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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
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第262話―サネマサが帰ってくる―

 

 その後、レオパルドやトウガ達と風呂に入り、居間でジゲンや、ダイアン達とのんびり、飯の用意が出来るのを待っていると、玄関の方から威勢の良い声が聞こえてくる。


「俺だ~! 開けてくれえ~!」


 声の主はサネマサだった。アヤメへの報告が終わり、うちに来たようだ。ジゲンは出迎えてくると言って、席を立つ。

 そして、しばらく待っていると、ジゲンとたまがサネマサを連れて居間へと入って来た。


「お~っす! 今、帰ったぞ~!」


 サネマサがそう言うと、闘鬼神の者達は軽く頭を下げながら、労いの声をかけていく。サネマサは少し、ん? という顔をしながら、ジゲンに連れられ、俺が居る所まで来て座った。


「何だろうな……こういうのは初めてだ……」

「もう、皆さん、十二星天だからと言って、恭しくならないですね……」


 離れた所に居るコモンの言葉に、サネマサは、ああ、と納得している。俺も、なるほどと感じた。

 現在ここには、十二星天が既に三人いる状況だ。今更一人増えた所で特に皆驚かないようになっている。これだけの期間、皆と一緒に居れば慣れるものなんだなと俺も納得し茶をすすった。


「しかし、帰ったとは何だよ。俺の家だぞ」

「その前は儂の家じゃ。お前の家は、シンムにあるじゃろう……」

「もう、あそこは俺の家じゃねえよ。とてもじゃねえが、住めねえ……」


 たまに肩を叩かれながら、少し落ち込んだように呟くサネマサ。

 シンムの里にあるサネマサの生家が、観光地のようになっていることについては、俺も実際に行ったから知っている。家の各所に展示品などが置かれ、あそこは確かに人が住めるような環境ではない。

 聞けば、サネマサの知らない間に、いつの間にかなっていたとのことで、人を集めるついでに金を得るために行った、壊蛇の鱗での腕試しを、自分の家の庭で行ったことにより、シンムの里の住民、あるいは領主アヤメがあそこを観光地にしたとのことだ。

 人の家を勝手に改装するあたり、アヤメはサネマサに対して、クレナの問題について、いくらかの鬱憤はあったようだな。


「まあ、コウシ達も居るし、もう、ここが俺の帰る場所ってことで良いだろ」


 そう言って、ニカっと笑うサネマサ。そして、ダイアン達と共に今日の鍛錬のことについて話していた牙の旅団に手を振ると、皆、サネマサに応じて手を振っていた。


 すると、ジゲンが思い出したことがあるように、口を開く。


「そう言えば、サネマサ。コウシ達の件じゃが……」

「ああ、そのことなら、さっきアヤメに聞いた……まあ、少し寂しい気はするが、アイツら自身が決めたことだからな。もう、俺からは何も言うことはねえよ」


 コウシ達が刀精になることについては、ジゲンの口から説明するよりも早く、知っていたサネマサ。少しだけ俯きながらも、カドルの件や、大地の魂の管理のこともあって、サネマサはコウシ達の判断に納得しているようだった。


「すまぬの。また、お前が居ない所で色々と決めてしまって……」

「気にすんなよ。お前たちが、俺の話を聞かねえことなんてしょっちゅうあっただろうが。今更気にするようなことでもねえよ」


 そう言って、サネマサはジゲンにニカっと笑う。そして、肩を叩いていたたまを抱え、ジゲンの前に出した。


「今、お前が出来ることは、この子たちの未来を守ることだろ?俺のことは今まで通りあまり気にしなくて良いからよ。皆、好きに生きれば良い」

「ああ、そうじゃな……」

「で、だ。たま、コイツは俺の親友でべらぼうに強い男なんだが、こんな感じで今や年老いた爺さんだ。老い先短いから、しっかりと頼んだぞ」

「うん!」

「これ、縁起でもないことを申すでない……」


 たまの元気な返事に、サネマサが納得して、大笑いする中、ジゲンは頭を抱えている。本当に仲が良いんだなと思いながら、俺は二人を見ていた。


 その後、三人でたまと遊びながら、これまでのことと、今後のことを話し合う。サネマサもどうするのかと確認すると、コウシ達が刀精となるのを見届けるまでは、ここで過ごしたいと申し出てきたので、頷いた。

