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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
255/534

第254話―レオパルドたちと樹海に出発する―

 その後、飯を食い終えた俺達は、準備を整えて、庭へと出る。

 昨日のようにそれぞれの仕事をこなす者達に分かれ、打ち合わせなどをしていた。


 その中にレオパルドたちが集まっているところを見つけ、近づいていく。

 すると、トウガや、カドル、トウウ、トウケンに混じり、何やら気まずそうな表情をしたリアが目についた。


「よお、リア。何て顔してんだ?」

「あ、頭領……流石にこの面子だと緊張するわよ……」


 リアは頭を掻きながら、トウガ達を指す。そこまで緊張しなくても良いと励ますが、なかなか、いつものようにはならないリア。すると、ツバキがスッと前に出て、リアの肩を叩く。


「実は……私も同じ気持ちですよ」

「ツバキさん……ありがとう。今日は一緒に頑張りましょうね……」


 ツバキの言葉に、少しだけ元気を取り戻した様子のリア。俺も居るのだが、と思うが、二人は俺のことは置いてけぼりだというように、二人の世界を作り始める。

 何となく疎外感を抱きながら呆然とすると、トウガが歩み寄ってくる。


「なかなか、楽しいことになりそうだな」

「どこがだよ……それにしても、今日はこれだけか?」


 辺りを見ると、集まっているのは、レオパルドと神獣だけだ。

 闘鬼神も、牙の旅団の連中も、カドルも、今日はここに残って、妓楼の作業をする奴らの所で、コモンと打ち合わせをしている。

 討伐に向かうのは、俺達だけかと尋ねると、レオパルドが頷く。


「ああ。今日は樹海とその付近の、魔物の討伐だ。そこまでの戦力は要らないと判断した」

「樹海は広いだろう。もう少し人手が必要なんじゃねえか?」


 そう言うと、トウウとトウケンが笑って口を開く。


「大丈夫だ。空の敵は俺とレオが行う。そして、地上はトウガと……」

「俺が主体でやるからよ。森の中は任せとけ」


 トウケンはそう言って、胸をドンと叩く。ああ、やはり根本的なところは猿なんだな。木々が多い樹海の中では確かに活躍するだろう。

 それに、上はトウウで、下はトウガが索敵をするとなると、鼻が利くトウガが居れば、あの樹海でも、すぐに敵の所在を確認できるというわけか。


「ん? ……いや、待てよ……そういや、あの樹海って、生態系が狂っているのではなかったのか?」


 俺は一つ気になることがあり、レオパルドに尋ねてみた。クレナの樹海は、今回の騒動で、スケルトンが生み出された場所である。

 しかし、スケルトンの軍勢もそれを操っていたデーモンロード達は、俺とカドルが倒し、殲滅したはずだ。

 だが、その影響か、樹海には他の魔物の気配は全くなかった。そもそも行く必要があるのかと問うと、レオパルドは口を開く。


「生態系は狂っている……と言っても、あそこの魔物たちの繁殖力は馬鹿にならない。たとえ、その時に居なくても、大量の卵などは無事だという可能性もある。それに、樹海から逃げた魔物だっている。

 そいつらが近隣の町や村などを襲う前に、俺達で倒すというのが、今回の仕事だ。

 そして、俺はついでに環境が変わっている樹海の調査をしておきたい。生態系が変わったというのなら、どう変わったのか、調べる必要があるからな。

 もっとも、環境を変えた奴ってのが、俺の目の前に居るというのが、心配だがな。

 ……今日は暴れるなよ?」


 レオパルドはジーっと俺を見てくる。ああ、そう言えば、例の樹海は俺がスケルトンを殲滅した時に、一部野原にしたんだったな。

 そういえば、あの時天界の波動を思いっきりぶつけたが、その影響は無いのだろうか。一応それも確認しておこうと思い、レオパルドに頷く。


「そこまではしねえよ。ツバキたちも居るしな。それに持っていく刀も借りものだ。無理のないように闘うつもりだ」


 そう言うと、納得してくれたのか、レオパルドは頷いた。すると、横からツバキがボソッと、


「お願いしますよ」


 と、呟いてくる。グリドリの森の一件もあるからなあ……ツバキはそう簡単には信用してくれないらしい。

 ただまあ、よほどの魔物が出ない限りは大丈夫だろう。それに、トウガ達も居るから、今日ものんびりとしておこうと決めた。


「で、俺達は具体的にどうすれば良いんだ?」

「ん? まあ……好きにやっていてくれ。ただ、こいつらが居たら、優先的に討伐してくれると助かる」


 レオパルドは懐から、依頼票のようなものを取り出す。確認すると、幾つかの魔物の詳細が書かれていた。

 まずは、大鎌カマキリ。やはり一度殲滅したり、スケルトンの軍勢が現れても、そう簡単には居なくならないようだ。一度に大量の卵を生み出す奴らは、今も増え続けているという。仮に、こいつらの上位種、災害級の魔物デスマンティスという個体が居れば、即討伐とのことらしい。

 次に、大毒蛾という魔物。巨大な蛾のような魔物で、翅から猛毒をまき散らす危険なもののようだ。群れることは無いが、こいつらは幼生から蛹の状態を経て成体となる。蛹の時の状態は、そこらの魔法や、攻撃ではびくともしない頑強なものということで、こちらも生息している可能性が高いらしい。樹海を出る前に仕留めてくれという要望らしい。

 そういえば……前に樹海に行った時に居たよな、コイツ。

 だが、資料に描かれている大毒蛾の絵が、以前の奴よりもめちゃくちゃデカい気がする。個体によって差があるのか? 

