表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
252/534

第251話―家に帰って団欒とする―

 その後、魔物の解体作業が終わり、ヴァルナから食用にと分けられた肉を受け取る。後の部分は、うちの装備に使ったり、天宝館に引き渡される手はずとなっている。

 素材の入った袋を、何やらにやにやとした顔つきで俺に渡してくるヴァルナ。頼むから先ほどの件は誰にも言うなと念押しし、俺達はギルドを出た。


 そして、家へと帰る。だいぶ日が長くなった気がする。少し前まで、同じ時間帯の時にはすでに暗くなっていた気がするが。もう春なんだなと思い、ツバキとリンネと共に花街を進んでいった。


「そういえば、カドルやトウガ達とは会わなかったが、既に屋敷に居るのか?」

「そうですね。最近は、依頼を終えると、直接屋敷にお戻りになることが多いです。そして、報酬は次の日にという流れになっていますね」


 あ、じゃあ、今頃依頼に出ていた奴らは、風呂とかに入っているのかも知れないな。せっかくだから、湖の水を使った風呂に入らせたかったが、それは明日からにしておこう。

 ちなみに、ヴァルナたちも、後から俺達を追うように屋敷に来るらしい。天宝館という建物は無いが、仕事はあるとのことで、ここ最近は一日中忙しいという。

 アヤメも同様に、また後から俺の家に来るそうだ。また、宴会も盛り上がるんだろうなと思っているが、それは果たしていつまで続くのだろうか。


 そんなことを思っていると、建設中の新しい妓楼の前を通りかかる。恐らくこれが完成すれば、屋敷に残るコスケや、アザミ、そして、妓女たちもここに戻ることが出来るので、毎晩続く宴会も近々終わるのだろうなと考えていた。


 さて、未だ骨組みが目立つが、ところどころ既に壁や窓も出来上がっている妓楼を見て、呆然とする。


 もちろん、俺の屋敷よりも、そして、アヤメの邸宅よりも、はるかにデカい。花街の大半が、その妓楼になっているようにも見える。簡単に言えば、大通りの両側に長屋のように建物が建ち、ところどころに橋のようなものがあり、両側の建物を行き来できるようになっている。

 話に寄れば、これが後一週間ほどで完成すると言うが、コモン達に無理だけはするなと後で言っておきたい。


 ……いや、コモンは大丈夫そうか。問題は、手伝わされている闘鬼神の者達だ。完成したら、花街で遊ぶこと禁止ということは忘れて、ここで遊ばせるというのも悪くはないのかも知れないな。俺も今日、屋敷で男女のそういったことをするなという決まりを。若干破るわけだしな。

 もちろん、皆にはバレないようにするが、バレたときにはそうやって、皆の気持ちをごまかすようにしよっと。


「ふわあ……おっきいね~。おそうじ、たいへんそう……」


 手をつないでいるリンネは、建設途中の妓楼を見上げながら、そんなことを呟いている。確かにな。ここまでデカいとただ掃除をするのにも、結構な人手が必要そうだ。後、妓女たちの世話だったり、洗濯だったりと日常を過ごすだけでも大変そうだな。

 実際リンネとツバキは高天ヶ原で働いていただけに、その辛さは想像するのも嫌だという顔をしている。

 流石に、大陸王になったタカナリの王城もここまではデカくなかったよなと思い、ふと、気になったことがあったので、ツバキに聞いてみた。


「ちなみに、人界王の王宮と、ここだったらどっちがデカいんだ?」

「え……そうですね……見た感じですと、まだあちらの方が大きい気がします」


 ……これよりも、デカいってか。土地のあれこれとか、色々な条件とかもあるとは思うが、ここの妓楼よりもデカいというのは、一体カンナ達はどれだけの城を建てたのだろうかと少し心配になってしまう。


 ……いや、ひょっとしたら当時は、今のコモンみたく、トウヤ辺りがめちゃくちゃやる気を出したという線も、考えられるな。大きな設計図を手にし、満面の笑みで、こういうのを作りましょう! というトウヤの顔が簡単に目に浮かぶ。

 この辺は、後でシンキに聞いておこう。カンナが、自分の威厳を、城の大きさで知らしめるという考えを持っていたと思うのは、何となく嫌だからな。もしくは、時代と共に、大きくなっていったか、だな。


 隣でリンネが、掃除とかはどうしているのだとか、食事のこととか、ツバキに色々と質問している。なんでも、百を超える従者が行っているということらしい。頼むから、奴隷とかは使っていてくれるなよとオウエンに対して心の中で懇願した。


 前の世界では、サヤも俺と出会った時はそんな感じだったし、噂でしかなかったが、カンナも、最期はほとんどそういう扱いをされていたらしいからな。


 そういえば、カンナは俺達の居た世界からそのままの姿でこの世界に来たという話だったな。今で言うところの、召喚者らしい。

 死んだわけでは無いにしろ、何故、カンナがこちらに来たのかという疑問は尽きない。

 今のところは、前の世界で生きるということに絶望したカンナの願いを、何らかの形で何者かが汲み取り、この世界に連れてきたということにしている。

 誰が連れてきたのか、という疑問もあるが、俺としては、死んだわけではないということが分かったので、どこか救われた気がしていた。


 本当に、結果的にそうなったのだとしたら、それで良いと思っている。


 ……まあ、今の俺からすれば、全ては過去の話だ。今更、考えたってどうしようもない。今はただ、行方不明となっているカンナやサヤ、そして、タカナリの魂を探し出すことに専念しよう。


