第266話―皆が帰ってくる―
その後、日が傾き始めて、庭の方からガヤガヤと皆が帰ってきた声が聞こえてくる。たまが、アザミ達に今日はどこに行ったのだとか、何をしたのかだとか話す声が聞こえてきて、ジゲンとサネマサも帰ったことを確認した。
「お、皆帰って来たみたいだな」
「……だな」
「じゃあ……行くか?」
いよいよ、シンキが皆に秘密を明かす時がやってきた。シンキは大きく深呼吸して、頷く。
「ああ……行こう」
そして、俺はシンキを連れて庭へと向かった。見ると、闘鬼神を連れたレオパルドやトウガ達神獣も帰ってきている。コモン、ジェシカ、サネマサは何か話しているようだった。
「よお、皆、おかえり」
「あ、ムソウ様、ただいま戻りまし――」
俺が声をかけると、一番にツバキがこちらに顔を向ける。それと同時に、横に居るシンキを見て、目を見開いた。
「なっ……!」
「えっ……!」
ツバキに続いて、コモン、サネマサの二人も、シンキを目にして、絶句し、直後に身構える。
「何でテメエがここに居るんだ!」
「答えようによっては――」
そのまま刀を抜くサネマサと、異界の袋から、大きな槌を取り出すコモン。前の闘いの時に見たな。ジゲンに粉々にされたものに変わる新たな武器らしい。
二人は、シンキの姿を見て臨戦態勢を取ろうとする。半ば、予想が出来ていたため、俺は冷静に二人を制した。
―死神の鬼迫―
「「ゔ……!?」」
「いきなり、事を荒立てんな。コモン、前にも言っただろ? コイツは俺には無害だ……二人とも、武器を収めろ……」
俺の言葉に、二人はどうするか悩んでいたようだが、更に殺気を強めると、渋々と言った感じに頷き、武器を収めた。
「分かってくれれば、良いんだ。
……さて、シンジ。向こうに大部屋がある。飯の準備が整うまでに、ケリをつけろ」
「あ、ああ……分かった」
「コモン、サネマサ、ジェシカ、これから、シンジからお前らに少し話がある。黙ってコイツの話を聞け。良いな?」
俺の言葉に、三人は顔を見合わせて首を傾げる。
「今更……コイツが俺達に何の用だ?」
ぶっきらぼうな態度でサネマサはそう言ってきた。コイツとは話すことなんて、無いと言った態度だな。
コイツ等の関係を修復するのは、だからこそ難しいんだなと、改めてミサキに同情した。俺はため息をつき、サネマサを見る。
「お前らにとって大切な事だ。良いから言うことを聞け。ここは俺の屋敷だ。俺の指示には従ってもらう。
……爺さん、レオ、カドル、それにトウガ、トウウ、トウケン、お前らも同席しろ」
一応と思い、事情を知っている者達にそう言うと、ジゲンはやれやれと肩を上げる。
「ふむ……帰って来たばかりだというのに、忙しないのお……」
「サネマサが暴れねえようにするにはお前が適任だろう?」
「やれやれ……承知した、ムソウ殿、シンジ殿」
ジゲンはそう言って、カドルと共にサネマサを諫め始める。
そして、何とか話を聞くと頷いたサネマサと、ジェシカ、コモンはジゲンに連れられて屋敷の大広間に向かった。
すると、レオパルドがシンキの前に立って、ジトっとした目を向ける。
「……俺は全部聞いたが、納得してねえこともある。全部きっちり、アンタの口から説明してもらうからな」
「……ああ、分かったよ」
フンっと、鼻息を吹きながら、ドカドカと大広間に向かうレオパルド。それを見たトウガ達はやれやれと言って、シンキをジッと見た。
「……久しいな、シンキ。ああは言っているが、レオは良い奴だ。それは分かってくれよ」
「分かってる。全部、俺が悪いんだよな……」
「それはまあ、後で決めよう。俺達も助け船出すから、全部話すんだぞ」
「ああ……助かる」
「シャキッとしろよ、鬼族の大将がよ。ちなみに、少し手短に頼むぜ。早く終わらせて皆を手伝わねえといけねえからな」
「ん? あ、ああ……分かった……?」
トウケンの言葉には、少し首を傾げながらも、頷くシンキ。
神獣達は流石、カドルと同じく、実際にシンキと共に闘ったことがある者達というだけあって、会えなかった時間を感じることなく、気さくに話しているようだ。
これなら大丈夫かと思い、安心していた。
