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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
262/534

第261話―レオパルドに事情を話す―

 花見をした翌日からは、牙の旅団とカドルの力の関係を考慮して、外に出て依頼をこなすのは、俺とツバキ、リンネ、レオパルド、そして、神獣達が中心となって行った。人手が必要な時は、闘鬼神も参加する。

 とは言うものの、牙の旅団の話を聞いたダイアン達は更に腕を磨くべく、街に残って、牙の旅団の指導を受けることが多くなった。

 皆、それぞれの武具を継ぐべく、各々競い合うように鍛錬し、どんどん強くなっている。


 そして、たまとコウシ達が過ごす時間を増やすようにもした。今のうちに、たまにも思い出というものを残しておきたいからな。皆の鍛錬の合間には、ジゲンと共にコウシ達も街に繰り出したりしている。


 その度に、トウショウの里の住民たちから崇められるように声をかけられ、若干困惑することも多いが、たまは自分を育ててくれたジゲンや、その親友達であるコウシ達を自慢に思えるようになって楽しいと笑っていた。


 さて、俺の方は、依頼をこなしながら、シンキが訪れることと、サネマサとジェシカの帰還を心待ちにしている。

 サネマサ達については、俺も手伝いに行こうとしたのだが、アヤメによると、そろそろ次の領主が決まる頃だと言われて、落ち着いて屋敷で待機することに決まった。

 シンキについては、ケリスの屋敷の捜索が終わり、情報を纏めているとのことだ。あと一週間もすれば報告がてら、再びトウショウの里を訪れるらしい。

 シンキの事情を知らない者達は眉を顰めるが、その者達を俺が諫めて、頼むから、早く来てくれと心の中で願っていた。


 そして、花見から十日ばかりが経った頃、俺達が依頼を終えて庭で休んでいると、門の方から威勢の良い声が聞こえてくる。


「よお~! 帰って来たぜ!」

「ん? ああ、サネマサか。おかえり」

「おかえりなさいませ、大師範。それから、ジェシカさん」

「ええ、ただいま戻りました」


 門の前に居たサネマサとジェシカに声をかけると、そのまま庭に入ってくる。

 そして、庭に居る者達から、労いの言葉をかけられる中、サネマサが俺とツバキの方に向かってきた。


「何だよ~、俺が帰ってきたんだから、もう少し喜んでくれよ~」

「いや……そうか、分かった。サネマサ、おかえり。アヤメに報告は行ったのか?」

「隣接する領で起こった問題ですからね。アヤメさんも大師範の報告を待っていらっしゃると思いますよ?」


 淡々と語った俺達の言葉に、サネマサはハッとして、固まった。


「……行ってくる」

「おう、行ってらっしゃい」

「お夕飯、ご用意してお待ちしております」


 サネマサは小さく頷き、その場で転送魔法を起動させた。

 帰って早々慌ただしい奴だなと俺とツバキは笑い、残ったジェシカの方を向いた。


「さて……アヤメの方はアイツに任せるとして、取りあえず、何があったのかは俺も知っておきたい。結局、チャブラはどうなった?」

「はい。それが……」


 ジェシカは俺達の隣に腰を下ろして、チャブラの動向を話し始めた。


 既にジェシカがチャブラに向かった時は、暴動は全て鎮圧されていた。ジェシカはサネマサと合流した後、ツルギ達冒険者や騎士団と共に、領内全域にわたって救護活動や、壊れた建物の修繕などを行っていたという。


 一方サネマサは、ギルド支部長レックスと、騎士団チャブラ師団の師団長であるスライという男と更にそれぞれの幹部と共に、ひとまず前の領主に代わる統治者を選出するようにと、王都に申請した。

 俺から事情を聞いていたシンキと人界王オウエンはすぐにそれに対して、王都とチャブラに残っていた貴族の中から、優秀な人材を選出し、ジェシカたちが領民全ての傷を癒した二日後に新たな領主を任命するための選挙を行った。


