第258話―家に帰って報告書をまとめる―
その後、俺達は辺りに散らばる魔物の死骸の回収作業を行った。午前も多かったが、今回もやはり多い。出せるだけの光葬針を出して、武者の形にして、死骸を集めていく。
そして、これだけ多いと査定なども時間がかかるし、それぞれの異界の袋に分けて、ヴァルナたちに渡すというのも手間がかかるということで、いったん今までの死骸をレオパルドの異界の袋に集約することにした。
俺とリアは、今倒した魔物たちの死骸と共に、それぞれの異界の袋を開き、どんどんレオパルドの異界の袋の中に、魔物を詰めていく。
「これ……査定が終わるのにどれくらいかかるのだろうか……?」
「さてな。ただ、ここまで来ると俺も手伝うことになるから、そこまでかからねえと思う。……と言っても、一週間くらいかな……」
魔物の解体及び、査定については、天宝館の職人と共に、レオパルドも加わるという。魔物の専門家であるレオパルドは、コモンよりも魔物の解体は得意だそうだ。
普段やっていることだから気にするなと笑うレオパルド。
ただ、それだけ王都に帰る時期も延期するんだよなあと思っていると、レオパルドは口を開く。
「むしろ、好都合だ。俺ももっとリンネちゃんを調べられるし、トウガ達もお前と長く居られるからな。その辺りは気にしなくて良い」
「そうか。そう言って貰えると助かる。リンネについては、出来る限り俺も協力しよう」
「おう……ところで、樹海の中の異変について、何か分かったか?」
レオパルドは、作業を進めながら、俺達の行動についての結果を尋ねてきた。俺も作業をしながら、見てきたことを話す。
樹海の奥に、巨大な植物獣が居たこと、その植物獣は恐らく、ケリスの羽によって生み出されたこと、既にそいつは倒してしまい、辺りを更地にしてしまったことなどを話すと、レオパルドは、そうかと、どこか苦い表情をしながら頷く。
ひょっとして、樹海の環境をまた少し、変えてしまったことに微妙な思いをしているのかと思い、頭を下げた。
「すまん。正直、ああするしかなかった」
「いや……そこは気にしていない。どうせ、天狼……じゃねえや、トウガがやったんだろ。
まあ、アンタが浄化の力を強く使っていれば、どうにかなったのかも知れんが……?」
レオパルドはジトっと俺を見上げてくる。がっつり気にしているじゃねえか……。そして、この時、レオパルドはグリドリの森の完全な浄化をやった相手が、俺だということに確信を持ったみたいだ。あの時と同じように、植物獣を浄化すればよかったのでは、と視線で訴えてくる。
何も言えずに、俺はただただレオパルドに頭を下げた。
「……本当にすまん。この借りはきっちり返してやる」
「……まあ、良いや。それで、あと一つ気になったのは、ケリス卿の羽で植物獣が変異したって点だな。
その羽と、植物獣の破片か何かあれば良いんだが、それも無いんだろ? そうなると、詳しく調べることも出来ないな……」
レオパルドはため息をつく。確かに、今話したことは、あくまで俺とトウガが立てた推測であり、確かなことではない。
謎を解くためにも、少しは残骸を残しておくんだったなと思い、更に申し訳なくなる。
ただ、異変自体はもう起きないという可能性にはなったので、今後何度かこの樹海を調査するだけで良いと言って、レオパルドは笑った。
「まあ、魔物が潜む場所が減るってのは、良いことと言えば、良いことなんだが、その分この樹海から出ていくという可能性も出てくる。それを分かってくれさえすれば、俺の方から言うことは無い」
「ああ。肝に銘じておく。それから、この樹海の調査には俺も加えてもらえるように出来る限りのことはしておこう……」
せめて、何かしておこうと思い、ひとまず調査団に加わろうと思っていた。
すると、レオパルドは真顔で首を横に振った。
「いや、それは良い。本当に勘弁してくれ……」
「……そうか」
必死に祈るような仕草をするレオパルドに、断られてしまい、若干傷つく。なら、別の方法で借りを返そうと思いながら、作業を続けていった。
その後、全ての死骸を袋に入れ終えた頃、上空からトウウが帰ってきた。やはり、樹海から空の方へと逃げていった魔物も多かったらしく、今の今までトウウは戦っていたらしい。
更に樹海から外に出ようとする魔物たちを阻んだりと意外とやることが多かったと愚痴るトウウを俺達は労った。
そして、ここでのやるべきことは全て終わったということで、俺達は帰路に着く。行きと同じように、ツバキとリアは、エンテイに変化したリンネが乗せ、レオパルドはトウウに乗り、エンテイはトウガに跨っていた。
途中、トウガが、何なら競争しないかと言ってきたが、リアとツバキが難色を示したのでゆっくりと帰ることにした。
二人とも結構疲れているようだ。ツバキに、今日のところは女中たちの手伝いはしなくても良いと伝えると、ありがとうございますと頭を下げられた。
トウケンにも同様のことを伝えると、そんなに疲れていないからやる、とのこと。じゃあ、良いやと思い、今日もトウケンは、アザミたちの手伝いをすることになる。
てことは、また早いうちから呑めるなと笑うと、レオパルドが俺に賛同して笑っていた。
