第260話―花見をする―
そうやって、皆と過ごしているうちに、庭の桜が満開になり、俺達はその日は全ての仕事をいったんやめて、花見をすることになった。
せっかくだから皆も呼ぼうということで、ギルドからアヤメとミオン、天宝館からヴァルナ、高天ヶ原からコスケとナズナ、そして、シロウやショウブ含めた自警団の者達も呼んで、盛大に開いた。
とは言うものの、高天ヶ原が出来てそこまで間が開いているというわけではないので、正直なところ、またか、という顔をしているがあまり気にならなかった。
花見ということで、皆少しいつもと比べて少しこぎれいな恰好をしている。女たちも少し化粧をしていて、冒険者達も何というか、きちんとした格好をしていた。
どの着物にも、闘鬼神の紋章があしらわれているあたり、コモンが用意したのだろうな。たまとリンネも、揃いの着物を着て、お互いに喜び合っている。
俺も皆に促されるまま、せっかく伸びてきた髭を剃り、きちんとした格好になっている。アザミたちが、紅でも差しましょうかと言ってきたが、流石にそれは断った。
しかし、庭に咲いた桜というのは、本当に綺麗なもので、皆に負けていない華やかさを帯びている。
花見の準備を皆がしている中、ぼーっと桜の木を眺めていると、ツバキが寄ってきて、穏やかな笑顔を向ける。
「ご結婚された時のことを思い出されていましたか?」
「ん? ……まあな」
満開の桜というのは色々なことを思い出させる。
サヤと祝言を挙げたのも、こんな風に満開の桜の前だった。それに、俺達の家にも桜が咲いていて、毎年サヤとカンナと一緒に、花見をしていた。
そして、玄李との闘いを終えた後も、そこに集まっていた者達と一緒に花見をしたこともあったなとツバキと一緒に桜を眺めていた。
ふと、ツバキを見てみると、皆と同じように、ツバキも綺麗な柄の着物を着ていて、俺が渡した羽織と、簪を差している。顔にも紅をさし、いつもよりも見違えて綺麗になっているなあと感じた。
「お前も気合入ってんな」
「ええ。私のお気持ちは変わりませんから……」
ツバキはそう言って、フッと微笑む。
またか、と思い頭を掻く。そして、仲睦まじく花見の用意をするダイアンとアザミ、シロウとナズナ他、他にもそういう関係になっているような皆の姿を見て、以前エンミとタツミが俺に言ってきたことを思い出した。
やっぱり、俺も自分の想いは言っておかないと駄目だよなあと思い、俺はため息をついて、ツバキに口を開こうとする。
「……なあ、ツバキ。俺は――」
だが、ツバキはそんな俺の口元に指を置いて、ジッと見てくる。
「……いけませんよ、ムソウ様。それ以上話されたら、恐らく私は落ち込みます。せっかっくの花見なのですから、それ以上は仰らないでください」
ツバキの言葉に目を見開き、固まった。そのまま、何も出来ないで居ると、ツバキはクスと微笑み、口を開く。
「それに、以前から申し上げていますように、今すぐどうのという話ではありません。ムソウ様もゆっくりされてもよろしいのですよ」
「……そうか? それにしては、お前は俺を急かしているように感じるが」
「そう思いますか……ですが、今はこのままで私は幸せです。そばにムソウ様が居て、リンネちゃんが居て、皆さんが居て……私はとても幸せなのです」
「そうか……それなら別に良いんだが……」
「後は、ムソウ様を振り向かせることが出来れば、完璧ですが……」
「いや、だから、俺はな――」
「聞きません」
ツバキは耳に手を当てながら、楽しそうに笑ってその場を去っていき、その先に居たリンネの頭を撫でたりしていた。
なんとも子供らしい一面に言葉を失い、誰も居なくなったところで俺はため息をつく。
俺の思いを伝えようとしても、本人が聞く耳を持たないんなら意味は無いよなあと頭を掻いている。
ふと、ツバキが差している斬鬼が目に止まり、助けを求めるように呟いた。
「どうすりゃいいか教えろ。あの時みたいに……」
俺の声が、かつて俺とサヤを結果的にだがくっつける要因を作ってくれたアイツに届いているかどうかは分からないが、何となくこの状況を楽しそうに眺めているエンヤが思い浮かび、更にため息をついた。
その後、花見の準備が整い、大量の酒と飯を前にした俺達はそれぞれ座って、花見が始まった。
最初はそれぞれで桜を眺めながら酒を呑んだりしていたが、徐々に盛り上がっていき、皆の前で何か芸を披露する場になっていった。
殆どが、舞だったり、武芸だったりする中、俺は自慢の空中早彫りを見せ、カドルの姿をした彫像を彫り上げると、皆は手を叩いて喜んでいた。
そんな中、ふう、とため息をついて立ち上がる男が一人いた。無論、ジゲンである。
「まだまだじゃの……」
やれやれと手を上げるジゲンも、俺と同じように薪を持っていた。それを天高く上げると、ジゲンも飛んで、薪と同じように落ちながら、刀を振るっていく。