 その結果、ブラウンというチャブラ出身で元は農場の主として財を成し、貴族となった男を領主として選出、事が事なので、異例の速さで任命したという。

 それが一週間ほど前の話で、それからは、ブラウンと共にひとまず統治の基盤を作り上げた所で、チャブラの騒動はひとまずの収束を見せたらしい。


「ただ、未だに先代領主ということになったリーガンさんと、賢人さんたちの動向が分かっておらず、王都と、レックスさんたちが必死でその足取りを追っていまして、ツルギさんたち「ムソウ一派」の皆さんも、それに協力しているようです」


 ジェシカの口から、「ムソウ一派」という言葉が飛び出し、それは一体何なんだ? という顔をするツバキ。後で説明すると言って、いったん落ち着かせて、ジェシカに頷いた。


「ふむ……だが、取りあえずチャブラは落ち着いたということで良いんだな?」

「表面上はそうですね。以前と同じように、平和そのものです」

「表面上……ここみたいなもんか?」

「ですね。ですから、私達も帰ってこられました」

「なるほど……それはご苦労だったな、ジェシカ。お前も明日からはここでゆっくりしていろ」

「はい、お言葉に甘えさせていただきます……」


 少しばかり、疲れたような顔をして、ジェシカは屋敷の中へと入っていった。


「お疲れのようですね」

「サネマサに苦労したんじゃねえのか?」


 ですね、とツバキは頷く。チャブラで色々ある中で、あれだけ騒がしい奴と一緒に行動すると、ジェシカといえども、やはり疲れるのだろう。

 明日からも、あまり無理はさせずに薬づくりの方は引き続き、俺とサンチョで行おう。ここでも頑張ってくれたのだから、王都に戻るまでの間は、ここの客人として、しっかり休養してもらおうと考えていた。


 その後、しばらく経ち、日も暮れ始めた頃、シュンっという音がして、コモンが庭に現れた。仕事を終えて帰ってきたらしい。


「ふう、ただいまです、頭領」

「おう、お疲れ……って、何持ってんだ?」


 ふと見ると、コモンは何か風呂敷のようなものを手にしていた。


「ああ、こちらは――」


 と、コモンが説明しようとした瞬間、俺の隣に居たリンネがサッと立ち上がり、コモンの前に飛び出した。

 そして、大きくしっぽを振りながら、キラキラとした表情でコモンを見上げる。


「できた!?」

「ええ、出来ましたよ。気に入ってくだされば良いのですが……」


 そう言いながら、コモンは手にした風呂敷を開く。そこには何枚かの着物が綺麗にたたまれており、リンネはそれを見ながら更に目を輝かせた。


「これ、わたしの!?」

「ええ。早速着てみますか?」

「うん!」


 リンネは嬉しそうに着物を手にし、屋敷の中に入っていく。

 どうやら、頼んでいたリンネの新しい着物が完成したようだ。やけに時間がかかったなあと思っていたが、良いものを作りたいということで、ツバキだけでなく、女中達やたま、そして、リンネ本人にもどういう柄が良いか、どういった形状のものが良いかということを調べながら、天宝館の服飾系の職人と共に試行錯誤しながら作っていたという。


「そこまでしてくれていたとは、ありがたいな」

「いえいえ、リンネちゃんの喜ぶ顔が見たくて、今回もあまり寝ていません!」

「……胸張って言うな」


 良いものを作ってくれるのはありがたいが、そのために寝ないというのはコイツの悪い癖だなと頭を掻く。厄介なのは、そういう状況でも、完璧なものを作り上げるコモンの腕だ。どうしたものかと思っていると、リンネが入っていった部屋の襖が開かれ、たまとアザミ、そして、何故か一緒に居るロロに囲まれ、リンネが出てきた。


「どお? おししょーさま、おねえちゃん、にあう?」


 リンネは着物の袖を持ちながら、その場で一回転する。


 着物の形状は、振袖のようなもので、リンネによく似合う白を基調としたものだ。そこに、色とりどりの花の柄があしらわれていて、子供らしいような大人らしいような印象を受ける。

