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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
世界の真実を知る
234/534

第233話―世界の真実が語られる―

 俺の目の前では、突然現れた女、闘鬼神初代頭領にして、俺の育ての親である、エンヤが、その胸に顔をうずめ、感極まり涙を流し始めたコウカの頭を撫でているという光景が繰り広げられている。


 ただでさえ、ここに居た鬼族の女がコウカということが判明し、頭の中が混乱していたというのに、その上、エンヤまでここに現れたということで、更に頭の中が、ぐちゃぐちゃとなっていた。


 無間の刀精がエンヤだったということ自体、俺にとっては、かなり大きな衝撃的なことの一つだったのだが、それに続いてのこの状況ということで、俺は本当に何も言えずに、二人を眺めている。


 本当にこの状況は何が起こっているのかと思っていると、ふと、コウカをあやしていたエンヤが、俺の方を向き、ゆっくりと俺の方に近づいてきた。


 そして、拳を握り、腕を振りかぶって、俺の顔めがけて――


「うおっと! き、急に何すんだ!」

「ん? ぼーっとしてたからよ。立ったまま意識を失ったかと思ってな……」


 間一髪、エンヤの拳を防ぐ俺。手を放すと、エンヤは、昔のようにケラケラと笑っていた。

 ……うん、間違いない。コイツはエンヤだ。今まで混乱していた頭の中が、コイツの行動のおかげで、すっきりとしてくる感覚が身を包んでいき、俺も落ち着いてくる。

 俺は、ため息をつき、エンヤの胸に拳を当てた。ケラケラと笑っていたエンヤは、目を見開き、俺の顔を見つめてくる。


「……何してんだ……こんなところで……」

「……ああ……まあ、ゆっくりと説明してやるよ」


 エンヤは、そのまま、見たこともないような穏やかな表情で、笑った。コイツにも、こんな顔が出来るのか。

 二十年近く、コイツと一緒に居たのだが、初めて見るなあと思っていた。


 すると、そんな俺達の元へ、コウカがやってくる。すでに泣き止んだ様子のコウカは、俺の顔を見ながら、エンヤの肩を叩き、口を開く。


「ねえ……頭領さん。頭領さんと、ザンキは知り合いなの?」

「ああ、そうだ。もっと言えば、皆とも、知り合いだぜ」


 コウカは、目を見開き、何かに気付いたようにハッとした様子で、更に俺の顔を見てきた。俺の方は、皆とは誰のことを指しているのだろうかと思っていたり、いまいち、エンヤとコウカの関係性が分からないと首を傾げる。

 すると、コウカの目が再び潤んできて、涙が頬をつたった。


「違う世界から来た……ザンキ……もしかしてって思ったけど……やっぱり……この人が……?」

「ああ……そうだ。コイツが、あのザンキだ……必ず、お前とシンラを会わせてくれるはずだぞ」

「……うん」


 再び泣き出すコウカの頭を撫でながら、エンヤはニカっと笑う。俺を抜きにして、勝手にシンラと会わせると言っているということに、若干頭を悩まされるが、まあ良いやと思い、流しておいた。


 しかし、二人の会話から、コウカは元々俺のことを知っていたようだと分かり、更に混乱してくる。本当に何が起きているのだろうかと思っていると、二人は俺の方に目を向けた。


「……あ、ごめんね、ザンキ。ちゃんと説明するから……」

「ああ、気にしてないから、ゆっくりと説明してくれ」


 時間はたっぷりとあるということは分かっている。


 未だ混乱する頭を落ち着かせ、俺達はひとまず座った。


 そして、エンヤとコウカが頷き合い、ゆっくりと口を開いた。


「色々と聞きたいことがあるだろうが、まずはこの世界についてお前に説明したいが、良いか?」

「ああ。……と言っても、先ほど話したように、俺がそれを知ったところで、色んなことへの説明にはなるのか?」

「ええ。これは、今の人界にとっても、貴方にとっても、すごく重要なことだから……」


 ……ん? なんで、この世界の話が、俺に関係してくるのだろうか。早速疑問が浮かんでしまう。ただ、ここで止めても、意味が無いような気がしたので、黙っておいた。


「……最初に、さっきザンキが話したこの世界のことだけどね……」

「ああ、何かおかしなところがあるって言ってたな。結局何だったんだよ?」


 エンヤがここに来るまでに話していたことだ。この世界の歴史について、コウカに聞かせたところ、何か様子がおかしかった。どこか、間違っているのだとしたら、教えて欲しいものだ。


 すると、コウカは、またしても、う~んと何か悩んでいるようだった。何を悩んでいるのだろうかと思っていると、エンヤが、コウカの肩を叩く。


「お前が知らないのも無理はない。あの闘いの後……そして、お前らが死んじまった後、俺達でそうしようって決めたんだ。ほとんどその場しのぎだが、ラセツとも相談してな……」

「そう……なんだ……」


 エンヤの言葉に、コウカは納得している。頼むから、二人だけで話を終わらせないでくれと思っていると、意を決したように、コウカが口を開く。


「……あのね、貴方が話してくれた100年戦争のことなんだけど……違うの」

「どこが違うんだ?」

「どこ……というか、全部違うの」

「……は?」


 コウカの言葉に思わず目を見開き、絶句した。

 俺の知っている歴史が全て間違っているという。

 ……いや、そんなはずはない。この世界に来て、何度も見聞きした情報だ。間違っているということはあり得ない。


 ……だが、俺の目の前に居るのは、その歴史の中に実際に居た女だ。間違いかどうかというのは、現状コイツしか判断できないだろう。落ち着いて、コウカの話を聞くことにした。


