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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
266/534

第265話―ケリス邸の調査結果を聞く―

 ケリスの王都での邸宅は、シンキの号令の下、比較的に素早く執り行われた。普通、貴族の屋敷に騎士団が入って中を調べるということをする場合は、よほど確信的な証拠でも出ない限り、まず行われない。

 しかし、この街に来て現状を知った人界の宰相であるシンキの号令は、それらの手続きを全てすっ飛ばし、異例の速度感を以って行われたようだ。


 表向きは普通の貴族の家と何ら変わっていなかったという。数人の従者とケリスがクレナから連れてきた側室、人足代わりの奴隷たちが居ただけで、特に目立った点は無かったらしい。


 そもそも、ケリスの本拠はこちらに構えている。王都の屋敷は別荘のようなものという認識の方が強いのかも知れない。

 しかし、捜索を始めて十日ばかり過ぎた頃、一人の騎士が、ケリスの屋敷にあった、隠し部屋に気付いた。


「隠し部屋?」

「ああ。まあ、これも貴族の家にはよくあるんだが、有事の際の避難通路だったり、隔離部屋だったりに使われる。だが、ケリスの屋敷の場合、そうではなかった」


 シンキは何枚かの書類の束を俺に渡してきた。そこには何やら洞窟のような壁をした部屋で無数に本が並んでいる様子が描かれた絵が貼られている。

 やけに精巧な絵だなあと思っていると、シンキ曰く、それは「写真」というもので、ミサキやセインの世界にあったもので、絵とは少し違うが、ほとんど実際のものと遜色なく描くことが出来るという便利なものらしい。


 資料には、そのケリスの隠し部屋の写真が何枚か貼られており、無数に並べられた本棚の他、何か実験を行うような器具だったり、怪しげな魔道具のようなものだったりが置かれていることが分かった。

 目を引いたのは、巨大な壁画と、その下に置かれている碑文のようなものだ。

 壁画は、中央に、何か巨大な人間が鎮座し、そこから何人かの人間が整列していて、更に手前に多くの者達や、異形の魔物のようなものが描かれている。まるで中央の人物と、整列している者達を崇拝しているような、そんな印象を持つ絵だった。


「これは?」

「正直に言ってよく分からないが、恐らく邪神族の王と、臣下たち、それと邪神族についた神兵や神将、更に魔物たちを描いたものだろうな。

 俺も並んでいる奴らには見覚えが無い奴が多いが、邪神族の王だけははっきりと覚えている。確か、こんな感じだった気がする……」


 なるほど……つまりこれは、100年戦争ではなく、邪神大戦を邪神族側から見たときの様子というわけか。これがここにあるということは、ケリスもこの世界の歴史について知っていたと判断した方が良いだろう。

 真ん中のコイツが、邪神族の王、つまり、ケアル達に反旗を翻した奴ってことか。どういった者かは分からないが、他の者達よりも抜きんでて大きな体格で、巨大な矛を手にし、背中には六枚の羽を生やしている。

 神族たちによって作られた亜空間から、今もこちらを攻める気を伺っているのだろうか……。

 ちなみに、このことは捜索した騎士団には伏せているとのこと。俺は今、王都の上層部でさえ知り得ないことをシンキから聞かされている。

 若干の不安が残るが、話を聞いていくことにした。


「それで、この碑文みたいなものは?」

「これは、あの時代、使われていた文字だな。それも神族が使っていたやつだ。

 正直、これの解読に時間がかかった。俺は言語理解のスキルを持っていないし、あの時使っていた文字なんて、忘れちまっていたからな……ちなみに、読めるか?」


 そう言われて、碑文の写真をよく見てみた。


「すり減ってるところが多いが……いけそうだな」

「やはり便利だな……一応、確認の為聞くが、何て書いてあるんだ?」


 シンキは、解読結果を俺に確認してきた。俺は読める所だけ抜粋して、碑文に書いてあることを読み上げる。


 我、ゴウン家始祖、ランドウ・ゴウン。

 我が崇高なる神が再び、大地に顕現されることを願い、この碑文を末代まで残す……


 ……という文言から始まり、そこからはこの世界の真実の歴史に沿って、この碑文を記したランドウという男の目線から邪神大戦のことについて書かれていた。

 正直な話、ほとんどが、神族や、鬼族、それに人族への罵詈雑言と、コイツの主である、「神帝」という者と、コイツ直属の上司なのか、師なのか分からないが、もう一人の男に対しての崇拝の言葉が記されてあった。

