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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
235/534

第234話―シンラとコウカが出会う―

「……と、ここまでが、俺とシンラとの出会いだが、何か質問はあるか?」


 話を区切り、エンヤは俺の方をじっと見てきた。


「聞きたいことは山ほどあるが……後で良いや」


 俺はエンヤの申し出を断る。突っ込みたいところは山ほどある。しかし、それを今聞いても、話が長引くだけだと思い、続きを話してくれるのを待った。

 だが、エンヤは更にジッと俺を見てくる。


「いや、気になることは解消しておこう。おら、言えよ。疑問に思っていることを」


 何だか、乱暴な口調でそう言ってくることに対し、俺の疑問を解決しないことには、この先ついてこられないとでも思っているらしい。

深くため息をつき、俺は思っている疑問を話す。


「分かったよ。……まず一つ。タカナリとハルマサたちの言葉の意味が分からない。俺が失踪したってところだ。俺はここに来る直前まで闘っていた。

そして、一瞬のうちに、この世界に来ていた。これは事実だ。

 しかし、お前の話によれば、その時に恐らく俺は前の世界で失踪したようで、そこから前の世界で数十年が経ち、タカナリたちが死んで、あいつらはこの世界に来て、そして、今は、お前らの時代から数千年が経っていて……」


 話しているうちに、訳が分からなくなってきた。要は、時間の感覚とか、進み方の訳が分からない。

俺はてっきり、前の世界では、今頃俺のことを探しているか、心配しているかくらいのものだと思っていた。ここに来てから、もう半年近く経つが、三か月は誰かに会わないということは結構あったからな。

それくらいだと何も思わないだろうが、流石にここまで経つと、心配くらいはしているのだろうと感じていた。


 だが、話を聞けば、前の世界ではすでに数十年が経っており、ハルマサたちも俺の年齢をとうに越え、天寿を全うするくらいにはなっている。その後、この世界に生まれ、エンヤたちと共に戦い、更にそこから数千年が経ったこの世界で俺が過ごしているというわけ

である。


「本当に訳が分からねえ。ここと前の世界とでは、時間の進み方が違うのか?」


 頭を抱えながら、エンヤに聞いた。するとエンヤは、うんうんと頷きながら、ニカっと笑う。


「それは……分からねえ!」


 あまりにもすっきりとして、簡単な答えに、殴りたくなってくる俺。拳を固めていると、コウカが俺を制する。


「お、落ち着いて、ザンキ……怖いよ……」


 コウカの怯える目を見て、何となく力が抜けた俺は、分かったと頷き、拳を引っ込めた。するとエンヤが口を開く。


「……お前は本当に、恐ろしい奴に育ったな……」


 誰の所為だと思い、頭を掻く。


「うるせえよ。……で、本当の所はどうなんだ?」

「ああ。正直なところ、そのあたりは本当に分からない。俺も、この世界に来たお前を見たとき、お前が死んだと思ったんだが、どうも違うらしいからな。ただ、闘っている最中に失踪したってことは聞いていたから、話は合うなあとは思っていた」


 ふむ……本当に、エンヤはこのことについては分からないらしい。だからこそ、この世界で俺を見たときは、本気で驚いたという。

そして、俺を護るため……というか、成長した俺と一緒に闘いたいということで、すぐさま無間の中に入り、刀精として俺と一緒に居たという。

 むう……このあたりにも若干気になる点があるが、後にしておこう……。


 ひとまず、時間の関係のことについてはエンヤは分からないという。

 しかし、ここで、コウカが何か気が付いたと口を開いた。


「多分だけど……良いかな?」

「ん? ああ。思っていることを言ってくれ」

「うん。ザンキはさ、その戦いのときに次元の歪みに巻き込まれたんだよ。そして、すぐにこっちに来るはずだったのが、何らかの影響で、数千年の間、その歪みの中に漂っていたんじゃないかな?