「……続けてくれ」

「うん。あのね……」


 コウカは、この世界の真実の歴史について、語り出した。


 ◇◇◇


 この世界の起源については、これまで俺が聞いてきたものとほとんど同じだった。


 魂から生命を創造する神族と、大地に増えすぎた魂を減らしていく鬼族による「魂の管理」によって、この世界は維持されているということ。

 俺達のような人族など、他の生命はその過程で生まれた種族だということはおおむね間違っていないという。


 重要なのは、神族と鬼族は、もともと仲が悪いというわけでは無かったということ。

 鬼族は神族から堕落した者達と伝わっていたが、それは間違いで、新たに生まれてきた命が、天界の波動を浴びて育つか、冥界の波動を浴びて育つかで、神族か、鬼族に分かれるという。

 ちなみに、どちらでもない場合は、大地に住む、人族やその他の生き物になるらしい。いわば、人族も、神族も、鬼族も元は同じ種族である。生まれた環境によって変化するからといって、そこまでの差別は殆ど無く、三つの種族はこの世界を維持するためにそれぞれが、責任を持ち、生活していたとのことだ。


 ちなみに天界の波動、冥界の波動とは、世界に溢れていた魂に変異をもたらすものということらしい。

 色々と特徴はあるが、ざっくりと説明すると、天界の波動は、魂を維持させるためのもので、先述の通り、神族が魂を使い、生命を生み出したり、例えば天候などを操り、痩せた大地に豊穣をもたらしたりすることが出来ていたという。

 冥界の波動は、増えすぎた魂を減らすために鬼族が利用していたということで、例えば、大地を枯らせたり、天変地異などを引き起こしたりするときに、使われていたという。

 この二つの波動は、大地のいたるところで確認され、その特異性から、神族と鬼族にしかそれぞれ扱うことが出来ないものだったという。


 ……結構、危ない代物だな、両方とも。今後は少し気を付けよう……


 さて、そうやって神族は魂から、生命を生み出し、鬼族は肉体を失った魂を管理し、人族などは、神族から与えられた生命を大切にし、死んだ後は、鬼族に魂を委ねるといったことを繰り返していき、この世界の維持にそれぞれ務めていた。


 だが、そんな折に、神族内で、とある派閥争いのようなものが起き始める。

 それは、自分達以外の種族を敵視するという考えを持つ者達が現れ始めた。正しくは、敵視というよりは、差別。命を生み出すことが出来る自分たちこそが、大地で至高の存在であり、他の種族は下位の存在であるという高慢な思いから起こるものだった。

 そして、その者達はことあるごとに、人族や、鬼族にちょっかいを出し始める。主に人族からは、貢物の搾取や、奴隷として奉公させるといったものだ。

 鬼族に対しては冥界の波動と、天界の波動の関係により、もっとひどいことが行われたりしていた。気に入らないという理由で暴行や、私刑などという直接的な攻撃をする者が現れ始める。


 当時からの神族の長、ケアルは、他の者達よりも抜きんでた強大な力を持ち、そんな者達を諫めたり、あるいは罰を下したりして、他種族への過度な干渉を止めていた。


 しかし、そういった行動は、かえって差別をしていた神族たちの鬱憤を募らせるようになり、何時しかそれは、ケアルたちへの恨みへと変わっていく。


 そして、しばらく経った後、ケアルの意に従わない者達が、大地の三種族に向けて反旗を翻す。主なきっかけとして、三つの要素が挙げられた。

 一つは、そう言った者達が神族の中でも増えていったこと。逆を言えば、ケアルの意向に賛同していた者達が減った。これは、反旗を翻した者達により、粛清されていったと、後で明らかになる。

 二つ目は、反ケアル派閥の者達の中から、ケアルと同等かそれ以上の力を持つ神族が現れたこと。この者を中心とする者達が増えたことにより、戦力は整ったということだ。

 そして、最後の要素として、魂の新たな使い道を解明したというものがある。それは、トウショウの里を襲っていた神怒のように、魂に込められている魔力や生命力を、肉体に宿る命の維持という使い方以外の方法で利用するというものだ。あるいは強大な攻撃に使うことも出来るし、あるいは、自身の魂と結合させることにより、自身を強化させるといったものだったり、色々と出来る。

 反ケアル派閥の者達は、大地の種族問わず全ての命を奪い、魂を回収しようと躍起になった。自らを今よりも、もっと強大な存在とするために。

 あるいは、回収した多くの魂を束ね、より強大な力を得て、目的を果たすためにと。

 それこそが、大地に出現した魂の結晶のことであり、どんな願いも叶えられるものと、伝わるようになった。


 反ケアル派の神族たちは、大地の上空に、魔法で亜空間を作り出し、そこを拠点としながら、大地に居る種族を滅ぼそうと、大地に侵攻するようになった。


 一方、神族の長ケアルと鬼族の長エンマは、大地の生命を守るために力を結集させ、反ケアル派閥の者達を、「邪神族」という敵と定め、応戦していった。

 その中で、邪神族は、兵力の差を広げるために、魂の抜けた死骸を集め、そこに集めた魂を定着させ、新たな種族、「魔物族」を生み出した。定着させる際に、集めた魂から、生前の記憶、理性、人格などを取り除き、攻撃性だけを高められた魔物族により、大地を護る神族や鬼族、更には大地に住む人族の被害は甚大なものとなっていく。


