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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
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第256話―いったん皆と合流する―

 魔物たちの死骸を詰め終えた後、良い時間になっていたので、ひとまずツバキたちが闘っている所に合流しようと思い、俺達は巨木を目指して進んでいた。

 討伐対象の一つ、大鎌カマキリを倒せたということで、今だけは他の魔物の相手をするのが面倒なので、ここからは神人化して向かっている。

 冥界の波動と違い、清らかな天界の波動を受けているトウケンは、先ほどまでとは打って変わって、快活な表情を浮かべていた。


「ずっとそれで居てくれよ。さっきみたいなのは、もう御免だぜ……」

「今日はもうやらねえよ。次からは普通にやるさ」


 コウシの刀の心配もあるが、すべてをきるものもあるし、昼からは普通に戦うと決めた。まあ、よほどのことが起きない限りは、鬼人化をする必要も無いだろうと考えている。


 そうやって、進み続けていくと、トウケンが何かに反応したように、進んでいた方向を睨んだ。


「ん? この先から、けっこうな数の魔物の臭いがしてくるな……」


 トウケンにそう言われて、俺も気配を探ってみる。

 確かに、百を超える魔物の気配を感じる。だがそこまで強くはないようだ。ついでに俺達で倒そうかと思っていたが、ふと、その魔物たちに混じってとある気配が伝わってきて、安堵する。


「よく嗅いでみろ。ツバキ達も居るようだぞ」

「あ……本当だな。どうする? このまま合流して俺達も殲滅に加わるか?」


 どうしたものかと悩むな。少し腹が減っているから、正直なところ早いところ昼食といきたい。

 だが、こんなにも多くの魔物に囲まれているという状況ともなれば、良い修行にもなっていることだろうし……。


 散々悩んだが、飯を優先させたかったので、トウケンに頷いた。


「行くか……なるべく早く終わらせよう」

「了解!」


 トウケンはニッと笑って、走る速度を上げた。俺もトウケンの後に続いて森を抜けていく。

 そして、木々が無くなり、開けた場所に出ると、予想通り、魔物の大群の中でトウガとリンネ、少し離れた所でツバキとリアが闘っているのが見えた。

 ここでも、トウガやリンネに臆することなく突っ込んでいく魔物たちに若干の違和感を抱きながらも、二つの戦況を確認する。


 トウガ達の方は、大きな技など使わずに、一体、一体を確実に仕留めている。二人とも凄い速さで魔物たちの間を駆け抜けながら、あっという間に数を減らしていた。

 へえ、リンネにもああいう戦い方が出来たのか。なかなかいい教え方をするじゃないかと、トウガに感心した。


 ツバキ達の方は、前線にツバキが出て、後方からリアがその補佐、あるいはツバキに指示を出していたりしている。俺の言ったとおりに動いているようだが、気配察知の方は大丈夫なのかどうか、ここからでは分からないな。もう少し近づいてみよう。


「トウケン、お前はリンネ達に加わってくれ。俺はツバキ達の手伝いに向かう」

「了解。ちなみに、ここからは暴れても良いんだな?」

「ああ。だが、素材は残せよ。それから、そうは言ってもほどほどにな」

「難しい注文だが、わかった。じゃあ……行ってくる!」


 そのままトウケンは俺から離れ、トウガ達の元に向かった。魔物の一団に上空から突っ込んでいき、気を込めた拳で地面を思いっきり殴り、その場を隆起させて魔物たちを吹っ飛ばすと共に、二人にニカっと笑っている。


「よお、お二人さん! 少し加勢に来たぜ!」

「ああ、分かってる。ムソウも帰ってきているようだな。てことはそろそろ昼飯か。ならば、早く終わらせるぞ、リンネ、トウケン!」

「クワン!」

「おう!」


 トウガの指示と共にトウケンは駆け出し、気で出来た棒を振り回し大きな竜巻を作ると魔物たちを巻き上げた。そこにリンネが狐火を当てて、どんどん魔物の数を減らしていく。

 地上の魔物は、トウガが今までよりも速く、大きな爪を振るっていき、魔物たちを纏めて切り刻んでいく。


 素材……まあ、良い、諦めよう。


 さて、ここは大丈夫そうだから、早いところ、ツバキたちの所に向かおう。そう思い、二人の居るところに近づいていく。

 すると、後方から指示を出していたリアが俺に気付き、声をかけてくる。


「頭領! ツバキさんに加勢して!」

「了解!」


 まだ、だいぶ距離があるのに、俺が近づいてくることに気付いている辺り、リアの方は何かを掴めているらしい。……と、考えた方が良いのだろうか。

 これは俺にも分からないからな。ただ、俺のやってきたことをやらせているだけであるから、後で確認する必要がある。


 さて、そのままツバキの方に飛んでいき、神人化を解きながら魔物を切り伏せてツバキと合流しようとした。


「ツバキ! 加勢に――」

「あ! ムソウ様、危ないです!」

「あ? うおッとっ!」


 ツバキに近づいた途端、何かに躓いてこけてしまった。身を起こそうとすると、魔物たちが俺を襲ってくる。慌てて刀を振り、ツバキがあたりに斬波を飛ばして魔物たちを追い払ってくれた隙に、立ち上がる。