そして、ほぼ同時に地面につきそうになった瞬間、ジゲンは刀を鞘に納めて、薪が地面につくまえにそれを手に取り、俺達に見せてきた。
そこには、大きな魔獣の姿のリンネの姿をした精密な彫像が手の上に置かれていた。俺と違って、空に投げて地面に落ちるまでの落下の勢いを全く変えないまま、一瞬で精巧な彫像を完成させたジゲンに、俺含めてその場に居た全員が拍手喝さいを送る。
ジゲンは手にした彫像をリンネに渡した。
「わ~い! ありがと~、おじいちゃん!」
「え~、リンネちゃんばかりずるい~!」
彫像を手にしたリンネを羨ましそうに眺めるたまは、私のも作ってと、ジゲンにねだる。すると、ジゲンは頭を掻きながら困ったように口を開く。
「人の形をしたものは難しいのじゃが、仕方あるまいな。コウシ、チョウエン、手伝ってくれんかの?」
「ん? 別に良いが……」
「俺達に何をさせるってんだよ?」
キョトンとした顔の二人にジゲンはコソコソと何かを話す。すると、納得したようにコウシとチョウエンは頷き、ニカっと笑った。
「それぐらいならお安い御用だ」
「たまちゃんを喜ばせてやれよ、ジロウ!」
「うむ……では、早速頼む」
ジゲンの言葉に、コウシは薪を手に取り、チョウエンとジゲンは向かい合い、チョウエンは刀を抜いた。
俺達が、これから一体何が始まるのだろうかと眺めていると、コウシが薪を大きく振りかぶる。
「じゃあ、行くぜ! おりゃああああ~~~ッッッ!!!」
コウシはそのまま思いっきり、薪を天高く放り投げた。
「よ~し! 来い! ジロウ!」
「うむ!」
それを見たジゲンはチョウエンに向けて駆け出したかと思うと、チョウエンは刀の峰の部分を上にして構えた。そこにジゲンは飛び乗り、それと同時にチョウエンがジゲンを空へと打ち上げる。
「行け~~~ッッッ!」
チョウエンのおかげでコウシが投げた薪のすぐそばまで到達したジゲンは刀の柄に手を置いて、抜刀術の構えを取る。
「奥義・瞬華終刀・二式!」
そのままジゲンは空中で目にも止まらぬ速さで鞘から刀を抜き、薪を攻撃しているようだった。はたから見れば、ジゲンの前で、勝手に薪が削れていっているようにしか見えない。地面という支えがない中で、同じような技を使えるのはすげえなと思っているうちに、ジゲンと徐々に小さくなっていく薪が地面へと近づいていく。
そして、スッと音も立てずにジゲンは地面へと降り立ち、そのすぐ後に落ちてきた薪だったものを手に取り、たまへと近づいた。
「どうじゃ? コウシ、チョウエンとの合同作じゃが気に入ったかの?」
ゆっくりと開かれた手の中に、両手を上げて喜ぶたまの姿をした彫像があった。それを見たたまは、目を見開き、大きく頷く。
「うん! すごい! おじいちゃん!」
「儂だけじゃない。コウシとチョウエンにもな」
「うん! おじちゃんたちもありがと~!」
ニコリと笑って、二人にも礼を言うたま。俺達が、アイツらはただジゲンと薪を空に上げただけじゃねえかと思っている中、満足げに、そして、何かやり切った顔をしてたまに手を振るコウシ達。
そして、たまは貰った彫像を大事そうに胸に抱え、ジゲンに飛びつく。ジゲンはたまを抱えながら俺とツバキ、シロウに視線を移した。
「まあ、お主たちもここまで出来るようにならんとのお」
俺だけの特技だと思っていた空中早彫りをこうもあっさりと、しかも速くて、俺のように彫りながら上に上げるものと違って、落ちていく薪の動きを一切阻害させない精密さと、素早さを目の当たりにして、何も言えない俺と、現在ジゲンから直接手ほどきを受けているツバキとシロウは何も言い返せず、ただただ、頷いているばかりだった。
さて、一通り全員の芸披露も終わり、しばし、穏やかな時間が過ぎていく。料理も少なくなり、簡単なつまみを食べながら酒を呑み、庭ではしゃいでいるたまとリンネ、それに神獣達をぼーっと眺めていると、俺の横にカドルが来てくつろぎ始めた。
「ふむ……ついこないだ、ここに邪神族が現れたとは思えないほど、平和な景色だな……」
「まあな……っと、そういやあお前は何時雷雲山に戻るんだ?」
「む? ムソウ殿は我に早々にここから出て行けと申したいのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「フッ、冗談だ。……そうだな。我も久しぶりにシンキ殿に会ってみたい。それに、エンヤ殿にもな。それまではここに居させてくれ」
ああ、そういえば、以前シンキがうちに来た時は、カドルも出ていたんだっけか。入れ違いになったもんな。
カドルがシンキと会うのも、壊蛇の時以来ということで、一目会っておきたいらしい。
それなら構わないとカドルに頷いていると、ふとジゲンが少し寂し気な顔をして、俺達の元に来た。
「雷帝龍殿……少し確認したいことがあるのじゃが……?」
「む? どうしたのだ、“刀鬼”殿。そのように改まって……」
