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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
256/534

第255話―それぞれが闘う―

 ツバキ達はムソウとレオパルドと別れた後、樹海の中心から生えている巨木の降り立った。ここならどこからでも、敵が来て、危険な場所であると共に、確かに気配を探るという修行にはうってつけの場所だなと、ツバキとリアは思った。


 だが、付近には魔物の姿はない。もうしばらく時間があると考えた二人は、自分たちなりの作戦を示し合わせた。


「では、どういたしましょうか?」

「じゃあ、ひとまず私が指示を出す形になって良いかな? 少し高い所から矢を撃ってきながら、ツバキさんに指示を出すけど……」

「その方が良いですね。私は剣士ですし……それに、ムソウ様と手合わせをした時も、リアさんが私達を統率していましたからね……」

「あれはね……一対多勢だから出来たことなのよね。今日はあの時の逆。私達の方が少数だから、私も慌てるかも……」

「大丈夫です。リアさんがいつでも落ち着いていられるように、敵を食い止めてみせます」

「ふふ、ありがと」


 二人は笑って頷き合った。集団戦に長けているツバキも、闘鬼神と共に、ムソウと手合わせした時の、リアの冷静な判断力と、統率力には一目置いている。

 だから、自分が前線に出て、近づく魔物を倒しつつ、EXスキルでリアを護られれば、問題ないと思っている。


 リアも、ツバキが魔物たちに囲まれないように、後方から攻撃を仕掛けられるような戦い方をすれば、この状況でも、生き延びられると感じている。ツバキが自分の作戦を納得してくれて良かったと胸を撫でおろした。


 すると、飛び続けて一休みしていたトウガが近づいてきて、二人に口を開く。


「それで、俺はどうすれば良いんだ?」


 突然のトウガの言葉に、二人はぽかんと口を開ける。トウガは二人の様子に戸惑い、不思議そうな顔をした。


「……え、天狼様、私達の指示に従ってくれるの?」


 自分よりも格上の存在が、自分に指示を仰いでくるという感覚がよく分からかなったリアはトウガに尋ねた。今まで何度かトウガと共にこうやって依頼に出たこともあったが、自分たちは主に、レオパルドや雷帝獣の露払いで、大きな戦闘には加わることもなかった。無論、指示を出したりしたこともない。

 今日も自分たちとは別に、自由に闘うものだと思っていたリアとツバキはそのまま呆然としている。

 だが、二人の様子に納得がいったような様子のトウガはフッと笑い、口を開く。


「まあ、お前らはアイツの仲間だからな。言うことくらい聞くさ。

 それに、今日の闘いはお前たちやリンネの修行もかねているんだろう? 俺がやり過ぎて、修行にならなかったじゃあ、後でムソウに怒られてしまう。それは流石に勘弁だな」


 トウガが若干顔色を悪くしながらムソウのことを語ると、呆然としていたリアとツバキは、思わず吹き出しそうになってしまった。

 伝説の神獣と言えど、やはりムソウのことは怖いらしい。何となく、自分たちと近い一面もあるんだなと感じたリアは、クスっと笑い、トウガに頷く。


「……じゃあ、天狼様……いえ、トウガ様は、リンネちゃんと一緒に、私達では荷が重そうな魔物をお願い。

 そうね……上級の魔物が集団で来ると流石にきついから」

「上級……ああ、ギルドやレオ達が決めている基準の話だな。種類が分からないから、それは何とも言えない。その都度指示をしてくれると助かる」


 やはり、人間が作った基準のことなど、トウガは知らないようだ。下級の魔物も、上級の魔物も区別がつかないとなると、今回の戦いでは連携がしづらい。

 すると、ツバキが頷き、懐から主に騎士団の仕事で使うための小さな笛を取り出した。


「かしこまりました。その時はこの笛を鳴らします。それ以外の時は、出来るだけ離れた場所で闘ってください。私達がトウガ様に巻き込まれるのは勘弁ですから……」

「流石に加減する。見たところ、トウケンも、ムソウも加減しているみたいだからな。俺も我慢しよう。リンネもそれで良いな?」

「クワン!」


 トウガの言葉にリンネは頷く。尻尾をブンブンと振り、やる気に満ちている様子だ。

 ツバキはフッと微笑み、リンネの頬を撫でた。気持ちよさそうな顔をするリンネにツバキは口を開く。


「しっかりと、トウガ様の言うことを聞くのですよ」

「クワン!」

「ですが、私達にも気を配ってくださいね。頼りにしています」

「ク~!」


 リンネは更に嬉しそうな顔をして頷く。いつもは頼りにしている、姉のような存在であるツバキに、頼られていることが嬉しくてたまらない様子だ。

 ムソウが居ない今、代わりに自分を護ってくれというツバキの言葉は何よりも嬉しかった。


 そんな二人を微笑まし気に見ていたトウガとリア。ツバキとリンネの関係をよく知るリアはもちろん、屋敷に来てからまだ、そこまで日が経っていないトウガも、種族を越えた二人の、まるで家族のようなやり取りには、どこかほっこりとするようなものを感じていた。