その後、まだ日も暮れていないうちに、トウショウの里が見えてくる。するとレオパルドとトウウはギルドに報告に行くと言って、上街の方に向かって飛んでいった。
俺達はそのまま屋敷の方へと向かう。
そういえば、今日は九頭龍の死骸が無いな。ひょっとして、もう終わらせたのか? ……コモン、無理していないと良いが……という心配は野暮か。
正しくは、無理させていないと良いが、だな。ツバキとリアも同様のことを思ったらしく、俺と顔を見合わせて、小さくため息をついていた。
そして、俺達は屋敷の前に降り立ち、そのまま門をくぐった。流石にまだ、晩飯の準備はしていないようで、俺達は屋敷の中に入った。
「ただいま~」
中に向けて声をかけると、廊下から、ぴょこっと、たまが顔を出して、ニパっと笑った。
「おかえり! みんな! リンネちゃんも!」
「ただいま~!」
駆け寄ってくるたまに、リンネも駆け寄っていき、いつものように小躍りを始める。昨日とは違った踊りだ。その場でぴょんぴょんと跳ねている。
まったく、仲のいいことだなと俺達が眺めていると、続いてジゲンとエンミ、シズネの三人が姿を現した。
「ああ、ムソウ殿。おかえり」
「おう。見たところ皆はまだのようだな」
「うむ。ムソウ殿達は早かったのう。何かあったのか?」
「いや、今日の目的はすでに終わったからな。今日の所はもう引き揚げただけだ。ただ、少し疲れたから、ゆっくりするよ」
俺達は履物を脱いで、屋敷へと上がる。トウガは体を小さくして、のそっと玄関を上がった。
「ふう……今日は一段と体を動かせたな……」
「あら、天狼様も今日の所はお疲れのようですね」
背伸びをしているトウガにシズネが寄っていき、身体を撫でる。トウガは、気持ちよさそうな顔をして頷いた。
「ああ。どうやらコイツと行くと、不測の事態ってのが頻繁に起こるらしい」
「へえ……だったら、いい練習になったんじゃないの? リア」
エンミは、トウガに頷きながら、リアの方に視線を移した。リアは、肩を揉みながら口を開く。
「ええ。おかげで私も少し疲れたわね……それに頭も使ったし、今日は皆の手伝いは出来そうにないかも……ごめんね、たまちゃん」
「ううん! ゆっくりしていて~」
「ありがと。じゃあ、頭領、私も居間で休んでいるから、後でね……」
そう言って、リアはトウガとエンミと一緒に居間へと向かって行った。
「じゃあ、俺は皆の手伝いだな。たま、リンネ、行こうか」
「は~い! 今日もよろしくね!」
「おししょーさま、たのしみにしててね!」
リンネとたまは、トウケンを連れて、女中たちが働いている炊事場へと向かった。手を振るリンネに、楽しみにしていると言うと、たまと顔を合わせながら、ニコニコと笑っていた。
「ふむ……二人はこれからどうするのじゃ?」
「そうだな……俺は取りあえず、部屋で装備の確認でもしておこうかな」
今日の戦いで、元々酷い状態だった装備に限界を感じたからな。ボロボロになった小手をジゲンに見せると、目を見開き、表情が固まる。
「また、妙なことがあったのじゃの~。コウシの刀は無事なのか?」
「それは問題ない。しっかり礼を言っておくよ」
俺は刀を抜いて、ジゲンに見せた。戦うときは殆どスキルを使っていた状態だったので、刃こぼれなどはもちろんない。ジゲンもまじまじと刀を見つめ、安心したように笑った。
「じゃが、確かに防具の方は心許ない感じがするのお。コモン君に急がせた方が良いのではないか?」
「まあ、そこは相談するが、今のところは問題はない。いざとなりゃ、ツバキが護ってくれる」
ツバキを指さしながら、そう言うと、ジゲンは目を見開き、ツバキは困惑した様子で、こちらを見てくる。
「え……それはどういう……」
「お前が言ってくれただろ? 俺のことを護るって。頼りにしてるからな……」
今日一日で、トウガに教えられたことを胸に抱きながら、ツバキの頭を撫でた。ツバキは何が何だかという顔をしたが、すぐに笑って頷いた。
「……はい、かしこまりました。私はムソウ様の護衛ですからね」
とは言いつつ、基本的に敵からの攻撃は受けないのだがな。そこまで防具の心配はしていない。
ただ、それを言ってしまうと、ツバキががっかりしてしまいそうなので口にはしなかった。
そんな俺達を見て、ジゲンはフッと笑っている。どこか、含みのあるような笑い方が妙に気になるな。
「どうかしたか?」
「いや別に……。それで、ツバキ殿はどうするのじゃ? 今日もたま達の手伝いでもするのかの?」
「そうですね……あ、そう言えば、一つお願いがあるのですが」
俺の疑問を軽く受け流したジゲンは、ツバキにそう言われて、不思議そうな顔をする。
「儂にか? どういった用件かの?」
「あの……今回の一連の騒動について、報告書を提出しろと、騎士団の方から指示がありまして、今のうちに手伝って欲しいのですが……」
昨日、アヤメから言われていたことだな。ツバキは意識を失くしていたし、俺は屋敷に居なかったから、この街で何が起こったのかは、後で話を聞いて分かっただけで、詳細なことは何も分からない。
ジゲンは最初から最後までここに居て、全てのあらましを知る人物だ。ツバキの報告書の作成に力を借りたいと思っていた。
詳しい話を聞いたジゲンは、ツバキに頷く。
「構わんよ。では、お主らの部屋に行くとしようかの」
