第236話―大地に平和が訪れる―
その後、数か月に及ぶ、三種族と邪神族の最終決戦が行われ、多大な犠牲を払いながらも、シンラ達は、邪神族を亜空間に追い返し、封じることに成功した。
ケアル、エンマ、シンラの三界王と、更に全軍の魔力を一つにした強固な結界は、未来永劫、邪神族を亜空間に閉じ込めるものと言われるくらいのものだったという。
闘いが終わり、シンラ達は、喜びに沸く三種族の者達が待つ、レインに凱旋する。人々は、長きにわたる戦争が終息したことを知り、種族を越えて喜び合っていた。
そして、ボロボロになったエンヤやハルマサたち、更には神族や鬼族達の前で、シンラとコウカは抱き合い、再会を喜び合っていた。
そして、闘いの事後処理が終わり、傷を癒した仲間達の前で、シンラとコウカは、夫婦の契りを躱し、盛大な祝言を挙げた。
式に参列したエンヤ達は、二人の幸せを祈りながら、何故か笑いながら、恐らく死んでいるであろう俺の死に対し、乾杯したという。何となく腑に落ちないが、まあ、良いだろう……。
その後、娘の祝言を見届けたエンマは、鬼族だけが住む冥界に、ケアルは、神族だけが住む天界に向かった。どちらも、大地とは別に作り出した亜空間である。
エンマとケアルは、戦争の発端となったのは、自分たちのように力のある者達が、弱者に対し傲慢になったからと言い、大地は人族に任せ、強大な力を持つ、自分たちの種族は大地から離れることを決意したという。
シンキ、ゴウキ、エイキ、エイシンについては、それぞれの長についていくかどうかの選択を迫られたが、やはり再会した家族と別れるのは辛いということで、ゴウキとエイキは鬼族としての力を封じ、人族に戻ることを条件に大地に留まり、ナツメとアキラと共に第二の人生を歩むことになる。
エイシンとシンキは、カンナについていき、大地を見守っていくことを選び、こちらも人族となって、大地に残った。
ゴウキたちはまだしも、生まれながらにして鬼族だったシンキは、エンマに深く頭を下げていたが、
「儂の代わりに、コウカを……そして、儂の子孫となる者を頼む!」
と、エンマに強く言われ、その言葉に、頷いた。
エンマとケアルは、大地から離れる際に、ムウ、エンヤとあることを約束した。これは、後に分かることなので、ここでは語らない。
その後、エンマの言葉通り、コウカはシンラとの子であるラセツを生む。鬼族の力を持ちながらも、人族としての優しさを持った新たな「鬼人」という種が生まれ、世界はその誕生を喜んだ。
サヤは、初孫ということで、コウカとシンラや、エンヤ、タカナリといった、俺の仲間達とも喜びを分かち合っていた。
そして、サヤも精霊族ではなく孫たちと共に、人として生きていきたいと言い、ムウによって、人族に戻った。不死ではなくなったことについて、他の者達は不安げな顔をしたが、だからこそ、この人生は楽しいものにして、楽しいまま終わりたいとサヤは笑っていたらしい。
その為にもと、サヤはあることを提案する。それは、自分たちが幸せになったのは良いことだけど、その“親”が幸せじゃないのは、おかしいということで、エンヤに結婚するようにと進言する。
あまりにも荒唐無稽なサヤの言動に、困り果てるエンヤだったが、なんとその提案に乗り、エンヤの妻に立候補した者が現れる。
それは……って、何となく想像していたが、合っていた。エンヤの婿になりたいと申し出たのは、元安備の国領主タカナリだった。
前の世界では、俺の世話もしてくれていたし、昔は、本当にサヤのことを目にかけていてくれたということもあり、サヤはタカナリの申し出に喜び、二人で嫌がるエンヤに詰め寄った。
色々と理由をつけては二人から逃げ回っていたエンヤだったが、業を煮やし、我慢も限界になったエンヤは、自分に勝ったら、求婚を申し入れると皆の前で宣言した。
この提案なら流石のタカナリも諦めるだろうと、エンヤ含めて誰もが思った。何せ、エンヤは俺よりも強いとされる人間だ。世界を越えたからと言って、そんな奴はそうそういないだろうとハルマサたちは思っていた。
だが、皆の予想は裏切られ、百を超える挑戦の後、ついにタカナリはエンヤを地に伏させることを成し遂げた。シンラやエイシン含め、呆気にとられる皆の前で、改めてタカナリは、エンヤに求婚した。