「おししょーさま、どうかしたの?」


 妓楼を眺めながら、そんなことを考えていた俺の顔をリンネが、心配そうにのぞき込んでくる。少し、ぼーっとしてしまったらしい。我に返った俺は、笑ってリンネの頭を撫でる。


「何でもねえよ。それより、疲れてねえか? ほれ、おぶさってやる」


 リンネに背中を向けてしゃがむと、リンネは、わーいと言って、俺の背中に掴まった。


「えへへ……あったか~い……」

「お前もな……」


 背中から感じられるリンネの温かみを受けて、俺達は再び、屋敷を目指して歩いていった。


 そして、花街と下街を隔てる門があった場所にたどり着く。

 以前はここを通るたびに、不快な思いをしたものだが、その門も闘宴会も、居ない。そのまま通り過ぎると、ツバキが感慨深げに口を開く。


「これが、普通なんですよね……」

「当然だ。街を誰もが自由に行き来することは至って普通のことなんだ。今までが異常だったってことだな」

「ふふ、そうですね……」


 などと言いながら、日が暮れ始め、灯が付き始める下街に続く坂道を下りていく。

 初めてここに来た時は、スリに絡まれたり、闘宴会に絡まれたり、それが嫌だから、上街から一気に下街に駆けてゆけと言われたりと散々だったが、それにも慣れて、最終的にこうやって、何の気兼ねなく、家に帰られることの素晴らしさを実感している。

 そう思っていたが、ふと、思い出したことがあり、俺はツバキに視線を向けた。


「……ツバキ。お前を襲った闘宴会の人間、その顔は覚えているか?」

「何ですか、突然……?」

「いや……約束しただろ。お前にちょっかい出した奴らはぶっ飛ばすって。アイツらを王都に送る前に、けじめってもんはつけておかねえとな」


 真っすぐにツバキを見ながらそう言うと、ツバキは目を見開いて俺を見てきた。騎士団に所属している以上、ツバキには個人的な感情で、争いごとをするなと、ここに来た時に命じた。そんな俺の言葉に納得できなかったツバキに、じゃあ、俺が代わりにぶっ飛ばすと約束した。それを今、思い出した。


 今回の一件で、ツバキはケリスと闘宴会にひどい目に遭わされているというのは、皆の様子を見たり、話しを聞いていて、大体理解している。このまま、王都に奴らを送る前に、ツバキの代わりにその報復をしておかないと気が済まない。

 覚えていたら、そいつらを教えてくれという俺の言葉に、ツバキは黙り、クスっと笑った。


「もう、済んだことですので……」

「いや……それでも、俺の気は済まない。お前に手を出すとどれだけ恐ろしいか、その身に刻んでやらねえとな……」

「リンネも……がんばる!」


 背中から、やる気に満ちた声を上げるリンネ。リンネもツバキのことに関しては、未だ闘宴会に怒っているという。俺と一緒に奴らに制裁を与えたいようだ。

 そんな俺達を見て、ツバキは更に微笑み、口を開く。


「本当に、もう、よろしいのです。お二人に、そう思ってくださっていただけるだけで、私は満足ですから。

 ……ムソウ様と、リンネちゃんのおそばに、変わらず居られることで、充分です」


 最後に、ツバキはリンネの頬に手を当てながら、そう言った。リンネは少し納得いかなそうな顔をしながらも、ツバキの手に触れて、コクっと頷く。


「そうか……お前がそう言うのなら、もう、俺の方からアイツらに干渉するのは辞めておこう」


 リンネの様子を見て、ツバキの意志を知った俺は、闘宴会をぶっ飛ばすということは辞めて気を落ち着かせる。

 ツバキは頷き、更に口を開く。


「それに……闘宴会については、ジゲンさんと、大師範……サネマサ様にひどくお仕置きされたようです……」


 何だよ、それ、と、思わず可笑しくなり笑った。ジゲンについては聞いていたが、サネマサもだったか。アイツとしては、この街をめちゃくちゃにしたというのが許せなかったのだろう。それならついでに牙の旅団の奴らもやっていそうなものだな。

 それで、今までの鬱憤をツバキが晴らせたというのなら、俺達の出る幕は無いなと思い、リンネと頷き合った。


「でも、つぎからは、ツバキおねえちゃんは、リンネといっしょにいてね。まもってあげるから!」

「それは、頼もしいですね。では、私もリンネちゃんをお護り致します」

「安心しろ。二人纏めて、俺が護ってやるからな」


 などと言いながら、笑ってリンネとツバキの頭を撫でると、二人は嬉しそうにしていた。

 その後再び、三人で笑いながら、屋敷へと目指してしていった。


 ◇◇◇


 屋敷に着く頃には、日が段々と傾き始めていた頃だった。

 しかし、門をくぐると、今日も庭に大きなむしろが敷かれ、その上に卓や、座布団などが置かれて、宴会の準備が進んでいる。そばには篝火(かがりび)も焚かれて、そこそこ明るくなっている。


