第263話―リンネとカドルと遊ぶ―
さて、街に繰り出すジゲン達を尾行したり、依頼をこなしたり、薬を作ったりしている俺だったが、時々、何もせずに一日を過ごすこともある。
ダイアン達がレオパルドと共に依頼に出ると、鍛錬をすることが出来なくなった牙の旅団はジゲンとサネマサ、そして、たまを連れて街へと繰り出す。
その際に、今のうちにサネマサに良くしてもらっておけと言って、ツバキも居なくなることもあった。
屋敷に居るのは、女中たちと、俺とリンネ、それに力を無闇に使わないようにゆっくりとさせているカドルくらいだ。
その日は、ジェシカも王都に戻って仕事をしていた。ここで作った薬を量産したり、納品するべく、一日中屋敷と王都を行ったり来たりしている。皆の邪魔をしては悪いかなと思い、自分の部屋でリンネとおとなしくしていた。
「よいしょ……できたあ~!」
「お、出来たか。何を作ったんだ?」
「おはな~!」
今はリンネと折り紙をしている。綺麗に折られた花をリンネは俺に見せつけてくる。作り方はジゲンに教えて貰ったらしい。
「上手く出来てるな。流石だ」
「えへへ、おししょーさまはなにをつくったの?」
「俺は、ハサミも使って彼岸花を作ってみたが……」
「わあ~、きれ~い!」
少し失敗してしまったが、リンネには喜ばれた。あまりにも目を輝かせていたから、それをリンネに渡すと、ニコッと笑って、大切そうに、前作ってやった切り絵の横に置いた。
「しかし……こう、何もないというのも、やはりつまらないものだな……」
「おししょーさま、リンネといても、たのしくないの?」
リンネは泣きそうな顔でこちらを見てくる。大きな誤解をしているようだ。
「そうじゃなくてだな。俺も、お前と同じでどちらかと言えば、外で体を動かしたい性分なんだよ」
落ち込んでいたリンネの頭を撫でると、ぱあっと笑顔になっていく。
「じゃあさ! おそとで、あそぼ!」
大きくしっぽを振って、うずうずとした様子になるリンネ。
少し退屈していた俺は、リンネの言葉に笑って頷く。
「そうだな! せっかくの休みなんだし、出来ることをやっておくか!」
俺は立ち上がり、部屋を出ようとした。すると、リンネはちょっと待ってて、と言って、着物を脱ぎ、依頼に出るときの戦う時用の服に着替える。
「これで、ばっちり!」
「おっし、準備万端だな!」
「カドルおじちゃんも、さそう?」
「だな。あいつも暇そうにしていたから丁度いいだろう」
リンネの言葉に頷き、俺達は部屋を出て、庭でのんびりとしているカドルに近づいていく。
まるで老人のように、空をぼんやりと眺めていたカドルは俺達に気付き、顔を向けてきた。
「む? ムソウ殿、それに、リンネ。どこかへ行くのか?」
「いや、少し外で遊ぶだけだ。屋敷の中に居ても、どうもつまらないのでな」
「カドルおじちゃんもいこうよ~!」
「なるほど。相分かった。二人についていくとしようか」
そうやって、カドルも俺達に付き合うことが決まり、三人で何をしようかと相談する。
「それで、何しようか?」
「おにごっこ!」
リンネが開口一番手を上げてそう言った。偶にトウガや、たまと一緒にやっているのを見るからな。どうやら、それを俺達ともしたいらしい。
だが、カドルはフッと笑って口を開く。
「やめておけ。我は雷を司り、雷そのものにもなれる。捕らえることも、逃げることも叶わんだろうな」
「ぶ~! リンネのほうがはやいもん! トウガおじちゃんにだってあとすこしでおいつくもんね!」
「我は、天狼殿よりも速いぞ?」
得意げになっていくカドル。まあ、雷だもんな。俺も、流石に本気のカドルにはどれだけ走っても無駄だと思った。
リンネの中で、トウガよりもカドルの方が速いという図式が成り立ったようで、ガクッと落ち込む。
「じゃあ……かくれんぼ!」
しばらく考え込んだ後に、リンネが言ってきたのは、かくれんぼだ。走り回る必要が無いので、誰が鬼になっても、隠れる側になっても互角に聞こえる……と思うが、俺とカドルは首を横に振った。
「かくれんぼなら、リンネの独壇場ではないか。幻影術を使われると一向に見つけられんぞ?」
「ぶ~! でも、おししょーさまならみつけられるもん!」
「そうなったら、本当につまらなくなるぞ。俺が鬼になったら一瞬でお前たちを見つけられるし、お前は鼻、カドルは結界陣であっという間に隠れている奴を見つけることが出来る」
各々に優れた感知能力がある以上、どれだけ頑張ってもかくれんぼ自体がつまらなくなりそうだと説く俺とカドル。
現に、たまとかくれんぼをしていた際に、リンネが鬼ならあっという間に見つけて、隠れる側になると五感まで惑わせるリンネの幻影により、なかなかたまが見つけることが出来ず、ツバキ達も加わって探し回って、最終的に俺がリンネの気配を追って見つけたということがあった。
良い鍛錬にはなったようだが、それ以来、出来るだけ、皆を困らせることはやるなと言っておいたが、それもあって、かくれんぼまで出来ないと知るリンネは更に落ち込む。
「むぅ……じゃあ、なにする?」
「そうだな……」
カドルは俺とリンネを交互に見てから、何かに気付いたように口を開く。
「では、今日はムソウ殿とリンネの特訓でもしようか」
「特訓?」
「ああ。ムソウ殿もいつも皆の鍛錬ばかり見てはつまらないだろう?