すると、シンキは何か思い出したことがあるように、あ、と言って俺達の方に視線を移す。
「そうだ……そこの騎士、お前もついて来い」
「え……私ですか?」
ツバキは自分を指しながら、キョトンとする。俺も何故ツバキが呼ばれたのか理解できなかった。
「なんで、ツバキも同席しないといけないんだ?」
「それは……まあ、後で話す。良いからついて来てくれ」
ツバキはどうしたものかと悩んでいたが、ツバキも、十二星天内の事情は知っているし、俺とシンキの関係についても、不思議がっていたし、ミサキやここに居る十二星天の者達とは知らない関係でも無いからな。
特に問題はないと言うと、ツバキはシンキに頷いた。
「かしこまりました。では、ムソウ様、また後ほど……」
「ああ。サネマサが暴れねえように気をつけろよ」
ツバキはニコッと微笑み、シンキ達の後についていった。
「さてと……取りあえずお前らはいつも通り風呂に入るなり、飯の支度でもしながら時間潰しとけ。俺も、今日はアザミたちの手伝いをしようか」
ぽかんとした表情を浮かべているダイアン達にそう言うと、我に返ったように口を開く。
「了解っす……けど、俺らは良いんすか?」
「お前らにも、いずれ話すつもりだ。安心しろ」
そう言われても、という顔になる冒険者達。あまり人数が多いと話が進みそうにないからな。いったんコモン達だけを優先させた方が良いと思っている。
「まあ、良いや。で、ジロウ達があっちに居る間、俺達はどうしようか?」
ダイアン達に比べて、物分かりが良い牙の旅団は、他の者達を諫めながら前に出てくる。一応、コイツ等は客人という扱いだが、俺の屋敷に居る以上は、俺が指示を出しても良いかと思い、皆の方を向いて指示を出した。
「いつも通りで構わない。風呂入ったり、飯の準備をしておこう。今日はシンジも居るからな。さっさと始めるぞ」
「「「「「は~い!」」」」」
「「「「「う~っす!」」」」」
俺の指示に、皆は元気よく返事する。一際、声が大きいのは、たまとリンネだ。二人に負けないようにしようと思いながら、俺は炊事場へと向かった。
一通り、酒と少々のおかずは用意してあるので、これから作るのは主食となるものだ。いつものように、何かデカい肉を焼いたり、魚の刺身でもするのかと思っていると、炊事場にある大台の上に、女中たちが四人がかりで大きな肉の塊を置いた。どうやら、今日もこの肉塊を焼くらしい。
しかし、俺にとっては見覚えのない肉だ。ここまで大きいのは初めてだなと思う。
「この肉は何の肉だ?」
「九頭龍のお肉です。宰相様がおいでですからね。今日は奮発しましょう!」
女中はニコリと笑った。なるほど……九頭龍か。
だが、確か九頭龍の肉は、様々な魔物の死骸を集めたものだ。食っても大丈夫なのかと尋ねると、問題なさそうですという、曖昧な答えが返ってきた。
少し不安になった俺は、少しだけ剥がしたものを食べてみた。
……意外と美味いな。魔龍だから、ワイバーンのように筋っぽいのかと思ったが、かなり柔らかい。それに臭みなども無いようだ。
最終的には、俺が浄化したからかな、と思い、これを料理することに決めた。
「じゃあ、たま、この肉は任せた。俺はまた、汁物でも作っておくよ」
「は~い! じゃあ、皆、がんばろ~!」
「「「は~い!」」」
たまの掛け声の下、その肉が切り分けられていき、それぞれで焼き始める。
俺も少し貰って、リンネと一緒に、野菜などを切っていった。
「手、切るなよ」
「だいじょーぶ! まいにち、やってるから!」
リンネはニコッと笑いながら、包丁を使っていく。なかなか、良い手つきだなと感心しながら、俺も野菜を切っていった。
そして、切ったものを大鍋に入れて、ぐつぐつと煮込んでいると、シンキ達の方から声が聞こえてくる。主に、サネマサの怒鳴る声だ。それを諫めるカドルや、ジゲン達の声。
やはり、そう簡単には信じられないか。だが、先に話しておいたレオパルドはともかく、コモンとジェシカの声は聞こえてこない。ああいう態度をとっていても、案外信じてくれるものなのかと思っていると、突然、そちらから強い気配を感じた。
