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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
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第250話―狩り勝負の結果が分かる―

 次にアヤメは今回の事件の中心に立っていた俺への処遇について説明を始めた。

 と言っても、これに関しては、アヤメの手に収まるものでは無く、現状は、これからツバキが提出する報告書などを元に、もろもろの情報から、今回の事件の正否を王都が判断し、その後、俺やジゲンの処遇が決まることになるという。

 結局、ジゲンも巻き込んでしまうのかと頭を抱えていると、アヤメは首を横に振る。


「叔父貴は恐らく大丈夫だ。今の段階でも、何も言われていない。それに、過去の功績も多いからな。流石の王都も悪いようにはしないだろう」


 仮に、ケリスを斬ったジゲンを処断しようものなら、既にその通達くらいあるはずだ。それが無いのは、過去のジゲンの活躍を鑑みて、王都が判断を下せづらいということと、今回、屋敷に残り、ジゲンと共に戦ったジェシカが、ジゲンのことを良いように報告したおかげというところが大きいとアヤメは語る。

 だから、ジゲンに関しては、何も心配が無いということが分かり、俺は安心した。


 しかし、俺に関しては、ほとんどよく分からないらしい。俺は迷い人で、更に今日まで目立たずこの世界で過ごしてきたおかげで、色々やってきたが、王都が把握し、認められるほどの功績はそこまで無いと言っても良い。

 正直な話、災害級以上を倒すことが出来る、ただの力を持った怪しい奴としか思われていないという。

 まあ、マシロの呪いの件も、グリドリの森の件も、シンキは知らなかったようだからな。言われてみればそうかと思い、これに関しては、シンキの報を待つしかないということになった。


「まあ、それに関しては、ほとんど俺が悪いから良いんだがな」

「目立たないようにしようというのが、裏目に出るとは思わなかったな……。

 しかし、シンジとの面会は上手くいったのだろう? 何があったんだ?」

「それに関してはおいおい話すが、取りあえず、アイツを信じるしかないってことだな……」


 ならば、良いやと茶をすする。昨日の感じでは、シンキが俺を騙しているという雰囲気でも無かったしな。きっと大丈夫だろう。


 シンキのことが未だに分からない様子のアヤメとツバキは顔を見合わせながら不思議そうな顔をしていた。だが、すぐに何かに納得したように頷き、俺に視線を移す。


「まあ、昨日の様子を見て、シンジもムソウと似た所があるってことに気付いたからな。似た者同士で大丈夫ってところか」

「その隙を突かれなければ、良いのですがね……」


 何とも微妙な気持ちになることを言う二人。そんなわけないだろうとツバキを小突いた。


 その後は、俺の冒険者としての復帰について聞いてくるアヤメに、いつでも大丈夫だと伝える。明日から、肩慣らしも兼ねてレオパルドたちについて依頼をこなすと伝えると、アヤメは承諾した。

 そして、ギルドが以前のような機能を取り戻すまでにはどのくらいかかるかと確認したところ、正直に言えば、既に回復はしているそうだ。

 ならば、明日からは今まで通りに過ごそうということで、話は纏まる。


 最後に、捕らえている闘宴会や、今のところ十二星天が管理している貴族たちについてだが、これについては、近々、王都へ送るようにと通達がシンジからあったらしい。仕事が早いな、アイツ。

 まあ、闘宴会はまだしも、貴族の方は、王都に家族が居て、主人が心配だという声が、王の元に殺到していたという。

 そういった者達を鎮めるためにも至急貴族たちを送還させよとのことらしいので、取りあえずそれは、転送魔法が使える十二星天に頼むということになった。


 さて、大体の確認したい用件は終わり、俺達は茶を飲みながら、しばし談笑する。この際に、呪いの後遺症についてアヤメに確認してみたが、皆が言うように、そこまでの症状は感じなかったとのことだ。

