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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
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第253話―リンネの願いを叶える―

 リンネと遊んでいるうちに、ふと見ると、それぞれの料理も片付き始めていて、宴会が終わっていた。昨日のように何人かは先に風呂に行き、何人かは女中たちと一緒に片づけを始める。

 この後のことがあるので、俺はダイアン達と分かれて、ツバキと一緒に、昨日と同じく女中たちの手伝いを始める。

 リンネは、ジゲン達に俺の切り絵を自慢げに見せている。コモンにより、綺麗に糊付けされ、簡単な額に入れられたそれを、リンネは大事そうに抱えて、俺達の部屋へと向かった。

 満足げな顔のリンネはそのまま俺達の手伝いに加わり、今日は一緒に風呂に入れないと言われたたまは、不思議そうに、寂しそうにしながらも、四天女やアヤメに手を引かれて、風呂に向かった。


 ジゲンや、カドル達も俺に風呂を誘ってきたが、断っておいた。少し不思議そうな顔をしたが、昼間に湖に入ったから、今日は良いと言うと、納得してくれた。


 今日の洗い物は風呂と同じく湖の水で行った。本当に驚くくらい汚れが良く落ちるので、女中達も喜んでいる。

 さらっと水で流しただけで、綺麗に汚れが落ちていく皿を見ながらはしゃぐ、女中たちの声が聞こえてくる。


「すご~く、綺麗になるね~」

「楽だわ~……」

「でも、これも今日だけっていうのはね~……」


 やはり、女たちには好評だが、水があるのは今日だけだ。毎日、転送魔法を使うコモンに採ってきてもらうというのも、考えられるが、それもどうかと思っている。

 あそこに行った時に、偶に持って帰る程度で良いんじゃないかと思っていると、何か思いついたように、アザミがクスっと笑って、口を開く。


「大丈夫よ。この水は、普通の湖から頭領が作ったものなんでしょ? だったら、毎日井戸の水に、頭領があの変な力を使えばいいのよ」


 アザミの言葉に、女たちは、あ~、と言って、俺の方を見てくる。俺も、その手があったかと思っている。

 その瞬間、天界の波動などをみだりに使うことは控えようという考えが、ガラガラと崩壊していく感覚があった。


「そいつは、いい考えだな。今晩辺りからやってみるよ」

「楽しみにしております」


 恐らくだが、光葬針あたりを井戸に入れれば良いのではないかと考えている。それだけなら特に苦労もしないし、今日と同じことが毎晩続くなら、女中たちの仕事の負担も減るので良いと思っている。

 未だ、コイツらは風呂に入っていない。どれだけ、自分の身体が綺麗になっていくか、それを実感し、改めて俺のありがたみを感じていてくれと、ほくそ笑んでいた。


「さて……と、では私はそろそろ、お部屋に戻りますね」


 俺の横でツバキは皿洗いを終えて、手を拭い、炊事場を後にしようとした。


「あら、ツバキさんも、本日は、お風呂はよろしいので?」

「ええ。だいぶ綺麗になりましたし、それに、泳ぎ疲れたのですかね……少し、眠たいので……」


 ツバキは欠伸をかくふりをする。芸達者な奴だなあと、思っていると、アザミは頷き、女中たちはツバキに、おやすみなさいと言って、ツバキは俺達の部屋へと向かった。

 ふと、リンネがこちらを見ながらニコニコと笑っていることに気付く。バレないようにしろと目配せをすると、リンネはコクっと頷き、俺と一緒に皆が洗った皿の水気を落としていった。


 そして、全ての食器を洗い終えると、俺もリンネを抱いてその場を後にする。


「じゃあ、俺も寝るからな。皆、今日もお疲れさん。明日からも頼むぞ」

「「「「「は~い!」」」」」

「お疲れさまでした、頭領」

「またね~、みんな~!」


 深く礼する女中たちにリンネが手を振って、部屋へと向かった。誰も不審に思っていないようだな。ひとまずは安心だ。このまま、皆が寝入るのを待とう。

 部屋へと向かっていると、風呂場の方から、水質についての感想などが聞こえてくる。やはり、皆気に入ったようだ。


 特に声が大きく聞こえるのは、意外にも、コモンだった。肌が綺麗になったとか、髪の艶が良くなったとか言う、四天女達の声よりも、大きく、興奮しているような声が聞こえる。