「……なるほど。ここに、ムソウが入るわけだな……?」

「ええ。だけど、皆で決めたように、私達からは何もしないということで。トウガ様も良いわね?」

「ああ。これは下手に俺達がつつくよりも、コイツらを眺めていた方が面白そうだ」


 トウガの言葉に、リアは頷く。しかも、三人の関係を茶化す様子でもないトウガに、リアは安心した。自分はよく分からないが、トウガも恐らくムソウの過去を知っている。


 そんなトウガに、ツバキの想いを反対されたら何と言えば良いのだろうかと考えていたリアはふう、と胸を撫でおろす。

 すると、ふと、トウガとリンネがぴくッと動きを止めて、鼻を上に向けた。辺りの気配を感じるように黙り込む。


「どうかした?」

「……ああ。どうやら樹海の魔物たちが俺達に気付いたらしい。結構な数の魔物がこちらに向かっているようだ」

「クウゥゥゥ……」


 リンネは低く唸り、森の中を見つめる。リアは頷き、巨木から伸びている一つの枝を指さし、口を開いた。


「いよいよね。じゃあ、皆、手はず通りに。ツバキさん、私はあそこから攻撃を仕掛けるから、ツバキさんは前線にお願いね」

「かしこまりました。どうか、お気をつけて」

「分かってる。トウガ様とリンネちゃんは、あっちにお願い」

「心得た。では、リンネ、行くぞ!」

「クワン!」


 そのまま、トウガとリンネは、リアが示した場所へと移動する。

 そして、リアは自分の場所へと位置取り、下げていた弓を取り出した。持ってきた矢は五十本ほど。それを見て、リアはため息をつく。


「矢はこれだけ……大切に使わないとね。気力回復薬は……問題ないか。いざとなったら、私もツバキさんと合流……か。

 ……足を引っ張らないようにしないとね……」


 自らの胸に手を当てて、大きく深呼吸するリア。これから戦闘が始まるという、この瞬間、今になって、自分があまりにも場違いな場所に来てしまったという実感がわいてくる。


 しかし、雷雲山での経験も思い出し、あの時よりはマシかと思い、息を整える。


「皆……私、もっと強くなるから。皆に安心してもらえるように、もっと頑張るからね……」


 あの時のようには二度とならないという誓いを込めて弓に矢をかけ、力いっぱい引く。そして、その矢に気を込めていく。

 すると、前方の草木がメキメキと音を立て始め、木々の間から、魔物の大群が姿を現した。大鷹蜂や、大鎌カマキリ、オオイナゴの他に、ゴブリンやワイアームといった昆虫型以外の魔物も居る。

 それぞれ、目の前のツバキを見据え、ぐんぐんと近寄ってきた。

 リアは、弓を弾きながら、ツバキに向かって叫ぶ。


「ツバキさん! そのまま待機で!」

「かしこまりました!」


 リアの指示にツバキは頷く。ギリギリまで引き寄せるつもりのようだ。

 矢を引く手に、力を込め、今のところの限界までリアは矢に気を込めていく。


 そして、魔物たちとツバキとの距離が狭まってきた瞬間、リアはその矢を放った。


「くらいなさい! 五月雨!」


 リアから放たれた矢は、そのまままっすぐと飛んでいき、魔物たちの上空ではじける。すると、矢はそこで弾け、空から幾本もの気で出来た矢が雨のように降り注ぎ、魔物たちを貫いていく。


 鎧を持たない、ワイアームや、ゴブリンたちは、そのまま蹂躙され、固い外殻を持つ昆虫型の魔物たちは、矢を防ぎながらも、手痛い傷を負った。空を飛んでいた大鷹蜂などは、翅を射抜かれ、フラフラと地上へと下りてくる。


 ツバキは、ボロボロになっても、なお向かってくる魔物を見定め、腰を落とす。


「行きます! はあっ!」


 魔物に狙いを定めたツバキはそのまま抜刀、斬波を放つ。斬鬼から放たれた斬波は、鋭く速い。

 まして、手負いの魔物たちにそれを避ける間も与えず、正面に居た敵を蹂躙していった。

 ツバキが斬鬼の感触を確かめていると、今度は大鎌カマキリの一団が直接近づいてきて、ツバキに、鎌を振り上げる。

 軽い身のこなしで攻撃を躱したツバキは、近づいてきた大鎌カマキリに、斬鬼を振るった。刃は、やすやすと大鎌カマキリの鋼鉄の外殻を貫き、身体をバラバラにしていく。


「ッ! ……やはり、切れ味抜群ですね。ですが、これなら……」


 元々、軽くて切れ味も良い薄刃刀を使っていたツバキには、斬鬼を使うにあたっての違和感はそこまで無かった。慣れたように、いつものように、まるで舞でも舞っているかの如く、近づいてくる魔物を倒していく。