そしてまた、何かのはずみで、ここに来た……というか、落ちてきたとか……?」


 つまりは、世界と世界の間にある次元に俺が放り出されたということだ。恐らくそこでは、時間の感覚を含めたあらゆる感覚が存在しない、まさしく「無」の空間なのだろう。

その為、俺は一瞬の出来事だと思っていたが、実は数千年の時が経っていて、再び何かのはずみで、この世界とその空間から、俺が落ちてきたのではないかというのがコウカの考え。

 よく分からないが、早い話が、異界の袋の中だ。あれはどんなものでも、時間の影響を受けさせないからな。

それにより、世界と世界の間で、数千年の間、「長期保存」されていた俺が、ここに来たと……。うん、コウカの考えは筋がいきそうだなと思った。


「なるほどな……確かにそう考える方が妥当か。流石は、エンマって男の娘だな。この女とは頭の出来が違う」


 エンヤを指しながら、コウカを撫でると、エンヤはブスッとし、コウカは微笑み、頷いていた。


「しかし、エンヤに続き、タカナリたちまでこの世界に来ていたとはな……。皆が同じ世界に来るってのは、珍しいんじゃねえのか?」


 この世界に来てから、知ったこと。前の世界や、今俺が居る世界意外にも、人が居る世界というのは存在している。

それこそ、十二星天の奴らにはそれぞれの世界があるようだし、過去の話だと、ムウって奴も居たくらいだからな。

実際、俺はミサキの世界を見たわけだし、宇宙というのか、あるいは、次元の向こう側というのか、色々な言い方ができるが、そういったものは数多く、下手をすれば、無限に存在する。

 その中で、この世界に、俺とかかわりのあるやつらの魂が集まっているというのは、何とも奇妙な縁だなと思っていると、エンヤとコウカは頷き、口を開いた。


「多分珍しいことだろう……だが、驚くのはまだ早い……俺はその後、まさしく運命というものがあるのなら、こういうものかと理解する羽目になっちまった……」

「ここからは……私が説明するね……」

「ん? ……ああ」


 何故かこの先はコウカが話してくれるという。まあ、恐らくほとんどシンラの話だろうからな。エンヤよりも、コウカの方が良いだろう。

 そして、コウカはエンヤがタカナリ達とシンラに出会ってからしばらく経った頃の自身のこと、シンラとの出会いについて語り出した。


 ◇◇◇


 その頃のコウカは、エンマの娘として、鬼族はもちろん、神族、更には人族から大切に守られる存在となっていた。常にそばには、鬼族の将、シンキという鬼がそばに居て、何時如何なる時も、コウカの警護をしていた。

 他の者達も、神族たちの本拠地近くに邪神族が攻め入ったときなどは、率先してコウカを護るように闘っていた。無論、それで死んでいった者達は数知れない。


 コウカにとってはそれが辛く、悲しいことだった。しかし、自分には何の力もないと嘆き、毎日、死んでいった者達の為、そして、戦争が早く終わるようにと、祈っていたという。


 あくる日、いつものように、コウカは自身に与えられた部屋で祈っていた。何も出来ない自分が、一つでも役に立てるならと、必死で祈っていた。


 その時である。ふと、コウカの前に、光り輝くものが舞い降りてくる。そこから伝わってくる光は、妙に温かく、荒んでいたコウカの心を優しく包み込んでいった。


 コウカは、おもむろにその光に手を伸ばした。すると、その光は輝きを強める。部屋の異変に、何事かと急いで入って来たシンキとコウカの前に、気が付くと、一人の女が立っていた。


 女はコウカを見つめ、ゆっくりと歩み寄ってくる。得体の知れないその女に、危機感を抱いたシンキが刀を抜き、コウカを護ろうとした。


 しかし、コウカ自身は、女から敵意や、殺意などは感じられず、優しく微笑んでいるだけの姿を見て、多分大丈夫と言って、シンキを制した。

 そして、女はフッと微笑み、コウカの頭を撫でる。慈愛に満ちたその手が触れた瞬間、コウカは安らぎというものを感じたらしい。


「……あな……たは……?」

「……私は……何て言えば良いんだろう? ……え~とね……あ、そうそう! 私は精霊族だよ」


 雰囲気とは違って、どこか人懐っこそうな様子の女は自身のことをコウカとシンキにそう言った。

 精霊族……それは、この世界に太古から居たとされる存在。神族と鬼族もその存在を確認してはいなかったが、居るという伝承は聞いていたという。

曰く、肉体を失った魂が、何らかの拍子で、神族と鬼族の管理から外れ、木々や草花などの自然にあるものに宿った状態の魂のことを指す。

精霊族の特徴としては、肉体を持たないので、食事などの必要が無い。だが、木々や草花の栄養の為に、魂の力、つまり魔力や気を使う必要があるので、それらの力が他の種族よりも高いという。