 シンキの件もあるし、それまでは別に良いだろうと考えている。


「しかし、それじゃと武王會館の方は大丈夫なのか?」

「まあ、何日かに一回は様子を見るつもりだが、恐らく問題ないだろう」


 王都にある武王會館の弟子たちのことを気にしているジゲンに、サネマサはニカっと笑い、武王會館の仕組みについて説明を始めた。


 まず、武王會館には、大師範サネマサを筆頭に、三十人の師範代が在籍している。武芸から一般作法、茶、舞、楽事に至るまで武王會館で教わる内容は多い。その為、サネマサ一人では回りきらない。

 通常、多くの弟子たちはその師範代から直接指導を受けて、サネマサはツバキが言っていたように、時々様子を見るということになっている。


「つまり、その師範代って奴らが居る限り、お前が居なくても武王會館は大丈夫ってことか?」

「端的に言えば、そういうことになるな。今や、俺はアイツらの補助をしている」

「にしても、お前が礼儀作法とはな……」


 ツバキを見ていてつくづく思うが、アイツの所作は綺麗なものだ。ツバキは武王會館で習ったとのことだが、サネマサを見る限りそれは信じられない。どちらかと言えば、庶民的な俗っぽい所作をする男だからな。

 どうやったら、そんな師範代がついて、ツバキのような者が育つのか、はなはだ疑問に思っていると、サネマサは口を開く。


「俺だって、多少気を遣う人間の相手をする時くらいあるからな。その時は、色々勉強していたんだよ」


 聞けば、王都で過ごすうちに、貴族たちの相手もすることが多くなり、箔をつけるために最初は独学で勉強したという。全てのスキルを持ち、それらを極め、サネマサ自身も器用な男なので、その辺りは難しいことではなかったという。

 そうしていると、サネマサの立ち振る舞いと、武器術に憧憬を抱いた者が現れ、そいつらと一番弟子であるロウガンを育てているうちに、武王會館設立に至ったという。


「ロウガンに関しては惜しい人材だったな。アイツは、若い奴らを育てるということに向いていたからな」

「確かに。面倒見のいい奴だった」


 何せ、俺に対しても色々と気遣いが出来る男だったからな。その結果、マリー達精霊人姉妹、リンスやギリアン達に信頼されていたからな。

 どちらかと言えば、館長にふさわしい器を持っているのは、ロウガンじゃねえかとさえ思う立ち振る舞いだった気がして、思わず笑ってしまった。


「ま、そんな感じだから、武王會館のほうは大丈夫だろう。ただ、俺もツバキから話は聞いたからな。少し、弟子たちとの距離を縮めようとは思っている」


 ああ、そういや、ツバキは自分の思いを上手く話せたと言っていたな。どうやら、その効果は大きいようだ。

 サネマサも、これからは自分の弟子と同じ様な目線で接していく気になっているようだ。良い傾向だなと思っていると、ジゲンが口を開く。


「ふむ……しかし、三十人の師範代か。ツバキ殿を見る限り、腕も達者のようじゃが……?」

「ああ、そこは問題ねえよ。どいつもコイツもそれなりの腕を持っている。コウシ達とはほとんど互角だぞ」


 ほう……やはり、この世界も広いな。牙の旅団に匹敵する強さを持つ者達がまだ居るのか。

 以前から武王會館には興味があったが、本当に行ったら、胸を借りたいものだと思った。ジゲンもサネマサの言葉に納得したようで、ニコリと笑っていた。


「サネマサがそこまで信頼するとはの。そこまで言うのなら、儂でも手こずる者達なのじゃろうな。少し興味が沸くのお……」


 どうやら、俺と同じことを思っていたらしい。ジゲンも好きだなあと思っていると、サネマサは少し慌てた様子になり、呑みかけていた茶によって、むせた。


「ば、馬鹿言ってんじゃねえ! 何する気だ!? お前と他の奴らを一緒にすんな!」

「む? そういうものなのか……?」

「なに、残念がってんだ! 確かに俺のところの師範代もそこらの冒険者達よりは圧倒的に強い。

 だが、お前に比べると雲泥の差だ! お前、いい加減自分が“化け物”だってことを自覚しろよ!」


 たまに背中をさすられながら放たれたサネマサの言葉に、ジゲンはフッと微笑み、分かった、分かったと頷く。

 なるほど……サネマサから見てもジゲンの強さは“化け物”と形容するほどのものなのか。ホント、ジゲンが味方で良かった。

 しかし、サネマサに「化け物」呼ばわりされるジゲンに今まで“規格外”と呼ばれていたというのは納得のいかない話だな。今度言われたら、即座に言い返してやろう。


「しかし、そうとなるとツバキ殿が今までどのような指導を受けていたのか知りたくなってきたのう」

「ん? どういうことだよ?」

「今は儂がツバキ殿に、技を教えているところじゃが、ツバキ殿に無理のないようにするには、以前教えていた者がどのような人間じゃったか知っておいた方が良いと思ってな」


 ああ、その方が良いなと俺もジゲンに頷いた。訳が分からないという顔をしているサネマサに、現在、屋敷で過ごすことが増えたツバキに、ジゲンが自ら剣術を指導していると説明した。

