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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
災害級魔物を斬る
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第25話 ムソウの過去―父親になる―

 サヤのお腹に子供を授かっても、俺の仕事は続いている。一応近くの村の医者に頼んで、有事の際はエイシンに任せるようにした。

 エイシンは俺に殴られたことをかなり長く根に持っていたみたいだが、サヤのお腹が大きくなっていくと、前より一層、仕事に励むようになった。最近では食事まで作ったりしている。


 ……正直助かっている。エイシンにはどんなに感謝しても足りない。まあ、何かをする気はないけど。


 そうやって、過ごして、もうすぐ産まれるという時期になったとき。タカナリが気を利かせて、医者を俺の家に常駐するように計らった。おかげで、サヤの調子も良いみたいだ。


 そして、子供が生まれる日が近づいてくる。


 時々、見回り先の村で、声をかけられるようになってきた。最初は、俺という存在に、怯えていた村の連中も、流石に慣れたらしい。

 その日も村人たちは、俺に話しかけてくる。


「あ、ザンキ様! 奥様はその後どうですか?」

「ん? ああ。医者の話によると順調だそうだ」

「そうですか。……あの、良かったらこれ、どうぞ」


 村人は俺に野菜や魚の乾物を渡してきた。


「おい、これは?」

「村で、獲れたものです。いつもお世話になっていますから……」

「いや、こんなには……」

「ザンキ様の分じゃないわ。サヤ様の分ですから!」


 女の村人が、俺の肩を叩きながら言った。そして、村人たちは笑う。つられて、俺も笑った。


「ハハハ! なるほどな! では遠慮なく頂こうか!」


 俺はそれらを荷の中に入れて、見回りに出かけた。


 ……いい奴らだ。子供が出来たら、連れてくるかな……。


 そんなことを思いながら、俺は馬を走らせた。

 

 ◇◇◇


 ……その日、俺は集団での密入国者たちを見つけ、捕らえようとしていたが、奴らは武器を構え、俺に攻撃をしてきた。


 戦以外での、異国での武力行使はご法度だが、こいつらはそのあたりの事情に疎いらしい。俺を見るや、刀を抜き、俺めがけて矢を放ってきた。


「おい! ここはもう、安備の国だ。その行為はこの国に戦争を持ち掛けているのと同じ行為だ! それでもいいのか!?」

「うるせえ! 俺らの邪魔しやがって! 目にもの見せてやる!」


 そう言って、集団の中で一番偉そうな奴が俺に刀を振ってきた。俺はそれを弾き返す。


「今なら捕虜としてとらえるだけで済む。考え直せ!」

「はッ! どうせこのまま帰っても俺たちは国に裁かれるだけだ! だったらてめえを殺して、少しでも名を上げた方が良いだろ!」


 男はそう言って、俺の腹を蹴ってきた。


「ぐッ!」


 俺はそのまま後ろに倒れた。男はさらに刀を振ってくるが、俺は地面の砂を男の顔に叩きつける。


「くッ!て、てめえ!」


 男の刀はそれて、俺は体勢を立て直した。

 確かに、コイツの言うように、コイツ等の国というのは、自国の民に対しても容赦ないと聞いたことがある。国に仕える兵士と言えども、作戦が失敗した際には、すぐに処断するという噂は耳にしたことがあった。コイツ等は、このまま俺が捕らえる。そして、どうなろうとも、国に帰った途端、裁かれるという運命だ。