 俺の薬が効いたのか、ジェシカの治癒が功を奏したのか定かではないが、アヤメはフッと笑って、口を開いた。


「確かにお前の屋敷を襲ったり、刀を向けたことへの罪悪感とかは強かったが、それ以上に嬉しいことがあったからな……」

「牙の旅団と、爺さん……いや、ジロウのことか?」

「ああ……俺もようやく、皆に言いたかったことが言えた……それで、満足だ」


 アヤメは、ジゲンが呪いにかかり、牙の旅団が全滅する前に、見送った最後の一人だからな。

 コイツも、こう見えて思うところはあったのだろう。牙の旅団が帰ってきて、長年ため込んでいた思いというものも、どこかに消え去った感覚があり、肩が軽くなったと語った。


「まあ、その分ますます頑張らねえとって思えるようにもなったがな」

「期待してるぜ、クレナ領主さん」

「せめて、ワイツ様のように、他領からも認められるようになることが目標ですね」


 ツバキの一言にフンッと鼻を鳴らし、


「性に合わねえ」


 と言って、背もたれにドカッと身を任せるアヤメ。この調子では確かに無理だろうなと俺とツバキは笑っていた。


 すると突然、部屋の中に一人の男の声が響く。


「ああ……ジロウさんに似たのは、良いことなのか、悪いことなのか分からなくなってきました……」


 俺達は驚き、声のする方に顔を向けた。すると、戸の所に、いつの間にかショウブと、黒いローブを纏い、眼鏡をかけた若い男が頭を抱えて立っている。

 牙の旅団の一人、タツミだ。タツミは顔に手を当てながらもどこか嬉しそうな顔で、アヤメを眺める。


「タ……タツミさん、何時から?」


 アヤメはスッと立ち上がり、姿勢を正した。やはり、相手が牙の旅団だと、アヤメはこうなってしまうのかと少し新鮮な気持ちになって俺とツバキは黙って、その光景を眺めていた。