カドルが顔を上げると、ジゲンは庭で遊んでいる牙の旅団に視線を移し、何か意を決したように口を開いた。
「……コウシ達は本当にこのまま生き続けることが出来るのじゃろうか?」
ジゲンの言葉に、カドルは目を見開き、固まった。しかし、すぐにフッと笑いジゲンの姿をまっすぐと見つめる。
「ふむ……気付いておったか……」
カドルはどこか納得したように、頷いていた。それを見たジゲンは寂しげな表情で俯く。
俺はどうすれば良いのか分からず、その場で困惑していたが、ふと、カドルが三人で話したいと言って、俺達を皆から遠ざけるように移動した。俺達はそれについていき、屋敷の縁側に腰かけた。
コウシ達がこのまま生き続けるのは難しい……ジゲンの質問の意味がよく分からなかった俺は、そのままカドルが話し出すのをジゲンと共に待っていた。
そして、しばらく経った後、カドルはゆっくりと口を開く。
「まず、これは確認だが、死んだ生き物の魂は、通常エンマ様とケアル様がおわす、大地から隔絶された亜空間、通称天界と冥界に行くということは分かっておるな?」
「ああ。そこで魂の人格を上書きして、新たな生き物として転生させる。いわば、輪廻転生の輪の中に組み込まれるんだよな?」
「うむ。だが、この大地への強い未練を持った者達、あるいは、何らかの要因でこの大地に魂だけ残った者達も中には居る。
そういった者達は、我らのように龍族、神獣、あるいは神族、鬼族による魂の依り代の力を使って、この大地に残ることが出来るというのも、理解しておるな?」
「うむ……今のコウシ達がまさしくその状態じゃの」
「他は、刀精になるって方法もあったな。斬鬼の中に居るエンヤがそれだ」
「そうだ。……まあ、刀精については置いておいて、魂の依り代でこの大地に残った者達は、依り代を与えた魔物たちの力によって生かされている、ということは知っておるな?」
カドルの問いに、俺は頷く。刀精になる前のエンヤ達もその方法で、数千年の間、大地に留まることが出来ていたと聞いた。正確には、依り代となった魔物の中で過ごしていたらしく、今のコウシ達とは少しばかり仕組みが違うようだが、カドルの話には納得できた。
だが、ジゲンは、何故か残念そうな顔で俯いている。一体何を考えているのだろうと思っていると、ジゲンは口を開く。
「……ということは、今も雷帝龍殿は、コウシ達が生き続けるために力を使っているということになるのじゃな?」
「ああ……やはり、流石“刀鬼”殿だ。察しが良い……」
ジゲンの言葉に、カドルは再び微笑み、頷いた。
俺は二人の言葉が信じられなかった。こうしていても横に居るカドルから伝わる力は大きなものだ。今も力を使い続けているとは信じられない。
しかし、よく気配を探ってみると、確かにケリスとの一件の時よりは若干弱まっているのが分かる。二人の言うように、カドルは現状、コウシ達を生き延ばせている代わりに弱くなり続けているようだ。
そして、そこまで聞いて、俺も気づいた。というか、思い出したことがある。不老と言えども、力を使い続けるとどうなるか、それには心当たりがあった。
「……じゃあ、このまま行くと、カドルも命を落としてしまうのかも知れないのか?」
「……ああ、その通りだ。それに、仮にまた邪神族との決戦ともなれば、満足に戦うことも出来ず、牙の旅団の者達と共に、我も無に帰すだろうな……」
予想通りの答えを聞いて、俺は絶句する。
エンヤ達を大地に留まらせていた神獣は、それによって力を失い、住処としていた山に魔物の軍勢が現れた際には、全盛期の力を感じさせることなく、死んでいったという。
同じ事がカドルにも言えるが、カドルの場合は、牙の旅団の者達が力を使う度にその消耗はかなり大きなものとなっているらしく、エンヤ達が依り代にしていた神獣達よりは、遥かに大きく弱り、このままだと、百年も待たずに、下級以下の魔物にまで力が落ちるという。
「ゆえに、牙の旅団をこのまま我が生き延びさせるというのは難しい。我も滅びたくないのでな……」
カドルには、かつてカンナ達と大地を護っていくという約束がある。
そして、先日現れた邪神族の存在により、数千年前の封印が破られようとしていることに気付いていた。
近々再び大地に邪神族が侵攻した際に、全力で闘いたいと思っているようだ。
ゆえに、いつまでも牙の旅団を生き伸ばせるわけにはいかないと決めている。
「……そうじゃな」
ジゲンは顔を抑えながら項垂れる。牙の旅団が復活してからのジゲンは、本当に楽しそうだった。実際見たわけではないが、まるでかつての自分を取り戻したかのように感じていたのだろう。
そして、この二十年を取り戻したいかのように、皆と接しているようだった。
そんな中、再び牙の旅団と今生の別れが来るということに気付き、酷く落ち込んでいるようだ。