「痛てて……何だ、一体?」

「すみません……スキルの練習と思い、いくつか小さな障壁を辺りに展開させていまして……」


 申し訳なさそうにするツバキ。その周りをよく見ると、薄い透明な盾のようなものがいくつか浮かんでいることに気付く。

 なるほど、大きな一枚の障壁を張るのではなく、小さくて複数枚の障壁をこのように飛ばして、敵からの攻撃に対処していたというわけか。何とも応用が利くスキルだな。


「便利だな、これ。スキルの方は上達しそうか?」

「ええ。段々と自在に扱えるようになりました。後は強度ですね」

「それは何よりだ。で、気配を感じる方は、上手い具合にいっているか?」

「何となくですが……音を聞いて敵の位置を掴めるくらいには。気配の方はまだまだですね。それこそ、ムソウ様にも気づけませんでしたし……」


 ツバキは残念そうな顔をする。まあ、意識して闘うのは初めてだからな。音だけで気付けている辺り、かなりの前進だと思っているので、あまり気にしない。

 今も展開させているスキルのことも考えると、今後、気配で的確に敵味方の位置を知ることが出来れば、更なる応用が出来そうだなと思い、俺はツバキの頭を撫でた。


「初めてにしては上出来だ。ゆっくりと身に着けていければいい……さて、そろそろ腹が減った。いったん、コイツらを片付けるぞ」

「はい!」


 ツバキは機嫌を取り戻し、強く頷く。


 そして、俺達は魔物たちに向き直り、次々に切り伏せていった。ツバキの方は元からある素早い動きで敵の懐に飛び込み、斬鬼で斬っていくという戦法で闘っている。斬鬼の鋭さに、俺は苦戦したが、ツバキの方は問題ないようだ。いつものように、舞でも舞っているかの如く、敵を倒し続ける。


 途中、死角から攻撃が降り注いだ時にヒヤッとすることがあったのだが、ツバキはその魔物を見ずに、すぐさま障壁を展開させて、攻撃を防いでいた。

 そして、振り向きざまに斬鬼を一閃、更に魔物を倒し続けている。


 なかなか、やるなあと思いつつ、俺もスキルを発動させて魔物を斬っていく。すべてをきるものと剣術、更に刃に気を纏わせて闘っているおかげで、コウシの刀を傷つける心配は無くなった。

 切れ目だけを狙いながら闘うというのは、若干神経を使うが、問題ない。


 そして、ある程度、眼前の魔物を倒していくと、リアが俺達に少し引き下がるように指示を出した。俺達はそれに従い、魔物たちから引いていく。

 すると、リアは大きく気を溜め込んだ巨大な矢を弓から放った。その矢は魔物たちの頭上に飛んでいき、弾けると共に、まるで雨のように幾本の矢が降り注ぐ。

 コウカンがやっていた技を弓矢でやっているかのようだ。上空からの矢によって、魔物たちの数は一気に減っていく。

 殲滅特化というエンミから貰った弓を上手く使いこなせているじゃねえかとリアの方を見た。

 だが、リアはその場にすとんと座り込み、疲れた表情でこちらを見てくる。


「後は……よろしく……」


 リアはそのまま回復薬を飲み始めた。ああ、やはりまだ大きな技は多用できないようだな。


「お疲れさん、後は任せろ」


 リアを労い、ツバキと頷き合って、お互いに刀に気を込めた。そして、息を合わせて二人で刀を振る。


「「十字斬波!!!」」


 俺の刀から飛び出た斬波と、ツバキの刀から飛び出た斬波が、魔物に向かって行きながら交差するように交わる。

 そして、×の形をした一つの斬波になると、残っていた魔物たちを斬り、更に森の中に入っていき、多くの木々をなぎ倒していった。


「お、上手くいったみたいだな」

「ええ。ですがジゲンさんやシロウさんのように、この技も一人で撃てるようにならなければいけませんね……」


 十字斬波はよく、二本の刀を使って行う場合が多い。それか、今の俺達のように二人で行うか。一つの斬波よりも威力が大きいので俺も使いたいが、その為には、凄まじい速さで刀を振らなければならず、無間では出来そうにもない。

 正直、俺は無間のままでも良いが、ツバキとしては、ただの斬波の威力が弱いので、十字斬波を一人でも撃ちたいとのこと。薄刃刀が出来た際には、ジゲン達に指導させてもらうと良い、というとツバキは頷いた。


「ちなみに、あの抜刀術は出来たのか?」

「一撃だけなら……ですが、鞘から抜いて何度も斬った後に再び鞘に納めるという芸当は流石に無理ですね。

 それに、こういった乱戦ではあの技は不向きということも分かりました……」


 まあ、ひっきりなしに敵が来るからな。いちいち納刀と抜刀を繰り返すというのも考え物だよな。その辺りの応用も、改めてジゲンに聞くと言って、ツバキは斬鬼を仕舞う。

 五体も無事で、大した怪我もしていない様子のツバキを見て、斬鬼の中に居る奴に、心の中で感謝しておいた。


 さて、トウガ達の様子はどうかと、目を向けると、俺達の闘いが終わったことに気付いたトウガが、リンネとトウケンに向かって口を開く。


「リンネ、トウケン! 向こうは終わったらしい! ここは俺達も一気に終わらせるとしよう!」

「おう!」

「クワ~ン!」


 トウガの言葉に頷いたトウケンは、その場から魔物たちの大群の中心に飛び込んでいく。そして、棒に更なる気を送り込み、長さを伸ばしていった。それを頭上でぶん回す。棒に当たった魔物たちはその場ではじけ飛ぶか、トウケンによって出来た大きな竜巻により巻き上げられていくかに分けられる。