 すると、今度はブーンっと大きな音を立てて大鷹蜂が、自分に迫ってきた。巨大な毒針を向けて襲い掛かってきている。

 ツバキはサッと手を前に出して、スキルを発動させた。


「護るもの、発動!」


 ツバキと大鷹蜂の間に障壁が展開されて、毒針を防ぐ。その隙に、ツバキはリアに向かって声を上げる。


「リアさん! お願いします!」

「はあ、はあ……了解!」


 一度目の攻撃で、少しばかり体力を使ってしまったリアは、気力回復薬を飲み、今度は、矢の先端だけに気を集中させて放った。

 一点に威力を集中させたリアの矢は大きな威力を持ち、まっすぐ飛んでいくと、何匹かの大鷹蜂の身体を貫き、絶命させていく。


「気を拡散させるよりは、こっちの方が楽ね……ツバキさん、大丈夫!?」

「はい! お見事でした!」


 ツバキはリアに頭を下げ、障壁を解く。そして、再び眼前に迫る魔物たちとの闘いに集中していった。

 周りは全て敵、その中で一人闘うツバキを遠くから眺めながら、まるで頭領みたいと、リアは薄く笑みを浮かべる。

 その瞬間、背後から、ザリッ……と小さな音が聞こえてきた。ハッとしたリアは腰から棒手裏剣を取り出し、振り向きざまに放つ。


「グギッ……」


 そこに居たのは、一匹のゴブリンだった。どうやら森に来る軍勢の他にも別動隊のようなものが居たらしい。背後の巨木から、奇襲をかけてきたようだ。

 さしずめ、ゴブリンの斥候、あるいは暗殺者のようなものだった。


「ふぅ……危なかった。私も集中しないとね……」


 ゴブリンの喉を正確に貫いている棒手裏剣を抜き、死骸を異界の袋に納めるリア。

 そして、今回は音によって死角の敵を感知することが出来たという感覚を覚え、目標を達成するため、闘いに集中することを決める。


「リアさん! 大丈夫ですか!?」


 前線に出ていたツバキが、リアからの動きが無いことに心配になり、声をかけてくる。リアはクスっと微笑みながら、更なる矢を引いた。


「ええ、私は心配しないで、ツバキさんはそのまま目の前の敵に集中して!」

「かしこまりました!」


 リアの自信たっぷりな言葉を信じ、ツバキも再び魔物たちに向き直る。そして、襲い掛かる魔物の中に身を投じていった。


 ◇◇◇


「ふむ……向こうは向こうで上手い具合に闘えているようだな……」


 魔物たちを自らの爪、牙で葬りながら、トウガは、リアたちの戦いを見据える。言われたように、少し離れた所で、リンネと共に戦闘しているが、向こうの闘いの状況も十分確認できる距離なので、助けがあればすぐに駆け付けられる位置には居る。

 しかし、二人の戦いぶりと、現れた魔物たちを眺めながら、しばらくは問題ないかと感じ、更にトウガは魔物たちを蹂躙していく。

 トウガの爪や牙での攻撃はやはり強力なもので、更には無駄が無い。どの魔物も、トウガが通り過ぎるだけで首を刎ねられ、そのまま絶命していく。


「あまりやり過ぎると、素材が残らないってレオに怒られたからな……アイツも同じこと言いそうだしな……」


 的確に一撃だけを与えながら、魔物を倒していくトウガは、フッと笑う。これだけうじゃうじゃと魔物が居るのなら、一撃で終わらせる技もあるが、死骸も残りそうになくなるし、先ほど言ったように皆を巻き込みそうでもあるから、流石に自重している。

 後で怒られたくないもんな、と思いながら、なおも魔物たちを倒していく。


 トウガはふと、リンネのことが気になり、同じく近くで闘っていたリンネに目を向けた。ここらに集まる魔物たちはリンネにとっては弱い相手だが、時折、攻撃を避けられたり、反撃に遭いそうになっていたりしている。

 リンネの力を知っていただけに、妙だなと思ったトウガは、辺りの敵を蹴散らし、リンネに近づいていった。


「リンネは、こういう集団戦は不得手なのか?」

「ク~……」


 トウガの問いにリンネは頷く。大群と相対した時、普段ならムソウやツバキが前線に立ち、自分はその露払いや、幻術や狐火を使っての補助くらいしかしたことが無かった。

 ジゲン達と共に屋敷で闘った時も同様である。


 直接自分の意志で、敵を見据え闘うというのは、今回が初めてで、どのように戦えば良いのか分からないらしい。

 無論、リンネにも大きく強力な技というのは備わっているが、トウガとほとんど同じ理由でそれを使うのはためらっていた。

 なるほど、と頷き、トウガはリンネに闘い方を伝える。


「こういう敵も味方も分からなくなる時というのは、派手な技は使わない方が良いというのは正解だ。

 今だったら、俺も巻き込まれるからな。地道に数を減らしていって、最後にドカンという方が良いだろうな」

「クワン!」

「そして、その方法だと、少し面倒だがちまちまとした戦い方をするようになるのだが、リンネはそれが苦手なようだな。どの攻撃も大振りだ。それでは敵に当たらないし、逆に隙を突かれることもある。更には昆虫型の魔物というのは目だけは良いからな。そのままでは最後まで苦戦するぞ」