リンネも何か感じたようで、頭の上の耳をぴょこっと立てる。そして、炊事場が少々慌ただしくなった。
「何……この感じ……」
「ねえ、頭領……これって……」
「こ、怖いです……」
中には体をさすったりしあう者達も居る。
恐らくだが、話をなかなか信じないサネマサ達に、シンキが鬼の姿を見せたのだろう。その所為か、先ほどまで聞こえていた喧騒が静まっている気がする。
しかし、その後もシンキからの強い気配は途切れることは無い。どうやら、そのまま話を続けるようだ。
冒険者達はともかく、女中たちはこういうことには慣れていない。未だに顔を引きつらせていたり、泣きそうな顔になっている者もいる。
仕方ないなと思い、俺はシンキ達の居る広間に向けて死神の鬼迫を放った。
しばらくすると、強い気配は収まっていく。こちらの意図が伝わったらしい……って、妙だな……。
「……あ? 向こうの方の気配が多いな……リンネ、広間には今、誰が居る?」
シンキの気配が大きすぎて気が付かなかったが、広間に居る奴らの人数が多いと感じた。リンネは、鼻をすんすんと鳴らして、こちらを振り向く。
「んーとね、シンキおにいちゃんと、サネマサおにいちゃんと、ジェシカおねえちゃんと……」
「あ~、そいつらは良いや。さっきよりも増えているかどうか聞きたいんだが?」
「うん! あと、ダイアンおにいちゃんたちも、みんないる!」
なるほど……やはり皆、気になって広間に集まったか。まあ、あれだけ強い波動を感じたら、気になるよな。
どうしたものかと思ったが、ここまで来たら、もう良いかと思い、気にせず調理を進めていく。
シンキの強い気配が収まって、女中達も安堵した表情になりつつ、何だったのかしらとか、言いながら料理を再開させていった。
さて、俺の料理はどうなっただろうかと思い、蓋を開けてみると、まだ肉が固く感じた。もう少し煮込むかと思い、火炎生姜を少し混ぜて更に煮込んでいく。蓋の隙間から、生姜と野菜が溶け合ったいい匂いがしてきて食欲をそそる。リンネは尻尾を振りながら、チラチラとこちらを見るようになった。
「危ないから、包丁持ってる間は目を背けるな」
「は~い」
リンネは元気よく返事して、更に肉を切り分けていく。俺も隣で野菜を切っていった。俺達が切り分けたものは、そのまま女中達やエンミとシズネが炒めていく。こちらも香辛料を使っており、何ともいい匂いが炊事場を包んでいく。
いい匂いに当てられて、ぼーっとしていると、たまが腰の辺りを叩いてくる。
「おじちゃんも、ぼーっとしちゃ、だめだよ~」
「あ……すまねえ」
「えへへ、おししょーさまも、おこられてる~!」
「むう……こりゃあ、まいったな……」
二人の女の子に注意されて、恥ずかしくなり頭を掻いていると、女中達からどっと笑い声が起こる。
「頭領も、二人にはたじたじですね~!」
「二人とも、頭領がケガをしないようにちゃんと見ててね~」
「「は~い!」」
女中たちの言葉に、たまとリンネは元気よく返事をして、再びニコニコと俺の手元を見てきた。そうされるとやりづらいんだがなあと思いながらも、俺は野菜を切っていく。
そして、炒め物の分はもう良いということになったので、食後に食べる果物や木の実の皮をむき始めていると、今度はアザミが俺に話しかけてくる。
「それにしてもお上手ですね。前々から聞こうと思っていたのですが、どこかで料理をされていたのですか?」
「ん? そうだな……ちなみに、お前らって、俺が「迷い人」だって分かってるんだよな?」
「ええ、もちろんです」
ケリスとの闘いの後か、その前か分からないが、既に屋敷内の人間は、俺が違う世界から来た迷い人だということを知ったようだ。経緯は分からないが、俺が寝ている間に、ジゲンやツバキが話したそうだ。
まあ、得体の知れない奴が、自分達の頭領となると、不安にもなるよな、と皆の意見には納得した。
ちなみに、牙の旅団も知っている。というか、最初に会った時も、俺のことをそんな感じに呼んでいた気がする。