 暇人だなあと感じながらも、読み進めていく。シンキは一つ一つ確認するように、頷きながら聞いていた。どうやら、解読結果と合っているらしいな。


 その後、歴史の話が終わると、ランドウがどのようにして、子孫を残したのかが書かれていた。

 邪神大戦の戦況が、人族達に傾きだした頃、多くの邪神族が子を成すため、人族を襲ったらしい。

 そして、生まれてきた自分たちの力を継ぐ子供に後のことを託し、自分たちは封印されたという。

 何故、封印される道を選んだか……単純に三種族に肉体ごと滅ぼされるよりはマシと考えた為である。

 ランドウ達は、当時生きていたエンヤ達に対抗するには、それしかないと考えていたらしい。

 三種族の連合軍の主な戦力は人族である。しかし、その寿命は短い。自分たちはゆっくりと、そいつらが死ぬのを待ち、改めて力を蓄えて、次の大戦に備えると言うところで、碑文は終わっていた。


「……内容は合っていたか?」

「ああ、問題ない……しかし……」

「だな。これが本当なら、ゴウン家以外にも、邪神族の末裔が居るってことになるな……気付いていたか?」

「いや……そもそも、邪神族の考え方が、他種族の蔑視だったからな。自分たちよりも弱い種族を認めなかった奴らだ。そんな奴らが、人族を襲ったなんて考え付きもしなかった」


 シンキは苦々し気に語った。ただ、それほど必死だったのだろうとも考えられる。いつの頃か、魔物たちも、種を残すために、他の生物と交配していったとエンヤも言っていたしな。

 それならば、人族の中にも名乗り出る者達が居そうなものだが、そいつらも何か事情があったか、もしくは邪神族を崇拝する者達だったのかも知れない。

 なんにせよ、ケリスのように数千年もの間、その血筋を脈々と継いできた奴らの執念深さに思わず脱帽するな。


「で、問題はケリス以外の邪神族の末裔だが、これに関しては一つだけ手掛かりになりそうなものを見つけた」


 そう言って、シンキはまた新たな資料を取り出した。受け取ってみてみると、同じくケリスの隠し部屋の写真が貼られていて、そこには何か祭壇のようなものが描かれていた。

 供物を置くような台に、水晶のようなものが置かれている。そして、崇拝の対象だろうか、壁に付けられているものをみて、俺は目を見開く。


「コイツは……」

「ああ。この紋章は、お前も見覚えがあるものなんだろ?」


 そこに写し出されていたのは、マシロでミサキと共に倒した、ミリアンという貴族が所属していたと思われる、怪しげな組織、「転界教」の紋章だった。

 世界地図を上下反対にさせて、そこに大きく×を打ち付けたものだ。

 呪いといい、強力な魔道具といい、何か関連があるものかと思っていたが、ケリスもやはり、ミリアンの仲間だったということが判明した。


「この部屋には、これ以外にも、ケリスがこれまでクレナで行ってきたことや、これからしようとしていたことなどが書かれた計画書のようなものが出てきた。内容は、お前が語ったものとほぼ同じだ。

 九頭龍、スケルトン、デーモンロードの軍勢を率いて、クレナを掌握した後は、近隣に、そして、最終的には王都にまで攻め入るつもりだったらしい。その頃には、他の転界教の奴らも地上に出て、共闘するような旨のことが書かれていた」

「てことは、大地に残った邪神族の末裔が集まって作られたものが、転界教ってことか?」

「俺はそう考えている。つまりは、ミリアンも邪神族の末裔だったってわけだな。

 ミリアンの家の捜索も目下進められている……まあ、あの男が倒された時点で、他の転界教の者達が証拠を隠したって可能性が高いがな……」


 なるほど。ミリアンがリッチになれたのはそういったところも影響しているのかも知れないな。ミサキ曰く、人族がリッチになるには、膨大な魔力が必要だとか。元々の資質に加えて、転界教の魔道具を使い、それも果たされたのかも知れない。

 そういえば、ミリアンの家からは特に気になるものは出なかったんだよな。

 自分のことを隠すのが上手かったのか、大事なものはより強固な守りとなっている王都にある別邸に置いていたのか定かではないが、シンキの言うように、俺がミリアンを倒した時点で、他の転界教に属する者が、これらの証拠のようなものを消した可能性は高いな。