それに、リンネの天狼殿たちとの特訓の成果というものも見たいのではないか?」
良い案だな。俺の特訓はさておき、リンネの特訓の成果というものは感じておきたい。依頼に出ても、そこまで力を使っているわけではないからな。今のリンネの本気というのは確かめたい。
ふと見ると、リンネのその気のようだ。思えば、俺達二人の「遊び」というのは毎回こういうものだったことを思い出した。
「俺も一つ練習したい力があるからな。この際にやっておくか」
「それは、九頭龍と戦っていたときの、あの力のことか?」
「ああ。皆が怖がるんで、使おうにも使えないんでな……」
この際に、鬼人化の練習をしたいと言うと、リンネが少し怯えた表情になる。やはり、まだリンネ達には早いかなとは思ったが、俺もあの力に慣れておかないと、いざという時に困りそうだ。
リンネにも慣れてもらう為と言って、何とか説得した。
「ふむ、いささか不安が残るが行くとするか。流石に洞窟では行わんぞ。ムソウ殿とリンネの鍛錬ではもたないだろうからな」
「普段でいっぱいいっぱいだからな……」
普段、皆が裏の洞窟で鍛錬をするときには、新たに仕入れたミサキの結界魔法の魔道具を使って、洞窟が崩壊しないように行っている。
しかし、苛烈な牙の旅団の稽古に、さらに最近になってサネマサも加わり、少々危ないなと思うことが多々ある。
それに加え、洞窟内は少し狭いということもあり、リンネや神獣達は外で行うことが多い。
今日も、周りの被害が及ばないようにすることを考慮し、トウショウの里近くの少し小高くなっている丘の上で、二人と遊ぶことにした。
女中の一人に、遊びに出かけることを伝えて、俺とリンネはカドルの背に跨った。
「そういや、お前の背に乗るのは初めてだな。こんなに雷がバチバチなってんのに、痺れないから不思議だ」
「無論調整しておる。だが、リンネ、我の背に乗っている時に獣の姿にはなるなよ。毛に帯電して大変なことになるからな」
「わ、わかった~!」
リンネは何度も頷いている。一度だけ、獣の姿の状態で、カドルに近づき、大変なことになったことがあるらしい。
その時のようにはなるまいと、リンネは出来るだけ特にバチバチいっているカドルの鬣から離れて、俺のまたぐらに座った。
「しっかり掴まってろよ」
「うん!」
「よし。じゃあ、カドル、頼む」
「相分かった!」
カドルは頷き、屋敷を飛び立った。今日はよく晴れていて気持ちいいな。
しかし、龍族というのは翼も無いのにどうやって飛んでいるのだろうかと、つくづく疑問に思う。恐らくは俺の神人化の時と同じなのだろうが、要はデカい蛇が宙に浮かんでいて、それに跨っていると考えると、なんとも怖い気がする。
まあ、カドルもその辺りは分かってくれているのか、ゆっくりと飛んでいる。
偶に、リンネが身を乗り出して、地上の景色を眺めていることがある。いつも、エンテイの姿に化けて飛んでいるときも、こんなことを思っていたのかと思いつつ、危ないから俺がリンネの体を掴んでいた。
その後、ゆったりと飛んでいたカドルは、目的地が見えてくると、すーっと降りていく。
そこはとても見晴らしが良い場所だった。昔何かあったのだろうかというくらい、岡の上の広場の足元は平たんなものとなっている。
そして、ぐるっと回転すると、植えたばかりの稲が並んでいる田園風景が広がっていた。
ここなら、俺達も伸び伸びと体を動かすことが出来るなと安心し、軽く体を伸ばしていた。
「あ~、気持ちいいなあ。やはり最近は外の方が落ち着く……」
「そうだな……ん? ムソウ殿、刀はどうしたのだ?」
「無間が無いからなあ。斬鬼もツバキに持たせているし、今日は遊びだから良いかなって」
俺は懐からクナイを取り出した。コウシ達も出ていたし、わざわざ借りに行くのも面倒だなと思い、そのままでいた。
まあ、今日は遊びだからな。俺にはこれで充分だと笑っていると、リンネが真顔になってカドルの方を向く。
「……なめられてる?」
「うむ、そうだな。ムソウ殿をぎゃふんと言わせて見せよ」
「うん!」
何やら、恐ろしいことを話す二人。そういうわけじゃないんだよなあと頭をかく。
さて、準備が整ったということで、俺とリンネが向かい合い、カドルは少し離れた所で俺達の闘いを見守ることにした。
「……よし、じゃあ、やるか!」
「うん! ……クワ~ン!」
リンネはそのまま大きな獣の姿に変化し、自ら、狐火を纏った。これで、俺もうかつに手出しが出来なくなる。
そして、リンネは俺に向けて駆け出してくる。俺もリンネに向けて真っすぐ向かっていった。
すると、正面に居たリンネが突然消える……ように見えた。軽い身のこなしで俺の死角に入ると、前足を振り上げて、俺に爪を浴びせようとしてくる。
「おっと!」
俺は素早く身をかがませ、リンネの懐に潜り込んで、後ろ足を払った。