 ちなみに、後になって調べたところ、シンラを育てた存在も、この女とは別だが、シンラが居た山の草木に宿っていた精霊族ということが分かった。のちに、人界王となったシンラが感謝に赴き、人界と交流をしていくうちに、「精霊人」という種族が生まれたという。

 現在では、万物に宿っている存在とされているが、それは間違いで、道具や、武具には精霊というものは宿らないという。


 では、アヤメやジゲン達がやっていた偶像術、更には刀精の祠で出会える存在というのは何なのかと聞くと、エンヤ曰く、それは武具や道具に宿った魂で、精霊族とは別物とのことだ。何が違うのかと首を傾げたが、後で説明すると言ったので、この話は置いておく。


 ともあれ、コウカはその精霊族の女に、何故自分の前に姿を現したのかと尋ねた。すると女は、ニコッと笑い、コウカの顔を見つめる。


「いつも一人でお祈りしていたでしょ。だから……来たの」

「それ……だけ……?」

「うん。寂しそうだったからね。そういう女の子は放っておけないの。だから……今日から私と貴女は友達ってことで、よろしくね!」


 精霊人の女は、そのままコウカをギュッと抱きしめた。突然の出来事に、そのまま固まり目を丸くするコウカだったが、女から伝わってくる温かさに次第に力が抜けて、コウカも女を抱きしめる。

 警護をしていたシンキは呆然としていたが、フッと我に返り、女からコウカを引きはがすと共に、刀を向けた。


「いけません、コウカ様! こんな得体の知れない女に心をお許しになられては!」


 コウカはシンキに、でも……と反論しようとしたが、女を睨むシンキを見て、何も言えなかった。


 まあ、主人を護る従者としての行動としては、良いと思う。俺でも、そういう状況になったら、邪神族の手先か何かかと思い、コウカを安全な場所に移動させた後、ゆっくりと話を聞くか、最悪、斬るつもりだ。


 シンキもそのつもりだったらしく、刀を向けながら、女に近づいた。このまま何もしなかったら、そのまま尋問なり、拷問なりして、女の真意を確認しようと思っていた。

 しかし、女はシンキが向けた刀を見て、フッと笑う。


「あらら~? ひょっとして君は、この子の警護か何かかな?」

「そうだ! 俺はコウカ様を護る任を任されている! コウカ様に近づく者は誰であろうと容赦しない! 貴様のことはゆっくりと調べさせてもらう!」


 シンキはそのまま女に近づき、着物の襟を引っ張ろうとした。

 だが、その瞬間、コウカの目の前で信じられないことが起こる。


 女はシンキに手を向けられた途端、素早い身のこなしで、シンキの懐に入り、その腕を掴んで、一本背負いした。


「ぐはっ!」


 床に叩きつけられるシンキ。突然のことで、何が何だか分からないというコウカの前で、精霊族の女はケラケラと笑った。


「アハハ! 護衛にしては情けないね~……大丈夫だよ、私はこの子に、コウカちゃんに何もしないから~」

「し、信用できるか!」


 シンキは立ち上がり、刀を振り上げて女に迫った。すると困った顔をして、女はシンキに手をかざす。


「むう……しょうがないな~」

「ッ!?」


 すると、シンキの足元に魔法陣が浮かび、そこから植物のようなものが生えてきて、シンキの足に絡まっていく。更に刀にも絡まっていき、シンキの動きは完全に封じられた。精霊族が使う植物を活性化させる魔法である。


「ちっ! くそ! 放せ!」

「はいはい、後でね~……さて! コウカちゃん! 何する~?」


 動けず、ただ怒鳴るだけになったシンキを尻目に、女はコウカに近寄る。

 あまりの出来事に呆然とするコウカ。これでもシンキは、鬼族の中でも、エンマに次ぐ力を持っている。

だからこそ、エンマはコウカの警護に、シンキを任せていた。そんなシンキが、いともたやすく無力化されているという光景が信じられなかった。

 女を見ながらも、コウカはシンキの方に目を向ける。悔しそうな表情で、女の背中を見て、自分に逃げろと訴えかけてくる。

 コウカは悩んだ。女から感じられるものに、敵意などはない。むしろ、コウカも女のことを信じていた。このままずっと一緒に居たいと思えるほどの安心感があった。初めて会ったはずなのに、そこまでの信用があるとコウカは自分でも不思議だった。