 そこで、ケアルとエンマは、邪神族と同じように、新たな種族を生み出した。闘いの為だけに生み出すということに罪悪感を抱いていたが、大地を護るためには仕方がないこととして、神族は「龍族」、鬼族は「神獣族」を生み出した。数は少ないが、神族たちとほぼ同等の力を持つこれらの種族の誕生により、大地の守護者たちと、邪神族の兵力は、拮抗状態となり、戦争はなおも続いていった。


 しかし、戦争が長く続くということは、それだけ、大地に影響が起き続けるということ。強大な力を持つ種族の戦いに巻き込まれるだけになってしまった、何の力も持たない人族は段々と疲弊してくる。

 この世に生を受けて、死を迎えるその瞬間まで、戦争が続くというのが何世代も続いていった。

 このまま、自分たちは成す術もなく、こうやって絶望の人生を何度も繰り返さないといけないのかと思い始めていた時だった。


 大地にとある変化が起こる。それは、闘っていた神族も、鬼族も、ましてや邪神族も予想だにしていなかったことだった。


 神族と鬼族、そして、邪神族の闘いが勃発して数百年が経った頃、神族の長ケアルと、鬼族の長エンマに一つの驚くべき報告がもたらされた。


 それは大地に住み、力を持たない人族の中から、魔物たちと闘う力を持った者達が出現したとのことだった。

 その者達は、大地に一つの国を作り、団結しあって邪神族からの被害から、他の人族を護っているとのこと。

 ケアルはさっそく、その人族の国に赴き、現状を確かめた。すると、報告にあったように何人かの人族が魔物族と闘っている。ケアルがその場で、魔物たちと闘い合っているという光景に驚いたが、更に驚くことがあった。

 人族が、自分たちと同じように、肉体の内なる力である魔力を操り、魔法を行使していること、更には、何か魔法ではない力を使い、魔物たちの相手をしているということに気付く。

 呆気にとられるケアルの前で、その者達は、あっという間に、魔物たちを倒し、勝利を収めていた。


 ケアルは、その者達と接触することにした。目の前に現れたケアルに、その者達は、最初は警戒したが、ケアルが純粋な神族であることを確認すると、喜んでもてなしたという。

 そして、自分たちのことを説明しだした。


 その人族で特に先頭で闘っていた者達や、何人かで構成された国の長達は、この世界とは違う世界から来たのだと語る。

 前の世界で死んだということは覚えているが、その時の記憶は確かに残っており、そのままこの世界に生まれてきたと語ったり、死んだという記憶はないが、気が付いたらこの世界に居たと語る者も居た。

 ケアルは正直訳が分からなかったが、その者達の魂から感じられる波動というか、力の流れは確かにこの世界のものとは別物だと感じ、それは真実であると確信したという。


 その者達は、この世界に来て邪神族たちのことを知り、前の世界での経験を活かし、闘うことを決意した。

 その中に、“始まりの賢者”と呼ばれる一人の男が居た。その男の名は、ムウ。ムウは、前の世界では、一番の賢者だったと語り、この世界の人族に、魔力の扱い方を広める。そうやって、この世界の人々や、別の世界から来た者達は、魔法というものが使えるようになる。

 その過程でムウは、この世界の個人一人一人の魂に、魔力とは違った別の力の流れがあることを突き止める。その力の流れは、主に肉体に影響を及ぼしており、個人に様々な超能力を与えることを見出した。

 そして、その力を行使する方法というものも広める。それがスキルだということらしい。


 人族は、ムウから伝えられた、自身に眠る、神族や鬼族達に匹敵する力を行使できるようになり、邪神族たちとの闘いに参戦していったというのが、人族が邪神族に対する闘いに加わったということの真実だ。


 ムウは、自分と同じく、集まってきた違う世界から来た者達に更に着目し、魂や肉体の解析に努めていった。

 すると、そういった者達の多くに、普通の人族の者達とは明らかに異質で、強力な力が宿っていることに気付く。ムウはそれをエクストラ・スキル……EXスキルと名付け、ケアルはEXスキルを備えている者達を、改めて、人族の指導者として任命し、共に団結することになったという。


 ◇◇◇


「……というのが、貴方が言っている、100年戦争……私達は邪神大戦と呼んでいた闘いの経緯だよ」

「なるほど……」


 いったん、ここでトウカは話を区切る。一気に教えられても、俺がついてこれないと思ったらしい。

 だが、俺は元々この世界の人間というわけではないので、聞いていたことが違っていても、特にはそこまで驚かなかった。


 ケリスとの一件で、カドルも、天門から現れた奴らのことを「邪神兵」と言っていたし、神族の中に邪神族というものが居るということは何となく想像がついていた。それまでの、魂の管理についても、種族間のことについても、特に驚くことは無かった。