「クウッ!?」
リンネはそのままドサっと地面に伏した。俺を攻撃しようとして来たので、その勢いはすさまじく、リンネを中心として、地面がひび割れて少し凹んだ。
「危ねえ……だが、どんな攻撃も当たらなかったら意味はねえぞ?」
「クウ……クワン!」
悔しそうにしていたリンネだったが、カッと目を見開き、後ろに居る俺に尻尾を振って攻撃してきた。
「うおッ!?」
慌ててそれを防いだが、かなり重い。強い衝撃が腕へと伝わり、そのまま俺の体は吹っ飛ばされてしまう。
「クワ~ンッッッ!!!」
空中に投げ出された俺に向かって、リンネはいくつもの狐火を飛ばしてきた。態勢を立て直し、両手に持ったクナイでそれを対処する。
―すべてをきるもの発動―
狐火の切れ目を斬って、無効化させた後、そこからリンネに向けて棒手裏剣を飛ばした。
すると、リンネは自らの周りに結界を張って、棒手裏剣を防ぐ。
やはり、投擲武器は決定打に欠けるか。一応気を纏わせて飛ばしたのだが、リンネの結界は固いようだな。
リンネはそのまま、身を守りながら更に狐火を飛ばしてきた。
地面へと下りた俺は、辺りを駆け回り、狐火を避けながらリンネに近づいていく。やはり直接攻撃した方がはるかに威力は上だ。
そして、結界の切れ目を斬って、リンネの防御を崩した後、懐から鎖分銅を取り出し、リンネの足元を狙った。
「クウッ!?」
「足元がおろそかだぞ!」
鎖分銅は、リンネの後ろ脚にぐるぐると巻き付いていく。そして、手元の鎖を地面に打ち付け、リンネの動きを封じた後、追撃を与えようと近づいていく。
「クゥ……キュウッ!!!」
すると、リンネはボフンという音と共に、小さな姿に変化し、鎖の拘束を解いた。
ほう……前にマシロで騎士団とやり合った時のことでも思い出したか。ああやって拘束を解くのは、リンネならではだなと、リンネの成長を喜ぶ。
さて、リンネは自由の身となり、小さな姿であちこちに駆け回りながら、俺に近づいてくる。目標が小さいと俺も、難儀するなあと思いながらクナイや棒手裏剣を投げて、リンネの立ち回る幅を狭めていく。その結果、俺の得物は減っていくが仕方ない。
そして、リンネが俺の攻撃できる範囲まで来ると、俺はクナイをリンネにつきつけようとした。
だが、小さな体で小回りの利くリンネは素早く、俺の懐に入り込んで、クナイを躱す。
そのまま、今度は獣人の姿に変化した。
「え~い!」
「ッ!?」
リンネはがら空きの俺の腹に向けて手をかざす。そこから火の魔法を使い、俺を攻撃してきた。装備のおかげで熱くも痛くもないが、衝撃は伝わり、俺の体勢は崩れる。
しかし、何とか踏みとどまり、リンネに向けてクナイを投げた。クナイがリンネに当たった瞬間、最初に纏わせていた狐火が発動し、俺を襲ってきた。
「熱ッ! このッ……ハアッ!!!」
「うわっ!」
俺は気を込めた拳を地面へと打ち付け、衝撃波で体の狐火を振り払うと同時に、リンネも吹っ飛ばし、距離を取らせた。
体についた土ぼこりを払っていると、リンネが少し離れた所から悔しそうに口を開く。
「むう~、あとすこしだったのに~! おししょーさま、かたないがいにも、そんなにもってて、ずるい!」
「状況に応じて、色々持ってるだけだ。お前も変化を色々と用意しているだろ?」
「あ、そっか……」
「おかげで上手く闘えているようだな。まったく、お前の成長にはいつも驚かされる」
笑いながら感心していると、リンネも嬉しそうに笑った。
獣姿のリンネは、自らの体を使ったり、狐火を使ったりと、攻撃に秀でた形態となっている。そこに、トウガ達の特訓も加わって、前よりも戦い方に磨きがかかっているようだ。
獣人姿の時は、魔法を使ったりと、こちらの不意を突いた戦い方をする。
それぞれの形態で出来ることを、それぞれの状況に応じた闘いをしていて、こちらはやりづらいが、リンネの成長を感じて、満足していた。
「……じゃあ、決着をつけるか!」
「うん!」
俺はクナイを逆手に構えて、駆け出す。リンネも、周りに狐火を展開させて俺に向かって突っ込んできた。
今日は俺の特訓もあるからな。早いところ終わらせようと思い、狐火をくぐりながら、クナイを振り上げる。
次の瞬間、
「ッ!? 何だ!?」
「んっ!?」
俺とリンネはその場で止まる。
突然、何か強い力を持った何者かがこちらに近づいてくるのを感じた。ここまで大きいと、流石にリンネも何か感じたようで、狐火を収めてきょろきょろと辺りを見ているようだ。
「カドル! 何かあったか!?」
「分からぬ……だが……これは……」
俺達の闘いを見ていたカドルも、その気配には気づいたようで、俺達に近づきながら、辺りを見回している。
だが、そこまでの危機感を持っては居ないようだ。力は大きくても、殺気などは感じない。そこまで危ない状況ではないのか?
