第242話―皆と遊ぶ―
屋敷の縁側で、しばらくジゲン達と話をしていた。ジゲンからは、その他俺が寝ていた間のことを聞いていた。
特に気になることは何も無かったが、呪いの後遺症が見られなかったことについては、俺が作った薬と、ジェシカのスキルによる回復のおかげだろうとのことだ。大量に作っておいて、本当に良かった。
しかし、やはりその薬もほとんど無くなったらしく、また作り直さないといけないとのことである。
「今は大丈夫なのか?」
「うむ。けが人がおらんから必要は無い。それにジェシカ殿も居ることじゃし、当面は大丈夫じゃ。もっとも、薬の作成も、サンチョと一緒に初めてはおるがな」
サンチョ……聞き慣れない名前だな。確認すると、牙の旅団の薬師らしい。薬を作ることに関しての知識は、ジゲンよりも上だという。
現在では、ジェシカと共に、この屋敷で回復薬などの生成をしているとのことだ。
ふむ……調合スキルのこともあるし、俺も手伝ってみようかな。
「そう言えば、アイツらは何時までここに居るつもりなのだろうか?」
「それに関しては、クレナが復興するまでと言っておったぞ」
現在、俺の屋敷で寝泊まりしている客人は、ジェシカ、サネマサ、レオパルド、そして、神獣達、さらには花街の妓女や、妓楼で働く男たちだ。このうち、花街の者達については、花街の復興が済み次第、移動するという。
十二星天に関しては、一応ここが落ち着くまでということなので、当分はここに居るらしい。
しかし、この屋敷のどこにそんな大勢の人間が寝泊まり出来る部屋があるのかと聞くと、なんでも、トウショウの里の住民たちを避難させるために、屋敷の裏手の崖に洞穴を掘り、そこに、俺の持ち物にあった亜空間コアを設置し、魔力を込めることで、広大な洞窟を作ったという。
洞窟の中は、一連の騒動が終わった後に、コモン達で、少し改装し、人が寝泊まり出来るようにしたのだという。
ジゲンによれば、あれだったらこの後も、うちの修練所か何かに使うのも良いとのことだった。
ちなみに、これで俺が持っていた亜空間コアは全て無くなった。結局、給水岩とその洞窟の為だけに使われたということになるが、本当に使い道が分からないので、それで良いと思う。
さて、十二星天の皆が当面はここに居るということなので、シンキが色々と王都で片付けて、再びここに来るということも、何とかなりそうだと安心する。
すると、ここで思い出したことがあり、ジゲンに尋ねる。
「そういや、人界王がここに来るって話はどうなった?」
一か月ほど前に、アヤメから聞いた話である。今の人界王オウエンが、俺に会いたいと言って、サネマサを伴って、ここに来るというものだ。その為に色々と準備をしていたわけだし、聞けば、サネマサ達がここに来た理由もそれ絡みだったりする。
シンキが居る時に聞けばよかったのだが、すっかり忘れていたな。
ここにオウエンが来ると聞き、何の話!? と興味津々に、顔を寄せてくるシズネとエンミに、ことの仔細を説明する。表情を明るくさせるシズネたちの横で、ジゲンは、顔を曇らせたままだった。
「む……すまない、ムソウ殿。儂もその件は忘れておったな」
ああ、やはりジゲンも忘れていたか。まあ、これだけのことが起こったのだからな。失念するのも無理はない。正直な話、オウエンには悪いが、それどころではない状況だったからな。
「そうか……ならば後でジェシカに連絡を取ってもらおう」
「そうじゃの。コモン君は恐らくこの話は知らんじゃろうからのお……」
ついでに、シンキとも連絡を取って、貴族たちや闘宴会をどうするか決めてもらおう。あまり長引かせると、貴族たちから文句が出そうだからな。
さて、他に気になることは無いかと聞くと、少し黙った後、ジゲンは困ったように口を開いた。
「むう……気になる程ではないのだが、少し困ったことがあるのお……」
「あ? 何だよ」
ジゲンは難しい顔をして、話し出すのをためらっているようだ。何かあったのだろうかと思っていると、横でクスっと笑い、シズネが口を開く。
「あのね~……闘いがあった日から、ここで毎晩宴会をしてるの」
「へえ……まあ、やりそうなもんだな。これだけ人数も居ることだし……」
「でね、皆、お酒が入ると、決まってあることで盛り上がるの」
「何だ、それは?」
「ジロウの昔話よ」
本当か、とジゲンに確認すると、肯定するように、頭を抱えて頷いた。
何でも、酒が入った牙の旅団の者達だったり、ジゲンとこの屋敷で過ごしていたジロウ一家の者達で、ジゲンの昔の様子を面白おかしく語り合っているという。
最初は、ジゲンもまあ良いかと思い、色々と話していたらしい。
