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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
238/534

第237話―ムソウが目覚める―

 さて、だいぶ話がそれたが、最後はコウカとシンラの再会についてだ。俺にとっては、カンナ、サヤ、ついでにタカナリとの再会に関する話でもある。

 ……なるほど、最初に言っていた俺も関わるってのは、こういうことか……。


 俺は次にコウカの方に顔を向けて、何個か聞いていく。


「カンナ……シンラと、サヤ、それからタカナリはどこに居ると思う?」

「う~ん……色々考えたけど、神界と冥界には行っていないと思う」


 コウカの言葉に、俺も頷く。壊蛇の襲来をエンヤに伝えたとき、ケアルは何も語らなかったらしいからな。むしろ、カンナ達が居ないということに大層驚いていたという。


 エンヤ達と別れた後、ケアルはエンマと共に、カンナ達の魂を探したらしい。しかし、人界、冥界、天界のどこを探しても、ついに魂は見つからなかった。


 しかし、無に帰した可能性も限りなく低いし、何らかの手違いで輪廻の輪に戻ったということもあり得ないらしい。間違いなくどこかにカンナ達が居るという結論になったという。


 ただ、人界には居ないとエンヤは語る。俺と共にこの世界に居ながら、ひそかにエンヤは三人の魂を探っていたという。だが、結局、今のところはその痕跡すらわからないとのことだ。

 エンヤの報を受けて、コウカは項垂れる。


「ねえ……ザンキは……どこに居ると思う?」


 コウカは必死な様相で、こちらを見てくる。ここまでカンナやサヤのことを思ってくれて、本当に嬉しく思う。

 だが、とは言われてもということで、こいつらが分からない以上、俺に分かるはずも無かった。


「どこかは分からないが、姿を消す理由とかはありそうか?」

「ううん。私は何も聞いてないなあ。頭領さんは?」

「無論、俺も聞いていない。言われていたら、ここで頭抱えていねえよ」

「じゃあ、姿を隠す方法は? スキル使ったら出来るんじゃねえか?」

「ああ、隠蔽スキルだな。確か、タカナリは持っていたが、カンナとサヤは持っていなかったぞ」

「というか、そこまでして姿を隠したい理由って何だろう……?」

「……コウカ、それを言うと、堂々巡りになるからやめろ」


 俺の言葉に、コウカはコクっと頷く。悪気はないんだろうが、三人は姿を隠している。まずはその理由をと思っているのだが、二人とも心当たりは無いらしい。それだと、完全に手詰まりということになるな……。


「ちなみに、俺みたいにカンナ達もまた、他の世界に移動したって可能性は?」

「それは、無いと思うよ。そんな反応無かったし、あったらお父様たちが気付くはずだし……」

「迷い人が来たり、この世界から人が居なくなったりするくらいの時空の歪みは、数千年の間、確かに無かった。ミサキって魔法使いが、時間と空間を操る魔法を生み出すまでは、平和なものだったよ」


 エンヤはやれやれと肩をすくめる。本当にすげえんだな、あいつ。エンヤまでも、呆れ……いや、感心している……。

 ん? ……ということは、俺がこの世界に居るということは、ケアルとエンマも、向こう側から察知しているのか? ケアルはまだしも、エンマについては、子供同士が結婚した仲ということになるわけである。