 そして、竜巻に全ての魔物が巻き込まれたことを確認すると、トウガとリンネは全身に力を込めた。リンネの方はいつものように尾に狐火を集中させる。

 そして、その力を、体を伝わらせて口元にとどめ、更に力を込めだした。

 一方トウガは、毛を逆立たせて、力を込めながら体内に木の塊のようなものを作り出し、それを両前足に込めていく。


「今だ、リンネ!」

「クワアアアア~~~ン!!!」


 そして、二人は顔を見合わせ合図すると共に、リンネは口を大きく開きそこから、高密度に圧縮された狐火を放つ。

 トウガは大きく跳躍すると、前足に溜まっていた気を放出させた。それはどうやらそれぞれの爪から放たれる斬波のようで、六つの大きな斬撃が交差しながらトウケンの作り出した竜巻に迫っていく。

 二人が放った攻撃は竜巻の中で炸裂し、魔物たちを斬り刻み、消し炭へと変えていく。

 その後、トウケンが棒を回すのをやめると竜巻は消えた。その中からは何も、塵一つ落ちてこない。

 呆然としていると、ふう、と息を吐いたトウガが着地し、疲れて地面に伏している、小さな獣姿のリンネの頭を撫でた。


「ふむ……良い威力だ。だが、体力的に難ありだな。これからは、もっと体を鍛えるのだぞ」

「……キュウ」

「お疲れのようだな。トウガ、皆のとこに連れてってやれよ」


 地面にペタッと伏しているリンネをトウケンが抱き上げてトウガの背中に乗せた。そのままリンネは、トウガの背中でのんびりとし始める。


「さて、じゃあ、飯にしようぜ。腹減ったからな」

「ああ。ところで、ムソウの闘いはどうだったんだ?」

「聞いてくれ。それがよ……」


 などと言いながら歩いてくる神獣達を俺とツバキはただただ口を開けるばかりだった。


「……ムソウ様」

「……何だ?」

「素材は……諦めましょう……」

「……分かってる」


 リンネの方は本気だろうが、アイツらが少しでも力を入れるだけでそこらの魔物の素材は残らないということが分かった。もう、これから先の素材のことは諦めておこう。

 そして、本気では無いにしろ、かなりの力を垣間見た気がする。午後からも魔物はここに来るのだろうか。さっきの攻撃を恐れ、魔物たちが樹海から出ていないだろうか。

 色々と心配する俺達の目には、相変わらず楽しそうにする三体の神獣の姿が映るだけだった。


 すると、俺達の上空から、バサバサと大きな音が聞こえてくる。新手の魔物かと思い身構えたが違った。

 それは、レオパルドを乗せたトウウのものだ。近くに下りてきたレオパルドは、辺りを見回しながら頭を抱えている。


「でけえ竜巻が見えたと思ったら……これは、トウケン達の仕業か?」


 更地になった場所を指しながら、俺達に尋ねてきている。

 俺が頷くと、深くため息をつき、項垂れるレオパルド。やはりこちらも素材が残らないということで落ち込んでいるようだ。


「ムソウ達の方は我慢してくれているのに、何か、悪いなあ……」

「いや、うちもリンネがアイツらと暴れたから何も言えない。気にするな」


 そう言うと、少しだけ落ち込んでいた様子のレオパルドはぴくッと顔を上げて、ずいっとこちらに寄ってくる。


「リンネちゃんが? さっきの攻撃に、お前んトコの妖狐も加わっていたって? それは本当なのか?」


 急にどうしたのだと戸惑いながら、頷く。


「あ、ああ。トウガ達に混ざっていたぞ」

「どんな技だ? 威力はどれくらいだ?」

「狐火ってリンネの得意技だよ。威力については説明しづらいな……」

「抽象的でも良いから教えてくれ! それから……」


 と、レオパルドからの質問攻めは止まらない。助けを求めるように、ツバキに視線を移したが、ツバキもおろおろとしているようだ。

 すると、トウウがため息をつき、嘴でレオパルドの背中をつつく。


「おい、レオ」

「何だよ、今忙しいから後にしてくれ」

「何言ってんだ。ムソウも、そこの嬢ちゃんも困ってんだろ。そんなに一気に聞いてやるなって。悪い癖だぞ」

「お前こそ何言ってんだよ。珍しい魔物の生態がまた一つ分かるんだぞ。これは人族にとって偉大な一歩になるだろう……といわけで、なあ、ムソウ……」


 トウウの制止も大した効果はなく、レオパルドからの質問攻めが再開する。トウウはレオパルドの後ろから俺に小さく頭を下げた。

 謝らなくて良いから止めて欲しいと思っていると、近くまで来ていたトウガが、ため息を一つついて、レオパルドの頭を叩く。


「あ痛て! 何すんだ!」

「うるさい。さっさと飯を作ってくれ」

「あ? 今大事なところなんだよ。邪魔すんな!」

「何言ってんだ。今大事なのは午後からの英気を養うことだ。リンネも疲れている。早く飯を作らないと、リンネのことを調べるというお前の目的を果たすことだって出来ないぞ?」

「ッ!? わ、わかった! そうとなりゃ、お前ら、食えそうなものを出せ!」


 レオパルドは慌てた様子で俺達に指示を出す。ようやく落ち着いたか……。

 いや、落ち着いてはいないか。

 だが、ひとまず昼飯が食えるということで俺達は安心した。

 すると、突然俺の背後からため息と共に、呆れたような声が聞こえてくる。


「はあ……レオパルド様もやっぱり少し抜けたところがあるようね……」

「おっと! ……ん? なんだ、リアか。驚かすなよ……」


 声に驚き振り返ると、そこにはリアが立っていた。いつの間にそこに居たんだと聞くと、闘いの間から隠蔽スキルを使い続けていたとのことだ。


「大したもんだな。俺でも気づかなかったぞ」

「あら、それは嬉しいわ。でも、逆に察知する方は全然ね……」


 素直に、俺の背後を取れたことには喜ぶリア。だが、肝心の気配を探るということに関しては、自分で納得できる出来ではないらしい。


「だが、俺のことはすぐに見つけられていたように思えたが?」

「頭領は他よりも大きな気配だからね。それにあの時は神人化していたから、明らかに他と違うって分かったから……」


 ああ、それで少し離れていても、俺の事は分かったのか。なるほどと思ったが、ということは若干ではあるが、ツバキよりも周りの気配を探るということに関しては、一歩進んだ状態にあるらしい。