 今はリンネが着ているから子供っぽさが感じられるが、同じ柄の大人ものをツバキが着ると、大人っぽさが際立つのではと思うくらいだ。

 着物を着て、様子を伺うようにこちらを見てくるリンネに俺達は笑った。


「なかなか似合ってんじゃねえか」

「ええ、とても可愛らしいですよ」


 そう言うと、リンネは両手を上げて喜び、たま達と手を叩き合った。ふと見るとロロがうっとりとしているようだ。

 なるほど。ロロがここに居る理由が大体わかった……。


「では、次です。少々お待ちください……」


 リンネが皆と喜び合っていると、アザミは襖を閉める。他の着物も見せてくれるようだ。

 コモンによれば、先ほどの着物は普段着用で、その他に戦闘用の服も作ってくれたという。

 そちらには耐久性を上げる性能だったり、魔力を上げる効果だったりを付与してくれているらしいが、もちろん柄などにもこだわっているという。

 どんなものかとツバキと楽しみにしていると、再び襖が開かれた。


「じゃ~ん、頭領、ご覧ください!」

「すっごく、かわいいよ!」


 何故か本人よりも嬉しそうな声を上げるロロとたまが手を開く中、リンネが姿を現す。

 今度は衣と袴に分かれていて、子供武闘家といった感じの服装だ。どこかの道場で稽古でもしていそうな様相である。

 こちらも色は白を基調とし、柄は無くほとんど無地だ。


 そして、先ほどと違うのは、頭に鉢巻のようなものを巻いている。鉢金のようなもので額に当てられた金属製の板には闘鬼神の紋章が彫られており、それがますます道場っぽい雰囲気にさせている。

