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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
242/534

第241話―取りあえず現状を知る―

 その後も、そうやって庭でトウガ達と遊んでいると、炊事場の方からジゲンとたま、アザミ、それに、ナズナと見知らぬ女……恐らくだが、牙の旅団の誰かと女中たちと共に、更に見慣れない女達が庭へと出てきた。


 ナズナは……ここで働いているようだな。皆と同じく、衣に襷をかけて作業しやすい恰好をしている。リンネによれば、妓楼も壊されてしまったようだからな。他の妓女もここで働いていると聞いたが、見慣れない女たちがそうだろうな。

 一人、化粧を落としていて一瞬誰だか分からなかったが、シュンカに気が付いた。素顔の方が美人じゃねえか? ……まあ、いいや。それにしても、闘鬼神の奴らが、変な気を起こしていないと良いがな……。


 さて、庭へと出てきたアザミは、手を大きくパンパンと叩き、皆の視線を集めて、口を開く。


「皆~、宴会の用意をするから、手伝って~」

「「「「「う~っす!」」」」」

「「「「「は~い!」」」」」


 アザミの言葉を聞いた、休憩をしていた冒険者たちは、のそっと立ち上がり、女中と妓女たちと共に屋敷の中へと入っていく。

 予想通り、妓女たちに男どもがデレデレするかと思いきや、そうでもないらしい。言いつけを守っているようで、何よりだと安心した。

 皆を眺めていると、トウケンが何かに気が付いたようにスッと立ち上がる。


「おっと……俺も行かねえとな。じゃあ、後でな、ムソウ」


 トウケンはそう言って、手を振り、屋敷の中へと入っていった。


「アイツ、どうしたんだ?」

「ん? いや、俺達も屋敷で何か出来ないかって思ったんだが、俺もトウガもこんなだからな。荷物とか、皿を運べないので何も出来ないが、トウケンは、ほとんど人型で、力もあるからな。

 ああやって、ここでは女たちの手伝い、外では“鍛冶神”の手伝いをしているんだ」


 ほう……見た目に寄らず、意外と真面目なところがあるのか。まあ、確かにトウウは鳥だし、トウガは、狼だからものを運ぶということは出来ないよな。神獣になり、伝説級の存在になっても、出来ないことは出来ないらしい。

 リンネにも出来ることが、出来ないとはなかなか面白いな。


「そういや、お前たちは今のリンネのように獣人の姿になることは出来ないのか? そうすりゃ、手伝えるだろ」


 そう言うと、二体の神獣は少し困ったような顔をする。何か悪いことでも聞いたのだろうかと思っていると、トウガはため息をついた。


「そうだな……まずは見てくれ」


 すると、トウガとトウウの身体が輝きだし、姿を変えた。光が収まると、そこには先ほどまでよりもだいぶ小さい……というか、普通の大きさの鷹と、狼が目の前に居る。

  トウウの方は普通の鳥という感じだが、何故かトウガは少し丸っこい印象で、可愛さのようなものを感じさせる。他の狼と違うのは、尾が二股に分かれて、目元に牙の形をした模様が描かれていることくらいか。


「その姿は?」

「これは、まあ、なんというか、屋敷に入るために、小さくなった形態だな。普段は身を隠すために使っている。

 後は……そうだな。アキラとエイキの家に入る時に使っていたな……」


 丸っこい姿だが、声はそのままで、大人びたことを言うトウガ。何となく面白い光景だが、笑うと怒りそうなので、我慢しておいた。


「ふむ……で、それが何だっていうんだ? 獣人化はどうした?」

「いや……それが、この姿のまま、屋敷に居て、女たちを手伝おうと獣人化したら、可愛くないからやめろと言われてな……」

「だから、女たちが働いている間は、この姿のまま、ゆっくりとするというのが、俺達の仕事みたいなものになっている……」


 トウウとトウガは俯く。なるほど……。大体想像がつくな。特にたまと、ロロあたりが言い出しそうな感じだ。二体は、ただただこの姿で部屋に行き、休んでいるだけということになり、偶にジゲン達と話をするだけで、どこか申し訳ないなと思いながら毎日を過ごしているらしい。