 だが、驚いたことと言えば、最後の、人族が戦争に加わったという経緯についてだ。精霊族のことは全く無く、人の中から、魔法やスキルを見出した者が居るということはかなり驚いた。更にその者は違う世界から来た者、いわゆる、現在で言うところの、俺達のような迷い人だ。そんなに前から居るんだなと感じる。


 しかし、神族が召喚したわけでも、鬼族が転生させたわけでもないとなると、どうやって来たのかという疑問は晴れない。ケアルもエンマも把握していないとのことだったからな。

 それについて、頭を抱えていると、トウカが口を開く。


「多分だけどね……お父様が言っていたのは、激しい戦いの中で、神族同士の強大な力がぶつかり合った時に、この世界の次元が歪んで、その歪みから、違う世界の魂が、この世界の肉体と何らかの形で結合したんじゃないかって……」

「……頭痛えな」


 あまりにも大きな話で、俺からすれば、少々小難しい話で訳が分からなった。頭を抱えていると、横に居たエンヤが、はあ、とため息をつく。


「要は、本来魂ってのは、その魂が生まれた世界を循環するようになっているが、何かの拍子……ここでは大きな闘いによって生まれた、ある種のゆがみによって発生した大きな力で、違う世界の魂や、生命が別の世界に来たんじゃねえかってことだ」

「いや、それが分からねえんだが……」

「ミサキって、“魔法帝”のガキが居ただろ? んで、そいつが言っていただろ? 自分が、時空間魔法を使い、空間を捻じ曲げたとき、何かのはずみで、別の世界から迷い人が来ることがあったって。そんな感じだと思っておけ」


 頭を抱えていた俺だったが、エンヤのおかげですっきりとしてくる。ああ、そういや、アイツ、そんなこと言っていたな。壊蛇との闘いで、時空間を操る魔法を使っていたら、違う世界の人間が、この世界のあちこちに現れたって。

 なるほど……同様のことが、この時にも起こったというわけか。神族同士のぶつかり合いで生じる力の衝撃は、この世界がある空間そのものに影響を与えるものらしく、恐らくそれで、空間同士の間に存在する、壁のようなものに影響が現れ、その隙間から、違う魂が迷い込み、鬼族や神族の手入れを行わずして、肉体に宿り、転生を果たしたというわけか。

 そうなれば、人格や記憶も失われないということの答えにもなるしな。


 更には魂だけでなく、肉体も前の世界のまま、こちらに来ることも出来た者も居て、前の世界そのままの姿で、こちらでも、活動できたというわけか。


「……ん? ということは……」


 ここで、俺はふと気づいたことがあり、エンヤの方を向いた。


「お前も……転生者ってわけか?」


 死んだ魂がここに流れ着き、新たに生を受けたということならば、目の前に居るエンヤは、そうではないのかと考えた。そして、予想通り、エンヤは、俺の問いに頷く。


「ああ、そうだ……お前も知っての通り、俺は前の世界であの時死んで……気が付いたら、こっちの世界で新しく生まれていた……」

「……そうか」


 エンヤは少し表情を暗くした。無理もない。その最期を看取ったのは、他でもない俺だからな。あの時のことを思い出すのは、俺も未だに辛いが、あの時死んだエンヤもきっと同じ思いなのだろう。

 少し元気をなくした様子のエンヤの顔を心配そうにコウカが覗き込む。エンヤは心配ねえよ、言いながらコウカの頭をわしわしと撫で、ニカっと笑った。


「確かにあの時は辛かったさ。こんなものかと死ぬ最後まで思っていた。

 ……けど、こっちの世界に来てから、新しく生まれて闘っていくうちに、俺の人生に、信じられない出来事が続いて、まあ、何と言うか……楽しかったよ」


 楽しそうに、コウカを弄るエンヤを見ながら、何となく複雑な思いになってくる。あの時、俺がどんな気持ちでお前と別れたのか、どんな気持ちで、無間を受け継いだのか、知ってるのかと言いたくなる。

 だがまあ、俺もあの後に出来た仲間、ハルマサたちのおかげで、俺の人生にも、新しい楽しみが出来た。


 お互いにあの時のことを忘れたわけではないが、必ずしもそれで、人生が辛いとは言い難いと、エンヤの言葉に、そうか、とだけ頷いた。

 すると、エンヤは少しムッとした感じに、口を開く。


「む……無間の刀精が俺だって時にも感じたが、お前、反応鈍くなってきてないか?」

「あ?……まあ、年取ったからな。よほどのことじゃねえと動じねえよ」

「そうか……昔のお前はいちいち怒鳴ったりして、面白かったんだがな……」

「……知るか」


 エンヤの言葉にそっけなく答えると、やれやれと肩をすくめるエンヤ。それを微笑ましく眺めているコウカ。

 何だか、懐かしい雰囲気だと感じる。サヤに弄られ、エイシン達に笑われ、俺が怒って、それを一歩引いたところで、エンヤが眺めていた子供の時のことをふと思い出した。


 その後、エンヤは俺の方に向き直り、口を開く。


「……さて、コウカに続いて、ここからは俺から邪神大戦のことを説明する」

「ああ、分かった」


 俺が頷くと、エンヤは100年戦争……いや、邪神大戦のことについて語り出す。

 が、その前に、エンヤ自身がこの世界で生まれてからのことを最初に語り出した。


 ◇◇◇


 エンヤがこの世界で生まれた時は、既に邪神大戦が勃発し、数百年が経っていた頃だった。エンヤ曰く、普通の人族の元に生まれ、幼少期は、前世の記憶は無く、神々の戦いに怯える他の人族に囲まれながら、自分も怯えながらも、たくましく生きてきたという。