 だったら、帰って死ぬよりも、ここで俺を殺して、国にその首を持って帰った方が良いという判断をしたようである。有名になるというのも、考え物だなと頭を掻いた。

 男たちはなおも俺の言うことは聞こうとせず、得物を構えながら、俺を睨みつけている。


「……やれやれ。言っても聞かないなら、本気でてめえらを斬ってやる!」


 仕方ないと思い、俺は集団の中に突っ込んでいく。


 降り注ぐ矢を避けつつ、最初に矢を放ってきた5人を斬った。そして、その後、斬りかかってきた奴の攻撃を避けて、更にもう一人、もう一人と斬っていく。


「がああああっ!」

「ば、バケモノだあああ!」


 俺を見て、何人かは散っていく。だが、逃がすわけにはいかない。近くの村に逃げ込まれたりしたら大ごとだ。


 俺は逃げた奴らも追って、斬っていった。


 20人ほど倒して、あとは相手方のよく喋っていた偉そうな奴だけになった。


「ちっ! てめええええッッッ!」

「警告はしたはずだ」

「うるせえ! てめえも道連れに死んでやらあ!」


 男はそう言って服を開く。見ると、腹に何かを巻いている。


「これが何かわかるか? 爆薬だ! この量なら辺り一帯が吹き飛ぶぜ! てめえを殺して、俺も死んでや――」


 俺は喋り続ける男の腹を横なぎに切った。男の腹には一本の赤い線が出来て、そのまま、そこから血が噴き出た。


「ぐはあっ!」


 男はそのまま倒れていく。


 ……バカな奴だ。そのまま火をつければ俺を巻き込むことぐらいできたのにな……。


 俺は刀にこびりついた血を払い、密入国者を焼いた。死んでしまってはどうしようもない。ここに置いておくわけにもいかねえからな。


 ……自分の体を見ると、斬っていった奴らの血がこびりついていた。


 俺は、死体の処分を終えると、帰路につく。


 家に帰ると、エイシンが飛び出してきた。


「おおッ! ザンキ! ようやく帰ったか! ってなんだ!? その恰好は」


 帰って早々騒がしい奴だ。何か、すごく慌てているようだ。……何だ?


「……密入国者の攻撃にあってな……反撃したらこうなった……それより、風呂沸いているか? クタクタなんだ」


 何せ、あれだけ斬ったのは久しぶりだったからな。不覚も取ったし、今日はもう疲れた。

 俺が風呂に入ろうとすると、エイシンは俺の肩を掴んだ。


「いや、ザンキ!そんなことよりもだ!」


 その顔は、必死そのものだ。まさか、沸いてないとでも言うのではないだろうな……。 


「……なんだ?」


 俺が、ジトっと睨むと、エイシンは深呼吸して、口を開いた。


「生まれたんだよ! お前らの子供が! さっき、サヤちゃんが産んだんだ!」


 ……


 ……


 ……


「……なんだって?」

「だから、生まれたんだ! すぐに来てくれ!」


 そのまま、エイシンは俺の手をグイっと引いて、サヤが居る奥の部屋へと連れて行った。


 そこには産婆が数人と、何かを持っているサヤが居た。血まみれの俺の姿を見た産婆たちはぎょっとしているが、サヤは相変わらず微笑んで、


「あ、ザンキ君……じゃなかった。「あなた」、お帰りなさい」


 と、言って、俺を出迎えてくれた。


 そして……


「ほら、この子が私たちの子供よ……」


 サヤは俺に抱いていた赤ん坊を見せてくる。


 俺は目を見開き、何も言えないまま、ゆっくりとサヤに近づいていく。騒いではいけないと、本能的に感じた。


「……男の子だよ。目元はあなたにそっくりだけど、……笑うとね、私に似てるの」


 サヤはそう言って、赤ん坊と自分の鼻をこすり合わせている。すると、赤ん坊が笑った。確かにサヤに似ている気がする。


 俺は赤ん坊に手を伸ばそうとする。しかし、ふと、自分の手が血まみれなことに気付き、手を引っ込めた。


「あなた?」


 サヤは不思議そうに俺を見た。


「……サヤ……俺にはその子を抱けない」


 こんな手じゃ、ダメだ。洗ってこないと……

 そう思い、立ち上がろうとすると、サヤは子供を膝の上に乗せて、俺の手をとり、そばにあったお湯で優しく俺の手を洗ってくれた。


「……ほら、キレイになったよ。……ねえ、抱いてあげて……」

「やっぱり……無理だ……俺には」


 血が取れた手を見て、俺はサヤに呟く。


 ……今日の戦いで思った。やっぱり、俺は人斬りだ。

 もうこの血の匂いは俺に染み付いちまっている。こんなんじゃ、ダメだ。親の愛情も知らない。あるのは俺を捨てたということに対する憎悪だけ。そんな俺が親になっていいわけない。