 こちら側から冥界に行けない以上、向こう側から、会いに来て欲しいものだな。

 ……それとも、会うほどでもないとでも思われているのだろうか……。まあ、これについては、今はどうでも良いので、あまり気にしないでおこう。


 ともあれ、カンナ達が、この世界からいなくなった可能性は限りなく低いようだ。

 では、未だ、この世界に居るということになるが……。


「あ゛~っ! クソッ! あいつら、どこ行ったんだ!」


 考えれば考えるほど、ドツボにはまっていく感覚がして、俺はつい不満を爆発させた。急に大声を上げたものだから、エンヤとコウカは目を点にしている。

 ハッとした俺は気を落ち着かせて、深呼吸した。


「……あ、すまねえ。話を続けよう……」


 二人の方に向きなおすが、エンヤとコウカは何やらクスクスと笑っていた。


「ホント、ザンキとシンラって似てないね。すごく……怖い……」

「ああ。カンナがコイツから継いだのが力だけで良かった。性格はサヤ譲りだな」


 などと言いながら、二人はケラケラと笑っている。むう、何となく含みのある言い草だな。ますますイライラしてくる。

 だが、そんな俺にエンヤはニカっと笑って、肩を組んできた。


「まあ、さっきも言ったようにこうやって、俺とザンキが会えた。俺とコウカが会えた。そして、サヤの友人で、カンナの妻であるコウカと、サヤの夫で、カンナの父親であるお前がこの世界で出会えたんだ。いずれ、お前とコウカもカンナ達に会うことが出来るさ」


 エンヤの言葉にコウカも頷く。


「うん。ザンキと会えて、頭領さんとも会えて、私の時間は無駄じゃなかったって、思えるようになった。

 それで、充分。私はこれからも、シンラたちに会えるって信じ続けることが出来る」


 コウカはそう言って、俺の手を取り、ニコッと笑った。心なしか、いつもよりもコウカの触れた手が温かいと感じる。

 二人の言葉に、何となく安心した俺はフッと笑い、これ以上は、ここで考えるのをやめると決めて、二人に告げた。エンヤとコウカは静かに、俺の申し入れを受け入れる。


「すまねえな……やっぱり、考えれば考えるほど、分からなくなってくる……」

「ううん、良いの。でも、ここでのことは決して無駄にならないと思うから」


 だから、焦らなくても良いというコウカの言葉に、俺は頷いた。恐らく俺以上にカンナ達に会いたいと願い、俺よりも長く願い続けたこいつには本当に申し訳ないと思う。

 しかし、先ほどエンヤが言ったように、あり得ないと思われたことがこうして起きたんだ。

 きっと、また、カンナとサヤに会えるだろうと、俺は思った。


「さあ~て、湿っぽい話は終わりだ。お前の魂が癒えるまではまだ時間がかかるだろうし、せっかくだから、昔話といこうか!」


 エンヤは俺の肩を叩き、ドカッと座った。何でも、EXスキルを多用すると、肉体もだが、魂も大きく疲労するという。EXスキルは肉体由来というよりは、魂の力を使うから当然だ。あれだけの力を使ったのだから、俺が目を覚ますまで、後四~五日はかかるらしい。そういうことは最初に言ってくれと……って、言っていたな、今回は長く眠ることになるって……。


 ただ、昔話って、さっきも散々やっていたじゃねえかと言うと、エンヤは目を丸くさせる。


「はあ? 何言ってんだ。今度はお前が、サヤやカンナのことだったり、前の世界のことを話すんだよ。お前が小さいときの話から何から何まで、コウカに聞かせてやれよ」


 エンヤの言葉に、コウカは強く頷く。


「うん! お願い! ザンキの……いいえ、「お義父さま」のお話、聞かせて!」

「……その呼び方は辞めろ。大体、カンナ達から聞いたんじゃねえのかよ……?」

「本人と、他の人から聞くのとじゃあ、全然違うかも知れないじゃない?

 それに、サヤとカンナはザンキが優しいって言っていたけど、ハルマサさんたちは違うって言っていたし、頭領さんも、ザンキのことただの悪ガキって言っていたし、どれが本当か分からないの……」


 コウカの言葉を聞いて、俺はエンヤを睨む。エンヤは焦った様子で、俺から視線を逸らし、口笛を吹いた。ホント、皆、俺のことをどう説明したのだろうか……。


「はあ……分かった。ちゃんと説明するから、しっかり聞いていろよ」

「うん!」


 何時になく子供らしくニッコリと笑うコウカの頭を撫でて、俺は二人に自分のことを話した。コウカがカンナに言っていた、今はここに居ない者の話をするよりも、昔は居た奴らの話をする方が確かに楽しいと感じていた。