 ある時……十歳を越えたくらいの時、この世界での両親を亡くし、エンヤは魔物たちへの復讐心を募らせた。

 そして、戦場に落ちていた刀を持ち、初めて魔物を倒し、その血を浴びた瞬間、前の世界での記憶が呼び覚まされた。


 エンヤは、自身の頭の中に、様々な情報が流れ込み、酷い頭痛と共に意識を失いそうになった。

 だが、最後に見た記憶……俺の顔と、綺麗に着飾ったサヤ、カンナ、そして、闘鬼神の奴らの顔を思い出し、意識を保ったという。

 その後、子供ながらに刀を振るい、人族の中で初めて魔物を返り討ちにした人間として、人族の間で頭角をあらわし、同じように、力を持つ者達と徒党を組み、弱い者達を保護し、弱冠二十歳にして、人族の国を建国したという。


 その途上で出会ったのが、ムウであり、ムウと出会った後は、自らの国民たちにスキルと魔法を広めたり、自身もムウにより更に強くなり、EXスキルも得ながら、神族からの共闘の申し入れがあるまでは、国を襲う魔物や、邪神兵達を倒していき、人族の領地を広めていったという。


 世界を越えても、コイツはここでも規格外な人間らしい……。


 さて、神族たちと共闘するまでに強い力を持った人族が居る、ということは、敵方の邪神族はもちろん、大地全土に広まっていく。邪神族は、力を持たずただ大地でのうのうと過ごすだけの存在、自分たちが虐げるだけの存在と思っていた人族が、自分たちに抵抗するだけの力を手にしたことに気付き、危機感を抱くようになってくる。

 そして、大地に居た人族にも変化が起こる。強大な種族同士の戦争に巻き込まれるだけだった自分たちにも、それに抗える力があることを知り、襲ってくる魔物たちに立ち向かっていく者も現れてきた。

 しかし、スキルも魔法も使えない、エンヤの国以外の者達はただただ蹂躙されるだけであった。

 そこで、エンヤは、各地に檄と共にスキルと魔法の使い方を授ける者達を放つ。それは主に神族と鬼族や、エンヤの国に居た実力者たちが行い、そういった者達により、力を授かった者達は、邪神族に抵抗しながらも庇護を求め、エンヤ達の国を目指すようになってくる。


 そうやって、大地の各地に散らばっていた人族は一つになっていき、神族、鬼族に続き、邪神族に対抗する第三勢力として、大地に君臨するほどに大きくなっていった。


「お前……やっぱすげえな……」

「だろ?」


 話を聞いていた俺が漏らした言葉に、エンヤはニカっと笑う。前の世界でもそうだったが、コイツは腕っぷしだけで、人々の上に立ち、指導者になるという器を持つ女だった。

 それはこの世界に来ても変わらなかったらしい。魔物たちに臆することなく、闘い続け、多くの仲間を得て、国まで興したコイツの行動力と、力は計り知れないものだと、この歳になっても、実感する。流石は、俺の“親”だと誰かに自慢したくなる。


 しかし、分からないことがある。人族の国を興したというのであれば、エンヤか、もしくはムウって男が、人界王ということになる。シンラはどこに行ったんだと、エンヤに聞くと、


「いや、それがな……国を興したと言っても、それは人族を纏めるための口実みたいなもので、実際は、邪神族に対抗するために、作った組織みたいなものだ。だから国王とか、そういうのは決めていなかったんだ」


 と、語った。人族をまとめたと言っても、戦争は続いている。いつ滅びるか分からない国の王を決めても空しいだけとエンヤは笑っていた。

 まあ、確かに、その時はそんな余裕も無いよなと思っていると、エンヤはふと真剣な目つきになり、再び語り出す。


「ただ、その後、シンラって男が人界王になったというのは間違いではない。

 ……ここからは、俺とシンラとの出会い、シンラとコウカとの出会い、そして、一応の終戦について説明していく……ザンキ、気を引き締めて、聞いてくれよ」

「ん? ああ、分かった」


 気を引き締めろと言われても、話を聞いていないので、どうすれば良いのか分からない。話の最初に、俺にも関わることと言っていたが、そのことかと思いながら、エンヤと、そして、先ほどから、少し寂し気な表情をしているコウカの話を聞くことにした。


 人族を纏め上げ、邪神族と更なる闘いに挑もうとしていたエンヤたちに一つの報告が届いた。それは、自分たち以外にも、EXスキルを持つ者達が集まり、多くの人間を率いて、魔物たちと闘いながら、エンヤたちの元へと向かっているというものだった。

 報告によれば、敵意は無く、むしろ、自分たちを属軍にしてくれと頼んでいるとのことらしい。


 エンヤとムウはもちろんその者達を歓迎する態勢に入る。味方は大いに越したことは無いし、EXスキルを使うということは、自分たちと同じ、異世界から来た者達かもしれない。親近感も沸き、エンヤたちはその者達の詳細な情報を尋ねた。