まあ、ジゲンはクレナでは知らぬ者は居ないと言われたほどの男だからな。酒の席での話題には事欠かないだろう。それに、五年も行方をくらましていたこともあるし、シロウとしても、アヤメたちにしても、聞きたいことはたくさんあるだろう。
「別に、悪いことじゃないと思うが?」
ジゲンの昔話は、俺が聞いていても面白いものだからな。今晩からは俺も参加するし、何となく楽しみだと思っているが、ジゲンは首を横に振って面を上げた。
「悪くは……無いんじゃがの……昔の話をしていたら、コウシ達が変な盛り上がり方をしていってのお……」
「変な盛り上がり方? ……何だよ?」
「……儂とムソウ殿、どちらが強いか……じゃ」
「……あ、なるほど……」
頭を抱えるジゲンに頷いた。シズネはジゲンの様子が可笑しかったのか、手を叩いて笑い、エンミもクスクスと笑っている。
何となく、想像はつく。何せ、ジゲンはまだしも、サネマサが作った牙の旅団だからな。そういう思いに行き当たるのは理解できるような気がする。
だが、その件に関しては、前の手合わせで話がつくのではないかと、提案すると、もちろんそれは、きちんと話したという。
すると、今度は俺の力がどの程度なのかと、牙の旅団の者達や、トウガ達が言い出したらしく、俺が目を覚ましたら、取りあえず襲ってみて、確認しようという話になったらしい。
「……というわけなんじゃが……」
ジゲンは困ったように、面を上げた。昔の仲間が、俺を襲うということに関して、若干申し訳ないように思っているらしい。
だが、俺はジゲンに笑って応える。
「……まあ、良いんじゃねえか?」
「……む?」
呆気にとられるジゲン。牙の旅団の者達が、俺を襲うということに対して、俺がそれを肯定したことに戸惑いを隠せないようだ。
「良いのか?」
「別に構わねえよ。大体、俺達もサネマサがここに来たら、サネマサが気に入る方法でもてなしてやろうって決めたじゃねえか。まあ、それはうやむやになったようだがな。
だから、爺さんの昔の仲間が、俺に挑もうが何しようが構わねえよ」
そう言うと、ジゲンは、安心しきった顔になり、大きく息を吐いた。
「ふむ……何じゃ、安心したわい。ムソウ殿なら確実に怒ると思っておったからのう」
「その程度じゃ、怒らねえよ。闘鬼神を襲うってんなら話は別だがな」
話を聞く限り、というか、先ほどのリアとエンミのやり取りでも思ったのだが、恐らく牙の旅団は俺が今、率いている闘鬼神よりも強い。そんな状態で、弱い者いじめをするがごとく、牙の旅団が闘鬼神をしごくような真似をしたら、流石にジゲンの仲間と言えども容赦はしないつもりだ。
ジゲン達は、納得という顔で頷いた。ひとまず、恐らくこの後、カドルたちと一緒に帰って来るであろう牙の旅団は恐らく、俺を見るなり襲ってくるかも知れないということを聞いて、俺は頷く。
「分かった。先に聞いているなら、ますます怒らないから安心してくれ」
「うむ。これで、皆も納得してくれるとありがたいのお」
「だな。ただ、俺も爺さんの昔話とやらには興味があるからな。今夜も頼む。……ところで……」
俺はジゲンの肩に手を置いて、ニカっと笑った。
「襲い掛かってくる奴らには、俺なりに対応すれば、良いんだよな?」
斬鬼を手にしながら、笑顔でそう言うと、途端にジゲン達の顔が真顔になった。そして、ジゲンは少し視線を下し、頷く。
「う……む……ほどほどにな」
「はいよ。ほどほどに……なあ」
楽しみが出来た。寝起きの肩慣らしにはちょうどいい。ほどほどに相手をすればいいのだからな。夕飯前に、いい運動になりそうだ。
そう思いながら、はやる気持ちを抑え、再び、トウガ達や宴会の準備をする皆の様子を見ていると、横からジゲン達の話し声が聞こえてくる。
「……ねえ、大丈夫なの? コウシ達……」
「大丈夫……じゃと思いたいのお……」
「シズさんも、あの程度で終わって良かったわね」
「……ホントね……」
などと言いながら、こちらを見てくるジゲン達。俺がそちらを向くと、慌てて視線を逸らされた。
何を心配しているのか知らないが、お前ら牙の旅団が決めた話だ。俺はそれに従う。
……ほどほどに相手をしてやろう……。
そんなことを思っていると、遊び疲れたのか、宴会の準備の邪魔になるとでも思ったのか、トウガ達が俺達の元に帰ってきた。
「「ただいま~!」」
「おっと……」
「む……」
リンネとたまは、トウガから飛び降りると、それぞれ俺とジゲンに飛び込んでくる。お互いに二人を膝の上に乗せ、頭を撫でてやると、楽しそうな顔でこちらを見つめてきた。
「何を話してたの~?」
「む? ムソウ殿がこれから少し遊ぶのじゃと」
「え~!? おししょーさまも、あそぶの~? リンネも~!」
「ああ、それも面白そうだな。……だが、今日の所は俺だけだ。お前はまた今度な」