「つい先ほどです。試しにと隠蔽スキルを使って入ったのですが、何やら面白い話をしておりましたので、ずっと聞いていましたが……」


 タツミは、ショウブの頭にポンと手を置いて、ニコリと笑う。見た目は少女でも、中身は三十だぞと思っていたが、ショウブもまんざらでも無いようで、ジッとしている。


 ……いや、よく見ると肩で息をしていて、疲れ切った様子で動けないようだ。聞けば、今日の仕事が終わった後に、タツミがショウブに稽古をつけていたのだという。

 ああ、そういえば、ショウブの得物である鉄扇は、タツミのものだったな。それでか……。

 しかし、どんな修行をしたのだろうか。あのショウブが口を開くどころか、思うように動けないまでになるとは。

 ただ、顔は心底嫌そうな感じである。敬う相手でも、されると嬉しくないことは嬉しくないのだなと、感じた。


 アヤメはタツミの言葉を聞き、深くため息を吐く。


「はあ……趣味が悪いなあ……タツミさんこそ、叔父貴みてえじゃねえか」

「それは誉め言葉として受け取っておきますね……それより、ヴァルナさんの作業が済んだみたいですよ」


 タツミは窓の外を指さす。どうやら、俺達の狩った魔物の査定が終わったらしい。俺はリンネを肩に乗せて立った。


「終わったか。じゃあ、俺達は行くか……」

「あ、ムソウさん」


 そのまま、アヤメに一言言って、部屋を出ようとすると、タツミに呼び止められる。


「あ? 何だよ?」

「いえ、この度のこと、きちんとお礼をしていなかったので……」

「ああ、もう良いよ。爺さんからも貰ったし、エンミとシズネからも頭を下げられたからな。

 それより、俺達の討伐した魔物はどうだった? お前らといい勝負か?」


 狩った魔物について、かつてクレナ最強と呼ばれた一人に感想を求めて尋ねてみた。タツミは一瞬ぽかんとした表情を浮かべながらも、すぐにクスっと笑い、口を開く。


「……そうですね……まあ、僕たちに比べると、もう少しと言ったところでしょうか……」

「お、そうか。なら、俺ももう少し頑張らねえとな」


 そう言いながら笑っていると、アヤメがニカっと笑って口を開く。


「お前はこれ以上頑張るな。仕事を増やすんじゃねえ」


 またしても、方々への報告や、事後処理に追われてしまうと嘆くアヤメにハイハイと適当に頷いた。

 そして、三人と分かれて、ツバキと共に部屋を出る。ツバキはどこか嬉しそうな表情で、俺の顔を覗き込んできた。


「では、ムソウ様。私達が倒した魔物を見ても、驚かないでくださいね」


 よほど自信があるのだな。湖に居た時からそんなことばかり言っている。災害級でも倒したかと思ったが、流石にそれは無いだろうな。

 だが、それでも厄介な相手をリンネと二人で倒せたというのが、本当に嬉しいようだった。肩に乗るリンネを見ても、どこか誇らしげに胸を張っている。

 しかし、俺にも迷彩龍という切り札が居る。俺は自信満々という表情のツバキとリンネの頭を人差し指で突いて笑った。


「吠え面、かくんじゃねえぞ」

「望むところです!」

「キュウ!」


 なおも自慢げな二人を眺めながら、狩った魔物が楽しみになってきた俺は、二人と共に、中庭へと向かった。


 ◇◇◇


 ムソウ達が去った執務室には、アヤメ、ショウブ、そしてタツミが残っていた。アヤメは、二人に椅子に座るようにと促す。

 タツミとショウブは頷き、アヤメの前に腰を下ろした。ドサっと大きな音を立てて座り込んだショウブはため息をつく。


「はあ~……ようやく……体が動いてきたわい……タツミ殿の修行は……ジロウのものよりも……辛いのう……」


 仕事を終えた後、鉄扇を用いて魔法を操ることばかりしていたので、ショウブの魔力は口もきけぬほど枯渇寸前だった。

 今ようやく魔力が戻ってきて、少しばかり体を動かせるようになったショウブはゆっくりと茶をすする。

 それを見ていたタツミはにこやかな顔をして、笑っていた。


「しかし、ショウブちゃんも基礎はしっかりと出来ていましたよ。ジロウさんの教え方が良かったのですかね……」


 そう言いながら、タツミはショウブの頭を再び撫でる。するとショウブは嫌そうな顔をして、タツミにジトっと重たい視線を向ける。


「タツミ殿……すまぬが、妾ももういい歳じゃ。そのようなことをされても困るのじゃが……」

「僕にとっては、まだ小さな女の子ですが……」

「むう……」


 なおも頭を撫で続けるタツミに、もはや何も言うことは無いなと観念したショウブはそのまま黙って茶をすすった。


 そんな二人を見て、アヤメはフッと笑い、口を開く。


「面白えな……叔父貴たちの中でも一番の若輩だったタツミさんがそういう感じになるなんてな」


 幼い頃より、牙の旅団をずっと見てきて、その中の人間関係なども近くで感じていたアヤメは、皆の下で傭兵としての研鑽を積んでいた、かつてのタツミを思い出しながら、二人を眺めていた。

 実は、アヤメとタツミは、そこまで歳が離れているというわけではない。

 しかし、同年代として、自らが憧れ、好きだった牙の旅団に入り、活躍していたタツミを見て、アヤメも頑張ろうと思っていたものである。

 タツミも、自分と少ししか歳が変わらないにも関わらず領主をすることになったアヤメに対して、当時は感嘆していたという関係だった。

 復活を遂げてから、今日まで、お互いよくぞここまで成長したものだなと、心の中で思っていた。


 しかし、タツミは少し残念そうな顔をして、アヤメに視線を移す。


「ですが、僕は昔のままのアヤメさんの方が良かったですね。なんと言うか、礼儀正しくて、女の子らしくて……

 今のアヤメさんは、本当にかつてのジロウさんみたいで、どうも……」


 頭を抱えるタツミとは裏腹に、アヤメは嬉しそうな顔をした。


「フッ、それは嬉しいな。叔父貴は今でも俺の憧れだからな。……まあ、少しだけ好々爺になってしまい、昔のような迫力がないのが残念と言ったところか……。

 ……だが、俺ははっきりと覚えている。呪われた俺達を止めた叔父貴の闘いをな……」


 アヤメの言葉に、同じくジゲンに気絶させられたショウブは静かに頷く。


「……未だ“刀鬼”は健在じゃったのう……妾には何が何だか……」


 少し身を震わせるショウブ。呪われていても、記憶は残っている。いくら、自分たちを止めるためとは言え、あそこまで本気になれるものなのかと疑問に思うほどだった。

 それこそ、自分たちが同じ状況になっても、ジゲンのように闘えるかと言われれば、まず無理だろう。

 口では言いたくないし、認めたくないが、戦意を喪失し、立ち尽くすだけになってしまっていたシロウのようになってしまうと、アヤメとショウブは実感していた。


「まあ、僕もジロウさんが何も変わらない所を目撃しましたからね……」


 タツミも、ケリスと闘った時のことを振り返る。あの頃よりも老いていたとはいえ、あの頃とほとんど同じ力を持っていた自分たちとも、肩を並べるか、それ以上の闘いをしていたジゲン。