 確かに、こんなのが居たら迷惑だな。警戒しておこう……。


 後は、蜂型の魔物だったり、冬を越して殺気だっている獣型の魔物たちがその紙には記されている。


「意外と多いが、まあ、大丈夫か……では現地の動きについてだが、レオとトウウは樹海の上空担当ってことで良いんだな?」

「ああ、問題ない」

「良し。……じゃあ、俺達についてだが、俺は今回トウケン……天猩と一緒に樹海を回っていき、魔物を倒していく。

 ツバキ、リア、リンネは、トウガ……天狼と一緒に一か所に固まって、向かってくる魔物たちの相手をしていろ」


 皆に指示を出すと、リア以外の三人は目を見開き、驚いた表情をしている。


「え……ムソウ様はご一緒ではないのですか?」

「おししょーさまといっしょがいい~!」

「俺もだ。お前と共に戦いたいぞ!」


 そして、そのまま俺の作戦に抗議してきた。トウケンの方は問題ないというか、俺と一緒だということで、少し乗り気でうずうずとした様子になり笑っている。

 リアは口に手を当てて何か考え事をしているようだ。リアが考えていることは気になるが、ひとまず俺は文句を言ってくるリンネとトウガを黙らす。


「はあ……リンネ、トウガ、お前らの言いたいことは分かる。俺もトウガと闘いたいし、リンネと一緒に居たいと思っている」

「じゃあ、おししょーさまもリンネたちといっしょにいよー? そのほうが、おじちゃんもおししょーさまもたのしいでしょ?」

「まあ、そう言われたらそうなんだが、いくつか問題がある。それはな……」


 そこまで言うと、突然リアが何かに思い当たったようで、口を開いた。


「あ、なるほど……つまり、戦力を分散させたいってわけね」


 リアがそう言うと、ツバキは、ああ、と納得したようになり、トウガは、あ、という顔をして、項垂れる。

 俺はリアに頷き、未だ分かっていない様子のリンネに説明してやった。


「良いか? 俺達……特にお前や神獣は強い。だから一か所に固まるよりも、ばらけて行動した方が良いんだ」

「なんでー?」

「樹海は広く、更に木や草が鬱蒼と茂っている。……そうだな、グリドリの森のことは覚えているか? あれよりももっとごちゃごちゃしているんだ。

 その中で俺達みたいな奴らが闘ってみろ。多分、更にごちゃごちゃして訳が分からなくなるぞ?

 それを回避して、なおかつ樹海全体を調べるのなら、むしろ満遍なく広がっていた方が良いんだよ」

「むー……そうだけどさー……」


 正直な話、一番の問題は神獣達と一緒に闘っていくうちに、楽しくなって、つい、先ほどレオパルドが懸念してきたことを俺がやってしまいそうなことだ。

 そうなったら、リンネ達も巻き込んでしまう可能性がある。それだけは避けないといけない。


 更にもう一つ。今回の戦いで、リンネにはトウガの闘いをよく見ていて欲しい。魔獣としての戦い方というものをしっかりと学ばせるには、俺が近くに居るよりも、トウガが付きっ切りで面倒を見て貰った方が良いと思っている。


「あと、頭領は私とツバキさんにも何かをさせようとしている。だから、頭領は私達からも離れる。私達が頭領に甘えないように……そうでしょ?」


 俺がリンネに説明していると、リアが歩み寄ってきて、リンネの頭を撫でながらそう言った。勘のいい奴だな……。


「まさしくそうだ。お前ら二人にはあることをやってもらう。主にそれぞれ二つだ。一つは同じものだが、もう一つはそれぞれで違う。

 まず、リアはその弓の練習だ。遠くに居る魔物や、空を飛ぶ魔物を狙って、出来るだけ精度を高めておけ。

 そして、ツバキはスキルの練習だ。リアに魔物が近づかないように、障壁を張ったり、場合によっては刀で応戦しろ。良いな?」


 二人にそう言うと、リアとツバキはやれやれといったように頷く。


「かしこまりました。実戦が鍛錬というムソウ様らしいですね」

「頭領に何かを教わるのってこんな感じなのね……すこし、新鮮」


 二人は俺の言うことに納得してくれた。


「更に二人には、気配だけで対象の位置を探るということも、感覚で良いから覚えてもらう。詳しいことは後で説明するが、分かったな?」


 更に、二人にやってもらいたいことを言うと、ツバキたちは目を見開き、俺の顔を凝視してくる。

 二人には、俺の気配を探るという能力を習得してほしいと思っている。ツバキは以前、学びたいと言っていたし、リアにはその素質があるからな。精神力にも耐性があり、冷静な判断力を備え、常に周りに気を配れるリアと、集団戦が得意なツバキには、この能力を身に着けて欲しいと、思っていた。