「あ、おかえり~!」

「たまちゃん、ただいま~!」


 卓を拭いていたたまが、俺達に気付くと、リンネは駆け出し、たまと手を取り合って、昨日と同じように、二人でその場で小踊りを始めた。

 これは一体何なんだとツバキに聞いてみたが、ツバキも、さあ、と首を傾げる。どうやら、二人だけで編み出した遊びのようである。

 二人が仲良さげに踊っている様を眺めていると、アザミが寄ってくる。


「おかえいなさいませ、頭領、そして、ツバキさん。ごゆっくり出来ましたでしょうか?」

「ああ。なかなか楽しかったよ」

「おかげさまで、しっかりと休むことが出来ました」


 と言っても、一日中動いては居たがな。まあ、伸び伸びと体を動かして、色々と発散できたというのは確かだから、そこまで疲れは感じていない。

 むしろ、明日からのことを考えると、良い肩慣らしになったから俺としては満足だ。

 ツバキの方も同様に、久しぶりに刀を振るったり、リンネと共に戦ったりして、良い息抜きになったようで、どこかすっきりとした顔立ちになっている。

 今日は無駄な一日では無かったなあと、思っていると、アザミはニコッと笑った。


「それは、何よりです。私も頭領の調子が本当に戻ったようで安心いたしました」


 闘いで傷つき、眠っていた俺を心配してくれていたのは、何もツバキとリンネだけではない。この屋敷に居る全ての人間が、俺のことを心配してくれていたようだ。本当の意味で、いつもの調子に戻ったと言って、アザミは笑っていた。


「ありがとよ。本当に助かっている」

「ふふ、では、次のお給金、期待しておりますよ」


 アザミは、少しいたずらっ子のような顔をして、俺に近寄ってくる。これは一本取られた気分になるな。

 だがまあ、今月は皆頑張ったようだし、元よりそのつもりだったから、苦笑いしながら、アザミに頷いた。


 その後、たまと遊び終えたリンネが戻ってきて、部屋で着替えた後、リンネとツバキは、女中たちの手伝いに向かい、俺は風呂に使う湯を沸かしている所に向かい、その中に湖から汲んできた浄化された水を追加で入れておいた。これで、皆も喜んでくれると嬉しいな。すでに何人か入ったようだが、まあ、良いかと思い、異界の袋から水を出していく。

 そして、ジェシカとコモンに渡す分だけ残し、あとの分を全て出し終えて、今度は食料を保管している倉庫へと向かった。


 精霊人の森にあったように、ここには氷冷鉱石が置かれていて、長く食料を保存しておくことが出来ると共に、万が一のことを考え、異界の袋が一つだけ置かれている。その中に、俺とツバキ、リンネで倒した魔物たちの肉を入れた。

 ヴァルナが言っていたように、これで当分は大丈夫だろう。ふと周りを見てみると、やはり野菜ものが少ないことに気付く。まあ、季節が季節だから、仕方ないことだが、どこかで売っていたら、買っておこうと思い、食糧庫を後にした。


 全ての作業が終わり、俺は一息つこうと居間へと向かう。襖を開ける前から分かる。相変わらず騒がしい。やはり、我が家はこうでないとなと思いながら、襖を開けた。


「ただいま~」


 襖を開けると、居間の中では、いつも通り、闘鬼神に混じりジゲンが居て、他に、トウガとカドル、牙の旅団、十二星天が団欒としている。姿が見えない者も居るが、何人かは未だに戻ってきていないか、屋敷内で作業をしているようだ。

  姿が見えないトウウは、まだ外に居る奴らを呼びに行っているのだろうか。トウケンは、女中たちの手伝いだろうな。アイツらも毎日楽しそうで何よりだな。

 十二星天も、ジェシカとレオパルドが居るだけで、コモンはまだ戻ってきていない。九頭龍はデカいからなと苦笑いしながら、居間に入ると、それぞれ声をかけてきた。



「お、頭領、お疲れっす」

「おう。お前らもお疲れさん」

「息抜きはどうでしたか?」

「ああ。良い一日だったよ」

「リンネちゃんが、初めておししょーさまに勝ったとか言っていたが、何かあったんですかい?」

「ん゛……まあ、後で説明するよ」


 などと言いながら、奥へと進んでいくと、ジゲン達も俺に視線を向ける。


「おかえり、ムソウ殿」

「おお、爺さん。今日も留守をありがとうな」

「なあに、それが儂の役目じゃからのお。それより、刀の試しは上手くいったのか?」

「いやあ……やはり、少し使いづらいかな」

「ふむ……やはり、ムソウ殿の「零の刀」は扱いづらいものなのか……」

「どういう意味だよ……」


 ニコリとするジゲンに少々呆れながら座ると、スッとジェシカが俺の前に茶を出してくる。


「お体の調子はよろしいですか?」

「ああ、問題ない。お前のスキルはすげえな。俺には斬ることしか出来ないからな……」


 攻めに特化したスキルを持つ俺としては、傷ついた仲間を癒す力を持つジェシカのスキルは本当に羨ましいと思っている。俺にも、こういう力を手にすることが出来れば、周りで倒れていく仲間達を助けられるのにといつも思っていた。

 そうなる前に、俺が敵を倒せば良いだけの話だが、それでも追い付かないときは、回復薬を使う。ただ、こちらには数の限りがある。そして、回復の魔法を使える奴も居るが、魔力も有限だ。

 俺も出来ればこういう力が欲しかったなあ呟くと、ジェシカはクスっと笑った。


「ムソウさんは、他にも優れた力をお持ちではないですか。特に神人化するスキルは、私から見たら、羨ましいなと思いますよ」

「何故だ?」

「そこから派生する能力の一つ、天界の波動を操ることが出来る点です。ムソウさんのおつくりになられた薬でどれだけの人間を救うことが出来たか……」


 ジェシカは懐から小瓶を取り出す。その中には、黄金色のほのかに輝く液体が入っていた。どうやらそれは、俺が作った黄金神薬らしい。


「呪いを解くだけではなく、後遺症まで和らげることが出来るのは、この薬だけです。私は呪いを解くということしか出来ないですから」

「それだけでも、充分だと思うが……」

「ふふ、ありがとうございます。ちなみに、ムソウさん。こちらの薬や、ミサキさんにお預けになった、呪殺封の薬をもっと作ることは可能でしょうか?」


 ああ、そう言えばミサキにそんなことを頼んでいたな。一応、あの後ミサキから呪殺封の薬を渡されたジェシカは、薬の量産化に着手したそうだ。

 ただ、現状天界の波動を放出させられるのは、俺だけということで、薬を作ることは困難を極めたという。一応、聖杯から湧き出る聖なる水で、似たようなものは出来たらしいのだが、効能は充分ではないという。