 それを見たタツミは、外見も、雰囲気も変わってはいたが、中身は昔のままだと、ある意味安心したそうだった。


「確かに、僕にとっても未だにジロウさんは、憧れですね……しかし、アヤメさんもそうなる必要は無いのでは?」

「いやいや。領主やりながら、ギルド支部長というのもなかなか大変だからな。やはり、貫禄というものは欲しい所だ。他の奴らに舐められたら、終わりだからな」

「……そうですか。はあ……貴女は本当に、ジロウさんの意志をしっかりと受け継いだようですね……何となく安心しました」


 どこか諦めたように、タツミは項垂れる。皆から聞いた、“暴れ姫武将”というアヤメの異名。どうか間違っていてくれと思っていたのだが、むしろ本人がそう呼ばれることを望んでいるという雰囲気に、もはや何も言えなかった。


 しかし、そうは言っても、心のどこかで懐かしさと共に、嬉しいような気持ちもしていた。


「……まあ、どれだけデカい態度取ろうと、強くなろうと、敵いそうにない奴も居るがな……」


 と、アヤメはそう言って、遠い目をする。隣に居たショウブも、うんうんと頷いていた。

 誰のことを言っているのか、すぐに分かったタツミはクスっと笑い、頷いた。


「……そうみたいですね。あのお屋敷に住んでいる皆さんも口を揃えてこうおっしゃっていました。「うちの頭領は“死神”だ」って……。

 ですが、そんなに恐ろしい方なのですか? 先ほどの感じでは、そこまで、恐ろしいとは思いませんでした。むしろ、心の広い方だと……」

「信じられないなら、今度、アイツを怒らせてみろよ。俺達の言うことが分かるはずだ……」

「ハハハ……遠慮します……」


 せっかく蘇ったのだから、命の危険に及ぶことは無い。あの男の強さは、既に肌で感じている。というか、昨日のコウシ達への対応を見たばかりだ。

 規格外の力を持つ男を怒らせるとどういうことになるのか。それは想像するに難くないと思い、タツミはアヤメの提案を否定した。それと同時に、やはり、ムソウという男は面白い人間だと感じた。


 皆から恐れられるような圧倒的な力を持ちながらも、ここ数日間のムソウと、ムソウを取り巻く者達を見て、その本質は“死神”と呼ばれるには、あまりにも優しく、おおらかで、穏やかな気配を漂わせているということに気付いていた。

 無論、それはアヤメやショウブも同じようで、先ほどまでのやり取りを見ながら、どこか、自分たちの姿を重ね合わせるようになっていた。


 ―ジロウさんも、僕たちには優しい方でしたね……―


 今のムソウの姿は、そのまま、かつてのジゲンのようだと感じている。だからこそ、屋敷に居る者達も、ジゲンも、シロウも、アヤメたちも、十二星天も、ムソウに安心して、気さくに接することが出来ている。