 この際に、完全に身に付けなくても、何か掴めるものがあれば掴んで欲しいなと思っている。そんなことを思っていると、リアが口を開く。


「え……それって、頭領のあの変な力のこと?」

「変って言うなよ。意外と役に立つぞ。それに、ツバキはこの能力を学びたいと言っていなかったか?」

「え、ええ。確かに、申し上げましたが……どうすれば良いのですか?」

「だから、後で説明する。それまで待っておけ」


 とは言うものの、別にここで説明しても良いんだがな。それくらい単純で、簡単なことだ。二人は、はあ、と首を傾げながらも、俺に頷いた。


 そして、未だに不満げな顔をしているリンネの頭を撫でながら笑う。


「でだ、リンネ。お前は、トウガと闘いながらリアとツバキの援護も頼む。難しいと思うがやってくれるか?」

「……おねえちゃんたちをまもるの?」

「ああ、そうだ。お前にしか出来ないことだぞ。もしもの時に結界を張ったり、予想以上に敵が多い時は幻覚を見せて時間を稼ぎ、リアとツバキが態勢を立て直させたり……出来そうか? ……やはり俺が居た方が良いか?」


 最後は少し、意地悪な感じで、聞いてみた。

 ただ、今回二人にやってもらうことは、確かに危険なことだ。ゆえに、その補助として、トウガとリンネには近くに居て欲しいと思っている。

 昨日、リンネはツバキを護ると約束していた。しかし、ここに来て、俺への甘えが出てきて、今もぐずってしまっている。リンネを突き放すような態度をしても、無駄だと思ったので、少し卑怯だと反省したが、挑発するように、リンネに尋ねてみた。

 しかし、リンネは落ち込んだり、怒ったりすることなく、すぐに大きく頷いて、ニコッと笑った。


「……わかった! おねえちゃんたち、リンネがまもる! おししょーさまのかわりに!」

「上出来だ」


 両手を上げてやる気を見せるリンネの手を叩き、頭を撫でた。本当にこの子はいい子だ。さっきまで俺の方がガキだなあと苦笑いする。


 そして、俺はもう一人のガキに向き直る。


「さて……後はお前だけだが?」


 分かれて行動することを納得してくれたリンネを差しながら、トウガに視線を送ると、しばらく黙り込み、ガクッと項垂れて、大きなため息をつきながら頷いた。


「はあ……分かってる。リンネも納得したんだ、俺もお前の考えに従おう。お前との共闘はまた今度だ」

「ああ、ありがとう。リンネ達を頼んだぞ」

「おう。……トウケン、後できっちりとコイツのこと、教えろよ!」

「はいはい、しっかりと、ムソウを見ておくぜ」

「……見てるだけだったら、叩っ斬るからな……」


 トウガの頼みに応じるトウケンに念のためにと思い、そう言うと、トウケンはビクッと硬直し、俺の言葉に頷いた。そして、何やら俯き始める。


「……あれ、この中で一番身が危ないの……俺か……?」


 などと、呟いている。むう……そこまで、脅したつもりはないのだがなあ。本当にコイツらから見た俺の印象とは、一体どうなっているのだろうか……?


 そんなやり取りをしていると、レオパルドが俺達に向けて口を開いた。


「話は済んだみたいだな。……じゃあ、行くか?」

「おう。リンネ、今日もツバキと、それからリアを乗せて、飛んでくれないか?」

「は~い!」


 リンネは両手を上げて、そのままエンテイの姿に変化する。そして、ツバキに促されおずおずとリンネに跨るリア。背中をさすりながら、ホッとしたような表情をしていた。


「ふふっ……気持ちいいよ、リンネちゃん」


 何時になく穏やかな表情のリアの言葉に、リンネは笑って頷く。あいつ、あんな表情出来たんだな、と思っていると、トウケンに肩を叩かれる。


「お前はどうやって行くんだよ?」

「あ? そういうお前らはどうやって行くんだよ。まさかトウウにお前ら二人が乗るわけではないんだよな?」


 いかにトウウがデカくなろうとも、レオパルドを乗せて、更にデカくなったトウガとトウケンを乗せることは出来ないと思う。それにリンネもツバキたちを乗せていて、トウケンたちの座るような広さは確保されていない。