「ク~……」

「そんな顔するな。何も難しいことは言っていない。お前には他にも生かせるものがあるだろ? 俺と同等の素早さだ……よく見とけ!」


 トウガは、リンネにも追い付けない速さでその場を駆けり、地上だけでなく、周囲の木々をけり、辺りを縦横無尽に駆け回る。トウガは魔物たちとすれ違いざまに、爪や牙で的確に、魔物の首を刈りとっていく。

 リンネからはトウガの姿は確認できず、端から見れば、一つの風が魔物たちの間を吹いていき、それにより、地上に居た魔物は空へと吹き飛ばされ、空に居た魔物たちと含め、勝手に首が刎ね飛ばされているという光景だ。

 そして、ある程度の魔物を倒し尽くすと、再びトウガはリンネの元に戻ってくる。


「まあ、基本的にはこうやって闘うように。

 それからリンネには他の技もあるとムソウから聞いている。それらをもっとうまく操れるように、やってみせろ」

「クワン!」


 リンネは尻尾を振り、大きく頷く。今まで誰かにものを教えるということをあまりしたことが無かったトウガは、まるで自分にも弟子が出来たような気がして、何となく嬉しい気持ちになった。


「では、ここからは自由に闘ってみろ。強くなるためにはどんどん経験を重ねることが大切だ」

「クワン!」


 リンネは大きく返事をすると、先ほどのトウガのように、魔物たちの中へと突っ込んでいく。

 そして、出来るだけ小さな動きで魔物たちを倒すことに努めていった。巻き上げられる魔物たちを眺めながら、呑み込みの早いことだ感心したトウガも、リンネに負けじと再び地面を蹴った。


 まだ始まったばかりだ。出来るだけ体力を温存しながら、リンネとトウガは魔物たちを倒していく……。


 ◇◇◇


 上空に飛んでいる魔物たちを倒すのは、トウウと、トウウに跨っているレオパルド。手をかざし、魔法を放ったりしながら、こちらも徐々に魔物の数を減らしている。


「今日は、獣装体は使わねえのか?」

「ああ。そこまでの相手じゃねえし、あれやると意外と体が疲れるからな。やるとしても、もう少し後だ」


 レオパルドの使う獣装体は、神獣達の力を取り込み、己の肉体で行使するもの。魔物の力を身に宿し、発現させる獣人たちの狂気スキルと同じく肉体への負担は大きなものである。

 もう何度も使ってきて、慣れたものではあるが、たかだかこの程度の依頼には使うべきではないと考えていた。


「それに、ムソウやトウガ達もあまり無理はしていないみたいだからな。俺達もこのままで戦っていよう」

「そうみたいだな。アイツらや俺が本気を出していれば、今頃この樹海が吹っ飛んでいる」

「ムソウ一人であれだからな……」


 レオパルドは、樹海に入っている一本の太い線を見ながら頭を抱えた。この広い樹海に、そこだけ、木も草も生えておらず、道だけが続いていると言った様相だ。

 たった一人の力でここまで出来るのかと若干不安な気持ちになっていた。


「ムソウってのは、お前らと仲良かった時もあんなだったのか?」


 詳しいことは知らないが、ムソウと神獣が仲が良いということは確認できている。

 現在のムソウの強さというのは、屋敷に居る以前からも、ミサキから嫌という聞かされていた。そして、樹海に来てからも改めて理解できている。

 そうなると、昔はどうだったのかと思い、トウウに尋ねてみる。トウウは、静かに頷き、口を開いた。


「……まあ、そうだな。俺達もかなり強くなったはずなんだが、あの人も更に強くなっているようだ。まったく……恐ろしい男だな……」

「……そうか」


 どこか怯える様子のトウウに、レオパルドはただただ頷く。神獣達の強さは、自分が一番よく知ってる。

 本気になれば、そこらの災害級や、天災級中位くらいの魔物なら一蹴できるほどの実力がある。

 その神獣達が、揃ってムソウという男に恐れている。手合わせとは言え、ミサキやサネマサを負かしたという話もあり、あの男だけは本気で怒らせてはならないと誓ったレオパルドだった。


