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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナの動乱を斬る
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第226話―神族を斬る―

 ケリスを倒しても、トウショウの上空に展開された、神怒の魔法陣は消滅していなかった。今のところは、光線を撃っていないので良いが、先ほどから力を溜めているように、一つの眼球が魂を集めているように輝きを増しているのが気になる。よほどの威力を持つのだろうと、直感した。


 そして、魔法陣の上の天門も開いたままで、未だに神兵達や、神将たちがなだれ込んではサネマサとコモンが戦っている場所と、カドルが居る住民たちの避難先に向かっているようだ。

 しかし、キリが無いと思われた神兵達だが、少し前から、天門から出てくる数が若干減ったなという感覚はある。俺が地上に降りなくても問題は無さそうだ。


 しかし、サネマサ達の体力も無限では無い。更に、力を溜めた神怒による攻撃もある。あれだけは止めないといけない。そして、天門も閉じないといけない。


 俺は、大刀を斬られ、目を見開き呆然としているだけの男に近づいていく。


「後はテメエだけだ。だが、殺す前に聞きてえことがもう一つだけ出来た」


 取りあえず、神怒と天門についてはこいつに聞くしかないと思い、そう言ったが、男はぶるぶると震え出しながら、怒号の声をまき散らす。


「ふ、ふざけんじゃねえぞ! 人間風情が! よくも、よくも、よくも! 俺の一族を滅ぼしたな! これは俺達神族に対する正当な宣戦布告と――」

「うるせえな……」


 ―死神の鬼迫―


「ゔ……!」


 男は顔色を青くしながら、膝を折った。俺はそのまま殺意を放ちながら、無間を向けて男に近づいていく。


「さっきからテメエ、うるせえんだよ。言ったろうが。俺は神族だろうと、鬼族だろうと、関係ない。売られた喧嘩は買うだけだ。

 例えこのまま戦争になろうとも、俺は全てを斬ってやる……」

「ぐ……そ、そんなこと出来ると思ってんのか!?」

「出来ねえと思ってんのか?」


 なおも喚き散らす男に近づき、首筋に無間を向けた。男はビクッと硬直し、俺を見てきた。


「このままテメエを斬って、戦争になろうがなるまいが、関係ない。はっきりわかることはテメエは今日、ここで死ぬ。

 まあ……孫以降の子孫の顔も見れたんだ。もう、思い残すことは無いだろう?

 ……だから……さっさと……死にやがれ……」


 無間を握る手に力を込め、更に殺意を強くさせると、男は更に目を見開いた。


 ……やめた、もうじっくり考えるのは。もう、コイツから情報を聞き出すのはやめよう。何言っても、訳の分からねえこと言うだけだ。

 時間の無駄だな。


 この後、あの魔法陣も斬れば、少なくとも神怒は収まるだろう。

 天門についても、斬ってしまおう。それで余計に広がるという可能性も考えられるが、その時は向こうから出てくる神族共を滅ぼせば良いだけの話だ。幸いここには十二星天が三人も居るし、ここに向かってきているというもう一人の奴も居ることだし、あいつらに屋敷の奴らや、街の住民を再び転送してもらえば良いだろう。


 それで良いやと思い、無間を振るおうとした。


 だが、その瞬間、男はガシッと無間の刃を掴んだ。手から血を落としながら、男は俺の前で、にやりと笑う。


「なめ……るな……」

「あ? 何だよ」


 俺はすぐさま、無間を引き抜き、そのまま腕ごと男を斬ろうとした。だが、それよりも早く、男は無間を自らの腹に突き刺した。


「!?」

「舐めるなよ! 人間風情がッ! 目にものみせてやる!」


 いきなりの行動に、俺は一瞬だけ力が抜けた。その一瞬で男は更に無間を引き揚げ、自ら腹から胸にかけて切り裂いた。

 全身から血を噴きだしながらも、男の顔は不気味に笑ったままだった。そして、ぎょろっと俺に目を向けて、口を開く。


「こうなりゃ……テメエも……道連れだ……神術……奥義……抜魂……鉄鎖ッッ!!!」


 男はそのまま口から吐血し、息絶えた。その直後、男の亡骸から、黒く太い鎖のようなものが幾本も出現した。鎖の先には太い槍の穂先のようなものがついている。それはうねりながら俺を襲ってきた。