「この水があったら、汚染されてどうしようもなくなった死骸も、蘇りますかね!」

「館長、落ち着けって。それは別に、この水じゃなくても出来るだろう……」

「今よりも、楽に出来るかもしれませんよ! それに、九頭龍の骨と、外殻、それからこれだけの天界の波動を帯びた水があれば、聖杯も出来ます! 明日からも仕事は山積みだな~!」

「嬉しそうだな……まさか、館長一人でやるってわけじゃないよな?」

「ええ、もちろん! ヴァルナさん達も手伝ってくださいね!」

「はあ……わかったよ」


 ヴァルナの言葉と共に、風呂場から笑い声が聞こえてきた。

 コモンの言葉を聞く限り、九頭龍の死骸はやはり、完全に浄化出来ていたようである。希少な聖杯を量産出来るということで、コモンはかなり嬉しそうだ。

 何となく、ヴァルナを始めとする、天宝館の職人たちに、心の中で謝っておいた。


 それからも、コモンはジェシカに水を材料とした薬について話していたり、レオパルドとカドルやトウガ達に、それぞれの素材についての話をしている声が聞こえてくる。

 これは長くなりそうだな。そのまま全員、眠くなって、ゆっくりとしていてくれと思いながら、部屋へと向かった。


 そして、俺とリンネは部屋へと戻る。すると、ツバキは昨日のようにコウシから借りたという、刀の具合を確かめていた。


「やはり、重たかったか?」

「ええ。戦えないことは無いのですが、闘いづらいというのは感じましたね……」


 ツバキは俺に刀を差しだして、そう呟く。俺はコウシの刀を手に取った。

 以前持った時にも思ったが、少し、普通の刀よりは重いくらいか。無間に慣れていたせいで、俺からすれば軽いのだが、ツバキにとっては、やはり前の刀よりは重いようだ。

 明日はリアも加わるし、どちらかといえば、二人を鍛えるための戦いになる。あまり、ツバキに合っていない刀を使うのはどうかと思い、少し悩んだ。


 だが、命の危険を少しでも軽減させられれば、と思い、俺は斬鬼をツバキに手渡した。


「では、明日はこの刀を使ってみろ。幾分かこの刀よりは軽いし、切れ味も前の刀よりも鋭いといった具合だ。お前の戦い方に合っていると思うぞ」

「え……よろしいのですか?」

「問題ない。俺はこの刀を使うからな」


 キョトンとするツバキに斬鬼を持たせた。ツバキは鞘から刀を抜いて、念入りに様子を確かめている。

 そして、一枚の紙を取り出すと、斬鬼の刃に当てた。紙は全く力を入れることなく、そのまま切断され、ツバキは目を見開く。


「なるほど……伺っていたように、切れ味が良いですね……」

「ああ。やはりお前でも扱いづらそうか?」

「いいえ。重さもそちらの刀よりは軽いですし、何より、この切れ味ですと、ジゲンさんの技も使えるかもしれませんね……」


 ああ、確かに剣速が早いツバキの太刀筋と、抵抗なく魔物を斬ることが出来るこの刀だったら、出来るかも知れないな。ツバキは明日の朝にでも、大まかなやり方を確認すると張り切っている。


「じゃあ、その刀は預けておくから、大事にしてくれよ」

「ええ、もちろんです」


 ツバキはそう言って、刃を鞘に仕舞って、大事そうに胸に抱いた。一応、刀の中にはエンヤが居るが、恐らく大丈夫だろう。

 というか、どうしようも出来ないと思うので、そこまで気にしなくても良いだろうな。


 さて、俺の方はコウシの刀を眺めてみた。刃こぼれなどは無いし、重さも問題ない。柄がぐらつくこともないので、その辺りは大丈夫だが、技は普通に使えるのか、威力に耐えられるのか、その辺りが若干不安だ。