そんなことを思いながらも、何があっても良いように俺はリンネを下がらせ、カドルと背中合わせになるように、辺りを警戒した。
気配はどんどん近づいてきているが、その正体は確認できない。
少しばかり、刀を持ってこなかったことを後悔し、クナイを握る手に力を込めていると、突然リンネが叫んだ。
「おししょーさま、うえ!」
リンネに言われて、俺達は上空を見上げる。気配の正体と思わしき者がこちらに向けて飛んできているのが見えた。遠くてよく分からないが、明らかに俺達めがけて降りてきている。
俺はクナイを構え、神人化しようとした。
だが、近づいてくるその者の姿を見て、驚き、俺はクナイを下げた。
「あ、あの者は……!」
カドルは目を見開き、その男の姿を見つめる。
やがて、そいつは、俺達の前にゆっくりと降り立ち、フッと笑った。
「面白そうなことしてるな。俺も混ぜろよ、ザンキ」
その男は、シンキだった。前と同じように、十二星天の紋章が入った羽織を纏いながらも、とても人界の宰相とは思えない格好で、俺達の前に立つ。
突然のことに驚きつつ、息を整えて近づいた。
「お前、急に来てどうしたんだ?」
「いや……王都での仕事に一区切りついたんでな。ケリスの家の捜索結果だったり、その他諸々のことを報告しようと家に行ったんだが、誰も居なくてな。
そこに居た女中に聞いたら、ここで遊んでいるって聞いて、飛んで来たってわけだ」
シンキはしゃがんで、リンネの頭を撫でていた。
なるほど、入れ違いになったってわけか。事前に言ってくれれば、家で待っていたのになあと思い、頭を掻く。
すると、俺と同じく落ち着いてきた様子のカドルがシンキに頭を下げた。
「シンキ殿……ご無沙汰しておる」
「ん? ああ、雷帝龍か。元気そうだな、お前も。最後に会ったのは、壊蛇の時か?」
「うむ……長く、連絡も取れず……すまなかった」
「気にするな。傷を癒していたってのは、ザンキから聞いた。本来の力を取り戻しているようで、何よりだ」
「うむ……我が居ながら、今回はこのようなことになってしまって申し訳ない……」
頭を下げるカドルを、シンキはジッと見つめる。
先のケリスが起こした一件について、自分はケリスにより九頭龍の核にされ、危うくクレナ、および人界を破壊させるところだった。更には邪神族の顕現と、人界に大きな被害をもたらしたことに、カドルは責任を感じているようだ。
カンナ達との約束をないがしろにした結果となったカドル。しかし、シンキはフッと笑い、カドルの頭を上げさせた。
「……面を上げろ、雷帝龍。ケリスって男を野放しにしていた責は俺にもある。
俺には何も出来なかったが、お前もザンキと一緒に、今回の一件を解決に導いたと聞いた。……よくやったな。
それから、こちらこそ苦労を掛けてすまなかった……」
今度はシンキがカドルに頭を下げる。目を見開き、どうすれば良いのか分からない状態のカドル。俺に視線を投げかけるが、俺にもどうすれば良いのか分からない。この場はカドルに任せるとして、リンネの頭を撫でていると、はあ、とため息をついて、カドルはシンキに口を開く。
「……では、今回のことを払しょくするため、我も、シンキ殿も、この先邪神族が現れたら、まず第一線で戦うということで良いか?」
「だな……じゃねえと、俺はシンラやサヤに怒鳴られちまう」
改めて決意を新たにした二人は、笑い合った。こんなにも強い二人が、戦うとなれば、そんなに心強いことは無いなと眺めていると、シンキは俺達の方を向く。
「で、何やってたんだ? 遠くから見る限りじゃ、お前とそこの妖狐が闘っていたように見えたが?」
「ああ、遊んでいたんだよ」
「もうちょっとだったのにね~」
そうだな、とリンネを撫でながら頷く。何がだ、と聞くシンキにこれまでのことを説明した。
トウガ達との特訓の成果を確認している最中、あと少しで勝敗が決まるというところで、シンキの気配に気づき、闘いを中止したと言うと、シンキは笑った。
「あ、それはすまなかったな。普段は抑えているんだが、城でも無いし別に良いかと思っていた」
「いや、気にしてねえよ。リンネの成長が見れて、俺はもう満足だ」