「ッ!」


 俺は無間を亡骸から抜いて、素早くその場を離れた。しかし、その鎖は俺を追尾してくる。どこまで行ってもついてくるようなので、そのまま切れ目を狙って、鎖を断ち切った。

 すると鎖は音もなく消滅していく。


 命と引き換えに出した技のようだが、こんなものなのかと思っていたが、周りを見ると、その鎖は、俺以外の神兵や、神将も襲っているようだった。


「何が……!?」


 味方まで襲う技なのかと思い、その光景を見ていると、邪神兵達が、鎖に貫かれる光景が目に入る。

 すると、貫いた鎖の先に何か光るものがついているのが見えた。あれは……魂だな。どうやらこの技は、肉体から魂を引き抜く技らしい。それも、辺りに居る魂を持つものを対象に……。


「ッ!!!」


 そこまで思って、ハッとした。そして、地上に目を向ける。すると、幾本の鎖も地上に向かって伸びているということに気付いた。住民たちの方には行っていない。この技には範囲があるようだ。

 地上に向かう鎖の先には、神兵達と闘っているコモン、サネマサ、更に別の方向には、屋敷がある。あそこにはジェシカとツバキが居る。

 鎖の効果が及ぶ範囲に、あいつらはいるようだ。


「チッ! 間に合ってくれッッッ!!!」


 俺はすぐさま、地上に向かって急降下する。鎖に追い付き、何本かは斬ったが、まだ伸びているものもある。更に全身に力を入れて、速度を上げた。

 そして、鎖を追い抜き、俺の方が早く地上にたどり着くと、闘っていたコモンとサネマサはぎょっとする。


「む、ムソウ!?」

「どうされまし――」

「掴まれッッッ!!!」


 俺は有無も言わさずに、二人を抱えてそのまま屋敷の方に向かった。その直後、サネマサ達と闘っていた邪神兵達に、鎖が突き刺さり、魂を抜いていく。

 ギリギリだった……。唖然とするサネマサとコモン。だが、そんなことは気にしている場合ではない。

 俺は二人に俺の身体にしがみつけと命じ、無間を振るった。


「間に合え! 奥義・飛刃撃ッッッ!!!」


 無間から刃が飛び出し、呆然としているジェシカと、眠っているツバキに迫る鎖に向かって行く。

 そして、こちらも間一髪のところで、無間から飛び出した刃が鎖を斬っていき、ジェシカたちへの攻撃を食い止めた。

 俺は屋根の上にサネマサとコモンを下し、戻ってきた大量の刃を纏う無間を振るった。


「ウオオオオオッッッ!!!」


 無間から刃の奔流が放出されて、更にこちらに向かってくる鎖を粉みじんにしていった。

 鎖が無くなり、安堵するジェシカ、サネマサ、コモンの三人。

 取りあえず、皆の無事を護ることが出来た俺は、上空に無間を構えた。


 あの男は、何故死の間際こんなことをしたのかと思っていると、上から声が聞こえてくる。


 ―人間どもの魂はとれなかったようだが、まあいい……これだけの量があれば、テメエらを道連れに出来るッッッ!!!―


 声の感じから、先ほどの男だ。肉体が滅んでも、魂はこの地に残ったようだな。ふと、背後に居るジェシカたちの様子を伺った。三人とも何も聞こえていないのか未だ、安堵した様子で、周囲を警戒しているようだった。


 やはり、魂の声は俺にしか聞こえていないということを確認し、何となく複雑な気持ちになった。

 まあ、良くあることだし、気にしなくてもいいかと思い、俺は上空に叫んだ。


「そんな状態で何が出来る!? 邪神兵共の魂を集めたようだが、全てを斬れば良いだけの話だろうが! テメエもすぐに斬ってやるから、そこで待ってろ!!!」


 俺が叫ぶと、後ろの三人はビクッとして、こちらを見てきたが、今のところは無視だ。


 恐らく男は、先ほどの技で強力な魂を操り何かをしようとしていると思った。現に魂を突き刺している鎖はするすると上空に上っていき、神怒の魔法陣のすぐ上にある、強い光の下に集まっている。あれが、男の魂だろうな。

 それで、何をやってきたとしても、俺は全てを斬ると考えていた。

 すると、上空から、男の笑い声が聞こえてくる。


 ―クックック……やれるものならやってみろ! 俺合わせ、ここに元々あった魂の数、千万と、神兵共の魂の数、千を一気に放出する神怒に人間が敵う者か!!! 貴様を道連れに、我ら神族の復讐ののろしとさせてもらうッッッ!!!―


