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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
災害級魔物を斬る
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第23話―デーモン討伐の旅に出る―

「なあ、ロウガン――」

「……まずは騎士団に報告……王都にもか……後はワイツ卿にも……」


 俺はロウガンに話しかけようとするが、答えてくれない。


「お~い、ロウガン……?」

「調査隊の編成……この街に居る冒険者……ダメか……リンス……いや……」


 ロウガンは頭を抱え、ぼそぼそと何か呟いている。


「おい! って、ロウガン!!!」


 俺が大声でロウガンを呼ぶと、机を叩き、顔を真っ赤にしたロウガンがこちらを向いた。


 「さっきから、うるせえぞ! ムソウ! 何の用だ!」


 ロウガンは俺に向かって怒鳴りつける。流石の俺も若干怖いと思ってしまうが、息を整え、ロウガンに、あることを伝える。

 

 「なあ、ロウガン。この前の約束は覚えているな?」


 俺はロウガンにそう言った。そう、精霊人の森から帰ってきたあの日、ロウガンに上級以上の魔物討伐があれば、優先的に伝えてくれというものだ。

 俺の言葉にロウガンは少し、落ち着きを取り戻す。そして、深く考え込み、俺の方を見た。


「……だが、現状も不明で直ちにお前だけが動くのは危険すぎる。万が一、お前が負けたら、問題だからな」


 ロウガンは俺が行くことを反対した。災害級に匹敵する魔物だ。万が一、俺が倒されたら、それこそどうしようもなく、マシロが危険と言っているみたいだ。

 

「更に言えば、今、お前を喪うのは俺が辛い……」


 と、ロウガンは続けた。俺が死ぬことを想定しているのか。嬉しい話だが、そう言われれば、俺にも譲れないものがある。


「それを言うなら、俺にとって、ウィズたちは同じ日に試験を受けて冒険者になった同志だ、放ってはおけない」


 ……そう。俺がこの世界を歩きだしたその日、ロウガンやリンスと共にあいつらもいたんだ。俺にとってはこの世界で最初にできた、仲間だと思っている。


「……ロウガン、俺はかつて多くの仲間を失った。あの時、俺が居ればと、何度悔やんだかわからない。俺が居れば助かったのかもしれない、と。あんな思いはもうごめんだ。……もう、仲間を喪いたくない。……頼む!」


 俺はロウガンに懇願するようにそう言った。ロウガンはジッと俺を見ているが、首を横に振り、苦い顔をする。


「……駄目だ。お前一人で行くのは認められない。もしものことがあったら、どうする!? 討伐隊の編成を待って、それに加われば――」

「ねえ!」


 突然、ミサキがロウガンの言葉を遮り、肩を叩いた。


「……なんだ!? 取り込み中だ! 後にしろ!」


 ロウガンは怒って無視しようとしたが、ミサキも怒ったらしい。頬を膨らませて反抗する。


「むう、話くらい聞いてよー! さっきの救援魔法に、この私が気づいて、今の状況なんだから、ちょっとは感謝してよね~!」


 ミサキの言葉にロウガンは若干イラっとしたらしく、舌打ちをして、ミサキの方を向く。


「……なんだ? 何か言いたいことがあるなら言ってみろ」


 しかし、ミサキは、ロウガンの怒りなど露知らず、ケロッと笑顔を向けた。


「私がムソウさんについていくのはだめ?」


 ミサキの一言に、ロウガンは声を荒げた。


「ふざけるな! どこの誰かもわからんのに、そんなこと任せられるか!」

「えー、役に立つと思うけど……」

「何がだ! 見た感じ魔法使いみたいだな。行ってムソウに補助魔法でもかけるつもりか? そんなのすぐに解かれて、ムソウは死ぬぞ!」


 む……さっきからロウガン、俺が死ぬことばかりを考えているな。そんなに強いのか? デーモンは……。俺が笑顔で、


 「よう! 帰って来たぜ!」


 というのは想像できないのだろうか……。


 そんなことを考えていると、ミサキがさらにニコッと笑って口を開く。


「違うよー。私も攻撃するのー!」


 ミサキは楽しそうに、手をシュッシュと出したり、手に持っていた杖を振ったりしていた。


 しばらく続く沈黙の時間……。俺は何となく、耳をふさいだ……。


「ふざけんなあああ~~~ッッッ!!!」


 ……あ、やっぱり、ロウガンが切れた。顔を真っ赤にして、仁王の形相で怒っている。先ほどの声で、慌て始めたのか、ギルドの入り口の方がさらに、騒がしくなってきた。


 みんな、すまねえ。俺は、火に油を注ぎ続ける“魔法帝”を止められなかったよ……。


 俺が耳から手を離すと、ロウガンがまくしたてるようにミサキに説教を始めた。


「さっきから言っているだろうが!デーモンに魔法はほとんど効かねえんだよ!