 まあ、明日はそこまでの敵も居ないだろうと思っているし、いざとなればトウガやリンネに任せる気なので、こちらもあまり気にしなくて良いのかも知れないな。


 確認もそこそこに、刀を鞘に納めて置いて、一息つく。すると、リンネが俺の膝の上に乗って、いつものように遊びだした。

 何だか、このまま今日はもう、眠ってしまいたいなあと思い、一つ欠伸をかく。すると、ツバキが顔を覗き込み、まだですと、視線で訴えてきた。約束だから仕方ないよなあと思い、必死で眠気を抑える。


 そして、しばらく時間が経ち、屋敷中から聞こえていた声が聞こえなくなり、辺りは静寂に包まれた。


「……じゃあ、そろそろ行くか」


 俺の言葉に、二人は頷き、ツバキたちと一緒に風呂場へと向かう。念のため、屋敷に居る者達の気配を探ってみたが、大丈夫なようだ。これで、バレることは無いだろう。


 そして、俺から脱衣所に入り、服を脱ぎ、念のためにと買っておいた湯浴み着を着て、風呂場へと向かう。

 浴場に入ると、何故かまだ、湯が出ていることに気付く。


 既に皆が入り終えた後なので、また入れなおそうかと思ったのだが、最後に入った奴が忘れたからなのか、今も温かいお湯が、浴槽に注ぎ込まれていた。湖の水を使っているからなのか、風呂全体がぼんやりと光っているようにも見える。

 勿体ないなあとは思いつつ、ある意味助かった気もして特に気にせず、そのまま湯に浸かる。


「あ~……♨」


 やはり、風呂は良いな。疲れがじんわりと解けていく感覚がある。ただ、本当にこのまま眠ってしまいそうで怖い。

 子どもの時は、闘いがあって、一日が終わって、風呂に入っても、俺達は野宿だった。安心など出来ず、寝ずの番が居たとしても、今のようにゆっくりと眠ることなど出来ていなかった。


 何時からだろうな、こうやって、落ち着いて風呂に入ったり、ゆっくりと眠るようになったのは……。

 穏やかな生活が出来るようになったのか、単純に歳を取ったからなのか、定かではないが、こういうのも悪くないなあとそのままゆっくりとしていた。


 そうしていると、風呂場の戸がガラガラと開き、リンネとツバキが入って来た。約束通り、ツバキはきちんと湯浴み着を着ている。リンネはそのままだが、子供だから、まあ良いかと思い、気にしなかった。


「お邪魔します……」

「わ~い!」


 リンネはそのまま駆け出して、浴槽に飛び込む。大きな音とともに水しぶきが上がり、俺は頭の上からずぶ濡れになった。


「こら……俺以外居ないからって飛び込むんじゃねえ」

「ひゃあうっ! ご、ごめんなさ~い!」


 水面から顔を出すリンネを捕まえ、しっぽを思いっきりくすぐってやると、リンネは更に水しぶきを立てて笑いながら謝ってくる。

 ちょっとしたお仕置きだが、どことなく楽しそうに見えるのが不思議だ。

 ひとしきりくすぐり終えると、リンネは俺の横に座り、なごみ始めた。


「きもちいい~……♨」


 リンネも風呂は好きなようだ。神獣は皆こうなのかと思い、笑ってリンネの頭を撫でる。

 すると、ツバキも風呂に入って、ふう、と息を吐いた。


「……本当に気持ちいいですね……♨」

「ああ。汲んできて正解だったな……」

「先ほど、ナズナさん達と話されていたことは本当にやるおつもりなんですか?」

「井戸の水を浄化する話か? まあ、大したことでは無いし、それによって、皆が喜ぶならやってみるよ」

「ふふっ……相変わらず、良い考えですね。ですが、色々な方々に利用されないようにお気を付けくださいね」

「別に、それは構わねえよ……ただ、相応の報酬は払ってもらうがな……タダ働きは御免だ」

「……相変わらず、ですね。何となく安心しました」


 そう言って、ツバキは浴槽から出て、桶で湯を掬い、髪を洗い始めた。俺もリンネの頭や尾を、湯で流して揉み洗いしていく。少し、くすぐったそうにしているが、ジッと体に力を入れて、我慢しているようだった。