「ああ、そうするか。外であった出来事などは俺が話すって約束だからな」
「お二人とも、ありがとうございます」
俺達に頭を下げるツバキ。この報告書を以って、更に街の復興が進むと良いなと、ジゲンと笑い、俺達は部屋へと向かった。
そして、ひとまず着替えて、俺は装備の確認を行いながら、横で報告書を仕上げているジゲンとツバキを眺めていた。
すると、しばらく二人で作業をしていたが、ふと、筆を止めて報告書を眺める二人。そして、同時にため息をついた。
「こうやって客観的に見ると、まったく信じられない話じゃの……」
「この報告書、受理されるのでしょうか……?」
二人がそんなことを言うものだから、俺も若干心配になってくる。
だが、その渦中には、雷雲山に行った数名の騎士も居ることだし、何より領主のアヤメも居るし、十二星天も居るし……って、確かに落ち着いて考えれば、凄い状況だな。
牙の旅団復活や、カドルの出現もあるし、俺が“規格外”ってわけじゃないのでは、と思うようになってくる。
「まあ、後でジェシカとコモンにも、署名させるからよ。それで納得してもらおうぜ。師団長のエンライ殿も、そこまでのいじわるはしないだろう」
この世界にとってどれだけの事態になるのか分からないが、俺の力を知っているエンライは、少しばかり疑いつつも、何も言わずに王都に提出しそうな気がする。
頭を抱えるエンライの姿を思い出し、何となく心の中で謝っておいた。
「まあ、一番信じられないのは、ムソウ殿じゃがのう……」
ジゲンがいつものように、ニヤニヤしながらこちらを見てくる。そして、こちらもいつものように、確かに、と頷くツバキ。
思わずため息をついて、小手を磨いていた手ぬぐいを止める。
「何言ってんだ? 王都にとって一番信じられないのは、行方知れずの“刀鬼”が俺の屋敷に居たことだろう。
そして、これは報告書には書かなくて良いことだろうが、EXスキルに目覚めたツバキもだろ?」
「それは……」
「う……む……」
いつもと違うのは、俺の方にも確たる反撃の糸口があること。ジゲンとツバキは、どこか、やられた、という顔をして黙り込む。
まあ、ジゲンの方は、ケリスに勘づかれないためにと示し合わせていたことだから、別に良いが、問題はツバキの方だ。
皆が、俺によく言うように、「よく分からない」力を何故だか手にしている。面倒なことになりそうだから、報告書には書かせない。神怒からの攻撃に、ある程度耐えられたのは、十二星天が四人も居たから、ということにしておく。
ただ、これに関してはシンキにはバレていそうだがな。アイツには本当のことを言って、便宜を図ってもらうことにしよう。
というか、ツバキのEXスキル……本当に誰のものなのだろうか。前にも気にしたが、俺の仲間だった者達以外の奴のものだったという可能性もあるからな。このあたりも、シンキに聞いておこう。
後は……ジェシカのものと、サネマサのものも分からないな。十二星天それぞれの他の奴らのこともよく知らないし、今度こちらに来た時はよく話を聞いておこう。
さて、しばらく落ち込んでいた様子の二人だったが、皆が帰る前に早く済ませておけと言うと、再び作成作業を始める。
牙の旅団が来たことなどはどう書こうかと悩むツバキとジゲン。そこはカドルが帰ってきたら、聞けばいいという結論になり、ひとまず、屋敷で起こったことを書き終えた。ジゲンは大きく息を吐き、自身の肩を揉んでいる。
「では、ムソウ様、こちら以外の出来事をお願いします」
「おう……」
そして、俺はツバキの質問に色々と答えていく。大筋はすでに知っては居ることだが、今回はその詳細だ。九頭龍がどうだったかとか、スケルトンの軍勢の規模、カドルの動向などだが、厄介なのが、俺の力のこと。
今まで、ミサキやアヤメの協力もあって、俺はEXスキルのことは王都に隠していた。だが、それもほとんど無駄に終わり、全てを明らかにせねば、辻褄の合わない状況になっている。
今後、面倒なことになりそうという考えは捨てて、ありのままを話していく。
ツバキとジゲンは、心配そうにするが、何とかなるさと二人に説き、報告書を作成していった。
しばらくして報告書を書き上げたツバキは無いように不備がないか確認し、作成作業を終えた。後で、コモン達の署名を入れて、完成するそれを、明日のうちにアヤメに届けるという。
疲れたのか、軽く伸びをするツバキ。茶を淹れて手渡すと、ホッとしたような顔になった。
その後はしばらく、ツバキと共に、ジゲンに、今日あったことや、これからのことについて、話し合っていた。
しばらくして、日が傾きだし、庭の方からガヤガヤと皆が帰って来た声が聞こえてくる。出していた装備品などを片付けて、そろそろ風呂にでも入ろうかと思っていると、部屋の襖を叩く音が聞こえた。
「あの、ジェシカです。ムソウさん、よろしいでしょうか?」
部屋の前に居るのは、ジェシカのようだ。入っても良いと返事をすると、襖が開かれてジェシカが中に入って来た。部屋に居るツバキとジゲンを見て、目をキョトンとさせる。
「あら、ジロウさんはここで何を?」
「ツバキ殿の手伝いをしておったのじゃ」
「手伝い?」
首を傾げるジェシカに、報告書のことについて説明した。ジェシカは頷き、ツバキが作成した報告書を手に取る。