 てめえが行って、魔法撃ってなんになる!?

 仮にデーモンに効く魔法があるとして、お前みたいな奴が使えるわけねえだろ!

 使えるとしたら、ギルド長セイン殿か、俺の師匠、“武神”サネマサ殿のような十二星――」


 ロウガンが声を荒げながらそう言いかけると、ミサキはニヤッと笑って、目深にかぶっていた帽子を脱いだ。そして、冒険者の腕輪をかざす。


 名前:ミサキ・サトウ

 年齢:16

 出身:異世界(東京都)

 職業:魔法帝、じぇいけい☆

 種族:人間(迷い人)

 所持武器:神具「魔導神杖(まどうしんじょう)

 スキル:採集(極)、錬金(極)、調合(極)、調理(極)、鑑定(極)、気功(極)、心眼

 EXスキル:うみだすもの、言語理解、言語変換

 技

 魔法創造

 魔法組み換え

 時空間魔法

 龍言語魔法

 召喚術

 命の創造(要制限)

 奥義「まきもどしぃ~」

 奥義「はやおくりぃ~」

 奥義「しんりんかっせいか~」

 奥義「やっちゃえみんな!」

 特筆事項

 すべての魔法に適性あり。魔法創造により生み出された魔法は、ここには記述されない


 おお、あの腕輪使ったら、ああなるのか。職業のところと、技のところ、なんだろう。意味は分からないが、何かめちゃくちゃムカつく気がするな。


「天だ……?」


 ……お、ロウガンが言いかけていた言葉を紡いだ。


 しばらく、沈黙。


 ……


 ……


 ……


 ……


「あああああああああああああ!?」


 ロウガンが驚愕の声を上げた。そして、ミサキを指さしながら、俺と交互に見る。

 

 ……知らないぞ。俺は何も知らない。ただ、街でばったり出会った“魔法帝”をギルドに連れてきただけだ。俺は何もしてない……。


「な、な、な、なにが起こってる? 落ち着け、俺。そんなに都合よく、ここにミサキ様がいるわけない。

 ムソウが必ず何かやらかす男だとしても、そんなこと絶対、あるわけない!」


 ……やっぱり俺はそんなふうに思われていたか。でも違うぞ、今回のはこいつから俺に来たんだ。俺の所為じゃない。どちらかと言えば、俺は巻き込まれたんだ。

 というか、ロウガン、やはり気付いていなかったか。まあ、コイツの場合、十二星天には誰にでも、敬意を表しているみたいだからな。最初から知っていれば、先ほどのように、怒ることも無かっただろうにな。

 ふと、ミサキを見ると、ロウガンの反応が面白かったのか、ミサキは腹を抱えて笑っている。俺の時もそうだったが、こいつは人を驚かせてその反応を楽しむという悪い癖があるみたいだ。

 俺が何も言わなくても、帽子を目深に被っていたのはそのためか? 趣味の悪い趣味だな。


「説明しろ!どういうことだ!?」


 ロウガンは俺に向かってそう言った。俺は深くため息をつき、ミサキとの出会いから、これまでの経緯を簡単に説明した。


「……うーん、師匠が何を言ったのかわからんが、お前は完ッ全に王都……あるいは、他の十二星天様に目をつけられたかもな……」

「そのようだな。サネマサを悪く言うつもりはないが、正直参っている。なにせ……」


 俺とロウガンはミサキを見る。ミサキは落ち着いてきたのか、もうそこまで爆笑していない。俺たちが見ていることに気付くと、


「なあに?」


 と、笑顔で言ってきた。


「こんなのが続きそうなんだからな……」


 ロウガンも俺も半ば呆れ気味になっている。


「……まあ、しょうがないか。何はともあれ、今は最高に運がいいと考えておこう。ミサキ様がいるんだからな。安心して、お前を見送れる」


 はあ、何はともあれ、ようやく俺が行くことを認めてくれたか。ロウガンにはやはり、苦労ばかり掛けるな……。

 そんなことを思っているとロウガンは俺の肩に手を置き、


「何せ災害級に匹敵する魔物だからな。気を付けて行けよ。そして、生きて帰ってきてくれ……」

「ああ。任せとけ」


 正直、どうなるかはわからない。ウィズたちが今でも無事なのかどうかも正直、不安なところはある


 ……だがなんだろうな、この高揚感は。強者と闘える喜びなのか……。俺は湧き上がる興奮を抑えていた。


 さて、 ロウガンと別れて、マリーのところに向かう。正体を現したミサキも隣だ。ギルド内は、ミサキを指さして、ひそひそ言っていた。その度に、ミサキはそいつらに手を振ったりもしている。良い言い方をすれば愛嬌を振りまいているのだが……。先ほどの一件といい、こいつの行動は読めないな。