 そして、俺も、エンヤとタカナリのこと、人界を治めるようになったコウカとカンナの幸せな日々の思い出話を聞いていった。


 ◇◇◇


 その後俺達は、本当に時が経つのを忘れて語り合った。

 念願の、エンヤが昔俺に真冬の川に突き落とした話などをすると、エンヤは、ギクッと身を震わせながら、


「正直、俺もあの時はやり過ぎたと反省している」


 と言うものだから、一発だけ殴って、俺は満足した。反省しているのなら、それでいい。


 そして、俺はコウカがラセツを生んだ時の話を聞いた。カンナはその時、居ても立っても居られなくなり、出産を待ち望み、集まってきた仲間達と気を紛らわせるために手合わせをしていたという。

 ハルマサとエンヤ、それにゴウキとエイキを相手取り、カンナはボロボロになるまで闘ったそうだ。

 ある意味、邪神族との最終決戦よりも力を使って闘う様を見て、シンキは呆れ、倒れそうなカンナに肩を貸し、コウカとサヤの元に向かったそうである。

 そして、コウカが抱いていたラセツを見ると、ニコッと笑い、


「父さんも……頑張ったからね……」


 と、ラセツを撫でていたという。流石のコウカとサヤも、その時はカンナに呆れ、サヤは、カンナが生まれて来た時の俺の様子はこんなんじゃなかった気がする、と項垂れていたそうだ。

 俺も、闘いから帰ってきた時だったから、人のことは言えないが、やはり妻が頑張っているときに、そばに居てやれない男は駄目だと笑った。


 エンヤは俺のガキの頃の話をする。ガキの頃から不愛想だっただの、エイシン達に対しても殺意を振りまくどうしようもない悪ガキだっただの、俺も覚えていない、散々な内容をため息をつきながら話すエンヤ。