「なるほど……しかし、こちらの内容ですと、カイハク君も納得しなさそうですね……間違ってはいないのですが……」
「ええ。ですから、コモン様とジェシカさん、そして、出来ればレオ様に署名をしていただきたいのですが……」
「あ、構いませんよ。それに、何かあれば、私達で応対いたしますので」
ジェシカはツバキの頼みを、承諾し、報告書に自らの名前を記した。
そして、後で二人にも名前を書かせますと言って、報告書を懐にしまう。ひとまず、この件については落ち着いたな。
「それで、何か用事だったか?」
「あ、はい。頼まれていた貴族の皆さんと、闘宴会の送還についてですが、何事も無く終わりました」
今日一日、ジェシカには貴族たちをウィニアに帰すという役を担ってもらっていたが、どうやら終わったらしい。
何事も無かったとは言いつつ、若干疲れているようで、ジェシカは顔色を悪そうに、自らの肩を揉んでいた。
茶を淹れると、こちらもありがとうございます、と言って頭を下げてくる。
「苦労をかけたようだな。シンジとは上手くいったか?」
「ええ。いつもと違って、妙に言うことを聞いて下さったのが不思議でしたが……」
ジェシカはそう言って、茶をすする。
この分だと、本当のことを明かしたわけではないようだな。恐らく、この屋敷に改めて来た時に、皆の前で明かすのだろう。その方が、何度も説明しなくて済むからな。
取りあえずジェシカには、そうか、とだけ頷いておく。
すると、ジゲンがジェシカに少し戸惑った様子で口を開く。
「何事も無くと言ったが、貴族共は本当に何も言っていなかったのかの?」
「ご安心ください。ジロウさんのことについては何も仰っていませんでした。無論、闘宴会の皆さんも。……何か言いそうな時は、口を閉じさせましたので問題ありません」
ジェシカはそう言ってニコッと笑う。優し気な顔をして、恐ろしいことをするものだと、俺達は背筋が凍る思いをした。どこが、“聖母”なのだろうかと疑問に思う。
まあ、そういうことなら、ジゲンについては心配ないだろうな。仮にあったとしても、ジゲンならどうにかしそうなものだが。
とりあえずは、貴族たちも下手なことはしないということが分かり、何となく安心した。
「それから、王様とシンジさんからの伝言があるのですが……」
「王から伝言? 何だよ……?」
思わず、茶を吹き出しそうになる。シンジはともかく、人界王からの伝言となると、少しばかり緊張してしまった。
だが、ジェシカはクスっと笑い、口を開く。
「そんなにかしこまらなくてもよろしいですよ。王都からの人員と物資の供給を明日で終わらせるという内容です」
「ああ……なんだ……」
聞けば、貴族たちや闘宴会の送還も終わり、トウショウの街の復興も皆の尽力により、ある程度終わったということで、王都が派遣した人員や、近隣の領からの支援を終わらせるとのことだ。
これについては、ジェシカの判断で、もう大丈夫との返事をしたので問題はない。
「ただ、引き続き、次はチャブラへの支援が始まるとのことですので、少し急な話にはなりましたね」
「ん? チャブラの暴動は収束したのか?」
「ええ。今日のうちに王都へサネマサさんから連絡があったようです。各地で続いていた暴動は沈静化し、今は傷ついた領民たちへの援助を行っているとのことで、私も、明日からチャブラへ赴き、サネマサさんと合流する予定です」
ふむ、十二星天というのはやはり忙しいようだな。だが、ジェシカ本人が出向くということは、それだけけが人なども多いということだ。
こちらの一件で傷ついた者達も、既に治療は済んでいるということなので、ジェシカの言葉に頷いた。
「また、向こうで状況などが確認できましたら、ご連絡いたします。ジロウさん、サネマサさんに何か言伝はありますでしょうか?」
「む? ……そうじゃの……無理はするな、と」
「ついでに、皆さんのお話をよく聞くように、とお伝えください」
「ふふ、かしこまりました、ジロウさん、ツバキさん。必ず伝えておきますね」
そう言って、ジェシカは部屋を出ていく。
再び、三人になって、茶をすすっていると、ジゲンがツバキの方を向いて、フッと笑った。
「サネマサへの誤解は上手く解けたようじゃの」
「ええ、おかげさまで。そして、この際に大師範から色々と教わりたかったのですが、その機会も延びそうですね……」
チャブラの暴動が沈静化したのは良いことだが、サネマサはやはり、帰られないようだ。俺としても、闘鬼神の皆が世話になったことに礼を言いたいのだが、まだまだ先になりそうだ。
ツバキの方は、武王會館でのサネマサについて、一応の誤解は解けたようだ。全てが片付いて、サネマサから直接色々なことを教わりたかったようだが、それも叶わないようで、ツバキは残念そうにしている。
そんなツバキに、俺は笑って口を開いた。
「なら、サネマサが帰るまでの間、爺さんに稽古をつけて貰えば良いじゃねえか」
そう言うと、ジゲンはキョトンとしてこちらを向いてくる。
「儂がか? 儂がツバキ殿に教えられることなど、無いと思うのじゃが……」
「爺さんの、「瞬華終刀」って技を教えてやれよ。今日やろうと思ったが、出来なかったんだよな?」
