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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナの動乱を斬る
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第231話―戦後処理をする―

 早朝、物音に気付き、ジゲンは目を覚ました。眠たい目をこすり、たまとリンネを起こさないように、部屋から出た。そして、音のする庭の方へ、羽織を着て、出てみる。

 すると、サネマサが、そっと門から出ようとしているのが目に入った。ジゲンは草履を履き、サネマサに近づく。足音に気付いたサネマサは、ゆっくりとジゲンの方を振り向いた。


「おう、ジロウ。起こしたか」

「うむ……もう行くのか?」


 サネマサは今日から、民衆の間で暴動が起こっているというチャブラに向かう。行って、その暴動を鎮めてくることが目的だ。


「まあな。取りあえず様子が分からねえから、あいつらの言ったように、よく話を聞いてみる」

「その方が良いじゃろうな。特に心配はしておらんが、気を付けて行くのじゃぞ」

「はいよ。終わったら、すぐに戻るからな。それまでは、ここを頼んだぜ」

「少しは老人をいたわって欲しいものじゃ」


 ジゲンの言葉に、サネマサはニカっと笑い、胸を小突いてきた。


「俺が帰ったら、今度こそ、ゆっくりさせてやるさ。お前も歳なんだからな」

「ほっほ、期待しておるぞ」


 サネマサはジゲンに頷き、そして、転送魔法を起動させた。足元に魔法陣が浮かびあがり、そろそろ行くのかと思った瞬間、サネマサはジゲンに振り向く。


「あ~……やっぱ、俺はお前のその話口調、慣れないな……気合入れるために、いつも通りでやってくれないか?」


 少し、意地悪そうな顔になるサネマサ。ジゲンはどうしようかと頭を抱えたが、今、この場に居るのは自分たちだけ。

 しょうがないなあと思いつつ、大きく息を吐いて、サネマサの背中を思いっきり叩いた。


「痛って! 何すん――」

「真面目にやれよ……下手打って、()()の名に傷付けたら、叩っ斬るからな……」


 どすを利かせた声で、そう言うと、サネマサはハッとし、再び、ニカっと笑った。


「気合、入った……じゃあ、行ってくるぜ、親友」

「ああ。帰ったら、今度はムソウ殿や、ツバキ殿と一緒に宴会だ。だから無事に帰って来いよ、親友」


 笑い合うジゲンとサネマサ。そして、サネマサは頷き、そのまま転送魔法を起動。シュンっと音を立てて、その場から姿を消した。


 ジゲンはフッと笑い、庭の方を振り向く。庭にある大きな天幕の中では、幾人かの住民たちに混じり、ジロウ一家と牙の旅団が眠っていた。

 あの身体でも酔うこともあれば、睡魔というのもあるらしいと思い、ジゲンは乱れていた皆の布団をかけなおした。


「……今日からたっぷり働いてもらうからな。今のうちにしっかりと休んでおけ」


 眠っている仲間達を見ながら、昔のことを何となく思い出したジゲン。そして、天幕から出て、自分の部屋へと戻り、再び眠りについた。


 ◇◇◇


 日が上り、トウショウの里に朝が来ると、十二星天の指揮の下、トウショウの里の復興作業が始まる。

 主に、怪我人の介抱、建物の修繕、ギルドの機能の回復の三つが大きな目的である。

 怪我人の介抱については、ジェシカを筆頭とし、闘鬼神の女中達や、冒険者の女たちが中心となって編成された。

 闘鬼神の冒険者たちは、呪いにかかったわけではないので、ジェシカに傷と気力を癒してもらい、たらふく飯を食い、酒を飲み、温かい風呂に入り、ぐっすりと眠ったおかげで、その日からすぐに動けた。

 未だ眠っているダイアン達やムソウが目を覚ましても、もう大丈夫と安心させたく、十二星天の言うことに従っている。

 ジゲンやシロウも闘いの影響を感じさせないくらいには動けている。少し疲労が溜まっているなという程度だ。身体能力向上系の魔法を使ったり、気や刀精の力を借りて戦ったにもかかわらず、そこまでの負担を負っていないのは、ジェシカのおかげだと思い、翌日から皆の指揮を執っている。