 元々の素質かどうか知らないが、やはりリアの方は呑み込みが早いなあと感じた。すると、ツバキも口を開く。


「ですが、リアさんのおかげで、事前に魔物を察知することが出来ました。本当にありがとうございます」


 優しく微笑みながら頭を下げるツバキに、リアは若干目を見開いて、驚いた様子になるも、すぐにいつもの調子で淡々と口を開く。


「ツバキさんこそ、しっかりと私について来てくれて嬉しかったわ。昼からもよろしくね」

「はい!」


 ツバキの返事に、リアは、クスっと笑った。息ぴったりだなと思い、上手く連携もとれているようで安心する。


 その後、早く食材を出せというレオパルドに従って、俺達は異界の袋を開こうとする。だが、最後の一撃でだいぶ減ったとは言え、周りは魔物の死骸だらけだ。

 この中で飯は食いたくないなあと思い、俺は異界の袋をトウケンに渡して、レオパルドの手伝いをするようにと指示を出した。

 そして、神人化して光葬針を武者の形にして、魔物の死骸を集める。集めたものはリアの異界の袋に収めていった。


 俺が光葬針を操り、こうやって魔物の死骸を回収するという行為を、リアは初めて見る。無論、トウガもトウウもだ。三人とも目を丸くしながら俺の作業を眺めている。


「レオパルド様、リンネちゃんだけじゃなくて、頭領も調べた方が良いんじゃないの?」

「……ああ、その方が良いな。それこそ、人族にとっては大きな一歩となるだろう」

「本当にムソウが人族かどうか怪しくなってきたな……」


 などと、言いながら、手伝いをしない三人に俺は顔を向ける。


「お前ら、余計な事言ってないで手伝えよ。お前らがコイツらを狩ったんだからよ」

「ねえ、頭領……それ、どうなってるの?」

「お前も知っているだろ。俺の指示通りに動いているだけだ。闘えと言えば闘うし、洗濯をしろと思えば、洗濯するし、今は死骸を集めろという指示を出しているから、こうやって魔物の死骸を集めてもらっているんだ」

「集めてもらってるって……頭領の力でしょ?」

「まあ……そうなんだが……って、いいから、手伝えよ!」


 俺の力のことで話を逸らそうとしていることに気付いた俺は、三人に手伝いを求める。すると、トウガ達は、はあとため息をつき、三人で顔を見合わせ頷き合い、作業に取り掛かった。最初は緊張していた様子のリアも、ずいぶんと慣れたものだと、若干呆れながらも、俺は作業を進めていく。


 ツバキは疲れたリンネを膝の上に乗せて自身も休んでいるようだ。時折、指先をポンポンと叩くリンネを優しく撫でたりしている。

 リンネは獣人化をしていない。トウガによれば、獣人化する元気もないのだろうとのこと。一応回復薬などを飲ませたが、今は単純に力を使って腹が減っている状態なので、薬も意味はないらしい。

 それを知ったレオパルドは急いで飯を作っている。隣でトウケンに、


「元気になったばかりのリンネを疲れさせるようなことをしたら、許さねえぞ」


 などと言われているが、あっそ、と受け流しながら、魔物の肉を焼いていく。

 あまり気にしていないようだ。あの様子だと、獣人化した途端に、根ほり葉ほり質問攻めしそうだな。

 そうならないように、俺達でリンネを全力で護ってやろうと皆に目配せをすると、トウガとトウウは何故かフッと笑った。何故だろうと思っていると、トウガが近寄ってきて、口を開く。


「恐らく、その心配はない。アイツは、そんな奴じゃねえよ」

「言ってる意味が分からないんだが……」

「そのうち分かる。アイツが動物には優しいってことがな……」


 トウガは笑いながら、レオパルドの方を向いた。その眼はどこか昔を懐かしんでいるような目だ。

 俺はそこまでレオパルドという人間のことを知っているわけではないが、トウガ達の中では、アイツにもどこかアキラに似た所があり、それを感じているのかも知れないなと思った。


 その後、皆の協力もあり、辺りに横たわっていた魔物たちの死骸の回収作業が終わり、俺も神人化を解いた。大小合わせて300はくだらない死骸だったが、俺とトウケンが倒したものの中にも、ここで闘った 魔物の中にも、大鎌カマキリは居るが、もう一つの討伐対象である大毒蛾は居なかった。

 樹海中を走り回る俺達は、午後からの活動は、大毒蛾を最優先討伐対象として探索を続けることに決まった。


 そして、皆と一緒にツバキたちの元へ戻ると、丁度レオパルドの料理も終わったらしく、デカい皿の上に焼いた肉の塊と、木の実と野菜を和えたもの、そして、米と野菜と魚を混ぜて炒めた飯物と、ちょっとした汁物が置いてあった。