 出来れば、ジェシカに大量に作って欲しいと思っていた俺は頭をひねる。こうなると、俺が今日持って帰った水もあまり役に立たないかな。そんなことを思っていたが、一応と思い、ジェシカの前に、湖の水を差しだした。


「一応、こういうのもあるのだが……」


 不思議そうに、その水を眺めるジェシカたちに、今日のことを説明した。するとジェシカは目を見開き、口を開く。


「……なるほど。確かに、聖杯から出てくる水と似たような感じですね。ただ……」


 やはりと言うか、何と言うか、ジェシカは苦い顔をする。


「やはり、難しいか?」

「ええ。確かに清らかさは感じますが、これではとても……」


 ああ、思っていた通りだったな。聖杯から出る水よりも、かなり聖なる水としては、浄化の力は下らしい。せいぜい汚れを落とす程度に使えるくらいだな。分かっていたことだが、何となく残念な気持ちになってくる。

 まあ、使い道がある分、そこまで落ち込んではいないがな。


「役立てられると思ったんだがな……」

「いえ。これだけのものを生み出すことが出来ること自体が、素晴らしいことだと思います。また、薬を作るときなどに、お力を貸していただけるとこちらとしては嬉しいです」


 それは、つまり、その度に王都に来いと言うのかと聞くと、ジェシカはニッコリと頷く。穏やかな顔をして、意外と人遣いが荒いんだな。その際は、相応の金をとろうと固く決めた俺だった。


 そんなことを思っていると、話を聞いていたカドルとトウガが、ずいっと顔を出し、聖なる水を眺め出した。


「ほう……雷帝龍には聞いていたが、確かにこれは天界の波動だな」

「そうであろう? やはりこの波動は良い。どこか落ち着くな……」


 カドルとトウガはその場で段々と顔を緩めていき、なごみ始めた。そんなトウガにため息をついて、毛づくろいを始めるレオパルド。


「はあ……神獣もそうなると、ただの獣だな」

「あ~……疲れが取れていく……おいレオ、もう少し右側を頼む……」

「おまけに、爺いみてえだな……」


 そう言いながらも、トウガの言うように、手の位置を律義に変えていくレオパルド。その度に、トウガは更にうっとりとし始める。


 流石、魔獣の扱いに慣れている、というか、魔獣のことを専門としている男だ。てきぱきと、道具を使ってトウガの体毛を整えていく。

 コイツの毛は固いのに、よくやるなあと思っていると、ふと、レオパルドの持っていた、たわしに刷毛が付いたような道具が目に留まる。よく見てみると、トウガの抜け毛が、絡みついているようだった。


「なあ、レオ」

「ん? どうした、ムソウ」

「それについているのって、トウガ……天狼の毛だよな?」

「え……ああ、これか。そうだが、これが何だ?」

「それも素材になるのか?」


 そう尋ねると、レオパルドは、絡みついた毛を手に取り、じっくりと眺めた。そして、首を横に振る。


「いや、武具の道具にはならねえな。これっぽっちじゃ、それほどの効果はない」

「そうか……」

「効果があったらどうする気だったんだ……」


 トウガが顔を上げて、そんなことを聞いてくる。どこか不服そうだ。


「いや……そりゃあ、要らねえなら貰おうと思うだろ。だがまあ、使えないのなら、要らねえが……」

「武具の道具にはならねえが、家具や調度品には使えるかもな。天狼の素材を使ってるってだけで、価値が跳ね上がる時もあるからな」


 絡みついた毛を外し、一塊になったのを眺めながら、レオパルドがそう言った。まあ、珍しいものだからそういう使い方もあるのか……。

 俺も、手に取ってよく見てみるが、そこまでの力は感じない。ただ、僅かに魔力のようなものが感じられる程度だ。これくらいだと、まだ武具として使うには足りないとというわけか。

 だが、神獣であるコイツの素材というのは、毛一本から、それこそ爪や、牙に至るまで、全て高値で取引されているという。

 レオパルドとしては、ごみとして捨てていたものが大金に化けるということなので、ありがたいことだとトウガに笑った。

 しかし、トウガは未だに不服そうな顔をして、俺達をジロっと見つめる。


「お前ら……人の抜け毛見て、何笑ってんだ……」

「じゃあ、素材集めということで刈ってやろうか?」

「むう……お前が言うと、冗談に聞こえないな……」


 俺が一言放つと、トウガは黙る。実際、コイツと初めて会った時に、次に俺に噛みついてきたら、皮を剥いで、それで服を作り、アキラに着させると脅してやったが、あの時は動物だから俺が何を言っているか理解しているか怪しいものだったが、今となっては、俺の言葉もそのまま伝わるということで、トウガは顔色を悪くして、そっぽを向く。

 俺は笑い、トウガを撫でた。


「無論、冗談だ。それに、お前のもので何か作る時は、また今度頭を下げて、貰うとする。必要になれば、の話だがな……」

「……ったく」


 トウガはフンッと鼻を鳴らしながら頷く。実際のところ、神獣の素材というのはどういうものか分からないが、そこらの魔物のものよりは良いものが作れると思うので、欲しいかと言われれば、欲しい。