 その度に、イラっとし、拳を握り締めると、


「本当に似てないね」


 と、コウカは、俺とカンナを比べながら呟いていた。


 しかし、サヤと出会った時の話になると、何故か感慨深げになり、キラキラとした目で、俺の方を見てきた。


「落ち込んだ女の子を助けるってところは、同じなんだね……」

「……うるせえ」


 コウカの言葉に、ぶっきらぼうにそう言うと、エンヤとコウカは笑っていた……。


 やがて、一通りの話が終わった頃、エンヤは、何かに気付いたように顔を上げる。


「……ん? そろそろ、みたいだな……」


 何が? と思って、俺も顔を上げると、コウカの身体がぼんやりと輝いているのが目に入った。どうやら、魂の回廊から、現実の世界に帰る時が来たようである。

 俺は立ち上がり、戻る準備を始めた。


「さて……取りあえず、二人とはしばらく別れることになるな」

「うん……やっぱり……少し寂しいな」

「そう言うな。俺は俺で、大地でやることをやっておくよ」


 そう言って、頭を撫でてやると、コウカは笑った。


「俺は言ったように、お前の刀である斬鬼か、もしくは無間を修理してくれたら、またお前と行動するが、良いか?」

「ああ、もちろんだ。無間については、直せるものなら、コモンと相談してみるよ」

「頼む。なんだかんだ言っても、やはりあっちの方が、魂が馴染む気がするからな」

「はいはい。まあ、近々刀精の祠にも行くから、その時はまたよろしくな」

「はいよ。俺も偶像術ってのには興味があるからな……ところで、これからお前は何から始めるつもりだ?」


 エンヤに言われて、俺は少し考え込む。カンナ達を探す手掛かりは確かに今のところは無い。何から手を付ければ良いものか……と、そうだ。


「取りあえず、シンキって奴を探してみる。今も生きているんだよな?」

「あ? ああ、恐らく、だけどな……なるほど、確かにその方が良いかも知れないな」


 俺の提案に、エンヤとコウカは賛成した。鬼族というものが現在確認されていない以上、見つけ出すのは困難かもしれないが、コイツの場合は、人界のどこかに居るはずだ。

 手あたり次第探せば、いずれ見つかるだろう。俺と同じく、エンヤの力を受け継いでいるわけだし、カンナとも親友だったし、気が合いそうだ。会うのが楽しみになってくる。


「シンキに会ったら、よろしく伝えといてね。少し変な感じだけど、私は元気だよって、皆の代わりに人界のこと、ありがとうって……」

「もちろんだ。必ず伝える。そして、今度ここに来た時には、シンキのことを教えてやるよ」

「うん……約束だよ」


 コウカの頼みに、頷く。

 そして、コウカから出ている光は段々と強くなってきた。光が辺りを包んでいき、俺は眩しさで、目を閉じる。


 ―またね……お義父様……頭領さん……―

 ―お~よ。……ってか、やはり、お義父様ってのは何度聞いても面白いな―


 などという、二人の声が頭に響き、俺はその呼び名、慣れそうにないなあと思いながら、俺の意識は深い所に落ちていった……。


 ◇◇◇


「……! ……!」

「……! ……!」


 ふと気が付くと、俺は真っ暗な空間に……じゃないな、目を閉じてるんだ。どうやら、肉体に戻って来たらしい。布団の感覚がする。

 だが、やはり体は重いな。一体、何日寝ていたのだろうか……。


 更に意識が戻っていくと、あることに気が付く。何だか、周りが騒がしい。何人かが、怒鳴るような声が聞こえてくる。

 俺、いわゆる病人だよな。騒がしくしてんじゃねえよ……。


「……は……るもん!」


 ……ん? すごく近くから、聞き慣れない少女の声が聞こえてくる。

 いや、どこかで聞いたな……どこだっけ? というか……誰だ?


 俺はゆっくりと目を開けた。すると、寝ている俺の前で、大きく手を広げて仁王立ちしている少女の姿が目に入る。白髪で、頭の上に耳があり、六つの尾が、腰のあたりから生えていた。

 獣人か? ……てことは……ああ、リンネか。きっと、俺のことが心配で、付きっ切りで看病してくれていたんだな……可愛い奴め……。


 そう思いながら体を起こそうとした瞬間、俺の耳に、更なる怒号が聞こえてくる。


「いいから、どけ!」

「くっ!」


 何事かと、目を見開くと、獣人化したリンネの前に見知らぬ男が立っていた。男は声を荒げると共に、リンネの肩をつかみ、振り払おうとする。


 俺は素早く身を起こし、リンネの襟をつかみ、自らに引き寄せると共に、男の手を掴んだ。


「なッ!?」

「……へ?」


 男の驚愕する顔が見え、リンネは目を見開き、俺の顔を覗いてくる。


 ……というか、コイツ、今喋らなかったか?


 気の所為かと思い、俺は男の顔を強く殴り飛ばした。


「ぐはあっ!」


 男はそのまま吹っ飛んでいき、屋敷の襖を突き破って、庭に転がった。よく見ると、屋敷の奴らが周りに居る。


 ふと、視線を感じて、その方向に目を向ける……あ、ツバキも居る。目を覚ましたんだな。


 体を見てみると、どこもけがをしていないようだ。


 ……良かった。


 そして、ジゲンとたまも変わらず、屋敷に居ることを確認する。アザミ達、女中たちも……姿が見えない奴もいるが、全員居そうだな。

 ジゲンの横に居るのは、シロウと……十二星天のジェシカだったか。それにアヤメとショウブ、それにナズナの姿も見える。皆も無事そうで何よりだ。


 だが皆は、目を見開き、男と、俺を交互に眺めていた。


 俺は、足元で口をあんぐりと開けて俺の顔を見上げているリンネの頭を撫でて、しゃがんだ。


「状況を……説明してくれないか?」


 そう言ったとたん、リンネの目からぽろぽろと涙がこぼれ始める。そして、俺に飛びつき、俺の身体を抱きしめながら、わんわんと泣き出した。


「おししょーさま! おししょーさまがげんきになった! うわ~んッッッ!」


 ……ああ、やはり、先ほどからしていた少女の声は、リンネのものだったのか。いつの間に喋れるようになったのか。こいつの成長にはいつも驚かされる。それと同時に、一気に目も覚める。


 だが、リンネの成長を喜んでいる場合じゃない。俺……というか、リンネを襲っていた者の正体が知りたい。

 俺は横に置かれている斬鬼を手に取り、リンネの頭を撫でながら、助けを求めるように皆に視線を移していた。


 ◇◇◇


 時は少々遡る。


 ムソウが魂の回廊で、時を忘れて語り合っていた頃、現実の世界では、ツバキや闘鬼神が目を覚まして、一週間が経とうとしていた。

 王都からの人員補充や、物資により、クレナの再建は順調に進み、天宝館と自警団、闘鬼神、更には牙の旅団の者達により、ギルド兼アヤメの邸宅の再建が四日目にして完了した。