 意外と、多彩な料理に驚いていると、匂いにつられてリンネが身を起こす。


「キュウ~!」


 リンネはやはり大皿の上の肉塊に向けて飛び込んでいった。口の周りを盛大に汚しながら、レオパルドの料理に食らいついていく。


「む!? リンネに全部食われる前に、俺達も食うぞ!」

「「オウッ!」」


 どんどん減っていく肉を見て、トウガ達は慌てて肉に食らいつき、リンネと取り合ったりしていた。

 そして、リンネが咥えていた肉にトウケンが手を出そうとすると、ぴくッと身を震わせてリンネは獣人化する。


「だめ! これはリンネの!」

「けちけちすんなって! 食いすぎだろ、俺達にも分けろ!」

「い~や!」


 などと言いながら、トウケンとリンネは大きな肉を引っ張りあう。まるで子供の喧嘩だなと頭を抱えながら、懐からクナイを投げ、その肉を半分に切った。


「飯くらい落ち着いて食え」

「それに……また、こんなに汚して……」


 俺に続き、ツバキもため息をついて、リンネの口周りを手ぬぐいで拭いていく。

 そして、リンネが手にしていた肉を小皿に置くと、箸で食べやすいように、例のないふとふぉーくで、小さく切っていった。


「はい、どうぞ」

「ありがと~! おねえちゃんはやさしいなあ~……」


 ニコッと笑うリンネ。そのまま静かに飯を食い始めた。一口ずつ味わっては、ツバキと顔を見合わせて笑顔を振りまく。

 それを見た神獣達も、ガキ臭いことはやめようと言って、落ち着いて、飯を食い始めた。

 ようやく皆、落ち着いてくれたかと、思っていると、隣から何やらぶつぶつと独り言のような声が聞こえてくる。

 見ると、レオパルドが、リンネを見ながら、何か紙に書いている様子が、目に入った。


「何してんだ?」

「……ん? ああ、すまない。さっきも言ったように、リンネちゃんの観察だよ。気になったことや分かったことはこうやって記録しておかないとな……」


 と言って、筆を走らせるレオパルド。

 すると、トウガがそばに寄ってきて、俺にフッと笑う。


「コイツが魔物の生態を調べるときは、自分から何かをしようとはしない。ただ、魔物たちの経過を見守るだけだ。いわば、自然の状態を見たいってところだな」

「あ、それでか……」

「な? さっきも言ったように、リンネには負担をかけないようにしているだろ?」


 確かに、と思いレオパルドを眺める。トウガによれば、レオパルドは魔物を調べると言っても、自分の手で何かをさせようとはしない。自ら思うようにはしゃいだり、飯を食ったりしているリンネを眺めているだけだ。話を聞いたりはしなかった。

 無論、そちらの方が手っ取り早く、リンネのことが分かるのだが、レオパルドの取っては見た方が速いとのこと。

 そして、疲れているリンネに質問攻めをすると、リンネがまた疲れてしまうということも自分で理解しているとのことだ。


「じゃあ、さっきのは何だったんだよ?」

「リンネのことをよく知っていて、更に元気なお前に話を聞くくらい良いだろうと思っていたんだろ。

 コイツは知らない魔物のことを調べるということに関しては積極的になるからな」


 なるほど。自分にとっての最優先事項をその時の状況で、自分にあったやり方で調べるとなると、さっきの状況ではああなったというわけか。何とも、要領のいい男だなと感心してしまった。

 すると、俺達の話が聞こえたのか、レオパルドは筆を止めて、ため息をつく。


「未だ謎の多い魔物を調べるのは別に悪いことじゃねえだろ。謎が分かれば、それだけ人の生活が護られるかも知れないからな」

「だからって、あそこまでぐいぐい来られると俺が困る」

「そりゃあ行くさ。従魔と家族みたいに過ごす人間なんて、俺以外にミサキくらいしか見たことが無いからな。魔物が心の底から信じている人間というのは珍しい。

 そいつから話を聞くというのは当り前だろ」


 聞けば、魔物を使役する人間というのは、居ることには居るのだが、ほとんどが、愛玩用か、戦闘用に飼い慣らしているだけとのことだ。

 四神にとってのミサキ、トウガ達にとってのレオパルドの関係のように、リンネにとっての俺達、という関係は結構稀らしい。

 俺を介してではあるが、リンネも屋敷の者達、特にたまと仲良くしている。他にもアヤメや、ナズナ達にも敵意は持っておらず、楽しそうに過ごしている。

 マシロに居た時も、魔物でありながら、人族に直接的な敵意などは無かった。

 果たして、リンネがそういう魔物なのか、妖狐という種族が人族には友好的な魔物なのかを調べるためにも、リンネが一番に信頼を寄せていると思われる俺に話を聞いた方が早いとのことだ。


「というわけで、普段のリンネちゃんのことは大体わかった。後は戦闘能力についてだな。ここからは、やはり、アンタから話を聞くとしようか……」


 ニカっと笑うレオパルドは、リンネから俺の方に視線を移して、先ほどのように、根ほり葉ほり話を聞く体勢になる。リンネには迷惑をかけていないなが、俺にはかけるらしい。俺は飯を食いながら、視線を外す。