 しかし、流石闘鬼神の女たち。神獣にも恐れていないところを見ると、何となく安心する。

 仕事をさぼろうと思っていないだけに、俺の方からも何も言えない。が、俯き、どこか落ち込んでいる様子の二体を、何となく放っては置けないと思った。


「あー……わかった。じゃあ、トウウは町中を回って、作業中のコモン達や、闘鬼神に屋敷に戻るように伝えてくれ。

 そろそろ日暮れだからな。それに、俺も早く皆の様子が知りたいし……」

「え、良いのか?」

「伝令はお前の得意分野だろう? しっかり頼むぜ」


 そう言うと、トウウは目を見開き、再び元の大きな姿に戻ると、頷いた。


「了解だ! ついでに、レオも呼んできてやる!」


 トウウは一気に空へと飛んでいき、上街の方に向かった。速いな……相変わらず。


「で、トウガは……」

「おう、何だ!?」


 なにか期待をするような目で、俺の方を見てくるトウガ。と言っても、今コイツに頼みたいことは浮かばなかったので、しばらく考え込む。

 むう……本当に特に無いな。何をさせようかと思っていると、不意に背後から声をかけられた。


「ん? ムソウ殿か……」


 振り向くと、たまと、恐らく牙の旅団であろう女二人を連れたジゲンが居た。こうして見ると、多くの女を侍らす爺さんという見た目で何とも面白い光景だなと思った。


 リンネは、俺の背中から飛び降り、たまと一緒に手を叩き合い始める。何の遊びだろうか、その場で小躍りを始め出した。あ、そうだ……。


「トウガ、お前はたまとリンネと遊んでいてくれ」

「む……まあ、良いか。ほれ、行くぞ、たま、リンネ」

「「は~い!」」


 二人は両手を上げて、どこか不服そうなトウガの背中に乗り、庭を駆け回り始めた。仕事と言えば、仕事だろう。

 よくああやって、アキラとツバキと遊んでいた……気がする。


 その場には、俺とジゲンと、牙の旅団の女たちが残った。ジゲンは不思議そうな顔をして、俺を見回し、辺りをキョロキョロとする。


「ん? どうかしたか?」

「いや……シンジ殿は?」

「ああ、さっき王都に帰ったよ。話し合いは終わった。俺も、爺さんも特におとがめなしだ」


 目を見開くジゲンに、話し合いの結果を伝える。ひとまずは、現状が知れたので、満足したシンキは、そのまま王都に帰還。今頃、王都のケリスの邸宅を捜索する手はずやその他もろもろの仕事をしているはずだと。