 ふと、ここでそんなムソウや、ムソウの仲間であるツバキたちの様子が気になったレオパルドは、トウウに頼み、樹海のすぐ上空を飛んで、それぞれの様子を探ってみた。

 ミサキから教わった魔力感知を使い、更にトウウとも協力し、戦況を感じ取る。


「……ふむ、確かにお前の言うように、ムソウも、トウケンも、そして、トウガも無理はして居ないようだ……だが」

「ん? 何か気になることでもあるのか?」


 レオパルドの様子に違和感を覚えたトウウは尋ねてみたが、レオパルドは黙ったまま、顎に手を置いて、考え事をしている。

 しかし、結論は出なかったようで、眉間にしわを寄せながら頭を掻いた。


「う~ん……わかんねえな。しばらく様子を見るか……」

「何なんだ、一体。何に悩んでいるんだ?」

「いや、そんな大したことじゃねえし、気のせいかも知れないからいいよ。それよりも、俺達もアイツらに負けないように、魔物を倒していくぞ!」

「ん? おう、わかった」


 レオパルドの言葉に、トウウは頷き、身を翻しながら、再び上空を覆う魔物たちの群れに向かって羽ばたいていった。


 ◇◇◇


 しばらく、トウケンと共に樹海内の魔物を倒していく。

 最初の大鷹蜂の後には、ゴブリンの群れと遭遇した。ほとんどが普通のゴブリンだったが、中には上位個体も居て多少驚きつつも、殲滅出来た。

 その直後、血の臭いを嗅いだのか、主に森林の中に棲むと云われるウッド・コングという、緑色の毛並みの大きな猿のような猩々のような魔物の群れが襲い掛かってきたが、問題なく倒せた。


 トウケンは大きな技こそ使わないが、ただの拳や蹴りでもすさまじい力を誇っており、どの魔物も一撃で粉砕されていく。ある意味、俺よりも素材が残らない戦い方をしているが、俺も人のことは言えないので黙っていた。

 そして、最後のウッド・コングの胸を、気でできた棒で貫き、群れの殲滅を終えた所でトウケンは大きく息を吐く。


「ふう……弱いくせにこう多いと、なかなか面倒だな」

「ああ。妙だな……」


 刀を仕舞い、ゴブリンとウッド・コングの死骸を異界の袋に納めていると、トウケンは不思議そうな顔をする。


「妙? 何がだ?」

「数だよ、魔物の。いくら何でも多すぎる」

「そりゃ、この樹海は多いって最初に聞いたから、これくらいが当然じゃないのか?」

「まあ、そうだろうな。ここにはもともと魔物の数は多い。

 だが、スケルトンの軍勢とデーモンロードが、つい十日前にここに居た割には多すぎると感じる。繁殖力が強いと言われても何か違和感がある。

 それに、お前に対して怯えた様子も無く向かってくるというのも、おかしい。普通、生き物というのは、格上の存在に喧嘩を売ったりしないだろう?

 だが、コイツらは、神獣たるお前にも臆することなく向かってきている。人間である俺はまだしも、未だ実力を隠しているお前を襲うというのは、どうにもおかしい気がしてな……」


 トウケンが本来の力を出していないというのは、隣で戦っていてよく分かる。恐らくは俺と同じく、ここら一帯を一撃で吹き飛ばすくらいの力はあるだろう。伝説の存在と云われているからな、それくらい出来て当然だ。

 しかし、トウケンは自らの力を隠している、というか、潜めながら闘っている。そうしないと、倒したい魔物が寄ってこないからだ。

 それにしても、トウケンに襲い掛かってくる魔物の数は多いと感じる。時々、俺も少しばかり魔物たちを威圧したりしているが、数は減らないし、勢いも止まらない。どこかおかしいな感じていた。


 繁殖力については納得しているし、ここ一週間で冬ごもりを終えた魔物たちが、スケルトンに襲われることなく地上に姿を現したことで、今の状態になっているというのは、納得だが、それにしては、気性が荒い気がする。