「何でだよ。もう良いから、リンネに聞けよ」

「リンネちゃんは、騎士の嬢ちゃんと楽しそうだ。邪魔しちゃ悪い」


 意外と気が利く言葉を発するレオパルド。ちらっとツバキに視線を合わせると、慌ててリンネの相手をし始める。逃げたな、アイツ。

 トウガ達にもどうにかしろと、目で訴えたが、アイツらはアイツらで、静かに飯を食いながら、少しずつ離れていく。

 トウガだけ、何か薄く笑みを浮かべているということに気付く。何が楽しいのかまったくわからない……。


「後にしてくれよ。俺も腹減ってんだからよ」

「い~や、今しかないな。今日は俺もリンネちゃんのことを観察したかったが、それも出来そうにないからな。聞けるときに聞いておかないと」


 うずうずとしながら筆と紙を手に取るレオパルド。本当に面倒だ。自分で作った飯に手を付けていない所を見ると、飯よりも優先させたいようだ。

 どうしたものかなと思い、最後に静かに食事をしているリアに視線を向けた。なんでもいいから、気を引いてくれと思いながらジッと見ていると、リアは小さくため息をつく。


「はあ……頭領が困っているのは見ていて面白いけど、仕方ないわね……」


 そう言って、リアは器を置いて、トウウの方を向いた。


「トウウ様、上空の魔物たちというのはどういう状況だった?」

「ん? そうだな……特に何も無かったぞ。別段少ないというわけでもなかったし、多いというわけでもなかったし……」


 突然の質問に、トウウは首をかしげながら、そう答えた。一体何を聞きたいのだろうかと思っていると、リアは頷き、俺達に視線を戻す。


「なら、午後からはレオ様もここに残って私達と一緒に闘って。そうすれば、リンネちゃんのことを観察できるでしょ?」


 リアの言葉に、思わず面食らう。

 そういや、そういう解決策があったな。空の敵がトウウ一人で余裕そうならば、レオがツバキたちと闘っても何の問題も無い。

 そして、リアの言うように、リンネと近くで闘えるので、レオパルドにとっても良い条件だと思う。

 レオパルドも俺と同様に、目を見開き、ポンと手を叩いた。


「なるほど……確かにいい考えだな。よし、昼からはそうしよう! そうとなりゃ、腹ごしらえだな!」


 レオパルドはようやく筆と紙を片付けて、飯にありつく。皆から、やれやれというため息が聞こえる中、俺はリアに思いっきり感謝した。


「ありがとう。ようやく、落ち着けそうだ」

「気にしないで……正直うるさかったから……」


 ボソッと最後にそう言って、リアは食事を再開する。

 リアの言葉は本当に小さく誰にも聞こえていないと思ったが、飯にありつくレオパルドと、はしゃいでいるリンネ以外には聞こえていたらしく、ツバキ達は苦笑いする。

 最初は十二星天に神獣達、そして俺と一日を過ごすことに、少しばかり緊張していた様子のリアも、段々とこの状況に慣れてきたんだなあと思い、俺も笑っていた。


 ◇◇◇


 ようやく落ち着いて、俺も飯が食えると思い、レオパルドが作った料理にありつく。意外と、美味いというのが少しだけ悔しい。しかも、俺が作るような、ただ煮たり、焼いたりしたものではなく、ちゃんとしているというのが、更に悔しさに拍車をかける。

 今朝作っただけでなく、今後もたま達に聞いて、料理の練習でもしようかと思っていた。


 そして、食事を続けながら、午後からの動きについて、皆で確認した。


「レオがここで闘うことに関しては、トウウは大丈夫なのか?」

「ああ、問題ない。ワイバーンの祖でも出ない限り大丈夫だ」


 トウウは即答する。まあ、これでも空を飛ぶ魔物の頂点に位置する者だからな。こう言っているが、古龍ワイバーンが出ても何とかなるだろう。


「で、ここで闘うのは午前中と同じ奴らにレオが加わると……大丈夫か?」

「ええ、大丈夫よ。けど、少し気になることがあるの……」


 リアは箸を止めて、真剣な眼差しになる。何かあったのかなと思っていると、トウウも、あ、と言って、口を開く。


「そういや、レオも何か気にしていることがあったな」

「……ああ、あれか。別に大したことじゃねえよ」


 レオはそう言って、食事を続ける。

 だが、十二星天が気になることというのは、例えそれが大したことが無いと言われても、こちらとしては気になってしょうがない。リアのことも後で確認するとして、レオに話を聞いてみることにした。


「取りあえず、言ってみてくれ」

「ん? ……ああ、分かった。

 ……出てくる魔物の量が多いのは、想定内なんだが、何か、様子がおかしいような気がする」

「おかしい?」

「気のせいかもしれないが、少し気性が荒くなっているような感じだな。上でもトウウを普通に襲って来たし、ここにも、トウガが居たにも関わらず、あれだけの魔物が来ていたようだしな。普通なら、ビビッて近づかねえはずなんだが……」


 レオパルドの言葉に、横でリアも、うんうんと頷いている。どうやら同じことを思っていたらしい。

 俺もトウケンと闘いながら、思っていたことだ。魔物が多いということはレオパルドの言うように、納得できたが、力を抑えているとは言え、トウケンにも魔物は襲い掛かっていたし、この場を見る限り、トウガに対しても同様のことが言えたようで、リアはおかしいと感じていたようだ。


「最初は自重しない頭領を恐れて、こっちに逃げてきたと思っていたけど……」

「何でだよ。むしろ、俺にも普通に襲ってきていたぞ。それこそ、鬼人化した時も、普通に襲って来たな……」


 そう言うと、トウケンはビクッと体を震わせ硬直し、俺の鬼人化を知っているツバキは目を見開いた。


「え……ムソウ様、今日もあのお姿に?」

「ああ、力試しにな。別にお前らも近くに居なかったのだから、良いだろう?」

「まあ、そうですが……しかし、あのお姿のムソウ様にも襲い掛かるというのは、少し気になりますね……」


 ため息交じりにツバキが呟く。少し腑に落ちないが、俺もそのことについて、一番違和感があった。

 鬼人化した時は、冥界の波動の影響で、敵味方問わず、周りに居る者達を怯えさせるという効果がある。俺達を襲ってきた魔物たちも、最初は怯えて何も出来ないようだったが、意を決したように、俺達に襲い掛かってきていた。