 俺の話を聞いたジゲンは、意外そうだという顔をしている。


「まさか……シンジ殿が……聞いていた話とはずいぶん違う印象じゃな」

「まあ、色々とな……ところで……」


 俺はジゲンの後ろに居た、女二人に視線を移す。二人は、俺と目が合うと少し体を硬直させた。


「え~と……お前らが牙の旅団ってことで良いんだな?」


 二人は、俺の問いに静かに頷く。ジゲンによると、若い方がエンミで、もう一方がシズネという者らしい。と言っても、シズネの方も、ずいぶん若く感じるが。


「で、九頭龍の時に居た魂ってことで良いんだな?」


 更なる問いに、またしても、二人は静かに頷いた。……何だ? さっきから、一言も喋らねえで。どこか恐る恐るという態度に違和感を抱いた。


「何、びくついてんだ?」


 たまらず二人の態度を咎めると、エンミの方が口を開く。


「いや……だって、アンタ……私達に怒ってるでしょ……?」

「は? 何に?」


 言っていることの意味が分からず、聞き返すと、今度はシズネの方が喋り出す。


「ほら、私達、貴方に何も言わずに、全部任せちゃったし……その結果、この家もこうなっちゃったし……それに、貴方を攻撃しちゃったし……」


 俺を攻撃って……ああ、九頭龍のことか。なるほど、要は今回の一件で、俺に迷惑をかけたと思い、俺が怒っていると感じて、恐れていたというところか。


「別に気にしてねえよ。闘いに傷は覚悟の上だ。それに、あの時はお前らもケリスの術で仕方なくやらされていたんだろ? だから、その件は不問だ。

 それに、俺がお前らに巻き込まれた件については、元々爺さんに言われたことだからな。爺さんに文句はあれど、お前らには特に何も言うことは無えよ」


 そう言うと、目を見開く二人。そして、何か不服そうな顔をするジゲン。


「むう……話を切り出したときは、笑顔で任せろと言っていたのは、誰じゃったかの?」

「そうだったか? 忘れたな」


 俺とジゲンはその場で大笑いする。呆気に取られていたシズネとエンミも、クスっと笑い、俺に頭を下げてきた。


「……本当に、ありがとうね」

「……貴方には感謝しかないわ」

「はいよ。……友達を助けられて良かったな」


 二人は笑って、頷いた。


 そして、四人で縁側に座り、ひとまず、街の復興状況について確認した。


 破壊された街については八割方完了しているらしい。リンネの言ったように、ギルドはすでに修繕され、住民たちが住むことが出来る家についても、ほぼ完了している。目下進められているのは、花街の妓楼らしい。

 高天ヶ原よりも大きく、一つの妓楼を作っているそうで、これまで闘宴会管轄だった妓楼に勤めていた者達全てを収めることが出来る新たな妓楼をコモン達は建てているという。

 俺の屋敷には二か月ほど費やしたが、ギルドは数日で、その妓楼も、来週あたりには完成するという。天宝館総出に、闘鬼神、更には神獣達も手伝っているだけあって、仕事が早いな。

 ちなみに、貴族の住居についてだが、トウショウの街を管理する立場にありながら、ケリスの言うことに身を委ね、街をめちゃくちゃにしたにも関わらず、自分たちは花街で贅沢三昧していたという不満が、住民たちや、サネマサなど、多くの者から噴出し、後回しということになったという。

 当然、貴族たちからは不満の声が上がったが、自分たちよりも地位の高い、十二星天が黙らし、今は人足として、復興の手伝いをさせられているらしい。


 闘宴会については、牢に捕え、俺の判断を待つということになっている。要は解放するか、斬るかを俺に任せるらしい。


「何で、俺なんだよ……」

「いや、ムソウ殿も、散々煮え湯を飲まされたであろう? 更にはツバキ殿の件もあるしの……勝手なことをすると、後で怒られると思ったんじゃが……」


 どうも、ジゲン達は俺が怒りっぽい性格だと思っているらしい。俺からすれば、ジゲンの方が恐ろしいと感じるが……。


 そう思っていると、実際その通りらしく、当初は、自分たちの処遇に納得がいかないと言っていた闘宴会を黙らせたのはジゲンで、尋問も一人で行ったという。

 シズネ曰く、昔に戻ったとのことで、闘宴会に一人で尋問に向かうジゲンの背中を見て、誰も何も、言わなかったという。


 しかし、闘宴会の処遇か……確かに腹が立つこともされたし、ジゲンの言うように、ツバキの件もある。このままにしておくわけにもいかない。

 だが、斬るというのも、何となく後味が悪い気がする。

 なので、この件については、次にシンキが来た時に、貴族と共に奴に任せることにした。王都で、正式に裁きを受けてもらおう。

 心の中で、そっとシンキに謝っておいた。また、余計な仕事を増やしちゃったかな……。


 さて、街の復興については大体わかった。続いて、この街の外、クレナ領についてである。ギルドが機能しなくなっても、各地から魔物討伐や、採集などの依頼は入ってくる。

 これも、リンネが語っていたように、レオパルドが中心となり、トウガ達神獣と、雷帝龍カドル、そして、牙の旅団が、対応しているとのことだ。

 当初は、シンムの里の騎士団が、ギルドとしての機能を担っていたが、ギルド兼アヤメの屋敷が建て直された後は、本来の状態に戻り、ここが拠点となっている。

 元々、クレナに来る冒険者は、ほとんど遊びに来るだけで、依頼には取り組まない。トウショウの里が壊滅ということは、既に世界中の冒険者達に知れ渡っているようで、本当に冒険者が集まるということは無かった。

 よって、仕事を奪うという形にもならず、むしろ、十二星天と神獣、更には雷帝龍が仕事をしているということで、以前に比べてやりやすくなったと、アヤメは笑っているという。