地面に大の字に倒れながらも、フッと笑ったエンヤは、ぶっきらぼうに、
「わかったよ……」
と、タカナリの求婚を受け入れたという。タカナリの前の世界からの悲願が成就された瞬間だった。
そして、シンラはタカナリとエンヤ、ゴウキとナツメといった、俺と闘った者達含め、共に戦った仲間達についても、所帯を持った者達に、それぞれ土地を与えて、その地の領主となり、それぞれの領を収めながら、豊かに暮らしていくようにと王命を下す。
もう、敵は居ないのだから、皆はそれぞれの場所で、自由に暮らして欲しいというシンラの願いだった。
皆、シンラの命に分かったと頷き、王城から、それぞれが与えられた土地へと移り住んでいった。これが、現在で言うところのマシロだったり、クレナだったりするようになったわけである。
そして、シンラとコウカも、人界王シンラの相談役となったエイシンとムウ、人界の宰相であり、二人の近衛隊長となったシンキ、ラセツの養育係兼コウカの親友であり、シンラの母親であるサヤと共に、人界を統治しながら、末永く幸せに暮らしましたとさ……。
◇◇◇
「めでたし、めでたし……じゃ、ねえんだよな?」
エンヤとコウカは静かに頷いた。幸せそうな良い話を聞いていて、話の腰を折ったような気がして、酷く申し訳ないような気がしてくる。
ただ、じゃないと今の状況の説明にはなっていないと思っていた。話を聞いていていくつか疑問もあるし、恐らく、邪神族との闘いが終わった後、ここからの話が、重要になってくるのだろうと思った。
再度二人に確認すると、重たい表情で頷く。
「ただ、この先は私が知らないこともありそうなの。そうでしょ? 頭領さん」
「ああ。逆に、俺が知らないこともありそうだ。そのあたりは、詳しく聞かせてくれ」
エンヤに言われたコウカは、コクっと頷く。二人の様子を確認した俺は、一つ一つの疑問を確認していった。
ようやく、シンラに……カンナに近づくための一歩を踏み出すような気がしている。
「じゃあまず、お前らの時代から、今も生きている者はどれだけいるんだ?」
最初に思った疑問は、現在のこの世界における転生者だったり、召喚者、いわゆる迷い人は、不死ではないが、不老ではある。よって、身体の老いで死ぬことは無い。同じことが、コイツらに言えるのだとしたら、誰かが生きていてもおかしくないと思った。
ただ、目の前に居るエンヤとコウカは見たところ魂だけの存在だ。つまり、肉体を失っている。その辺りも詳しく聞いておきたい。コウカは、俺の問いに頷き、口を開く。
「えーっと……お父様とケアル様、それに、シンキは生きていると思うけど、どうかな、頭領さん」
「ああ、あいつらは生きているだろうな。それに神獣達に……ああ、そうだ。お前も会った龍族も何体か生きていることは確認したな」
あ、そう言えば、カドルは邪神のことを知っている辺り、その頃から生きているということになるのか。まあ、あいつに関しては、そもそもが神聖な生き物だから、あまり参考にはしていない。
二人の返答を聞き、更に疑問が芽生える。
「何となく曖昧だな。というか、お前たちや、タカナリ、ハルマサたちはどうしたんだ?シンラも……お前らは不老じゃなかったのか?」
「ああ、そこは現在と違うな。当時の俺達の肉体は、不老では無かった」
エンヤの言葉に驚く。どうやら、エンヤ達とコモン達では、同じ迷い人だと言っても、その辺りは違うらしい。ただ、このあたりは、どうしてそういうことになったのかということについては、エンヤもコウカも分からないということだ。
ちなみにコウカは、たった今、現在の迷い人について知ったようで、コモン達の話をすると大層驚いている。
ひょっとしたら、大きな力を持つことに対し、ずっと同じ人間がそれを担うことを願って、エンマや、ケアルが、不老の肉体を与えたのではないかとのこと。
死んで、次にEXスキルを使う者が、良い奴とは限らないからな。何となく、その節があっていると思った。
ちなみに、鬼族や神族は元から不老らしい。ある程度の年齢になると、自らの老いを止めるという術を持っているという。だから、先に挙げた三人は、何も無ければ、まだ生きているのではないかとのことだ。