 建物の修繕については、コモンを筆頭とし、闘鬼神の男冒険者達、ジロウ一家、それにトウショウの里の下街の住民たちが中心となって行っている。

 優先的には住民たちの家から直し、その後、上街のギルドと天宝館、花街の妓楼と行う予定である。下街の住民たちの住む家がなおる頃には、天宝館の職人たちも目を覚まし、万全の状態になるだろうとのことだ。

 天宝館総出となれば、半年も待たずして、トウショウの里は復活するとコモンが胸を張って豪語したが、それを聞いた神獣、特に天猩が乗り気で、コモン達に合流し、


「俺が加われば、二か月で出来るだろう!?」


 と、トウショウの里の復興に力を貸した。どうなるかと思ったが、実際、天猩は手際が良く、力も強いので、まるで積み木で家を建てるように、民家を建てていった。

 コモン達は驚くが、確かにこれなら、もう少し予定より早く、トウショウの里の復興が済むかも知れないと、コモンは笑っていた。


 そして、ギルドの機能回復には、レオパルドが中心となり、神獣たちと共に、その役を任された。具体的には、まずは騎士団と連携し、トウショウの里の現状の報告と領内の依頼の整理の為、シンムの里に向かった。


 突然のレオパルドの訪問に、クレナ師団長ジンライは驚くも、話を聞いて、調査依頼の補員として派遣した騎士が戻らない理由に納得し、その者達は現在ムソウの屋敷で世話になっているということを知り、何人かの騎士をトウショウの里の復興に割り当て、一時シンムの里の騎士団がギルドの役を担うということを受理した。

 当面は、ここで依頼の受注や、報酬の受け渡しを行う。素材については、順次コモンが直接査定する手はずとなった。ただ、ムソウが持ってきていたほどの素材が来ることは稀なので、街の復興の片手間に行うということが主となっている。

 レオパルドはそのまま、シンムの里の騎士団に残り、急ぎの依頼や、超級以上の討伐依頼があれば、神獣たちを連れて出向くことになった。

 しかし、神獣たちがどこかつまらなそうにするので、それを諫めたりする方が大変そうだとレオパルドは、頭を抱えていた。


 ジゲンと牙の旅団、それにたまとリンネは、屋敷に残り、時には、屋敷での作業、時にはコモン達の手伝いをしていた。

 ムソウが眠っている以上、ジゲンがこの屋敷の代表なので、離れるわけにはいかない。そして、リンネもムソウとツバキから離れるわけにはいかないということで、二人はここに残ることとなる。

 たまは、いつものように、女中たちの指揮をアザミと行い、炊き出しや、ジェシカの補佐をしている。

 だが、これだけの人数となると、人手もだが、料理の材料も足りない。


 そこで、牙の旅団が、たま達の手伝いをするとともに、雷帝龍も一緒になって、食材集めという名の魔物退治を行っていた。

 ギルドの機能が動いていない以前に、元々クレナに冒険者は集まらないという問題があった。なので、冒険者の仕事を奪うということに対しての懸念も無く、ただただ、親友の「孫」に美味しいものを食べさせる為、牙の旅団は、魔物を狩っては、街に戻り、皆の手伝いをしていた。


 ジゲンはシロウとリンネと共に、屋敷で全体の指揮を執っている。コモン、ジェシカ、レオパルドからの報告を聞き、全体がどのように動けば良いのか判断し、それぞれに指示を出していた。

 てきぱきと行動するジゲンを横で見ながら、自分がここにいる理由とは、と首を傾げるシロウ。そのシロウの肩を叩き、リンネがニコッと笑う。


「たぶん、もーすぐだよ! わたしもたのしみ~!」

「何がだい? リンネちゃん」

「エヘヘ~……」


 キョトンとするシロウにリンネは嬉しそうな顔で笑うばかり。一体、何がもうすぐなのだろうかと、更に首を傾げるシロウを眺めながら、ジゲンはフッと笑った。

 そして、恐らく楽しみなのはまだまだたくさんおるじゃろうなと思いながら、作業を続ける。


 王都への報告については、ジェシカが行った。転送魔法を使い、王の元へ赴き、直接伝えるというだけという簡単なものだ。


 人界王オウエンは、ジェシカの報に驚き、すぐさま王都から人員と物資の補給をクレナに送るようにと命を下す。

 しかし、それに意を唱える者達が居た。

 それは、精霊人の一件で、ムソウを敵対視していた、ギルド長セインとその一派である。セインたちは、いかなる理由があろうとも、王都の命に背き、ケリスを斬ったのだとしたら、即刻ムソウを処断するとし、更に、ムソウに与した者達を捕縛しようと討伐軍を編成しようと言い出した。