 さて、そんな感じで、領内には特に異変らしき異変は無いようだ。樹海と雷雲山の生態系が少し変わったくらいで、しばらくすれば、また、元に戻るのではないかとのこと。

 チャブラの暴動については、サネマサが向かっているが、伝令魔法による報告によれば、


「俺が行ったら、だいぶ収まってきてるぜ~!」


 と、意気揚々に語っていたという。少し調子に乗っているような気がして、不安になるが、流石十二星天の名は大きいな。この分だと、数日後には何とかなりそうだ。

  あの爺さんと婆さん、無事かな……と、グレンと旅をしているときに、俺の誕生日を祝ってくれた宿屋を思い出した。

 ……きっと大丈夫だろう。落ち着いたら、また行ってみよう。


「ひとまずは、こんなところかの……」

「そうか。それでは、俺も明日から何か手伝おうかな」

「むう……それは辞めておいた方が良いじゃろう。まだ回復しきっておらんじゃろうし、それにムソウ殿がコモン達の手伝いをすると、日程が遅れてしまう」


 ジゲンは、ニヤッと笑いながらこちらを向く。そう言われると、何も出来ないじゃないか。

 元々、街の復興には手を貸さない、というか邪魔しない気では居たのだが、他人に言われると何となく腹が立つ。

 まあ、外に出るにしても、トウガ達がやってるならやることは無いなと思い、しばらく療養しようということになった。不思議と、これだけ休んでいるにも関わらず、身体がうずいてしょうがないという感覚がしない。あれだけ闘ったんだからな……。


「……まあ、無間も無くなったことだし、この刀には慣れていないし、しばらくは休んでおくか……」


 無間が無い今、俺の得物はエンヤが入り込んでいる斬鬼ということになる。まだ、エンヤの魂も安定しないだろうし、俺もこの刀には慣れていない。徐々に体を慣らしてから、外に出ようと決めた。

  珍しく素振りとかした方が良いのかなと思っていると、ジゲンが思い出したように、そう言えばと言って、席を立った。

 すると、何か大きな風呂敷のようなものを下げて、俺の元に持ってくる。


「なんだ、これ?」

「うむ……街の復興をしているときに、皆が見つけ、集めたものなんじゃが……」


 そう言って、ジゲンは風呂敷を開いた。


「……あ」


 その中身を見た俺は目を見開く。それは、先の戦いで粉々になった無間の破片だった。どうやらあの後、街に降り注いだところを、皆が集め、コモンの指示で大切にとっておいたらしい。

  手を斬らないように、破片の一つ一つを手に取ってみた。やはり、それぞれの損傷はひどいな。刃こぼれもしているようだ。


 ただ、やはり、何か手に馴染む気がする。いっそ、これを溶かしてまた刀を作れば、良いかとも思ったが、そうすると、強度も落ちて、今までのようには戦えないかも知れないし、今回のような戦いには耐えられないということも分かっている。


「はあ……どうしたものかな……」

「まあ、後でコモン君と相談してみるが良い。これを基盤に新たな無間を生み出すかもしれんしの」


 ジゲンはそう言って、朗らかに笑った。……まあ、その方が良いよな。エンヤも斬鬼よりは直せるのなら、無間に憑りつく方が良いと言っていたし、何とか掛け合ってみることにしよう。


 ……コモンに相談することが増えてきている。やはり、なんだかんだ、頼りにしているんだな、俺。EXスキルの関係もあって、やはりコモンはアイツに似ているなと思い、静かに笑った。


 粉々になった無間をどうしようかと考えていると、シズネとエンミも、横から覗き込んできた。二人も、ここまでになったら最悪、別の刀を使った方が良いと言ってきた。

 女と言えども、ここの古くからの傭兵だ。説得力が違うな。二人の言葉に頷いた。

 すると、ふとシズネが腰に着けている鞭に目が行く。どこかで見たことがあるな……。


「なあ、アンタ……」

「アンタって呼ばないで。シズネよ」

「あ、わかった。シズネ、その腰に着けてんのは何だ?」

「これは、私の鞭よ。というか、どこ見てんのよ~」


 シズネは頬に手を当て、顔を赤らめながら下がっていく。何となくむかつく言動だなと思い、拳を固めると、ジゲンとエンミが揃って、手を合わせて頭を下げる仕草と、抑えてという仕草をしてくる。