「……何とかならねえのか? 例えば、定期的に俺がお前に天界の波動を与えるとか?」
せっかく平穏に過ごせるようになったのに、再びジゲンを落ち込ませるようなことはしたくないと思った俺は、カドルにどうにか牙の旅団をこのままに出来ないかと尋ねてみた。
「それでも、いずれ終わりというものは来る。あの者達が生き続ける限り、我の力は弱まっていく。ムソウ殿から力を与えられたとしても、満足な戦いは出来ぬだろうな」
「お前が闘わなくても良いだろ。その時は俺が全力でお前の代わりを務める」
「いや……我にもシンラ殿、ケアル様達との約束がある。来るべき、邪神族との大いなる闘いの際には、それに応えるため、他の龍族の者達と全力で人界を護らねばならん。その為なら、友の期待に背くことなど造作もない」
「このっ……!」
段々とカドルに苛ついてきた俺は、カドルにつかみかかろうとした。だが、それよりも先に、カドルは俺の肩を掴み、ジッと俺の目を見てくる。
「良いか、ムソウ殿、それに“刀鬼”殿。死んだ者というのは、どう足掻いても死んだ者なのだ。
死とは、そういうものだと生き続け、闘い続けたお主らは百も承知のはずだ。そう簡単に、死んだ者が生き延びて良いことなどどこにもない。
それほど、命というのは重く、意義あるものなのだ!」
珍しく、声を荒げるカドルの迫力に、思わず固まり、そして、言葉の意味を理解するのに、さほどの時間を要せず、納得し、黙り込んだ。
こうやって、今は楽しく一緒に暮らしているが、コウシ達は死人だ。死んだ人間が、今までと同じように、過ごすというのは、確かに間違っている気がする。
そして、この世界の魂の在り方についても、大きな問題が生じてくる。大地に生きる魂の数は一定。それが増えても減っても、世界のどこかしらで問題が出てくる。
俺が望むことはそう言うことだと気づき、項垂れた。死んだ者の魂を生き永らえさせる……それはある意味、俺達が闘ってきたスケルトンのような魔物を生み出すこととほぼ、同じ意味になる。
あれに囚われていた魂たちは、皆、昇天することに対して、俺に感謝してきた。生者が亡者の魂をあれこれと決めること自体、間違っているのかも知れない。
だが、それでも、俺はジゲンの為に何かしてやりたかった。皆を護り、俺の家族を護ってくれたジゲンをこのままにしておくのは嫌だった。
例え、この世界に悪い影響が出ても、ジゲンと牙の旅団をこのままの状態にするにはどうすれば良いのかと考えていた。
すると、横で落ち着いてきたのか、ふう、と息を吐いて、カドルが口を開く。
「……まあ、手が無いわけでも――」
「顔を上げろよ、ジロウ」
しかし、カドルの言葉を遮るように、別の声が聞こえてきた。俺達が顔を上げると、そこにはニカっと笑うコウシを前に牙の旅団の者達が勢ぞろいしていた。
「お前たち……聞いておったのか……?」
「ええ、最初から最後までぜ~んぶ」
唖然とするジゲンに、シズネがニコリと笑った。どうやら、急に席を立った俺達が気になり、ついて来たようだ。
そして、今までの話を全て聞いていたらしい。
だが、その割に皆の表情はそこまで落胆していないようだ。ジゲンに対して優しく微笑んでいたりしている。開き直っているような感じでもなく、そのことに俺は違和感を抱いていた。
すると、呆然とするジゲンに、牙の旅団の者達は歩み寄っていく。
「ジロウさん、雷帝龍様が今、仰ったように、僕たちはすでに死んでいます。なので、このままで居ることは難しいんじゃないかなとは思っていました」
「まあ、要は、この状況は予想通りってやつで、そこまで落ち込んでいねえよ」
ミドラの言葉に、他の皆も頷く。どうやら、コウシ達自身、自分たちの状態については、既に思い当たることがあったようで、今までの話にはすぐに納得できたらしい。
そして、各々覚悟も出来ているという。
呆然としていたジゲンは、スッと立ち上がり、コウシ達を眺めた。そして、目に涙を浮かべて、口を開く。
「本当に……すまなか――」
ジゲンはコウシ達に頭を下げようとしたが、ロウと、エンミがサッとジゲンの前に立ち、自分たちに謝らせないようにガシッと肩を掴んで動きを止めた。
「何度も言っているでしょ? 謝らないでって。私達の話を聞かないのはサネマサだけで充分よ」
「ああ。俺達はお前を恨んじゃいねえよ。むしろ感謝してるって何度言えば分かるんだ?」
二人の言葉に、ジゲンは目を見開く。言葉は乱暴でも、二人とも穏やかな表情をして、微笑んでいた。
そして、固まるジゲンの前にシズネがやってきて、ニコッと笑う。
「ほら、泣かないでよ。そんな顔のジロウ、私は見たくないかな」
「シズ……」
「それに、二人が言ったことは本当だし、私たち皆、あなたに感謝してる。ジロウと闘った時も楽しかったし、今だって……そこの頭領さんは、少し怖いけど、ジロウは変わらず、皆に優しくて……もっと惚れちゃった」