 俺は……その子を抱けない。その子やサヤだけでも幸せにしたい。俺なんかいない方が……


「……ねえ、あなた」


 ふと、サヤが口を開く。顔を上げると、いつも見せてくれる、優しい微笑みをたたえて、俺の顔をまっすぐ見ていた。


「……前にも言ったでしょ? あなたの手は私を助けてくれた。私の手を引いて生かしてくれた。皆に会わせてくれた。私を抱き寄せてくれた……

 ……とってもきれいな手よ。だから……ほら、この子も待ってる。あなたに抱っこされたくて……ほら」


 見ると、赤ん坊は俺に両手を伸ばしている。ジィっと俺を見ながら、俺のことを求めるように、手を伸ばしていた。


「うー」


 赤ん坊の声がする。俺は手を伸ばし、サヤから赤ん坊を受け取った。

 

……あったかいな。赤ん坊ってこんなにあったかいんだな。俺は赤ん坊を自分の体に寄せる。すると、ここでエイシンが俺の体の前に白い大きな布をかけてくれた。赤ん坊に血が付かないようにしてくれたみたいだ。そのまま、俺は赤ん坊を抱き寄せる。

 

 すげえ……ちゃんと心臓、動いてる……本当に……生きている……あったかい。


「キャッキャッ」


 赤ん坊は笑っている。本当に……可愛いなあ……。


「フフッ、お父さんに抱っこされてうれしいのね」


 サヤは俺たちを見て、微笑んでいる。


 ……お父さん……そうか、俺は父親になったのか。


 途端に目頭が熱くなった。そして、今まで、流したこともなかった涙が目にあふれ、頬を伝っていく。赤ん坊は、俺の頬をペチペチと叩いては、不思議そうな顔をしている。それだけで、俺は、幸福感に包まれていく感じがした。


 自分の中にいつもあった“人斬り”という業。それが段々と溶けていくような、そんな気がした。……救われた気がした。


 この時、俺は決めた。


 こいつらを必ず守る、と。何があっても俺はこいつらを護り続けると……。


 ◇◇◇


 俺は泣きながら、赤ん坊をサヤの方へ渡して、二人であやしていた。


「本ッ当に、こいつは可愛いな!」

「まあ、あなたったら……」

「キャッキャッ」


 ……ああ、良いなあ。これが幸せな家族ってやつなんだな。この時間がずっと続くような気がした。


「……グスッ、なあ、ザンキ。ちょっと尋ねたいことがあるんだが……」


 すると、エイシンが話しかけてきた。


 毎度、毎度、俺達の家族の邪魔すんなよと、言おうと思ったが、こいつ、目を赤くして、鼻水を垂らしながら、泣いていた。


「な、なんだよ。そんな顔して……」

「お前に言われたくないわ!」


 エイシンは顔を拭い、俺に聞いてきた。


「……でよ、その子の名前は?」


 エイシンの言葉に、俺とサヤはハッとした。そういえば、全ッ然、話し合っていなかった。


「あんたたち、まさか、生まれてくる子供の名前、考えていなかったの?」

「このままだと、私たち、次に会うときにナナシくんって呼ぶことになるわよ」

「まあ、それは冗談ですが……」


 産婆たちも口を揃える。本当に冗談なんだろうな。「ナナシ君」という名前について、語感が良いだのなんだの聞こえてくる。ヒソヒソ話し始める産婆たちに興味を示したのか、赤ん坊がそちらに手を伸ばす。