「だが、そうなるとほとんど手詰まりなんじゃないか?」


 転界教に属していた者のうち、残っていたミリアンの家からは何か出る可能性が低い。そうなると、これ以上何も分からないのではないかと思ったが、シンキは首を横に振る。


「いや、そうでもねえよ。ケリスのその部屋は、奴が転界教として活動するための部屋だったみたいでな。そこには魔道具などを、転界教の本部とみられる場所から取り寄せた際の手記だったり、他の奴らと、何か連絡を取り合っていた時の記録のようなものが残されていた。

 その中に、一人気になる人間が居てなあ……」


 シンキは別の書類を取り出した。それは、いつ、自分が何をしたのか、とか、誰に何を送ったのかとか事細かに記録されているものだった。

 意外と几帳面な男だったのか、誰かに報告するためのものなのか、定かではないが、荷物の送り先の箇所は、ほとんど黒く塗りつぶされている。かろうじて、ミリアンの名前があるのは分かった。

 恐らく、ミリアンが倒された時に、他の者達の正体がバレないようにしたのだろう。しかし、これだと、何も分からないよな、と思っていると、一つの文章が目に入った。


 〇月×日

 マシロ領、貴族デイヴ・ミリアン卿宛

 憤怒の魔水晶、爆散斧、魔道具「反射結界」、腐尽剣、魂操杖、他魔物の素材

 配達人 商人ギルド所属商人 グレン

 後日、配達完了通知承認


 それは、マシロのミリアンに何かを送ったという内容のものだった。爆散斧は見覚えがあるな。俺が斬った、カリヴって奴が持っていたものだ。

 他にも、腐尽剣はリンスの相手が持っていたと聞いたことがあるな。

 なるほど、ミリアンが持っていた魔道具はケリスが送ったのか。ちゃっかり、グレンの名もある。少し、アイツのことが心配になったが、それ以上のことは書いていない。恐らく大丈夫だろうと思い、更に読み進める。


 すると、また、気になる文章が目に入った。


 〇月×日

 マシロ領でミリアンを倒した、最重要危険人物、冒険者ムソウが、従者を連れてクレナに入る。

 目標完遂の為、接触を避ける


 げ、俺のことまで書かれている。それも、最重要危険人物と思っていたようだ。道理で、しばらくケリスに会うことが無かったわけだな。

 てことは、女装した俺を探しにギルドに来た際に、俺と会ったというのは、予想外だったのだろうな。それで、そこからは会わなかったのか……。

 などと思いながら、更に読み進めていく。……俺が知らない間に、色々とやっていたんだな。俺がクレナに来た時からは、主に俺の動向が多いようだが、他にも花街の妓女を連れて、側室に迎えただの、誰が子を孕んだかだの、事細かに書かれていた。

 無論、俺がダイアン達を屋敷に連れて行き、闘鬼神を編成したことなども書かれている。これは、他の転界教の者達にも、俺のことは知れ渡っていると考えた方が良いのだろうか……。


 救いだったのは、ジゲンについては何も知らなかったようで、何も記載されていない。もし知っていたなら、俺の留守を狙って、ジゲンやたまを殺そうとしていた可能性がある。そこだけは良かったなと胸を下しつつ、読んでいくと、一つの文章が目に止まる。


 〇月×日

 チャブラ領領主リーガン・チャブラ宛

 災害級の魔物の素材数種類

 配達人 商人ギルド所属商人 グレン 護衛冒険者 ムソウ

 後日、配達完了通知承認


 追記……

 〇月×日

 冒険者ムソウと、冒険者ギルドにて遭遇。当人は我らのことを感知せず。

 このまま計画を実行段階に移す……


「……ん?」

「気づいたか? まあ、そういうことだ」


 記載された文とシンキの顔を交互に見ながら、言葉を失った。

 そこに書かれていた人物は、前のチャブラ領主の名前だった。アイツに噴滅龍などの素材を送った、もしくは送るように手配を整えたのがケリスらしい。

 そして、ここに名前があるということは、チャブラの領主も、転界教の一員だったということである。


「……すげえな、グレン」


 図らずも、転界教に二度も利用されたグレンに思わず感嘆してしまった。まあ、二度目は俺も居たから人のことは言えないのだが。

 ちなみに、最重要危険人物の俺が護衛についたことは、ケリスにとっても予想外だったのだろう。あれは、グレンの指名だったからな。ケリスが何かをするでもなく、勝手にそうなったことだ。