 だが、それはトウガやトウウから偶々抜け落ちた毛や羽を使ってというのは何だか、せこい気がするし、コイツらにも悪いなあと思うのでやらないことにした。


 そんな俺達を見て、レオパルドが寄ってきて、ニカっと笑う。


「本当に仲が良いみたいだな。そんなに良いなら、俺の時みたいに、牙や爪でもやれば良いじゃないか?」

「ん? ああ、アレか。……あの時はお前に世話になったからな。その詫びだ……」


 あっそ、と言って再び、トウガの毛を繕い始めるレオパルド。少し気になり、俺はトウガに聞いてみた。


「お前の世話をしたってどういうことだ? というか、お前らはどうやって出会ったんだ?」


 レオパルドが俺とトウガの関係が分からないように、俺も、コイツらの関係がいまいちわからない。この際に聞いてみると、トウガは遠い目をしながら、口を開く。


「何のことは無い。壊蛇とやり合って、傷ついたところを拾われたってところだ……」


 なんでも、オウキの森や山脈で数千年の長き時を過ごし、人の前に一切姿を見せなかったトウガ達神獣達も、三十年前の壊蛇襲来の折には、人界を護るために、再び大地に姿を現したという。

 しかし、壊蛇の力は予想以上に大きく、トウガ、トウウ、トウケンもその力の前にはボロボロになっていったという。

 そして、このまま肉体が滅びるのを待つだけかと思っていた所に、レオパルドが現れ、三体を介抱したということが、神獣と、レオパルドとの出会いらしい。


「無論、最初は怪しい奴という印象だったが、コイツが使った力……EXスキル、従えしものを見て、俺達は驚いた。それは昔、アキラが使っていたものだったからな。結果的にとはいえ、アキラはコイツに力を託したんだと思ったら、自然と心を許すことが出来た」


 ああ、やはりレオパルドのEXスキルはアキラのものだったか。偶然とはいえ、ボロボロになったトウガ達を助けたのが、アキラのEXスキルを持つレオパルドだったというのは、何となくだが、運命を感じるな。

 トウガ達も同じようなことを思ったらしく、すぐにレオパルドと打ち解け、そのまま付き従うというよりは、友として、コイツに与しているという。

 そして、世話になった礼という名目の、友情の証として、トウガからは牙と爪、トウウからは翼と爪、トウケンからは体毛と爪をそれぞれ贈り、レオパルドはそれを装備品に加工し、常に身に着けているという。


「なるほどな……何か、安心した。お前は俺との一件で、人族のことは苦手だと思っていたからな。この世界でも、アキラとその周りの人間にだけ心を許すと思っていたが……」

「別に、人族は苦手じゃねえよ。俺が苦手なのはお前だけだ」


 笑うトウガの頭を少し小突く。だが、なんだかんだ言っても、トウガ達にもこの世界のこの時代に、心を許せる相手というのが見つかって良かったなと思った。


 すると、トウガはふと、優しい目で俺のことを見てくる。そして、ゆっくりと口を開いた。


「まあ、俺には今まで通りで良いが、リンネには優しくしてやれよ。子供には優しくするもんだ……」

「急に何当たり前のこと言ってんだ。あんないい子を叱るわけないだろ?」


 そう言うと、納得した様子で頷き、トウガは再び、レオパルドの毛づくろいにくつろぎ始めた。

 昨日から今日まで、トウガ達の様子や、リンネを眺めていて、コイツらは本当に仲が良いことに気付く。リンネは、トウガ達を心から信頼し、トウガ達も、リンネのことを可愛く思っているということはすでに分かっている。

 まだ、幼いアイツにも、強い味方が出来てくれて、嬉しいと感じた。


 そして、俺はレオパルドに顔を向ける。俺達が何を話していたのか、聞こえては居なかったようで、不思議そうな顔をしていた。


「何だ? 何を話していたんだ?」

「いや、別に。それよりも……」


 と言って、レオパルドに明日からのことを相談した。トウガ達の討伐依頼に、俺とツバキとリンネが着いていくというものだ。俺も神獣達の闘いが見られるし、神獣達も俺の闘いが見られて丁度いいということと、神獣達の闘いをリンネに参考にさせたいと伝えると、レオパルドはあっさりと頷いてくれた。


「それは構わない。俺もアンタの力を見てみたいし、アンタさえよければ、あの妖狐のことも調査出来るから俺としても嬉しいな」

「分かった。後でリンネに伝えておく……では、よろしくな」

「おう! 明日が楽しみだな……」


 そう言って握手を交わす俺達。ひとまず明日のことは決まった。リンネを調べるということに関しては、後できっちりと説明しておく。どうしても嫌そうなら、少し考え直す必要があるがな。

 しかし、曲がりなりにも十二星天で、魔獣宴という魔物の研究機関を担う男。その辺りは抜け目ないんだなと感じていた。


 そして、ふとジェシカたちを見ると、ジェシカが、俺が持って帰った水が入った小瓶を手に取りながら、カドルと何か話しているのが聞こえる。

 内容は、聖杯に使われる素材の中には龍族から採れる素材と言うものもある。それをどうにかならないかという相談をしているみたいだ。


「ふむ……具体的にはどんな素材なのだ?」

「主に角、爪、牙ですね。ただ、一番いいのは、骨ですが……」

「骨だと!? 無理だ!」


 雷帝龍は嫌そうな顔をする。まあ、当たり前だよな。骨を抜き取るわけにもいかないし。

 ただ、それだと聖杯は今のところいかにして作られているのか疑問になる。

 ジェシカに聞いてみると、エレナが壊蛇との闘いの際に、雷帝龍を始めとした他の龍族から素材を受け取り、それを使っているとのこと。骨に関しては、闘いで傷ついたとある龍族がその時の肉体を捨てて、新しい肉体を構成した時に、得たものだということらしい。