結果はうやむやになったが、着実にリンネも強くなっていることが分かったので良しとした。
上手に戦っていたことを褒めながらリンネの頭を撫でると、嬉しそうに笑っていた。
その後、用事は済んだことだし、屋敷に戻ってシンキの話を聞こうと思ったが、ちょっと待てとシンキに止められた。
「せっかくここまで来たんだ。今度はお前の強さってもんを確認しておきたいな」
「俺の? 別に今日じゃなくても良いんじゃないか?」
「こういう機会はなかなかないだろう? それに報告書の通りなのかどうか確認する意味もあるし、何より、俺がこの数千年の間、抱いていた疑問を解決したいしな」
俺のことはシンキもハルマサ達から聞いていたのだろう。寧ろそれが一番の理由なのではないかと思い、頭を掻く。
どうしたものかと悩んでいると、カドルもシンキに賛同するように頷いた。
「それは良いだろうな。ムソウ殿、例の鬼人化を使うのに最適な相手だぞ」
あ、そうか。こうやってみると人間そのものの見た目だから忘れがちになるが、シンキは鬼族だからな。丁度いい相手と言えば、そうなのか。
少し悩んだが、シンキのような本物の鬼族の戦法というものにも興味があるし、今日は俺の練習もしておきたかったところかと思い、シンキに頷いた。
「分かった。じゃあ、もう少し遊ぶとしよう」
「おう。まあ、お前も今日は得物を持っていないみたいだし、そこまで本気は出さねえけどな。そんなことしたら辺りが吹っ飛んじまいそうだ」
「と言っても、お前には鬼族の力を開放してもらうからな」
「分かってる。ちょっと待ってろよ……」
そう言って、シンキは少し離れた所に立った。
「……さて、この姿になるのも、ずいぶんと久しぶりだな」
フッと笑い、シンキは全身に力を込めていく。すると、シンキの体からゆらゆらと黒い波動のようなものが揺らめいてきた。それと同時に、シンキから感じられる力も上がっていくのを感じる。
「はあああっ! ウオオオオオッッッ!!!」
貯めていた力を開放し、シンキから天へと向けて闘気が放出される。その余波でシンキの足元は歪み、衝撃波がこちらまで届いてきた。
「うわっ!」
「下がってろ、リンネ……しかし、すげえ力だな……」
「うむ。鬼族はそもそも人間よりも遥かに強い生き物だからな。子供であっても、大人の人間数人くらいは蹴散らす力を持っている。
まして、シンキ殿は鬼族の中でも随一の力を持っていた。ムソウ殿の遊び相手には、ふさわしいのではないか?」
カドルの言葉に頷く。それと同時に年甲斐も無くうずうずとしてくる。遊び相手?
……いや、それ以上だ。ジゲンやサネマサ、ミサキにも負けないくらいの期待を感じられる。
何故刀を持ってこなかったのか、ここで悔やまれる。シンキはああ言ったが、辺りが吹き飛ぼうと、全力で闘い合いたいと感じるようになっていた。
そして、力を開放させるシンキの体にも変化が起こる。俺と同じ様に、爪や牙が伸び、鬼族の証たる二本の角が額から生えてきたところで、シンキは立ち上らせていた気を収め、落ち着いた様子になっていく。
「ふぅ~……待たせたな、ザンキ」
「想像以上だったな……」
「さあ……お前も見せてみろよ。鬼人化ってやつをな……」
完全に鬼の姿になったシンキに促され、俺は頷く。
少し怯えている様子のリンネを気にしながらも、俺はスキルを発動させた。
―かみごろし発動―
俺の胸から黒い気が溢れ、全身を覆う。そして、シンキと同じく爪と牙が伸び、額から一本の角が伸びた。全身に力が漲ってきて、俺の鬼人化が完了した。
武器を持っていないので、手に鬼火を出現させ、シンキに向き直る。
シンキはフッと笑って、口を開いた。
「俺も想像以上だ。そして、感じるぞ。冥界の波動の気配をな」
「お前は平気なのか?」
「ああ。鬼族は元々冥界の波動を纏った生命のなれの果てだ。平気どころか懐かしさを感じる……」
シンキが抱く冥界の波動は、いわばカドル達龍族が、天界の波動に抱くものに近いものらしい。だからと言って、浴びていれば力が湧いてくるというものでもないらしい。