 まあ、ここで怒っても仕方ないし、俺も疲れているから、息を吐いて気を落ち着かせた。


「鞭か……どこかで見たことがあるな……」

「ああ、それはあれじゃ。以前コスケが預かっていたという皆の武具を持って帰った時じゃろうな」


 首を傾げていると、ジゲンが教えてくれた。ああ、そうだ、あの時だ。パッと見武器に見えないからな。すっかり忘れていた。というかこれ、武器なのか。


「どうやって使うんだよ? やはり、敵を打ったりするのか?」

「それもあるけど、私の場合は、敵を拘束するのに使うかな~」

「拘束? 巻き付けるってことか?」

「え~と……分かった、見せてあげる」


 シズネはそう言って、鞭を抜き、俺達から少し離れた。そして、鞭を振り始める。しばらくすると、シズネの周りからパンっパンっと大きな音が聞こえてきた。ほとんど鞭の先が見えないくらい、すごい速さで振るっている。


 ぼーっとその様子を見ていると、シズネは解説を始める。


「まあ、こうしたら自分の身を守ることも出来るわね。そして……」


 シズネは話しながら、鞭に気を集中させる。すると、鞭全体が光ってきた。光の線が、シズネを覆い、それはどことなく舞っているという印象だ。


「武器に気を集めると、気を、その武器の形状にすることが出来るの。そして、それを放つと……蜷局!」


 シズネはそのまま鞭を前方に放つ。すると、鞭の先端から、細長い気が放出されていき、シズネの前にあった木に巻き付いていく。


「こうやって、敵の動きを封じた所を、ジロウ達に任せるというのが、私の戦法よ。もっとも……」


 シズネはクスっと笑い、こちらに視線を向けた。そして、鞭を思いっきり引っ張って、気を離すと同時に、先端を俺に向けてきた。凄まじい速さで、向かってくる鞭の先端をつかみ、シズネの攻撃を防いだ。


「もちろん、私自身もこうやって闘っていたけどね~」


 そう言って、シズネはニコッと笑った。


 いや……。


「……危ねえ女だな。急に何すんだ」

「ごめんごめん。貴方の実力が知りたくてね~」


 途中までは、気を攻撃以外に使う方法が見れて良かったなあと思っていたのだが、急に俺を攻撃してきてびっくりした。

 流石ジゲンの仲間だ。鞭を放すと、悪びれる様子も無く、腰に仕舞って、俺達の居る方に近づいてくる。


 横で、ジゲンとエンミはため息をついている。どうやら、この行動に出ることをある程度予想していたらしい。ならば言って欲しいものだと頭を掻いた。


「それにしても、流石ね~。私の鞭を掴んで止めるなんて。ジロウとサネマサくらいしか出来ないよ~」

「うるせえ」


 ケラケラと笑うシズネを睨むと、怒らない、怒らないと俺をなだめてくる。


 しかし、武器に纏わすと形を変える気というのは確かに面白いな。要は、鞭で放つ斬波と言ったところか。ふと、木を見てみると、既に巻き付いていた気は無くなっている。武器とのつながりが無くなる点では、斬波と同じようだな。

 なるほど、シズネはこうやって敵の動きを封じた後、ジゲンだったり、サネマサだったりの大技を補助する役割を持っていたというわけか。

 シズネ自体には、そこまでの攻撃力は無さそうだしな。ある意味無難で、息の合った戦い方だなと納得した。

 ただ、ふと思い出したことがあり、シズネに聞いてみた。


「しかし、うちのリアは、武器を使わなくても指先からまるで糸のような細い気を放出させて、俺を拘束してきたぞ。わざわざ武器を使わなくても良いのではないか?」

「へえ~……リアちゃんはそこまで出来るんだ~、すごいね~。確かにある程度体内に溜めた気を練ることに長けた人なら、武器を使わなくてもそれくらいは出来るわ。

 けれど、強度はこちらの方が上よ。リアちゃんがやったのは多分自分が溜めた気だけの力だけど、私のこれは、自分の力と、鞭の力の両方の力を使っているから、それこそ強度は雲泥の差よ」


 ああ、なるほど。以前アヤメから祭祀用の刀を借りて斬波を放った時の説明とほとんどおなじだな。

 斬波も使う気の量が同じでも、刀本来の力も合わさって、威力を増す。今回の拘束術も同じで、同じ気の量でも、武器を使うと使わないのとでは、大きな差が生まれるらしい。


「そうか……いい勉強になった。ただ、やはり最後のは余計だ。爺さんの仲間じゃなかったら、殴り飛ばしていたところだぞ」

「は~い、反省してま~す」


 本当かよ、この女……。また、何か仕掛けてきそうで恐ろしい。すると、横からジゲンが、すまぬ、と言いながら頭を下げてきた。仲間の不手際を謝りたいらしいが、俺は見逃さなかった。ジゲンもうっすらと笑っている。