 しかし、ミサキの登場により、先ほどまで不安がっていた冒険者の奴らも、落ち着きを取り戻していっている。頑張ってくださいと、自身を応援する冒険者達に、ミサキは街のことは頼んだよ~! などと言っている。何で、アイツが仕切っているのだろうかと頭を抱えながらマリーの所に行くと、すでに支給品の用意がされていた。


「……ムソウさん、ミサキ様、今回の依頼は、ギルドからの依頼ということで、受理されました。ギルドは支援を惜しみません。これらをお受け取りください」


 そう言われて、確認する。


 回復薬(大) 10個

 活力薬(大) 10個

 魔法回復薬(大) 10個

 気力回復薬(大) 10個

 魔法防御の外套 10個

 聖杯 5個


 ずらっと並べられたが、よくわからない。マリーに確認すると、薬に関しては、それぞれ書かれているいずれかが、大きく回復する。

 回復薬(大)に関しては、複雑骨折くらいなら、すぐに治るというが、欠損に関しては治らないという。

 活力薬は、個人の治癒力を上げるというもので、回復薬と併用することで、効果を上げるという。

 魔法回復薬は、魔力の回復だ。これは、全部ミサキのものだな。俺は、魔法使えないし……。

 気力回復薬は、気を集める力を上昇させるという。気を使うような技を連発で使うなら、持っていてくださいと言われたので、一応、持っておく。


 魔法防御の外套はデーモンの使う、魔法を防ぐために用意されたらしい。早速羽織ってみると、案外薄いようだ。軽くて動きやすいが、小さな魔法でも数回当たると機能しなくなるというので、大量にくれたみたいだ。


 そして、聖杯だ。聖杯は聖なる炎と水を生み出すもので、デーモン属が特に嫌うものらしい。ミニデーモンに群がられたときに使うと、効果的というが、かなり高価なもので、これだけしか用意できなかったという。

 ただ、ミサキは、これだけあればじゅーぶん!と言っていたので、まあ、大丈夫だろう。


「……では、ムソウさん。くれぐれも、お気をつけて……」

「おう」


 マリーの言葉に頷き、俺とミサキはギルドを出た。その際に、ミサキは街の防壁を少しばかり点検した。その上で、新たに強化の魔法をかけて、万が一にここが襲われても、大丈夫だとニコッと笑った。

 こういうところだけ、良い奴なんだよな、コイツ。余計なことをしなければ良いのにと思いながら、俺達は街を出ていった。


 ◇◇◇


 今回の依頼の場所は、マシロ領の山岳地帯だという。歩いて、半日ほどの所にある山の中腹あたりにミニデーモンの目撃情報があり、ウィズたちはそこに向かったということだ。

 前の精霊人の森への道は荒野をただ歩くだけで、ほとんど平たんな道だった。だが、今度は山ということもあり、結構険しいらしい。


「このまま、歩き続けて、早く着いても夜、か。やはり、日が昇ってから接触した方が良いのか?」

「う~ん。ただの討伐依頼なら、そうだけど、今回は下手をすれば救助もかかっているから早めに行った方が良いのもありかな。ま、私はムソウさんに従うよ~」


 ミサキはどうやら、俺を指揮官とみているらしい。俺としてはこの世界のことに詳しい、ミサキを指揮官として、動きたかったものだがな。


「……なら、休みながら行って、明日の日中に接触するようにしよう。歩き疲れて戦いにならなかったら、本末転倒だからな」

「りょーかーい」


 ミサキはそう言って、手を頭の上にかざす。


「……なんだそれ?」

「敬礼っていうの。わかりましたって言うときに使うの~」


 へえ、ミサキの世界ではそういうのもあるんだな。ただ、ミサキは基本的にお茶ら気ているからな。本当かどうかも怪しいものだ。デーモンに会っても、この調子だとどうしよう。……その時は本気で叱ろう。