鬼族や神族ってのは、面白い技や術を使うんだなあと感心している。
そういや、そもそもこの魂の回廊というのは、何なのかと聞くと、二人曰く、ここも天界や、冥界と同じく、ケアルとエンマの手によって作られた、大地と冥界の間に存在する亜空間だという。
よって、コウカは大地で何が起きているのか、死んでからは知らないとのことだった。ならば、その間のことを知り、魂の回廊に行っていないエンヤはどうしたのかというと……
「俺達はケアルとエンマ、それにサヤの持つ精霊族の秘術によって、肉体を失い、魂の状態となっても、自我を保つことが出来た」
つまりは、人族として肉体を失った後、疑似的な精霊になったとのことだ。この状態になると、元来の精霊族のように、自然界にある草木などに宿る以外にも、自分たちが大事に使っていた武具や、道具などにも「憑依」という形で、宿ることが出来、魂をそのままの状態で残すことが出来るという。
その正体が、刀精である。いわば、ジゲンや、ナズナが使っていた偶像術によってあらわれたものも、ひょっとしたら、過去にあの刀を持っていた者かも知れないとのことだ。
ただ、それをすると、武具や道具などが壊れることにより、魂が再び放出されるという欠点がある。
その欠点を無視し、もっと確実な方法で魂を残す術となるのが、カドルも行っていた魂の依り代に憑依するというもので、こちらは、神獣や、龍族が生きている限り、魂を残すことが出来る。エンヤや、ハルマサたちは、この方法により、魂を残すことが出来た。
ちなみに、その時に魂の依り代を提供した神獣については、少しややこしい話になっているとのことで、エンヤは正体を明かさなかった。
トウガではないらしい。ややこしいって何だろう……。まあ、大したことでも無さそうだし、時間がかかりそうなら良いやということで、俺もそこまでは聞かなかった。
さて、エンヤの話を聞く限りでは、ハルマサ達も、この世界に魂を残しているらしい。正確には、エンヤと共にその神獣によって魂を残したのは、ハルマサ、ツバキ、ナツメ、アキラ、トウヤ、エイシン、そして、“始まりの賢者”ムウだという。……って、あれ?
「他の……ゴウキとエイキ、それにタカナリはどうしたんだ?」
この流れだとこいつらも居るのかと思ったが、そうではないらしい。ついでにサヤも居ないなあと思ったが、どうしたのだろうかと思っていると、エンヤは頷き口を開く。
「ゴウキとエイキは、シンラとコウカが肉体を喪う際にはそれぞれ冥界に戻して欲しいとエンマに別れ際に言われた」
ああ、そういや、そんなこと言っていたな。何でも、シンキが人界に残り、大地を共に護っていくことには納得したが、それでもやはり自分には両腕となる参謀と、兵達の将が必要とのことで、ゴウキとエイキは、家族を護るものとしての役目を終える……つまりは人として死んだときに、鬼族として再び転生し、冥界に戻して欲しいとエンマは語った。
エンヤと、当人らはエンマの頼みを受け入れ、ナツメとアキラの許しを得た上で、死後、冥界に向かったという。
なので、冥界であいつらも生きているのではないかとのことらしい。もっとも、人族では無く、鬼族として、だがな。
俺は、鬼人という存在に一時的になれるが、あいつらは本物の鬼になっちまったな。会うことがあれば、大笑いしてやろう……。
「なるほどな……で、タカナリと……サヤは?」
ゴウキたちについては分かったが、タカナリとサヤについては、エンヤは口をつぐんだままだ。どうしたのだろうかと思っていたが、意を決したように、口を開く。
「タカナリとサヤ……それにシンラに関しては……わからねえんだ……」
「分からない? どういうことだ?」
エンヤは頷き、そもそも自分たちが何故、苦労を掛けて魂を残そうとしているのかについて語り出す。
なんでも、邪神族との戦争は終わった。……だが、それは終戦では無く、休戦に近いものだ。シンラたちは邪神族を滅ぼしたわけではない。
ただ、亜空間に封じ込めただけだ。強固な封印結界と言えども、いずれそれが破られ、邪神族がまた、この大地に襲い掛かってくる可能性もある。
シンラやコウカ、それにエンヤ達は、そうなったとしても、また自分たちの力で大地を護れば良いと考え、その魂だけは大地に残しておこうという結論になった。