聞けば、九頭龍にされそうになった時、僅かに魂の拘束が緩み、誰かに助けを求めようとした時に居たのが、俺だったらしい。気配から、かつてのジゲンに匹敵するか、それ以上の力を感じ、思わず鑑定スキルで視たということだった。
まあ、勝手に視られたからと言って、特に何をするわけでも無いので、放っておいている。
そして、このことを知っているのなら話は早いと、俺はアザミ達に顔を向けた。
「なら、話は早い。……俺にも、昔は妻も子供も居たからな。これくらいはやっていたよ」
サヤが、家の仕事でドタバタしている時などは、俺とエイシンで飯を作っていたなあと思い出していると、アザミを始めとした、その場に居る者達全員が手を止めて、こちらを見てきた。
「え!? 頭領、ご結婚されていたのですか!?」
皆は、俺に妻と息子が居たことに驚いているらしい。人を何だと思っているのだろうか……。
やれやれと、思っていると、皆から矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
「奥さんはどんな人ですか!?」
「息子さんは!?」
「どちらから、求婚されたのですか!?」
「いつ結婚したの!?」
などと、皆手を止めて俺を食い入るように俺を見てくる。気づけば、シズネもエンミも、たままでもが、俺に興味を示していることに気付く。
さて、何から話してやろうかと頭を掻いていると、突然、リンネが皆の前に立ち、両手を広げる。
「だめ~!」
リンネの言葉に、皆は言葉を止めて、キョトンとした。俺もリンネの行動に驚いていると、アザミが、リンネに不思議そうな顔を向ける。
「駄目って……何が駄目なの?」
「おししょーさまに、そのはなしはだめなの!」
「だから、どうして?」
「とにかく、だめなの! おししょーさまがかなしむからだめなの!」
リンネは必死に皆に訴えかけている。皆、リンネと俺の顔を交互に見ながら、少しばかり気まずそうな表情になっていった。
……ああ、マシロでのことを思い出してくれているのか。どうしたものかと思ったが、このままだと、本当に気まずいままな気がするので、俺はリンネの頭を優しく撫でた。
「……リンネ、ありがとう。だが、もう良い」
そう言うと、リンネは俺の顔をジッと見てくる。
「でも……」
「居なくなった人間を思って、落ち込むよりも、アイツらの話をして盛り上がる方が良いって、最近知ったからな。俺も、これからはそうやっていこうと思っている。
それに、サヤとカンナも俺の知らない所で色々あったみたいだからな。だから、もう良いんだ」
リンネは少し困ったような顔をする。サヤとカンナが死んだってことは知っていても、この世界に来たということは知らないからな。不思議に思うのは当然だろう。
これまで、俺は昔のことはあまり話したくなかった。辛くなるだけだからな。
だが、コウカの話を聞いて、サヤとカンナにもまた巡り合えるという可能性があることを知って、もう、過去のことを思い返しながら、あの時のことを悔やむのは、辞めた。
これからは、未来のことに目を向けねばと思っている。だからこそ、サヤとカンナが、いかに俺にとって大切な人間なのかを皆にも、聞かせたいと思うようになっていた。
「……俺はもう、辛くないんだ。だから、俺の為に怒らなくても良い。そもそも俺は怒っていないのだからな」
「……うん」
コクっと頷くリンネの頭を撫でて、俺は野菜を切りながら、皆に家族のことを話した。
向こうで、シンキからも皆に話していることだから丁度いいかと思い、俺の家族を知ろうとするアザミたちに、サヤとカンナのことを聞かせる。
皆は黙って俺の話に耳を傾けていた。先ほどまでのように、もう少し明るい様子で聞いてくれても良いんだがなあと思いながら、俺の話は、サヤと出会った時を語るようになる。
「……まあ、初めてアイツを見たときは、死んでるのか生きてるのか分からない状態だったがな。傷を治させたら、今まで気絶していたとは思えないくらいに……って、何だ?」
ふと、リンネの行動に、少しだけ気まずくなった炊事場の空気が、元に戻ったような感覚になった。というのも、女中たちがそれぞれ近くの者達とひそひそと何か話しているのが目に入る。
「何だよ?」