 男の言葉の後、すぐに高笑いが聞こえてきた。

 ……億近い魂か。確かにやばそうだな。というか、あの魔法陣にそれだけの魂があったのか。魔物の魂もあるようだが、ケリスの野郎、一体どれだけの命を奪ったんだよ。


 そして、今なお、それだけの魂があそこで、苦しんでいるというわけか。

 なおも、力を溜めている様子の魔法陣を眺めていた。伝わってくる力は今までにないくらい計り知れないものだ。

 今回ばかりはやばいかも知れないな。そばに居る三人も、魂の声は聞こえないようだが、伝わってくる力は感じ取ることが出来ているようだ。目を見開き、唖然として上空と、俺を交互に見ていた。

 だが、しばらくすると、口を開く者が居た。それは、俺のすぐ横に居たコモンだった。コモンはそっと近づき、俺の肩に手を置いた。


「……止めても行くのですよね?」

「……流石だな。俺の考えていることは分かるか」

「そりゃまあ……僕も一応、闘鬼神ですから……頭領の考えていることは、分かります」

「お前に頭領なんて呼ばれるとむず痒いな……」


 そう言うと、コモンはニコッと笑って頷いた。どうやらコモンは俺が次に放たれる神怒に向かって行くことくらいお見通しだったようだ。コモンはそのまま黙って、頷いた。


 すると、更に声を荒げる者が居た。それはツバキを抱えているジェシカだ。ジェシカは必死に俺の袖を掴みながら、口を開く。


「いけません! あれは危険です! ムソウさんもここから離れた方が――」


 俺はジェシカの言葉を遮るように口を開く。


「逃げた所でどこに? あれだとどこに行っても余波で吹っ飛ぶぞ? 無論、今たま達が居るところも危ない。俺だけが、もっと遠くに逃げろと?」

「そ、それは……」


 ジェシカは顔色を悪くしながら俯く。……ふむ、少し言い過ぎたかな。俺はしゃがんで、ジェシカの頭を上げさせた。


「ジェシカ。初めて会ったお前は分からねえかも知れないが、俺は逃げねえんだよ、昔から。今回も皆を護るために、あれを斬らねえといけない。

 だが、正直どうなるか分からない。だからお前たちは急ぎジゲンたちの所に行って、衝撃から皆を護るようにしていてくれ。……わかったな?」


 取りあえず、ここに居る三人には住民たちを護ってもらう。流石にあの神怒が直接住民たちに当たることは無いが、衝撃波は凄そうだ。カドルだけでは守り切れないかも知れない。

 だが、こいつらなら大丈夫だろうと思い、そう言ったが、ジェシカはなおも落ち込んだ様子だ。

 そして、ツバキに視線を落とす。


「ムソウさんが……居なくなったら……この子が……悲しみます……」


 ジェシカは殆ど泣きそうな顔で、そう言った。今日一日で何があったのだろうか。本当にジェシカはツバキのことをよく思ってくれているようだ。

 俺も、ツバキのことを考えると、神怒に突っ込む気にはなれない。


 ……普通ならな。


 しかし、あの神怒に囚われている魂たちを解放してやるという気持ちの方が大きい。


 俺はツバキの頭を撫でながら、笑って、口を開いた。


「大丈夫だ。こいつが言っていた。こいつの刀は誰も死なないってな……ツバキが生きている限り、俺は死なない。ツバキの居るところが、俺の帰る場所なんだ。

 ……だからよ。こいつのこと、最後まで頼むぜ、ジェシカ」


 ジェシカは目を見開いて、俺の顔を見てきた。そして、何かに納得するように、フッと微笑み、頷いた。


「……わかりました、ムソウさん。私達にお任せください」


 ジェシカはそう言って、サネマサとコモンに目配せをする。二人は笑って頷いた。住民たちのこと、ジゲンたちのことはもう、コイツ等に任せよう。俺は目の前に集中しよう。


「ムソウもすみにおけねえな」

「なんだよ。お前までそう言うのか? クレナの人間は、俺にそう言ってくるのが決まりらしいな」


 ここに来て何度も聞いた台詞をサネマサも言った。クレナの人間はどれもこれも似た者同士という皮肉を込めた俺の一言にサネマサは笑った。そして、俺の肩を叩き、ニカっと笑う。


「ムソウ、ジロウと決めた牙の旅団の心構えってやつをお前にも伝えておこう」

「お? 面白そうだな。何だよ?」

「帰る場所の為に闘ったら、いつでも帰ることが出来る、だ。どれだけ強大な敵に挑もうが、帰る場所があると信じていれば、そのためなら、どんな困難にも立ち向かえるというものだ……俺もお前が帰って来るのを待っているぜ」