 ツバキも主な戦い方は、納刀した状態から敵を斬りつける抜刀術と、素早い動きで敵をかく乱させるという、ジゲンの戦い方に近いものとなっている。ジゲンから色々と教わるのは理にかなっていると思うが、それまでにどのような教え方をツバキが受けていたのかを知れば、より強くなれると思った。

 それまでの変な癖を知ることが出来るし、逆に伸ばせばいい所を教えることが出来るからな。

 俺達の話を聞いたサネマサは少し驚いた様子になりながらも、すぐにフッと笑って、ジゲンを小突く。


「俺の弟子を奪うなよ」

「ほっほ、ツバキ殿も、お前に直接教わりたかったと言っておったからのう。明日から時間がある時はそうすると良い」


 ジゲンの言葉に、サネマサは頷く。こうなったら、ツバキとシロウが更に辛くなるのではと思いながら、強くなることは別に悪いことじゃないと、二人を特に止めず、心の中でツバキに謝った。


「さて、というわけじゃが、ツバキ殿はどのような者に剣術を教わっていたのかの?」


 ジゲンがサネマサに尋ねると、サネマサは、う~ん、と悩み始める。


「……すまねえ。言ったように、俺は弟子一人一人を見ているわけじゃないからな。流石に分からねえな。

 第一、お前に言われるまで、ツバキが俺の弟子だったということも知らなかったからな」

「まったく……ツバキ殿がお前に不信感を持っていたのも頷けるのう……」

「面目ねえ。しかし、困ったな……」


 手詰まりとなり、二人でどうしたものかと悩んでいると、ジゲンの袖をくいくいっとたまが引っ張った。


「ツバキおねえちゃん、よぼっか?」

「む? そうじゃの。可能であれば、呼んできてくれんか?」

「わかった~! サネマサ様もまっててね!」

「おう、すまねえな、たま」


 サネマサに頭を撫でられたたまは嬉しそうな顔をして部屋を出ていく。


 しかし、直接ツバキに聞くという簡単なことを何故、この二人は思いつけなかったのだろうか。いつものジゲンらしくもないなあと感じ、何となく心配になるが、恐らくこれがこの二人らしいってことなのだろうと納得してツバキを待っていた。


 やがて、たまがツバキを連れて、居間へと帰ってくる。料理の支度をしていたのか、前掛けと手ぬぐいのようなものを頭に巻いていたが、たまに促されサネマサの前に正座し、それを取って頭を下げた。