 そして、ギルドで俺に会った時に、実はあの時探りを入れていたってわけか。


「なるほど……何となくつながって来たな」

「ああ。恐らくリーガンは、手に入れた素材を使って、強力な武具を作り、ケリスに呼応するつもりだったんだろう。その辺りのことはここに書いてあった」


 そう言って、シンキは別の書類、これは完全な日記に近いものだな。ずいぶんと分厚いが、今までのことを全て記載しているのだろう。

 そして、最後の方には、確かにそう言った旨のことが書いてある。

 民衆の暴動によって、多くの死者を生み出し、そこから魂を抽出し、クレナの後はチャブラを死の世界に、そこから隣接する領の、他の転界教の者達と呼応し、王都を攻めるという内容だ。


「だが、それも俺の所為で失敗して、リーガンは未だに姿をくらましているというわけか」

「ついでに賢人たちもな。アイツらも、領主と反発していたと見せかけて、実はつながっていたと考えるのが良いかもな」


 なるほどな。領主が能無しという印象を与え、領民の不安をあおっておいて、代わりに統治を行う存在として、自分たちが活躍する。

 領民には、いささかな不安な心が残るが、賢人たちが居れば何とかなるということを植え付けた上で、皆で姿をくらますとなると、領民の心は失意のどん底となり、怒りが爆発、そのまま、こないだまでの状況に勝手に陥るというわけか。


 そして、死者を多く出して、その魂を魔道具で回収。更なる力を手に入れて、人界を掌握ってわけか。

 ここの出来事が、チャブラの暴動にもつながっていて、驚くが、何となく納得できる話だと思った。それと同時に、転界教がいかに人界に根深く浸食しているのかが理解できて、ぞっとする。


「つまり、ここからは現在捜索中の、先代チャブラ領主であるリーガンを見つけ、そいつから、情報を聞き出す、ということで良いのか?」

「まあ、そんなところだな」

「しかし……これほどまでの相手に敵うものなのか?」


 人界全土で暗躍する転界教。その規模は計り知れない。所属する者達も、今のところ、貴族や領主といった力を持つ者が多いと感じる。他にも居るのなら、その権力の前では何もできないのではと、思っていた。

 しかし、俺の心配とは裏腹に、シンキはニカっと笑う。


「お! お前もやはり、邪神族の末裔を滅ぼすことに協力してくれるか! そうなったら、百人……いや、千人? もっとだ、万人力だな」

「お前な……いくら俺でも、一人でこの問題を解決するのは難しいぞ」

「何言ってんだよ。アンタは一国を滅ぼすだけの力を持っているんだろ?」

「あれは、別に俺一人でやったわけじゃ――」


 そう言おうとした瞬間、シンキはフッと笑って、手を前に出した。


「……分かってる。タカナリやエイキ、ゴウキ、それにハルマサ達が居たから出来たんだよな。お前一人で闘ってきたわけではないことくらい承知だ。

 そして、今のお前にもアイツらの力を継いでいる者達が居る。アイツらとお前、それに俺が力を合わせれば出来るだろって言ってんだ。

 俺の秘密ついでに、このことはコモン達にも話す。皆で協力して、コイツらを……人界の平和を脅かす者達を滅ぼしてやる!」


 シンキはドンっと資料に描かれた、転界教の旗に拳を叩きつけた。

 やはりというか、よほど気に食わないらしい。

 邪神大戦で共に戦った、俺の仲間達の力を継いだ、十二星天。シンキは再び、皆と転界教と闘っていくということを決めたようだ。

 そして、その中には俺も入っていると思っている。


 俺としても、カンナ達が護ってきた世界を、壊そうとする奴らのことは許せないし、既に向こうにも、俺のことは知れ渡っている。

 いわば、目をつけられている状態だ。こうやって待っているだけでは、俺の新しい家族に再び危険が及ぶ可能性の方が高い。


 俺は、シンキの言葉に頷いた。


「……分かった。俺も、やられっぱなしじゃねえってことを、コイツらに叩きこんでやる。……一人残らずぶった斬る!!!」


 転界教への思いを新たにした俺達は、その場で握手し、これからは、本格的に協同していくことを誓った。


 さて、ケリスの屋敷の捜索で分かったことについての話は続く。

 現在は、チャブラ領主だった、リーガンの屋敷の捜索も行おうとしているらしいが、こちらに関してはそこまで期待していないらしい。

 自ら姿を消したのであれば、恐らく何も残していないだろうとの考えだ。一応、それぞれの屋敷の従者や家族たち、奴隷に至るまで、色んな奴らの人間に話を聞いている最中だという。