 サネマサはそう言って、俺の胸に拳を当てた。


「へえ、意外とちゃんとしてんな」

「ああ。俺が考えたわけじゃないからな。ジロウが考えた言葉だからだ」


 あ、なるほど。なかなかいい言葉だと思っていたら、やはりサネマサの言葉では無かったのか。流石ジゲンだ。


「まあ、とは言いつつ、あいつは何時死んでも良いように、俺達に遺言を言って、闘いに挑んでいたからな。「もしも俺が死んだら……」とか言い出して。俺達の中で一番強い奴が闘いが始まって真っ先にそう言うものだから俺達は何度も頭を抱えたよ」


 そう言って、笑うサネマサ。あの爺さんは昔から冗談なのか、本気なのか分からないことをよく言う奴だったらしい。やはりそこまで中身は変わっていないのかと思った。


「……でよ、一応聞いておくが、何か言い残したい言葉はあるか?」


 不意にサネマサが聞いてくる。コモンとジェシカが、キッとサネマサを睨んだ。俺だって、いい気はしない。なんとも縁起の悪いことを聞いてくるものだ。


 だが、本人はそれに気づいていない。むしろ、昔から続いていたことだったので、何がそんなに悪いのか、という表情をしている。後で、ジゲンに文句を言ってやろう……。


 一応、聞いてきたので、何か言ってやろうと思い、首を傾げたが、特に思いつかなかった。だが、そのうちにあることを思い出し、サネマサの方に向き直った。


「……そういや、チャブラで民衆の暴動騒ぎが起きているらしい。ことが済んだら、お前行って、鎮めてこい」

「チャブラで暴動!? 初耳だ……本当なのか!?」

「ああ。ギルド支部長のレックスも困っていたようだからな。十二星天が鎮圧に来たと言ったら、民衆たちも落ち着くだろう。お前、行って来いよ」

「わ、わかった……くそう……軽いノリで聞いたら、とんでもない返事がきたもんだ……」


 サネマサは頭を抱えている。よし、これでチャブラの件については、サネマサに丸投げ出来たな。


 ……なるほど。確かにこれで思い残すことは無いなと思ってしまった。気になっていたことが全て片付き、目の前のことに集中できる良い態勢になったな。ジゲンへの文句はやめておこう……。


「さて、と……そろそろ、行くかッ!」


 俺は三人から離れて、無間に気を集めていく。俺の言葉に、笑っていた三人はコクっと頷いて、転送魔法の準備に入った。


「では、ムソウさん。たまちゃんたちと一緒に、帰りを待っていますからね」

「はいよ。皆を頼むぜ、コモン」

「ムソウさん……きっと帰ってきてくださいね。私、貴方とお話ししたいことがたくさんありますので……」

「俺もだ。薬のこともあるし、召喚者ってやつのことについても知りてえからな。まあ、落ち着いたら、茶でも飲みながらゆっくりと頼む。……ツバキのこと、本当に頼むぞ」

「はい!」

「ムソウ、俺との約束は忘れてねえよな? 武王會館でもてなしてやるから、それまでは絶対に死ぬなよ」

「分かってる。ただ、その前に闘鬼神とジゲンで、テメエをもてなすって話になってるから、覚悟してろよ」

「お、おう! やれるものならやってみな!」


 三人と最後の言葉を交わすと、コモン達はそのまま、転送魔法を起動させ、シュン!という音と共に、俺の前から消えていった。


 そして、上空を見上げると、溜めていた力が、はち切れんばかりに膨れ上がっているのが目に入る。魔法陣に浮かんでいた眼球は何時しか、巨大な一つのものとなり、不気味にこちらを見下ろすようにしながら、俺に照準を合わせてきた。


 無間を構えて、飛び立とうと力を入れていると、男の声が大きく、頭の中に響き渡った。


 ―そろそろ……死ネエエエええッッッ!!! 糞人間があああああああッッッ!!!―


 男の叫び声が聞こえると同時に、上空が真っ白に輝き、圧倒的に大きな力を持ったものが俺の真上に放たれた。トウショウの里のある山一つは軽く消し飛ぶくらいの大きさだ。絶対にそれだけは避けなければならない。無間を握る手に力が入る。


「行くぞッ! ウオオオオオオオオオッッッ!!!」


 最後の神怒に向けて、俺は足元を蹴り、空へと一直線に向かって行った……。


 上空から放たれる一本の巨大な神怒。幾万の魂の力を一つにしたものだ。つまり俺はそれだけの軍隊を相手にしないといけないわけだ。

 上から感じられる圧倒的な力に対抗するため、俺は神人化しながら、ひとごろしも発動させている。……が、全然足りない気がする。


「……やってみるか」


 正直どうなるか分からないが、俺はそのままもう一つのスキルを発動させた。


 ―かみごろし発動―


 無間から黒い波動のようなものが、放出され、俺の身体を包んでいく。すると、身体の周りで、バチバチと無間から出ている冥界の波動と、俺の身体から出ていた、天界の波動が音を立てて反発しあった。