 ムソウの屋敷を立て直したときには、二か月以上もかかっていたのに、あれよりも大きなものを、たった四日で直してしまったことにジゲン達は驚くも、コモンは、流石にこの人数で行うとあっという間ですねと笑っていたという。


 そして、シンムの騎士団で行っていたギルドの業務も、トウショウの里で行うことが出来るようになり、ギルド職員とアヤメたちは、上街へと帰っていった。

 しかしながら、クレナに依頼をするために訪れる冒険者は少ない。さらには、妓楼も天宝館も今は機能していないという話が近隣及び、人界全域に伝わり、冒険者たちが、クレナのギルドを訪れるということは以前よりも更に減った。

 引き続き、細かな依頼はレオパルドと、神獣、牙の旅団、雷帝龍が片付けていく。

 アヤメは、正直こっちの方がやりやすいと、新たに出来た執務室の椅子の上で笑っていた。


 コモン達は、その後、ムソウの屋敷で寝泊まりしている住民たちが帰る家を再建していく。一流の職人たちが、ばらけて街全体にまんべんなく作業をしているので、思いのほか早く終わり、六日目には、ムソウの屋敷から、住民たちが完全に居なくなる。残ったのは、高天ヶ原やその他、花街にあった妓楼の者達である。


 四天女達を独り占めできると、笑っていた闘鬼神とジロウ一家の男たちの頭をジゲン、シロウ、アザミ、コスケが叩き、黙らせた。


 コモンはやれやれと言って、今は新たに花街に全ての妓女たちが入ることが出来る巨大な妓楼を建てている。またしても、領主の屋敷よりも大きくなりそうな、その建物を見て、ジゲンとジェシカはコモンの身を案じ、頭を抱えていた。

 ただ、アヤメとしては、復興した街に新しい目玉が出来るなら、人も増えていくだろうと語りながら、笑っていた。


 だが、それだと、また遊びにだけ来る冒険者が出てくるぞ、とジゲンが言うと、そうはさせないと、信念に満ちた目で、アヤメはジゲンを見た。


 もう、皆の期待と信頼を裏切るわけにはいかないと語り、アヤメは、ギルドの仕事を再開させた。

 ジゲンはそれを見て、この先の領主としてのアヤメに安心し、そうかと頷いて、部屋を出ていった。


 さて、妓楼が再建中ということで、コスケ、四天女他、多くの妓女たちや男衆に至るまで、未だ花街に住んでいた者達は、ムソウの屋敷にとどまっている。闘宴会管理の妓楼で働いていた者達については、結局は闘宴会に利用され続け、最終的にケリスに呪われた者達ということで、現在再建中の高天ヶ原にまとめて勤めるということになった。無論、その者達は、その提案に頷く。


 そして、花街で暮らしていた者達が屋敷にとどまっているということで、ナズナも、ムソウの屋敷でアザミやたまのそばで、屋敷の手伝いをしていた。お世話になったからと言って、人一倍働くナズナだったが、相変わらず何も無い所で躓いたりと、少々おっちょこちょいな部分が目立っている。


 まだ疲れているだろうから、休んでいろというジゲンの言葉に、ナズナはおとなしく従い、屋敷の一室で、寝ていた。


 すると、その部屋に静かに訪れる者が居た。それはシロウである。

 実は、ナズナが目を覚まし、ここで働きだしてから、シロウとは一言も話をしていない。顔を見合わせると、プイっと明後日の方向を見たりと、シロウはどうしたものかと頭を抱えていた。