 すると、返ってきた言葉を聞き、エンヤは唖然とした。


「その部隊は、「闘鬼神」と名乗り、代表を一人の男と、数人の若い人族が務めている模様です」

「……は!?」


 もたらされた報告にあった部隊名は、かつて自分が前の世界で指揮していた傭兵集団と同じ名前だった。思わず固まるエンヤだったが、その時は何かの偶然だろうと考えていた。

 だが、自分がこの世界に居るということは、かつて共に戦った者達も、この世界に来ているかも知れないと思うようになり、真偽のほどを確かめたいと、居ても立ってもいられなくなったエンヤは、ムウと相談し、単身国を出て、その部隊と先に合流することを決意する。


 そして、先方と示し合わせた場所にて、エンヤが目にしたものは、数人の男女に連れられている大勢の人族たちの姿と、一枚の旗。


 エンヤは、その旗を見て首を傾げた。それは、自身が率いていた前の世界の闘鬼神で使われていた、刀を咥えた鬼の紋章ではなかった。

 ただ、刀を構えただけの鬼の姿が描かれているもので、やはり、自分とは違う世界の者達だったかと思いながらも、鬼と刀という共通点だったり、その集団から伝わってくる空気に妙な懐かしさのような感覚を覚え、エンヤは、その者達に近づいていく。


 すると、エンヤに気付いた、闘鬼神の代表らしき者達が近づいてきた。それは若い男女と一人の壮年の男という姿だった。若いと言っても、上は三十前後で、下は十代という見た目で、傭兵部隊というよりは、一つの家族みたいなものだなとエンヤは思っていた。


 そして、その者達をじっくりと見ながら、エンヤは心のどこかで残念だとため息をついた。そこに、自分の知るものは居なかった。

 てっきり、俺とか、俺の部下だったエイシンが居るものかと思い、どこかで期待していた。

 だが、そこには昔の闘鬼神に所属していた者達を確認することが出来ず、エンヤはうつむく。


 だが、その中の壮年の男がエンヤに近づき、まじまじと顔を見てくる。見た感じ、この部隊を率いている男のようだ。

 そして、男は信じられないという表情をして、口を開いた。


「貴女……いや……お前……エンヤという名前ではないか?」

「!?」


 男の言葉に驚愕するエンヤ。会ったこともない人族の男に、自分の名前を言われた。それも、この世界で新たに得た名前ではなく、前の世界の時の名前だった。

 何故、この男は、自分の名前を知っているのかと、エンヤは刀を抜き、男の首筋に向ける。


「どこでその名を知った!? 正直に答えろ!」


 得体の知れない者を放っておくわけにはいかないと思い、エンヤは、男をギロッと睨む。周りの者達は慌てて武器を抜こうとしたらしいが、男はその者達を制し、更にエンヤをまじまじと見つめていた。


「本当に……エンヤなのか……?」

「質問してんのはこっちだ! テメエは何者だ!? 何故、その名を知っている!? 怪しい素振りを見せると叩っ斬るぞ!」


 エンヤは刀を持つ手に力を込めて更に威圧した。

 すると、男はフッと笑い、口を開く。


「まあ……そうか……ここが死後の世界というのならば、納得のいく話か……」


 男はそう言って、かぶっていた外套の頭巾を脱ぎ、素顔を露にさせた。


「何を!? ……ん!?」


 突然の動きに、戸惑うエンヤ。だが、あらわになった男の素顔を見て、固まる。

 その顔に見覚えがあった。自分が知っている頃よりもだいぶ歳をとっているようだが、少しだけ間抜けたようだが、優し気な眼差しをするその男を、エンヤは知っているような気がした。

 呆気にとられるエンヤの前で、その男は、ゆっくりと口を開く。


「ふむ……やはり、ザンキ殿は、お前に似たようだな。私と再会した時も、あの大きな刀……無間で斬られそうになったものだ……」


 エンヤは更に驚き、目を見開いた。男の口からは、確かに、自分が創った闘鬼神で、かつて捨てられていたのを拾い、育ててきた男、「ザンキ」という名前と、自身の前の世界の愛刀の名前である「無間」という言葉を口にした。


 エンヤが呆然として固まっていると、その男はゆっくりと近づき、エンヤの肩に手を置いた。


「久しぶりだな……エンヤ。

 ……私は……タカナリだ。元安備領主のな……そして、ザンキ殿や皆のおかげで、晩年は大陸王に……っと、これはお前の知らんことだったな……」


 その男……タカナリは最後にそう言って、エンヤにニヤッと笑った。未だ、開いた口が閉まらないエンヤは、ただただタカナリの姿を見つめていた。


 ◇◇◇


 ……俺も、エンヤの話を聞きながら開いた口がふさがらない。エンヤに接触を求めて来た部隊の名前が、「闘鬼神」という名前だったというあたりから、ひょっとしてという考えはあった。

 だが、俺の覚えている限り、タカナリは死んでいない。俺がこの世界に来る直前に闘っていたものだって、タカナリとエイキの連名から届いた依頼だったし、そもそも、俺がこの世界に来たときに生きていた者が、何故、俺よりも早く、しかも数千年もの昔に、この世界に来たのかと疑問に思う。