「呼ばれてまいりました。大師範、お疲れ様です」

「おう。お前も、ご苦労さん」


 きちんと手をそろえて、深々とサネマサに礼をするツバキ。本当に所作の一つ一つが綺麗だなと感心していると、ツバキは顔を上げて俺の顔を見てきた。


「……それで、私が呼ばれたのは?」

「む、実はの……」


 俺の代わりに、ジゲンがこれまでの経緯を説明する。

 何となくだが、ここからはサネマサとジゲン、そして、ツバキだけの話になりそうなので、三人の会話に耳を傾けながら、たまと遊ぶことにした。


「なんか、こんなの前にもあったよね?」

「ああ。ショウブ達の時だな。今回も、爺さんの知らない一面を見れると思って、俺達は様子を見ておこうぜ」

「うん! でも……サネマサ様が帰ってきて、おじいちゃん、いつもより楽しそうだね」

「だな……」


 牙の旅団の者達以外に、ジゲンと対等に話しているサネマサ。それも二人は親友で、口では言い表せないが、どこか、いつものジゲンとは違うと感じていた俺とたま。

 ジゲンが楽しんでいる様子を見るのはたまも面白いと言って、少し離れた所で、三人の邪魔にならないようにしていると、ジゲン達によるツバキへの説明が終わった。


「なるほど……そういうことですね。

 えっと、私の場合は、基本剣術から抜刀術まで一貫してルチア師範に教わりました」

「ああ、アイツか……」

「お前一人で納得するでない。どのような者なのじゃ?」

「ツバキと同じで、女の剣士だよ。もっとも、使うのは刀じゃなくて、剣だがな。それも、レイピアって細剣だった。

 ただまあ、剣術スキルを極めていたから、そのあたりはあまり気にしなくても良いだろう」

「いや、そこは気にせんとな。スキルを極めているからと言って、それで出来るようになるのは、武具の扱い方だけじゃ。抜刀術など、変則的な技術には影響せんじゃろう」

「あ、そうか。あと、アイツは基本に重視する考え方だったな」

「ええ。剣を抜き、構えて、攻撃するという三連の動作をしっかりと教わりましたね」

「なるほどの。しかし、それじゃと抜刀術には向いておらんな。納刀した状態から素早く刀を抜き、敵を斬るのが抜刀術じゃ。構えという動作を省いておる分、こちらの攻撃がどのように届くのか相手には悟られづらい。

 だが、ルチアという者は武器を構えるのが性分のようじゃな。細剣じゃと、剣を抜き、構え、狙いを定め、突くという流れになり、どうしても動作が遅くなる。

 そうなると、それを抜刀術に組み込むと、動きがぎこちなくなる。鞘に納めた刀に手を置いた時が構えじゃからのう。鞘から刀を抜いた時に構えを意識しておるようでは、次の攻撃につながらんじゃろうな」