シズネはそのまま、ジゲンを抱きしめる。こういう形で想いを伝えられると思っていなかったのか、ジゲンはそのまま何も出来ないでいた。
俺とカドルは目の前で、ジゲンと牙の旅団がどこか良い雰囲気になっているのを黙ってみるしかなかったが、そこにサンチョが来て、ニカっと笑う。
「アンタも、そんな暗い顔してんじゃねえよ。落ち込んでくれるのは嬉しいが、アンタらが暗い顔をしていると、屋敷の人間たちが気にするぜ」
「……だが、このままだとお前たちが……」
元気づけてくるサンチョの言葉は嬉しかったが、先ほどまでの話から、牙の旅団はこのままだと、また、ジゲンの元から去っていくことになる。どうしてもこの状況で笑うということが出来ない、俺とジゲン。
そんな俺達を見て、牙の旅団は何故か、更に笑った。一体どうしたのだろうかと思っていると、タツミとミドラがカドルの前に立ち、口を開く。
「はあ……ジロウさんも、ムソウさんも少し早合点しているようですね……」
「雷帝龍様、こういうことは最初に言っておいてくれないと駄目だぞ」
「むう……言おうとしていた所にお主らが来たのではないか。我の言葉を遮りおって……」
雷帝龍はムスッとした表情になり、顔をそむけた。
そして、未だ唖然としている俺とジゲンに向き直り、雷帝龍はフッと笑う。
「……良いか? 先ほどから申している通り、我はこの者達の為に力を使い続け、その結果、命を落とすことになる。その為、この者達を我の依り代から解放しようと考えておる。
そうすれば、この者達は仮とは言え、肉体を失い、魂だけの状態となり、いずれは天界へと旅立つことになる。
……お主らはそれに納得がいかないようだが、それは仕方のないことだ。ここまでは分かるな?」
「ああ。だからどうするかって――」
「話を最後まで聞いてくれんか、ムソウ殿……」
再び苛つく俺をカドルは諫める。どうもコイツは回りくどい言い方ばかりしてイライラする。だが、このままだと話が進まないので、俺は黙った。
「魂の管理上、大地に存在する魂の量は一定……だが、その法則を無視して大地に残る方法が一つだけある……ムソウ殿と“刀鬼”殿はすでに知っておると思うのじゃが?」
そう言われても、何のことだか俺には分からない。しかし、ジゲンは何か思いついたようで、ハッとした様子になる。
「まさか……」
「左様……牙の旅団には、我の依り代から解放され、刀精になればそれも可能になる。
ムソウ殿の刀に宿るエンヤ殿のようにな……」
カドルの言葉に、俺もハッとする。ふと皆を見ると、うんうんと頷きながらジゲンに目を向けていた。 ジゲンはそのまま硬直して何も言えないようだった。
つまり、生者として、生き物としてこの大地に残るのではなく、命のないモノの魂、いわゆる刀精となって、この大地に留まれば、ジゲンと牙の旅団が離れることは無いという結論。
無論、これまでのように一緒に過ごすことはできないが、会いたいと思えば、この街にあるトウショウの祠に行けばいつでも会えるようになるので、問題ないのではとカドルは語った。
「まあ、こうやって過ごすのも悪くないが、刀精になってお前と一緒に闘えるってんなら、喜んでなってやるぜ。もちろん、俺は「阿修羅」の精霊にな」
「私は「与一」ね。リアたちとも一緒に戦えるのなら本望だわ」
嬉しそうに語るコウシ達。皆、各々が使っていた武具や道具の刀精になると意気込んでいる。
実はこの話自体、前々からカドルと牙の旅団の間で交わされていた話題らしい。クレナ全体を守護するというカドルの力が失われるというのは牙の旅団にとっても納得できる話で、刀精になるという結論には、すぐさま頷いたらしい。
「これからは、ジロウとここの闘鬼神、そして、雷帝龍様がクレナを護るんだろ?なら、俺も刀精になって皆と戦うってことで良いじゃねえかってな具合でな」
「ジロウやサネマサには悪いが、皆で話し合って決めたんだ。これなら、お前も納得してくれるだろ?」
ミドラに肩を叩かれ、固まったままのジゲン。
しかし、どこか嬉しそうで、刀精になることが楽しみだというコウシ達の顔を見たジゲンは涙を拭い、フッと笑った。
「……そうじゃの。そういうのも、悪くないのう……」
「だろ~? だから今、闘鬼神の奴らを鍛えてんだ。俺達を扱うなら、もっと強くなってもらわないとな!」
ああ、なるほど。それでここ最近の鍛錬に熱がこもっていたのか。
一応、牙の旅団の武具の後継者となっているのは、今のところ、ミドラがナズナに、タツミがショウブに、そして、エンミがうちのリアに言った具合で、その他の者達は鍛えながら、誰に自分の武器……後々の自分と共に闘う者を決めているのだそうだ。
ジゲンがこの屋敷に居る限り、いつでも、かつてのように共に闘うことが出来ると、コウシ達は笑っていた。そんな、皆に応えるように、ジゲンも元気を取り戻したようで、喜び合っている。