 穏やかな顔をして、近づいてくる女に、コウカは悩みながら、口を開いた。


「あの……」

「うん?」

「シンキを……放してあげて……」


 コウカの言葉に、ハッとした様子の女。目を見開き、コウカの顔をジッと見ていた。そして、フッと笑うと、コクっと頷く。


「本当に……貴女は優しい子だね……ちょっと待っててね」


 そう言って、女はシンキの方に振り返り、近づいていった。シンキはコウカの言葉を聞いてから、何も言わず、黙って女を睨んでいる。

 女は、シンキに近づき、真剣な目になって、口を開いた。


「……急に出てきたら、確かに心配するよね……ごめんなさい」


 女はシンキに頭を下げる。先ほどまでとは打って変わって、急に謝り出した女の様子に一瞬驚くも、警戒の色を解かないシンキ。


「……何故、コウカ様の前に現れた? 何故、あのようなことを……?」


 シンキは女に、行動の真意を尋ねた。女は顔を上げ、シンキの前に手をかざす。そして、拘束していた魔法を解きながら、話しだした。


「いつも……見ていたんだ。あの子が、必死に祈っているところ。

……何だか、昔の自分を見ているようで……放っておけなかった。

……だから、友達になりたいなって……思ったの……」


 女は、シンキを解放し、まっすぐと見つめてきた。その様子から、嘘はついていないということが伝わったシンキは、はあ、と息を吐いて、刀を収めた。


「……まあ、襲う気があったら、すぐにやってるよな……俺、やられたし……」

「シンキ君?」

「……分かった。俺も、コウカ様と同じようにアンタを信じる。

……けど、こっそりとやってくれよ。エンマ様に知られたら、多分アンタ、追い出されるから……ついでに俺もな……」


 そう言って、フッと笑い、シンキはコウカに頭を下げながら部屋から出ていった。戸が閉まると、外から物音に気付いた、他の鬼族の者達に混じって、エンマの声が聞こえてくる。

何かあったのかと尋ねるその者達の声に、シンキが、異常なし、と伝えると、コウカと女は顔を見合わせてクスクスと笑っていた。


 そこから、その精霊族の女とコウカの関係が始まる。女は毎日のようにコウカに会いに来ては、一緒に祈ったり、話などしながら、コウカと楽しんでいた。コウカも以前に比べて、顔色も雰囲気も明るくなっていった。

時折、周囲の者達に、何事かと尋ねられることがあったのだが、シンキと共に女のことは隠し続けていくという生活を送るようになったという……。


 ……あれ? シンラの話はどこ行った? シンキじゃなくて、シンラの話だ。懐かし気に、当時のことを語るコウカに尋ねると、コクっと頷いて、その先のことを語り出した。エンヤに焦らすなと怒られたが、無視しておいた……。


 さて、精霊族の女が出会ってからコウカの心もだいぶ落ち着いていった。

 だが、戦争中ということには変わりはない。人族が立ち上がり、神族や、自分たち鬼族と共に、邪神族に挑んでいるということは知っているが、同時に未だ増え続けている戦死者のことを思い、コウカと女は毎日祈っていた。


 そんなある日、シンキから一つの報告がなされた。近々、人族を纏める“始まりの賢者”ムウと、その仲間達が、自分たちの居る、神族と鬼族の本拠地を訪れるという。これからの戦いに向けた会談を行うためだ。


 ムウ一行には、エンヤやタカナリ、それにハルマサたちに、シンラも居る。

 その時のコウカはムウという男は知っていたが、共に戦うエンヤたちのことは知らなかった。これは、必要以上に名を広めたくないというエンヤの考えに基づいたものである。

 しかし、シンラのことは知っていた。


 シンラは、ハルマサたちよりも若いながらも、既にエンヤと肩を並べるほどの力を持ち、人族の中では最強、会ったことは無いが、シンキとも遜色ないほどの力を持っていたという。