 やはり、呪われていたナズナを止めるためとはいえ、刀を向けたことがいけなかったのかと眠っているナズナのそばで、シロウは項垂れる。


 そんなシロウの様子を、襖を少しだけ開けて、覗いていた者が居た。それは、ジゲン、たま、リンネの三人だ。

 どこか、面白いものが見られそうとわくわくしながら、三人は、シロウ達の様子を伺っていた。


 すると、三人に気が付いたツバキと、用事があると言って屋敷を訪れたアヤメが、近くに来る。


「ん? 叔父貴、何してんだ?」

「リンネちゃんもたまちゃんも一体――」

「「しぃー」」


 二人が話しかけると、リンネとたまは口に人差し指を当てて、アヤメたちを静かにさせる。不思議に思った二人は、三人と同じく、部屋の中をのぞいた。


 すると、シロウとナズナの二人を見て、二人は顔を見合わせ、笑みを浮かべて、三人と同じように、部屋の中を伺う。


 そうしていると、徐々に多くの者達が集まり出した。闘鬼神の女中と屋敷に残った冒険者達や牙の旅団のシズネとエンミ、コスケ、四天女達、更にはジェシカも集まりだし、屋敷中に居る者達が、二人の様子を固唾を飲んで、見守っていた。


 そんなことが起きているとは知らず、シロウはそのままナズナに語り掛ける。


「ナズナ……何がいけなかったか、教えてくれよ……このままじゃ、また……俺達離れることになるんだぜ……」


 シロウはそう言うが、ナズナに反応はない。よく眠っているようだ。

 ジゲンとアヤメは、何か焦ったような視線をシロウにぶつける。男なら有無を言わさず無理やり起こせ! とか、このまま、また先延ばしにするようなら、儂が許さん、などとぼそぼそと呟いている。

 周りの者達は、そんなジゲンとシロウの様子に、何となく微笑ましい気持ちになり、クスっと笑って、再び二人の様子を眺めた。すると、シロウは更にナズナに口を開く。


「はあ……それとも、手紙の返事、返していないこと怒ってんのか? 書いたんだぜ、一応、百枚ほど……まあ、それもお前に斬られて、もう無いけどな……もしかして、見たくなかったか?」


 なんでだよ、とこの時は一同が心の中で、突っ込んだ。どうも悪い方向にばかり物事を考えるのは、未だ治っていないらしいと、アヤメとジゲン、更にいつの間にか、皆に加わっていたショウブは、頭を抱えた。

 皆が見守る中、シロウは更にため息をつく。


「はあ……まあ、また書き直すから、それまでは、待ってくれ……じゃあな……」


 シロウはそう言って、立ち上がろうとする。何も出来ないでいるシロウに呆れながらも、皆は慌ててその場を去ろうとした。

 しかし、そこでシロウの動きは止まり、中からか細い声が聞こえてくる。


「……待って」

「!?」


 よく見ると、シロウの袖をナズナが掴んでいる。シロウは驚き、身体を固まらせた。中を覗いていた皆も動きを止めて、再度二人を眺める。

 シロウは再び腰を下ろし、ナズナに話しかけた。


「ナズナ……起きてたのか?」

「……うん」

「どこから?」

「……最初から」


 どうやら、ナズナは今までのことを全て聞いていたらしい。呆気にとられるシロウにナズナはゆっくりと口を開く。


「返事……待てないよ……だから……聞かせて……」

「いや……多いぞ?」

「じゃあさ……ずっと……そばに居て……聞かせて……私も……話してあげるから……」


 ナズナは身を起こしながらそう言った。シロウは目を見開き、ナズナを見つめる。


 外で聞いていた者達、特にたまとリンネ、女中達、シズネ、四天女は顔を赤らめ、一様に頬に手を当てる。

 ジゲン、アヤメ、ショウブ、それにコスケは、こういうのはシロウが言うべきなのではと、更に呆れながらもフッと笑っていた。

 シロウは一瞬黙り込んだが、ニコッと笑うナズナを見て、同じくフッと笑い、頷いた。


「……わかった……話すよ。ただ、それだと一生かかってしまうかも知れないけど、良いか?」

「うん。私も、一生そばでシロウに話すし、シロウと話をしたいけど、良いかな?」

「……ああ、もちろんだ」

「ふふ……ありがと、シロウ……」


 ナズナとシロウはそのまま唇を交わした。その光景を眺めていた者達は更に顔を赤らめ、はち切れんばかりの思いを止めようと、両手で口をふさぐ。ちなみに、ジェシカも同様の行動をとっている。