「む~……やくそくだよ~?」
はいはいと、返事して、リンネの頭を撫でると、嬉しそうな顔で頷く。すると、リンネは俺の手を持って、パンパンと叩き合わせたり、自らの頬に当てたりして遊び出した。
すると、トウガが俺の足元に寝そべり、欠伸を一つかいて、フッと笑う。
「お前の子煩悩な姿は、初めて見るなあ。俺にもそうしてくれたって良かったんだが?」
「お前とも遊んでやっただろ? 忘れたのか?」
アキラの家に行った時に、リンネにもよくやる枝を投げてはとってこさせたりという遊びである。コイツの場合、枝をかみ砕くから苦労した覚えがある。
「フッ……そうだったな。もう、数千年も経つとお前が恐ろしかったという記憶の方が印象強く残っている……」
ああ、やはり、そのあたりには若干の違和感があるな。俺にとっては数か月前のことでも、コイツらにとっては、数千年よりももっと昔のことだからな。
ただ、それにしたって、俺への印象が、恐ろしいという記憶だけというのは、複雑な気持ちだ。
まあ、俺も先ほどまでは、コイツに対して、生意気な奴という思いしか無かったからな。良しとしよう。
そう思いながら、俺はトウガの毛を整えてやった。リンネも真似して、ほつれている毛をまっすぐにしていく。トウガはうっとりとし様子で、笑っていた。
「むう……なかなか上手くなったな……まあ、アキラやレオほどじゃねえが……」
「ほっとけ。お前は剛毛だから難しい。リンネみたいに柔らかかったら、やりやすいのにな」
「うん! おししょーさまのけづくろい、きもちい~!」
ニパっと笑う、リンネを眺め、トウガはフッと笑った。なかなか、コイツにも貫禄というものが出来たらしいなと思う。
すると、トウガは再び欠伸をかきながら、俺達に視線を移した。
「……それで、何を話していたんだ? ムソウが遊ぶって?」
トウガがそう言うと、隣に居たジゲン達が微笑みながら口を開く。
「ほう……ムソウ殿と天狼殿が友というのは本当のようじゃな……まったく、ムソウ殿は本当に“規格外”な男じゃ……」
「お前がそれを言うのか……で、何の話を?」
「ぐぬ……まあ、良い。ムソウ殿がどれくらい強いのか試すために、コウシ達が腕試しをするという話じゃ」
ジゲンがそう言うと、トウガは、ああ、あれかと納得した様子で頷いた。すると、シズネが、ずいっと寄ってきて、トウガに話しかける。
「ちなみに天狼様も、この人や、ジロウと闘いたいと仰っていたようだけど、どうする?コウシ達と一緒に、ムソウさんを襲う?」
「馬鹿言うな。この男の強さは知っているつもりだ。……恐ろしさもな」
「それ、前から言ってるけど、どういうことなの? この人、何をしたの?」
興味ありげに話に加わるエンミに対し、トウガは笑い、俺の顔を見てきた。
「コイツは……俺を殴ったり、一人で100を超える人数の部隊を壊滅させ、その後一国を落とした男だ」
どこか、自慢げに俺のことを語るトウガ。シズネとエンミは目を丸くし、固まった。
間違ってはいないが、何となく語弊があるなあと感じる。
「お前な……もう少し、言い方というものを考えてくれよ」
「間違ってはいないだろう?」
「そうだが……100を超える部隊ってあの砦の話か? 俺は指揮官を倒しただけだ。100人斬りも出来なかったし、大したことねえだろ」
「その時に、俺達に怒ったことは忘れねえぞ。100人斬りを邪魔しやがってと言ったお前の顔は今でも克明に覚えている」
「む……それは後で謝っただろう。ツバキに叱られて、大変だった……」
「フッ……そうだったな。いや……懐かしいなあ……」
昔の話をして、黄昏るトウガ。本当に、急に大人になったような感じがして、妙に調子を狂わせられる。俺は頭を掻きながら、固まっているシズネたちの方を向いた。
「まあ……そんな大した話じゃねえよ。お前らだって、100を超える魔物たちの殲滅くらいは朝飯前だっただろ?」
そう言うと、二人は俺の言葉を否定するように、首を横に振った。
「違う。そっちじゃない」
「天狼様を殴ったって……貴方、本当に恐ろしい人なのね……」
……あ、そっちか。トウガはこの世界では神獣であり、伝説級の存在だ。恐らくギルドでは、天災級以上の存在である。
そんな奴を殴ったということで、二人は驚いているようだ。
どう説明したら良いのかややこしいなと思っていると、ふと、ジゲンが楽しそうな顔をしながら、笑い出した。
「ハッハッハ、まったく、面白いのお」
「何笑ってんだ?」
「いやいや……。ムソウ殿は本当に“規格外”じゃの。例え、儂らが若い頃に会っていたとしても、儂はムソウ殿を牙の旅団には入れんかったかもしれん。入れれば、確実に乗っ取られるからのう!」