 俺が運ぶ? 勘弁してくれ。そんなことを思っていると、トウガが口を開く。


「トウケンは俺が連れて行く」

「どうやって?」

「飛ぶんだよ……ちょっと待ってな」


 フッとトウガは笑い、本来の大きな魔獣の姿に変わった。そして、背中にトウケンがまたがると、瞑想する。

 呆気にとられながらその様子を眺めていると、周囲の風を足もとに集めて、徐々に浮かび始める。


「……え、お前、魔法が使えるのか?」

「いや、魔法じゃない。なんと言うか、特殊能力の一つだな」

「こいつは、大地を駆け回っているうちに、何時しか空も走り回れるようになったんだ」


 トウガの背中の上から、トウケンが自慢げに笑っていた。話を聞けば、地上では敵なしと云われたトウガも、空を飛ぶ魔物や邪神族には何度も苦い思いをしていたという。

 ある時、トウウと共に空を覆う無数の敵にアキラが苦戦していた時に、気合を入れ、頭を上に、足を上に、と空へ向かって駆け出す仕草をすると、突然出来るようになったらしい。トウガによれば、空気を蹴っているとのこと。……うん、わからん。

 自身の新たな力に驚きつつも、同じく目を丸くしていたアキラとトウウの目の前で、千を超える魔龍や神兵達を蹂躙していったという。


「よくやるなあ、お前は……」

「まあな。……で、お前はどうやって樹海に行くのだ?」

「神人化して行く。ちょっと待てよ……」


 俺はそのまま皆の前でスキルを発動させた。そして、神人化を終えて皆に向き直る。

 見慣れない俺の変化に、ツバキとリンネ、それにリア以外の者達は、まじまじと俺の姿を見てくる。


「お、それが神人化ってやつか。ミサキや皆が言っていたように、本当不思議な奴だなあ」


 レオパルドは、特に俺を見回して、しっかりと観察している。俺は魔獣じゃねえんだぞというと、すまねえとか言いながら、観察するのを辞めた。


「樹海に着いたら好きなだけ観察させてやる。では、そろそろ行こうか」

「おう! 行くぞ、天鷹……じゃなかった。ムソウに倣って、トウウ、トウケン、トウガ!今日もよろしくな!」

「ああ、しっかりつかまってろよ」

「俺達の足を引っ張るなよ!」

「俺達、というか、トウウのな」


 神獣達の言葉に、レオパルドは、このやろ~とか言いながら笑っていた。そして、トウウは上空へと羽ばたいていく。


「では、リンネちゃん、お願いします」

「頭領~、離されちゃ駄目よ……」


 俺のそばに居たリンネも、ツバキの言葉に頷いて、翼を広げて、上空へと飛び立つ。リアの言うように、置いてけぼりは嫌だなと思いながら頭を掻き、庭に居る皆の方に振り返った。

 皆、トウウたちが空へと向かった時から、俺達を見送るために、こちらを見ている。皆を見渡しながら、俺は笑った。


「では、皆、留守は任せたぞ」

「うむ。今日も、変わらず帰りを待っておるぞ、ムソウ殿」

「おなか、いっぱいすかせてかえってきてね! きょうも、わたしたち、がんばるよ~!ね!」

「ええ、私達も、たまちゃんのお手伝いをしながら、頭領たちの帰りを待っております」


 アザミの言葉に、女中たちと、屋敷の手伝いをしてくれている高天ヶ原の妓女たちは大きく頷いている。元夜鷹のアザミに、しっかりと従う、高天ヶ原の四天女達という構図は、やはり面白いなあと感じた。


「リア、気をつけろよ~! 頭領と神獣様に!」

「無理はするなよ~!」

「帰ったら、お話聞かせてくださいね~!」


 闘鬼神の奴らは、リアに激励の言葉を送っている。ほとんど、同情するかのような言葉だ。

 ふと上空を見ると、やれやれといったふうに、ツバキと顔を見合わせ、頷きながら皆に手を振るリア。これは、リア以外の志願者はもう少し先になりそうだなあ、と思っていると、牙の旅団のシズネとコウシが口を開く。


「あなた、本当に気をつけなさいよ! リアちゃんも、ツバキちゃんも、女の子なんだから!」

「それから、俺の刀もちゃんと返せよ! 傷一つ付けてみろ! ただじゃ、置かねえからな!」


 ただじゃ、置かねえとどうなるのだろうか。俺が期待していることが起きるのだろうか。なら、思う存分に、この刀を振っても良いなと思っていると、ジゲンが微笑みながら、頷いてきたのが見えた。

 あの顔は、ほどほどに、という顔だな。分かってる、と頷き、俺は皆に手を振った。


「任せとけ。今日も無事に皆で帰って来る。だから、皆も怪我とかしねえで、ちゃんと働けよ!」

「「「「は~い!」」」」

「「「「うっす!」」」」

「じゃあ、行ってくる!」


 俺はそのまま、上空へと飛び立った。そして、手を振るレオパルドや、ツバキたちと共に背中越しに皆に手を振って、樹海を目指していく。


 さて、今日も盛りだくさんな一日になりそうだ。帰ってジゲンに土産話が出来る程度には、面白いことが起きねえかなと、期待を抱き、クレナの上空を飛んでいった。


 ◇◇◇


 トウショウの里を飛び立ち、樹海を目指している間、念のためということで、レオパルドは、樹海に棲む魔物たちのことについて説明を始めた。

 聞けば、先ほど確認した大鎌カマキリや大毒蛾以外にも、昆虫型の魔物が多いという。それに加え、獣型の魔物や、近年には、小型の魔龍が現れていたりと、思っていた以上に、樹海の生態系は複雑らしい。