 やはり、この二つのスキル同士は相反する力なのか。こればかりは、どちらかを辞めないといけないということなのかな。

 どちらかと言えば、鬼人化すると俺は飛べなくなる。だから、このまま神人化の状態のまま、神怒に向かって行こうと思った時、突然頭の中に、普段鑑定スキルを使った時に現れるように文章が浮かんできた。


 ―かみごろし、ひとごろし、おにごろし統合……EXスキルみなごろしを習得―


「……ん?」


 頭に浮かんだものに俺は首を傾げた。すると、次の瞬間、俺の周りで反発しあっていた音が聞こえなくなり、二つの波動が溶け合って、俺の身体の中に入って来た。

 すると、身体の奥底から凄まじい力が溢れ、身体全体に行き渡る感覚がした。


「これは……」


 それと同時に、俺の身体に変化が起こる。体全体の力が漲り、背中の翼が一対から二対になり、四枚となった。そして、鬼人化の時のように、手足の爪が鋭く伸び、牙が生えて、額の右側にだけ角が生える。

 いわば、鬼に翼が生えた状態とでもいうような様相に変わった。髪の色は、黒色に戻っている。無間は、ひとごろしの時のままだ。もっとも、伝わってくる力は、先ほどまでとは比べ物にならないくらい大きいがな。


 どうやら、神人化と鬼人化というものは成功したらしい。これなら、幾分かはマシかと思いながら、神怒に顔を向ける。


 ―すべてをきるもの発動―


 これだけ、強力な技だ。切れ目など視えるのかと思ったが、向かってくる神怒に切れ目はあった。だが、やはり数は少ない。それに何故だか小さい。あれだけを狙ってというわけにはいかないようだな。

 受け止めた上で、飛刃撃を食らわせよう。


 俺は、ついにトウショウの山を飛び越えて、神怒に近づいていく。そして、無間を大きく振りかぶり、身体から溢れる気を集中させた。


「少し痛いかも知れねえが、我慢してくれッッッ!!!奥義・飛刃撃ッッッ!!!」


 そのまま、神怒に無間をぶつけた。神怒は俺とぶつかってもなお、バチバチと音を立てながら、下へと向かって進もうとする。九頭龍の攻撃を止めていた時よりも、更に力を込めて、俺は後ろに行かないように踏ん張っていた。

 神怒は無間にぶつかりながらも、その衝撃や、細かな粒子は、俺の身体を貫いていく。


「ぐうッ……うぅぅぅッッッ!!!」


 痛い、熱い、重い、苦しい……


 様々な苦痛が、俺の身体を襲い、体中に傷を入れていく。必死に我慢しているが、ここまでの苦しみは、九頭龍の時以上だ。衝撃が俺を襲うたびに、口の中に血の味がしてくる。

 だが、俺は耐える。ここで俺が耐えないと、この攻撃はトウショウの町ごと、俺の屋敷を消し去り、その衝撃はツバキたちを襲うだろう。

 それだけは嫌だった。どれだけ体から血を噴き出そうとも、どれだけ苦しい思いをしようとも、俺がここで食い止めないといけないと何度も自分に言い聞かせながら、無間に気を集める。


 すると、無間から神怒の切れ目の数だけの刃が飛び出していく。そして、切れ目を斬っていくが、神怒は、複数の魂の集合体である。よって、一つの切れ目を斬ったくらいでは、攻撃が止むことは無い。

 大きな一つの光の柱を削るように、多くの刃が飛び出していった。 


「ぐふっ! ま、まだなのかッッッ!?」


 血を吐き出しながら、神怒に目を向ける。まだまだ先は長そうだ。正直なところ、もうそろそろ限界に近い。

 あれだけ力が漲っていたにも関わらず、それさえも感じなくなっている。手に力が入らず、意識が揺らぎそうになってきた。


 すると……。


 ―頑張って、おじちゃん! もう少しだよ!―

 ―もう少しで皆、解放される! もう少しじゃ、お若いの!―

 ―お兄さん……頑張って!―

 ―しっかりするんだよ! お兄さん!―


 頭の中に、俺を激励する声が聞こえてくる。俺が斬り落とした魂たちが、消滅する寸前、最後の力で俺に語り掛けてきているようだ。 

 俺の所為で、魂ごと消えるというのに、最後の最後まで俺のことを気にかけてくれているみたいだった。

 声は、俺を励ますことだけを伝えると、そのまま消えていった。その度に、多くの魂の気配が、完全に無くなっていくのを感じた。


「ッ! ウオオオオオオオ~~~ッッッ!!!」


 ハッとした俺は、無間を再び握り締めて、更に多くの気を溜めた。

 俺はこいつらの思いも背負っている。こいつらと一緒に囚われている魂の思いを背負っている。大地に生きてきたこいつらが、最後に大地を破壊したじゃあ、こいつ等だって浮かばれない。