そう言って、ジゲンは再び笑い出した。膝の上に居るたまも、ジゲンに驚いた様子だったが、自分も可笑しな気持ちになり、笑い出した。シズネとエンミも、確かに、と言って笑い出す。
むう……何となく複雑な気持ちになるな。ちらっとトウガを見ると、トウガもクスクスと笑っていた。
だがまあ、確かに仮に俺が、今よりもう少し前の時代にこの世界に来ていたとしても、ジゲン達とは違うやり方を選んでいたかも知れないな。
恐らく、今と同じく闘鬼神という部隊を率いて、そして、ジゲン達と競い合いながら、傭兵をやっていただろう。ジゲンと同じ部隊に居るよりも、そっちの方が楽しいかも知れない。
そう考えてくると、何となく俺も可笑しい気持ちになって、ジゲン達に頷くように笑った。
そして、リンネも訳が分からないという様子だったが、取りあえず楽しくなったのか笑っていた。
俺達の軽快な笑い声は、宴会の準備が続く屋敷の庭全体に響き渡り、声を聞いた者達は何事だろうかとチラチラとこちらを見ていた。
その後、段々と日が暮れてくると共に、屋敷では宴会の準備が進み、外に出ていた奴らが帰ってきた。皆、俺の姿を確認すると、安心しきったような顔になり、俺を労ってくれた。
俺も、皆の顔を眺め、無事を確認して安堵し、皆を労った。ひと月ぶりに見る、闘鬼神の姿は、共に苦難を乗り越え、何となく立派な顔つきになったように感じる。
「リンネちゃん! たまちゃん! ただいま~!」
「「おかえりなさい! ロロおねえちゃん!」」
「はぁ~……癒されます~……」
……中身は、相変わらずの奴も居る。ロロはうっとりとしながら、二人の頭を撫でていた。
すると、そこへツバキがやってくる。ツバキは、俺の周りに集まっていた闘鬼神の者達と、俺達を眺め、ニコッと笑った。
「お疲れ様です、皆さん。お風呂が沸きましたので、お夕飯の前にどうぞ……」
ツバキの言葉に、皆頷き、屋敷の中へと入っていった。ロロは名残惜しそうに、その場に残ろうとするが、ルイに手を引かれて、風呂場へと向かった。
皆を見送ると、ツバキが不思議そうな顔をして、俺の方を向く。
「あら? ムソウ様はよろしいのですか?」
「俺は後で良い……これから面白いことが起こりそうだからな……」
な? とジゲンの方を向くと、困ったように頷く。そして、何のことだか、というツバキに、事情を説明した。この後、帰って来るであろう牙の旅団が襲い掛かってきたら、俺が反撃する旨を説明すると、ツバキはなるほど、と頷き、こちらに振り向く。
「それは、確かに面白そうですね……」
ツバキはそう言って、ニコッと笑った。
「ん? 珍しいな。いつもなら、止めそうなものだが……?」
「私が何を言っても、無駄でしょう? それに、ムソウ様と、牙の旅団の皆さんとの手合わせというのは、私も興味がありますから」
これは意外だったな。マシロの時と同じく、こちらは大丈夫なのに、無理をするなと言われるのかと思ったが、違うらしい。
ツバキ曰く、大体想像は出来ていたとのことだ。
ひとまず、ツバキの機嫌も損なわれないようなので安心する。
そして、ツバキは私も見てみたいと言って、俺の隣に座った。すると、トウガを撫でていたリンネが、立ち上がり、今度はツバキの膝の上に座った。
「えへへ……おねえちゃんもおつかれさま!」
「はい、ありがとうございます。後で一緒にお風呂に入りましょうね」
優しくリンネに微笑みながら、ツバキは頭を撫でた。ツバキの顔を見上げながら、リンネは嬉しそうな顔をする。
微笑まし気に、俺達がその光景を眺めていると、トウガがのそっと立ち上がり、俺に顔を向けてきた。
「なあ、ムソウ……」
「ん? 何だよ」
「お前……気が付いているか? この女の力に……」
そう言われて、俺はハッとする。そういえば、俺がここに駆け付けた時、神怒に襲われていたこの屋敷をツバキが護っていた。何か障壁のようなものを展開させ、神怒や、邪神族の男から攻撃を防いでいたことを思い出した。
「そうだったな。……なあ、ツバキ。お前、あの時何をしていたんだ? 一体どうやって、神怒を防いでいたんだ?」
ツバキの力が気になり、そう聞いてみた。ジゲン達も興味ありげに、ツバキの顔を向く。
ツバキは、少し視線を落としながら、フッと微笑んだ。
「いずれ、詳しいことはお話しします」
「ん? 今では、駄目なのか?」
「駄目というわけではありません。ですが、私にもよく分からないものですので……鑑定も使わないでくださいね……」
ツバキはニコリと笑顔を見せてくる。むう、そういうことなら、無理に話してもらうのも、申し訳ないような気がしてくるな。
気になる話だったが、ジゲンともこれ以上の詮索はしないことにした。