 ただ、それらの種族が争っていることもあるので、種類はそこまででは無いという。仮に樹海の潜んでいる魔物の種類が、レオパルドが想定しているよりも少なかった場合は、縄張り争いに敗れ、樹海を出ているかも知れないとのことだ。

 トウウとレオパルドは、その魔物たちと、空の魔物を倒していくという。

 樹海で闘う俺達には、なるべく数が多い魔物を倒してくれとのことだった。


「今回、頼まれているのは大鎌カマキリと大毒蛾の二種族だけだが、樹海にはまだまだ繁殖力の高い魔物も居る。スコーピアントに、大鷹蜂、キラーバット、それに、魔龍の幼生体など、様々だ。今日のうちに出来るだけ倒しておこう」

「なら、少しばかり本気を出した方が良いのか……」

「いや、頼むから、アンタは本気を出さないでくれ。後で、調査する俺やジーンの旦那が苦労する……」


 レオパルドは、手を合わせて頼み込んでくる。それほど、俺が暴れるのが嫌らしい。そして、レオパルドから出た名前。ジーンというのは例の“冒険王”のことだろう。

 以前聞いた話だと、精霊人の森とその付近の調査や、リンネが居た山の調査で、マシロを訪れ、その後は、グリドリの森の調査を行っているとされている、十二星天の一人だ。


 レオパルドの言葉を聞く限り、その後はどうやらクレナにも来て、あちこちの調査でもするのだろう。俺がきっかけで会ったこともない十二星天に迷惑をかけるのは気が引けるので、黙ってレオパルドに従った。


「まあ、今日は大群の相手をすることになるのはツバキたちだからな。俺はそこまでの無理はしねえよ」


 そう言いながら、ツバキたちに視線を向けると、リアが不思議そうな顔をして、口を開く。


「ところで、私たちはどういう風にして戦えば良いの?頭領の変な能力を身につけるにはどうすれば……?」

「だから変な能力って言うのはやめろ。まるで俺が化け物みたいに聞こえるじゃねえか……」

「え……ここまで来て、自覚無いの?」


 リアがキョトンとした目で、俺を見てきた。ツバキやトウガ達はクスっと笑っている。何となくだが、腹が立つな……。


「……まあ、良い。そうだな……とにかく向かってくる大群と闘え。……俺から出す指示はそれだけだ」


 気配を察知する能力。これに関しては、気づいたら身についていたものだから、俺からも何も言えない。恐らく、自分達以外は全て敵で、向けられるものは殺気だけという状況になれば、それを感知できるものと思っている。

 それを何回か繰り返すことで、殺気以外の気配に反応するようになるだろう。まあ、最初は音で相手の位置を知るところから始めれば良いと思う。これについては以前、ツバキに話しているから問題ない。

 そして、リアは自分に向けられる攻撃に対する反応力はかなり高い部類の人間だ。前にアヤメの部屋に入ったときに、あっさりと罠を看破したくらいだからな。

 更に俺の、死神の鬼迫に対する耐性も、他の者達よりは群を抜いている。それだけ精神力も大きいということだ。

 大群からの殺気に屈することなく、逆にその殺気がどこから出ているのか、気づくことが出来れば、今日のところは目標達成ということで良いだろうな。


「取りあえず、お前はツバキと好きに戦ってくれ。危なくなりそうだったら、殺気も言ったように、トウガとリンネが何とかするからよ」


 そう言うと、リアは深く考え込み、ツバキの肩をポンと叩く。


「頑張りましょうね、ツバキさん……」

「え、ええ。頼りにしております」

「それから、リンネちゃんと……えっと、トウガ様。よろしくお願いします……」

「ああ。覚悟を決めたようで何よりだ。なあに、心配するな。ムソウの仲間はきっちり守ってやる」


 トウガの言葉に、リンネも喋れないながらも、コクっと頷く。他人が言うところの「規格外」で「化け物」とか、「死神」と呼ばれる俺と、何度も共に闘っているツバキたちの中に初めて加わることになったリア。

 ようやくその恐ろしさ(納得いかないが……)ということが分かってきたらしい。先ほどから何度も大きく息を吐いているリアに、ツバキたちはその度に、元気づけたりしていた。