 ジェシカは、セインたちの行動に憤慨し、口を開こうとする。だが、それよりも早くセインを止める男が居た。

 セインの一派であり、同じく、ムソウを敵対視していた、“王の右手”シンジだった。シンジは、声を荒げるセインを諫め、まずはクレナのギルドとしての機能と、領民たちの安全を確認することが大切なこと、ここでギルド長として、あるいは王都としてクレナを見放すような行動をとれば、他の領からの不満が起こると説いた。

 他の者達が、確かにそれはマズイと心配そうにセインを眺めると、セインは納得し、挙兵することは辞め、クレナに復興のための人員と物資を送ることを決める。

 ムソウの処断についても、ケリスがどうなったのか分からない以上は、動くこともないと言い、少なくとも、一週間の猶予を与えるとシンジが決めた。

 思いがけないシンジの行動に目を見開くジェシカだったが、一週間後、ケリスが死んだことが確認できたら、シンジ自らが、ムソウを斬りにクレナに向かうと言い、ジェシカは、シンジに対して強い怒りを抱いたまま、クレナへと帰還した。


 ジェシカの報を聞いたジゲンは、シンジの行動には驚いたが、やはりな、と思い、取りあえずこのことはムソウが目を覚ますまで保留ということにした。

 そうは言っても、十二星天が三人、サネマサも入れて四人に、更に神獣三体と雷帝龍がここに居る以上は、王都も、うかつにここへ軍隊を差し向けることなどしないだろうし、シンジもここには来ないだろうとジゲンやコモンは推測していた。

 ならば、その間にやるべきことはきちんとやっておこうと思い、一応の警戒をしながら、復興を進めていくことを選んだ。


 闘宴会への尋問については、予定通り初日から行われた。それも主にジゲンが行っている。必ずケリスの秘密を暴くと言って尋問に向かうジゲンの背中を見た者は、ある者は絶対的な安心感を覚え、ある者は恐怖で背筋を凍らせていた。

 愛刀「帝釈天」を腰に差し、レオパルドの檻車を訪れたジゲンに、闘宴会の者達も、突っかかることなく、ジゲンの質問に正直に答えていく。


 今回の一件の大元は、以前ムソウと、ジゲンが示し合わせていたように、ケリスがクレナを掌握し、人界そのものを狙ったものだということが闘宴会から明かされる。

 その辺りは大体予想通りだなとジゲンは思っていたが、その根はかなり深かったことが更に明らかになった。


 ケリスは、数十年前にクレナに来た時から、人界を掌握するということに意識を向けており、まずはクレナをという考えだったらしい。

 そのためにはケリス自身が力をつけることが必要だ。だからケリスは、クレナのあちこちに強力な魔物を生み出し、人族を襲わせて、死に至らしめることで、その魂を回収し、封じ、操り、更なる力を手にしていたそうだ。

 だが、魔物が現れ、領民たちが困るということになれば、当時なら、傭兵たち、今なら冒険者たちが黙っていない。そこで、牙の旅団という、クレナの傭兵たちの中心に立っていた者達を滅ぼすことで傭兵の力自体を弱めることには成功した。


 そして、そこに出来た冒険者達には、妓楼という甘い罠を仕掛け、依頼をこなすことに目を向けないようにし、ついでにアヤメのギルド支部長として、あるいは、領主としての管理責任を負う口実を増やしていき、クレナの実権を握ることに成功したという。


 その後、更なる力を手にしようとしたケリスは、新たに様々な魔物たちを生み出し、魂の回収にいそしんだ。

 実は、ムソウが倒した、破山大猿、噴滅龍もケリスが生み出したらしい。古龍ワイバーンに関しても、直接生み出したというわけではないが、大量に生み出したワイバーンが成長した姿では無いのかと闘宴会は言った。


 しかし、そんな魔物たちも、ムソウが倒してしまい、ケリスはここ最近になり、焦りを感じたという。魂の回収のために生み出した魔物たちをも倒され、更にはトウショウの街での問題も解決していくムソウを知り、この男は自分にとって危険な存在として判断したケリスは最近になって、行動を起こす。