 これは、コモン曰く、着物と一緒に合わせることでリンネの敏捷性を高める効果と、若干の物理耐性を付与しているという。


「どう……かな?」

「もちろん似合ってるさ。だが、本当にそれで戦えるのか?」

「うん! みてて!」


 リンネは大きく頷き、縁側に立った。そして、腰を落とすと、足元を強く蹴る。するとリンネの体は高く宙を舞い、リンネはそのまま一回転して、音も立てずに地面に着地する。

 跳んだ距離は今まで獣人化していた時よりも伸びている気がする。どうやら身体能力向上の効果もあるようだ。

 リンネの様子を見たコモンは、着物と鉢巻の性能に満足したように頷き、口を開く。


「上手くいったようですね。一応、汚れないように加工もしていますので、どれだけ走り回っても大丈夫ですよ」

「お、泥だらけにならないってことか。それは便利だな。それに、リンネもよく動けているようだし、良いものをありがとな、コモン」

「ありがと~!」


 リンネと一緒に褒めると、コモンはニコリと笑って頷く。

 すると、興味を示したのか、レオパルドが俺達に近づいてきた。


「お、獣人用の着物か。また、いい仕事してんな、コモン」

「ええ、リンネちゃんに喜んでいただけて良かったです」

「それは何よりだ……んで、肝心の魔獣の姿になったときは大丈夫なのか?」


 ああ、そう言えば、獣人専用の着物には、魔獣の姿になったとき、着物がリンネの力と同化するとか……。


「まだ、確認してなかったな。リンネ、いつものように獣の姿になってみろ」

「うん! え~い!」


 リンネは頷き、ぴょんと跳ねて、最初に本体である小さな魔獣の姿になった。見ると着物はどこかに消えているようで、その効果も無事についているということが確認できた。

 次に、リンネは大きな魔獣の姿になるが、こちらも同様に、着物を纏っているという感じでは無い。

 そして、最後にリンネは獣人の姿に戻った。すると、最初の着物を着ているリンネに戻り、それを確かめるように自分の体を見回したリンネはニコッと笑って俺の方を向く。


「できた~!」

「みたいだな。大切にするんだぞ。コモンがせっかく作ってくれたんだからな」

「これからは、ご飯も落ち着いて食べるのですよ」

「うん!」


 ツバキが優しく頭を撫でると、リンネは嬉しそうに笑った。そうだよな、いつもみたいな飯の食い方だと、すぐに汚れてしまいそうな気がするな。

 何せ、白だからな。まあ、その時は、リンネが落ち込まないように、瞬で浄化してやろうと決めた。

 そして、性能を見届けて満足な様子のレオパルドがコモンを労っていると、リンネも再びコモンに頭を下げた。


「コモンくん、ありがと~!」

「いえいえ、また、何か要りようでしたら言ってくださいね。今度も全力で作りますから」

「「その前にさっさと寝ろ」」


 俺とレオパルドが同時にそう言うと、コモンは頭を掻きながら頷いた。


「ハハハ……それは分かっていますが、その前に……」


 クスっと微笑むコモン。まだ、何かあるのかと、様子を伺っていると、コモンは、今度はたまの前に立った。


「ん? どうしたの? コモン様……?」

「いえ……ご迷惑をおかけしたお詫びにと、たまちゃんにはこちらを作りましたので……」


 不思議そうな顔をするたまにコモンが渡したのは、赤い宝石のようなものがはめられた腕輪だった。

 たまは、渡された腕輪を見ながら目を輝かせる。


「わ~! きれ~! ね、ね、これ、どうしたの!?」

「こちらは、以前ジゲンさんから頂いた烈紅玉という魔石を使った腕輪です。ジゲンさんに頼まれていた物なのですが、色々とありまして、完成が遅れてしまいました……」


 コモンの言葉を聞き、ああ、と、俺も思い出した。その魔石は、以前見世物小屋で、ジゲンとたまと遊んだ時に、ジゲンが景品として貰ったものである。たまに何か渡したいというジゲンが、コモンに預けていたな。

 あれは、確か、ジゲンの正体を知った時だったので、結構な時間が経ってることに気付く。あの直後くらいに、コモンは行方知れずになったのだからな……。

 リンネの着物を作る合間に作っていたらしい。そして、それを今まで迷惑をかけたお詫びとして、たまに渡しているようだ。

 綺麗なものを渡しながら、謝るというこの光景、どこかで見たなあと思いつつ眺めていると、たまは、腕輪をはめて嬉しそうな顔をする。


「すご~い! コモン様が、わたしにつくってくれた~! ね、似合う!?」


 たまは、興奮気味に側にいたリンネ達に感想を求めていた。


「うん! たまちゃん、きれいだよ!」

「たまちゃんも、良いものを貰ったねえ。羨ましいわ」

「はあ~……たまちゃんも、リンネちゃんも、可愛らしいですぅ~……」


 コモンから貰ったものを身に着け、喜び合っているリンネとたまを、顔を赤らめながら、うっとりとした表情で見ているロロ。流石の俺も、少し気持ち悪いと思った。

 ちなみに、この腕輪には、魔石の効果である、耐炎熱系の付与が施されており、これなら、料理で火傷をすることが無いと、たまは喜んでいた。


「相変わらず、コモンは粋なことするなあ」


 感心したようにレオパルドが呟くと、コモンはクスっと微笑み、俺達にしか聞こえない声でつぶやく。


「……まあ、ジゲンさんの約束を反故にしたとなれば、大変ですからね……」

「ああ、“刀鬼”の爺さんか……お前も何かされたのか?」

「火具槌を……粉微塵に……」


 ああ、なるほどと言う顔で、頷くレオパルド。聞けば、屋敷での攻防の際、コモンは得物である大金槌をジゲンに粉々にされ、レオパルドは、永久金属で出来た檻車を斬られたらしい。

 十二星天二人が、ジゲンにビクついているという光景は、何となく面白いなあと思いながら、ツバキと共に、嬉しそうな顔のたまとリンネを撫でていた。


 その後、リンネは、ツバキやロロと一緒に手をつないで、風呂場へと向かっていく。たまとアザミは仕事へと戻った。

 着物を着たリンネをうっとりとした目で眺めているロロを見ながら、やれやれと思い、残った俺とレオパルドは、その場でしばらくサネマサが帰ってくるまでの間、談笑していた。