 と、そういえば……


「……なあ、ミサキ」

「なあに?」

「お前の使う、時空間魔法だっけ? あれで、迷い人が来るっていう話は本当か?」

「本当だけど、どうして?」

「いや、前に歴史が書かれた本で書かれていたことなんだが、サネマサの話を聞く限り、どうもあやふやみたいだからな」


 以前サネマサが俺に言っていた、鬼族からの頼みごとの件だ。サネマサははっきりと、そんなものは無かったと語った。ならば、ミサキの魔法についても、誤りがあるものだと思っていたが。


「ムソウさんが何を読んだのかはわからないけど、私のせいで迷い人がこの世界に来るというのは、事実だよ」


 ミサキはそう言った。なんでも、壊蛇襲来の際は、時空間魔法を使い、民衆への被害の低減や、壊蛇への攻撃で、いつもより、多用したらしい。その結果、こちらの世界に、迷い人と思われる、人間たちが降り立ったという。

 ちなみに、「迷い人」という呼称は、この頃からできたらしく、それまでは、転生者も、召喚者も、ただのすごい人という印象でしかなかったらしい。

 だが、保護した迷い人たちの話を聞き、自分たちも別の世界から来たと公表した十二星天たちによって、異世界から来た人間を迷い人と、呼称されるようになったという。


「……そうか。ではここ最近で時空間魔法を使ったのはいつだ?」


 俺はそう尋ねた。俺がこの世界に来た理由を知りたかったからだ。俺は、死んでいないから転生者ではない。神族に会っていないから、召喚者でもない。と、すればミサキの魔法に巻き込まれたという結論に至り、この謎を解明したかったのだ。しかし……


「最後に使ったのは……もう30年ほど前になるかな? 壊蛇襲来の時を最後に使ってないよ~。迷い人が増えて、反省したんだ……」


 ミサキは、そう語った。ミサキの言葉を聞いて、驚く半面、納得した自分がいた。

 そう、正直俺はどれでもないんじゃないかという思いが心の中にあった。EXスキルが多いのがいい例だと思う。俺は神族でも鬼族でもない、もっと違う何かが呼んだんではないかと。

 ならば、なぜ俺を呼んだのだろう。なぜ俺なのだろう。疑問が消えると、また疑問が増えていく。本当に難儀なことだ。


「……ムソウさんが悩んでるの、分かるよ。でもね、それはどーでもいいって考えてるの。今、ここに、ムソウさんが居る。それで十分じゃないかなあ?」


 俺が考えていると、ミサキは励ますようにそう言った。グレンと同じこと言ってるな。


 ……そうだよな。うじうじ考えるのも俺らしくないからな。

 ……もう、この件に関しては考えるのはやめよう。また、いずれわかる時が来るかもしれないからな。


「そうだな。はじめて、お前に感謝するぜ」

「むう……私、もっといいことしてるよね?」

「ははっ、じゃあ、これは礼だ」


 俺は、何なに!? と、どこか期待するように目を輝かせるミサキの頭を撫でた。

 ミサキは一瞬キョトンとしたが、すぐさま、顔を赤くして、帽子を目深に被った。


「いじわる~~~~~!!!」


 ミサキはそんなことを言っている。俺は、前を向き、デーモンが居るかもしれないという山岳地帯に向けて歩き出した。


 その後、俺とミサキは歩き続け、デーモンが居るという山が見えた頃、既に、辺りは夕焼けに染まっていた。やはり、この時間から動くのは危険だな。

 一応、今日は魔物には会わなかったので、怪我や、魔力の消耗などは無いが、向こうは集団だから、夜になるとこっちが危ないかもというミサキの判断に、俺も頷いて、とりあえず、今日はここで野宿をすることになった。


「よし、俺はこの辺りで寝るか……」


 俺は、ちょうどいい木陰を見つけ、腰を落とした。傭兵時代は常に野宿だったからな。こんなものは慣れている。

 魔法防御の外套を羽織ってみると、意外と悪くない。今日は一日歩いてばっかりだったから、ちょっと疲れたな……今日は、早めに、寝るかな……


 ドスンッ!


