第26話―ミニデーモンと遭遇する―
翌朝、目が覚めた俺は昨日のように川に行って魚を獲り、朝飯の用意をした。ミサキがあんなに食うとは思わなかったからな。今日は闘いもあるだろうし、俺も食べたいから多めに作っておこう。そして、完成したのは、昨晩と同じだが、焼き魚、みそ汁、米。やはり、これぞ朝食って感じだな。
火を起こし、米を炊いていると、ミサキが起きてきた。
「おう、ミサキ起きたか。そこに水汲んでるから、顔でも洗っとけ」
「……」
ミサキはぼーっとしていた。目が腫れてんな。寝不足か?
「……おい! ミサキ!」
「……へっ!? な、なに?」
「いや、何って、ぼーっと突っ立ってるからよ。さっさと顔洗えって」
俺が促すと、ミサキはバシャバシャと顔を洗い始めた。そして、いつもの格好になり、焚火の前に座って、また、ぼーっとしている。
「……なんかあったか?」
「……なんでもない」
何でもないなら良いが……。ひょっとして、俺が黙って一人で温泉に浸かったことに気付いて、怒ってるのか? う~ん……俺も大人げなかったかな。帰りは教えてやろう……。
その後、米が炊けて、俺たちは朝飯を食べた。飯を食べると、ミサキは徐々に元気を取り戻していく。腹が減ってただけなのか?まあ、元気になったんなら、いいか。
俺は、何となく、ミサキの頭を撫でる……。すると、ミサキはジロッと俺を見て、
「……なに?」
「いや、なんとなく……」
そんなやり取りをして、俺たちは山へと向けて出立した。
山の入り口まで来ると、何やらわらわらいる。こないだ倒したグレムリンを少し大きくしたような感じだ。そして皆、小さな三つ又の槍のようなものを手にしている。いかにも、「悪魔」って感じだ。
「……おい、ミサキ。あれって……」
俺たちは木陰に隠れて様子をうかがっている。
「うん。あれが、ミニデーモンだよ。こんなにいるなんて……」
ミサキはそう呟いた。見た限りでは50以上いる。ミニデーモンは、何やら話しながら辺りを警戒しているようだ。何かあったのだろうか……。
「これは、多い方なのか?」
「うん。ミニデーモンは10体くらいで一つの集団を形成していることが多いの。こんなにいるなんて、見たことがない」
やはり、何らかの異変は起こっているようだ。
……さて、どうしたものかな。あいつらに話でも聞くか、それとも、そのまま倒すか。……そもそも、ミニデーモンの言葉が分かるのか? ワイアームの時みたいに、話せる奴でも居れば楽なんだがなあと考えていた時だった……。
「ムソウさん! あれ!」
突如、ミサキが叫ぶ。
「馬鹿! 大声出すな! 気づかれたらどうする!」
「違うの! ほら、あれ見て!」
俺はミサキの指さす方向を見た。見ると、ミニデーモンたちが何かと戦い始めた。その相手は素早い動きでミニデーモンたちに近づき、自身の拳や爪、足でミニデーモンたちを倒している。
ミニデーモンたちは魔法を放ったり、口から冷たい息を吐いて攻撃するが、ことごとく躱される。そして、一体、また一体とミニデーモンが倒れていく。
すると、今度は5体ずつくらいに分かれて、ミニデーモンは何か唱える。すると、それぞれの集団の頭上に大きな火の塊が現れる。一つ辺りが小屋ほどの大きさだ。
「……だめ!」
ミサキが飛び出していく。そして、その闘っていた者の前に行き、手をかざす。
「断空障壁!」
ミサキたちの前に半透明の壁が現れた。その直後、ミニデーモンたちは、その大きな火の塊をぶつけていく。ミサキの作り出した壁に当たると、大きな爆発が何度もした。
うお! 熱いなあ。強烈な熱風が俺の方にまで吹いてくる。
全ての攻撃をした後、ミニデーモンたちは、にやりと笑った。勝利を確信したように手にした得物を掲げて喜んでいる。
だが……
「……集団魔法なんて高等な技術、ミニデーモンが使っているなんて初めて見たけど、やっぱり大したことなかったね」
土煙が晴れると、そこには無傷のミサキが居た。ミサキの不敵な笑みに、ミニデーモンたちは呆気に取られ、愕然とする。
「大丈夫なのか!?」
「うん! 後ろの人も問題なーし!!!」
ミサキは笑って、そう言った。