 たまとリンネも、幼いながらも、二人がどういう会話をしたのか理解したようであり、満面の笑みを浮かべながら、二人で笑い合っていた。


 一方、ジゲン、アヤメ、ショウブ、更にはジロウ一家とショウブ一家、高天ヶ原の妓女たちにコスケという、二人のそばに居た者達は、ようやくか、と思いながら、笑っていた。

 自分が育ててきた者同士が結ばれる。それはジゲンにとって本当に嬉しいものであり、サネマサ達が帰ってきたら、自慢してやろうと、シズネとエンミと示し合わせた。


 ジェシカは、二人の関係がいまいち分かっておらず、目を覚ましたナズナとシロウの関係がぎくしゃくしていたのが気になっていたが、こういうことなのかと胸を撫でおろしている。

 ナズナはただ照れていただけなんですねとクスっと笑った。それを横で聞いていたツバキは、やはり十二星天の者には、どこか抜けたところがあると複雑な気持ちになっていた。


 その時である。皆が、朗らかに笑っていると、屋敷の門扉が叩かれる音が聞こえてくる。こんな時に客か? と疑問に思ったが、もしくは外に出ている者達が帰ってきたのかも知れないと考えたジゲンとジェシカは門を開いた。


 しかし、そこに居た者の姿を見て、ジェシカは目を見開く。


「シ、シンジさん!? な、何故、貴方が……」

「ほう……一軒だけ無事な建物があったからもしやと思ったが、お前が居るってことは正解だったようだな」


 その男は、後ずさるジェシカをどけながら、門をくぐり、庭へと入って来た。見たこともない客人の姿に、集まっていた者達はざわつく。

 すると、男の顔を見たリンネは何か身の毛もよだつような感覚に陥り、慌ててツバキと共に、その場からこそっと離れていった。


 男の名は、シンジ・スガヤ。ジェシカやコモンらと同じく、十二星天の一人で、王城で人界王の補佐役を務めている。

 EXスキル絶対強者の影響で、実質的な人界最強の力を持つ者と言われており、精霊族の一件で、ムソウを敵視している者の一人でもある。

 シンジの突然の訪問に驚くジェシカや、面識のあるジゲンにアヤメ。一体なぜここに、それも一人で現れたのかと思っていると、先ほどの質問に答えるように、ジェシカに振り向いた。


「期限は一週間。そう言ったはずだ。ケリス卿からも、この街に居た貴族からも連絡が無い以上、俺が直々にここに調査に来た。……ムソウって男を問いただすためにな」


 シンジの言葉を聞き、身構えるジェシカ、ジゲン、アヤメ。シンジたちのことはすでに聞いている。このままムソウを斬りに来たと思い、それぞれ得物に手をかけた。


「ムソウさんは、今も眠っております。話など出来るはずもありません。即刻お引き取りを……」

「約束していた時間は満ちた。話を聞いて、状況を確認するまでは、俺は帰らない」


 シンジはジェシカの言葉にそう返して、更に歩もうとする。だが、それをジゲンが前に出て遮った。


「儂らが通すと思っておるのか? ムソウ殿を斬ろうと考えている者をこのまま通すわけにはいかん。ジェシカ殿の言うように、今日の所はこのまま引いてもらおう。ムソウ殿が目覚めたら、またこちらから連絡する」

「あ? その話を信じろってか? こうなった以上、お前らがムソウを逃がすことだって考えられる。このままムソウって男を叩き起こしてでも、俺は話を聞く……それに……」


 シンジは辺りを見渡した。庭に居る者達を眺めながら、ジゲンとジェシカに視線を移す。


「妙な真似したら、即刻お前らを反逆者として認めるからな。そうなったら、お前らも、お前らの仲間や、家族もどうなるか分かってるよな?」


 シンジはジゲン達を睨みながら、闘気を放出させる。それはサネマサと同等の威圧感を放ち、庭に居た者達を震え上がらせた。

 ジェシカとジゲンでさえも、その様子に身を震わせ、ジトっと汗をかきだす。

 更に、シンジの言葉を聞き、確かにこのままシンジを襲うということになれば、問答無用で、自分たちは王都に仇なす大逆人としての責を負うことになる。

 ジゲンやジェシカ自身、どうなっても構わないという覚悟はあるが、残る皆のことを思うと、うかつにシンジに手を出せないという結果になることは明白だった。


 二人はそのまま、屋敷へと入っていくシンジを見送るだけとなった。最悪、ムソウに遅いかかったら、否が応でも、それを阻止しようとジゲンは腹をくくり、後のことは、サネマサや牙の旅団、ムソウに託そうと決めた。