 また、何か変なことでも起きているわけでは無いよな、と思案を巡らせていた。

 トウケンは、俺の話を聞きながらも、楽観的な様子で文字通りうきうきとした様子で俺に近づいてくる。


「お前って時々頭の良いことを言うよな~。ゴウキと違って、ただの脳筋って感じじゃねえところが良いな」


 あ、ゴウキはこちらの世界に来てもそんな感じだったのか。よくもまあ、鬼族の軍の長になれたものだな。


「だが、エイキには未だに敵う気がしないな。アイツなら、こういう時でもすぐに結論を出しそうなものだが……」


 納得できる答えに行きつかず、思考するのをやめて立ち上がると、トウケンがぴくッと眉を顰める。


「むう……あの男のことを口に出すのはやめてくれ。俺達から姉さんを奪いやがって……」

「変な嫉妬してんじゃねえよ。俺も意外だと感じたが、相思相愛だったのだから良いだろう……」


 とは言うものの、トウケンは不機嫌そうな表情を辞めない。確かに、祝言を挙げてからは、アキラもエイキに引っ付くようになり、トウガ達の相手をするのが減っていた。

 その代わりに俺がコイツらと遊んでいたが、トウケンからしたら、アキラを奪われたという気がしていたらしく、今もそう思っているらしい。


「子供が生まれてからは、トウガ達はよく遊んでいたようだが、俺としては寂しかったな……」


 あ、俺がこっちに来た時はまだ、生まれていなかったが、アキラたちの所には子供が生まれたのか。

 親となってからは、子供に付きっきりになり、更に寂しい思いをしたそうだが、トウガ達は別で、子供に懐かれたりして、楽しく過ごしたそうだ。

 一方、トウケンの方は子供にも不愛想にしていたらしく、皆で楽しそうにしている中、いつも一人で木に登ったりしていたらしい。


「話だけ聞くと、お前がおかしいと感じるのは俺だけか?」

「何だよ、ムソウまでそんなこと言って! 本当に寂しかったんだぞ!」

「だが、この世界に来てから、またアキラとも会えたのだからよかったじゃねえか」

「そりゃあ、まあ……」


 トウケンは納得した様子で頷く。俺の方は未だにアキラ含め、誰とも会えていないからな。コイツが経験したものよりも、はるかに俺の方が寂しいはずだと説く。


「エイキとも再会できたようで良かったじゃねえか。しかも話せるようになったことだし、思いのたけってやつをかませたんじゃねえのか?」

「そりゃ、ビシッと言ってやったよ。けど、アイツは笑うばかりでそんなに堪えていなかったみたいだった……」


 想像がつくな、それは。エイキならそんな文句も軽く受け流しそうだ。

 アイツはゴウキと違って、口争いが起きても、理路整然と完膚なきまでに論破してくる奴だからな。

 俺はそうでもなかったが、ゴウキやハルマサも、よくアイツに黙らされていたものだ。

 ちなみに、妻であるアキラとは、少なくとも俺の知っている限りでは夫婦喧嘩というものすらなかったので、そういう話は聞いていない。

 ただ、祝言を挙げて、どこに住むか、財布はどちらが握るか、その他諸々、全てエイキが決めたという。

 そして、祝言に俺を呼ぶかどうかで悩んだ時も、忙しそうだから、良いのではないか?というエイキの言葉に、アキラはすぐに頷き、結局俺は二人の祝言に参加することが出来ななかった。

 当時、大陸で一人歩いていた時に、アキラとエイキが結婚したという報をトウウから受け取ったとき、道の真ん中で愕然として、そのまますぐに二人を問い詰めに都に出向いた際に、エイキとアキラから、


「ザンキ殿は大陸中を回っているからな。居場所も分からないのでは、教える手段も無かった」

「こうやって驚かせた方が良いって、エイキが言うからさ~」


 と、笑顔で言われた時は頭を抱えた。じゃあ、何で伝令はきっちり俺の所に届いているのだと、頭の中で突っ込んだが、アキラの言葉を聞いて、項垂れる。ああ、そういう意図があったのかと。

 アキラは、既にその時から、エイキの言うことには二つ返事で頷いていたようだ。


 だがまあ、確かにエイキの目論見通り、俺は驚いたし、二人は俺の知る限り、最も常識的な人間なので、二人の仲については、しっかりと祝ってやった。

 三人で酒を呑みながら、色々と話しているうちに、この二人なら良い家庭を築けそうだなと思っていた。

 しかし、トウケンはそれが嫌だったということで、世界を渡ってもその思いは払拭されなかったらしい。話せるようになって、思いが伝わりやすくなり、仲良くなると思ったが、むしろ逆だったと言われ、何とも面白い気持ちになってくる。


「……まさか、この恨み晴らすべしとエイキを襲ったりはしてないだろうな?」

「……」


 俺の問いに、トウケンは体を硬直させ、無言で答える。ああ、これは襲ってんな。しかも、一度ではないだろう。そして、恐らく本気で戦ったと思われる。


「無論、勝ったんだろ?」

「……うぅ」


 トウケンはその場にしゃがんで、悔しそうな声を上げた。

 どうやら、完膚なきまでに叩きのめされたらしい。何となく顔色を悪くしたトウケンは怯えるように声を絞り出す。


「鬼族になったアイツ……強くて……怖かった……お前みたいで……でも……優しいんだよな……

 最後には笑って……手を取ってくれた……文句も何も……最後まで言えなかった……」


 最終的に、エイキに対して賞賛の言葉を述べるトウケン。一回やり合って、すっきりとしたという感じだな。

 まあ、トウケンにも悪気があってやったわけではないことをエイキも気づいているだろうから、そんなに心配していないがな。

 しかし、やはりエイキも前の世界の時よりは強くなっているのか。この分だと恐らくゴウキも。

 現在二人は、冥界に居るとシンキから聞いた。いずれ、会おうと思えば、会うことも出来るだろう。

 会ったら、久しぶりに手合わせでもしたいなと期待を膨らませた。


 そして、落ち込んでいるトウケンの肩を叩く。


「おら、何時までも落ち込んでねえで、今は目の前のことに集中するぞ。未だ魔物の数は多いようだからな……」

「……ああ、分かってる……むう、やはり、エイキやゴウキよりは、お前の方が恐ろしいな。容赦ない所は、エンヤと同等だ……」

「言ってろ……じゃあ、そろそろ行くぞ!」

「おうっ!」


 死骸を異界の袋に収納し終えた後、俺達は再び魔物の気配のする方向へと駆け出す。

 そして、見えてきたのは銀色に輝く外殻を備えた大きなカマキリと、同じく銀色の体表に覆われた、リザードマンのような直立するトカゲのような魔物。討伐対象である大鎌カマキリと、鋼鉄並みの硬さの皮を纏っている、鋼皮トカゲの群れだった。