「いえ……頭領、お優しいなと思いまして」
「すごく……意外です……」
む……少しばかり傷つくな。ただまあ、この頃の俺は、自分で言うのもおかしいが、悪ガキそのものだったからな。よくもまあ、あの時、サヤに興味を示したものだと未だに思っている。
そんなに、アイツのことが気になっていたのかと、少し、過去の自分に呆れた。
……だがまあ、そのおかげで、結果的に俺達は夫婦になったんだがな。
サヤが酔っぱらって俺と夫婦になろうと言った時の話、そこから俺の方から祝言を挙げようと言った話をすると、アザミたちは手を叩いて喜んだ。
「まあ! では、頭領の方から求婚を!? 頭領もその頃は思い切りが良かったのですね~」
「その頃は、って何だよ……? それに……この場合は、俺の方から求婚したことになるのか?」
「ええ。何せ、奥方様は酔っていたようですからね。何も覚えていないのでしたら、頭領からということになります」
「そんなもんか……まあ、あの時はどことなく、サヤも俺のことが好きなんだなって分かったから安心しただけかも知れんがな……」
「それでも良い方よ。ちゃんと思い人に好きって言っても、相手にされない女だっているんだから……」
エンミがシズネを指しながらそう言うと、女中たちは一斉に頷いた。シズネは目を見開き、口をパクパクとさせてから、ガクッと項垂れる。
「はぁ……ジロウも頭領さんを見習って欲しいものだわ……」
などと言っているシズネの肩をエンミがポンポンと叩いていた。
ジゲンの場合は、どうだろうなあ。両想いなら、そのままジゲンの方も答えそうなものなのだが……。
まあ、本人が言っていたように、その気持ちに気付いたのは、ずいぶん後のこと。俺は早めに知れて良かったと、シズネを見ながら、そう思った。
そして、祝言を挙げて、サヤとの間にカンナをもうけて、幸せな生活をしていったというところで、話を区切った。
最後までいくと流石に空気がまた悪くなりそうだし、そうは言っても、俺の方も喋るのは辛いからな。シンキが今している話を後で聞かせるということにして、サヤとカンナの話を終えると、なるほど、という表情を浮かべる女中達。
「はあ……それで、頭領は料理も出来ますし、子供の遊びなども得意なのですね」
「でも、おうちをつくるのはへたっぴだよね~!」
「む……それを言われるとな……全部従者のエイシンに任せていた」
「頭領の付き人か……大変そうですね」
たまの頭を撫でていると、アザミがそんなことを呟き、他の者達は頷いた。ここでも、エイシンに同情する奴らが多いということに驚く。
流石にここまで来ると、本当に苦労を掛けていたんだなと実感し、アイツの魂に会ったら次こそは本気で優しくしてやろうと思い始める俺だった。
「それにしても、サヤさんかあ……どんな人だったんだろ」
やはり、話だけでは伝わらないのか、サヤの見た目がどんなものだったかを気にする女中達。この話をすると皆、気にするよなあ……仕方ない……。
「リンネ、サヤに化けてやれ」
前と同じ方法で、サヤの姿を見せてやろうと思った。しかし、リンネは先ほどと同じく、心配そうな顔になって、俺の顔を見上げる。
「……いいの?」
「ああ、うん……お前の言いたいことは分かる。だから、今日は、俺は見ない。俺の背中越しでやっててくれ」
そのまま、リンネに背を向けて、俺は作っていた汁物の様子を確かめる。
しばらくすると、背後からボフンと、リンネが変化する音が聞こえて、皆の息を呑む音が聞こえる。ちらっとたまやシズネたちを見ると、一様に目を見開いて、一点を見つめている。
俺のすぐ後ろには、サヤの姿に化けたリンネが居るのか……。やはり、今振り返ると泣きそうだと思いながら、振り返りたい気持ちをぐっとこらえた。
―サヤ……カンナ……お前らは今……どこに居るんだ? ……俺は……ここに居るよ……―
「……綺麗」
静まり返る皆の方から聞こえてきた、サヤの感想は、それだけだった。
……それだけで、満足だ。皆も、サヤのことをそう思ってくれるのだったら、俺に言うことは何もない。
本当に、皆に家族のことを話して良かったと思う俺だった。