「よし、終わったぞ」

「ありがと~! じゃあ、つぎはおししょーさまのばん!」


 リンネは手ぬぐいを手に取り、俺の背中を磨いていく。もう少し、力が欲しいなと思っていると、ツバキも加わって、俺の背中に手ぬぐいを当て始めた。


「どうですか?」

「ああ、なかなか気持ちが良いぞ」

「それは良かったです……」

「ね~、おししょーさま~」

「ん? どうしたんだ?」

「おひげはそらないの~?」

「ああ、剃らない。少し整えるくらいで良いだろう……」

「むぅ……」


 鏡を見ながら、毛先を整えていると、リンネは不服そうな顔をする。何がそんなに嫌なのか、と思っていると、ツバキも俺をジトっと見ていることに気付いた。

 今日皆で風呂に入っているのは何故かということも考え、俺は深くため息をつく。


「……分かったよ」


 俺はリンネの頭を撫でて、良い感じに生えていた髭を全部剃った。ついでに眉毛も整える。どこか顔が寂しくなった気がして落ち着かないなあと思っていると、リンネはニッコリと笑った。


「うん! やっぱり、そっちのほうがいい~!」

「そうか……そいつは良かった……」


 まあ、またすぐに伸ばすがな。また若造呼ばわりされたくないし。そのまま顔を洗うと、ツバキもクスっと微笑んだ。


「こうされるのは、あの、女装の時以来ですか?」

「嫌なこと思い出させるな……」

「あれ、よかった! またやって~!」

「……なら、料理も作らねえし、着物もやらねえぞ?」


 俺を女装させようとするリンネに、少しいじわるしてやると、リンネはぴくッと固まり、シュンと、耳と尾を折りたたみ、いかにも落ち込んでいるという様相になる。


「どっちが良い?」

「……そのままでいい」


 女装しなくても良いと言ってくれたリンネの頭を撫でると、すぐに機嫌が直ったようで、再び、ニコリと笑って、背中を磨き始める。


 そして、身体を洗った後は、再び三人で浴槽に浸かり、しばし、落ちついた時間を過ごした。


「はあ~……本当に、今日はゆっくりと出来た気がする……疲れも完全に無くなった……」

「それは何よりです。いつも、元気そうな感じですが、その度に無理をされているのではないかと思っておりましたので、安心しました」

「ああ……いつもいつも、すまないな……」

「次からは、気を付けてくださいね」


 微笑むツバキとリンネに頷き、二人の頭を撫でた。

 歳は食ったが、今も昔も、俺はそばに居てくれる誰かに心配ばかりかけているのだなと反省し、これからは、もう少し皆に甘えたって良いんじゃないかと実感した。


 その後、風呂から上がり、風呂の後始末を終えて、アザミたちとの約束通り、俺は井戸の前で神人化した。


 そして、光葬針を井戸の中に投げ入れる。すると、井戸の底に溜まっていた水が強く輝きだし、しばらくすると、段々と収まっていったが、まだ、ほのかに光を帯びた聖なる水が完成する。


 ひとまずはこれで様子をみようと思い、部屋へと戻った。

 すると、既にツバキと獣姿になったリンネは布団の中に入り、すやすやと眠っていた。色々あった一日だったから、やはり二人も疲れていたのかと思い、苦笑いする。


「お前らが俺に心配かけてんじゃねえよ……」


 少し乱れている布団をかけ直し、俺も、自分の布団の中に入って、目を閉じた。


 そして、俺の意識は静かに、ゆっくりと深いところに落ちていった……。


 ◇◇◇


 次の日、目が覚めて身を起こした。今日もツバキとリンネよりも先に目を覚ますことが出来たようだ。

 未だ気持ちよさそうな顔をしている二人を起こすのも悪いなと思い、そのまま着替え始める。

 何か、顔に違和感があるなあと思い、口元に手を置いて、昨晩髭を剃ったことを思い出した。まあ、またすぐに伸びるだろうと思い、そのまま着物を脱いで、鎧をつける。


 すると、背後でもぞもぞと動く音が聞こえてきて、振り返ると、ツバキが身を起こし、背伸びをしながらあくびをかいていた。


「あ……おはようございます。今日もお早いですね……」

「そうそうお前らの思惑通りには動かねえよ……さて、では二つ目の願いでも叶えるとしようか……」

「何のことです?」

「飯作ってやる約束だろ? 俺は先に台所行ってるから、お前らはゆっくりとしてな」


 俺は、着替えを済ませて、部屋を後にする。リンネのお願いのうち、一つは昨晩終わった。残りのうち、飯を作ってやるという願いをこれから行おうと思う。

  部屋を出てしばらくすると、中から、リンネの大笑いする声が聞こえてくる。早速やってんなあと思い、やれやれと笑って、廊下を進んだ。


 そのまま炊事場に向かうと、女中たちが既に起きていて、せっせと飯を作っていた。それぞれ米を炊いたり、肉と野菜を切って、それを焼いていたり、大きな鍋で汁物を作っていたりと、忙しそうにしている。