 まず、高天ヶ原の査定と称し、宴会を開き、隣接する領で活躍している冒険者たちを呼び込み、抱き込むことで兵力を高める。そして、宴会に参加した者達に自らの羽を配布し、力の媒体を町全体に拡散させることに成功した。


 そして、兵力と自らの力が高まったことを見計らうと、ケリスは雷帝龍を捕らえ、強くなった呪いの力により、九頭竜を生み出した。天災級の魔物が現れたとなれば、必ずムソウが動く。その隙を見計らい、屋敷を襲ったというのが事の顛末だった。


 後は、闘鬼神を滅ぼし、呪いによって操ったコモンやアヤメたちを連れて、クレナを一気に掌握し、人界に打って出るというのが大筋な内容だった。


 ジゲンは、まさか自分たちのことさえも計画のうちのひとつで、それがここまで尾を引き、ムソウに降りかかったことだと知り、ケリスの恐ろしさというものを肌で感じていた。


 しかし、闘宴会から聞き出したことはそれまでで、呪いの正体だったり、ケリスの正体については明らかにならなかった。

 ひょっとしたら、闘宴会の長、バークならあるいは知っていたかも知れないという闘宴会だったが、既にバークはケリスの正室と共に死んでいる。

 多く居る側室はどこかと尋ねると、レインに居るらしい。もちろん、王都管理の下、ケリスの邸宅で暮らしてしているという。


 そうとなれば、これ以上の詮索は無理と判断し、尋問を終えた。

 コモンと相談して、王都にあるケリスの屋敷の捜索を待とうという話になったが、それもいつになることやらと頭を抱えていた。


 さて、一日目はそうやって、今後の復興に向けての予定をたてた段階で終わったが、二日目、皆が待ち望んでいたことが起き始める。


 ジゲンとシロウ、そしてリンネは屋敷内にて、各地の情報を集めながら、今後はどうするかと計画を立てていた。すると、闘鬼神の女中が慌ただしい様子で、部屋に入ってくる。


「ジゲンさん! シロウさん! アヤメ様たちが目を覚まされました!」

「それは、まことか!?」


 女中の報告を聞いた三人は、顔を見合わせ笑顔になる。

 その後、皆が寝ている大部屋へと向かった。アヤメたちのそばにはジェシカが居て、簡単な診察のようなものを受けている。見たところ、住民たちの何人かに、天宝館、ギルド、妓女たちも数人目を覚ましているようだった。虚ろ気な顔だが、女中たちの手によって、かゆを飲んだり、事情を聞いたりしている。


 ジゲンはその者達の中に、コスケの姿も居ることに気付いた。コスケはジゲンと目が合うと、申し訳なさそうにしながらも、自分のことは良いからと、アヤメの方にジゲンを促す。

 相変わらず、大した忠臣だと感じたジゲンは、そのままアヤメの横に立った。ジェシカと話をしていたアヤメはジゲンの顔を見て、目を見開く。


「叔父……貴……」

「まだ、無理をするでない、アヤメ」


 起き上がろうとするアヤメを制し、優しく微笑むジゲン。ふと見ると、ショウブとナズナも目を覚ましていた。

 ショウブの方は、悔しそうな表情を浮かべ、ジゲンが微笑みかけると、恥ずかしそうな顔をして、布団をかぶった。

 ナズナは、心配するシロウと目が合うと、かあっと顔を赤くして、そっぽを向いた。

 何もしていないのに、嫌われたような態度をとられたシロウは、何故? と目を白黒させ、慌て出す。そんなシロウをリンネが嬉しそうな顔をして小突いていた。


 ジゲンは、アヤメのそばに腰を下ろした。すると、アヤメはジゲンを見つめながら、笑い出した。


「ははは……夢じゃなかったんだな……俺達を止めたのは、本当に……叔父貴だったんだな……」


 呪いというものは、自身の意識はなくとも、記憶は残っている。わずかながら残っていた記憶をたどり、アヤメはジゲンがジロウということを確認していた。

 そして、目を覚まし、現れたジゲンは赤と緑の目をしている。目の前に居る男こそ、ジロウということを確認し、懐かしいような表情を浮かべ、その後、悔しそうな表情を浮かべる。