 俺は、魂たちを解放するために、ここに残ったという誓いを思い出し、無間に気を溜めていく。


 すると、無間から出ていく刃に変化が起こった。いつもより大きく、強力なものがいくつも飛び出した。それらは先ほどまでと違って、切れ目を斬る度に、より多くの魂たちを解放し、神怒を見る見る小さくしていく。


 なおも襲い掛かる痛みや苦しみを耐えながら、無間を握り続けた。


 そして……


「ぐうッッ……ガアアアアアアァァァッッッ!!!」


 ぶつかっていた神怒が小さくなり、勢いが緩んだ瞬間、俺は無間を振り切った。すると、上空から放出された神怒はついに消え去り、辺りにはふよふよと魂の残滓が浮かんでいる。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 無間を下し、呼吸を整えていると、神怒を斬り尽くした刃が無間の元に返ってきた。


 ―本当に……ありがとう……―

 ―これで……ようやく……―

 ―最後に……自由になれて……―

 ―よかった……―


 などと俺に語りかけながら、魂は一つ一つポツポツと消えていった……。


 ―ば、馬鹿なああああッッッ!?―


 だが、一つだけ、明らかに皆とは違う声がしてくる。

 俺は残っている上空の魔法陣を見上げた。そのすぐそばに、一つだけ魂が残っている。声から、神族の男ということは容易に分かった。


 ―馬鹿なッ! 馬鹿なッ! 馬鹿なッ! あの神怒を斬っただと!? どれだけの魂がこもっていると思う! どれだけの力があると思っている!

 それを……たった一人の人間が……そんな馬鹿なッ!―


 男は、喚き散らしながら、魔法陣の周囲を慌ただしく飛んでいた。あの野郎、自分だけ安全なところに行ってやがったな……。


 目障りだし、耳障りだと思った俺は、魔法陣のある方向に向けて、今までの全ての怒りを込めて、大きな殺意をぶつける。


 ―ゔっ!?―


 ピタッと動きを止める魂。俺は、神怒を斬り尽くした、今までで一番多く、強力な刃を纏っている無間を構えながら、上空に飛んでいった。


「……さあ……これで終いだ……その魔法陣諸共……テメエを滅ぼしてやる……!!!」

 ―くッ! ま、待て! 考え直せ! 俺を滅ぼせば、お前は本当に逃げられなくなる! 今に、天から俺の同族たちが人界に乗り込むぞ!―


 ようやく慌て始める神族の男……だが、もう遅い。


「……元より……覚悟の上だ……テメエら全員……叩っ斬ってやる……」

 ―き、斬るだと!? たかだか一人の人間が何を言っている!?

 天界には俺と同等の奴らはまだまだ生きているのだ! それに、我らが“狂神”様も居る! て、テメエは魂も残すことなく滅びることになるのだ!―


 男の魂はわずかに上下させているようだ。逃げたいようなのだが、逃げられずに足掻いているといった格好だ。

 俺は、無間を振りかぶり、魔法陣と男の魂に狙いをつけた。魔法陣にも、魂にも、もちろん切れ目は見えている。


「“狂神”? ……ああ、こっちにもそんな名前の奴が居るんだな。……生憎俺は、“死神”だ……“狂神”ごとき……すでに一度殺している……テメエもいい加減……さっさと滅べ……」

 ―な、何を言って……ん!? ま、まさか……お前は……ッ!?―


 男は何かに気付いたようだが、俺はすでにこいつの言葉に興味はなかった。


 俺は、自分と、こいつらに囚われていた魂たちの怒りと、嘆きと悲しみを胸に無間を力いっぱい振り下ろした。


「死ねッッッ! 駄神がッッッ!!!」

 ―お、お前は! ざ、ザン――……―


 無間から今までで一番の刃の奔流が放出され、魔法陣に浮かんだ大きな眼球を切り裂いていくと同時に、男の魂を飲み込んだ。男は断末魔の声を上げることも許されずあっという間に消滅していった。

 そして、俺の放った刃の奔流は、眼球を切り裂くとその奥にある魔法陣の斬れ目を斬っていく。すると、陣全体に大きな亀裂が走って行き、しばらくすると、神怒の魔法陣は完全に消滅した。