「ええ、そうですね。他にも、色々と教えていただきたいのですが……」
ツバキは頼み込むような姿勢でジゲンを見つめる。少し困った様子のジゲンだったが、真剣な眼差しのツバキに、ふう、と頷く。
「うむ、わかった。時間が空いた時にでも、ツバキ殿に稽古をつけてやるとしよう。まあ、シロウも出来るのじゃから、ツバキ殿も、すぐに出来るようになるじゃろうな」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
ツバキはジゲンに頭を下げながら、満面の笑みを浮かべる。
時々、コイツは子供のようにはしゃぐ時があるよな。前は、ギリアンから、薄刃刀を貰った時だったか。今度は、憧れの技を教えて貰えるということで、うきうきしているようだった。
さて、そうとなれば、ツバキにも鍛錬の時間が必要だろうな。ということは、俺もあまり外に出ない方が良いか。
時間を見ながら、取り組む依頼を決めて、後は屋敷で一日を過ごすというのもありかも知れない。
明日は何をしようか、とか考えながら、その後もしばらくゆっくりとしていた。
「おふろのよういができたよ~!」
元気な声で、部屋に入って来たのは、リンネだった。珍しく、たまが一緒じゃない……と思っていたら、ばあ、とリンネの後ろから顔を出してくる。
「おじいちゃん、きょうもがんばったよ~!」
「ふむ、偉いぞ」
抱き着いてくるたまの頭をそっと撫でるジゲン。気をよくしたたまは、そのままジゲンの肩を叩きはじめる。
その光景を、羨ましそうに眺めているリンネ。俺とツバキは一緒にそんなリンネの頭を撫でる。
「お前も頑張ったんだろ?」
「お疲れ様です、リンネちゃん」
「えへへ……ありがと~!」
嬉しそうな顔をするリンネ。そして、たまと同じように俺の肩を叩こうとする。
「あ、それは、ツバキにやってやれ。さっきまで物書きしてたんでな」
「わかった~!」
「ふふ、ありがとうございます」
「じゃあ、俺は先に風呂に入ってくる。もう、皆帰っているのか?」
「うん! いまはね、トウガおじちゃんがはいってて、あと、コモンくんと、レオおにいちゃんもはいってる」
お、コモンもすでに帰っているのか。それに、牙の旅団も揃って帰ってきているらしい。ついでにコウシに刀を返しておこうと思い、コウシの刀を手に取って、先に居間へと向かった。
襖を開けると、そこに居た奴らに声をかけられ、そのままコウシの元に向かった。
今日も、牙の旅団は牙の旅団でかたまって、そこにカドルも居て、何か話しているようだ。別に分かれることもないのに、と思いながらコウシの肩を叩く。
「よお、コウシ。刀を返しに来た」
「ん? おお~! 俺の阿修羅! 無事だったか!」
刀を出すと、まるで奪い取るように、俺の手から刀を手に取り、丹念に調子を確かめる。刃に少しも刃こぼれが無いことを確認すると、ほとんど半泣きで、刀を抱えていた。
「そんなにか? もう少し、信用してくれても良いんだがな」
「何言ってんだ! 刀は武人の命だろ! 俺がこの阿修羅をどれだけ大切にしているか……。この刀は繊細なんだ。だから、丁寧に使わないとだな――」
と、刀について力説するコウシに、ミドラとタツミがクスっと笑う。
「ほう、コウシの刀は繊細に扱わないといけなかったのか。にしては、乱暴に使っていたように感じたが?」
「そして、その度に、研いだりしていましたよね。確かに、誰よりも大切にされていたようですが……」
二人の言葉に、他の皆も頷く。コウシは口をあんぐりと開けて固まっている。
そして、エンミがコウシの握っている刀を見つめて、頷く。
「うん、どこも異常ないみたいね。コウシと同じように、大切にしてくれているようで、良かったじゃない」
ポンとコウシの肩に手を置くエンミ。
……お、ここから見ても分かるくらいに、意地悪そうな顔をしているな。周りの皆は更にクスクスと笑い、コウシは顔を赤くしている。
本当に仲が良いんだなと、俺も笑っていた。
「まあ、俺は大事な刀を砕いてしまうような奴だからな。アンタみたいにすりゃあ、良いんだが……」
「ああ、あのデカい刀のことか。エンミ達から聞いたが、あれはもう、あきらめた方が良いんじゃないか?」
「んなこと出来るかよ。大事なものだからな。だから、あれはコモンに任せている。きっと良くなるさ」
「大事なもんなら、俺みたいに大事にしろよ」
「ああ。次からな……」
コウシみたいに使うというのは、流石に辞めとくが、無間が新しくなって帰ってきたら、次こそは大事にしていこう。俺や皆を護ってくれる力だからな。
その後、皆と別れて、そのまま風呂場へと向かった。
浴場に入ると、湯船に浸かっているトウケンとトウウと、コモンとレオパルドが居た。二人は何か話しながら、トウガの身体を洗っていた。
「お前……一人で洗えないのか?」
「ん? 何だ、ムソウか。洗えないだろ、この格好じゃ……」
トウガは、俺に前足を見せつけながらぼやいてくる。まあ、それじゃあ自分で洗うのは無理だよなあと思いながら、湯船に浸かった。
「あ~……気持ちいいなあ……♨」
今日も聖なる水の風呂だということで、入った瞬間から俺の身体に着いていた汚れなどがさあっと落ちていく。ついでに疲れも取れていく。
そのままゆっくりと使っていると、トウケンの笑い声が聞こえた。