そこは天界の波動と、冥界の波動のそのものの性質の差で納得が出来た。
「おししょーさま……こわ~い……」
「む……そうだな……」
背後からは、リンネとカドルの怯える声が聞こえてくる。カドルはどちらかというと、怯えているというよりは、嫌っているという状態に近いが、リンネは心の底から恐怖を感じているようだった。この辺りはどうにかならないものかなと思っているとシンキが口を開く。
「ふむ……その妖狐は、冥界の波動に怯えているのか?」
「ああ。そうだと思うが……」
そう言うと、シンキは少し黙り込んで思案を巡らせ始めた。
「それは、おかしいな。妖狐や天狼など、神獣は元々我ら、鬼族が生み出したものだ。冥界の波動の影響などないと思うのだがな……」
「あ? 現に怯えてんだろ? それに、他の者達も怯えているんだ。これはもう、慣れてもらうしかねえだろ。……というか、そろそろ始めようぜ」
「いや、ちょっと待ってくれ……」
俺が駆け出そうとすると、シンキは手を前に出して、俺の動きを止めて、更に思案を巡らせる。
せっかく、シンキが本気になり、俺も鬼人化の力を試せるというのに、なかなか試合を始めないシンキに、若干イラついた。
「まだか!? こっちは闘いたくてうずうずしてんだ、早くしろ!」
「……ん?」
怒鳴る俺に、シンキはキョトンとする。俺が何を言いたいのか伝わっていないらしい。
俺は更に苛つき、口を開こうとした。しかし、俺より早くシンキが口を開く。
「ザンキ……お前、どこかおかしくねえか?」
「何がだ!?」
「いや……何に苛ついてんだ?」
「何にって……だからなあ!」
我慢も越えて、もう、こちらから始めてやろうと思い、シンキに鬼火を飛ばそうとすると、突然、背後からカドルが声を上げる。
「ムソウ殿! 怒りを鎮めよ! リンネが倒れそうだぞ!」
「あ!? ……あ」
カドルの言葉に、思わず振り向く。
すると、カドルに掴まりながら、顔を青くしたリンネが肩で息をしている姿が目に浮かんだ。
「おし……しょー……さま……」
フラフラとしながら、泣きそうな目で俺を見てくるリンネ。俺は慌てて気を落ち着かせて、リンネに駆け寄ろうとした。
だが、カドルに止められる。
「待て、ムソウ殿! ひとまず鬼人化を解くのだ! 冥界の波動の影響を強くさせるつもりか!」
「あ? そんなこと言っても、俺は強めたりしていねえだろうが!」
「何を言っておるのだ! 先ほどから、冥界の波動が強まっているではないか!」
カドルの怒号に、首を傾げる。俺はそんなことはしていない。天界の波動と同じく、冥界の波動も、この状態で俺が気功スキルを使って、生まれる俺の気なのだとしたら、強めるとなれば、技を使う時だ。
そんなことしてないよなあと思いながら、ひとまずリンネを落ち着かせようと、カドルの指示に従って、鬼人化を解こうとした。
「あ、なるほど……」
だが、その瞬間に、シンキが手をポンと叩いた。見ると、何かに納得したように笑みを浮かべている。
「てめえ、何笑ってんだ、こんな時に!」
リンネが苦しんでいる時に、笑っているシンキに腹が立ち、怒鳴りつけながら、鬼火を投げた。
シンキは目を見開き、刀を抜いて、俺の鬼火を防ぐ。
「っと……落ち着けよ、ザンキ」
「落ち着いてられるか! この野郎ッ!」
「だから、落ち着けって。あの妖狐を助けたいならな」
更に追撃を与えようとしていた俺は、シンキの言葉に、動きを止める。シンキはリンネの具合の原因と、対処法が分かっているようだった。
「取りあえず深呼吸だ。やってみろ。意外と落ち着けるぞ?」
「……ああ。スー……ハアー……これで良いか?」
「ああ。俺の声が聞こえるなら、良い。
……さて、じゃあ、少し説明を……の前に、限界だな。ザンキ、ひとまず鬼人化を解いた後、妖狐の頭を優しく撫でて、落ち着かせてやれ」
シンキの言葉に頷き、俺は鬼人化を解いた。力が抜けると共に、俺の心もどこか軽くなっていく気がする。
俺は恐る恐るリンネに近づいていく。カドルに抱えられるぐったりとしたリンネを受け取り、元気づけるように、優しく頭を撫でた。
「あ……おししょーさま……」
「大丈夫か? リンネ……」