「そういや、ミサキから聞いたが、俺達とシンジ、それからセイン達との関係について、アンタは知ってんだよな?」

「ん? ああ。それがどうかしたか?」

「いや、そんな状況で、シンジと仲良さげにするアンタが少し信じられなくてな……」

「まあ、色々とあるんだよ」

「その、色々を俺は知りてえんだ。教えてくれよ」


 レオパルドはそのまま俺の横に座って、じっくりと話を聞く体勢になる。

 シンキの秘密を俺が勝手に話すのはどうなのかと少し悩んだ。

 しかし、トウガ達とのこともあるし、このままシンキに対して俺が友好的にしていることに関して、コモン達が不審がっているという状況も、少しおかしいのではと思っていた俺は、レオパルドだけにでも、シンキのことを話すことにした。


「……分かった。少し信じられなくて、長くなるが聞いてくれ」

「おう。ゆっくり聞いてやるよ」


 そして、俺はレオパルドに、まずは自分のことを話し、かつてこの世界で起こった100年戦争ならぬ、邪神大戦のことを話し、十二星天シンジ・スガヤという人間が、実はその頃から生きている、鬼族のシンキということを話し、俺とシンキの関係について、全てを話した。

 流石にレオパルドは、話を聞いていても信じられないといった様子で、目を見開き、固まる。


「……そんなことが、あり得るのか!?」

「じゃあ、その時代を生きていた奴らにでも聞いてみよう」


 なかなか信じて貰えない様子のレオパルドを納得させようと、実際にシンキ達と闘ったトウガを呼んだ。


「何か用か?」

「ああ。レオに邪神大戦の話と、シンキの話、ついでに、俺とお前らとの関係を話したのだが、信じて貰えなくてな。お前からも何か言ってやれ」

「なるほど……レオ、何を聞いたか知らねえが、ムソウの言うことは本当だぞ」


 さらりと、俺の話を肯定するトウガ。レオパルドは更に困惑し、口をあんぐりと開けた。


「な……訳が分からねえ……」

「だろうな。だが、お前は俺達と同じこの世界とは別の世界から来た転生者だ。今更、この世界の歴史が違っていたとしても、さほど問題ないだろう?」

「そりゃあ、まあ、そうだけどよ……なら、俺にだけでも話してくれたって良かったんじゃねえか?」

「ムソウも言ったと思うが、この世界の歴史を改鋳させたのは、ラセツやアキラ達だ。子孫たちに、余計な心配をさせないようにするためってな。

 だから、俺達はそれに従っただけだ。わざわざ言って、お前たちや、それこそ、たまのような幼い子供にまで邪神族の脅威を知らしめる必要など無いだろう」

「む……」


 レオパルドは大きなため息をつき、黙り込んだ。少しばかり、内容が衝撃的過ぎて、頭の中を整理しているらしい。

 まあ、俺も初めて聞いた時は信じられないことばかりだったがな。だが、あの時は目の前にコウカが居て、更には前の世界からの知り合いであるエンヤが居たから信じざるを得なかった。

 俺よりも長く、この世界で生きているレオパルドは、これまでの話を信じるのに、俺よりも時間がかかるようだ。

 しかし、どこか諦めが着いたように、頷き顔を上げるレオパルド。


「……まあ、そういうことだったら、トウガとムソウの関係についても納得がいくし、シンジ……いや、シンキか。アイツの行動についても納得がいくか……」

「信じて貰えたようだな」

「ああ。ここまで来ると信じざるを得ないな……しかし、何ともアンタの周りは奇妙なことになってんだな」


 頭を掻きつつ、どこか面白そうにするレオパルド。コウカとエンヤから話を聞いた時にも思ったが、俺の周りに居た奴らが、過去のこの世界で、大きな闘いの渦に飲み込まれていたというのは、本当に信じられない話だ。

 そして、その中心に居たのが、前の世界で死んだはずの、カンナとサヤ。レオパルドの言うように、この物語は、俺にとってどこか奇妙なものだなと実感している。


「んで、その邪神族に備えるために、アンタの仲間と、嫁さん、それに初代人界王であるシンラ達は魂を未来に残そうとしたが、シンラと、嫁さんと、タカナリって男の魂が見つからない、シンキはそれを探しているってことで良いんだな?」