「ええ、そのあたりには苦労しましたね……」

「そうじゃろうな。では……」


 などと言いながら、三人はどのようにすればツバキがもっと強くなれるのか話し合っている。

 俺とたまは聞き耳を立てていたが、ふと、たまが俺の顔を見上げて困ったような顔をして、口を開いてきた。


「むずかしいおはなし……おじちゃん、わかる?」

「いや、原理は理解できるが、俺にもさっぱりだな」

「え、おじちゃん、つよいのに、わからないの?」


 心にグサッと来ることを言ってくるたま。そうは言われてもという感じだ。


「俺の場合は殆ど独学だからな。剣術などは習ったことが無いから、あそこまで言われてもよく分からない。大事なことは全部、実体験で培ってきた」

「むう……おじちゃんも、むずかしいことを言うね……」

「要は、俺の強さは闘いながら身に着けたものだ。

 たまは、違うのか? 料理も教えられて作るよりも、実際に自分で作りながら腕を磨いてきたんじゃないか?」


 そう言うと、たまは、あ、という顔をする。たまの料理の腕も、最初の基本はジゲンから教わり、後は自分で色々とやりながら、上達していったという。

 俺の戦い方と同じ様なものだと説明すると納得してくれたようだ。

 まあ、たまのは命をはぐくむもので、俺のは命をうばうもの、一緒にするなと自分で突っ込みたくなるが。


 しかし、あの三人、こういう話で盛り上がるとはな。ツバキも俺と居る時よりも、たくさん話しているようで、少し悔しくなる。

 確かにああいう話題が好きだということは聞いていたが、あそこまでとはな。

 しかも、呑み込みも良いから、これだとツバキもあっという間に強くなれるだろうと、心の中で期待しながら、三人の会話を聞いていた。


 やがて、一通りのことを話し終えたようで、三人は頷き合った。


「では、明日からサネマサと儂で、ツバキ殿とシロウの稽古をつけるとしよう。今までよりも、少しだけきつくなるが、良いじゃろう?」

「はい、それはもう、覚悟の上ですので……」


 二人の前で、苦々しい顔をするツバキ。偶に、一緒に街を歩いたり、外に出るときなどは、ツバキの顔色が優れないということが増えている。

 それにより、最近ではリンネがツバキを気遣いながら闘うということを覚えて、ツバキはリンネに感謝していた。


「そんな顔するなよ。武王會館大師範の俺が、直接教えるのは、ロウガン以来だぞ。そこに、ジロウも加わるなんて、お前らは運が良い。堂々と胸を張れって!」

「はい、あの……頑張ります!」

「その意気じゃ。すぐにムソウ殿に追いつかせて見せるからの」


 そう言って笑い合った後、三人は俺に視線を移す。どこか不敵に笑っているツバキに、楽しみにしていると言うと、ツバキは強く頷いた。


 ◇◇◇


 さて、その日からツバキとシロウは、ジゲンとサネマサから稽古をつけてもらうことになった。

 シロウは憧れのサネマサから手ほどきを受けるということで、最初は目を輝かせていたが、今までよりも辛くなったということを実感し始めると、徐々に顔色を悪くしていく。


「オラ、シロウ! この程度でバテてんじゃねえ! それでもジロウの名を継ぐ男か!?」

「待ってくれって、爺さん! 少し休憩を――」

「俺を爺いと呼ぶんじゃねえ~~~ッッッ!!!」


 稽古をつける度に、サネマサの怒号が轟き、シロウの泣き叫ぶ声が聞こえてくる。


 しかし、この世界で最も強いとされる二人に稽古をつけてもらっているということで、他の者達は、羨ましそうな目で、ツバキとシロウを眺めていた。


 俺の方は、今まで通りレオパルドと依頼をこなしながら、偶にツバキ達の稽古に付き合ったりしている。

 ムソウもどうだ? とサネマサに誘われたが、模擬的なものは嫌だ、やるなら本気でと返すと、ニカっと笑って頷いた。

 無間がなおるまでは、サネマサと戦うのもお預けということで、色々と楽しみにしている。


 闘鬼神に関しては、基本的にはコウシ達に任せているが、リアや、ルイ、カサネなど、死神の鬼迫に若干の耐性がある者達や、自分から志願してきた者たちなどは、一緒に依頼に出たりすることもある。

 それぞれ、気配を探る以外にも、俺に武器の扱い方などを教えてくれと言ってきて、嬉しい反面、俺も扱ったことが無いものなどは少々手こずったりしていた。

 だが、適当に教えておくと、分かりましたと頷き、そこからは自分たちで腕を磨いているので、問題はない。

 これで良かったのかとは思ったが、それでも徐々に腕を上げている様子の闘鬼神に満足し、笑っていた。


 さて、その他にも俺は、薬づくりの方も引き続き行っている。色々と用事があるにも関わらず、神人化する俺の側で薬を作りたいというジェシカが加わったことにより、多少余裕が出来たので、時々サンチョを休ませては、ジェシカに調合のことを習いながら、薬を作っていた。


「それで、今はどのようなものを?」

「そうだな……そう言えば、虫よけの香と同じ様なもので、虫型の魔物以外の魔物にも効果的なものがあると聞いたのだが?」

「ああ、封獣剤のことですね。しかし、あれは人体にも危険なものですので、多用は出来ませんよ?」

「爺さんも言っていたな、それ。だから仲間に指示を出すという必要があるということだが、これをあの水で作ったらどうかと思ってなあ」


 俺達が作ろうとしているのは、サンチョが昔、魔物たちの殲滅の際に使って、ジゲンを困らせたという代物だ。

 獣に効くということで人間にも効果的なその薬は、ジェシカから見ても危険なものらしく、扱う者は限られているとのこと。

 だが、それは薬の成分に人間にも効く毒が含まれているからだ。ならば、魔物を浄化、あるいは封じることが出来るが、人間には無害という俺が作った水を使うのはどうかとジェシカに提案すると、ものは試しにと作ってみた。


 試行錯誤しながら出来上がったそれは、火をつけると、煙ではなく水蒸気が立ち上り、それに含まれている聖なる水があたりに漂い、魔物を弱らせるか、殺すというものだった。

 屋敷に居るだけでは、効果が分からないということで、ジェシカと共に、神人化した俺は、トウショウの里から離れて、どこかに魔物が居ないかと探しに行った。

 すると、下級の魔物であるグレムリンの集団が、パタパタと森の中を飛んでいるのが見える。俺達はそっと近づいていき、そいつらの近くで出来上がった薬に火をつけた。


 すると、他の薬の作用でそこからもくもくと聖なる水の水蒸気が上がっていき、辺りを覆った。すると……


「ギギャッ!?」


 グレムリンたちは、急に慌ててどこかへ飛び去ってしまう。

 どうやら嫌がる成分ではあるが、殺すとまではいかないようだ。

 浴び続けさせることが出来たり、もう少し浄化すれば、多少の傷は負わせられると思うが、下級のグレムリンであの程度なら、中級ではほとんど使えないのではと落胆していると、ジェシカはそれでもニコッと笑って口を開く。