「では、儂も明日から皆の鍛錬に付き合うとしようかの」
「おう! アイツらを一人前に鍛えてやろう!」
「その前に、今のうちにたまちゃんの飯をたくさん食っておこうか!」
チョウエンの言葉に、ジゲンはそうじゃのと頷き、皆と一緒に俺達の側から離れていく。
「ね~、ジロウ、さっきの返事聞かせてよ~」
「何のことかの? 最近、歳の所為か物忘れがひどくてのお。先ほどまで何に落ち込んでいたのかすっかり忘れたわい」
「いや、そっちじゃなくて、私の――」
「ほれ、さっさと行くぞ、シズ」
「はあ……ジロウ、流石にそれはひど――」
「それよりも、エンミ、上街のみつやが、復旧したらしいぞ。今度皆で行かんか?」
「え、そうなの? それじゃあ、たまちゃん達と行こっかな」
「ちょ、ちょっと、エンミ! 私の味方をしてよ~!?」
シズネの叫びに、コウシ達は大笑いしながら、ジゲン達は桜の元へと向かって行った。
これからも続いていく牙の旅団の後姿を俺とカドルは、少し置いてけぼりにされたように感じながらも黙って見送っていた。
やがて、カドルはふう、と息を吐き、俺に視線を移す。
「さて、ムソウ殿。これで良いだろうか?」
「……ん? ああ、アイツらが納得しているのなら、もう良いだろう」
「そうか。やれやれ、ムソウ殿が怒ったときはどうしたものかと思ったぞ」
「それは……すまなかったな。ただ、お前の言い方も悪い。もう少し早く言ってくれれば良かったものを……」
「順序だてて説明した方が分かりやすいと感じたのだがな……」
「まったく……無駄に怒って何となく疲れたな……」
俺は少しばかり凝った肩を揉み、その場で背伸びした。すると、カドルはフッと笑い、口を開く。
「ムソウ殿は時々、直情的になるようだな。我と出会った時もそうであった」
「あ? ……まあ……そうだな……」
「そういう時のムソウ殿は、決まって仲間を想ってのことだから、我は良いなと思うぞ?」
「……そう言われると嬉しいが、やはり少し直した方が良いかも知れないな……」
俺自身、必死になることは別に悪いことではないと思ってはいるが、リアのようにどんな時でも冷静でありたいとも思っている。何となく、そっちの方がカッコいいからな。
今までのように、がむしゃらに敵を斬るのではなく、俺も年相応に落ち着いた人間になりたいものだなと感じていた。
「さて、アイツらが刀精になるということだが、その方法は分からないな。お前は心当たりがあるのか?」
「ん? 我にも無いが、詳しい者なら居るだろう。あの者に直接聞けば良いだけの話だ」
誰のことかと思ったが、すぐにわかる。斬鬼に宿るエンヤのことだ。一応は、アイツと同じ感じになるのだからな。トウショウの祠に言った際に、アイツからコウシ達にその方法を伝えれば問題ないか。
「じゃあ、シンキが来て、アイツもエンヤに会いたいって言っていたからな。その時に俺もトウショウの祠に行って、その時に色々とやっておくことにしよう」
「うむ。それまでは今まで通り、牙の旅団のことは全て我に任せておけ」
胸を張るカドルに、俺は頷き、神人化して光葬球を与えた。先ほど怒った詫びと、今も力を使っているというカドルを労う為だ。
光葬球を食らったカドルは減っていた力を取り戻したようで、俺に頭を下げ、共に皆の所に戻っていった。
その後、皆に大事な話があると言って、牙の旅団とカドルは、事のあらましを伝えた。
やはり皆、大きな衝撃を受けたようで、特に古くから皆のことをよく知っているアヤメは言葉も無く項垂れる。隣に居たミオンが気遣う素振りを見せるが、アヤメは俯いたまま動かなかった。
すると、牙の旅団の者達からコウシがアヤメの前にしゃがみ込み、項垂れるアヤメの両頬を引っ張る。
「へ……?」
「オラ、お前一体幾つになったんだ?このくらいでいちいちがっかりすんじゃねえ!
お前らもだぜ! 言ってんだろ、別にここからいなくなるわけじゃなくて、刀精になって、ここに居続けるってよ! そんな顔してんじゃねえよ!」
更に力を入れてアヤメの頬を引っ張るコウシ。たまらずアヤメはコウシの腕を掴む。
「痛へへへへへっ! は、ははへっへ!」
「ったく、領主になって、ギルド支部長とやらになってもまだ、俺達に甘えているらしい。ここらで本格的に鍛えてやっかな!」
コウシはグネグネと抵抗するアヤメの頬を回し始める。流石にやり過ぎか?ジゲン達と顔を見合わせて止めようと思っていると、アヤメたちの方から鈍い音が聞こえてくる。
「このッ! ……いい加減にしろ!」
「ガフッ!」
見ると、アヤメが拳を振り切った体制になっていて、その前にコウシが倒れていた。顔を大きく腫らし、凄く痛そうにしている。
あまりの光景に俺達が呆然としていると、アヤメは横になるコウシを指さして口を開く。
「……誰が……誰に甘えているって!? アンタの言うように俺もいい歳になったんだ!今更誰かに甘えたりなどするか!