「うん……それよりも……もう、へいき?」
「俺か? 俺は何時でも平気だ。リンネ、すまなかったな」
「うん……ありがと、おししょーさま……」
リンネは俺の腕の中で、優しく微笑んでいる。
ひとまず、落ち着いてきたらしい。
俺はそのままの状態で、少し反省しつつ、シンキに向き直った。
「……それで、これは一体何が?」
「まあ、あくまで仮説だが、間違いないと思う。よく聞けよ?」
俺が頷くと、シンキは俺の鬼人化について、それからリンネの様子を見て感じたことを説明した。
「良いか? 先ほども言ったが、神獣は鬼族が生み出した生き物だ。いくら冥界の波動が命を奪う波動と言っても、そこまで恐れを感じることはない。
というか、冥界の波動にはそういった効力はないはずだ。忌み嫌うという感情は沸いても、命を奪われるという感覚にはならない。そうなったら、俺達鬼族は生活できないからな」
シンキ曰く、当時はこの世界のあちこちで確認されていた冥界の波動からは、命を奪われるという感覚はしなかったらしい。したとしても、少し気が落ち込んだり、疲れやすくなったりする程度で、先ほどのリンネのようにはならないという。
冥界の波動も天界の波動と同じく、命を司るものだ。天界の波動が「生」とするならば、冥界の波動は「死」。どちらも命にとっては大事なもので、命そのものを奪うということは無いらしい。
「じゃあ、カドルの様子は何だったんだよ?」
「あれは、龍族が特に冥界の波動を忌み嫌うってだけだろ。天界の波動を使って、神族が生み出した龍族は、いわば「生」の象徴のような存在だ。真逆の「死」を感じる冥界の波動は苦手なんだろうな」
シンキに言葉に、カドルは頷く。どうやら本当のようだ。
「我やリンネが恐れていたのは、冥界の波動では無いだろう。我が感じていた恐れの大元は、どちらかと言えば、ムソウ殿本体だった気がする……」
「俺か?」
カドルの言葉に驚いた。つまりは、俺から命を奪われるという感覚を受け止めたようで、カドルも先ほどのような状態になっていた。
そして、リンネも俺に怯えて、体調まで崩すようになった。……ああ、だから、先ほど俺に大丈夫かと聞いてきたのか。
しかし、ますます分からない。俺は二人にそんなことを全く思っていなかったからだ。そんなことするわけでもないのに、二人がそう感じたというのはどういうことだと感じた。
すると、シンキが続けて口を開く。
「まあ、二人が感じていたことは、恐らく俺も感じていたんだろうな。ザンキからは全ての命を奪うといった殺気のようなものが感じられた」
「殺気?」
「ああ。ハルマサ達から聞いたが、死神の鬼迫っていうんだっけ? 相手に殺意をぶつけて、動きを止めたり、気絶させたりするやつ。受けたことが無いから分からないが、そんな感じだ」
そう言われて、思いあたる節はある。樹海で鬼人化した時に、魔物たちがそういう反応になっていたのを思い出した。鬼人化を行うと、俺の攻撃性も高まる。その時は、それによって、俺の殺意が強くなったんだと思っていたが、どうやら、その辺りに先ほどのリンネの影響が関係しているらしい。
「恐らくだが、命を奪う波動である冥界の波動が、お前の中の殺意を増長させたんじゃねえか? それを制御できずに、辺りに散らしていたと考えられる。
殺意を制御できなかった証拠に、お前は苛つきやすくなっていたようだしな」
確かにそうだ。シンキの言うように、俺は先ほどまで普段はそこまでカッとならないような状況においても、苛つきやすくなっていた。シンキに対しては、攻撃するほどだ。
鬼人化をすると、俺の中にある殺意が膨れ上がるというのは事実だと思う。そして、シンキだけに行けばいいものを、それだけでは足りず、周囲に居たカドルやリンネにもその影響が与えられて、リンネは先ほどの状態になったというわけか。
図らずも、リンネに死神の鬼迫を使ってしまったことを理解し、申し訳なくなり、更にリンネの頭を撫でた。
「本当に……すまなかったな」
「もう、いいよ~。おししょーさまがやさしいこと、しってるもん! ……でもさ、シンキおにいちゃん。どうにかならないかな……?
