、そうだ。っと、そんなことより、“刀鬼”、確かにこのままだと、お前の言うように、アヤメの代で、領主一族が途絶えることになるだろうな」


 シンキの言葉に、ジゲンは頷き、唖然とするアヤメに向き直った。


「ほれ、こう言っているのじゃから、アヤメもさっさと結婚せよ。まだ間に合う。お前は黙っていれば美人なのじゃから」

「その言い方は気に食わねえな! 黙ってなければ婿に来ないって言っているみたいじゃねえか!」

「そんなことは無い。お前を好きになる、もの好きもきっと居るはずじゃ。そうじゃの……例えば、ムソウ殿はどうかの?」

「「何でだよ」」


 急に俺の名前が出てきてびっくりした。アヤメと一緒に突っ込み、更に文句を言おうとすると、アヤメはビシッと俺を指さす。


「コイツは、前の世界の嫁一筋だろうが! それに、今はツバキの嬢ちゃんも居る! そんな奴と夫婦になれるか!」

「ちょっと待て、サヤはまだしも、ツバキは――」

「ややこしくなるから黙ってろ!」


 少しだけ嬉しい気持ちになりつつ、今度はアヤメに文句を言おうとしたが、アヤメの怒号に思わず黙ってしまった。

……うん。この場合、俺は余計なことを言わずに黙っておこう。

 ふと、シンキを見ると、どこか意地の悪そうな顔で、ニヤニヤと二人を眺めていた。闘鬼神の奴らが、俺をいじるときにする顔にそっくり……というかまんまだ。


 完全に楽しんでんなあと頭を抱えていると、再びアヤメの怒鳴り声が響く。


「仮にだ! 仮に、俺に求婚してくる男が居ても、俺より弱かったら認めねえからな!」

「ほう……一応その気はあるのか……」

「だから、仮って言ってんだろ!」

「じゃが……そんな男、少ないのではないか? お前は意外と理想が高いのじゃの~」

「それはそれで、好都合だ! さっきも言ったように、次の領主は選挙で決める!」

「むう……お前は兄者たちが継いできた一族の思いを捨てるというのかの? 何とも寂しいものじゃの~……」

「叔父貴がそれを言うか! あ゛~っ! 分かった! 俺よりも後の領主も、うちの家から出したいなら、俺に見合う男か、もしくは養子となるガキを連れてこい! それなら文句は無えだろ!?」


 ジゲンに観念したように、アヤメはそう言って、ぜえぜえと肩で息をする。

 ジゲンは顎に手を置いて、しばらく黙って考え込んだ後、ニコッと笑った。


「ふむ……それならまあ、良いか……」

「何も良くねえよ……」


 アヤメはジゲンの言葉に、頭を抱えて俯く。どうやら、この条件で納得したらしい。

 このままアヤメが伴侶となる男を見つけることが出来なければ、ジゲンがそれにふさわしい男を連れてきて、結婚させ、子を産み、その子に領主を継がせる。

もしくは、アヤメの子、ひいてはクレナ領主にふさわしい力と器量をもった子を養子にして、領主を継がせるということになったようだ。

 ジゲンの気持ちも何となく分からないでもないが、やりたい奴がやれば良いんじゃねえかと、俺は思っている。

子に生まれたからって、親の後を継ぐことも無いのではと思ったが、そういえば、マシロ領主のワイツ卿の娘、シロンも将来は父親のようになりたいと言っていた気がする。

カンナも俺のように強くなりたいとも言っていたし、というか、現になったようだし、ひょっとして、子というのは親に憧れるものなのかも知れないな。

 俺には親が居なかったからよく分からないが、少なくとも、エンヤのように強くなりたいとは思ったことが無いでもない。

 そうやって、親の意志を子供が継ぐというのは、確かに良いことなんだろうなと感じ、がっくりとするアヤメに同情していた。


「む? 何を落ち込んでおる? めでたい話ではないか」

「落ち込んでんじゃねえ……叔父貴に呆れて言葉も出ねえだけだ……」

「なに、心配するでない。サネマサの所に行けば、それなりに強い者も居るじゃろう。中にはお前よりも強い者も居るかも知れんし、養子となる子も居るじゃろうな」

「……駄目だ……聞いて無え……」


 アヤメはすぐに諦めて、更に項垂れる。ジゲンは嬉しそうな顔をして笑い、俺とシンキはただただ、その光景を眺めていた。


 いつの間にかサネマサも巻き込まれて、これから先、事あるごとにアヤメに見合い相手とか押し寄せるんだろうなと思いつつ、“暴れ姫武将”の婿にそう簡単には名乗りを上げる者など居ないだろうなと、俺は心の中で思っていた。


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