俺が落ち込んだのはな……これからもアンタらが近くに居たら集中して仕事できねえって嘆いてんだよ!」
「あ、あの、アヤメ様……少し落ち着いては――」
「ミオン、黙ってろ。これは俺達の問題だ……」
「はい……」
アヤメを諫めようとしたミオンだったが、アヤメの迫力に圧されて、そのまま口を閉じて、スッと座った。俺に向けて音を立てずに口を開き、「こわい」と示してくる。
うん、俺も怖い。だから、こうやってジゲンと黙って、アヤメと牙の旅団を眺めている。
アヤメは唖然とする牙の旅団の者達に近づきながら口を開く。
「何時までも子供扱いしてんなよ! 俺だって、もう大人なんだよ!
もう……皆が居なくなったあの日から、皆や叔父貴が居なくなっても、大丈夫なようにしてきたんだ!
俺だけじゃねえ! ナズナも、ショウブも……そして、シロウも、皆に負けねえように、この街を護って来たんだ!
だから、アンタらももう、好きに生きたって良い! 昇天しようが、雷帝龍についていこうが、刀精になろうが、構わない! この街はもう……俺達の街だ!」
アヤメは牙の旅団に自らの想いを吐き終えて、肩で息をし始める。よく見ると、その眼には涙を浮かべているようだった。
そして、アヤメの言葉に頷くように、ナズナとショウブ、そしてシロウやコスケまでが立ち上がり、アヤメの周りに集まって、牙の旅団とジゲンをまっすぐと見ていた。
アヤメの言葉を黙って聞いていた牙の旅団の者達だったが、ふと、フッと笑ってそれぞれ口を開き始める。
「今のは少しばかり驚いたが、アヤメちゃんもそして、皆も立派になったようだな」
「ええ。見てよ、コウシのあの格好。アヤメちゃん、本当に強くなったわよね……」
「それも、ジロウとサネマサのおかげだろ? 良いことなのか、悪いことなのか……」
「良いことでしょう。おかげで、僕たちは今、安心していますからね」
「だな。……ただ、もう少し名残惜しそうにしても良かったんだが?」
ロウがそう言うと、牙の旅団の者達は意地悪そうな顔をして、アヤメをジッと見る。すると、アヤメは涙を拭いながら、ぶっきらぼうな態度で口を開く。
「何だよ……? 俺がそんなことしたら、アンタらは安心できんのか?」
アヤメの言葉に、やれやれといった感じに、チョウエンが笑った。
「ったく……ジロウ、アヤメちゃんをこんな感じに育て上げたことについて、責任とれよ」
「何故儂が……? アヤメがどう育とうと、アヤメの自由じゃろ。それに、これのどこが不満なのか儂には分からんのお」
なるほど……俺がジゲンに思っていたことは間違いではなかったのか。アヤメが何かする度に、「良い子に育った」というジゲンの言葉に、幾度も違和感を覚えていたが、牙の旅団も、同じ思いらしい。何となく安心していた。
「……ただまあ、そういうことなら、俺達も後のことはアヤメちゃん達に心置きなく任せられるってもんだな……」
「何時から、アンタらに任せられねえといけないってなったんだ? 俺はアンタらが生きている時からクレナ領主だ!」
サンチョの何気ないような一言にアヤメが食って掛かる。どうやら頭に血がのぼっているようだ。ここだけはアイツの悪い癖だなあと思っていると、アヤメの周りに居た者達が前に出てくる。
「アヤメさん、もう、そんなに荒れないでくださいよ。私達の気持ちが台無しです……」
「何だと!? 今は俺とコウさんたちの話だ! お前らは――」
「妾達にも、思うところはあるとアヤメは気付いておるか? アヤメにとって、牙の旅団の皆がどういう存在かは分かっておるが、妾達にも、思い出というのは会うのじゃぞ?」
「俺達にも、一言言わせてもらえると助かるんだが……?」
「アヤメ様……いえ、アヤメちゃん、こんなことで我を失うようでは、クレナ家に仕えてきた私も流石に怒りますよ?」
「ぐ……」
コスケの言葉に、黙り込むアヤメ。今更ながら、先々代からアヤメの代までジゲン達の従者を務めあげたコスケに思わず脱帽した。
流石にアヤメもコスケには何も言い返せないようだ。
そして、コスケは一歩前に出て、牙の旅団の者達にニコッと笑った。
「……まあ、ご覧の通り、アヤメちゃんも、ナズナちゃん達も、かつての皆様のように、ここをしっかりと護ってくれております。
ですので、皆様も無理してここに残ろうとしなくても良いのですよ?」
「いやいや、コスケさん。俺達は別に無理をしているわけではない。好きで今後もジロウ達や、ここの闘鬼神と闘いたいってだけなんだよ」
「そ~よ! アヤメちゃんがどんな領主様になったのか、それはもう、分かっているから。もう、私達が居なくても何とかなるって分かってるから、私達も好きに生きていくだけよ」
「生きていくというのは少しおかしい気がしますけどね……まあ、そういうことです」
牙の旅団の言葉に、コスケはフッと笑った。
「そうですか。思えば皆さんはそういう方々でしたね……分かりました。では、今後は刀精として、クレナを見守っていただけるとありがたいです」