「ああ、詳しくは分からないが、そんなところだ」

「そして、シンキはシンジと名を変え、正体を隠し、十二星天の一人にして、王都の宰相をしていると。それも、かつての自分の仲間達との約束である、人界を護るために、か」

「本人はそう言っていたな。正体を隠してってところが、引っかかるが、歴史を変えた以上、鬼族が大地に居たらおかしいからだろうな」

「そ・こ・な・ん・だ・よ・なあ~!」


 レオパルドは大きくため息を吐きながら縁側に大の字になる。どこか呆れた様子で、頭をポリポリと掻き始めた。


「あの野郎……それなら、そうと言ってくれりゃあ、俺達も邪険に思うこともなかっただろうに……」


 何度も舌打ちしながら苛つき気味にそう呟いている。そして、また大きなため息。

 一体コイツらにどんな因縁があるのだろうと思った俺とトウガは、取りあえずレオパルドに事情を聞いてみることにした。


「お前らって、何でそんなにいがみ合ってんだ?」

「あ? ミサキから聞いたんじゃねえのか?」

「セインのことは聞いたが、シンキに対してはそこまで聞いていない」

「同じことだ。まずな……」


 と言って、レオパルドは、十二星天を取り巻く問題について、ミサキよりも詳しいことを話し始める。


 そもそものきっかけは、セインがギルドを設立して後、王政に口を挟みだしだし、ミサキ、コモン、ジェシカや、ここに居るレオパルドなど、自分のやりたいこと、前の世界で出来なかったことをやり遂げるために活動している派閥と、人界の中でも際立った特殊な力を持つ自分たちでこの世界を回そうとするセインや、騎士団長リー・カイハクなどの派閥に分かれたことである。

 自らの手で、人界全体を統治したいセインは、シンキを味方につけて、ミサキ達をも自分の領域に組み込もうとしているという。

 レオパルドたちが、シンキに苛ついているのは、そのあたりに原因があるらしい。


「王都で王の補佐を務める男が、セインの考えを肯定しているんだ。そうなれば、こちらが何を言っても、丸め込まれるだろう?

 今まで俺達のやることに一切口を出さなかったシンキが、急に王権を奪おうとするセインのやり方にさえ何も言わず、むしろ協力しているようなそぶりを見せたってのが気に入らねえ。今まで俺達も自由にやっていたのに、今やシンキが俺達を統制する立場にまでなったからな」


 それはシンキから聞いたなあ。人界の中でも特に際立った力を持つ十二星天を監視ついでに管理するというのは、何となく理解できる気がする。

 まあ、それこそミサキやレオパルド達に人界を支配しようという気が無いのは実際に会ってみて分かってはいるがな。


「シンキがお前らを管理するというのはそんなに嫌か?」

「まあ、それはお前らの話を聞いて納得はしたが、問題はセインの野郎だ。

 アイツは、俺の魔獣宴も、コモンの天宝館も、ジェシカの治癒院も、ギルドの一部に組み込もうと考えている。

 そうなれば、俺達は自由に仕事が出来なくなる。それをシンキが認めようとしているってのが気に入らねえんだよ」


 忌々し気に言い放つレオパルド。詳しく聞いてみると、今まで十二星天それぞれで独立して設立していた機関を全てギルド管轄にすることをセインは目的としているらしい。

 具体的には、レオパルドの魔獣宴に関しては、研究、調査する魔物はギルドによって定められた種類限定になり、その他の魔物はレオパルドであっても、研究すること自体が認められなくなるという。

 どの魔物が人間には無害で、どの魔物が有害かを解き明かしたいレオパルドにとって、その制約は厳しいものになるし、無害な魔物を知ることが出来れば、人族の暮らしも楽になるというレオパルドの考えを完全に無視しているというのが不服らしい。