「わかった。だが、お前の力で、ここが護られたというのは事実らしいな。本当によくやったな、ツバキ」
「ありがとうございます……私はこの力で、これからも、ムソウ様と、ムソウ様の大事なものを護っていきます」
そう言って、ツバキは、騎士が誓いを立てるときにする、胸に手を置く仕草をして頷いた。
そして、俺は改めて、ツバキやリンネ、ジゲンやたま、それに闘鬼神の奴らを護っていこうと誓った。
ふと見ると、トウガは何か懐かし気な表情をして、ツバキを見つめていた。そして、フッと笑い、
「……運命というものはあるのだな」
と、静かに呟いていた。
「何言ってんだ?急に……」
「いや、別に……」
「隠さねえで言えよ、俺とお前の仲だろ?」
「別に隠しているわけじゃ……っと、ムソウ……来たようだぞ」
トウガに思っていることを話させようとすると、トウガは鼻を動かしながら、門の方を向いた。
何だろうと思い、トウガが向いている方向を見ると、コモンと、雷帝龍、それにダイアンとカサネに残っていた闘鬼神の奴ら、さらに、アヤメとショウブに続き、見慣れない男たちが庭へぞろぞろと入って来た。
外で働いていた奴らが、帰ってきたらしい。思い思いにそれぞれと話をしながら、門へと入ってくる。
すると、群衆の後方からトウウが、すごい速さで俺達の居る所まで飛んできて、俺が手を出すと、いつものように、俺の腕に留まった。
「ムソウ! 皆を呼んで来たぜ!」
「はいよ、よくやったな。お前はゆっくりしてろ」
「おう! ん? なんだ、トウガ。お前はすでにゆっくりしてんな~。晩飯減らされるぞ~」
「お前が決めるな。リンネが決めることだ」
トウガがそう言うと、トウウはリンネの方に視線を移す。リンネは、ニコ~っと笑い、首を横に振った。フッと笑うトウガを見ながら、残念、という感じに、項垂れる仕草をするトウウ。
神獣同士、意外と仲が良いんだな。そして、その中心にリンネが居るということが、すごく嬉しく感じる。その後、トウウはそのまま部屋の中に入っていき、俺はリンネの頭を撫でた。
すると、帰ってきた群衆の中から声が聞こえてくる。
「おお……“鍛冶神”が申していたように、目を覚ましたのだな、ムソウ殿……」
声の主は、雷帝龍カドルだった。完全に力を取り戻した割には、そこまで大きくない。ジゲンによれば、せめて屋敷の庭には入れるようにと、身体の大きさを変えたそうだ。体格が小さくなっても、強大な力はビシビシと感じている。
しかし、カドルは何をするでもなく、ゆっくりと近づき、俺の元へ下りてきた。
「ああ、カドル。苦労を掛けたな。しかし、俺はもう、闘鬼神の奴らとも再び会えることも出来たわけだし、お前は、雷雲山に帰っても良かったのだぞ?」
「いや……今しばらく、ここに居させてくれ。我にも少し野暮用が出来たのでな……」
カドルはそう言って、群衆を見つめた。何か用がある奴が、あの中に居るのだろうか。まあ、ここにカドルが居ても、困ることは無いからな。カドルからの申し出に、俺は頷いた。
「分かった。お前には恩があるからな。ゆっくりしていってくれ」
コイツには世話になったからな。闘鬼神の捜索だったり、共にスケルトンの軍勢を殲滅したり、ここに戻った後はジゲン達を護ってくれたりと、本当に世話になった。
コイツが居なかったら、闘鬼神の奴らが死んだと思い込み、俺はその後も、絶望しながら闘っていたことだろう。
そんな俺を、そばで支えてくれたカドルには、きちんと礼を尽くしておこうと思った。カドルはかたじけないと頷き、笑った。
すると……。
「おお~! 目を覚ましたのか!」
突然、群衆の中から、野太い男の声が聞こえてきた。ジゲンとシズネ、エンミは声を聞いて、ため息をつき、呆れた様子である。俺が群衆の方を向くと、いきなり、何人かの男たちが俺めがけて走ってきているのが見える。
「ちょ、ちょっと、皆さん!?」
他の者達は、男たちのいきなりの行動に目を白黒させ、その中に、眼鏡をかけた青年が、走っている男たちを止めようとしていた。
だが、男たちはわき目も振らずに、突っ走ってくる。
「止めんなよ、タツミ! あの男の力量を計るいい機会だ! チョウエン、ロウ、ソウマ、行くぞ!」
「「「おう!」」」
そいつらは、雄たけびを上げながら、こちらに向かってくる。残った青年とその隣に居た長髪の男は、ため息をつき、走る四人の男に呆れているようだった。
俺は立ち上がり、そいつらを指さしながら、ジゲンに顔を向ける。
「アイツらか?」
「うむ……本当に、ほどほどにな」
ジゲンの様子を見るに、アイツらが、牙の旅団の残りの者達で間違いないようだ。デカい体格の二人が、それぞれ、コウシとチョウエン。そして、武闘家のような身なりの男がソウマ、槍を持った男がロウという者らしい。