「おう! 流石、コスケさんは話が早くて助かる!」
「つーか、コスケさんは引退とかしねえのかよ?」
「ええ。私も好きに花街を管理していますので。皆さんと同じようにね……」
そのまま、牙の旅団とコスケ、更にナズナ達は手を取り合って、今後のことを話しながら喜び合っていた。
その様子を黙ってみていたアヤメだったが、その背中をミオンがポンと押してニコリと笑う。
「何をされているのですか?」
「……え?」
「ここはアヤメ様らしく、俺も混ぜろ~! ……と皆さんに乱入するところでは?」
笑顔で拳をつきだすミオン。アヤメは目を見開いてミオンの顔を見つめたが、フッと笑ってミオンの頭を撫でる。
「だな……じゃあ、行ってくる!」
そう言って、アヤメも笑いながら皆の輪の中に入っていった。
結果的に、アヤメが元気になったということで、ずっと黙っていた俺とジゲンはミオンに近づいていく。
「何はともあれ、全部丸く収まって良かったな」
「あ、ムソウさん。居たのでしたらアヤメ様を止めてくれても良かったのですが……?」
「いや、ああいうのは当人に任せた方が良いと思ってな」
まあ、正直に言えば、若干アヤメの迫力に俺も圧されて何も出来なかったと言った方が正しいのだがな。恥ずかしいので、それは黙っておく。
「しかし、ミオン殿。アヤメを諫めてくれて、感謝する」
「い、いえ、ジロウ様。当然のことをしたまでです」
頭を下げるジロウに謙遜するミオン。ギルドの受付を担当する傍ら、領主としてのアヤメに仕えているミオンにとって、ジゲンも主の一人には違いない。
そんな人間に頭を下げられることが畏れ多いと言った感じだ。
ミオンの制止も聞かず、頭を下げるそぶりを見せては、慌てるミオンを見て、ジゲンは意地悪そうに笑っていた。
「何楽しんでんだ、爺さん。趣味悪いぞ」
「む? ばれてしまったか。アヤメに仕える人間がどのような者か知りたくてのお……」
「私で遊ばないでください~……」
「そうだぞ。それに、お前が気にすることじゃねえだろうが」
俺達の言葉に、ジゲンはそれもそうじゃのと、ケロッとして笑った。
そして、未だに倒れているコウシの元に行き、頬を叩きはじめる。
「これ、いつまで寝ておる? 起きんか、コウシ」
「うぅ……起きてるって……」
「何じゃ、意識はあったのか。つまらんのう……」
「ひでえ一族だ……ホント、アヤメちゃんは昔のような感じじゃ、ないんだな……」
「何を言うか。昔も今も可愛らしいおなごじゃろ……」
「……冗談だろ……?」
俺の頭の中に思い浮かんだ言葉と同じ言葉を呟きながらコウシはジロウに支えられながら立ち上がり、皆の輪の中に入っていった。
どこか、アヤメに対して、今度は怯えるような態度になっていて、皆は笑っていた。
俺とミオンも、笑いながらその光景を見ていた。
その後、俺は置いてけぼりにされている闘鬼神の皆に、笑い合っているジゲン達を指しながら、まあ、そういうことだ、と軽く言って、納得してもらった。
アヤメ達ほど、牙の旅団に情があるわけでもない皆は、すぐに納得するかと思いきや、やはり、ここ最近の鍛錬のおかげで、それぞれと過ごすことも増えてきて、どこか衝撃を受けているようだった。
だから、アイツらと今後も胸を張って戦えるように、しっかりと強くなれと伝えると、皆は力強く頷く。
そして、もう一人、少し落ち込んでいる者が居た。それはたまだった。
ジゲンと一緒に、牙の旅団にとって、これまで本当の家族のように接してきたたまにとっては、やはり辛いもののようだった。
「お前の気持ちも分かる。……だが、別にいなくなるというわけじゃない。それは分かってくれるな?」
「うん……でも、もっと、皆にわたしのごはんをたべさせたかった……もっと、おじいちゃんといっしょに、あそんでほしかった……」
「だから、アイツらが刀精になるまでに、お前には最高の料理を期待している。そして、お前もアイツらと一緒に今のうちに目いっぱい遊んでおけ」
「……うん!」
頭を撫でながら、たまにそう言うと、強く頷き、ジゲン達の元に飛び込んでいった。
何度も感じてきたが、今回も強く感じる。本当にたまは強い子だと感じた。
心配そうにたまを見つめるリンネの頭をそっと撫でる。
「大丈夫さ。たまは強い子だ。お前が一番よく知っていることだろ?」
「……うん」
「だから、もしもアイツが一人で困っていたら、お前が助けてやれば良いだけのことだ。出来るな?」
「……うん! リンネ、どんなことがあっても、たまちゃんとともだち! ずっと、ともだち! おじいちゃんとも、ともだち!」
「ああ、上出来だ!」
リンネを抱えて頭を撫でていると、ツバキもクスっと笑って、リンネの頭を撫でた。
そして、綺麗な桜の木の下、たまを中心として、笑い合っている皆の姿をずっと見ていた。
俺の屋敷の花見なのに、結果的に今日は牙の旅団にとって大事な日になったなあと思いつつ、ここには居ない、サネマサを思いながら苦笑いした。