そして、常に人族の最前線に立ち、邪神族との闘いに挑んでは、多くの武勲を立てていた。

 さらには、人柄も良く、助けた者達と交流を深めていき、エンヤよりも人族の中で影響をもたらす者として、人族の先頭に立っていた。


 まあ、エンヤは見た目も性格もおっかないからな。闘いにはそれこそ、神の如くといったところだが、他人からは畏れられることの方が多かった。

俺達の時は、サヤが、その時はシンラやタカナリ、それにハルマサが居てくれたおかげで、人族もまとまっていたのだろう。


 さて、シンラの人知を超えた強さと、人族を纏める長としての度量も相まって、箱入り娘のような生活をしていたコウカもその噂は聞いていた。

今や、大地でシンラの名前を知るものはいないと評される人間に、流石のシンキも感心していたくらいである。


 鬼族の長の娘として、一度お会いしてみては、というシンキの言葉に、コウカは頷いた。


 やがて、会談の日当日となり、人族の国から、ムウがエンヤたちをつれて神族たちの本拠地へとやってくる。

シンラは、エンヤとムウ、さらには神族の長ケアルと鬼族の長エンマに、若い者は若い者同士と言われて、コウカの部屋を訪れた。

 部屋の前に居たシンキは、シンラの姿を見ると目を見開き口を開く。


「おっ! お前が人族のシンラだな? 会えて嬉しいな」

「いえ、こちらこそ……鬼族の大将であるシンキ様……ですよね?」

「気軽にシンキで構わない。それに大将と言っても、形だけだ。俺より強い奴も居るし、俺より賢い奴も居る。何も、俺が鬼族最強というわけではない」

「それを言うのでしたら、私もです。皆からは、一番強いと言われていますが、私より強い方は多く居ますから。

 しかし、私のことをそう呼んでくださるのは、私の力を信じてくださっているということと思い、これからも邪神族との闘いには全力で向かっていきます。出来ることなら、貴方と共に……」


 シンラはフッと笑い、手を差し出した。シンキは更に嬉しくなり、シンラと固く握手をする。


「なかなか、良いことを言うなあ……上等だ。会談がどうなるかは分からない……が、今日から俺とお前は親友だ! 名前も似てることだし、例え、会談がこじれても、一緒に邪神族を倒そう!」


 そう言って、ニカっと笑うシンキ。


 二人はその後、何度もお互いを助け合い、共に戦い、最後の時まで、その友情が途切れるということはなかった。


 さて、そんな二人の会話を部屋から聞いていたコウカと精霊族の女。普段はどこか堅物な印象の、シンキの子共のようにはしゃぐ声に、にこやかになりつつも、いよいよシンラと会うのかと思い、緊張していた。


 すると、外から再び二人の会話が聞こえてくる。


「で、シンラはどうしてここに? 会談に参加しなくて良かったのか?」

「いえ……エンマ様や、ムウさん、エンヤさんに、先にコウカ様に会っていけと言われまして……」

「ムウは知っているが……エンヤって誰だ?」

「ムウさんと共に私達の国を統率されている方です。先ほどの私よりも強い方ですよ」

「へえ~……そんな奴が居るのか……ひょっとして、最近聞く、違う世界から迷い込んできた人族か?」

「ええ、そうです。他にもエンヤさんと同じ世界から来た方々も居るのですが、僕はその人たち、闘鬼神という部隊に拾われて……って、話し過ぎましたね。良いのかな……?」

「はっはっは! 大丈夫だ。俺は何もしないからよ」

「信用していますよ。シンキ……さん」


 再び、二人の笑い声が聞こえてくる。部屋に居たコウカはシンラが良い人そうで何となく安心していた。この人とも仲良くなれたら、もう少しは、自分の心も軽くなるのかなと期待していた。