「な、なに言ってんのよ! ちゃんと考えてあるわ!」


 サヤが、慌てながら、赤ん坊を寄せる。おお、流石、俺の妻だ。もう用意しているとは。


「ね!?あなた!」


 ……あれ、サヤが期待の眼差しで俺を見ている。

 そういうことか……。俺はサヤを見て、ため息をついた。

 エイシンの時もそうだったもんな。急に考えろと言われた所で、出るもんも出ねえよ。


 ……とも、思っていたが実は考えてある。


 それは、この世界で、一人でも立派に生きていくように、神に頼ることなく自立していけるように願いを込めた。その名前は……


「……「神無」、この子の名前はカンナだ」


 俺がそう言うと、みんなは黙る。なんだ? 不服だったか? まあ、てめえらが不服でも、サヤが許してくれたら良いんだけどな……。


 しばらく考え込んでいたエイシンと、産婆たちは顔を上げ、


「……カンナ、か。良い名前だな」

「うん、かわいらしいというかなんというか響きが良いわ」

「きれいな名前ね。私は好きよ」

「とってもいい名前だと思います」


 と、皆納得してくれた。ああ……よかったあ~。そうは言われても、流石に、全否定されたらどうしようかと考えていた。ふと、サヤを見ると、


「素敵な名前、ありがと」


 と、小声で言ってニッコリと笑った。そして、赤ん坊の額に、自らの額を当てながら、あなたの名前はカンナだよ~と、言うと、理解しているのか、していないのか、赤ん坊はキャッキャと、サヤの手の中ではしゃいでいた。俺とサヤは、顔を見合わせて笑い、カンナの頬を指でつついたりしていた。


 ◇◇◇ 


 こうして、サヤと俺に新しい家族、カンナが加わった。


 カンナの子育ては大変だったが、サヤや付近の村の人も協力してくれて、何とかなった。カンナはサヤに似て、元気いっぱいの男の子に成長していった。

 1歳のころから、歩き出してからは、すぐ目を離すと、家の中を走り回ったり、更に成長していくと、庭に生えている桜の木に登っていたりと、すごく大変だった。その度に、カンナを叱るサヤを見て、俺は本当に幸せだった。

 3歳くらいの時から、カンナは、エイシンが稽古をしていると、それを真似るようになっていった。俺と同じことをやってんなあ、と思い嬉しくなる。

 5歳になったとき、本格的に剣術を教えようと、エイシンに頼んだ。エイシンは、ぜひとも、と承諾してくれた。直接教わったわけではないが、俺の剣術の一応の師匠が俺の子にも、剣を教えるなんてな……。


 俺も初めての子育ては楽しかった。俺が仕事から帰ると、俺に近寄り抱き着いてきたり、一緒に風呂に入ったり、一緒にサヤの料理を食べたり、寝る前には頭領から聞いたおとぎ話を聞かせたり、本当に幸せな日々が続いた。カンナは、あちこち走り回っていたり、稽古をしたりで、小さな傷をあちこちに作っていたが、サヤの小さな頃に似ているなと言うと、サヤは、顔を真っ赤にしながら、不貞腐れていたが、少しだけ、嬉しそうにもしていた。

 そこに、エイシンが、どっちも似たようなもの、と言ってきて、それもそうかと、皆で笑った。

 

 付近の村の連中も時々、遊びに来てくれる。そう言えば、その中に好きな女の子が出来て、花を渡したけど、その次の日に、私の恋人なのッて言って、その女の子が男の子を連れてきたということもあった。