 コモンとジェシカについては、天宝館、治癒院で産出されるものを全て商人ギルドで管轄するというものである。

 一見、商人ギルドによって各地に安定して広まりやすそうなものだが、そうなれば、より高い報酬を出した者達に優先的に商品が届けられることになり、一般の民たちには後回しということになる恐れがあるとのこと。

 コモンとジェシカは、一般の民から貴族たちまで平等に相手をしている。時には、民たちを優先する案件もあったりする。

 その中で、報酬により、序列のようなものが出来上がり、自分たちの作ったものを偏って使われるということに納得がいかないらしい。


「なるほど……そう聞くと、お前らの苦労が分かる気がするな」

「納得してくれたようで何よりだ。だが、俺達よりもサネマサの方はすでに深刻な問題が発生している」


 レオパルドは起き上がり、深刻そうな表情をする。


「深刻な問題?」

「ああ。セインを中心として、カイハク達が、サネマサが設立した武王會館を冒険者や騎士のファームとして設置しようとしている」

「ふぁーむ?」

「養成所みたいなもんだな。武王會館で武芸を学んだ者達は、冒険者になる際に少しだけ融通が利くようになったり、士官学校に入る際に入学金が免除され、騎士になりやすいようになっている」


 レオパルドが語った問題というのは、別に良いことではないかと思っている。というのも、確か、ツバキと、マシロ師団に居たリュウガンがそんな感じだったはずだ。

 二人は武王會館出身者として、士官学校に入学する際に、入学金が免除されたと嬉し気に語っていたのを思い出した。


「それで、何の問題が発生しているんだ?」

「良いか。サネマサが作った武王會館はあくまで一般の力の無い奴らが魔物などの被害から身を守るために作られたものだ。それは別に入った奴らが戦地に行ってもいいということを目的にしたものじゃない。

 そして、あそこは自分が強くなったと実感できれば、すぐに卒業できるという仕組みになっている。その為、若い奴らは少し強くなれたと感じただけで、武王會館を出て行って、冒険者なり、騎士になったりしている。融通が利いたりするからな。

 その結果、サネマサのところで学び、戦地に赴いた若い奴らが、年間で何人も死んでいっている」

「は? そんなにか?」


 俺が驚いていると、レオパルドは頷く。サネマサは特に武王會館で強くなった奴らがその先、どういう人生を歩めば良いかとかは決めていない。自分の思うがままに生きていて欲しいと考えている。

 その為、入門した奴らは武王會館で強くなりながら、自分のなりたいものに合わせてどのくらい強くなれば良いかと考えながら日々を過ごしている。


 そこに、セインとカイハクが示したそれぞれで融通が利くという条件により、サネマサが指示しなくても、武王會館で鍛錬している者達はおのずと冒険者や、騎士を目指すようになり、大した強さを持たないまま、そう言った道に進むことが増加したという。


 士官学校を経て、騎士になる者はまだ良いが、冒険者になった者達は、武王會館出身というだけで、最初の試験を行わず、それぞれの支部長の意見も聞かずに、無茶な依頼を受けては、死んでいくということが後を絶たないらしい。


「そんな状況を重く見たサネマサは、入門時に冒険者になりたいという者達には、それ相応の指導課程経て、卒業するようにという決まりを作ったんだが、それでは冒険者志願が減るとセインが言って、時々武王會館を訪れては、門下生を引き抜くという事態になっている。

 だからサネマサはセインと、同じような考えを持っているカイハク、それを認めようとしているシンキのことが俺達の中でも、特に大嫌いなのさ」


 なるほど……サネマサの気持ちはよく分かる。アイツが武王會館を設立した経緯はジゲンから聞いていたからな。

 牙の旅団を喪ったことを受けて、自分と同じ様な悲しみを背負わせないためにも、次の世代に強くなって欲しいとの願いがあったからだ。

 だが、セインたちによってサネマサの想いも伝わらないままに、自分たちの力を過信し、命を落としていく弟子たち。そんな状況になれば、サネマサがセインたちを嫌うというのは納得できるな。