「にしても、家にこんな風呂があるなんてな……」
「ああ。一人でこれを作ったコモンには、本当に感謝だ」
コモンを指しながら小さく頭を下げると、コモンは、どうも、とお辞儀する。
すると、レオパルドが目を丸くして口を開いた。
「ここを一人で? お前が? 相変わらずだな」
「いやあ~、夢中になってしまいまして」
「九頭龍の解体もどうせ、ほとんど一人で終わらせたんだろ?」
「いえいえ、流石にあれは一人ではできませんよ。でも、あれの作業も終わりましたし、明日からは、今日レオさんたちが獲ってきた素材の解体、ムソウさんたちの装備、そして、街の再建とまだまだやることがありますね~」
「何、嬉しそうにしてんだよ。王城の仕事は片付いたのか?」
レオパルドの質問に、コモンはニコッと笑う。終わったのか、信頼できる天宝館の部下に任せているのか分からないが、そちらは問題ないらしい。
明日からも並行して、色んな作業を続けるコモンには、もはや笑うしかなかった。
「レオさんの方こそ、お仕事はよろしいので?」
「俺の方は、元々そんなに仕事があるわけじゃないからな。魔獣宴の方もアイツらに任せていれば大丈夫だ」
「ああ、キキちゃんとリンちゃんですね。なるほど。姿が見えないと思っていたら、魔獣宴の仕事を押し付けたのですか」
「別に押し付けてねえよ。向こうがやりたいって言ってんだから、任せただけだ。
まあ、明日少し様子を見に帰るつもりだが……良いか? ムソウ」
俺に了承を求めてくるレオパルド。
ただ、急にそんなこと言われても、どうしようもない。正直なところ、別に構わないのだが、コモンのように全てを任せきっているのではなく、どこか、残してきた奴らを心配しているような感じだ。どういうことなのだろうかと、確認してみよう。
「何か訳がありそうだが、何だ? その、魔獣宴を任せた奴らってのは何なんだ?」
「ん? ……あ、知らねえのか。そいつらは俺が面倒見てるもう二体の神獣で、幼い麒麟のことだ」
「キリン?」
初めて聞く魔物の名だな。そんな奴が居るのか。
確か、レオパルドは天災級の魔物を五体使役していると、以前読んだ本に書いてあったな。そのうち、三体はトウガ、トウウ、トウケンということは分かっているが、残りの二体がその麒麟って奴らしい。名前は、キキとリン。そのままだな。
聞けば、その二体の神獣は、トウガ達と同じく、壊蛇襲来の折に、住処を失くしてボロボロに傷ついていたところを保護したらしい。
そして、そのまま育て上げて、天災級と言われるほどまでに強くなっていったという。
また、知能も高く、今では魔獣宴で仕事をするレオパルドの補佐をしているという。
「ただ、いくら歳を取り、賢くなっても精神的にはまだ子供なんだよな」
「リンネみたいな感じか?」
「う~ん……リンネちゃんよりは少し年上という感じかな。コイツ等が言うには、麒麟の寿命は長く、人族よりも成長がなだらかなのではないかとのことだ。
まあ、似たような成長の仕方をする生物は他にも居るからな。エルフや精霊人、ドワーフなんかがいい例だから、そこまで気にしていないが、やはり残してくると少し心配なんだよな……」
ああ、なるほど。リンネは単純にまだ生まれて二年とそこらしか経っていないらしいからあまり気にしていなかったが、どれだけ歳を重ねていても、子供っぽい奴というのは居るよな。
俺の頭の中で、エルフのレイカの姿が思い浮かぶ。アイツは確か、700年ほど生きていたっけか。
そして、そんな奴らに仕事を任せるとなると、確かに不安にもなるか。俺も、いくら賢いとは言え、リンネにジゲン達のようなことをしろと言うのは少し躊躇ってくるものがあるからな。レオパルドの気持ちはよく分かる。
しかも、天災級の力を持っているから、何か問題事があれば、一大事だ。俺はレオパルドの頼みを承諾する。
「分かった。ひとまず明日はお前も魔獣宴に帰っても良い。というか、好きにしろって。お前らの行動を束縛する権利は俺に無いからな」
「感謝する。まあ、様子を見て、何も無かったら、すぐに戻るからよ」
そう言って笑うレオパルド。
いつか、魔獣宴に行くことがあれば、リンネとそいつらを会わせてやりたい。たま以外にも、良い遊び相手になってくれるかもな。
そんなことを思いながら顔を洗っていると、今度はコモンが俺に口を開く。
「あ、そういえば先ほどちらっと聞いたのですが、ジェシカさんがしばらくここを開けるということでしたが、何かありましたか?」
「ああ。チャブラの暴動が落ち着いたらしく、怪我を負った民たちへの救援に行くらしい」
「そうですか……大変ですね……」
まさか、手伝いに行きたいとか言い出すのではないかとひやひやする。やる気があるのは良いことだと思うが、コモンは少し働き過ぎだ。これ以上はやめておけと釘を刺しておく。
九頭龍の解体も終わったし、当面は高天ヶ原の再建を最優先、次いで俺の無間の修繕を頼んでおいた。
「お前も大変だったんだ。王都から何か言われない限り、お前はここでゆっくりとしていろ」
「かしこまりました。とは言っても、本当に、身体の方は大丈夫なんですよ?」
自信満々に目を輝かせるコモンの横で、レオがため息をつき、口を開く。