 その時、カンナは固まり、俺達夫婦は、何も言えず、ただ、その子たちが帰っていくのを眺めていた。

 ……その日は、家族三人で夕日を眺めながら、暗くなるまで話していた、なんてこともあったな……。


 体と共に、心も成長していくカンナを見るのは楽しかった……。


 そうして、月日は流れていき……。


 俺は26歳になり、カンナは7歳になった。


 ある夏の暑い日、俺はカンナを庭に呼んだ。庭にはサヤとエイシンも居る。そこにタッタッタ、と、カンナが走ってきた。


 今日も今日とて、擦り傷だらけだな。また、どっかで遊んだか? 少し心配になるが、元気なら、いいやと笑った。


「なあ、カンナ」

「はい、父上」

「ちったあ、強くなったか試してやろうか?」

「父上と試合ですか? よろしいのですか!?」

「ああ」


 俺は、どれだけカンナが成長したか、試したくなった。俺が木刀を構えると、カンナはキラキラとした顔になって、俺に木刀を向ける。


「負けませんよ!」

「良い気合いだな。かかってこい!」

「じゃあ、いくよ。よ~い、はじめ!」

「たああああ!!!」


 サヤの合図で、カンナは飛び出して、木刀を打ってくる。俺はそれを受け流すと、カンナは転びそうになった。だがすぐに体勢を立て直して、なおも木刀を振るう。

 うん、良い根性だ。それに、すぐに体勢を立て直すなんて、すごいな。予想以上にカンナは成長していた。

 だが、父親の威厳てやつを見せないとな。


「フンッ!」


 俺は思いっきり、木刀を地面にたたきつける。地面が砕け、破片があたりに散らばる。これでカンナも多少はひるむか?


 しかし、カンナは、すでに後方へと跳躍し、それを躱していた。やるじゃないか……と思っていたら、カンナも木刀を振り上げた。ん? この距離で、何をする気だ、と思っていると、カンナは思いっきり木刀を振り下ろす。


 ガンッ!


 すると、突然、足のすねに何やら衝撃が走った。


「……痛ッてえええ!!!」


 見ると、カンナが持っていたはずの木刀が俺の足のそばに転がっていた。あいつ……投げやがったな。


「このッ! うおッ!?」


 俺はカンナに近づこうと足を動かそうとしたのだが、痛みで力が抜けた上に、木刀が足に絡まって、そのままこけてしまった。

 その間にカンナは俺に近づいて、木刀を拾い、切っ先を俺に向けた。


「……はい! そこまで! カンナの勝ちぃ~!」


 ここでサヤが宣言した。俺は開いた口が塞がらない。


「父上? だいじょうぶですか!?」


 カンナは俺に手を伸ばした。エイシンは何やら笑顔でうなずいている。サヤはその場で小躍りしていた。


 完全に俺の負けだな……。父親の威厳ってやつを見せたかったのに……。


 俺が落ち込んでいると、エイシンが近づいてきて、


「おとうさん、残念で仕方がありませんなあ~」


 と、笑顔で言ってきた。

 こいつ! 腹立つ!


 俺がエイシンを睨んでいると、カンナは心配そうな顔で口を開く。 


「父上? 怖い顔になっています。やはり、どこかまだ痛むのですか?」


 ……優しいなあ。こいつに心配をかけるわけにはいかない。俺はエイシンへの怒りを抑えていく。


「……いや大丈夫だ。……カンナ、なかなかよかったぞ。剣を投げてくるとは思わんかったが、動きにまだムラがある。もっともっと精進しろよ」


 精いっぱいの俺の虚勢に、カンナは大きく頷いた。そして、サヤの元へと行く。サヤは、濡れた手拭いで、カンナの体を拭いていた。

 その様子をぼんやりと眺めていた俺に、ぽん、とエイシンが肩に手を置く。


「なあ、ザンキ。お前に勝ったんだ。何か褒美を渡してやるか、何かしろよ」


 と言ってきた。


「なんかしろったって……お前がしろよ、師匠だろ」

「お前がやるから意味があるんだろ? 第一、俺に何かできるとでも……?」


 俺たちが話していると、サヤとカンナは駆け寄ってきた。


「師匠! 前見せてくれた、あれが見たいです!」


 カンナは笑顔でそう言った。あれってなんだ?


「あれかあ……。でも前やったときは、サヤちゃんに凄く怒られたんだぞ」

「勝手に家の作物を斬るからよ! なにか一言あればよかったのに……」


 エイシンとサヤがそう話している。サヤは、エイシンがやることを嫌っているようだ。……だから、あれってなんだよ。

 二人の会話を聞いて、カンナは落ち込む。そして、サヤに……


「……駄目……ですか?」


 と、泣きそうな目で尋ねた。その姿を見て、サヤはハッとし、


「だ、ダメじゃないわよ! ちょっとまっててね!」


 と言って、家の中から、大きなスイカを持ってきた。また、立派なスイカだなあ。畑仕事はエイシンの仕事だ。よくやるなあ、コイツ……。


「はい! 今日は暑いからね! これなら良いわよ」


 そう言って、サヤはスイカをエイシンに渡した。


「ふう、ならやるか。しっかり見とけよ、カンナ」


 エイシンはスイカを台の上に置いた。カンナは頷きながら、何やらワクワクしている。

 何が始まるんだ?