 ―……安らかに……眠ってくれ……―


 神怒はもう無くなった。それを確認した俺は、囚われていた魂たち……俺が斬った、神怒となっていた魂たちに祈りを捧げた。


 もっと、他に方法は無かったのかと、敵を倒したというのに、達成感も無いまま後悔だけをしていた。本当に、こんな気持ちは初めてだった。


 しかし、いくら悩んでも、もう過ぎたことはどうしようも無い。俺は更に上空に開いている天門をどうにかしようと、空を見上げた。

 そして、最初に決めたようにひとまず斬ってみようと思い、無間を構えようとした瞬間、手の中に違和感があった。


「ん? ……あっ……」


 握った無間をよく見てみると。刀身に傷が入っているのが見え、刃こぼれのようなものもあり、ボロボロになっていた。


 ……今日一日で飛刃撃を何度連発したのか分からない。それに九頭龍と闘ったり、スケルトン達やデーモンロード達と闘ったりと、いつもより多くの力も使った。

 そして、先ほどの神怒により、あれだけ傷もつかず、折れず、曲がらず、刃こぼれもしなかった無間も、とうとう限界が来たようだった。


 まあ、十年以上もずっと使ってきたからな。何となく、そろそろこういう日が来るのだろうということは頭のどこかで覚悟していた。


「最後は億の魂を斬って終わり……か。何となく、お前らしいな……」


 俺は今まで無間と闘った数々の闘いのことを思い返していた。手にした時から目についた敵を切り裂いていき、玄李への侵攻では先ほど思い出した、胸糞悪くなる“狂神”メッキとの闘いでは、あいつのデカい薙刀を斬ったり、変貌したメッキを一刀のもと、切り伏せたりと、あっちでも、俺のことを助けてくれていたな。


 そして、この世界に来ても、ずっと俺と共に戦ってくれていた。十二星天とも闘い、災害級、果ては天災級の魔物や神族を倒すまでに至ったのは、本当にこいつの力が多い。


 本当に……よくぞ、ここまで俺に付き従ってくれたなと、無間に笑った。


「……ただ、もう少しだけ待ってくれ。あのデカい穴を叩っ斬らねえといけないからな」


 俺は、再度無間を構えた。まあ、無間と同じく、俺もボロボロだ。回復薬はすでに飲み切っているし、体力はごっそりと減っているがそれでも、いつものように、今までのように、俺が無間を振るえば、何となるだろうと思っている。


 そして、天門を見ると、あちこちに切れ目が浮かんでいるのが視える。ということは斬ることは出来るらしい。

「穴を斬る」ということはどういうことなのかよく分からないが、あれは穴のように見えて、何らかの結界か、天門というように、字のごとく門のようなものなのだろう。

 恐らく、あれは人界と天界を瞬時に行き来するための装置のようなものと考えたほうが良いのかも知れない。現に穴の奥は何も見えないからな。神兵や神将は突然現れている。


 ならば、と思い、俺は残っている全ての力を無間に溜めて、上空へと飛んだ。そして、天門へと向かって行くが、俺が近づいていくと待ち伏せしていたかのように天門からわらわらと邪神兵と邪神将が現れた。


「ハッ! やっぱりだな! 全て……終わらせてやる! 奥義・飛刃撃!」


 天門に伏兵が居るということは分かっていた。これだけ暴れても、ずっと沈黙したまま残っているというのはおかしな話だったからな。多分最後の最後で俺を襲ってくると考えていた俺は、そのまま臆さず、無間を掲げた。

 無間から、俺の視界に映る神兵と神将に浮かぶ切れ目の数だけの刃が飛び出し、天門から現れた敵はあっという間に蹂躙され、そのまま霧散していった。


 神兵を斬っていった刃はそのまま無間に返ってくる。すると、いよいよ限界が来たのか、無間から、ピシッという音が聞こえてきた。


 思えば、ここクレナにはこいつの刀精に会うために来たんだよな。こんなことなら、下見に行ったついでに、祠に入っとけばよかったなとふと思った。


 俺は、無間を天門に向けながら、フッと笑った。


「……またな……今まで……ありがとよ」


 そして、俺は無間を思いっきり振った。無間から、刃の奔流が放出され、天門の切れ目を貫く。

 すると、天門は強い光を放ちながら、ゆらゆらとぼやけていき、最後には消えていった。


「……これで、終わりか……」


 天門が消滅したことを確認し、ふう、と胸を撫でおろす。


 そして、手にした無間を見てみると、ピシピシと音を立てながら、刀身全体にひびが入り始めていた。 その後……


 パアン!