「それで、俺達はどうする?」


 今度は、トウケンが俺に向かって口を開く。今日一日はこいつと一緒に居るのだからな。打ち合わせというものはきちんとしておこう。


「俺達も自由で良いだろ。ただ、基本的にはばらけることなく闘おう。それこそ、お互いの技に巻き込まれたりしたら、大ごとだからな」

「ああ。俺の技も強力だからな。お前に怪我なんてさせられねえ……」

「いや、お前の技なんぞ、恐らく大丈夫だ。問題はせっかく再会できたのに、俺の手で、お前が死ぬってことになったら、アキラに申し訳ないからな……」

「……あっそ」


 トウケンはプイっと明後日の方向に顔をそむける。何か気に食わないことでもあったのか。分からないな……。


 さて、そうやって皆と樹海に着いてからの動きについて確認しあっていると、前方に大きな大樹を中心とした森が見えてくる。

 俺とカドルでスケルトンを殲滅したクレナの樹海に到着したようだ。ふと見ると、樹海の一か所に、外に向かって一直線の線が伸びている。

 あれは……そうか……俺が、リリスを脅した時につくったものだな。我ながらよくやったものだなと感心していると、他の者たちが、呆然とその光景を見ていることに気付く。


「あれも、頭領が……? ここまでやって、“規格外”の自覚無いの? ……嘘でしょ……」

「リアさん……もう、諦めましょう……ムソウ様にそこまでの自制心というものがあれば、こういうことは何度も起きませんから……」

「うむ。騎士の娘の言う通りだ。まあ、自制心が無く、常に全力を出すのは、ムソウの良い所でもあるがな……」

「これはまた……先ほどは冗談で言っているのかと思ったが……おい、トウケン、本当に気をつけろよ」

「ああ……努力する……やっぱり、この中で俺が一番のはずれくじ引いたな……」

「はあ……ミサキから聞いていた以上の男だな……こりゃあ、ここの調査も一からやり直した方が良いだろう……」


 皆は、それぞれに深いため息をついた。それほどのことなのだろうかと、頭をひねる。まあ、やってしまったものはどうしようも無いので、特に皆に文句を言うこともなく、俺は樹海に向けて意識を集中させた。

 ……むう、やはり種族までは分からないが、大小合わせて夥しい数の生き物が居るということは感知できる。スケルトンによって数が減ったというのは本当に一瞬だったようだな。この一週間に蛹から羽化したり、卵からかえった魔物もかなりの数なのだろう。


 そして、気になっていた天界の波動の影響も特にはないようだ。恐らくは、再び増えた魔物同士で、また縄張り争いでもしたのだろうか、ところどころから瘴気のような邪気も感じることが出来る。

 闘いに敗れた死骸が腐って、以前のデスニアの湖のようにでもなっているのだろう。この短期間でこういうことが何度も起きるってことは、今日、魔物を殲滅したところで、焼け石に水だろうな……。

 ここにはまた何度も来ることになりそうだ。その分、冒険者達の稼ぎ場という考え方も出来るが、前にジゲンが言っていたように、ある程度の実力をつけないと入れそうにはないなということは確認済みだ。

 闘鬼神の奴らも、もう少し強くなってもらわないとな……。


「……さて、それではここで分かれるか。取りあえずツバキたちは、あの中心の大木の近くで闘っていてくれ。俺とトウケンは、周囲をぐるぐる回りながら、魔物たちを狩っていく。

 一応、昼までそれを続けて、休息を挟んだ後、午後からも同じように闘っていこう。レオ、それで良いか?」

「ああ、問題ない。空の方が終わったら、俺も嬢ちゃんたちに加勢するが、それで良いか?」

「あまり、ツバキたちの修行の邪魔にならない程度になら、問題ない。

 ……よし、では行くか。ツバキ、リア、しっかりやれよ。それから、リンネ、トウガの動きや戦い方をしっかりと学んでおけよ」


 俺の言葉に三人は頷く。そして、ツバキの腰に差してある斬鬼に視線を移し、心の中で三人のことを頼むと念じておいた。コイツが居るからまあ、大丈夫だろうな。

 心配なのは、俺か。久しぶりに、エンヤと離れて闘うのだからな。本当に、コウシの刀を壊さないように注意しないと。


「じゃあ、皆、昼にあの大木の下でまた会おう。オラ、トウケン、行くぞ!」

「え? うあああああ~~~ッッッ!!!」


 俺はトウガに跨るトウケンの首根っこを掴み、一気に急降下した。後ろからトウウとレオの、


「「気をつけてな~!」」


 という、茶化すような声が聞こえてくる。どちらに言っているのだろうか。俺も含まれているのだと思いながら、俺達は樹海の中に突っ込んでいった。


 さて、皆と分かれた後、俺はトウケンを連れて、取りあえず目に止まった大木の枝の上に着地する。辺りを警戒しながら、神人化を解くと、息をぜえぜえと吐いているトウケンが口を開く。


「はあ、はあ……生きた心地がしなかったぜ……」

「ん? 高い所が苦手になったか?」

「違う! 高い所からあんな勢いで降りる……というか、落ちたら誰だってこうなるだろうが!」

「え……楽しくならないか?」

「……は?」


 前に花街から、下街の俺の屋敷に向かって、崖を一気に跳び下りたときは、何というか全てが体感したこともない速さで過ぎていき、一気に命の危険に追い込まれていく感覚がして、その間にも生きているという実感がして、何とも楽しいものだったのだが、トウケンは違うようだ。