その後、大地を救った英雄たちの中から最初に、人界王シンラ……つまり、カンナが人としての人生を終える。前の世界のままだったカンナの肉体はやはり、この世界には合わなかったようだ。皆が悲しむ中、カンナは、笑いながら、
「ずっと……一緒……ラセツをよろしく……皆……コウカ……私は……お前と居て……幸せだった……」
と、言いながら、死んでいった。
肉体が滅んでも、魂は無事だ。そう信じてはいたが、頭では分かっていても、やはりシンラが死んだということに、コウカはひどく悲しんだ。
……いや、俺にとっては、悲しんで「くれて」いた。
息子に対してそこまで思ってくれていたのは、やはり嬉しいものだ。
だが、コウカも悲しみのあまり、そのまま衰弱していき、死んでいくことになった。
コウカは、あの時はラセツ達も残し、皆にひどく申し訳なかったと語った。しかし、エンヤは、気にするなと、俺と同じ気持ちをコウカに言って、そっと頭を撫でていた。
コウカは肉体を失ったのち、サヤから学んだように精霊化し、自我を保ちながら、真っ先にシンラの魂を探した。皆と打ち合わせていた通りなら、シンラも精霊化して、どこかに居るはずだと思っていた。
だが、いくら探しても、気配を探っても、コウカはシンラの魂を見つけることはできなかった。そればかりか、急に何かの力に引き寄せられるように、大地から離されていき、この、魂の回廊に放り込まれた。
それ以来、コウカはずっとこの場所に居続けているという。
そして、大地の様子も分からないまま、数千年の間、シンラにもう一度会えるようにと、祈り続けていたという。
俺が、ここに来るまでの間、誰もここには来ないまま、ただただ、祈り続けたと、コウカは笑いながら話した。
それが、大地の平和をないがしろにした、自分への罰なんだよ、と言いながら、コウカは、俺に笑っていた。
俺は、コウカを抱き寄せ、頭を撫でた。
「……俺の家族を愛してくれたお前を罰する者が居るんなら、俺が叩っ斬ってやる」
「ザンキ……?」
「だから、泣くんじゃねえ。サヤとカンナに叱られちまうからよ」
涙を流していたコウカにそう言うと、コウカは、ハッとした様子で頷いた。
カンナと夫婦になったってことは……こいつは、俺にとって、義娘だからな。
こいつも、俺にとっては家族だ。そんな奴が、泣いているというのは我慢できない。
そう思いながら、コウカの頭を撫で続けていた。
その後、コウカは泣き止み、ニコッと笑った。エンヤに、息子の嫁に手を出すんじゃねえと笑われたが、無視して、その後の話を伺った。
無論、ここからはコウカも知らない話であり、コウカは俺と一緒に、エンヤの話を真剣に聞いている。
シンラとコウカが死んだ後、ラセツが王位を継いだ。ラセツは両親が遺した大地を更により良いものにしていくべく、統治を行っていた。
ラセツは、平和そのものの中で過ごしている民たちの顔を見て、ある決心をする。
それは、いずれ封印が解けて、再び人界を襲うかも知れないという不確定な邪神族という存在を歴史から消し去ることで、次の世代の者達には何の不安も無く、過ごして欲しいという思いから、歴史を改鋳させるというものだった。
かつて、シンラたちと共に戦ったエンヤたちは、ラセツの提案を受け入れる。確かに、その場しのぎということにはなるが、せっかく掴んだ平和な日々を、封印が破られるかも知れないという予測だけで、壊してしまうのは嫌だった。
そして、この世界の歴史が、俺の知るものに差し変わったのだということらしい。神族と鬼族の扱いに関しては、文字通り、鬼の居ぬ間に、というやつで、誰も気にしなかった。
シンキだけは頭を抱えたが、まあ良いやと納得していた。
その間に、タカナリも死んでいった。そして、サヤはタカナリの魂と共に、合流しているであろうシンラとコウカの元へと向かい、皆の前から姿を消した。
その後、エンヤ達も、自分の家族に看取られながら、一人、また一人と死んでいった。皆は、大地の英雄、あるいは、共に戦った者として、唯一の存在となっていくシンキに、それぞれの思いを託しながら死んでいった。
エンヤは自身のEXスキルを継がせたほどである。よほど、シンキと俺を重ね合わせていたらしい。
というか、EXスキルって継がせるんだな。これには驚きだ。シンキのEXスキルは何だろうか……。