「ですが、これなら野営の時などは便利ですね」

「まあ、そうだろうが、闘いの時に使えないんじゃなあ……」

「いえいえ、魔物たちに囲まれた際に、こちらを使って、魔物を弱らせ、その隙に逃げることも出来ますし、とどめを刺すことも出来ますね」

「意外と恐ろしいことを言うんだな……」


 偶にジェシカは、見た目とは裏腹に、怖いことを言ってくる。そんなこと言わなさそうな顔をしているから余計に驚く。

 何となく、笑顔で俺に毒を盛ってくるあの女が思い出され、ひょっとして、コイツのEXスキルって……と、考えていたところでジェシカが俺の肩をトントンと叩いた。


「まだ、何かご不満がありますか?」

「いや、特に無いが……」

「フフッ、せっかく作ったのですから、有効に使わないと、ですね」


 ジェシカはそう言って、ニコッと笑う。ああ、せっかく作ったこの薬が使えないと思った俺を元気づけようとしていたのか。


 なるほど、確かに“聖母”と呼ばれることはあるな。どんなことにも優しく、慈悲深い。何となくホッとする感じがする。

 やはり、ジェシカはアイツに似ていない……とも思ったが、アイツが居たから、どんなケガをしても大丈夫だと思って、俺は前に出続けていたんだよなと思い当たり、苦笑いした。


「どうかされましたか?」

「何でも無えよ。さて、ひとまず、この薬の効果は分かった。屋敷に帰って何個か作っておくとしよう」

「? ……かしこまりました」


 突然笑った俺を不思議に思いながらも、転送魔法を起動させるジェシカ。その後、俺達はその薬以外にも、回復薬などを作っていった。


 さて、俺がそうやって過ごしている一方、ジゲンもサネマサが帰ってきて、牙の旅団が勢ぞろいしたこともあり、前以上に皆とたまと遊んだり、街に繰り出したりすることが多くなった。


 しかし、街の外で何をやっているのだろうかと気になった俺は、ツバキとリンネと一緒に、ジゲン達を尾行したりしている。


「私達は何をやっているのでしょうか……?」

「別に良いだろ。こういうのも隠密の鍛錬の一つだと思え。リンネも楽しいだろ?」

「キュウ!」


 隠れてジゲン達を尾行するという行動に、どこか不服そうなツバキだったが、前の世界のツバキが最も得意だったことだからと、苦し紛れに説得すると、ようやく納得してくれたようで、俺に着いてくる。

 ちなみに、リンネは俺と同じく、最初から乗り気だ。俺の肩の上で、今日はたまと、エンミ、ミドラ、タツミを連れたジゲンの行方を見守っていた。

 さて、屋敷を出てから、下街を歩いていく五人。すると、住民たちが出てきては、ジゲン達に声をかけていく。


「あ、ジロウ様! 本日も、お元気そうで、安心です!」

「うむ。お主も元気そうじゃの」

「今日はたまちゃん連れてお出かけですかい?」

「ああ、皆でみつやに行くつもりじゃ」

「それはそれは……自由に上街に行けるってやはり、気分が良いですね。私も昨日行きましたが、美味しかったですよ」

「ほう、それは楽しみが増えたわい。ありがとう」

「ははあ……ジロウ様、ありがたや、ありがたや……」

「これ、金物屋。お主は儂と同い年くらいじゃろ。そのようにされては少し困るぞ……」


 手を合わせる婆さんにジゲンが困っていると、その場でどっと笑いが巻き起こる。流石“大侠客”、人気者だな。

 後で聞けば、今日以外にも、買い物などで街に出るとあんな感じになるらしく、闘いが起こった日からは、タダで色々と貰うとのことで、ジゲンは困っていたが、たまや女中たちは喜んでいた。

 トウショウの里の住民たちにとっても、ジゲンは大切な存在なんだなと思い、俺もトウヤの故郷の村の連中を思い出して笑っていた。


 さて、ジゲン達の目的の場所が上街にある、みつやという甘味屋ということが分かり、その後も尾行を続ける。

 すると、花街の門に差し掛かった時、街の境を大きく跳ねながら一歩で跨ぐツバキ。何をしているのだろうかと思っていると、こちらに振り向き、ニコッと笑った。


「本当に、楽なものですね」


 なるほど。以前はここを通るたびに闘宴会に邪魔されていたからな。前も通ったのだが、俺も何となく可笑しくなって、門の境を一気に越えた。


「いずれ、この門も取り壊されるだろうな」

「ええ。そもそも必要のないものですから」


 先ほど、ジゲン達に寄っていた住民の一人が言っていたように、今は、トウショウの里の住民全てが、自由に街を行き来できる。街も復興して、本当に平和が訪れたんだなと肌で実感した。