すげえな。あれだけの攻撃を受けて無傷。しかも、魔法で生み出したような結界には傷一つついていない。流石、“魔法帝”と言ったところか……。
「ムソウさん! 私はこのままこの人を守ってるから、あとよろ~!」
“あとよろ”ってなに!? ……なんか、任されたみたいだ。それに、これまでの会話で、ミニデーモンも俺に気付いているようで、何体か、こっちに向かってきている。
俺は茂みから飛び出し、無間を抜いた。ちょうどばらけていたのが何個かに分かれてくれて、助かった。俺はミニデーモンたちに斬波を浴びせていく。
「ギギャッ!」
「邪魔だ!」
冷気を吐こうとするミニデーモンの首を掴み、そのまま地面に叩きつけて、剛掌波を放つ。俺の足元を中心として、地面が爆発し、周りを囲んでいたミニデーモン吹っ飛んでいった。
「あ! ムソウさん! 危ない!」
ミサキの声に振り向くと、後方から先ほどの大きな火の塊が俺に飛んできた。
―すべてをきるもの発動―
火の塊に切れ目が見える。そこを無間で斬ると、火の塊は跡形もなく霧散する。そして、そのまま、撃ってきたミニデーモンを蹴散らした。
なおも、向かってくるミニデーモンたち。正直なところ、ミサキに手伝って欲しいものだが、さっきまでこいつらと戦っていた奴も居るし、無理な話かと思い、更に敵を斬っていく。
「……ふう、だいぶ倒したな」
気が付くと、そこらにはミニデーモンの死骸が転がっている。結構倒したな。そういや戦っている最中にもどこからか来てたからな。
何匹かは逃げていったが、どうも、同じ方向に逃げていった気がする。なんだ? 向こうに何かあるのか?
と、そんなことは後回しにしとこ。
「ミサキ! 大丈夫だったか」
俺はミサキの居る方に駆け寄る。
「うん! 私たちにはあまり、被害はないんだけど、途中からこの人、気絶しちゃって……よほど長い間、闘っていたんだね……」
ミサキは俺に、先ほどまでミニデーモンたちと闘っていた奴を見せてくる。
全身、ミニデーモンの返り血だらけだな……。と、あることに気付いた。尻尾がある。人間じゃないのか? 頭の上に耳があるなあ。
俺はそいつを仰向けにしてみた。胸があるなあ。女か……。
というか、こいつは……
「ん!? あれ? ……ハクビか!」
そう、そいつはハクビだった。いつものように、ハクビは真っ白な体毛を真っ赤に染めて、気絶している。
まさか、ここで会うなんてな……。
でも、一体何があったんだろうか。ひとまず……
「ミサキ、こいつハクビだ」
「ハクビさんって、最初に行った二人の救援に行った人?」
「そうだ。とりあえず、こいつが起きるのを待ちたいが、その前に、体を洗って、傷を癒していてくれないか?」
俺はそう言いながら、回復薬と活力薬、そして、気力回復薬を異界の袋から出した。
「うん、わかった。ムソウさんは?」
「俺がここにいるわけにもいけないだろ。その辺で、警戒をしておく」
ミサキは、わかったーと頷いて、作業に入った。
俺は、近くにあった木に登って辺りを見渡す。ここからなら魔物が近づいても対処が出来そうだ。
◇◇◇
「さてと……」
私はムソウさんに言われたように、まずハクビさんの体を洗い流す。血まみれだなあ。どれだけ闘っていたんだろう。
「水泡」
私は手から泡水を出しながら、ハクビさんの体を綺麗にしていく。
最初は顔の方を中心に洗った。血が取れていくとハクビさんの顔がよく見える。
……綺麗な人だな~。大人の女って感じ。強そうで、でも寝顔は落ち着いてて、すごく綺麗だ。うわ、髪サラサラ。銀髪ってことは、白餓狼とか、白狐かな……。
次に、胸やお腹の辺りを洗う。むう……大きいな……。さらしをしているけど、それだけはわかるくらいだ。私のよりも、すごく。どうしたらここまで大きくなるんだろう……。あ、こんなところにも白い毛が生えている。後でちゃんと乾かそっと。
そして、最後に足と腕を洗った。……足ほっそ!あれだけ動いていたのに、筋肉とかどうなってんの!? うわあ、細身でおっきいとか、私の世界でいうところのモデルさんだよ~。おまけに獣人だなんて。すっごく、羨ましい~~~!