さて、エンヤの方は、魂の状態となり、まずはタカナリと合流するために、その魂を探した。
しかし、こちらもいくら探しても、見つからず、エンヤは不思議に思った。ひとまずエンヤは、例の神獣の元を頼り、依り代を使って魂を残すことに成功した。
だが、その場に居たのは、先に挙げた七人だけであり、シンラもコウカも、タカナリもいくら待っても合流することは出来なかったという。
無論、サヤも行方知れずのままだった。言いようのない不安を抱えながらも、それから数千年の間、エンヤ達はタカナリ達の合流を待っていたという。
……だが、いくら待っても、タカナリ達が姿を現すことはついに無かった。
そんな折、神獣と共に、人界の様子を伺っていたエンヤたちの元に、一人の男が訪れた。それは、天界に向かったはずの天界王ケアルだった。
邪神族の封印が破られたわけでもないのに、何故ここに居るのかと尋ねると、ケアルはエンヤ達にあることを告げる。
その内容は、邪神族の封印がわずかではあるが、やはり弱まっていること。それにより、結界の隙間から漏れ出た邪神族の気により、魔物たちがここ数百年の間に、活性化してきているとのこと。
エンヤ達が、人族の前から姿を消してからの数千年の間に、魔物たちは進化を遂げていき、魔人などの交配種や、エルフ、ドワーフなどといった、人族に限りなく近いが、肉体の仕組みが、魔物などに寄っている新種族が現れているとのことだった。
その影響で、近々……といっても、数百年後に、人界に影響を及ぼす大魔獣が姿を現す恐れがあるという。
そこで、ケアルとエンマは、こちらで邪神族の気を抑える新たな封印を施すと共に、人界に他の世界から召喚者、あるいは転生者として何人か力を持った魂を、この世界に連れてくるので、皆が持っているEXスキルと共に、その者達に力を貸して欲しいとのことだった。
話を聞いた、ムウ、エイシン、ナツメ、アキラ、トウヤは頷いた。
だが、EXスキルをすでに失っているエンヤと、ハルマサとツバキは何故かその申し出を断った。理由を聞いたが、二人は何も語らなかったという。
ケアルは仕方ないと言って、他の五人の魂を連れて、エンヤ達の元を去っていった。
それからケアルの言っていたように、数百年後、人界に強大な力を持った大魔獣が顕現する。邪神族の気を纏い、邪神大戦の恨みを晴らすかのように、人界に侵攻していった、その大魔獣こそが、今から三十年ほど前に人界を襲った、壊蛇である。
壊蛇は、突如として現れ、そこからレインを目指すように各領を襲い、大地の生命を蹂躙していった。
しかし、事前にケアルとエンマが用意していた、迷い人たち……つまり、ミサキ達、後の十二星天により滅ぼされ、人界に再び、平和が訪れることとなる。
だが、神獣の元に残ったエンヤ達は安堵することは無かった。壊蛇の襲来の影響と、長年連れ添った五人の強大な魂を失った神獣が急激に弱り始めたのである。
全盛期の一割にも満たない僅かな力を使い、その神獣は、エンヤ、ハルマサ、ツバキの魂を維持するようになる。
早いとこ、代わりとなる依り代を見つけないと、三人の魂は次の輪廻に回されるか、無に帰すことになる。
そこで、その神獣は、自らの力だけで、自分の子どもを出産した。自分が死んでも、その子が成長して、力をつけた時ならば、エンヤ達の魂を憑依させることが出来ると考えての行動だった。
出産における力の消耗もひどかったが、その神獣は必死の思いで、子供を出産することに成功する。エンヤ達は、自分たちの為だけに、僅かな力を使い、次の世代の神獣を生み出した、その神獣に深く感謝した。
やがて、その子供の神獣はすくすくと育っていき、力をつけるようになる。エンヤ達は時期を見計らい、子供の神獣に、憑依しようと親の神獣から離れる準備を始めていた。
その時、予想だにしなかったことが起こった。
とある魔物の大群が、その神獣が縄張りとしていた山を襲って来たのである。魔物の大群は、山に棲む人族、魔物族問わず殺戮の限りを尽くし、その魂を奪っていく。
山の主となっていたその神獣は、力を失った自分では、その魔物たちを殲滅することは出来ないと確信した。