「まあ、流石にめぼしい情報は無いがな」

「だろうな……そう言えば、ケリスの正室と闘宴会の長は何か知っているような口ぶりだったとジゲン……じゃねえや、ジロウから聞いたが?」

「ああ。その二人は何か知っていたかも知れないな。

 ……じゃあ、次はこの街で起こったことについて説明しよう」

「ん? 何か出てきたのか?」


 シンキは頷き、今度はケリスの屋敷で見つかったものが映った写真と、残っていた手記にの内容の重要な部分だけを抜き出したものを見せてきた。

 それぞれ、怪しげな道具の他、何かが置かれていたかのような台が写し出されている。手記には、日記に書かれていたようなことの詳細なことが書かれているようだった。

 こちらはそこまで確認することが無いよなあ……と、思っていたのだが、一つ何やら不穏に感じる言葉が目についた。


「眷属化の実験」

「ん? 何だ、これ……?」

「読んでみろ。おぞましいぞ……」


 顔色を悪くして、その部分を指すシンキ。なら、読ませるなよと思いながら、シンキの手記に目を通す。


 眷属化の実験

 王都に侵攻するにあたり、更なる兵力拡大の為、呪いにより操った魔物以外にも兵士を確保する必要がある。

 しかし、呪いは精神、肉体を疲弊させる能力であり、闘いが終わった後は活動が難しくなることが判明した(牙の旅団で実証済み……資料第三百五號参照)。

 そこで、我が始祖が残した、生物に我の魔力、血を注入させ、肉体そのものを改造、更に完全に支配下に置く手段、いわゆる眷属化を行うことにする。

 対象は、我妻レティス、そして、目下クレナを掌握するために働く私兵、闘宴会を束ねる実力者バーク。

 眷属化後、完全な状態で活動できるようにするため、これより実験を行う。


 ・・・


 眷属化検証第一號

 〇月×日

 被検体 奴隷 男 二十代 人族

 結果 魔力投与後、身体が耐え切れず、直後に血を吹き出し絶命。

 所見 やはり肉体は、ある程度強固なものがふさわしいようだ。


 ・・・


 眷属化検証第五號

 〇月×日

 被検体 奴隷 女 二十代 獣人族

 結果 魔力投与後、しばらく苦しんだ後、全身から血を吹き出して絶命

 所見 魔力投与の相手が女でも結果は変わらないようだ。しかし、素体が強い獣人の肉体ではある程度耐えきれることが判明。眷属化予定のレティス、バークの肉体を強化する必要性が出てくる。


 ・・・


 眷属化検証第四十五號

 〇月×日

 被検体 奴隷 男 三十代 獣人族

 結果 魔力投与後、肉体を保った被検体第一號となる。だが、その後処分

 所見 冒険者として名を上げていた男を被検体に使用。魔力投与後、死に至るということは無かったが、発狂、我の言うことも聞かず、暴れるだけとなった被検体を処分。新たに発生した問題について対処する。


 ・・・


 眷属化検証第七十八號

 〇月×日

 被検体 側室 女 二十代 人族

 結果 魔力投与後、肉体を保った被検体第二十一號。その後、処分

 所見 人族でも我と交わった者、更にその子は魔力投与後も生き残るということがこれまでの実験で判明している。ただ、意識を保つことは難しい。

 そこで、この被検体には呪いを使ってみた。その結果、こちらの意志に合わせて動くことはあれど、自らの意志をもつということは無かった。

 肉体の問題が解決したと思ったら、今度は精神面での問題が発生した。現状、眷属化させた後に呪いで我の意識を植え付けることでその問題は解決出来るが、呪いを解いても、意識が芽生えることは無く、そのまま廃人となり、死に至る。

 呪いで意識を植え付けるという方法はそもそも、この眷属化を否定する方法になるので、考えないようにする。

 今後は、ある程度肉体が強化された者、我と交わった者達を中心として、実験を行っていく……。


 ・・・


 眷属化検証第九十八號

 〇月×日

 被検体 従者 男 五十代

 結果 魔力投与後、肉体が残り、発狂もすることが無く、意識を保つことに成功

 所見 ついに、やった……。眷属化を行っても、肉体が死滅せず、精神面も異常がみられず、元よりも圧倒的に上の力を持たせることに成功した。

 これまでの検証で、一、肉体がある程度強い者(我と交わった者でも可)、二、我に忠誠を誓う者、この二つの要素を満たす者の方が生き残るということが確立された。それに倣い、我が屋敷で三十年に渡り、忠誠を誓ってきた男を被検体に使用。