 ああ、やはり内心楽しんでやがったかと睨むと、ジゲンは明後日の方向に視線を移した。


「んで……え~と……」

「……エンミ。覚えてよね」


 エンミは腰に手を当てながら不服そうな顔をする。さっきのシズネもそうだったが、ちゃんと名前で呼ばれたいらしい。気持ちは分かるが、ほとんど初対面なのだから、見逃して欲しいものだが……まあ、良いや。


「すまねえ、エンミ。お前は武器を下げてないな。屋敷に置いてるのか?」


 見たところ、得物らしいものは身に着けていない。今まで家事をしていたのだから、着ける必要もないかとも思ったが、別の理由で持っていないようだ。

 エンミは首を横に振っている。


「違うわ。私の武器は――」

「っと……ちょっと待て」


 エンミの言葉を遮り、俺は背後から突然飛んできた矢を掴む。呆気にとられる三人の前で、矢を弄びながら、矢が飛んできた方向を見ると、そこにはリアが弓を構えて立っていた。


「……急な奴だなあ。俺、起きたばかりなんだぞ」

「そうは見えないけど?」


 フッと笑みを浮かべて、リアは弓を下し、俺達の居る所まで来た。見たところ、リアもどこもけがをしていないようだ。きちんと治している。


 リアは、俺の前まで来ると、小さく頭を下げた。


「……おかえりなさい、頭領。そして……ありがとね」

「気にすんな。お前らも無事で何よりだ。ダイアンとカサネも無事なんだよな?」


 俺の言葉に、リアは頷く。二人は、目を覚ました後、レオパルドや牙の旅団の者達と共に、クレナ各地で普通に依頼をこなしているらしい。

 リアの方は、屋敷に残り、女たちの手伝いをしているそうだ。


 思えば、この三人の帰還から始まった今回の一連の騒動。誰よりも傷つき、それでも、俺の元へ帰ってきたというのは、本当によくやったなと思っている。コイツ等の無事を確認できて、良かった。


「にしても、頭領は流石ね。本気で当てようと思っていたのに……」

「それはまた、ずいぶんな挨拶だな。ただ、それならもう少し、殺気を抑えろ。どこから、どこに狙っているのかバレバレだったぞ」


 手に持っていた矢を返しながら、そう言うと、リアはクスっと笑い、ハイハイと頷く。実際の所は、矢が空を切る音で、気づいたんだがな。内緒にしておこう……。


 リアは、弓の調子を確かめながら、未だ呆然としているエンミに近寄っていく。


「あ、エンミさん。この弓、すごく使いやすいわ。ぶれもほとんど感じないし、引く力もそこまで必要としないから、連発も出来そう」

「……え、あ、うん……そう、良かったわ」


 リアの言葉に、ハッとしたエンミはしどろもどろになりながら、頷く。その光景を不思議そうな顔をして、見つめるリア。


「どうしたのかしら?」

「え……いや……ちょ、ちょっとまってね……」


 エンミは慌てた様子で、俺の方にずいっと寄ってくる。


「ねえ、ちょっと、貴方って、この子たちの頭領さんなのよね?」

「ん? ああ。それが?」

「この子、今、貴方を狙ったのよね?」

「そうだな」

「……何もないの?」

「何が?」


 弓兵らしく、矢継ぎ早に繰り出される質問の意味が分からない。俺が答えると、リアは、呆気にとられたように、ぽかんとしている。よく見るとシズネも何か困惑している様子だ。