 タツミは、あの人になら自分たちが居なくてもクレナを任せることが出来る。残した者達や、自分たちの親友とその家族を任せることが出来ると思い、静かに笑っていた……。


 ◇◇◇


 さて、俺達はアヤメたちと分かれた後、そのままヴァルナの待つ、闘技場に向かった。

 階段を下りて、そのまま闘技場へと続く大きな扉を開く。すると、俺達が狩った魔物の死骸が並んでいて、その先にヴァルナが立っていた。

 ヴァルナは、並んでいる死骸の一番奥の魔物の間に立って、俺達にニカっと笑う。


「お、来たか。お二人さん、また、良い素材を手に入れたようだな」

「……ああ」

「そう……みたいですね……」

「キュウ……」


 俺達はヴァルナの両脇に置かれている死骸を見て、お互いに言葉を失った。その時俺は、何故、今までツバキとリンネが得意そうだったのか分かった気がした。


 そこに置かれていたのは、二つとも、同じ魔物……つまり、迷彩龍の死骸だった。どうやら、あの森には、二体の迷彩龍が居て、それぞれを俺とツバキたちが倒したようである。

 お互いに、同じ魔物を狩っていたにも関わらず、自分が倒した魔物が、より希少で、強力だと思っていただけに、何とも恥ずかしい思いになり、俺とツバキは言葉を失った。


 しかし、そんな俺達とは裏腹に、ヴァルナは上機嫌な様子で、口を開く。


「迷彩龍二体か。しかも、両方とも状態が良い。この分だと核も残っているだろうからな。良い装備が作れそうだ。

 他は、オーク、バースト・ボア、闘鶏に……コイツは剣牛か。なるほど……これは確かに、当分は食うことに困らねえな……ん? どうしたんだ?」


 口をあんぐりと開けて、お互いが倒した迷彩龍を眺めている俺とツバキを、ヴァルナが覗き込んできた。

 俺はひとまずヴァルナは無視して、ツバキの方を向く。


「もう一体居たのか……」

「ですね……ということは他にも、居たのでしょうか?」

「う~ん……流石にそれは無いと思う。それらしい気配は無かったからな……」


 俺達が狩った以外にも、居るとなれば、一大事だ。迷彩龍は姿を隠す上に、ワイバーンのように気性も荒く、強力な熱線を吐くからな。恐らく超級に位置する魔物だろう。

 だが、俺達が湖から去ろうとしたとき、念の為に森の中の気配を探ったりはしてみたが、それらしい気配は無かった。まあ、迷彩龍は隠密に長けた魔物で、そもそもそこまで強い気配を感じないから、確実に居ないということは定かではないがな。


「しかし、お前ら、よく見つけられたな……」

「ええ。それはリンネちゃんのおかげですね」

「キュウ!」


 俺でも発見することに苦労する迷彩龍を、ツバキたちが見つけて倒せたのは、リンネが鼻を使って探知することが出来たから、ということらしい。

 居場所が分かった上で、リンネの幻覚を使い、迷彩龍を慌てさせ、姿が現れた所を二人で倒したという。


 なるほど。迷彩龍が姿を消すことが出来るのは、不可視の外殻を用いて、姿を見えづらくするという特性から可能なことであって、隠蔽スキルを使っているわけではない。ゆえに匂いは消えなかったということか。

 だとすれば、他に迷彩龍が居たなら、リンネの鼻に引っ掛かると思うのだが、そういうこともなかった。

 となれば、あの森には、他に迷彩龍は居ないという結論になっても良いな。


 俺はそう思い、リンネの頭を撫でる。


「大したもんだ」

「キュウ~……」


 肩の上で、うっとりとするリンネを見て、未だ不思議そうな顔をしているヴァルナの方に向き直る。


「ああ、すまないな。待たせてしまった」

「ん? そっちの話は終わったのか。なら良いが……それで、確かお前らって狩り勝負をしていたんだよな?」

「ええ。こうして見ると、数は互角といったところでしょうか?」


 並べられた死骸を、眺めながめているツバキに、ヴァルナは頷く。


「ああ。僅差でムソウが多いが、食用として使える肉の量は互角だな」

「なるほど……では、より手ごわい相手をしたのはどっちだ?」


 量は同じくらいなので、ここからはどちらが強い魔物を倒したのかというところで、勝敗を決めることにする。ヴァルナは腕を組んで、う~ん……と悩んだ後、口を開く。


「それも互角だな。迷彩龍の他にムソウが倒したのは、オーク、闘鶏、大王オオトカゲが主だな。どれも、下級から中級に位置する魔物だ。

 一方、騎士の嬢ちゃんが倒した魔物は、オークは一緒だが、剣牛も居る。コイツも中級の魔物だが、それが十体以上か。まさか、群れを殲滅したのか?」


 ヴァルナは、普通の牛よりもガタイが大きく、頭から真っすぐ鋭利な刃物のような、長い角を伸ばしている魔物の死骸を指している。アイツが、剣牛らしい。見たまんまだな。


 ツバキはヴァルナの問いに、首を傾げる。


「どうでしょう……こちらもそばに居たものは全て倒したはずです……ですよね? リンネちゃん」

「キュウ!」


 ツバキの問いかけに、リンネは頷く。その時も、鼻を使って、辺りの様子を探っていたのだろうな。それで、他に居る気配が無かったということらしい。


 むう……周囲の臭いを探り、魔物が居るかどうか探知できるリンネが、ツバキ側についていた以上、やはり俺は不利だったのか。ただ、それでも量が互角だったということで、俺の力もまだまだ、衰えているわけではないということを確認できたし、別に良いか。