「え、龍族はそんなことも出来るのか?」


 肉体が滅んでも、新たな肉体を得るという龍族の生態に驚いた俺は、カドルにそう尋ねた。

 しかしカドルは、キョトンとした顔になり、目を丸くして、俺の問いに答える。


「ムソウ殿……お忘れか? 我の肉体は、一度滅び、その後、九頭龍のものを使って再構築したことを」

「あ、そう言えばそうだったな……」


 カドルの言葉にハッとする。もうすっかり、普通の龍族の姿なので、忘れていたが、カドルは実質二度、肉体を失っている。

 一度は、牙の旅団の者達の魂を使った九頭龍の核にさせられた時、二度目は、その肉体を俺が倒した時だ。

 その後カドルは、魂を使い、そこらの九頭龍の死骸を寄せ集め、自らの肉体を構築した。そして、俺から出ている天界の波動を浴びて、本来の力を取り戻した。


 あの時は本当に大変だったなと、周りで俺達の話を聞いていた牙の旅団の者達とも頷き合っていると、ふと気づいたことがあるので、カドルに聞いてみた。


「では、一応は龍族の肉体ということになった九頭龍の死骸は使えないのか?」


 雷帝龍が核であった以上は、俺が闘った九頭龍は、魔龍ではなく龍族ということになる。確かに出ている気配は聖なるものと言うにはほど遠いものだったが、俺のスキル、かみごろしも反応していたところから間違いないだろう。

 仮にも、龍族の死骸ということならば、ジェシカの条件に合うものだと思っている。


 そう話すと、雷帝龍は、あ、と言って口を開く。


「なるほど……理屈ではそうなるな。そして、あの死骸にもムソウ殿は天界の波動を当てて浄化していたからな。可能性はあるな……」


 カドルも、俺達の理屈に頷く。ジェシカは先ほどよりは少し元気が出たようで、ニコリと笑っていた。

 これで、聖杯だけではなく、多くの薬を作ることが出来るかも、と呟くジェシカの顔も、レオパルドと同じく、十二星天の一人としての責任感を帯びた顔つきだった。


 邪神大戦で活躍した俺達の仲間の遺志、人界を未来永劫護っていくというものは、今もこうやって継がれているのだなと、かつて、カンナ達と共に戦ったというトウガとカドルと一緒に笑っていた。


 その後も、ジゲン達と共に素材のことを話すついでに、今後の予定について話し合った。

 ジェシカにはアヤメと打ち合わせた通り、明日から貴族たちを王都へと送るようにしてもらう。向こうで何を言うか心配だとジゲンや牙の旅団の皆は苦い顔をする。クレナに住んでいた奴らだから気持ちは大体わかる。

 だが、このままにしておくともっとややこしい事態になりそうだと説き、納得してもらった。


「向こうに送ったら、シンジに全てを任せておけ。多分大丈夫だ」

「え……よろしいのですか?」


 未だに、シンジのことを疑っているという状態のジェシカとレオパルドは心配そうな顔をする。もうそろそろ本当のことを話さないといけないなと思ったが、それはシンキにゆだねているから、俺としてもどうしようもなかった。

 何と言って良いのか分からなかったが、一応昨日も、何も無かっただろと伝えると、渋々ながらも、分かりましたと頷くジェシカ。

 これで、貴族たちの問題は殆ど解決したと言って良いだろう。


 次に、ツバキの報告書についてジゲンとカドルに協力を仰いだ。二人は二つ返事で了承する。ケリスのことについては、一騎士であるツバキと、一冒険者である俺の名前があっても無駄だろう。

 ここは“刀鬼”と雷帝龍の名を大いに利用させてもらおう。

 無論、ジェシカとコモンにも、協力してもらう。サネマサについては、戻ってきたら協力を仰ぐ予定だが、報告書が完成するまでに戻るかどうか微妙なので、別に良いという結論になった。


 最後に、俺の今後について、皆に説明すると共に、皆の今後のことについて、確認した。


「取りあえず、色々と落ち着いたら、かねてからの予定だった、刀精の祠に行こうと思うんだが、祠は無事なんだな?」


 街がこういう状況だからな。正直なところ心配だったが、ジゲンは俺の言葉に頷く。


「うむ。皆の話によれば、無事だそうじゃ。この屋敷の丁度反対側にあるからのお。何とか、あの攻撃の影響を避けられたのじゃろう」


 ジゲンによれば、下街の中心部、上街、花街は被害を被っているが、それより離れた所にある、街のある山の反対側は、ほとんど無事だという。落石などはあるが、前の原型はとどめているらしい。

 よって、祠の方もほとんど影響が無く、下街の住民たちによると無事だという。


「なら、桜が咲く頃にでも、皆で行くか。俺も、この刀の刀精を皆に紹介したいからな」


 俺の刀に宿るエンヤを見たら、皆は何て言うだろうか。考えただけでも楽しくなってくる。ジゲンはもちろん、エンヤのことを知るカドルとトウガは、何か期待するように、俺に頷いた。