 俺が首を傾げていると、エイシンは刀を帯びてスイカの前に立ち、一呼吸し、刀の柄に手を置く。そして、深く腰を落とした。

 

 ……抜刀術か。めずらしいな、こいつが……。


「ッ!」


 しばらくすると、エイシンは刀を抜き、スイカを横なぎに斬った。そして、そのまま刀を振り上げ、縦にもう一撃加えた。

 ……速い。見るのがやっとだった。……え、こいつこんなに強かったっけ? 俺、こいつに勝ったよな……あれ?


 そう思っているうちに、エイシンは刀を収めた。見ると、スイカはそのままだ。どこも切れていないし、ましてやあたりに果肉が飛び散ってもいない。……どういうことだ?


 などと、思っていると、エイシンがスイカを持ち上げ、縁側に置いた。


「さあ良いぞ、カンナ」


 カンナはそう促されると、ドキドキした様子で、スイカのてっぺんを叩いた。


 すると、4つの切れ目がスイカに現れて、そのまま4等分に割れた。


「流石です! お見事です! 師匠!」


 カンナは拍手しながらそう言った。俺は口を開けて呆然としている。

 あれか? 鋭い刃物で、素早く斬ったら、くっついたように見えるってやつか? 刀で、しかもこんな大きなスイカで見たのは初めてだな。


「……お、お前、こんなにすごかったか?」


 俺が、呆気に取られていると、エイシンは目を丸くして口を開く。


「何言ってんだ、俺は闘鬼神でも古株だったし、もう、こんな歳だからな。毎日稽古すればいやでもできる」


 俺の問いに、エイシンはさも、当たり前のように、そう言った。


「さ、あなた。私たちも食べましょ~」


 サヤは、エイシンと話している俺にスイカを渡してきたが、


「い~や、まだだ。ザンキがまだ何もやってねえ!」


 と、エイシンが俺のスイカを横取りする。


「……もういいじゃねえか。良いもの見れた。ありがとう」

「なに、食おうとしてんだ。俺も何かやったんだから、お前も何かしろよ!