「確かにそれは、俺達の知るタカナリと同一人物だったのか?」


 たまらず疑問を口にすると、エンヤは俺に落ち着けと言ってくる。


「そんなに慌てるな。しっかり説明してやるからよ」

「むう……分かった。ちなみにだが……」


 いったん、ここで議論するのも無駄だと思い、俺はエンヤの言葉に納得する。そして、もう一つ気になることがあり、俺はエンヤに自分の腕を見せた。そこには、タカナリたちから貰った腕輪がはめられている。


「その旗に描かれていた紋章というのはこれか?」


 そして、その腕輪には刀を構えた俺……じゃない、鬼の絵が刻まれている。この世界でエンヤが出会った闘鬼神の旗には刀を構えた鬼の絵が描かれていると語った。

 ひょっとしてと思い、聞いてみると、エンヤは静かに頷く。


「ああ、そうだ。これ、お前なんだってな。それを聞いた時、思わず笑っちまったよ」


 ニカッと笑うエンヤ。曰く、この世界で本物の鬼というものは見たが、今考えてみても、俺より恐ろしいと思える鬼は、当時も居なかったという。

 失礼なことを言うエンヤからそっぽを向く。


 どうやら、当時の闘鬼神の旗に描かれていた紋章とこの腕輪の紋章は同じらしい。ということは、そのタカナリも、俺の友人であるタカナリと同一人物だという確信が得られた。

 一体何が起きたのかと思っていると、ふと、そばに居たコウカが、俺の腕輪をぼーっと眺めていることに気付いた。


「どうかしたか?」

「ううん……少し懐かしくなっちゃった……そう……やっぱり……あなたが、あの時皆が言っていたザンキだったんだね」


 コウカはそう言って、フッと微笑んだ。


 さっきも聞いたが、「皆」とはどういうことだろうか。俺のことをコウカに話した奴が、エンヤとタカナリの他にも居る……?


 ハッとした俺は、エンヤの方に向き直る。俺の考えていることがエンヤには分かったのか、静かに頷いた。


「なあ、ひょっとして、タカナリと一緒に居た、若い男女ってのは……」

「ああ。かつてお前が共に戦い、タカナリを大陸王へと導いた……ハルマサたちだ」


 エンヤから告げられた更なる真実に言葉を失った。数か月前までは同じ国に住んでいた奴らが、タカナリも含め、数千年前のこの世界に居たということだ。

 若干、頭が痛くなりながらも、俺は深呼吸して、エンヤとコウカの、その時の説明を再び、聞いていった。


 ◇◇◇


 合流した、闘鬼神の部隊の代表の男に、自らの名前がタカナリだということを告げられたエンヤだったが、そう簡単には信じなかった。何せ、エンヤは自分と同じく、タカナリも前の世界で、あの時死んでいたと思っていたからだ。

 目の前に居る男が多少似ていても、歳をとり過ぎていると感じた。


 すると、周りを囲んでいた者達、つまりハルマサ、ツバキ、ナツメ、アキラ、トウヤが前に出て、エンヤにこれまでの経緯を説明する。


 その内容は俺にとっても、驚くものだった。


 まずは、タカナリが前の世界でやってきたこと。カンナの誕生日の際に、実は生き延びていたこと、数年後に、玄李に対する反乱軍を指揮する立場になったこと、自分たちは、その時、タカナリと共に戦っていた者達と説明する。

 その後、大陸中を渡り歩いていた俺と合流し、色々あって、玄李を倒し、大陸を統一させ、大陸王になったことを語った。


 重要なのはその後。タカナリが大陸王になって、大体二年くらい経った後、再び大陸全土で戦っていた俺こと、死神斬鬼が失踪した。

 大陸中のどこを探しても、ザンキは見つからず、連絡も無かった。死亡説も流れたらしいが、ツバキ率いる隠密機動の総力を挙げても、死体はおろか、俺の象徴であった無間も見つからなかった。


 そのまま数年経っても、ついに俺が見つかるということは無く、タカナリたちは、大層悲しんだという。


 しかし、今や大陸王となり、国の中心的な機関を担っていたタカナリや、ハルマサたちは悲しんでいるだけというわけにはいかなかった。

 俺一人の為に、国中の民たちを疲弊させるわけにはいかない。共に戦い、勝ち取った勝利と、平和な国を滅ぼさせては、俺に申し訳ないと、皆、悲しみを乗り越え、それぞれの務めを果たしていく。


 そして、大陸統一から、二十年ほど経った頃、タカナリは多くの臣下と、民に見守られながら、安らかに息を引き取ったという。

 その後も、新たな大陸王が玉座につき、ハルマサたちも、それぞれ新たな家族が増えていき、最期まで共に「天栄の国」を支えながら、一人、また一人と、俺の仲間達は天寿を全うしていった。


 それが、タカナリたちがエンヤに語った、前の世界で、生きているときの物語だったという。

 エンヤは、タカナリが大陸王になったということはもちろん、ハルマサたちのような若い者達が、俺と共に戦っていたということが、最初は信じられなかったらしい。


 しかし、連中から聞いた、前の世界の話や、自分たち闘鬼神の話、そして、何より、俺の話を聞くたびに、懐かしさを覚え、気が付けば、タカナリたちの話を信じられるようになっていったという。