「ふむ……それは楽しみじゃの。無間の修復法もついでに分かると良いのお」

「ああ……そうだな」


 正直、期待はしていないがな。ただ、無間の元々の持ち主は、エンヤだ。何か、俺に気付けないことでも教えてくれそうだ。

 それまでは、この斬鬼を使っていこうと、刀の柄を握った。

 すると、ふと、ジェシカとレオパルドが、斬鬼をぼーっと眺めていることに気付く。俺が、首を傾げると、ハッとしたように口を開いた。


「あ、あの……何か?」

「何か? って……こっちの台詞だ。何二人してぼーっとしてんだよ?」

「少し気になっただけだ」


 何か気になるものでもついているのだろうか。刀を眺めるが何もない。一体何なんだろうと思っていると、ジェシカとレオパルドは顔を見合わせて頷き、口を開く。


「あの……ムソウさん」

「俺達も、アンタの刀精に会っても良いか?」


 急に変なことを願い出る二人に更に首を傾げる。

 まあ、トウガ達にも会わせるから、レオパルドは構わないが、ジェシカの報は何故だと思った。ただ、断る理由は無いので、二人の頼みを承諾する。


「ああ、別に構わねえ。ただ、ジェシカの方は、自分の仕事のことをしっかりと整えておけよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

「すまねえな」


 二人はそう言って、頭を下げる。一体何なんだろうかと思ったが、特に気にするようなことでも無いなと思い、俺もそれ以上は追及しなかった。


「それで、祠に行った後は、クレナ以外の領に行って、依頼をこなしたいと思っている。何日か出て、ここに戻ってくるというのを繰り返すか、その度に帰って来るかにしたいが、後者はあまり考えたくないな」


 さて、クレナにとどまらず、他の領に旅をしたいということも伝えた。その方式については、まだ考え中だが、依頼がある度にここを出て、終わったら帰るということはしたくない。

 少なくとも三日ほどは滞在して、ここに帰ってきて、またしばらく自宅で過ごすということをしたいと思っていると、ジゲンに言うと、フッと笑って頷いた。


「まあ、そこはムソウ殿が決めても良い。儂ら闘鬼神は、ムソウ殿に着いていくだけじゃからの」

「留守を任せることになるが、良いのか?」

「なあに、たまと遊ぶ機会が多くなるということじゃろ? それにダイアン殿や、アザミ殿も居る。

 以前と違ってアヤメ達にも自由に会いに行けるからのう。退屈はせんよ」


 これまで以上に、楽しい毎日を過ごせそうだというジゲンは、やはり嬉しそうだ。今回のこともあり、出来るだけこの屋敷に居ようと考えていたのだが、ジゲンの言うように、これからは、この街も一つになっていくこととなる。そうすれば、屋敷の心配も軽減するというものだ。

 皆が、自分の住むところをしっかりと護ってくれるというのなら、俺も自分の思うようにしようということで、これからも旅をしていこうと決めた。


「それで、まずはどこに行くか決めておるのかの?」

「ああ。モンクってところに行くつもりだ」

「モンク……確か、ツバキ殿の故郷じゃったの……なるほど」


 ジゲンの言葉に、俺以外の者達が、ああ、という顔で頷く。何を考えているのか分からないが、俺は即座に否定する。


「いや、何度か仕事をしているグレンって奴に会いに行くだけだ」

「じゃが、ツバキ殿も一緒に行くんじゃろ?」

「ああ。リンネともな」

「……なるほど」


 再び、ジゲンが納得したように頷くと、他の者達も頷く。いつの間にか、闘鬼神の皆のようなことをする、牙の旅団、十二星天、カドル、トウガ。一体、俺の寝ている間か、もしくは、俺が居ない間に何があったのだろうかと、頭を抱える俺だった。


「……で、お前らは今後、どうするんだ? 特に、カドル。お前は雷雲山に戻るのか?」


 次に、今後の皆のことを確認していく。ただ、十二星天の二人は、分かるが、カドルについては謎だ。このままどうするのか聞いておきたい。

 俺の問いにカドルは少しだけ難しそうな顔をする。


「まあ……このまま我が人里に居るというのは避けたいからな。ムソウ殿の言うように、あの山に戻り、静かに過ごすというのが望みではあるが……」


 ああ、やはりカドルも自分のことはよく分かっているか。一応は、神獣達と同じく、太古から生き続けている龍族の一体だ。このまま人族の街に居るということはやはり考えては居ないらしい。

 あり得そうにはないが、雷帝龍の力を求めて、どんな人間が来るかもわからないし、信仰の対象になっても困る。以前と同じように、自らの縄張りとしている雷雲山に戻りたいそうだ。


 だが、雷帝龍の顔色はどこか悪いようだ。そして、何故だか、牙の旅団の者達をチラチラと見ている。一体どうしたのだろうと思っていると、その中の一人、大柄な男コウシが、フッと笑い、口を開く。


「雷帝龍殿。俺達も何となく分かっている。何も気にせず、アンタの思うようにしてくれ」


 コウシがそう言うと、他の者達も頷いた。何のことだと、ジゲンに顔を向けるが、ジゲンも何のことか分からないようで、首を傾げている。どうやら、カドルの鱗を依り代にしている辺り、カドルのことを俺達以上に分かっているようだ。