 それで、狩り勝負の結果はどうなのかというと、ヴァルナは、双方の倒した魔物たちを眺めて、答えに行きついたように頷く。


「よし……結果は出た。どちらが、より強い相手をしたかで勝敗を決める……で、良いんだよな?」

「ああ、それで問題ない」


 俺達が頷くと、ヴァルナはスッと手を上げる。


「勝者は……」


 そして、ヴァルナはスッと手を下す。


「騎士の嬢ちゃんと、妖狐だ!」


 ヴァルナは、ニッと笑って、ツバキを指した。


 ツバキは拳を握って、嬉しそうにしている。すると、リンネが俺の肩からツバキに飛び移った。


「キュウ~!」

「ええ、やりましたね! リンネちゃん! あなたのおかげですよ!」


 ツバキはリンネを抱えて、そのまま頭を撫でまわし、二人で喜びを分かち合っている。


「……勝因は?」


 いまいちツバキたち勝ったと判断を下した理由が分からず、俺は頭を抱えながら、ヴァルナに問うた。

 すると、ヴァルナは並べられた魔物たちを指しながら口を開く。


「より手ごわい相手を倒した方の勝ちって、お前は言ったな? なら、嬢ちゃんたちの勝ちだ。何故なら、コイツらの相手くらい、お前なら余裕だろ?

 剣牛ってのは、一頭ならまだしも、群れで襲われるとなると、そこらの冒険者でも多少は手こずるものだからな。それをこんなにも……。

 お前と明らかに力量が劣っているはずの二人が、お前と同じくらいの量を狩ってきたというのも、評価されるべき点だな」


 むう……ヴァルナから語られるツバキたちの勝因に何となく納得してしまい、ぐうの音も出ない。

 ツバキとリンネも、その通りですね、という顔をして、得意げに頷いている。


 ああ、これならもう少しだけ狩っておくべきだったなと思っていると、更にヴァルナは続ける。


「それから、食用としての量は同じくらいだが、素材としての量は、嬢ちゃんたちの方が多いな。これも、勝因の一つと言えるだろう。

 そこで、相談なんだが、幾つか貰っていっても良いか?」


 ヴァルナは、金づちのようなもので、剣牛の角をコンコンと叩いたり、虫眼鏡のようなもので、迷彩龍の外殻などを確かめながら、俺達にそう尋ねてきた。


「まあ、それくらいは構わないが、迷彩龍の素材は少しうちが貰っていきたい。珍しいものなのだからな」

「ああ。それはもちろんだ。じゃあ、食えるところと、お前らの装備の分は渡して、それ以外はこちらで買い取るとしよう。また、金は館長にでも渡しておく」


 俺とツバキは分かったと頷く。その後、ヴァルナは何人かの作業員を呼びに行き、魔物の死骸を解体し始めた。


 そして、勝者であるツバキとリンネは目を輝かせて、俺の顔を覗き込んできた。


「ふふっ、ムソウ様に勝つことが出来ましたよ」

「みたいだな……何となく悔しいぞ」

「ですが、これもほとんど、リンネちゃんのおかげですけど……」

「キュウッ!」

「そうか。それは、よくやったな。だが、具体的にはどうやったんだ?」


 解体されていく魔物たちを眺めながら、そう尋ねると、ツバキはクスっと笑う。


「私が、スキルで動きを止めた隙に、リンネちゃんに頑張ってもらいました。まさしく、騎士の戦い方というものですね」


 ツバキは、例のEXスキルを使って、見えない迷彩龍の攻撃を防いだり、オークや剣牛の群れに囲まれた時も、例の障壁を円状に張って身を護っていたという。

 そして、魔物たちからの意識をこちらに向けている隙に、リンネに倒してもらっていたとのことだ。


「ああ、なるほど……で、俺はお前らの願い事を叶えないといけないって約束だったな?」


 そう言うと、ツバキは意外だという顔をした。


「あら、覚えていらっしゃったのですね。ムソウ様にしては珍しい……」


 正直に言えば、つい先ほどまで忘れていたがな。俺が勝っていたのだとしたら、そのままうやむやにして、無かったことに出来たのだが、ツバキに負けたと分かった瞬間、そういえば、何故狩り勝負になったのかということを思い出し、勝負の条件のことも思い出していた。

 こういう場合、ツバキから言われるよりも、自分から切り出した方が気が楽そうだなと思い、頭を掻く。


「まあ、約束だからな。そこはきちんとするよ……で?」


 早く願い事を言えと促すと、ツバキは口元に指を当てて、宙を見上げる。


「う~ん……そうですね……あ、そうだ」


 と言って、ツバキはフッと笑い、肩に乗っていたリンネを下し、獣人の姿になるように命ずる。リンネは不思議そうな顔をしながらも、獣人の姿となって、ツバキの顔を見上げた。