 実験は成功し、完全なる眷属化が完成した。この男には今後も我の従者として転界教内で暗躍する予定だ。


 これで、バーク及びレティスを眷属化させる手段は判明した。それ以外にも、めぼしい冒険者、騎士、あるいはクレナの傭兵など、人界の実力者を取り込み、一大軍隊を築き上げることが出来る。

 計画始動は、九頭龍計画が完了した時だ……。


 ……我らが代で大地を再び邪神族のものに……


 ・・・


「……」


 最後まで読んで、ケリスの手記の写しを放り投げる。


「……嫌なもの、見せやがって……」

「俺に怒るなよ……とまあ、ケリスの妻と、バークって男についてはそんなところだな」


 なるほどな。俺が居ない間に、バークが攻めて来た時に何か様子が変だったとリンネやジゲンから聞いたがこういうことだったか。

 二人はこの、眷属化というもので、ケリスに力を与えられていたと。

 そして、手記にはそのために多くの犠牲者を出しながらも、眷属化を完成させたことまで記載されている。

 あの野郎、クレナだけでなく、王都でも命を軽く弄ぶようなことをしていたのか。おぞましいというよりも、怒りしか沸いてこないな。


「これに書かれている、最後の被検体の男については、行方を追っている。だが、そう簡単には姿を現せないだろうな」

「まあ、今日まで姿を見せていないのだからな。しかし、あんな野郎に忠誠を誓う奴なんて居るんだな」

「ああ。まあ、コイツも、ケリスの妻も、バークも、その忠誠心を利用され、人間やめたみたいだな。

 一応、こないだジェシカが連れてきた闘宴会って奴らにも、尋問を繰り返したが、何も知らなかったようだった。こちらに関しては、この被検体の男を中心として、更に調査していくつもりだ」

「ああ。何か分かったら、また連絡してくれ。コイツが狙うとしたら、ケリスを殺した俺か、ジゲン達だろうからな。出来るだけ早く頼む」


 シンキは俺に頷く。ケリスの眷属となれば、強力な相手となりうる可能性が高い。皆が危険にさらされる前にケリをつけたいと思っている。出来るだけ、シンキとは情報を密に交換する必要があるだろうな。

 ちなみにだが、ケリスが側室に孕ませた子供についても行方知れずだそうだ。この手記を見る限り、無事なのかどうかは怪しいものだが、一応捜索はしているらしい。

 子を喪い、主人を喪った側室は、現在精神的に病んでいて、治癒院で治療されているという。

 ……ホント、嫌なものを見た……。


「で、他に分かったことは?」

「九頭龍に関してと、スケルトンの軍勢、デーモンロードについては大方の予想通り、ケリスが魔道具によって手にした魂を使って行われたものということも分かった。

 二十年前の牙の旅団の事件についても、その証拠と記録が出てきたので、“刀鬼”たちや、サネマサには、仇討の正当性が認められることになるだろうな」


 ひとまず、ジゲン達についてはそれで良かったと感じた。そして、牙の旅団についても、ケリスのやったことが明るみになったということで、皆が帰ってきたら、このことを報告したいと思った。


「なるほどな……で、その証拠っていうのは何なんだ?」

「ああ。実物は無かった……というか、既に破壊されていたのだが、呪いの力が込められた魔石だ」

「破壊されていた? 誰かが壊したのか?」

「いや、そういうわけではない。力を使い果たして砕けただけだろうな」


 なんでも、呪いというのは邪神族が主に使っていた術のことだが、それも、魔法と同じく、魔石や魔道具に封じることが出来るものらしく、マシロでミリアンが使っていたものもそれらしい。

 そして、ケリスの部屋にあったものも、呪いの魔石で、それは、俺とジゲンが予想していたように「傲慢」の呪いと、もう一つ、「色欲」の呪いが封じられた魔石が砕けたものが置かれていたという。


「傲慢は何となく想像がつくが、色欲か……。これはどういうことだろうか……?」


 ジゲンと予想していたように、傲慢の名を冠する呪いが使われているかも知れないというのは、ミサキが提示した、「七つの大罪」という考え方から導き出したものだ。マシロの「憤怒」も、そのうちの一つに入っている。