 その後、タカナリたちも、気が付いたら、この世界に居たという旨の話を始める。死んだことは覚えている、というか、こちらもエンヤと同じように、この世界に生まれた当初は、前の世界の記憶などは無く、邪神族に怯えているだけだったという。


 しかし、それぞれが何らかのきっかけで前の世界での記憶を取り戻し、今日まで生きてきたと語った。

 記憶を取り戻したタカナリが行ったのは、エンヤとは違い、襲われている集落や、人々を助けることだった。

 そして、あわよくば、エンヤと同じように、もう一度、国でも興そうかと考えていたらしい。

 そこで、人を集めるために、少し照れ臭い感覚ではあったのだが、前世での親友、エンヤが率いていた、最強の証たる闘鬼神の名前を使い、人族の旅団を設立する。

 そして、力ある者たちを雇い、共に戦っているうちに、闘鬼神の名前を聞いたり、掲げていた旗に描かれている紋章を見たハルマサたちが集まっていき、兵力としても、申し分ないほどになった頃、エンヤの国の者達がスキルと魔法の指南に訪れた。

 更なる力を手にしたタカナリたちは、連れている非戦闘要員の人族の庇護の為に、エンヤの国を目指し、接触を求めて来たのだという。


 タカナリたちからの全ての話を聞いたエンヤは、また、タカナリと闘えるならと、更には俺と共に戦った奴らとなら安心できると言って、闘鬼神の要請に応じ、タカナリたちが連れていた人族の者達を、自分たちの国で護る代わりに、大陸全土を統治していたタカナリや、ハルマサたちの力を国に役立てることにした。

 タカナリたちはもちろんと、エンヤの言葉に頷く。


 奇跡とか、まじないの類は全く信じていなかったエンヤも、こういうことってあるんだな……と、感心しながら、周りを見回した。


 すると、とある一人の青年に気付く。自分たちの前の世界のものと同じような着物を纏い、腰に長刀を差した精悍な男だった。皆から少し離れた所で、辺りを警戒している。

 青年は、エンヤと目が合うと、微笑みながらペコっと頭を下げた。エンヤは、妙にその男が気になり、タカナリに尋ねてみた。


 すると、タカナリはその青年を呼び、そばに来させる。近くに来たその青年を見ながら、エンヤはまたしても、懐かしさというものを感じた。なんというか、表情からも、立ち振るまいからも、伝わってくる空気からも懐かしさを感じていた。

 それと同時に、どこか胸が苦しくなるような、感覚が襲った。


「お前は……何者だ? お前も……ザンキの仲間か何かなのか?」


 ここに居るということは、その青年も、俺と共に戦った者かと思った。しかし、青年は首を傾げながら、口を開く。


「ザン……キ? ……よく分かりませんが……違うと思いますよ」

「ん? 違うと思うって……ずいぶん、曖昧な返事だな……」

「あ、すみません。私は……その……昔の記憶が無いものですから……」


 青年の言葉に、驚くエンヤ。どういうことかとタカナリたちに聞くと、この青年は、タカナリたちの元に集まった者ではなく、タカナリが拾った者だという。

 一人で、魔物たちと闘っているところに鉢合わせ、助けて以降、共に行動しているらしい。


 青年は、幼い時の記憶を失くしており、果たして、この世界に生まれたのかどうかということも怪しいらしいが、青年がこの世界での最初の記憶は十二歳くらいの時だったという。全身傷だらけの状態で、深い山の中で一人ぼっちだった。

 そして、訳の分からない状態に恐怖していると、山の中で不思議な存在と出会った。生き物かどうかも怪しかったらしいが、その存在に傷を癒してもらい、食べ物を恵んでもらったらしい。


 しかし、当時の青年にはその者達が発している言葉が、何を言っているのか分からないものだったらしく、更には、青年の言葉も理解できるものではなかったという。

 そこで、その者達に、青年はこの世界の言葉を教え、更にはその山から出ても生きていけるようにと、ある程度の生活の仕方や、戦い方を学んだという。

 不思議と、どちらも教わっていくうちに、メキメキと腕を上げていき、青年は立派に成長し、言葉も上手く話せるようになっていったという。


 その後、青年は戦争で困っている人たちを助けたいと言って、山を下りていき、闘い続けているところをタカナリたちに拾われたということらしい。

 タカナリ曰く、一人で大量の魔物と闘っていたところから、この中でも、最も強いと言っても過言ではないとのことらしく、保護というよりは、共に目的を果たす同志として迎え入れたという。

 それは頼もしいなとエンヤは笑い、手を差し出した。


「じゃあ、お前もよろしくな……え~っと、名前は?」


 エンヤがそう言うと、青年は握手に応じた。


「私は……シンラといいます。私を育ててくれた方々につけて頂きました」


 青年……シンラはそう言って、ニコリと笑った。


 再び、エンヤの胸に、懐かしさと共に何故だかは分からなかったが、奇妙な罪悪感のようなものが渦巻いていった……。


一応言っておきますが、歴史の改鋳は当初から思っていた構想です。


神族、鬼族、人族の三つ巴の世界観が好きだった皆さま、申し訳ありません。

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