「なにー? おねえちゃん」

「ムソウ様へのお願い事は、リンネちゃんが言ってください。今日頑張ったご褒美ですよ」


 ツバキは優しく笑って、リンネの頭を撫でた。すると、リンネは尻尾を振って顔いっぱいに笑顔を向ける。


「え、いいの~!?」

「ええ。先ほど申しましたが、今日一番頑張ったのはリンネちゃんですからね。ご褒美です」


 ツバキがそう言うと、リンネはやったーと、両手を上げて喜ぶ。

 ご褒美か……ツバキらしいなと思いつつ、俺も思い出したことがあったので、リンネの頭を撫でながら、口を開く。


「……そういや、屋敷を護るために闘ってくれたことへの褒美もまだだったな。その分も合わせて、三つまで願いを叶えてやるぞ」

「ほんと~!? わ~い!」


 更に喜ぶリンネ。三つでは少ないかなと思ったが、これだけ喜んでいるのなら良いやと思い、リンネの願い事を叶えることにした。


「じゃあ、リンネ。俺に何を願う?」

「んーとねー……」


 リンネは先ほどのツバキのように、口元に指を置いて、考え事を始めた。

 そして、あ! と言って、口を開く。


「あのねー、おししょーさまのおりょうりがたべたい!」


 開口一番、リンネは俺の手料理を所望する。リンネらしくて良いなとは思うし、そういえば、簡単なものは作ったことがあるが、料理と呼べるような出来のものは作ったことが無かったなと思い、頷く。


「そんなので良いなら、お安い御用だ。明日にでも作ってやるよ」

「やった~!」

「ふふ、楽しみですね」


 ツバキも俺の方を向いて、喜んでいる。まあ、リンネにだけ振舞うというのも、もったいないしな。久しぶりに、俺が直々に鍋を振るうとしよう。


「よし……一つ目はそれでいいな。後二つはどうする?」

「んーとねー……じゃあ、あたらしいきものがほしい!」


 リンネは目を輝かせて二つ目の願い事をしてきた。着物くらいなら、なんでも買ってやろうと思うし、コモンも居ることだから、楽そうだと思い、俺は頷く。


「分かった。後でコモンに頼んで……と、そういえば、お前の着るものってどういう仕組みになってんだ?」


 リンネが今着ている白い着物は元々持っていたのか、リンネが初めて獣人化した時から着ていたもので、俺やツバキが用意したものではない。

 獣の姿の時は、これが消えていて、獣人や、普通の少女の姿になる時にだけ、現れるものだ。


 そう言えば、ミサキの四神たちも同じ感じだったな。魔物の姿から、人の姿になったとき、どこからともなく、皆着物を着ていた。脱ぐことも出来るようだし、一体これらの着物はどうなっているのかと思い、聞いてみると、リンネは自らの着物を掴みながら、俺達に説明してくれた。


「これはねー、リンネのおけけなの」

「おけけ? ……ああ、毛のことか。……え、じゃあ、身体にくっついているのか?」

「ううん。おけけをきもののかたちにして、きてるの」


 リンネ曰く、獣人化出来る魔物が、着物を着ている場合、それは自らの体毛を変化させて、纏っているだけの状態のことを指しているらしい。

 その場合、獣人化した時は着物として存在することが出来るが、獣の姿になると、その着物も、身体の一部に戻ったり、あるいは魔力となって、取り込まれるのだそうだと。

 ああ、だから高天ヶ原で働いていた時は、綺麗な着物を着ることが出来たというわけか。また一つリンネのことが勉強できた。


「だが、それだとせっかく買ってやる着物も、大きな姿になったら、破れるんじゃないか?」

「うーんとね……」


 リンネは更に獣人化した時の着物について説明する。普通に人が着るような着物は確かに、身体の大きさに対応できず、その場で破れたり、破損することもあるが、獣人化する魔物用の着物というものもあるらしい。