 そして、シンジは、屋敷の奥へと進んでいき、ムソウが眠っている部屋の襖を開けた。そこには確かにムソウが眠っていることを確認した。


 しかし、ムソウの前で、両手を広げ、ムソウを護るように立っている少女に気付く。

 それはリンネだった。先にツバキと先回りし、ムソウを護るためにそれぞれ陣取っている。ツバキは横の部屋で、万が一シンジがリンネとムソウに襲い掛かるようならば、EXスキルを使って、二人を護ろうと考えていた。


 シンジはジトっとリンネを睨み、前に出る。


「お前は……妖狐か……どけ、そいつに話がある」

「どかないもん! おししょーさまはリンネがまもるもん!」


 リンネは狐火を展開させる。目を見開くシンジだったが、すぐにフッと笑い、余裕そうな態度をとりながら、展開される狐火に手を伸ばす。


「やめとけ。俺のスキルは、あらゆる生物の力をこの身に宿すことが出来る。その技も無効化できる……無意味だ」


 シンジは一つの狐火に触れ、そのまま握りつぶした。ポンっと音が鳴り、狐火は消える。シンジの手には火傷一つついていなかった。

 信じられないという様子のリンネにシンジは更に詰め寄ってくる。


「な? お前じゃ、俺に勝てない。だからどけ。俺はそいつに話がある……」

「ど、どかない! おにいちゃんこそかえって!」


 リンネは泣きそうになりながら、なおもムソウを護ろうとしていた。敵わなくても、手傷を負わせることくらいは出来ると信じ、リンネはその場を動かない。

 流石に平静を装っていたシンジも、段々とリンネに苛ついてくるようになる。


「あのな……さっきから言ってるが、俺は話を聞きに来たんだ! どけ! この……ガキが!」

「どかない! かえって!」

「このまま俺が王都に帰ったら、問答無用でここに軍を送ることになるんだぞ! それが分からねえか!?」

「それでもいい! おししょーさまはつよいもん! リンネもつよいもん!」

「この……っ!」


 何としても、動かない様子のリンネに、ついに怒ったシンジはずかずかと前に進み、リンネをどかそうとする。


「いいから、どけ!」

「ッ!」


 シンジはリンネを振り払おうと、肩のあたりに手を伸ばす。隣の部屋でそれに気づいたツバキはEXスキルを展開させようとした。


 しかし……


「なっ!?」


 ガシッとシンジの腕を掴み、リンネを後ろに下がらせる手が見える。

 それは、今までずっと眠っていたムソウだった。ムソウは目を見開き、おぼろげながらも、シンジとリンネの姿を確認しているようだ。

 突然のことに言葉を失い、呆気にとられるツバキの前で、ムソウはサッと立ち上がり、シンジの顔を殴り飛ばす。


「ぐはあっ!」


 その勢いは凄まじく、シンジはそのまま襖を突き破り、廊下を抜けて、庭へと転がった。庭に居て、中の様子を伺っていたジゲン達も、突然転がってきたシンジに驚き、呆気にとられている。


 ムソウは、固まるリンネの頭を撫でながら、困惑した表情になっていた。


「……状況を……説明してくれないか?」


 誰に言うでも無く、辺りに目を向けながら、ムソウがそう言うと、緊張の糸が途切れたのか、ムソウが目覚めて嬉しかったのか、リンネの目から涙が溢れてくる。


「おししょーさま! おししょーさまがげんきになった! うわ~ん!」


 リンネは泣きながら、ムソウのことを抱きしめた。未だ混乱している状態で、リンネの頭を撫でながら、ムソウは助けを求めるように、周囲の者達に視線を投げかけていた。


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