 何故、あそこまで本気で俺達を襲って来たのか、逃げるという選択肢は無かったのかと疑問に思う。


「何か、必死な感じなんだよな……レオとしてはどう考えている?」

「う~ん……こういう時は、獲物が少なくて飢えている時だったり、何か強い魔物が近くに居る時だったりするのだが……まず、飢えているということは無いな。そこまでの必死さは感じない」

「では、他に強い魔物が居ると? 例えば、デスマンティスって奴とか?」


 他の皆の顔が少し強張り、場に緊張感が漂い始めたが、レオパルドは首を横に振る。


「いや。デスマンティスは、大鎌カマキリの上位種だ。大鎌カマキリが逃げる道理はない。他の魔物の上位種というのも考えられるが、ここに居た奴らやアンタが倒した魔物の上位種についても同様のことが言えるから、近くに強い魔物が居るってことも考えづらいだろう。

 というか、アンタも気配を感じていないみたいだし、俺の魔力感知にも何も引っかかっていないみたいだからな」


 まあ、この樹海全体の気配を探るというのは難しいがな。だが、俺の感覚の範囲内にそう言った、魔物の気配が無いというのは事実だ。

 それに、オパルドの魔力感知能力でも、魔物の姿は確認できていないとのことで、こちらの可能性も低いらしい。


「ふむ……トウウとトウガは何か気付いたか?」

「いや……そもそも、この樹海には魔物が多いからな。よほど近くに居ないと嗅ぎ分けることなんて、出来ねえよ」

「同じく……俺の場合は目だが、木が邪魔でよく見えない……」


 やはり、トウガの鼻もこの状況では役に立たないか。一応、知っている魔物であるならば、分かるのだが、今まで嗅いだことがない匂いというのはしてこないらしい。

 ゆえに、デスマンティスがここに居る可能性も低いとのことだ。

 若干皆の緊張はほぐれたが、魔物たちの謎については分からないままで、未だ俺達は頭を抱えている。


「ツバキたちはどう考える?」

「そうですね……やはり、何か別の魔物が居ると考えるのが自然かもしれませんね」

「こないだの一件もあるし、ケリスがデーモンやスケルトンの他にも、ここに何かを残したって、可能性も考えられるし……」


 そうだよなあ。その可能性も無くはないんだよな。あの時は俺もカドルも気が付かなかったが、万が一の保険の為に、他にも何かをしていそうな気もする。ケリスは用心深い男だったからな。

 デーモンが倒されても良いように、それに代わる何かを残すか、あるいはスケルトンの代わりに何かを残したか、どちらにせよ、何か他にも、人界の災いになりえる用意をしていたのでは、ということも考えられる。


 取りあえず、俺達の考えとしては、樹海の中には何かが潜んでいて、そいつから魔物たちは必死に逃げているという結論になった。

 となれば、その原因を叩かないと、樹海の魔物はより凶悪なものになるか、樹海から出ていき、付近の村々に危害を及ぼす可能性が出てくるので、まずは、その原因を探り、対処するという話になった。


「じゃあ、皆がここで魔物の群れと闘い、上空はトウウが担当するってんなら、俺がその原因を見つけて叩いた方が良いな」

「ああ。だが、アンタとトウケンとでは、周囲を探りながら、というのは難しいだろ?」

「……ああ、そうだな」


 若干、トウケンが不服そうな顔をするが、俺はレオパルドの言葉に頷く。トウケンの鼻はよく効くみたいだが、リンネほどではないということは分かっている。

 よほど、近くに居ないと探知できないみたいだし、どれだけ敵が居るかということは分からないようだ。午前中はそれで問題なかったが、これからのことを考えると、もう少し、探知能力があると嬉しいと思っている。

 俺の気配を探るものも、正直に言えば、あやふやなものだ。隠密に長けた迷彩龍などを相手にする場合は、何となくというところで止まっている。

 正体不明の敵と戦うのならば、もう少し感知能力に長けた奴が必要だなと考えていた。


「だったら、昼からはトウガをアンタにつかせた方が良いかもな。トウケンと代わる形になれば良いだろ」


 レオパルドの言葉に、俺とトウガは、顔を見合わせる。樹海を探索して、何らかの原因があるとすれば、それを探知するにはその方が良いかも知れないと感じた。


「なるほど……それはいい考えだな」

「ああ。だが、それだとリンネの修行が出来なくなるが……?」

「ムソウには悪いが、もうそんなことをしている状況では無いのかも知れない。樹海に何かが居たとして、そいつから魔物たちが逃げてここに来るというのなら、ここに戦力を集中させ、ここで全力で戦った方が良いだろう。

 ……というわけで、トウケン、納得してくれるか?」

「ああ、良いぜ。正直、ムソウと闘うのは疲れた……」


 どこか、面倒ごとが終わったといったような感じで、頷くトウケン。何となく腹が立つが、午後からはここで闘うということには納得しているようだ。

 つまり、午後からは、ここでツバキ、リア、リンネに加えて、レオパルド、トウケンが魔物たちと闘い、俺とトウガは、周辺の探索、トウウには上空の敵と共に、樹海から出ていく魔物の処理を行ってもらうという動きになった。