「……叔父貴……今回は本当に……迷惑を……」


 アヤメは、ジゲンに向かって謝罪の言葉を投げかけようとする。だが、そんなアヤメの言葉を制し、ジゲンはニコッと笑って、口を開いた。


「あの程度のことが、迷惑じゃと? 勘違いしてもらっては困るのお。老いたとは言え、お主らはまだまだ、儂にとっては子供同然。児戯に迷惑など感じるものか」


 ジゲンはわざわざ闘気をゆらゆらと放出させた。その光景を見て、ジゲンの言葉を聞いたアヤメは目を見開き、フッと笑った。

 すると、横でシロウが気分の悪そうな顔をする。


「親父……それ、やめてくれ。……怖い」


 未だに、強者の気配というものに慣れていないシロウは、ジゲンをジトっと見ながらも、ナズナの方に視線を向ける。

 しかし、またもナズナに視線を逸らされ、シロウは更に落ち込んだ。

 そんなシロウを眺めながら、アヤメは更に、ポツリと呟く。


「ああ、シロウ……居たんだな……」

「居たよ! 最初から居ただろ! ……ったく!」

「お前にも……今回は……」


 アヤメは更にシロウにも謝罪しようとする。シロウは、ぴくッと反応し、アヤメの方を、薄ら笑みを浮かべながら見つめた。


「あ? 何だ? “暴れ姫武将”……いや、“おっか姉ちゃん”が俺に謝る気か?

 やめとけ、ガラじゃないだろ。それに、後のことを考えると、それを今受け取るのは良くない気がする……」


 そう言って、ニカっと笑うシロウ。要は、気にするなということなのだが、昔から鍛錬の度に、ボコボコにされてきたということもあったので、照れ隠しついでに、皮肉を込めてアヤメの謝罪を拒否した。

 アヤメはシロウに、


「……泣き虫小僧め……」


 と、微笑みながら呟き、涙を流した。


 そして、ジゲンとシロウの背後から、突然聞き覚えのある懐かしい声と、姿が目に入り、アヤメたちは更に驚き、目を見開いた。


「お? 目ぇ覚ましたって聞いたから、急いで来てみたが、思いの他元気そうじゃねえか!気分はどうだ? アヤメちゃん」


 それは、コウシを先頭に現れた牙の旅団たちの姿だった。それぞれ作業をしていたが、アヤメが目を覚ましたことを知り、急いで駆け付けたようだ。

 目を見開いたまま、硬直するアヤメたちに牙の旅団が声をかける。


「大丈夫? 痛いところはない? お腹空いてない? シズ姉さん、皆の為に、これから美味しい料理作ってあげるから、楽しみにしててね!」


 呆然とするアヤメの頭を撫でながら、優しくそう言うシズネだったが、アヤメは驚きのあまり、何も言えなかった。


「ナズナちゃんも、どっか痛いところないか? もしあったら、シロウの野郎ぶっ飛ばしてやるから、言ってみろよ」

「そうだぜ。女に手を上げるとは、流石ジロウの息子、容赦ねえな。今のうちに俺達で、更正させておくからよ」

「そりゃないですよ~!」


 ミドラとロウのナズナを心配しながらも、シロウに向けられる殺気に、思わずシロウはビクッと反応し、リンネを盾に震え出した。

 呆気にとられるナズナだったが、フッと微笑み、コクっと頷く。牙の旅団の、主に男性陣は、立派な美女に成長したナズナの微笑みを見て、思わず顔を赤らめた。


「ショウブちゃんも、痛いところがあったら言ってくださいね。それから、「風神」を少し、返していただきました。もっともっと強くなって、更に使いこなしてみてくださいね」