 ……それともあれか?お前は自分の息子に褒美もやれない男なのか?」


 ぐッ……それを言われたら、俺も流石に黙る。


「えっ!? 父上も何かできるのですか?」


 俺たちの会話が聞こえたようだ。カンナも目を輝かせて、そう言ってきた。


「……わかった。最近、身に着けた特技、というか芸を披露しようか」


 俺が言うと、皆、喜んだ。


 俺ができる芸というのは、もちろん、アレだ。この前、薪割りに飽きて、ふとやってみたらできたんだ。


 俺はサヤに小刀を持って来させ、受け取る。そして、俺は薪を投げ、空中で小刀を振るっていく。薪は空中でどんどん削れていき、どんどん小さくなる。


 皆は口を開けて、俺の姿を凝視していた。


 そして、最後の一刀を入れて、それを手に取る。


「カンナ、これが俺の芸、空中早彫りだ。……で、出来たこの彫像をお前にやろう。俺が知る限り、最も強い人物だ。大事にしろよ」


 そう言って、カンナに出来上がったものを渡す。


「うわあ! すごいです父上! それにこんな立派なものを……ありがとうございます!」


 カンナは俺が渡したものを大事そうに胸に抱えた。俺はカンナの頭を撫でてやる。


「すごかったわ、あなた。……でも、薪割りをさぼったことについては、あとで話があるからね……」


 笑顔で、圧をぶつけてくるサヤ。……怖い。

 さぼったわけじゃないんだよ。ちゃんとそのあとも続けたよ。……それでも、いつもより量は少なめにしたけど……。


「いやあ、でも、流石はザンキだ。どんなもの作ったんだ? カンナ、見せてみろ」


 そう言ってカンナの手の中のものを見る。すると、エイシンは目を見開き、うげっと言って、顔色を悪くしながらしりもちをついた。


「こ、これは、と、と、頭領じゃねえか!なんだこれは!?」

「何って、言っただろう。俺の知る限り最も強いやつだ。よく分かったな。どうだ? 魔除けになりそうだろ」

「魔も運も全部逃げるぞ! こんなの! めちゃくちゃ怖えじゃねえか!」

「魔除けになるなら良いじゃねえか。頭領の通る道は鬼も神も道を譲り、全てを葬るからな」


 冗談じゃねえ! と言うエイシンを見ながら、サヤは腹を抱えて笑っている。カンナはキョトンとしていたが、すぐに俺と一緒にスイカを食べ始めた。いずれ、あの女にも、カンナを紹介しないとな。俺と、サヤの大切な“親”に、俺達にも子供が出来たってな。


 にしても、カンナに負かさられるとはな。俺もまだまだってことか。

 俺はそんなことを思いながら、顔を上げる。


 そして、老いた俺の横で、一緒に戦う成長したカンナを想像して、空を眺めていた……。


 ◇◇◇


  俺は焚火を見ながら、ミサキにカンナのことを話している。焚火はすでに小さくなっていて、今にも消えそうだ。


「……とまあ、こんな感じだ」


 話を終えると、ミサキはふぅ~と、長い息を吐いて、クスっと笑った。


「すごいね、ムソウさんに勝つなんて。まだ7歳とかだったんでしょ?」

「ああ。エイシンとの試合でも、ひと月に一回は勝っていたらしいぞ」


 ミサキはすごい、すごいと連呼している。

 俺の自慢の息子だったからな。当然だ。


「……さて、俺の子供の話はもういいだろ。そろそろ風呂入って寝ようぜ。明日はデーモンと戦うかもしれないんだからな」


 俺は焚火を消した。


「……お風呂、一緒に入る?」


 ミサキは唐突にそんなことを言い出した。


「あー、俺はいいからよ。お前ひとりで入っとけ」


 俺は特に何も思わず、立ち上がり、ミサキの家へと入っていった。


「ちょ、ちょっと!こんな美少女がこんなこと言って、なんとも思わないの!?」


 ミサキは何か、面倒くさいことを言っているな。


「話、聞いていなかったのか? 俺が愛しているのはサヤだけだ。これまでも、これからもな。他の女には興味ねえよ」


 そう言うと、ミサキはガクッとして、風呂へと入っていった。


 ……よしよし、入ったな……。さてと……。


 俺はこっそりと家を出て、今日の狩りの帰りに見つけた所へと向かった。


 そこは温泉だった。この世界にもあるんだな。

 湯加減を確認すると、少し熱めだが、問題ない。俺は着物を脱ぎ、温泉へと入っていく。

 ミサキが居ると、うるさそうだからな。一人で入るのにはちょうどいいや。


「ああ~、気持ちいいなあ~」


 ふと、空を見上げると、星空が広がっている。精霊人の集落は、木ばかりだったからな。夜の露天風呂で、空を見上げると、星々……この世界に来てからは、初めての経験か……。