「ムソウ、多分これは本当だ。コイツは壊蛇の時に、十日間寝ずに世界の復興作業をしていた男だからな」
う~ん……仕事好きというのも限度があるな。ここまで来ると少し引いてくる。
まあ、今はきちんとコイツなりに休養を取っているようだから何も言わないが、流石にそうなってきたら、強めに言っておこうと心に決めた。
その後、風呂から上がって居間で涼んでいると、いつものようにたまとリンネが、飯が出来たとやってくる。俺達はぞろぞろと庭へと出て、それぞれ席についた。
闘鬼神や、屋敷に止まっている妓女たちの他に、今日もヴァルナや、アヤメたち、それにシロウ率いるジロウ一家が目に入る。
ヴァルナの方は宴会に乗り気のようだが、アヤメとシロウは、流石に良いのか?という顔をして、こちらを見てくる。別に無理してこなくても良いのになと苦笑いした。
高天ヶ原が完成すれば、普通の生活に戻っていこうと後で伝えることにして、今日も俺の音頭で宴会を始めた。人が多くて楽しいのは良いことだからな。今は一緒に食ったり飲んだりしておこう。
さて、昨日はダイアン達が俺の隣に来てくれたが、今日は誰が来るのだろうかと思いながら酒を呑んでいると、
「お邪魔してもよろしいですか?」
と、ツバキがやってくる。いつも一緒に居るから、飯を食う時くらいは他の奴らと一緒になれば良いのにと思ったが、別に良いやと思って、頷いた。
「俺の相手はつまらないだろ。リンネはどうした?」
「リンネちゃんはいつも通りです」
ツバキは微笑みながら、皆の方を指す。すると、たまと一緒にあちこち移動しながら、皆と楽しそうに飯を食べているリンネの姿があった。
俺達が見ていることに気付くと、大きく手を振ってくる。それに答えて小さく手を振っていると、ツバキが俺の横に座ってくる。
「それに、こうしてムソウ様とお酒を呑むのは楽しいですし……」
「そうか……そういや、確かに、結構久しぶりな気がするな」
「そうでしょう? さ、どうぞ……」
俺の空いた盃に、ツバキは酒を注いでくれた。お返しと、俺もツバキが持つ盃に酒を注いだ。そして、二人で器を合わせて酒を呑み、クーマの刺身を口に運んだ。
「お、やっぱり、コイツは美味いな」
「こちらは、鬣の部分ですね。私としては少し脂身の方が多いです……」
「じゃあ、こっち喰えよ。多分、腿だろうか、赤身しか見えねえぞ」
「あ、本当ですね。私はこっちの方が良いです」
「俺は、どこでも良いや。たま達が作るものは全部美味い」
「あら、今朝のご料理も美味しかったですよ。また作ってくださいね」
「気が向いたらな……」
あれくらいならすぐに出来るからな。材料が余っていたら、また作ってやろう。女中達もまた食いたいって言っていたしな。
他にも、色んな料理を勉強するついでに作るのも良いかも知れない。丁度いいことに、明日は俺も休みになりそうだからな。
屋敷で出来ることも多い。料理などを作って、調理スキルの熟練度を上げることも出来る。そうなれば、調合をする時などにも応用が利くようになる。
そして、また新しい薬や、強力な薬を作ることも出来る。ジェシカは居なくなるが、牙の旅団の薬師、サンチョは明日からもここで薬を作るらしいから、この際に色々と教わっておこう。
無論、他の奴らからも、吸収できることはどんどん吸収しておこう。これからも俺がこの世界で生きていくためにも必要なことだからな。
「どうかされましたか?」
「いや、俺も明日からは少し暇になりそうだからな。目立った依頼は無いようだし、今日でかなり稼いでいるはずだし、この際に屋敷で過ごしながら色々とやっておこうと思ってな」
「あ、それでしたら、早速私もジゲンさんに稽古をつけていただくとしましょう」
「ああ、その方が良いな。また、何があっても良いように、力をつけておくとしよう。……お互いにな」
「ムソウ様はそのままで充分だと思いますが……」
若干呆れながらも、笑って頷くツバキ。
いずれは闘鬼神の皆も、クレナ以外にも依頼をこなしに出ていくことになるだろう。そうなったときに、俺も安心して、皆を見送れるように、身体はもちろんのこと、心も強くなりたいと思っている。
皆と一緒に、この際にもっともっと強くなるというのも、悪くないんじゃないかなと思いながら、俺はツバキとその後も、酒を呑んでいた。
ふと、皆を見渡すと、今日もそれぞれで盛り上がっているようだが、いつもと違うのは、話の中心に居るのが、ジゲンではなく、リアだということ。
俺達と樹海に赴いたリアに対して、皆は疲れを労っているようだった。
「ホント、大変だったみたいね、リア。今日は前線に居たんでしょ?」
「そんなに危なくなかったわよ、ルイ。私は後ろからツバキさんたちに指示していたから」
「え、それって、神獣様たちにもってことですか? ……大丈夫だったのですか?」
「心配し過ぎよ、ロロ。トウガ様たちは、お優しい方々なのは知っているでしょ? 頭領と違って」
「リアさん! 頭領だってお優しい……じゃ……ない……ですか……?」
歯切れが悪いぞ、ロロ。そして、何で最後が疑問形になっているんだ。
……やめろ、こっちを見てくるんじゃない。何て答えて良いか分からないだろうが。
思わず、しかめっ面のようになったみたいで、ロロは慌てて視線を外す。