「ついでに大きくなったら、言うことは無いな」

「ああ……本当にお前、いくつになったんだ? サンチョ、背が伸びる薬、作ってやれよ」

「……流石に無理だな。それはジェシカさん、頼むっす」

「……考えておきます」


 タツミ、ソウマ、チョウエンの言葉に、サンチョとジェシカが項垂れると、ショウブはぴくッと眉を上げて、不快そうな顔をして、布団をかぶった。

 その光景に、牙の旅団の者達は腹を抱えて笑った。


 未だ呆然としているアヤメだったが、何となく察したような表情になり、ゆっくりと口を開いた。


「……おかえり……叔父貴……そして……皆」


 アヤメの言葉に、ジロウと牙の旅団は微笑みながら、頷いた。


「うむ。ただいま、アヤメ、ショウブ、ナズナ」


 ジゲンの言葉に、三人は頷き、フッと笑った。


 皆が目を覚まし、状態も安静ということを確認すると、牙の旅団は立ち上がり、部屋を後にしようとする。


「じゃあな、アヤメちゃん、ショウブちゃん、ナズナちゃん。俺ら、仕事があるからよ」

「詳しい話は後でね~」

「お前らも、元気になったら、手伝いに来いよ~」

「俺達はまだしも、ジロウは歳なんだからな~」


 ロウの言葉に、ジゲンは少しムッとし、先ほどと同じように闘気をゆらゆらと放出させる。ビクッと体を硬直させた牙の旅団は、いそいそと部屋を後にした。


 だが、エンミは一人、部屋に残っている。何をしているのだろうかとジゲンが思っていると、突然、耳をぴくッと動かし、何かに反応したようにリンネが立ち上がった。


 そして、エンミのそば、リア、ダイアン、カサネが眠っている場所へと移動し、リアの顔を覗き込んだ。


 すると、リアの眉がわずかに動き出し、身体が動き始める。


「う……ん?」


 しばらく体をもぞもぞとした後、リアはゆっくりと目を開け、そばで顔を覗きこんでいたリンネの姿を確認する。


「あれ……? リンネちゃん……?」

「おきたー!」

「は!?」


 リンネは体を起こしたリアにそのまま飛びつく。獣人姿のリンネが、突然人の言葉を発し、リアは目を白黒とさせていた。

 一度目を覚まし、再び眠りについている間に一体何が起こったのだろうかと、頭の中で色々と考えているうちに、エンミがフッと笑い、リンネを引きはがした。


「こ~ら。その人、困っているでしょ。たまちゃんと同じね」

「うん! リアおねえちゃんがめをさましてうれしい~!」

「じゃあさ、その嬉しさを他の皆にも伝えてきな。皆も喜ぶと思うよ」

「は~い!」


 リンネは手を上げて、返事をした後、部屋を出ていった。呆気にとられるリアの前に、エンミは自身の武器である弓を置いた。


「……これ……あげるね」

「これ……は?……あな……た……誰?」

「フフッ。私は、牙の旅団の斥候、エンミ。簡単に言うと、あのおじいさんの友達ってところかな」


 エンミはそう言って、ジゲンを指す。ジゲンは、困惑気味にこちらを向いてくるリアにコクっと頷いた。


「で……これは?」

「この弓は、私の一番の武器、銘は「与一」。きっと使いこなせるはずよ。それで、もっと強くなって、あの人……ムソウだっけ? 貴女たちの頭領さんと、私の親友を助けてやりなさい。いいわね?」


 エンミはリアの肩に手を当てて、フッと笑った。リアは訳が分からないという顔をしながらも、何となく温かい気持ちになり、その弓を受け取った。

 再びジゲンの顔を伺うと、ジゲンも何かに納得したように、ニコリと笑い頷く。

 リアは、エンミの顔を見つめ、コクっと頷いた。


「わかった……私、もっと強くなる……貴女に、誓う」

「最高の返事、ありがとね。貴女、名前は?」

「リア……よろしく……エンミさん」


 エンミとリアはそのまま握手をした。リアは、再び誓いを立てるように、弓を胸に当てて、目を閉じて頷いた。


 そして、エンミは立ち上がり、部屋を出ていこうとする。その後をジゲンが追った。


「何じゃ……お前もやはり後輩というのは欲しかったのか?」

「そんなんじゃないわ。あの子なら、強くなるって思っただけよ。私のようにね」

「まあ、エンミも強かったからのう……忘れもせん。一度二人で魔物たちを相手にした時のことを……」

「ああ、あの時ね。シズさんたちと切り離されて、どうなるかと思ったけど、私の弓と、ジロウの刀精で、一気に殲滅した時ね……別に、記憶に残すほど大したことなかったと思うけど……」

「よく言うのう……魔物たちを一掃できたのは良いが、その後すぐに倒れたことを忘れたのか? その後、皆と合流するまで、儂がお前をおぶって――」

「そ、そんなの覚えてないわよ! ジロウは余計な事覚えてい過ぎ! 大体さ!……」


 そんなことを言いながら、二人は部屋を出ていった。その場に残った者達は、呆気に取られていたが、唯一アヤメだけは、二人の背中を見ながら、本当に懐かしい光景だなと思い、再び笑った。


 あの時言えなかった、「おかえり」という言葉、今日言えて良かったと思い、アヤメは一人、笑っていた。


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