……ふむ、ジゲンに話を聞いていてよかった。普通だったら、激怒しているところだったな。
だが、心構えは出来ている。俺は手足を振り、身体の調子を確かめた。やはり少し倦怠感があるが、問題ないな。
傷を癒してくれたというジェシカには、後できちんと礼を言っておこう。
「おししょーさま、がんばってね!」
リンネがうずうずとしながら、俺にキラキラとした目を向けてくる。俺はリンネを撫でて、笑った。
「おう。よく、俺の闘いを見ているんだぞ」
「うん! おおかみのおじちゃんも、おししょーさまのあそび、たのしみだよね!」
「ん? まあ……な……ムソウ、久しぶりにお前の闘いを楽しく見物しているからな」
「闘いって程のものになるかは、怪しいがな。なんなら、身体が回復しきった後に、お前とも手合わせしてやるよ」
「……考えておく」
何か、嫌なものを思い出すような顔をしながらも、苦笑いして頷くトウガ。シンキやエンヤが言っていたように、未だにトウガは、俺にどこか恐れているようだ。
とは言いつつも、手合わせじたいには割と積極的だ。やはり、こちらに来て、邪神大戦を乗り切り、更に数千年も生き続けて、本当に強くなったんだなあと実感する。
にしても、リンネの言葉に笑ってしまうな。牙の旅団との手合わせが、「遊び」とはな。少し、育て方を考え直した方が良いかなと思ってしまう。
「シズもエンミも、ムソウ殿の闘い方をよく見ておくのじゃぞ。こういう時は、本当に楽しそうじゃからの」
「あら、それは楽しみね」
「でも、だからって、サネマサみたいに無茶しないでよね」
ジゲンの言葉に二人は頷いた。そして、ほどほどに、と俺に、何度も繰り返す。
ただ、そう言いつつ、何か期待しているような視線を向けている。コイツ等の期待に応えてやろうと、指の骨を鳴らす。
「さあ~て……行くか……」
「ムソウ様、刀は……?」
斬鬼を手に取り、俺に渡そうとするツバキに、ニカっと笑った。
「要らねえ!」
そう言い残して、俺は四人に向けて走り出した。正直なところ、斬鬼を使うには、まだ練習が足りないと思っている。
あれは、よく切れるみたいだからな。間違って、アイツらを斬らないためにも、今日の所は辞めておこう。
そう思いながら、手足に気を集中させていく。ふむ……気功スキルも滞りなく使えるようだ。取りあえず、この手合わせは、身体の調子を確かめるためにも、本当に、ほどほどにやっておこう……。
「一番槍は俺だ! くらえ! 奥義・龍尾一閃!」
「む!?」
身体の様子を確かめながら、走っていると、後方から、すごい勢いで、槍を手にしたロウが飛び出してくる。槍の穂先を俺めがけて、大きな気を溜めて技を放とうとしているようだ。
俺は、慌てて地面を蹴り、そいつの懐に入り、槍の向きを上空に向けた。
「な!?」
驚くロウの持つ槍の穂先から、巨大な気の塊が、天に向かって放出される。
……なるほど……ああいう技だったか……。
「じゃねえって! 何してんだ、てめえ! 俺の屋敷を壊す気か!?」
「あ……いや、すま――」
「やかましい!」
俺はロウの襟をつかみ、そのまま奴の顔面に頭突きを食らわせる。
「がふ!」
鼻を抑えながら、よろめくロウの腹を思いっきり蹴り、吹っ飛ばした。
……ったく、何考えてんだ、コイツ。手合わせしたいのは分かるが、屋敷を壊すようなことはするなっての。
ちらっと、ジゲンに視線を移すと、申し訳ないと、言わんばかりに頭を下げてきた。よし、ロウは、後でジゲンに思いっきり叱ってもらおう。
「……さて、次は……」
「俺だ!」
再び、牙の旅団の者達に視線を向けると、今度は武闘家のソウマが、突っかかってきた。拳を振り上げ、俺めがけて撃ってくる。間一髪、繰り出された拳を避けて、俺も、拳を放った。
すると、ソウマは腕を交差させて、俺の攻撃を止める。
俺はいったん距離をとろうと、後ろに下がった。その直後、俺の顔があったところを、ソウマの膝蹴りが空ぶる。
「おっと……危なかったな」
「チッ、躱されるとは思わなかったな……だが、これで終わりじゃねえぞ!」
ソウマは地面を蹴り、一気に距離を詰めると、両手足を使って、連撃を繰り出してくる。一つ一つが鋭く早いコイツの攻撃を躱すのは一苦労だ。
最初の奴よりは、攻撃力自体は小さいみたいだが、なかなか厄介だなと感じる。
だが、躱せるということは、見えてはいるということだ。ある程度、ソウマの動きに慣れだしたころ、俺は繰り出された拳に向けて、額に気を集めてぶつけた。
ガツンッといい音がして、ソウマの拳は止まる。
「痛ててて……まあ、止まったから良いか」
「な!? 無茶するなあ、アンタ……」
目を見開くロウに、俺はニコッと笑う。