 そして、シンキが提示した「色欲」というものも入っていたが、傲慢は分かりやすいが、色欲でどうやって、呪いをかけたのかが分からない。そう思っていると、シンキが口を開く。


「傲慢の方は文字通り、何か自分にとって自身が持てるものが心の中にあった時、それは驕りとなる可能性が高い。この呪いは、その隙間から相手の精神内に自分の精神を送り込むという呪いだ。

 一方、色欲は異性に対して強い憧れだったり、恋慕だったり、そう言った感情によって想起されるらしいな。

 そして、ここは人界でも有数の花街を有するトウショウの里だ。そう言った考えになる者達が多くなりやすい傾向にある。ケリスはその隙をついたのだろうな」

「その隙を突くって……呪いは相手の体に触れないといけない決まりがあるんだろ?ケリスはこの街の住民たち全員に触れ回ったのか?」

「いや、違う。ケリスは自分の力の媒体となる羽を配って回った。心当たりがあるんじゃないか?」


 そう言われて、ハッとする。高天ヶ原で宴会を行った際に、参加した者達に羽を配って回っていた。

 なるほど、その時に力の媒体となる羽を街中、というか、様子を見る限り、呪われていたのが、花街、上街に住む者達だけだったので、少なくともその範囲にはばら撒くことが出来たってわけか。

 そう言えば、羽を介して相手を呪う場合、その羽から黒いもやが噴出するとジゲンが言っていたな。恐らくそれも媒体のようなもので、ケリスの力が及ぶ範囲を増長させるものなのだろう。

 それにより、全員に羽が行き渡らなくても、花街と上街に居た者達を呪うことに成功したってわけか。

 一人、納得していると、シンキは更に続ける。


「それで、色欲の呪いについてだが、領主アヤメから提出された、ここ最近のこの街に着いての報告書の中に、気になるものがあったな」

「気になるもの?」

「ああ。花街で、冒険者なり、住民なり、貴族たちが、街中で妓女とまぐわったりしていたってやつだが、心当たりあるか?」


 あ……そんなことあったな。もう、あの闘いからひと月以上経っていて、その間もバタバタしていたから、すっかり忘れていた。

 通りでは、多くの男女が愛の言葉をささやき合っていたり、接吻したりしていて、それが路地裏に目を向けると、日の高いうちから、しかも外で、乳繰り合っていたり、どことなく不快になる光景が多かった。

 シンキの言葉に頷くと、やはりか、と言って口を開く。


「まあ、それもケリスか、ケリスの息がかかった奴らの仕業だろうな。薬なり、魔法なりを使って、そこに居る者達に、想い合っている者達や、関係ない異性に向けての感情を少しずつ芽生えさせていく。

 そして、その隙をついて、色欲の呪いをかけたってところか。……本当に用意周到というか、準備には事欠かない男だったんだな……」


 シンキは、呆れるように、しかし、どこか不気味がるようにそんなことを言った。

 俺も若干、背筋が凍る思いだ。あの光景は花街だからと、そこまで気にしていなかったが、今となっては分からないが、シンキの言うように、ケリスの計画の一部だと考えた方が良いだろう。現に今は、そんな光景は見ないからな。

 花街や、上街を分けたのも、恐らくはその計画を円滑にするためだろう。妓女達に逢いづらいとなると、更にそう言った思いも助長されるからな。

 そうやって、皆の想いを利用し、呪うことに成功したケリスの執念深さは、俺でさえ恐ろしいと感じた。


「倒せて良かったよ……」

「そこは“刀鬼”や、サネマサにも感謝しねえとな。二十年前の段階で、アイツらが折れていたら、大変なことになっていたかもしれない」


 シンキの言葉に頷いた。ケリスを倒せたのは、アイツらが、牙の旅団の者達のために、諦めずにいたということが大きく影響していると感じている。そもそも、ジゲンから協力してほしいと言われなかったら、俺もどう動いていたのか分からないからな。