 ぽかんとしながら俺の顔を見てくる。そして、大きなため息と共に、頭を抱えた。


「はあ……数千年生きても、お前のことは本当に分からねえな……」

「言ってろ。何度も言うが、俺からすれば、たかだか数か月前に別れたままの感覚だからな。そう言われても困るだけだ」

「まあ……そうだな……で、神人化を解いているようだが、どうかしたのか?」

「ああなると、弱い魔物は寄ってこないんだ。だから、ここからはこのままで行く」

「そうなると、動きは格段に遅くなるな。お前、木から木に移ったり出来ねえだろ」

「いや、前にツバキに教えて貰ったから出来なくは無いぞ」

「ツバキって……ああ、ツバキ姐さんか……ややこしいな」


 トウケンはフッと笑い懐かしそうにつぶやいた。今までは何ともない会話だが、こちらの世界のツバキと、前の世界のツバキ、この二人を知る奴らからすると、確かにこの話はややこしく感じるのだな。俺も気を付けておこう。


「まあ、てことなら問題ないか。んで、俺達は固まって行動するってことで良いんだな?」

「ああ。どちらが見つけた魔物を倒すかは、その時に決めればいい」

「へへっ、了解だ! さあ~て、それじゃあ……」


 トウケンはニカっと笑って、片手を上げる。掌を空に向けて力を込めると、そこに気を集めていった。

 そして、集めた気をロウガンのように物質化し、一本の棒を作り出した。どうやらこれが、トウケンの得物らしい。棒術か……トウケンの怪力から振り出される棒の威力……。何とも、頼もしいなと笑った。


「さて、では行こうか!」

「おう! 遅れんなよ、ムソウ!」


 トウケンはそのまま隣の木の枝へと飛び移っていく。やはりここは猿であるあいつの方が一枚上手か、と苦笑いし、俺もトウケンに着いていった。

 そして、トウケンは鼻、俺は気配を探りながら、辺りを見回し、魔物たちを探していく。


 すると、俺達の前方に、巨大な蜂のような魔物が大群でブーンと大きな音を立てて飛んでいるのが目についた。

 顎には巨大な牙のようなものを備え、尾には毒針のようなものがついている。その魔物は俺達に気付くと一斉に向かってくる。


「早速、いやがったな!」

「トウケン、あれは?」

「ありゃあ、大鷹蜂だ。尾の毒針と、鋼鉄をも噛み砕く顎には注意しろ!」


 そう言い残してトウケンは棒を構え、一匹の蜂に飛びかかる。そして、棒をぶつけて、その魔物を倒すと共に、空中で制止した大鷹蜂の死骸を踏み台にして跳躍し、周囲の木に飛び移っては、更に他の大鷹蜂を狩っていく。

 飛べないトウケンが空中の敵を倒す時はどうするのかと思ったが、ああやるのかと感心していると、木の上に立っている俺を、複数の大鷹蜂が取り囲む。

 そして、それぞれ尾の毒針を俺に向けてきて、突っ込んできた。


「おっと……オラアッ!」


 ―すべてをきるもの発動―


 俺はその場で跳躍し、大鷹蜂の攻撃を躱す。それと同時にスキルを発動させて、毒針を切り落とした。そして、すぐ近くに居た一体を攻撃した。

 こちらも切れ目を斬ったのですぐに両断できた。昆虫型の魔物は外殻が固いからな。スキルを使っていないときなどは、関節を狙ったり、また、無間の時はそのまま叩き潰す感覚で倒したりできるのだが、今日持ってきているのは、コウシの刀。

 出かける前に言われたように、ちょっとでも刃こぼれをさせたら、後で怒られそうなので、今日の所は、全てをきるものを常時発動させながら、闘うことにしている。


 あっという間にそこらの大鷹蜂を倒した後は、遠くの方から向かってきている個体に剛掌波をぶつける。こちらは、倒すことは出来たのだが、威力が強すぎたのか、素材が残らなかった。

 依頼には無い魔物なので、少しでも稼ぎをと思っていただけに少しばかり残念である。


 しかし、こいつらひっきりなしに来るよな。今のところ、俺もトウケンも、余裕だが、こう長引いてしまうと、他の魔物も倒せなくなる。何かいい方法は無いものかと思っていると、あるものが目に飛び込んできた。


 丁度、俺達のそばにある大木。その上の方に、巨大な何かの塊が見える。土や木の枝などで出来た、その物体には一つの大きな穴が開いていた。よく見ると、大鷹蜂は、そこから出ている。

 どうやら巣のようだ。あれを叩けば、こいつらも一掃できる。

 そう思った俺は、刀を下段に構えて、気を集中させる。そして、上の方で闘っているトウケンに叫んだ。


「トウケン、派手なのをかます! どいてろ!」

「お!? お、おう! 分かった!」


 俺の声を聞いたトウケンは慌てて大鷹蜂を蹴り込み、その反動で少し離れた所にある大木の枝に飛び移った。


 俺は、更に向かってくる大鷹蜂と、巣が直線上に並んだことを見計らい、刀に溜めていた気を放出させた。


「耐えてくれよ……奥義・無尽!!!」


 近くまで来ていた大鷹蜂一体、一体に斬波を浴びせる。やはり、無間の時より、威力は劣るようだが、充分だ。斬波を浴びた大鷹蜂は、両断され、次々と地面に落ちていく。

 そして、この技は使えば使うほど、斬波の威力が増すというものだ。斬れるのではなく、大鷹蜂が消滅するくらいの威力になったところで、狙いを直接巣に変えた。巣を護るべく、のこのこ出てきた大鷹蜂も居るが、その瞬間に一瞬で塵になっていく。更に斬波を放っていくと、外側から削れていくように大鷹蜂の巣はボロボロとくだけていく。