おししょーさまがああなったら、もっとつよくなれるよ。もっともっと、ツバキおねえちゃんとか、ジゲンおじいちゃんとかたまちゃんとか、まもれるのに……」
リンネはどこか懇願するような顔で、シンキにそう言った。すると、シンキはニカっと笑って、リンネの頭を撫でる。
「そこだ。ザンキが鬼人化を上手く扱えるようになれるコツはそこにある」
シンキはそう言って、再び口を開く。
「あくまで仮説だが、さっきも言ったが、ザンキは自分の殺意の量を調整できるんだろ?それから、その範囲も」
「ああ。そうだが……?」
「なら、範囲を敵だけにすればいい。溢れているなら、全てぶつければ良い。簡単なことだろ?」
「いや……それが出来ないから、こうやってリンネ達も巻き込んでしまったんだが……」
「出来るさ」
シンキはそう言って、俺の肩に手をポンと置いた。
「ハルマサ達から聞いたぜ。お前も色々あったってな。
その結果、自分から全てを奪った世界を恨み、護れなかった自分さえも恨み、ただただ死に場所を探してさまよう男になって行ったって。
だが、その後、お前にもまた、護る存在が出来て、周囲に振り散らしていた殺気を、「げんり」って奴らだけにぶつけるようになっていったって。
ハルマサやツバキは、だからこそ、お前を頼もしく感じて、背中も命も、全てを預けることが出来たってな。
その時と同じ感覚を持ってみろ。今、お前は何を護りたい? 誰を護りたい? そいつらを護りきるために、その殺意を振るうという感覚になってみろ。絶対出来るはずだ……」
シンキの言葉に目を見開く。
そして、抱えているリンネ、そばに居るカドルに目を移し、俺は自らの手に目を落とした。
樹海でも思ったが、鬼人化しているときの俺は、周囲に殺意を振りまくだけの、昔の自分そっくりだ。
だからこそ強いとも感じるが、それだと、俺の周りの奴らに迷惑をかけてしまうことにも気づいた。
だから、鬼人化は一人の時か、使うにしても、よほどのことが無いと使わないと決めていた。
しかし、シンキの言うように、あの状態が、サヤとカンナを喪った後の頃の俺だとするならば、その状態から立ち直ることだって出来るはずだ。
思えば、あれから、俺の護りたいものは更に増えている。その為に更なる力を手にして、もっと大きなものを護れる強さを手に入れた。
この力を上手く扱えるようになれば、リンネも、ツバキも、闘鬼神の皆も、皆、護れると思い、手を握った。
「……やってみる」
「おう、その意気だ。今回は、俺にだけ殺意をぶつけろ。俺から、リンネと雷帝龍を護るためにってな……」
そう言って、シンキは少し離れて刀を抜き、俺達に構えた。
俺は息を整えて、リンネに向かって笑った。
「……リンネ。このままで良いか?」
「う~ん……」
このままの方が、その感覚を掴めやすいと思っての考えだったが、やはりリンネは悩んでいるようだ。
しかし、すぐにリンネはニコッと笑って、頷いた。
「うん! おししょーさま、しんじる!」
「よし! じゃあ、一緒に行くぞ! ウオオオオオッッッ!!!」
俺はリンネを抱えたまま、スキルを発動させた。
―かみごろし発動―
先ほどと同じく、俺の胸の辺りから黒い波動が噴き出し、身体を纏っていく。
その後鬼人化が完了し、俺は、自分の中に意識を向けてみた。
……なるほど。なんというか、色で言うならばどす黒いという感じか。底もみえないほどの怒りと、どこか血を見たいという欲求が、心を満たしている感じだ。
これは、“戦闘狂”なり、“死神”と言われても仕方ないなと、自分に呆れた。
俺は、俺の着物をギュッと掴んでいるリンネに意識を向けて、コイツを護りきるという感情を芽生えさせる。
そして、溢れていたどす黒い意識を一つの束にして、目の前で刀を構えているシンキだけにぶつけた。
「あ……」
「む……?」
すると、怖がっていた様子のリンネはハッとした様子で俺の顔を見上げる。掴んでいた襟を離しながら、だんだんと落ち着いていった。
カドルも何かに気付いたように顔を上げる。二人からは、先ほどの恐れているような感情は伝わってこない。
「チッ……これほどか……これはきついな」
一方、シンキだけは、顔を歪めながらも、どっしりと構え、俺を見ていた。こんな時になんだが、恐らく、俺が意識して使う死神の鬼迫の少し強めくらいの殺意を受けているはずなんだが、そのまま立っているシンキを凄いと思った。
ハルマサは腰を抜かし、トウガなら動きを止めて、リアでも恐らく今なら対応できないくらい強いはずだ。ここまで耐えるとは流石だと思い、少し気になって、俺はさらに死神の鬼迫をぶつけた。
「うおっと! おい、遊んでじゃねえ!」
体勢を崩しながらも、刀を突きつけて怒鳴るシンキ。俺は笑って、シンキの怒りを受け流し、リンネを地面に下ろした。
「……気分はどうだ?」
「へいき! やっぱり、おししょーさま、すごい!」
あんな目に遭っても、俺に憧憬の目を向けてくるリンネに少し泣きそうになりながら、頭を撫でた。
「ありがとよ……じゃあ、これから、アイツと遊んでくるから、お前はカドルと一緒に居な」
「うん! がんばってね!」
そう言って、リンネはカドルのもとに駆けていく。カドルは俺と目を合わせて頷いた。どうやらカドルにも、鬼人化した俺の影響は無いらしい。
安心して、俺はシンキに向き直る。
「シンキ!」
「あ? 何だよ?」
「ありがとう……俺はまた、更に多くを護れる」
「そいつは何よりだ……さて、今度はその力、存分に見せてみな!」
「おうッ! 覚悟しろ!」
俺達は笑い合い、お互いに正面から駆け出した。