「な、なんだ!?」


 突如響いた音、それに少しばかりの地響きに思わず起き上がった。

 見ると、ミサキの前に家が建っていた。マシロでもよく見る、ごく普通の家だ。


「よいしょっと。こんな感じかな?」


 ミサキは、手をパンパンと叩き、そう呟いた。こんな感じって……。何が起きたんだ。何したんだ? あいつ……。


「……な、なあ」

「ん? なあに、ムソウさん」

「……それ、なんだ?」

「何って家だけど?」

「いや、そうじゃなくて、……どうやったんだ?」


 俺は家を指さして、尋ねた。


「異界の袋から出したんだけど……?」


 さも、当たり前のことのように、ミサキはそう答えた。

 なおも茫然とする俺を見て、ミサキは何かに気付いたように、教えてくれた。


 ミサキ曰く、家を買って、異界の袋に入れて、野宿をやり過ごす冒険者もいるらしい。

 ……というか、最初にやり始めたのがミサキらしい。ミサキが冒険者になって、最初に思ったことが、


「冒険って、楽しいけど、不便よねー。荷物かさばるし……」


 だったそうだ。そこでミサキは空間魔法を駆使し、あらゆるものを収納できる魔法を、開発したという。これにより、ミサキは荷物を一切持たず、冒険を楽しんだという。それに目を付けたギルド長セインは、なんとか、それを普通の人間にも使えるようにできないかと考え、ミサキや他の十二星天の者達と協力し、異界の袋を創造したという。

 ……異界の袋の便利さは俺も使っているからよくわかるが、事の発端がこいつのだらしなさだったとは……。で、まさか家まで持ってきて、旅とは。……冒険って一体……。


「……で、どうするの?ムソウさんは外で寝る?家の中にくる?」


 ……くぅ、悩む。悩むが、ここで、大人ぶっても仕方ないからな。……意外と疲れているし。……くそっ……


「……泊めてくれ」

「え~? 聞こえないけど~?」


 くそ!こいつ!


「泊めてください!」


 俺は恥を捨てて、年下の女にそう頼んだ。


「じゃあ、交換条件ね! 私、疲れたから、晩御飯は任せるよ~! 出来たら、起こしてね~! じゃ!」


 ミサキはそう言って俺に手を振り、家の中に入っていき、


 ガチャッ


 鍵を締めた。


 ……


 ……


 ―ひとごろ―


 ……おお、落ち着け俺。こんなことで、キレてどうするんだ。たかが飯を炊くだけだ。精霊人に対しても、おにぎりを握ったじゃないか。大丈夫だ。うん。飯ぐらい作ってやろうじゃないか。


 俺はそう思って自分を納得させた。さて、飯にするにしても、干し肉しかないな。塩とか味噌は、傭兵時代の癖で、切らしてはいないからな。それは大丈夫なんだが……。と、そうだ。確かあっちに……。


 俺は目当ての場所に移動する。それはただの川だった。来るときに水の流れる音が聞こえたのだが、やはりあったか。結構大きいな。それに、山に近いからか、水も綺麗だ。

 今日はここで魚でも獲って、焼いて食うかな。ここ最近は肉ばっかりだったから、たまには違うものを食べたいと思っている。


 そして、俺は無間を手に取り、川へ向けて思いっきり叩きつけた。


「おらあ!」


 パンッと良い音がして、川に水の柱が上がる。すると、水面に魚が浮かんできた。


「よぉ~し! うまくいったな」


 俺は浮いてきた魚を取ろうと川の中へ入った。


 結構獲れたな、10匹ほどか? これだけあれば大丈夫だろう。


 後は、木の実でもあれば良いだろうと思い、川を後にしようとする。しかし、突然、背後からバシャバシャと音が鳴る。


 なんだ、と思い振り返ると、川の中ほど、深いところの水面が泡立っている。そして、泡は段々と激しさを増し……


 ザバーン!!!


「な、なんだ!?」


 川の中から何かが飛び出てきた。見るとそいつは8つの体を持つ大きな魚だった。8の首に、尻尾が一個。どんな体だ?