そして、自分もいずれ死ぬことになると確信する。そうなれば、エンヤ達の魂も一緒に無に帰すことになり、自身が生んだ子供も危ないかも知れない。
そこで、その神獣は、抵抗するエンヤ達の魂を解放し、僅かに残っていた山の魔物たちに自らの子供と、エンヤ達の魂を託し、単身その魔物に向かって行った。
そして、必死に止めようとするエンヤ、ハルマサ、ツバキと、泣き叫ぶ子供の前で、その神獣は死んでいくことになる。
……さて、残ったのは、その子供と山の魔物たち、それに、エンヤ達の魂だけだった。神獣の死に悲しむ子供と魔物たちを見て、エンヤ達は、もう、これ以上迷惑をかけるまいとして、その山を去ろうとする。
しかし、どこに行けば良いのか分からない。ケアルも壊蛇の襲来を伝えてから姿を見せないし、王都に向かおうとも考えたのだが、その間に無防備となっている魂を、他の魔物たちに食われるという恐れもあるし……と、なかなかその山の周辺を離れられないでいた。
そんな折、予想だにしていなかった出来事が起こる。突如、大地の空間に乱れが発生し、時空が一瞬だけ歪んだ。邪神族の封印がついに解けたかと焦る三人。
しかし、それは間違いだったとすぐに気づく。
その時空の歪みから、一人の男が落ちてきた。黒装束で、全身に血を浴び、大刀を帯びたその男を見て、三人は驚き、言葉を失う。
そう……その男は、俺だった。エンヤ達はすぐさま、俺の元へ行き、俺がワイバーンと闘っている最中に、エンヤは無間に、ハルマサとツバキは、揃って俺の持っていたあるものに憑依し、魂を残すことに成功したのだという。
それまでが、俺とエンヤがこの世界で、再会を果たすまでの物語だった……。
「そこからは……説明の必要は無いよな?」
「ん? ああ、まあな……」
なるほど……エンヤ達が、邪神大戦を終えての大体の動きは分かった。コウカもその間のエンヤ達の動向が分かり、納得したように頷いている。
さて、一通りの話を聞き終えた俺達は、続いて、未だ魂のありかが分からないシンラたちの動向について、話し合った。
「え~と……その頃から、生き続けているのは、さっき言っていた神獣や龍族、そして天界王と冥界王と鬼族のシンキが恐らくってところか。それ以外の奴らは、肉体は喪っていても、魂までは残っているのか?」
「ああ、多分な。少なくとも、十二星天って奴らが使っているEXスキルは、当時のエイシン達のもので間違いないから、少なくとも力の継承は出来ているようだ」
「ふむ……皆に後を託して、成仏したって可能性は?」
「ああ……それは……わからなえな……」
エンヤは、あ、と言って、項垂れる。なるほど、想像すらしていなかったようだ。今の十二星天に、ケアルやエンマを通して力を託した後、ナツメ達の魂は次の輪廻の輪に戻った可能性は考えられる。
エンヤとコウカは少し寂しそうな顔をした。死後も再会して、共に戦うって約束をしていたようだからな……。
俺も、寂しくなるのでこの考えは捨てておこう。そして、後でコモン達に聞いてみよう。何か知っているのかも知れない。
「そういや、俺のEXスキルは誰のものなんだよ?」
少し気になったので、聞いてみた。俺の持つスキルは一つではないからな。ひょっとしたら、ハルマサ達以外の者達から貰ったものなのかも知れない。そいつらのことを確認しようとしたのだが、エンヤは、きっぱりと言い放つ。
「知らん!」
エンヤの少し苛立つような台詞に、俺も少しムッとする。すると、エンヤはEXスキルについて説明を始めた。
EXスキルは元々、その人間が持っていた技能や知識、更には前の世界で強く願っていたことが、魂に流れる力の流れのようなものに反応し備わるものと、ムウから聞いたという。
そして、EXスキルを継がせるには、元々持っていた者と限りなく似たような考え方や、生き方をしていた者でないと継がせることが出来ないらしい。
普通、EXスキルは、一人一つ……今は、言語理解と言語行使の二つがあるが、あれはそもそも、ケアルとエンマが、迷い人が、この世界でも暮らしていけるようにと、付与させたものであるという。
だから、それ以外のEXスキルを複数持つ俺は、それだけ普通の人間とは異質の存在であるという。
「すべてをきるものは、お前らしいってのは分かる。それから神人化したり、鬼人化したりする能力も、元々の由来は、お前から溢れ出る殺意から生まれたのだろうな。毒や呪いが効かねえってのは、よく分からねえが……」