 その後、これ以上ないというくらいに大きくなった斬波を大鷹蜂の巣に向けて放った。


「オオオオオオオッッッ!!!」


 刀から飛び出た巨大な斬波は、俺の視界を遮る魔物、木の枝、そして、大鷹蜂の巣を飲み込み、空へと向かっていった。

 鬱蒼と茂っていた木の枝が落ちていくと、何年ぶりなのか定かではないが、俺達の居る場所に燦燦と日光が差すようになった。


 薄暗くてよく分からなかったが、ふと下を見ると、大鷹蜂の死骸がゴロゴロと転がっている。その死骸で比べるしかないが、やはり地面から伸びている草はかなり高いみたいだ。移動はこのままの方が良いだろうな。

 そして、刀を見てみた。一応、EXスキルも発動させていたし、気功スキルも、剣術スキルもそれなりに使ってきているからか、そこまで武器に負担はさせていないと思う。

 だが、無間のこともあるので、恐る恐るという感じで、刃を見てみると、どこも刃こぼれはしていないようだった。

 ふむ……これくらいなら大丈夫なのか。ただまあ、予想以上の威力になり、無間を砕く一因にもなった、飛刃撃あたりは使わない方が良いだろうな。そんなことを思いながら、刀を鞘に納めていると、トウケンがそばにやってきて、俺のことをジッと見てくる。


「……ムソウ」

「な、何だよ……?」


 その眼はまるで詰問するかのような、尋問するかのような、ジトっとした目だ。ひょっとして、斬ってはいけないものでも斬ってしまったのだろうかと思い、呆然としていた。

 すると、トウケンは表情を変えて、ニカっと笑う。


「いやあ~、本当に変わってねえみたいだな。思わずブルっちまったぜ!」


 そう言って、トウケンは俺の肩をバンバンと叩く。力が強くて痛い。どうやら、俺の力を直接その目で見るまでは信じられていなかったようだ。まあ、それだけの時間が経っているからな。それも仕方ないことかと思い、頭を掻く。


「お前も十分な強さで安心した。伝説の神獣と謳われるのに遜色なかったぞ」

「おだてんなよ。まだ、本気じゃねえんだからよ」

「そうか。王都に戻る前に、皆とも手合わせしたいものだな……」

「あ、それは勘弁してくれ……」


 急に真顔になり、祈るような仕草をするトウケン。俺と手合わせはしたくないとのことだ。トウガの方は乗り気だったが、トウケンは違うようで、何だか落ち込んでくる。


「……まあ、良い。さて、では死骸を集めるか……」

「ああ。だが、あれだけ草が生えていたらやりづらいな」

「問題ない。ちょっと待ってな……」


 ―おにごろし発動―


 俺は神人化して、いつものように、光葬針を武者の形に変えた。こちらもやはり数が増えている。以前は十体ほどが限界だったのだが、今では同じ力で五十体ほどまで作り出せるようになっていた。こうしてみると、ちょっとした部隊並みには居るな。

 殲滅依頼などの時には、こうやって闘うというのも悪くはないかも知れない。


 そして、武者たちは俺達の眼下に転がる大鷹蜂の死骸を集めては、異界の袋に入れていく。


「これで、大丈夫だろう。しばらく休憩だ……」


 この間は、俺も特に力を使うという感覚は無いからな。その場に腰を下ろし、しばらく武者たちの作業を眺めようと思っていると、トウケンが口を開く。


「……これも、お前の力か?」

「ああ。なかなか便利だぞ」

「……そうか……お前は俺らから見ても、“規格外”なんだな……」


 トウケンは遠い目をしながら、呟いていた。これに関しては、俺も自分で変な能力だと思っている。

 しかし、ひょっとしたら、過去にはこういうことが出来る奴も居たのではないかと期待していたが、天界の波動や、冥界の波動を放出する人間など居なかったと聞いた時点で、それは分かっていたことだと、思っている。

 トウケンの言葉に、何も言い返せず、俺は黙って作業を見守った。


 そして、全ての死骸が収納されたことを確認すると、俺は神人化を解く。働いた武者たちは、そのままフッと消えていった。

 ホント、俺の力の一部だということは分かるが、一気に人型のものが居なくなると、どこか寂しい気持ちになるのは変わらない。次からはもう少し形を変えてみるとしよう。


「さて……では、次に行くか」

「おう……っと、あっちの方からまた、別の魔物の臭いがしてくるな。あっちに行くか?」

「だな。それに数も多いみたいだ。早いところ、倒しに行こう」


 俺達は、再び魔物たちが居る方向へと移動していく……。


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