「お、アイツらは討伐対象の魔物だな! 全部倒しても良いのか!?」

「無論だ。ただ、お前の方は良いかも知れんが、俺の方は少し骨が折れそうだな……」


 何しろ、相手は両方とも、固い鋼鉄で覆われている。あまり無理して闘うと、コウシの刀を壊してしまう恐れがある。

 かと言って、本気になり過ぎると、トウケンのことを気にしないといけなくなるし面倒だ。神人化したら、消滅させてしまう可能性があり、素材が残らない。

 となれば、今回も、すべてをきるものを発動させて闘うしかないかと思い、スキルを発動させようとした。


 しかし、ふと、思い当たることがあり、そちらを行うことにした。俺は大きく深呼吸をして、前方に居るトウケンに指示を出す。


「トウケン! これから何が起きても目の前に集中しろ! 分かったな!?」

「お、おう……了解だ……?」


 困惑しながらも、頷くトウケンを見て、俺はスキルを発動させた。


 ―かみごろし発動―


 無間を持っていないので、神人化と同じく、俺の胸の辺りから黒い波動が出てきて、俺の全身を包んでいく。

 そして、爪が伸び、牙と角が伸びて、俺の鬼人化が完了した。


 闘いに際してこれを使うのは、目覚めてからは初めてだ。これを使うと、リンネ達がひどく怯えるので、あまりしようとは思わなかったが、近くにアイツらも居ないし、この際にこの力でどれだけ戦えるのか試してみようと思った。


 冥界の波動を攻撃へと転じる「鬼火」はそれこそ、九頭龍の時にしか使っていない。いざというときの為に練習しておこうと、身体の周りに鬼火を展開させる。

 すると、前を走っていたトウケンが声を荒げる。


「お、おい! 何だよ、それ!?」


 若干怯えているような様子のトウケンに少々戸惑う。コイツもリンネ達と同じように、俺を怖がっているようだ。


「あ? 鬼人化だよ。ちょっと練習したくてな……」

「今じゃなくて良いだろ! めちゃくちゃ怖いぞ!」


 むう、怖がり方が尋常ではないようだ。味方までも震え上がらせるこの力は、やはりこういう時には使わない方が良いのかと頭を抱える。

 だが、こちらとしてもその力を上手く使えるようになりたいので、トウケンの言葉は気にせず、俺は前に出た。


「なら、お前はそこで震えてろ。奴らは俺が相手する……」


 俺は地面を蹴り、魔物たちに近づいていく。大鎌カマキリたちも、同様に俺に怯えて、動けないでいるが、近づいていくと、一体の鋼皮トカゲが意を決したように雄たけびを上げて、一斉に俺に襲い掛かってきた。どれも、必死な形相をしている。

 波動に怯えて逃げ出すかと思ったが、むしろ猛々しい様子になっているようで安心する。逃げられたら、こちらから攻撃することが出来ないからな。


「ほう……かかってくる度胸だけは誉めてやろう……そのまま消えな!」


 俺は展開させていた鬼火を手に纏わせ、そのまま近づいてきた大鎌カマキリを引き裂いた。俺の爪は、カマキリの外殻を容易く貫き、その首を刎ね飛ばす。

 肉体の強化具合でいうと、ひとごろしには満たないが、鬼火の効果でそれを補うくらいには上がっている。そのまま素手で、魔物たちを屠っていった。

 すると、死角から一匹の大鎌カマキリが鎌を振り下ろしてくる。俺は、そのカマキリの方を向いて、その一撃を額から伸びている角で受け止めた。


「危ねえな……」


 俺は鎌を引きちぎり、一つの鬼火をそのカマキリの頭上から一気に落とす。強い重力の塊を受けたカマキリはその場に倒れ、身体をメキメキとひしゃげさせながら死んでいった。

 その後、周りに居る魔物たちに向けて、その鎌を使って斬波を放っていく。ただの斬波ではなく、鬼火を纏わせたものだ。

 攻撃を受けた魔物たちは、そのまま鬼火に骨も残らず焼き尽くされていった。


「ん? ……ああ、これだと素材が残らねえか……なら、これは要らねえな……」


 斬波を使うと素材が残らないと思った俺は、鎌をその場に投げ捨て、素手のまま魔物たちの中に入っていく。

 そして、ある者には拳を、ある者には蹴りを、またある者には肘うちを使ったり、爪で引き裂いたりしていた。

 すると、猛々しかった様子の魔物たちも、段々と俺に怯え始めるような気配になっていく。動きを止めて、全てを諦めたかのように、鎌を下し、その場に跪いている者も出だした。