 だが、隣に居る精霊の女に顔を向けると、何故か呆然としている。外から聞こえてきた会話に戸惑っているような、困っているような、そんな表情だった。

コウカは、女の様子に少々疑問を持ったが、柄にもなく緊張しているのかと思い、クスっと笑った。


「そんなに、緊張しなくて良いよ。貴女に会うわけじゃないのよ?」

「え、ええ……そうね……」


 コウカの言葉にハッとした様子の女は、深呼吸して、コウカの言葉に頷き、フッと笑った。


 すると、外から再びシンラの声が聞こえてきた。


「それで……コウカ様は中に?」

「ああ。普段はいくつか手続きが居るんだが、エンマ様も認められたし、俺もお前なら安心だ。コウカ様も中でお前を待っている。入って良いぜ」

「貴方に了解をとっても……」


 シンラの困るようなそんな言葉が聞こえてきた直後、部屋の戸が叩かれる。


「あの……人族のシンラと申します。コウカ様に一度お会いしたく、参上しました。入ってもよろしいでしょうか?」


 突然話しかけられたことに若干取り乱すも、息を整えて、コウカは返答する。


「は、はい。どうぞ……」


 コウカがそう言うと、ガチャっと扉が開かれ、外から、シンラが入って来た。コウカと目が合うと、シンラは静かに一礼する。


「初めまして。人族のシンラと申します。本日はムウ様の護衛としてここまで来ました。そして、貴女にお目通りしたいと思いまして……」

「はい……私は、鬼族の長、エンマの娘、コウカと申します。お会いできて光栄です。シンラ様」


 ニコッとコウカが笑うと、シンラは目を見開き、慌て出した。


「あ、いえいえ……。シンラ「様」などと呼ばれることに慣れていなくて……あの、出来れば、ただのシンラでお願いします」

「では、貴方も私のことはただのコウカでお願いします」


 コウカの言葉に、ますます目を開くシンラ。そして、シンキと顔を合わせる。シンキはニカっと笑い、頷いた。


 実は、シンラが来る前に、精霊族の女とシンキと共にコウカはどうせ会うなら、種族を越えて、友人として付き合っていくような出会いにしたいと考え、お互い謙遜しあうことなく接したいと決めていたらしい。

精霊族の女は、コウカの言葉に頷いたが、シンキの方は難色を示していた。仮にも鬼族の長の娘がそれで良いのかと疑問だったが、自分と肩を並べるか、それ以上の実力があるというシンラならば、それでも良い、むしろ、同年代なのだから、その方が、コウカも安心できるのではないかと思い、シンキもコウカの思いに納得した。


 そして、笑顔で頷くシンキに、少々戸惑いながらも、シンラは、コホンと咳ばらいをして、口を開く。


「じゃあ……改めて……よろしく……コウカ」

「ええ、こちらこそ……シンラ」


 二人は顔を見合わせて、笑い合った。


 ……何だろう……見合いか? そんな雰囲気を感じる。中人のシンキは、さぞ二人が祝言を挙げたときは嬉しかっただろうに……まあ、良いや。


 さて、そうやって笑い合っていた二人だったが、シンラはふと、コウカの隣にいた女に気付き、視線をそちらに向けた。女は呆然としながらシンラをジッと眺めている。


「コウカ……そちらの方は?」

「あ、はい。こちらは私の友人で精霊族の――」


 コウカは精霊族の女を紹介しようとする。しかし、不意に女は口を開き、コウカの言葉を遮った。


「……カン……ナ……?」


 女はわずかに震えながら、シンラを見ていた。女の様子がやはり、おかしいと気付いたコウカは、女に手を伸ばそうとする。

 しかし、それよりも早く女は駆け出し、キョトンとするシンラを抱きしめた。


「カンナ! カンナでしょ!? 貴方は……!」


 女はシンラを抱きしめながらそのまま涙を流し始める。シンラは女の行動に戸惑いを隠せず、困惑していた。


「カン……ナ……?」

「そう……カンナ……私よ……サヤよ……」

「サ……ヤ……?」

「そう……貴方の……母の……サヤよ……」

「は……は……?」


 女の涙ながらに聞こえてくる言葉の一つ一つを聞くたびに、シンラの胸が苦しくなっていく。

そして、何故だか妙に悲しい感情が渦巻き、頭の中に真っ黒な感覚が広がっていった。

何かに対する悲しみ、憧憬、どこか懐かしいと思う感情。

それとは別に、何か強大な力に対する怒り、辛さ、恐れ……。


 正直、もうやめてくれとシンラは思っていたが、女は更に言葉を続ける。


「私と……ザンキ君の……大切な……大切な……息子……また……会えるなんて……」


 女は更に強くシンラを抱きしめ、涙を流した。もう決して放さないという意思をその場に居た誰もが感じていた。


「カン……ナ……サヤ……ザン……キ……むす……こ……ゔッ!!!」


 その時、シンラは強烈な頭痛に襲われ、女を離しながら跪き、苦しみだした。女はコウカに支えられながら、必死にシンラに声をかける。


「カンナ! どうしたの!? どこか痛いの!?」

「落ち着いて! どうしたの!?」


 コウカは必死に女に声をかけるが、女は依然、シンラに声をかけ続ける。その表情はシンラしか見えていないというような目だった。二人に何が起きているのか分からないが、確実に、シンラに何らかの異常を感じたコウカ。