 そういや、カンナと風呂に入りながら、星を指さしては、その星座とかも見ていたっけな。

 そんなことを思い出し、俺は笑う。

 ……思えば、サヤと最初に出会った日の夜も、こんな温泉だったな……。あの時から、俺はずっと幸せだったんだよな。


 ……やっぱり、忘れられねえよ。俺は改めて、サヤたちを思った。


 ビュウッ


 突然、強い風が吹いた。湯気が晴れていく。


 そして、また、立ち上っていく湯気の動きがおかしい。風呂の真ん中に集まって濃くなっていく。


「……何だ?」


 集まった湯気は、何かの形を成していく。

 そして、それは人の形にも見えてきた。


 そう……髪の長い女のようだ。


 それは俺の方へとゆっくり近づいてくる。思わず身構えたが、攻撃を受けている気配も無いし、魔物の気配もない。一体なんだろうと思っているうちに、それは消えていった。


「……何だったんだ?」


 俺は疑問に思ったが、考えるのはやめた。きっと目の錯覚だろう。


 ……さて、そろそろ上がるか。


 俺は温泉から出て、ミサキの家へと帰った。ミサキはまだ、風呂に入っているらしく、風呂場から音が聞こえる。俺は、そのまま、床に魔物の毛皮でできた、簡易的な布団を広げ、横になった。


 そして、そのまま寝た。明日は忙しくなりそうだからな。もう……寝よう……。


 ◇◇◇


 そのころ、風呂場では……


「はあ~。俺が愛しているのはサヤだけ……か」


 私は、さっきのムソウさんの言葉を思い出していた。ムソウさんって、過去のこと、あまり話したくないようだったけど、話しているとき、すごく楽しそうだったな……。


 でも、私みたいな()()()子に、お風呂、一緒に入る? って聞かれたら、普通動揺するでしょ! なんで!? 私には女としての魅力無いの~!?


 私は思いっきり湯をかぶると、そのまま、風呂を出た。


 ま、まあ、お風呂に誘うのはダメだったかもしれないけど、美少女と一軒家で二人きり。このシチュエーションならムソウさんだって、落ち着いているはずはない! 今頃、私のベッドの前で、悶々としているに違いない!


 そう思いながら、体をふいて、パジャマに着替えて、風呂場を出た。


 すると……


「zzz・・・zzz・・・」


 ……普通に、当たり前のようにムソウさんは床で寝ていた。


「えー!なんでよぉ!」


 思わず声が出てしまった。


 納得できない! 

 ……よぉ~し! ちょっと、この間に……


 私はムソウさんの頭に自分の額を近づけた。そう、私は他人の頭の中を魔法でのぞき見することができるのだ!


 私は魔法を唱えた。


「感応可視」


 すると、私の頭の中にムソウさんの記憶のイメージが入ってくる。


 子供の時に捨てられたころのこと。その時に傭兵団に拾われたこと。

 これが……頭領さん? 男の人みたい……すごく強そうで怖いなあ……今のムソウさんみたい……

 あ、これがサヤさん? きれいな人……。

 あれ、でもどこかで見たような……。

 

 あ、この子がカンナ君? 本当だ、ムソウさんとサヤさんにそっくり。

 ……すごく……楽しそう……。フフッ、ムソウさんったら、カンナ君と一緒におなかを出して寝て、サヤさんに揃って叱られている。すごい、本当に……幸せそう……。

 ……

 あれ、ちょ、ちょっと!?

 ……

 なに!? ……きゃっ!


 突然、私の頭の中に信じられない光景が入ってきた。咄嗟に私は、ムソウさんから離れる。


「はあ、はあ、はあ……」


 その光景を視て、私の呼吸が少し乱れた。


 ……嘘……でしょ? ……なんで……あんなこと……。


 私はムソウさんを見つめる。


 もちろん、今視えたのは、まぎれもなくムソウさんの記憶だ。嘘じゃない。


 私は、ムソウさんが昔のことを話したくない理由を知ってしまった。


 本当にあんなことがあったの!?辛すぎるよ!


 ……なんで、ムソウさんは……。


 気が付くと私の目から涙がこぼれていた。

 

 でも……ムソウさんも泣いていた。

 ……怒っていた……苦しんでいた……いや……多分……


 今も……?


「ん……サヤ……カンナ……」


 昔の夢を見ているのだろうか。ムソウさんは寝言で自分の家族の名前を呟く。そして、フッと、少しだけ笑顔になった。

 それを見て、私の涙は止まらなくなった。


 私はその後も泣き続け、ひとしきり泣いた後、自分のベッドに入った。


 もう、何も考えたくないなあと思い、頭を真っ白にしていき、そのまま眠りについた……。


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