「さて、今のところ、お前に報告することは以上だな。引き続き、ケリスの従者や、チャブラ領主の行方を追ったりとやることは多いが、何か分かったら、その都度連絡する」

「ああ、頼むよ、シンキ」


 ひとまず、この街で起こったことについて、大体謎が解けた所で、シンキの報告は終わった。

 資料を片付けて、ゆっくりとしていると、シンキは茶を飲んで、息を吐く。


「ふう~……しかし、この説明を後でサネマサ達にもしないといけないのか……いささか、疲れたな……」

「爺さんみてえなことを言うなよ」

「爺さんだよ、俺は。二千越えたあたりから、年齢を数えるのもやめた」

「まあ、そうだな……そういや、一つ不思議に思うんだが、良いか?」

「ん? 何だ?」

「お前、見た目は変わらねえのか? 流石に数千年同じ格好の奴が居たら、皆もおかしいと思うだろ」

「ああ、それか……ちょっと待てよ……」


 シンキはそう言って立ち上がり、瞑想した。すると、シンキの体が輝き始めて段々と小さくなっていく。

 そして、光が収まり現れたのは、小さな男児だった。


「……は?」

「まあ、こんな感じで、その代の王が死ぬ度に、俺は小さくなり、その都度姿を変えて、更に、王の成長に合わせて自分の姿も成長させて見せている」


 幼子の姿で淡々と喋る様子に、俺は更に唖然とする。

 聞けば、シンキはどの時代の王とも幼馴染という立場に居るように、こうやって、その代の王に子供が出来た際に、宰相を降りて、姿を消す……と、見せかけて、どこからともなく、王子の友人として再び城に現れるらしい。

 周囲の人間も、出自の分からないものを近寄らせないようにするのだが、相手はシンキだ。知識も礼節も全てをわきまえており、文句を言わせない。

 一応、それぞれの王は、王位を継承する際に全てを話すそうで、今の人界王であるオウエンも、シンキの正体は知っているらしい。


「ちなみに、見た目は偽装ってスキルを使って偽っているが、この姿は……そうだな、大体千年くらい前にも使ったな……」


 毎回、違う姿に偽装するのも、その頃から飽きたらしく、現在のシンキの姿は、先先先先代くらいの姿だという。

 そして、コモン達十二星天の特徴として、老いないというものも出来て、昔に比べて随分と楽になったと笑った。


「ちなみにだが、俺のEXスキルを絶対服従って書いてある書物が時々あるが、あれは、ある意味事実だな。人界王が死ねば、俺は姿を消して、更に転生したと思われるようなことをしているからな。

  まあ、あの嘘ばかり書かれている本のおかげで立ち回りやすくなったから、言うことは無いんだがな」

「その本……俺も見たぞ……」


 というか、この世界に来て、十二星天のことを知ったのがあの本だった。ミサキからほとんど嘘と聞かれた時は、かなり落ち込んだと言うと、シンキは笑った。


「そいつは、災難だったな。だが、スキルの内容自体は正しいこともある。俺が王に力を与えるっていうのはあながち間違いではないからな」

「というと?」

「王は鬼人族で、俺は鬼族だ。どうも、俺が王のそばで鬼族になると、エンマ様の血なのか、シンラ、もといお前の血なのか分からないが反応して、王そのものが強くなることがある。

  だから、その記述もあながち間違いではないな」


 へえ、そんなことがあるのか。俺の血ってことは無いだろう、流石に……。

 恐らく、シンキと親友だったカンナの血が、再び親友であるシンキと戦うってところで滾っているんだろうと言うと、シンキは喜んだ。


「しかし、その能力は面白いな。それも鬼族の力なのか?」

「ああ。鬼族もそうだし、神獣や龍族、それに神族も出来る。さっきのリンネもそうだが、人化の能力を極めると出来るようになるな」

「てことは、リンネも見た目を自由に変えることが出来るようになるってことか……何となく楽しみだな……」

「そうなるのに、いつまでかかるかは分からんがな。ちなみに俺は百年ほどかかった」

「……そうか。それまで俺が生きていれば良いんだがな……」

「なるほど……ザンキのこの世界の子どもはあの子ってわけか。大切にしろよ」


 シンキの言葉に、もちろんだと頷く。


 それにしても、よくやるなあ、コイツ。王が変わる度に、毎回こんなことしてんのか。俺がやったらどこかでバレる気がする。カンナ達との約束の為という考えもあるが、コイツの秘密を守り通す努力とか行動力も、ケリスには負けていないなと笑った。


 余談だが、人界王オウエンに、俺のことは伝えていても、シンラ……カンナの親ということは伝えていないらしい。

 それは良かったと思っている。何となく、面倒なことが起こりそうだ。シンキもそれは感じたらしく、転界教を滅ぼし、邪神族からの脅威が消えることがあれば、改めて話そうと決めた俺達だった。

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