 しかし、それにシンキが賛同しているかどうかには少し疑問が残る。あそこまでカンナ達のことを思い、人界を護っていくと決めたシンキが、そんなことを容認するのだろうか。むしろ逆な気がするが。

 ひょっとしたら、この件にシンキは関わっていないのかも知れない。それか、セインに上手いことそそのかされているという可能性もある。

 この辺りは、きちんとサネマサに説明して貰わないといけないことだなと、改めて感じた。


 そんなことを思っていると、話を聞いていたトウガが、レオパルドに口を開く。


「しかし、話だけを聞いていたら、お前には実害は今のところないな。それに、嫌っているのは、セインって奴であって、シンキは関係ないように思うのだが?」

「最初も言っただろ。人界の宰相が、一人の十二星天に肩入れしているってのが問題なんだ。それに、実害がないわけじゃないぞ。

 俺も、魔獣宴の責任者として、ギルドから定期的にあることを頼まれていて、仕事が増えているって状況だ」

「ほう。それはどんな仕事だ?」

「お前たち神獣の経過観察と、定期報告だ。要は、お前らが人界に牙を剥くか否かを向こうで判断するための監視ってところだな。

 仮に、俺がお前らのことを有害で危険な魔物だと報告するか、アイツらが勝手にそう思うことになれば、お前らを殺すために討伐軍を編成するだろう。

 更に言えば、本格的にギルドの一部として魔獣宴が組み込まれれば、お前ら天災級の神獣達含め、魔獣宴のより強力な魔物たちはセインに生殺与奪の権利を握られることになるだろうな」


 レオパルドの言葉に、トウガは目を見開く。どうやら、魔獣宴がギルドに組み込まれると、そこで飼育されたり、研究されたりしている魔物たちは全てセインないし、王城で管理をすることになるという。

 今のところは数が多い超級以下の魔物をレオパルドと共同で管理しているとのことだが、それだと、魔獣宴の目の届かないところが出るということにもなり、レオパルドは頭を抱えているらしい。

 更に、その結果、ロイドという貴族が、ワイバーンを持ち出すという事件まで発生し、王城の管理もずさんという事が目に見えてきている今、セインの言うことは信用できない状況になっているという。

 そんな、王城とセインが、自分たちを統括するということに納得がいかない様子のトウガは、プルプルと震えながら声を荒げ始めた。


「はあ? 俺達を殺すってか? 人間のガキが? 何故だ!」

「危険と分かれば、するだろうな、今のセインたちなら」

「お前が俺達を安全だと言えばすむんだよな!?」

「だから、今がそういう状況だ。ギリギリのところで踏みとどめているってのが、俺の仕事だな。

 俺がセインらの考えに頷かねえ限り、お前らに危険が及ぶことは無い。まあ、果たして、お前らにとっての危険足りうるかどうかは微妙なところだがな」

「当り前だ! 人間の小僧如きが、俺達に敵うと思ってんじゃねえ!」

「だが、人族全体ではそう思わんだろう。片や人界の英雄、片や古から生きている神獣。伝説上の存在と云えど、人界に牙を剥くと、信じ込ませることが出来れば、例えセインたちを返り討ちにしても、お前たちが大地で生きるということは難しいだろうな」

「お前、本当にそういう状況にさせるなよ! 俺にも、カンナ達との約束があるんだからな!」

「分かってる。お前にも、大層な役割があるってことを知ったからな。それに、俺はお前たちと離れる気は一分も無い。これからも頼むぜ、トウガ」


 興奮するトウガに、ニカっと笑い、顔を撫でるレオパルド。すると、トウガの様子は徐々に落ち着きを取り戻していき、フッと笑って頷いた。


「……ああ、頼むぜ、レオ」

「おう。差し当ってシンキが来た際には、お前らと一緒にその辺りの不満をぶちまけるとするかな」

「了解だ。あの野郎……そういうことになっているのなら、言えってのに……」


 トウガがシンキに対して少しばかりの不満が生まれた所で、俺とレオパルドが笑い、この話を締めくくった。

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