 俺が中に入ると、いつもはこの時間は居ない、さらに、髭を剃っている俺が入って来たということで、たまも、アザミを始めとする女中達も目を見開いていた。


「あれ!? おじちゃん、おひげは!?」

「ん? ああ、たま、おはよう。なあに、気分転換ってやつだ」

「そ、そうなんだ~……それより、こんなにはやく、どうしたの?」

「今日は、ツバキとリンネに俺が料理をすることになっていてな。少し、場所借りても良いか?」

「え! おじちゃんのお料理!? 私も食べたい!」

「お前の舌に敵うかどうか分からないが、構わない……じゃあ、これらを借りるな」


 俺は目についた肉と野菜、それから魚を手に取って、まな板の前に立つ。そして、包丁を手に取って、まずは下ごしらえをと思っているのだが、ふと、女中たちが俺の手元を見ていることに気が付いた。


「何見てんだ?」

「いや、だって、めったに見れないから気になるんです~」

「怪我しないでくださいよ~」


 いつも危険な依頼に行くときは、そこまで心配しない奴らが、たかだか台所に立ったくらいで、心配してくるという状況に少々戸惑う。コイツら、俺を何だと思っているのだろうか。


 気にせず、野菜を切り、水を張った鍋に入れて、煮込んでいく。

 そして、魚のわたを抜き、串に刺して塩を振り、かまどのそばに置いて、じっくりと焼いていく。取りあえず、魚の方はこれで良いか。


 さて、鍋に入れておいた野菜に火が通ったことを確認して、一口大に切った肉を鍋の中に入れていく。これは……バースト・ボアの肉か。少し硬いから、時間をかけて煮込んでおこう。

 鍋に蓋をする前に、臭みを取るために香草を入れて、そのまま蓋をしておいた。汁物もこのままで良いか。後は味噌を入れれば完成だな。


「……そういえば、昨日のうちに水を浄化しておいたのだが、どんな感じだ?」

「あら、約束を守っていただきありがとうございます。ただ、料理に関してはそこまで変わっていないですね」


 アザミの言葉に意外だと思った。酒は旨くなったが、他の料理に関しては特段変化が見られたわけではないらしい。

 まあ、あったところでどういう変化になるのか想像がつかないからな。そこはあまり気にしなくて良いかと思い、次の料理へと作業を移す。

 すると……


「おじちゃん、てぎわいいね~」


 ずっと俺の料理の様子を横から眺めていたたまが、鍋の中を見ながら話しかけてきた。俺は見たこともないが、ここに置いてあるから食えるだろうと思っている果物のようなものの皮をむきながら笑っている。


「これくらいなら俺にも出来る。ただ焼いたり、煮込むだけの簡単なものだけだがな。ずっと旅していて、野宿ばかりしていると、自然と身につくものだ」

「やっぱり、旅ってたのしい?」

「ん? ……まあ、楽しくないと言えば嘘になるな。辛い時もあるが、楽しいことの方が多い。

 今まで見たことが無いような景色や、ものに触れていくというのは、この歳になっても面白いと感じるぞ」

「そっかあ……いいなあ~……」

「お前も、いずれまた、爺さんに連れて行ってもらうと良い。爺さんは物知りだからな。あちこち回りながら色々と教えて貰えるぞ」

「うん!」


 まあ、その頃にはジゲンも今よりもっと老けているだろうがな。ただ、普通の爺さんならまだしも、ジゲンだからな。本当に、俺よりも元気で長生きしそうな気がする。

 今まで、色んな事に耐えてきたジゲンには、たまと一緒にゆっくりと余生を楽しんでもらいたいものだ。


 さて、そんなことを話しているうちに、果物を剥き終えて一口大に切った。どんな味なんだろうと思い、つまみ食いをすると、少し酸味が強い、苺のような味がした。

 これなら、魚を食った後に合うなあと思い、そのまま皿に盛りつけ、焼きあがった魚も違う皿に入れた。

 そして、煮込んでいた汁の状態を見ようと、ふたを開けると、湯気と共に、香草の香りが上ってきて、食欲を誘った。匂いを嗅いだ女中達やたまも、満足そうな顔をしている。余ったら、分けてやろっと。