 何だろうなと思っていると、ジゲンがフッと笑って、口を開く。


「ムソウ殿。急に矢を撃ってきたリア殿を叱らんのか?」

「あ? ……ああ、そのことか」


 ジゲンの言葉を聞いて、納得した。シズネとエンミが困っている理由も大体わかった。

 ……だよな。ここは俺が怒る場面だよな。急に何してんだ、って。


 ただ、リアが無事ということを直接目で確認して、更に俺に攻撃してくるあたり、そのあたりも大丈夫そうなので、安心しきっていた。


 しかし、それではいけないと思い、俺は咳ばらいをして、少しばかり叱ろうとリアの方を向く。


「……あー、リア。少し言いたいことが――」

「あ、頭領、この弓見てよ。エンミさんから貰ったんだけど……」


 俺の言葉を遮り、リアは俺に先ほどの弓を見せてくる。どうやら、エンミは自身の得物である弓を、リアに譲ったようだ。

 少し興味が湧き、リアからその弓を受け取る。


「……ほう、弓には詳しくないのだが、軽いな」

「でしょ? 何かの魔物の骨を使っているんだって。これなら、力の弱い私でも使いこなせそうよ。

 あと、いくつかの魔物の核を埋め込んでいて、矢に気を流す時に素早く、更に簡単に出来るようになっているんだって」

「へえ……ああ、だったら、急な時とかでも、素早く強力な矢が放てるということか……」


 便利な機能だと思った。機転の利くリアなら、あらゆる場面で対応するのに丁度いい。


「でね、面白い機能もあって、こうやって弦を引くだけで……」


 そう言って、リアは、弓の弦を引っ張る。すると、弓を握っている辺り、ちょうど藤頭の辺りから一本の矢が現れる。

 驚きながらも鑑定を使って視てみると、どうやらリアの指先から出ている気で出来ているらしい。


「面白いな。これなら、矢が無くても何とかなりそうだな」

「その分、気力と体力はごっそり抜けていく感覚があるけどね……」


 要は、気で遠くの敵を倒す、俺の剛掌波のような技を、弓で使って放つということが出来るらしい。そうなると、先ほどの斬波と同じ要領となり、技を使う者と、弓の力が合わさり、普通に放つよりも強力な威力となる。

 これで、矢が無くなったりしても、戦えるので便利だと思ったが、その分、リアが集めた気だったり、体力を消費するので、使う時は本当に危ないときか、もしくは、リア自身が気功スキルを極めたり、体力をつけないと多用は出来ないという。


 使いどころによっては、一本の矢と同時に、気で作り出した複数本の矢を放つことも出来るらしく、どちらかと言えば、殲滅特化という、牙の旅団が行っていたの戦い方に適した使い方が出来るという。


「また、良いものを貰ったみたいだな。……ただ、お前って、前は円月輪か何か使っていなかったか? 弓矢もいけるのか?」

「一通り、飛び道具系は使えるわ。私は、元々は猟師の娘として育ってきたから」


 あ、それで、色んな武器が使えるうちに、状況によって得物を使い分けているというわけか。思い返してみれば、コイツが使っている武器がどんなものだったか思い出せないな。円月輪の時もあるし、短刀の時もある気がする。手先が器用なコイツらしいな。


 前の世界のツバキと同じく、どれも中途半端な腕らしいが、弓矢だけは、幼い頃から獲物を狩るために練習させられたとのことで、一番自信があるという。


「なら、安心か。大事にしろよ」

「りょ~かい。……じゃあ、私は皆の手伝いに行くね」


 そう言って、リアは、俺とジゲン達に頭を下げて、屋敷の中へと入っていった。


 にしても、エンミが自分から、リアに弓を渡すとはな。ジゲンと共に、牙の旅団の武具を誰に渡そうかと考えていたのだが、今なら本人に決めてもらうことも出来るってわけか。後で少し相談でもしてみようかな。なんて、思いながら三人の方を向いた。


 すると、ジゲン達はぽかんと口を開けて、固まっているのが目に入る。


「……ん? 何かあったか?」


 誰にというわけでもなく、そう尋ねると、ジゲンが口を開く。


「ムソウ殿……」

「あ? 何だよ……」

「いや……何でもない」


 はあ、とため息をついて、ジゲンは頷き、俺の隣に座った。シズネとエンミも、ジゲンと顔を見合わせ、コクっと頷くと、縁側に座る。何だろう……。


 そういや、何を話していたのだろうか。寝ている最中も、起きた直後も、難しい話をずっとしていたので、未だ頭がぼーっとしているようだ。

 庭を駆け回る、たまを乗せたトウガと、小さな獣の姿になり、トウガの横を駆けているリンネを見ながら、俺もああやって、遊んでみようかな、などと思っていると、エンミが俺の肩を叩く。


「……ねえ、貴方って……」

「ん? 何だよ……?」

「……いえ、何でも無いわ……」


 何か言いそうだったことをぐっとこらえてエンミは黙った。何を言いたかったのか気になったが、大したことでもないと思い、俺は気にせずトウガ達を眺めていた……。


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