 要は、意識せずに、死神の鬼迫を使っている状態だと感じた。ならば、この鬼人化の状態で殺意をばら撒くとどうなるか。

 一体ずつ、魔物を倒すことも、少々面倒になってきた俺は、ありったけの殺意を周囲に放出させた。


 ―死神の鬼迫―


 すると、俺を囲んでいた魔物たちの動きがピタッと止まり、目の焦点が合わなくなって、全身から力が抜けていったかのように、だらんと腕を下していった。

 そして、俺から近い者から順に、バタバタと気絶し、倒れていった。


 ひとまず、目につく魔物たちが倒れたことを確認して、鬼人化を解く。ひとごろしの後のような倦怠感や、肉体への影響は今なら若干あるぐらいで、回復薬を飲んで補うくらいだった。

 そして、何となくすっきりとした気になり、周りを見渡していた。


「ふむ……こういう闘いの終わらせ方というのも、出来るわけか……」


 殺すのではなく、気絶させて終わるという戦い方。前の世界では、玄李の「夜」相手によくやっていたが、こちらの魔物にでも出来るということが分かった。

 それに、鬼火の扱いに関しても、体の扱いに関しても特に問題ないことが分かり、鬼人化での戦いに関しての実験は終わった。

 ひとまず魔物たちにとどめを刺しつつ、死骸を異界の袋に入れようと思い、神人化しようとすると、俺のそばにトウケンがやってくる。トウケンは、肩で息をしながら、怯えた表情をしていた。


「ムソウ……今のは何だ!?」

「何って、さっきも言っただろ。俺のもう一つの能力の鬼人化だ。どこまで出来るか試したくてな……」

「鬼人化って……ほとんど、鬼じゃねえか! どこが、鬼人なんだよ!? ……いや、冥界の波動を出せるあたり、鬼以上だ! それに凄まじい殺気を常時出しやがって……」


 トウケンは死ぬところだったと慌てている様子だ。殺気程度で死ぬわけないだろうに、と思いながらも、俺も闘い中に感じていた、自身の違和感について説明する。


「まあ、その辺りが鬼人化の短所ってところだな。仲間も敵も巻き込んで、震え上がらせるというのは、こうやって戦うときには使えないな。

 それに、どうやら俺も少し好戦的になるようだ。ここは気をつけないとな……」


 闘いのさなか、鬼人化すると、どうにも、目の前の敵を八つ裂きしたくてたまらなくなる。

 これは、ミサキの召喚獣、ジンランとの闘いの時にも、若干ではあるが感じていたことだが、あの時は龍族だからという結論に終わったが、違うようだ。

 鬼人化すると、誰でも殺したくてたまらなくなるらしい。これは少々危ないな。味方にもそう思えるようになってしまったら、止まることが出来なくなる。

 更に言えば、闘い方も少々乱雑になっている感覚がした。いつもよりだいぶ隙だらけになってしまっていた。

 本当に、かみごろしは使い時というのを間違わないようにしようと、決めた。


「まあ、おかげでほとんど苦労せずにこれだけの魔物を倒せたんだ。結果的には良かったってことで、コイツらの死骸を集めるのを手伝ってくれ」

「はあ、わかった……しかし……やはり、一番怖いのは、エイキでも、ゴウキでも、シンキでも、エンヤでもなく、ムソウなんだな……どうしてムソウからシンラが生まれたのか理解できない……」


 ぶつくさ言いながら、倒れている魔物たちのとどめを刺しつつ、光葬針の武者たちと共に死骸を集め始めるトウケン。最後の方はよく聞こえなかったが、少し、失礼なことを言われた気がする。

 少しだけ殺意をぶつけると、トウケンはビクッとして、こちらを振り向き、黙って作業を続けていった。

 まあ、何となく何を言ったのか分かる気はするがな。


 ……しかし、鬼人化の時の気持ち……まるであの時に戻ったような感覚だ。皆に出会う前のあの頃の俺に。


 あの時の俺は、今の俺から見ても、強かったと思っている。だが、その力の源は、俺から全てを奪った奴らや世界に向けての憎悪から来るものだった。あの頃には戻りたくない。あんな、ただただ、周囲の者を殺し尽くすような戦いはしたくない。


 ハルマサ達と出会って、そう感じるようになった。そして、メッキと闘い、アイツの言動を見て、一つ間違えれば、アイツのようになっていたと何度も感じて、あの頃の考え方というのは封じてきた。


 しかし、また似たような力を手にし、更に今の闘鬼神や、ツバキ達のボロボロになった姿を見て、少しだけ、あの頃に戻れるならとも考えるようになっていた。

 あの時は確かにあった力。あれを自在に扱えるようになれば、俺はもっと強くなれる。もっと多くの者達を護れるような気がする。


 ふと、そんな考えを抱き始めていた……。


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