 しかし、これなら味噌は要らないかなと思い、おたまで掬って、味を確かめてみた。野菜の甘みと肉の味がじんわりと溶け出し、なかなか美味しく感じる。程よい塩気のように思えたが、俺には少々薄く感じた。味噌を入れるかどうか悩み、そばに居たたまとアザミにも味見させた。


「こんなもんで良いか?」

「わたしはちょうどいいと思うよ~」

「私にはちょっと薄いですかね。しかし、気になるほどではないです」


 なら、このままで良いかと思い、味噌は仕舞った。ちなみに味については文句なく美味しいとのこと。

 喜んでもらえて良かったが、たまに言われると、なお嬉しい。すごく大きな自信がつく気がする。

 すると、他の女中達も物欲しげに眺めてきたので、もう一つの鍋に同じ料理を作ってやることにすると、女たちは喜んだ。


「主人にお料理を作ってもらえるなんて、私達従者は幸せ者ですわ」

「こんなので良かったらいつでも作ってやるよ。その代わり、今日もしっかりと働いてくれよ」

「「「「「は~い!」」」」」


 女中たちは大きな声で返事をして、再びてきぱきと皆の料理を作っていく。

 いつでも元気が良いことで何よりだ、と思いながら、俺も最後に料理を盛りつけていき、俺達の朝飯を完成させていった。


「さて……これで良いか。お前達の方は?」

「ええ、ばっちりですよ」

「良し……では、皆を起こしてこい。朝食を始めるぞ!」


 女中たちは配膳をする者と、皆を起こす者に分かれて、行動を始めた。たまは、今日も裏の洞窟でジゲン達と飯を食うらしい。俺が作った汁を少しだけ違う鍋に移し、アザミと一緒に元気よく洞窟の方に向かって行った。

 俺も三人分の食事を持って、飯を食う部屋へと運んでいく。


 すると、そこにはすでにコモンが居て、一人静かに茶を飲んでいた。時々、コモンはジゲンよりも年寄りのようなことをするので、少々戸惑いながらも近づき声をかける。


「よう、コモン」

「あ……ムソウさん? あれ……?」

「ああ、髭か。リンネに言われて剃った」

「また、珍しいことをしますね……何かあったのですか?」


 不思議そうな顔をするコモンに昨日のことを教えてやった。風呂に入ったことなどは隠しつつ、リンネが剃った方が良いというものだからと言うと、先ほどまでの年寄りのような様子から一変し、コモンは、無邪気な子供の顔つきに戻った。


「流石のムソウさんも、リンネちゃんには敵わないようですね。ならいっそ、このまま女装も――」

「ふざけんな……二度と御免だ。また、変な面倒が起きるだろ?」

「ふふっ……ですね」


 コモンは笑って頷いた。そして、俺が料理を置くと美味しそうだな~などと言いながら、食事を始める。俺も、ツバキとリンネを待ちながら、茶をすすっていた。


「あ、そういえば、九頭龍の素材の件ですが……」

「ああ、知ってる。うまく浄化されていたみたいだな」

「え……誰かから聞きましたか?僕が先に言って驚かそうと思ったのに……」

「いや、昨晩風呂場からお前のはしゃぐ声が聞こえてきただけだ。まったく……」


 少し呆れたように言うと、コモンは恥ずかしそうな顔をして、そうですかと頷く。


「驚きましたからね、流石に……。しかし、これでまた、良いものを作れそうです」

「そいつは、何よりだ」

「あ、それから、昨日異界の袋を調べていると、また、面白いものを見つけましたよ。ムソウさんも、言ってくだされば良かったのに……」


 そう言って、コモンは俺の異界の袋を取り出し、返してきた。


「面白いもの? 何のことだ?」

「完全純度の永久金属と、賢者の石のことですよ。どこで手に入れたんですか?」


 コモンの言葉に、ああ、と頷く。マシロの呪いの一件を解決した際に、ロウガンから貰ったんだよな。何かに使えるかと思い、更には希少なものだということで、ずっととっておいたのだが、すっかり忘れていた。