「いやいや、これから、お前も無茶するんだから、お相子だ」
「……は?……ッ!――」
俺の言葉に唖然とするロウの腕を掴み、足を払って、ロウの身体が浮いた瞬間、そのままロウをぶん回した。
「うおおおおおお~~~~! 止めてくれ~~~~~!」
「どうだ? 楽しいだろ。俺の友直伝、「人間大車輪」だ……そして……」
俺は、先ほど吹っ飛ばした男、ソウマがよろよろと立ち上がっていることに気付き、奴に狙いを定めた。
「これが……「人間砲撃」だ! 行くぞ~~~!」
「うわああああ~~~! ろ、ロウ! 避けろ!」
「痛てて……ん!? なあああああ~~~!?」
そのまま、ソウマをロウに向けて手を放し、放り投げると、すごい勢いでソウマがロウに向けて飛んでいく。
そして、ソウマはロウを巻き込み、更に吹っ飛び、屋敷の塀にぶつかって、そのまま二人は、動かなくなった。
力任せに相手の身体をぶん回し、力に任せにそのまま何かにぶつけるこの技は、ゴウキがよく、俺との手合わせでやってきた技だ。アイツの力で掴まれると、流石に何も出来なくなるんだよな。
まあ、飛んでいる最中に、態勢を立て直して、上手くぶつけられる前に受け身を取られればいいのだが、ゴウキの場合は、そのまま地面に叩きつけたりしてくるからな。
俺じゃなかったら死んでたぞ、と説教しても、ゴウキは笑いながら、今日も俺の勝ち~!と叫んでいたものである。
さて、ロウとソウマは、このまま動かないところを見ると、戦闘不能のようだな。目を向けると、先ほどの青年と、長髪の男に、介抱されているのが見える。荒く息をしているところから、生きてはいるようだと一安心した。
「ふむ……だが、やはりこの技は負担も大きいな……」
先ほどロウに仕掛けた技は、俺への負担も大きい。一気に疲れが出てくる感じだ。それこそ、あれはゴウキみたいに筋肉馬鹿にしか出来ない技なのだろうと今でも思う。
ゆっくりと肩を回して、落ち着いていると、背後から声が聞こえてくる。
「二人の仇だ! 行くぞ! チョウエン!」
「おうさ!」
声のする方を見ると、残った二人が刀を掲げて、こちらに向かってきていた。確か、一人は、チョウエンという男で、もう一人はコウシだったか。ジゲンとサネマサに続き、最初に牙の旅団の一人になった男だったな。
何となく面白そうだなと感じた俺は、掌に気を集める。
「面白え! かかって来な! 剛掌波!」
二人に向けて、気を放つと、チョウエンが前に躍り出て、俺の剛掌波を受け止める。
「ぬう! ここは、俺に任せろ!」
「おう! くらいな、ムソウ!」
チョウエンが、俺の攻撃を止めている間に、コウシは天高く飛びあがり、刀を振り上げながら、俺に向かってきた。このままだと、攻撃をまともに食らってしまう。俺は気を止めて、コウシの攻撃を躱した。
「くっ! 決まったと思ったんだがな。だが、チョウエンが自由になった今、お前に勝ち目は無い! 行くぞ!」
「おうよ!」
コウシの声に応え、チョウエンは地面を蹴り、俺に一気に近づいてくる。そして、二人で俺を囲むと、それぞれ連撃を繰り出してきた。
二人の刀は、息の合ったもので、お互いが俺を確実に仕留めるように動きながらも、干渉しあうことなく、向かってくる。偶に、どちらかの攻撃を躱すと、その隙を狙って、俺に向かってきたりして、少々危ない。
「よっ……ほっ……おっと……」
何とか躱し続けていくが、このままだとこちらも反撃できない。だが、逃げようと思っても、二人は上手く、俺の周りを立ち回り、俺を刀の結界から逃れられないようにしている。
「なかなか、息の合った攻撃だな。俺は何も出来ねえ……」
「はっ! そりゃ、そうだ。俺とチョウエンの連携、舐めんなよ、若造!」
「何せ、ジロウよりも速いからな。逆にここまでよけられている分、お前はまだ、すごいって部類だ」
ほう……ジゲンよりも凄いのか。なら、これをしのぎ切れば、また一つ、俺は強くなるというわけだな。
二人の言葉を聞き、そんなことを思っていると、縁側から皆の話す声が聞こえてくる。
「ああ言っているが、どうなのだ? “刀鬼”」
「う~む……あ奴らは、ことあるごとに儂を引き合いに出すが、よう分からんのう。シズとエンミはどう思う?」
「え? もちろん、ジロウの方が速いわよ。貴方の抜刀術、私は未だに見えないもの……」
「それに比べて、コウシ達の刀は、私達にもばっちり見えているわよ。まあ、ああなると、体力のない方が先にばてるから、厄介と言えば、厄介だけどね。ツバキちゃんは、どう見る?」
「そうですね……私には少しきついかもしれません」
「おねえちゃんでも、だいじょーぶだとおもうよ! おねえちゃんも、つよいもん!」
「ふふ……ありがとうございます、リンネちゃん」