 俺が疑問に思っていると、その魚は俺に向かって噛みつこうとしてきた。


「おお! 危ねえ!」


 どうやら魚は、俺を食う気らしい。なんなんだ、こいつは。

 俺は、早速鑑定眼でその魚を視た。


 ヤマタノヤマメ

 8つの胴体を持つ川の主。非常に獰猛で、縄張りに近づく者には容赦しない。食に関しては無害。


 ホント……なんだ、コイツ。一応……食えるのか? 八つの胴体の魚で、見た目はすこし気持ち悪いが、魚は魚か……。

 良し、こいつを狩ろう。


 俺は無間を手に取り、臨戦態勢に入る。ヤマタノヤマメは突進してきたが、俺は跳躍し、それを躱しつつ、奴の上、つまり背後をとった。


「斬波!!!」


 俺の攻撃はヤマタノヤマメに直撃し、8つの首を落とした。そして、ヤマタノヤマメはそのまま絶命した。


「よし! 見た目は気味が悪いが、所詮は魚だったな」


 その後、ヤマタノヤマメを異界の袋に入れて、ミサキの元へと帰った。


 もう辺りは薄暗くなってきたな。早く帰って飯の用意としようか。だが、途中で、あるものが見えた。来るときには気づかなかったが、これは……。


 おお! この世界にもあるのか! 飯食った後にでも来てみようかな。


 俺はそう思い、帰路についた。


 ◇◇◇


 さて、日が沈んで辺りが少々薄暗くなってきた頃、ミサキの家の前まで帰ってきた。早速、晩飯の用意に取り掛かる。と言っても、火を起こして、魚に塩を振って焼くだけだ。


 ヤマタノヤマメもどうしようかと思ったが、焼くものと、味噌と一緒に煮るものと二つ作ってみた。豆腐があればいいんだが、仕方ないか。だが、今回は米がある! 前に精霊人から貰っといたんだよな。魚の塩焼き、みそ汁、米……今日の晩飯は最高だな。

 パチパチと魚の焼ける音が聞こえる。香ばしい匂いも伝わってくる。……あ、そうだ。


 俺は煙を扇いでミサキの家の方へ向けて送った。このいい匂いを、ミサキにも嗅がせてやろう。何とも、落ち着く、良い匂いだからな……。


「~~~~~~~~!!!!」


 お、ミサキが起きたようだ。家の中が騒がしくなってきた。よし、ここで扇ぐのをやめよう。

 その時、ミサキが飛び出してきた。


「ちょっと!!! ムソウさん! 何かしたの!? 家の中、煙いんだけど!」

「……は? 何のこと……ああ、魚を焼いていたんだ。風向きの所為かな、すまんすまん」


 俺は適当に頭を下げる。……よし、これで鬱憤は晴れた。サヤが俺にしてきた、いたずらの一つだ。あいつもよく、俺の方に煙をやって、俺が文句を言うたびに、こう言ってたな。


 ミサキはまだ何か言っているが、俺の前の魚を見て、


「うわあ! おいしそう! しかも、ヤマタノヤマメじゃん! バカみたいな名前だけどおいしいんだよねえ~」


 とか言っている。よしよし、ミサキも喜んでいるな。というか、美味いのか。尚更、楽しみになってくるな。


「よし、じゃあそろそろ食べるとしようか」

「はあ~い!」


 米が炊かれ、魚も焼けたことを確認し、俺とミサキは焚火を囲んで、晩飯にした。魔物の気配は近くには無い。安心して食うことが出来る。


 ヤマタノヤマメはミサキの言うようにとてもおいしかった。味はたんぱくなのだが、肉のような歯ごたえと脂で、食べていると、また次も食べたくなるような、そんな味だ。これは、醤油や酢でもよかったかもしれないな。

 そして、みそ汁も、魚の出汁が出ていてとてもうまい。米によく合うな。ミサキもおいしいと言いながら、むしゃむしゃと食べている。

 ……意外とよく食うな。あの細い体のどこに入るんだ?


 ◇◇◇


「は~、おいしかった~」


 俺たちは夕飯を食べ終えた。ミサキは、結局普通の焼き魚八匹と、ヤマタノヤマメの胴体四匹分を食べた。ここまで食うとは思わなかったな。明日の朝飯は質素になりそうだ。

 食後にと用意した甘い木の実まで、ミサキはむしゃむしゃと食べている。


「おい、口の周りが汚れているぞ」


 俺は、手ぬぐいで、ミサキの口の周りを拭いてやった。するとミサキは


「ムソウさんって、お父さんみたいだね」


 と言ってきた。


「ん? ああ、よく言われるな。……息子はいたからな」

「へ~! そうなんだ!どんな子?」


 ミサキは食いつき気味に聞いてきた。


 ……正直サヤのことも、息子のことも、誰かにあまり話したくなかった。辛いことも思い出すからな。

 けど、最近は話したい気持ちの方が強い。俺にとっては本当に、いい家族だったからな。俺なんかに、あんな幸せな時が来るとは思ってもいなかった。


「……ああ、少し長くなるぞ。大丈夫か?」

「うん!」


 目の前の焚火を見つめながら、俺は家族について、ミサキに話し始めた。



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