「まあ、いろいろあってな」

「そうですか。でも、あの二つがあれば、無間の修繕も進むと思いますので、お預かりしてもよろしいですか?」

「ああ、構わない。無間に使うというのなら、俺としても本望だ。大切にしてくれよ」

「お任せください。あと、先ほどの狩り勝負で出た素材についてですが、ヴァルナさんから聞いております。

 え~と、迷彩龍の素材を、調査依頼に出向く皆さんようにということで、よろしかったですか?」

「ああ。また、変な魔物に遭遇しても大丈夫なように、今度は強固なものを頼む」

「かしこまりました。ではいずれまた、皆さんの身体測定などをしていこうと思いますので、よろしくお願いします。それから……」


 と、コモンから、次々に新しい装備についての話が飛び出してくる。ヴァルナが言っていたように、仕事を増やしてしまって申し訳ないと思っていたのだが、その心配はないらしい。目を輝かせて、色々と確認してくるコモンに、俺はその都度、頷いていた。

 やはり、コモンはトウヤに似ている。いつか、二人を会わせてみたいなあと何となく感じていた。


 そうしていると、廊下の方からガヤガヤと皆の声が聞こえてきて、冒険者たちが部屋の中に入ってくる。やはり、皆は俺の顔を見て驚いているようだった。

 そして、事情を説明し、何ならこのまま女装もという言葉に反論するというやり取りを三、四回して、ハルキに異界の袋を返すと、それぞれ飯を食い始めていく。


 そのすぐ後に、ツバキとリンネも部屋に来て、俺のそばに座った。

 リンネはニコ~と笑って、俺の作った料理を眺めだした。


「これ、おししょーさまがつくったの!?」

「ああ。ちゃんとよく噛んで、食べるんだぞ」

「うん!」


 リンネは大きく頷き、箸をとって飯を食い始めた。汁をすすったり、魚を口に入れる度に、リンネは更に笑顔になり、美味しそうに飯を頬張っている。


「ほら、お前も食えよ」

「ええ、いただきます」


 ツバキは、リンネの様子を見て、何か納得したかのように料理に箸をつけた。……まさか、信用していなかったわけでは無いよなと思いつつも、様子を見ていると、ツバキも美味しいと言って俺の料理を食べ始めた。なら、良いやと思い、俺も飯を食い始める。

 何はともあれ、願い事はあと一つ。丁度いいなと思い、コモンの方を向いた。


「コモン、また仕事を増やすようで悪いんだが、一つ頼みがある」

「あ、はい、何でしょうか? 何でもやりますよ?」


 予想通りというか何というか、コモンは明るい表情で、身を乗り出してきた。俺は安心して、頼みを言うことが出来る。


「リンネに新しい着物を作って欲しいんだ。獣人化した時に着れて、獣の姿になったときは、体内に取り込まれるってやつだが……出来るか?」

「なるほど……大丈夫ですよ」


 案外さらっと、俺の頼みを承諾するコモン。横で、リンネは目を見開き両手を上げた。


「コモンくん、ありがと~!」

「お安い御用です。柄と着物の形式が決まったら、また教えてくださいね」

「あっさりだな。簡単なものなのか?」

「まあ、僕にとっては簡単なものですね。“鍛冶神”、舐めないでくださいよ、ムソウさん」


 胸を張って、柄でもないことを言うコモン。一瞬ぽかんとしたが、自信満々なコモンの顔を見て、何だか可笑しな気持ちになって笑った。


「じゃあ、よろしく頼む、“鍛冶神”殿。その腕を以って、素晴らしいものを作ってくれ。期待しているぞ」

「むう……そう言われると、なかなか、重圧が……」


 顔色を悪そうにするコモン。やはりこっちの方がコモンらしくて良いなと思い、俺は笑った。リンネもツバキも笑っている。恥ずかしそうに顔を赤くしたコモンは、静かにため息をついて、頷いた。


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