 そのおかげで今日みたいな遊びが出来るとも感じ、どこか楽しそうになってきているツバキと共に、その後もジゲン達を尾行していく。


 そして、花街に到着するや、完成した新しい高天ヶ原に目を見張る。純白の壁がどこまでも続き、そこに極彩色の装飾が施されている。煌びやかな赤い屋根にはいくつもの提灯が並び、開いた窓からは通りに向けて時々妓女が手を振っていた。

 一階の部分も同じような感じだが、見世のようになっているところが分かる。本当に、大きく一つの建物に、色んな部屋があるんだなと感じた。

 これを作り上げたコモンと天宝館の職人、そこに闘鬼神が手伝っていたということを思い出し、本当によく頑張ったなとアイツらを労った。


 さて、花街に着いても、ジゲンの人気は相変わらずだ。それに、妓女たちは屋敷に居たということもあり、たまや、牙の旅団の者達にも妓楼の見世から声をかけていく。


「あら、ジロウ様。今日は皆さんでお出かけですか?」

「うむ。上街のみつやにの」

「そうですか。お帰りの際はぜひ、新生高天ヶ原にお立ち寄りくださいね」

「子連れじゃ、行くわけないじゃろう」

「そんなこと言わずに、ね、皆さんも……」

「子連れって言ってるでしょ? それに、女の私を誘ってんじゃないわよ」

「男女関係なく楽しんでくださ~い」

「こちらの話、聞いていないですね。流石、花街の妓女」

「屋敷に居た時はそんなに何も思わなかったが、妓楼に戻ると人間が変わるな……先を急ごう」


 ミドラの言葉に、ジゲン達は頷き、事情を知らず、小さく手を振るたまをおぶって、ジゲン達はそそくさと花街を去っていく。

 通りを歩く者達は、話しかけたかったのか、残念そうにしていた。


 俺達も見失わないように、早足でジゲンを追っていった。すると、ジゲンが去って落ち込んだ様子の妓女たちが、今度は俺達に気付き、声をかけてくる。


「あら、頭領さんもお出かけ?」

「ああ、急いでんだ。またな」

「そう言わないで……ほら、ツバキちゃんも」

「す、すみません。今日の所は少し用事があるので」

「またまた~、頭領さんとデートでしょ? うちで愉しんで行ったら良いのに」

「それは、またいずれ行いますから――」

「何言ってんだ、ツバキ! ほら、行くぞ!」


 でえとというものが何か分からないが、ツバキの言葉に、何となく悪寒がして、慌てて手を取り、その場から早足で去っていく。何やら周りから歓声と微笑が聞こえてきて、なんともむず痒い。


 そんなことを思いながら、花街を歩いていくと、一つの窓から見慣れた女が顔を出す。

 それは高天ヶ原の四天女の一人、トウリンだった。四天女がこんな人目のつきやすい所に居ても良いのかと思ったが、街の様子から俺達に気付き、顔を出しただけのようだ。

 トウリンは普段着なのか、地味な着物を着崩しながら、煙管をふかし、俺達と目が合うと、クスっと笑う。


「あら、お二人さん、逢引き? 色茶屋なら、向こうに――」

「違う!」


 とんでもないことを言い出しそうなトウリンの言葉を無視して俺はその場から去っていく。トウリンにツバキは頭を下げ、リンネは前足を振りながら、不思議そうな顔をしていた。

 あの女、リンネに変なこと教えたら、本当に許さねえ。

 リンネに何を聞かれても、しらばっくれようと誓った俺だった。


 その後、街から外れたところで、ジゲンに追いつき再び尾行を開始する。

 ジゲン達はそのまま上街へと向かって行き、通りから少し外れて、様々な飲食店が並ぶ通りに出た。

 そして、多くの、特に若い女が大勢いる店の前で立ち止まる。その店の看板には大きく「みつや」の文字が書かれていた。店の周りは、果物のさわやかな香りだったり、砂糖を煮詰めたような香ばしい匂いが立ち込めていて、リンネが飛びだそうとした。