 これだけ広い樹海の周りを飛ぶということで、トウウには負担をかけさせるなあと思っていたのだが、大した大きさじゃないから安心しろと笑うトウウに、俺達は頷いた。


 リアたちについては午前中と同じように戦ってもらう。

 ただ、朝よりも魔物たちが増えるということも懸念して、午前中はトウガと共に闘っていたリンネをツバキたちの近くに回すように指示した。俺の居ない代わりに、ツバキ達を護ってもらおうという考えだ。


「トウガに教わったことを、今度は自分で考えてやってみろ。それで、ツバキとリアを頼んだぞ」

「うん! しっかり、まもるからね!」


 表情を輝かせて頷くリンネに、トウガも無言で頷いた。特に言うことは無いらしい。午前中に教えたいことは教えられたようで安心した。


「で、ツバキと、リア。あまり無理をするなよ」

「ええ。ですが、いざとなったら助けに来て下さるんですよね?」

「ああ、任せろ」


 思わずツバキの言葉に即答すると、リアがクスっと笑った。


「言質取ったよ、頭領。偶々なのか、頭領が居るからなのか、また変なことが起きているみたいだけど、頑張ってね」


 むぅ……リアの言葉に何も言えないな。昨日もただの休暇だったはずなのだが、結果として迷彩龍が現れたし……。

 また、俺が変な事態を呼び込んだ気がして、本当に何とも言えない気持ちになる。

 リアの言葉に頷くように、他の奴らからも笑い声が上がる。状況を分かっているのかと突っ込みたくなるが、皆の顔を見て、そんな気も失せてきた。

 そして、俺の隣で闘えるかも知れないとうずうずしている様子のトウガに、トウケンとツバキが、ここに気をつけろと、色々と説明し出す。そんな、腫物に触れるような扱いをしなくても良いのに、と思っていると、リンネが俺の膝を叩き、顔を覗き込んできた。


「リンネも、がんばるからね! おししょーさま、あんしんして!」

「……ああ。頼んだぞ、リンネ」


 もうお腹もいっぱいのようで、リンネの元気いっぱいな姿に、俺はすっかり癒されて、頭を撫でた。リンネは嬉しそうにニコッと笑う。


 まあ、皆も前向きなのは良いことなんだろうなと思い、午後からの英気を養おうと、俺も飯を食うのを再開させた。


 ◇◇◇


 飯を食い終えた後は、回復薬等の確認をして、俺はトウガと共に森の中へと入っていった。別れ際に、やる気を見せるリンネとは裏腹に、他の奴らはトウガに気を付けるようにと、声をかけていく。


「では、トウガ様、お気をつけて……」

「分かってる」

「危なくなったら、逃げても大丈夫だからね。皆には内緒にするから」

「余計な心配はするな。ここに俺の命を脅かす者など居ないだろうからな」

「いや、そっちじゃなくて、ムソウの方だって」

「それこそ、問題ないだろ。何の心配をしてるんだ?」

「お前……まあ、良いや。お前も俺と同じようになるんだからな……」


 トウケンの言葉に、トウガは首を傾げるも、俺にとっては不本意だが、皆の言葉に頷いていく。

 一人、トウウだけは、ニヤニヤとするだけで何も言わなかった。コイツにとってはそのあたりの事情はどうでも良いらしい。

 俺はトウウに寄って行って、皆には聞こえないように、耳元で囁いた。


「俺達が本気になって、樹海から逃げる魔物も居るかも知れない。その時は悪いな……」

「気にすんなって。それも込みの俺の役目というのは理解している。まあ、お前もあまり無茶しないようにな」


 トウウはそう言い残して、大空へと向かっていった。なんだかんだで、俺と関わる機会が多かったトウウは、この中で、一番俺の気持ちが分かっていたようだ。

 何となく安心して、未だ皆に心配されているようすのトウガに声をかけて、森の中へと入っていった。


 今回は、俺も集中して索敵を行いたいので、トウガの背に乗って移動することにした。やはり、リンネよりは剛毛な気がするが、アイツの言ったように、気持ちいいと言えば、気持ちいのかも知れないと思っている。

 そして、辺りの気配を探りながら進んでいくと、トウガが口を開く。


「どうだ?」

「特に変な気配は感じないな……というか、魔物の数が多すぎる……」


 魔物たちの違和感に対する、変な気配を感じようとしたが、他の魔物の気配が多すぎて、どれがどれやらという感じだ。全部倒すというのも、難しそうだ。やはり、この樹海には何度も来ることになりそうだ。

 そんなことを思っていると、トウガは目を丸くしながら、こちらに顔を向けてくる。


「いや、そっちじゃなくて、乗り心地はどうだと、聞いているんだが……?」


 何を聞いてきているのかと頭を抱える。コイツ、俺が必死になって樹海の様子を探っている時に何を気にしているのやら……。


「……まあ、やはりリンネの方が、毛触りが気持ちいい気がするな」


 お返しとばかりにそう言うと、トウガはガクッと目に見えて落ち込む。


「……そうか。少し残念だが、我慢してくれ。

 それから、俺の方も同じだ。魔物の数が多くて、うまく鼻が利かないようだ」

「ようやくまともなことを言ったな……そうか、お前の方も駄目か」

「どうする? 取りあえず、近くの魔物の所まで行こうか?」

「だな。だが、すぐに倒さずに様子を見るだけにしておこう」


 ひとまず、俺達は一番近くに居る魔物の群れを目指すことにした。こうしていても何も分からないからな。何か原因があって、それが分かれば御の字ということにして、戦わず様子を見ようということで、トウガは魔物の近くへと向かっていった。


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