「よく言うよ……」
誰の所為でそういう体質になったと思ってんだ……。まあでも、確かにこの説明だと、俺のことについては納得できるな。
自分を、鑑定スキルを使って、視たときもそんな説明だった気がするし。
……と、そう言えば、神怒を斬ろうとしたときに、なにかおかしなことが起きたんだよな。覚えていたら、後で確認しておこう。
最後の、「星の加護」というスキルについては、エンヤもコウカも心当たりは無いという。俺も使ったことは無いので、どんなスキルなのか未だに不明だ。ひょっとしたら、このスキルこそが、俺の固有の能力かも知れないとエンヤは語った。
「いつの間にか、お前が、俺達以上に強くなっていたことに関しては、かなり驚いたぞ」
「あ? 俺みたいな奴はそれこそ、お前らの時代はざらにいたんじゃねえのか?」
エンヤ達が居たのは、人界に今よりも強大な邪神族という敵が居た時代だ。そんな世界で過ごしていたら、おのずと強くなりそうなものだったが、エンヤは否定する。
「馬鹿言うな。お前ほどの力を持つ奴は、俺達の中にも居なかった。本当に、お前があの時居れば、もっと早い段階で邪神族を封印、あるいは殲滅出来ていたかも知れねえ」
エンヤはそう言って、腕を組みジトっと俺を睨む。ああ、先ほどから機嫌悪そうにしていたのはそういう理由か。
……そうは言われてもなあ。俺だって、来たくてこの世界に来たわけでは無いし、むしろ、過去のこの世界にエンヤや、タカナリ達、更にはサヤとカンナまで居たということなら、俺もその時代に生まれたかったと思うところではある。
まあ、今更そんなことを言っても、無駄なので、俺についての話題は終わり、話を元に戻す。
「取りあえず、過去のお前らの仲間達については、コモン達に聞いてみよう。EXスキルは、当時のままか?」
「ああ。コモンってガキのEXスキルは確か……トウヤが使っていたはずだ」
「む、何となく想像がつくな、それは……ただまあ、そういうことならますますコモンには話を聞くことにする」
「頼む」
俺の提案に、エンヤは頷いた。大地に戻れば、他の人間は魂に触れたり、話したりすることは出来ない。唯一出来るとしたら、精霊の声を聴くことが出来るコモンくらいだ。最悪、エンヤの声を直接コモンに……って、そういやあ……。
「そういや、お前、天宝館で無間を調べて貰った時、コモンに何も伝えなかったのか?」
ふと思い出した疑問を尋ねてみる。以前、初めてコモンと会った時に、俺は無間を調べて貰った。その際に、コモンは、無間の刀精はいないと言っていたが、どういうことなのだろうか。
俺の疑問に、エンヤはビクッと身を震わせたように固まり、視線を逸らした。
「え~っと……それはだな……」
「怒らねえから、言ってみろ」
「お、おう……俺としても、無間の中に居るのは、俺だってお前に言いたかったんだが、どう伝えれば良いのか分からなかったし、それこそ、あの時出ていたら、コモンって奴にもこの世界の真実を言わねえといけないからな。
あの時は黙って、いずれ、お前があの街にあるっていう刀精の祠に行ってからで良いやと思っていたんだ……」
ああ、なるほど。今日ここでエンヤとコウカから聞いた話は、それこそ世界をひっくり返すような内容だ。現在の人界の頂点に居るコモンに聞かせるには、確かに急なことだったのかも知れない。
そして、エンヤが無間に居るってことを俺が理解するのは、それから数か月経った今になったということに関しても、俺の責任でもある。ここで、エンヤを叱るのは筋違いだと思った俺はエンヤに頷いた。
「まあ、色々あったみたいだが、お前に会えただけで、俺は嬉しいと思っている。確かこれからも一緒に闘ってくれるんだよな。……よろしくな」
「あいよ。……と言っても、無間はもう無いからな。代わりが見つかるまでは、その腕輪か、最悪お前が持っていた「斬鬼」って刀で我慢するよ」
育ての親であるエンヤが、俺の名前が付けられた刀……それも、俺の力に反応して生まれた零の刀に憑依するというのは、一体、どういう状況なのだろうかと思ったが、何となくそれも面白いと思い、エンヤと共に俺も笑っていた。