 俺は慌ててリンネを捕まえ、ジゲン達の様子を伺っていた。


「着いたようじゃの。やはり店構えは新しくなっておるが……」

「でも、相変わらずいい匂いがするわ……」


 エンミが、店から漂う甘い香りを嗅ぎながら、どこかうっとりとした様子で居ると、ミドラが呆れたように口を開く。


「ホント、もう隠す気ないんだな」

「ええ。大したことじゃないしね。それに、ここに来たら誰だってこうなるわよ。クレナ一番の甘味屋よ。たまちゃんも期待しててね」

「うん! 私も楽しみ~!」

「フフ、たまちゃんは本当に可愛らしいですね~……」


 微笑みながらたまの頭を撫でるタツミ。すると、ジゲン達はタツミをジトっととした目で見始めた。


「タツミ……お主……」

「な、ど、どういう目ですか、それは!? 違いますからね!」

「何も言っておらんじゃろう……たま、こっちに来るんじゃ……」

「ん? うん!」


 不思議そうな顔をしながら、たまはタツミから離れて、ジゲンと手をつないだ。

 僕は違いますから~! というタツミの言葉を無視して、ジゲン達は店の中に入ろうとする。


「さて……では行くかの」

「ええ。けど、ジロウ……その前に……」

「……じゃな」


 よく聞こえないが、ジゲン達が店に入る前にそれぞれ顔を見合わせてから頷き合っている。

 するとジゲンは今来た方向、つまり俺達の居る方向に向けて口を開いた。


「ムソウ殿達もどうじゃ? ここの甘味は天下一品じゃぞ」


 俺とツバキはハッとし、顔を見合わせる。まさか、ここに居るのがバレているとでも言うのだろうか。

 いや、しかし、はったりかも知れないと思い、そのまま黙っていた。今まで隠れて尾行していたのが、既にバレていたというのは、酷く恥ずかしいからな。

 このまま居ないということで貫き通そうとして、ジッとしていると、ジゲン達から更に声が聞こえてくる。


「出てこんのか? 何とも勿体ないのお~!」

「ここはクレナの名物ですよ。これだけこの街に居て、ここに来たことが無いというのは少し、問題ですよ~!」

「まさか、既に俺達がアンタらに気付いていたにも関わらず、これまで頑張って気配を殺しながら着いて来たってのが、恥ずかしいってわけじゃねえよな?

 いつもは堂々と敵の前に立つアンタが、そんな姑息な手を使っていたことがダイアン達やアヤメちゃんに知られるわけにはいかないって考えてるわけじゃないよな?

 本ッ当に居ないだけなんだよなあ~!?」


 くそう……ミドラめ、確信づいたことを言いやがって。アイツの挑発に苛つき、思わず殺意が芽生えるが、ぐっと我慢する。

 死神の鬼迫を使えば俺がここに居るということが確定されるからな。

 そのまま居ないってことで済ませてくれと念じながら、俺は必死に黙っている。

 ツバキがどこか呆れたようにため息をついた時、最後にエンミとたまが口を開いた。


「本当に美味しいのよ……リンネちゃん」

「一緒にたべよ~!」


 その言葉を聞いたリンネは身をよじらせ、俺の手から抜けようとする。


「こ、こら、リンネ! 動くなって!」

「キュウウウゥゥゥ~~~ッッッ!!!」


 甘い匂いにつられ、たまから声をかけられたリンネに、もはや俺の言葉は届いていない。尻尾を振り、足をばたつかせながら、俺から逃れようとしている。俺が必死にリンネを掴んでいると、再びツバキがため息をついた。


「はあ……ムソウ様、諦めましょう」

「何言ってんだ! こんなところで諦められ――」


 その瞬間、俺の手の中でボフンという音が聞こえ、リンネは獣人化して俺の手から逃れた。

 そして、身を隠していたところから顔を出し、ジゲン達の方に駆けていく。


「たまちゃ~ん!」

「あ、本当に居た! おじいちゃん、すご~い!」


 得意げな顔をするジゲン達の前にリンネが来ると、たまは手を叩き合って喜んでいた。

 すると、呆気に取られていた俺の前に、ジゲンが歩み寄ってくる。


「……さて、では店に入るとしようかの」

「……おう」


 俺は素直に頷き、ジゲン達に合流した。後ろから、ツバキ達のクスクスという笑い声が聞こえてきて、少し恥ずかしそうになりながらも、みつやに入っていった。


 そして、目を輝かせるたまとリンネ、それにエンミの前には果物の盛り合わせに、色々な甘味が乗った大皿が置かれ、俺とツバキは大福、ジゲンとミドラは団子、タツミには葛餅が置かれてそれぞれ、評判通りの味に満足した。


 その日は、ジゲン達に尾行していたことがバレて、若干悔しかったが、ツバキとリンネと一緒に、復興した街の中を歩くというのは楽しかったなあと思った一日だった。



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