「……なるほど、トウガ様は頭領と違って、お優しいのですね。なら、安心です」
結局、そういう結論になったのか。ロロの言葉に、リアたちはクスクスと笑っている。何となく、不愉快だ……。
だが、こういうのも、闘鬼神の相変わらずのノリのようなもので、どこか安心する。少し、嬉しいような気がしながらも酒を呑みながら、ツバキと一緒に皆の話を聞いていた。
明日からも、依頼に取り組む者、街の再建を手伝う者、そして、牙の旅団にしごいてもらう者と忙しいようだ。
アイツらの為にも、俺は飯を作ったり、薬を作ったりするのも悪くないなあと思いながら、今日も宴会は楽しく続いていった。
その後、いつものように、食事が終わっていき、俺は女中たちと皿洗いをして、部屋へと戻った。
そして、一人で武具の手入れをしていると、ツバキとリンネが風呂から戻ってくる。
いつものように、部屋でも三人で少し遊んで、段々と夜も更けていった頃、俺達は布団をかぶり、部屋の灯を消した。
「じゃあ、おやすみ、二人とも」
「ええ、おやすみなさい、ムソウ様、リンネちゃん……」
「おやすみ~……あしたはリンネが……いちばんに……おき……る」
布団をかぶると、最初に寝たのはリンネだ。今日も元気いっぱいだったからな。ぐっすりと眠ることだろう。
悪戯されないように、俺達が先に起きて、リンネに悪戯してやろうとツバキと顔を見合わせて笑い、二人でリンネの鼻をつついた後、俺達も目を閉じる。
色んな事に気付けて、それで、これからの自分の目標みたいなのも出来て、なかなか有意義な一日になったなあと感じ、俺は眠りについていった……。
◇◇◇
翌日、目が覚めて未だ寝ているリンネとツバキを起こさないようして厠へ行った。
まだ少し暗いが、日が長くなったんだなというくらいの明るさとなっている。そういえば、庭の桜は何時頃咲くのだろうかと思い、近づいてみると、つぼみの間から、薄く桃色の花弁が見えていた。
「あと二週間ってところか……」
満開までもう少しということを確認し、その時はまた皆で花見でもしようかなと思っていると、背後から声をかけられる。
「あ、ムソウさん。おはようございます」
「ん? ああ、ジェシカか。おはよう」
振り向くとそこに居たのは、錫杖を手にしたジェシカだった。十二星天が持っているものなのか、自前のものなのか分からないが、見たことがない羽織を身に着けている。
どうやら、これからチャブラの方に向かうらしい。
「早いな。そんなに慌てなくても良いんじゃねえか?」
「いえ……どれだけの被害なのか分からないですから。今のうちに向こうに行って、少しでも多くの方々を救いたいと思います」
「そうか……頑張れよ」
ジェシカはニコリと笑って頷く。少しでも多くの命を救いたいという姿勢は、やはり見習いたいものだ。
俺や闘鬼神の皆、そして、この街の住民全ての命を救ったジェシカの腕は信じている。きっと、チャブラに行っても多くの人間の命を救うと信じている。
「何かあったら連絡しろよ。アンタには世話になりっぱなしだからな。必ず助けに行ってやるよ」
「ふふ……ええ、期待しております。……では」
ジェシカは、そのまま転送魔法を起動させる。そして小さく手を振って、チャブラへと向かって行った。
誰も居なくなった庭で一人佇んでいると、すぐそばにあるコモンの部屋の戸がガラガラと開き、コモンが眠そうに目をこすりながら姿を現した。
「あれ……ムソウさん?」
「ああ、悪い、起こしちまったか?」
「いえ……丁度目が覚めた所でした。ですが……誰かいましたか?」
「ああ。ジェシカがたった今、チャブラに発ったよ」
「そうですか。やっぱり大変そうですね……」
「それはお前もだろ。今日も皆をよろしくな、コモン」
コモンを欠伸しながら、笑って頷く。
「かしこまりました、頭領」
「……やはり、お前にそう言われたら変な感じだな」
思わず俺も笑って、頭を掻く。
ジゲンから聞いたが、コモンはたまと約束したらしい。何があっても、コモンも闘鬼神の仲間であると。そして、その時にコモンが自ら、
「十二星天、“鍛冶神”コモン・ロンドは闘鬼神専属職人です」
と、決めたらしい。どこまで本気なのかと思っていたが、どうやら、本気も本気らしい。
というわけで、コモンにとっても、俺は「頭領」なわけで、時々こうやって、俺のことを「頭領」と呼んでくる。
十二星天の一人を自分の部隊に入れるということに、若干というか、かなり違和感を抱いたが、闘鬼神の紋章を指しながら、まっすぐと見てくるコモンに何も言えず、渋々頷いた。
「……まあ、昨日も言ったが、無理はしないようにな」
「そう言われる度に思いますが、ムソウさんには言われたくありませんね……」
「ぐっ……チッ、なかなか言うじゃねえか。俺みてえに倒れねえようにな」
「はいはい、分かりました」
どこか楽しそうな顔をして、コモンは顔を洗いに井戸の方に向かって行く。
コモンの言うように俺もあまり人のことは言えないか。一週間近く意識を失っていたのだからな。
まあ、今日の俺は休みだ。コモンほど無理はしていないよなと自分で納得して、ため息を吐く。
「……まあ、良いか……さあ~てと、今日は何するかな……」
少しばかり運動をして、皆が起きるのを待ちながら、のんびりと今日の予定を考えていた。