「えへへ……でも、おししょーさま、たのしそうでよかったね~……」
などと、ほのぼのとした会話が聞こえてくる。何となくニヤニヤしながら、コウシ達に目を向けると、顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしていた。
「な、何だよ、その眼は! 本当だからな! 俺達二人で、ジロウよりも強くなれるんだぞ!」
「あーはいはい、わかった、わかった。取り合えず、お前らが仲が良いってことは伝わったから安心しろ」
「「この……舐めるな!」」
息の合った文言で同時に俺を怒鳴ってくる二人は、これまた同時に、刀を振り上げた。今までは、それぞれが異なる攻撃をしてきて、厄介だったのだが、軽く挑発することで、同じ行動をとらせることに成功した。
……うん。ジゲンよりは、大したことないな。
俺は身をかがめて、向かい合う二人の腹に拳を打ち込む。
「がはっ!」
「ごふっ!」
すると、二人は再び、同じように腹を抑えながら、よろめいた。その隙をつき、俺は二人の間から抜け出し、コウシの後頭部を掴んだ。
「そんなに仲良いなら、抱き合ってな!」
「なッ!?」
そのままコウシの顔を、チョウエンの顔にぶつける。頭同士がぶつかった二人は、短い悲鳴と共に、フラフラとして、お互いに支え合った。
「止めだ! これで……終わり!」
「「ぐはあっ!」」
そんな二人の頭を纏めて、蹴り飛ばすと、二人は仲良く固まって、吹っ飛んでいき、ロウと、ソウマのそばの塀にぶつかり、気を失った。
コモン達が、唖然としながらこちらを見ている中、俺は着物を整えながら、ジゲン達の居る所に戻る。
「やれやれ……手合わせだから、こんなものか。もう少し元気になったら、またやるってのも面白いかもな」
「ふむ……本当に、ほどほどにしてくれたのお。ありがたいぞ、ムソウ殿」
俺に労いの声をかけてくるジゲンの隣で、シズネとエンミが、あれがほどほど? という感じに、ジゲンに引いているようだった。
そんな二人を見ていると、たまとリンネが駆け寄ってくる。
「おじちゃん、かっこ良かったよ! 本当にげんきになったんだね~!」
「おししょーさま、つよ~い!」
「ありがとよ。だが、その代わりに腹も空いたな。これから、風呂に入って来るから、その間に、お前たちはアザミたちを手伝ってやってくれ」
「「は~い!」」
二人は手を上げて、返事をすると、何事も無かったかのように宴会の準備をする皆の元に向かって行った。
「お疲れ様です、ムソウ様。……では私も、皆さんのお手伝いに向かいますね」
「おう、頼んだ、ツバキ」
そのまま、ツバキも斬鬼を俺に渡して、皆の元へと向かった。
すると今度は、トウガがのそっと身を起こし、俺に近づいてくる。
「ふむ……本当に、お前はカンナに似ていないな。カンナがサヤに似て、本当に良かった……」
「エンヤとコウカにも言われたぞ、それ……」
「ほう……そのあたりのことも、全部聞いたのか……それも、あの二人から」
「まあな。取りあえず、久しぶりに風呂でも入るか。全部話すよ……俺が、眠っていた時のことをな」
トウガは頷き、俺に着いてくる。ついでにジゲンにも全て話そうと思い、風呂に誘った。少し、不思議そうな顔をするジゲンだったが、すぐに頷き、俺達に着いてきた。
コモン達には……後で良いか。シンキが直接話すらしいからな。その時を待とう。
「あ、カドルも来てくれ。多分、お前も知っている内容だから、爺さんに説明するのに協力してくれ」
「む? 何のことだ?」
「恐らく、邪神大戦のことだ、雷帝龍。ムソウは全てを知っているようだ」
トウガの言葉に頷くと、目を見開く雷帝龍。そして、静かに頷いた。
「……分かった。ムソウ殿にどう伝えれば良いか考えていたのだが、杞憂に終わったな」
「心遣いどうも。それより、もう少し小さくなれないか? 風呂がいっぱいになりそうだ」
「ああ、少し待ってくれ」
そう言うと、カドルが瞑想を始める。すると、カドルの身体から強い光が放たれて、段々と小さくなった。そして、輝きが収まると、ワイアームよりも、二回り小さい姿となる。もはや、これでは手足のついた蛇だな。
「これが限界だ、ムソウ殿」
「問題ない。さて……行くか。じゃあ、シズネに、エンミ、また、後でな」
「は~い」
「後で……ね……」
どことなく、楽しそうな様子の二人に見送られながら、俺達は風呂場に向かった。
ジゲンはこれから俺達が何を話すのか不思議そうにしながらも、倒れているコウシ達、呆然とするコモンや、ロウたちを解放する残った牙の旅団の者達、さらに、コウシ達を見ながら笑っているシズネとエンミを眺めながら、やれやれと肩をすくめ、笑っていた。