……いけない、いけない。何考えてんの私。
さてと一通り洗い終えたかな。後は石鹸を流すだけ……
「水流(微)」
手から今度は普通の水が流れる。私はハクビさんの体をそれで洗い流した。うぅ~……私はコイン洗車かっていうの! しかも、なんかいやらしいお店みたいでなんかやだ~。
……まあいいや。仕方ない……。
「熱風(微)」
次に、濡れたハクビさんの体を乾かしていく。毛が多いから大変だな……。
うわ、乾かしたらすごくフカフカだ~。私はハクビさんのしっぽに抱き着いて、しばらくモフモフしていた。
「う、うん?」
すると、ハクビさんが目を覚ましたみたいだ。
「な!? 何をしている!? 離れろ! ……うっ!」
ハクビさんは私を引きはがそうとするが、怪我の影響か思うように動けないみたいだ。
「あ、ごめん。……まだ動いちゃだめだよ。待っててね」
私はムソウさんから貰った薬を飲ませた。体のあちこちにあった怪我や傷がみるみる回復していく。確か、上級の(大)の回復薬だったよね。なら、すぐに治るか。内臓の方も、傷ついてるみたいだけど、これくらいなら大丈夫よね……。
こんな時にジェシカさんが居たら、どうすれば良いか分かるんだけど……。でも、薬を飲ませたら、ハクビさんはみるみる元気になっていく。予想外の怪我とかはしていないようだと安心した。
「お、お前は?」
ハクビさんは、少し動揺しながら、私の顔を見る。あ……そうか。この状況なら、私のことを不審に思うよね。
私は、腕輪の魔道具を起動させて、ハクビさんに見せた。
「私は“魔法帝”ミサキ・サトウ。ムソウさんと一緒にあなたたちを助けに来たの!」
「十二星天か! しかも、ムソウと一緒に!?」
私が自己紹介すると、ハクビさんは驚いている。……そりゃ、驚くか。最近、ムソウさんの所為で、自分が十二星天の凄い人って設定、忘れそうになる。しっかりしないとなあ、と思って、胸を張っていると、ハクビさんは、自分の体が綺麗になっていることに気付いたみたい。
「これは……あんたが……?」
「そうだよ~。もうちょっと待っててね」
私は、ハクビさんのしっぽを撫でていく。うはあ~フカフカだ~。
「ひぅっ!? な、なにをする!?」
「マッサージだよ~。疲れてるでしょ?」
「い、いや、それは……そうなんだが、……ちょ、もうやめろって!」
「うはあああぁぁぁ~気持ちいい~」
「そ、それは、私の言うべき言葉だろ! な、なんであんたが……!」
私はもう、ただただ、ハクビさんのしっぽに夢中になっていた。
すると……
「何やってんだ、お前ら……」
振り返ると、ムソウさんが居た。ハクビさんが起きたことに気付いて戻ってきたみたい。
むう、もう少しだけ楽しみたかったのに……。