 それは、ある特殊な魔物や、鉱物を用いて作ったもので、その着物があれば、魔物の姿に戻っても、破れない……というか、魔物の力の一部となって、体内に吸収されるという。

 そして、再び獣人化すると、その着物は再び、身体の外に現れるというらしい。

 どうやら、リンネはその着物が欲しいようだ。どこで、そんなこと習ったんだと聞くと、コモンや、レオパルド、それにトウガから聞いたらしい。

 現在着ている白衣を見回しながらリンネは少し落ち込んだ様子で口を開く。


「これもすきなんだけど、リンネも、みんなみたいに、いろんなふくがきたいなーって……」


 だめ? と言わんばかりに俺の顔を覗き込むリンネ。神獣とはいえ、やはりリンネも女の子だ。多少なりとも、おしゃれがしたいのだなと思い、リンネの頭を撫でながら、頷く。


「分かった。後でコモンに相談する。そして、どんなものが良いのかは……ツバキ、任せて良いか? この世界の流行とか、俺は知らないからな」

「ええ、もちろんです。リンネちゃんが気に入るように、私もお手伝いいたしますね」

「わ~い!」


 リンネは両手を上げて喜んでいる。これに関しては、ツバキとコモンに一任しよう。正直、俺にはどうすることも出来ないからな。飯は作れても、着物は流石に無理だ。


 それに、未だに、この世界ではどんなものがお洒落なのかということも、分からない。……いや、元々俺はそういうのに疎いからな。何せ、リンネは何を着てもかわいいし、サヤもかわいかったからな。変なのでは無ければ、何でも良いはずだと言ってしまいそうだ。

 しかし、サヤと同じく、リンネもそれでは納得いかないだろう。

 ここは、同じ女のツバキや、アザミあたりにでも協力してもらおうと決めた。


「さて、リンネちゃん、最後のお願いはどういたしますか?」


 ツバキはリンネの顔を覗き込む。ここまで、食べることと、着るものということなので、衣食住のお願いだから、最後は住で、リンネだけの部屋が欲しいとかだろうかな。

 何とも可愛らしいお願いばかりで、ほっこりするなあと思っていると、リンネは、ハッとした様子で口を開く。


「おししょーさま、なんでもきいてくれる?」

「ん? 何だ、突然。先ほども言ったが、約束だからな。ちゃんと叶えてやるよ」

「ほんと~? じゃあ……」


 リンネはニコリと笑って、俺とツバキの手を取った。


「きょうはみんなでおふろにはいりたい!」






「……え?」


 突然放たれたリンネのお願いに戸惑いを隠せず狼狽える俺。リンネはニコニコと満面の笑みを浮かべ、隣に居たツバキもまた、ぱあっと表情を輝かせて、こちらを見てくる。


 俺は、頭を抱えながら、再度リンネに確認する。


「もう一度聞こうか……何したいって?」

「きょうは、おししょーさまとおねえちゃんといっしょにおふろはいりたい!」

「俺だけじゃ駄目なのか?」

「だめ~! さんにんいっしょ!」

「いや、さっき湖に皆で入っただろ? それで満足――」

「い~や! いっしょがいい!」


 むう……何とかリンネの願い事を変えさせようとしたのだが、かたくなに意志を曲げないようだ。自分の意志を曲げない強い思いを持つということは確かに良いことなのだが、それとこれとでは、話が違う。

 大体、俺がツバキやリンネと一緒に風呂に入ったら、皆に何を言われるか分からねえ。ダイアン達に、白い目で見られそうだ。

 下手すれば、アザミたち女中の皆にも、何か軽蔑されそうな感じがする。


 ジーっと俺の目を見てくるリンネに、一体どうしたものかと、思っていると、ツバキが俺の肩を叩く。


「……ムソウ様」

「……何だよ」

「約束……ですよ?」


 ぐ……それを言うか。それを言われたら、俺はもう何も言えないなとあきらめ、大きくため息をついた後、二人に頷いた。


「……分かった。ただし三人だけだ。そして、誰にも見られないように、皆が寝静まった後に入る。……分かったな」

「わ~い!」


 リンネは満面の笑みで両手を上げて喜んでいる。

 ツバキの方は、せめて湯浴み着を着ろと言ったが、それはどうでしょうかと呟き、いたずらっ子のような顔をして、そっぽを向いた。


 さて、どうしたものかと思い、頭を掻いていると、ふと、魔物の解体作業をしていたヴァルナと目が合う。こちらを見ながらにやにやとしている。


 どうやら、聞こえていたらしい。俺は口元に指を置き、黙っていろと仕草をしたのだが、ヴァルナも、どうしたものかと、ニヤッと笑って、魔物の解体を再開した。


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