シンラは、頭を押さえながら、更に苦しみだしていく。


「闘……鬼……エン……ヤ……タカ……リ……安……備……エイ……シン……師……サヤ……母……家……帰……誕……日……死……神……ザン……キ……父……

あぁ……あ゛ぁ! ……あ゛あああああ~~~ッッッ!!!」


 シンラは苦しみながら、何かぶつぶつと呟いている。コウカには何を言っているのか分からず、どうして良いのか分からなかった。

しかし、そうしている間にも、シンラは苦悶の声を上げ続ける。

すると、精霊族の女がパッと飛び出し、シンラに声をかけ続ける。


「カンナ! しっかりして! どうしたの!? カンナあああッッッ!!!」

「ゔあ゛ぁぁぁぁ~~~~ッッッ!!!」


 頭痛が激しくなったのか、シンラはそのまま雄たけびを上げ、辺りに気を発散させた。コウカは、シンキに護られ無事だったが、シンラのそばに居た女はその衝撃で吹っ飛ばされ、壁に強く体を打ち付け、その場に倒れた。


「カン……ナ……」


 女はそのまま涙を流しながら意識を失ったようだ。生きてはいるようで安心するコウカはシンラの様子を伺う。

 気を発散させた後に、気づかないうちにシンラも気絶したようだ。恐る恐るシンキが様子を見ると、シンラも生きているということを確認し、コウカは胸を撫で下ろす。


「一体……何が……」

「分かりません……しかし、この女と、シンラ……二人には深い関係があったように思われます」


 二人を見ながら、シンキの言葉にコウカは頷く。女がシンラに投げかけていた言葉の意味を考えると確かにそうかも知れない。

しかし、一体どういうことなのかと、シンキと共に首を傾げていた。


 すると、部屋の外から、ガヤガヤと声が聞こえてくる。どうやら会談を行っていたエンマやケアル、それにムウ達が異変に気付き、こちらに向かってきているようだ。

精霊族の女も居るし、どう説明したら良いのかとコウカとシンラが悩んでいるところに、陽気な女が入ってくる。


「おいおい、シンラ~。コウカって女が美人だからって襲っちゃあ……って、何だ!?」


 入って来た女はエンヤだった。エンヤは、部屋の状況を見ながら、目を丸くさせる。ボロボロの部屋に、横たわるシンラ。一体ここで何が起きたのかと辺りを見渡した。


 すると、シンラと同じように横たわり、頬に涙を流しながら、倒れている精霊族の女に気が付く。

そして、その顔を見た瞬間、慌てて駆け寄り、女を抱き上げた。


「お前……何でこんなところに!?」


 エンヤは女のそばで声を張り上げる。突然入って来た見知らぬ女の必死な姿に、何も言えなかったコウカとシンキ。

すると、女の瞼がぴくッと動き、開かれていった。


「う……ん?」

「気が付いた! おい! しっかりしろ!」


 精霊族の女は、虚ろ気な目で、声のする方を見る。そして、エンヤの姿を確認すると、一瞬だけ、目を見開き、そして、穏やかに微笑んだ。


「あ……やっぱり……頭領さんだ……頭領さんが……カンナを……連れてきたんだね……」

「何言ってんだ!? って、その呼び方! やっぱり、お前……」

「うん……久しぶりだね……頭領さん……私……だよ……サヤ……だよ……ザンキ……君の……また……会える……なんて……」


 エンヤは、女の言葉に目を見開いた。そして、何かがこみあげてくる感覚がする。ぐっとそれに耐え、ニカっと笑った。


「そうだな……俺もだ。また、お前に会えて嬉しい……だが、この状況は一体……?」

「うん……ごめんなさい……頭領さん……すこし……つかれちゃった……また……後で……良いかな……?」

「あ? お……おう、わかった。しょうがねえな……」

「ふふっ……ありがと……やっぱり頭領さんは……私達……ザンキ……君の……家族には……優しいね……あの子……にも……」


 女は、シンラの姿を見ながら、そのまま眠りについた。心配するコウカだったが、エンヤに、ただの気絶と言われて、ふう、と息を吐く。


 エンヤは眠りについた女と、倒れているシンラを見ながら、


「どうなってんだ……ザンキ……?」


 と、頭を掻きながら呟いていた……。


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