 カドルは目を見開き、少し黙ってゆっくりと口を開いた。


「うむ……では「その時」までに、各々答えを出していてくれ……」

「おう!」

「分かった。と言っても、もう出ているがな……」


 カドルの言葉に、牙の旅団の者達は頷いた。未だ、首を傾げているジゲンに、俺を襲ってきた武闘家の男ソウマと、槍を持っていたロウがニカっと笑う。


「まあ、いずれ説明するからよ。今は、何の心配もするな」

「ああ。お前も何も気にせず、ここで過ごしていたらいい」

「いや……出来ることなら、きちんと話して欲しいのじゃが……」

「まだ、その時じゃねえってことだよ。いずれ……な」


 困惑するジゲンに、気になる言葉を残し、笑う牙の旅団。どうして、俺やジゲンの周りには、何か重要なことを黙っている人間が多いのだろうかと二人で呆れるように頭を抱える。


 ただ、ジェシカにしろ、シンキにしろ、コモンにしろ、トウガにしろ、そして、牙の旅団にしろ、「その時期」というのが来れば、全てを話してくれるという。

 俺も、内緒にしていることもあることだし、ここは皆のその言葉を信じて、ジゲンは頷いた。


「ふむ……承知した。では、それまでは、皆も頼むぞ」

「「「「おう!」」」」


 ジゲンの言葉に、皆は大きく返事をする。そうは言うものの、ジゲンも楽しそうで何よりだ。本当に、良かったなと笑ってジゲンの肩を叩いた。


 そして、ジェシカとレオパルドについては、予想通りで、ことが落ち着いたら、王都に戻るという。神獣達もレオパルドに着いて、同様に。トウガ達と離れるのは辛いが、トウガ達も自分たちに置かれる状況というのが分かっているらしく、カドルとほとんど同じ理由で、王都に戻るという。


「まあ、偶にリンネ達と遊びに来てくれるだけで俺達は満足だ」

「ああ。王都には何となく行きたくなかったが、お前らが居るのなら、行ってやってもいい」

「フッ……楽しみにしている」


 ついでに、ジェシカの手伝いでもしようかと思いながら、俺はトウガの頭を撫でていた。


 すると、今の襖が開き、リンネとたまが元気よくこちらに駆けよってくる。二人はそれぞれ俺とジゲンの前に立つと、ニッコリと笑った。


「「ごはんできたよ!」」


 二人がそう言うと、居間で団欒としていた皆はゆっくりと立ち上がり、ぞろぞろと部屋から出ていった。

 俺とジゲンは二人の頭を撫でて、それぞれ俺はリンネを、ジゲンはたまを抱える。


「ふむ……では行こうかの」

「コモン様もかえってきたから、はやくいこー!」


 ゆっくりと歩くジゲンをたまは急かしている。やれやれと笑うジゲンを、コウシ達が茶化し始めた。


「ハハッ! こうして見ると、ジロウはそっちの方が良いなあ」

「似合ってるぜ、お爺ちゃん!」

「むう……お前たちにそう言われると、何となく腹が立つのお……」

「そう言うなって。重けりゃ俺が変わろうか?」


 そう言って、ロウはたまに手を伸ばす。するとたまはプイっと身を引いて、


「やー!」


 と、ロウの手を払った。ガクッと肩を落とすロウを見ながら、牙の旅団は更に笑っていた。

 更にやれやれとため息をつくジゲンだったが、しっかりと自分に身を任しているたまを見て、フッと笑い、まるで自分の孫を自慢する爺さんのように、たまをしっかりと抱えて庭へと出ていった。


 そんな皆の様子を見ながら俺達も笑っていた。

 すると、身体を起こしたトウガが、俺の顔を見上げて、フッと笑う。


「似た者同士というのは、やはり仲が良いものなのだな」


 トウガにそう言われて、リンネに視線を移す。リンネは嬉しそうにニコリと笑って、俺の首に手を回し、ギュッと抱きしめてきた。


「かもしれないな……おら、行くぞ」

「はいはい……」


 少し照れ臭くなり、トウガの頭をポンと叩く。トウガは更に笑って頷き、俺達の後を着いてきた。

 廊下に出ると、いつものように、皆思い思いの席に着き、女中たちが忙しそうに、皆に酒を注いでいる。今日の酒は、大銘水だ。それも質が上がった状態のもの。

 疲れをしっかりと落として、明日からの英気をしっかりと養ってほしい。


 ふと見ると、外で作業をしていたコモンも、ギルドに残っていたアヤメやヴァルナたち、そして、ショウブ、シロウもそれぞれの自警団を連れて、来ているようだった。

 コモンは、何か白くて大きなものを、目を輝かせて、ジェシカとレオパルドに興奮気味に見せつけて何か言っていた。恐らく、あれは九頭龍の素材だろう。何かまた、面白いことでも見つけたのだろうか。ひょっとしたら、先ほど俺達が話していたことかも知れない。

 それだったら嬉しいが、相変わらずの無邪気さに何となく面白いなと思ってしまった。


 その後、俺はいつものように、皆の正面に座った。そして、リンネはたまやジゲンが居るところに移動する。今日もまた、一人で呑むことになるのかと思っていると、俺の両隣に来た者達が居た。そいつらは、その場に座ると、俺を見てニカっと笑う。


「今日も頭領が寂しそうだったんで、来ましたっす!」

「まあ……偶には良いかなってね……」

「今晩は、よろしくお願いします」


 それは、ダイアン、リア、カサネの三人だった。珍しいこともあるんだなと思い、三人の盃に酒を注ぎながら笑った。


「良い部下を持って、俺は幸せ者だな……」


 ボソッと呟くと、皆は更に嬉しそうな顔をした。


 そして、皆に飲み物が行き渡ったことを確認し、俺は立ち上がり、乾杯の音頭をとった。


「では……今日も皆、お疲れ! 乾杯!」

「「「「「乾杯!!!」」」」」


 こうして、今日も楽しい宴会が始まっていった……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