 大きな音を立てて、無間は完全に砕けた。破片は上空からトウショウの里へと落ちていく。


 あの日、エンヤから受け継いだ無間は、最後に俺の家族を守り切って、静かに死んでいった。


「……」


 何も言えず、ただただそこで残った無間の柄を見ていると、ふいに、俺の目の前に光の球が飛んでいることに気付き、顔を上げた。


「これは……?」


 おもむろにそれに手を伸ばすと、その光の球は、俺に近寄ってきた。

 そして、魂が俺に声をかけるような感覚で、俺の頭の中に突然声が聞こえてくる。


 ―よう……―


 それは、たった一言だったが、すぐに正体が分かる声だった。何度も聞いて、何度も思い返していた声だった。

 そして、何故その声が今、俺に聞こえたのかもすぐに理解できた。


「……ああ……やはりお前が……無間の刀精だったか」

 ―ああ……もう少し驚くと思ったんだが?―


 頭に響く声は少し不服そうにそう聞いてきた。もちろん驚いているさ。何せ俺にとっては考えられないことだからな。

 しかし、それをこいつに知られたくないと思い、必死で我慢している。勘づかれれば、後でちょっかい出されそうだからな。

 本心を気取られないように、俺は光の球……無間の刀精に語り掛けていく。


「まあ……無間の精霊と言われたら、何となくお前みたいな奴だと思っていたからな。さほど驚いちゃあ、いねえよ」

 ―けッ……まあ……良いや―


 精霊は納得したように呟く。……ああ、こういう感じ、懐かしいな……。


「……お前、これからどうするんだ?ゆっくり天に召されるつもりか?」

 ―馬~鹿。俺がそんなたまじゃねえのはお前が一番知っているだろ? ……まあ、何だ。これからもお前と一緒に闘うってことだけは伝えておくぜ―

「そうか……よく分からねえが、そういうことなら、俺も文句はない。

 ……ようやく再び会えたのに、このまままた、別れるってのは嫌だったからな」

 ―お? 何だよ。ずいぶんと大人になったものだな。お前の口からそんな言葉が聞けるとは思わなかった……―

「あ? ……無間を手にしたあの日から俺のこと見ていたんじゃねえのか?」

 ―いや……俺はお前がこの世界に来た時に無間の中に入った。……それまでは……知らない……ずいぶんと……苦労を掛けたな……―


 てことは、コイツも、この世界に来ていたってわけか……。何とも、奇縁だな……。

 だから、あの日の後の、俺のことは知らないってことか……。


「まあ……そのことはもう良い……さて、積もる話もあるだろうが……」

 ―ああ。お前……今回は前に比べて少し長く眠ることになるぞ―

「そうか……大体予想はしていたが……じゃあ、起きたらまた、ゆっくりと聞かせてくれ。……俺も色々聞かせるからよ」

 ―……ああ……じゃあ、そろそろ行く―

「おう……ちなみに、正直に言うと、叫びたくなるほど、このことに驚き、頭の中は真っ白になってるぞ」


 どこかへ行こうとする無間の刀精。やはり寂しいと思っていると、俺の頭の中に高らかな笑い声が響き、目の前の光の球は上下に激しく動いた。

 ああ、やっぱりこいつはその反応を期待していたのか。俺が驚くというのが相当嬉しいらしい。


 そして、しばらくすると刀精は落ち着いていき、またな、と一言だけ行って、地上へと降りていった。


「……はあぁぁぁ~~~……本当に驚いた……」


 深く息を吐いて、胸を押さえる。驚きすぎて死ぬところだった。なんであいつがここに居るんだ? しかも無間の刀精という形で……。

 刀精って、宿っていた物が破壊されたら、消えるんじゃないのか? 残って、更には再び俺と一緒に闘うとか言っていたが、どうするつもりなんだ?


 様々な疑問が巡り、俺は更に頭を抱えた。取りあえず、このことは後回しだ。俺は地上に降りようと思い、身体を動かそうとした。


「ゔ……」


 だが、神怒による疲労やけがの所為で、身体に力が入らなかった。全てが終わって安堵した途端に、緊張が解けたのか、身体からどんどん力が抜けていく。


 すると突然、強い頭痛が俺を襲ってきた。視界がぐらりとゆがみ、俺は頭を押さえる。なおもどんどん力が抜けていき、手を見ると伸びていた爪が段々と元の状態に縮んでいくのが目に入る。頭を押さえていた手を角の方に移すと、角も消えていく感覚があった。

 背中に現れた翼も同様に先から消滅していっている。


「限……界か……っ!」


 今日一日ずっと闘い続け、更に疲労が溜まった状態で行使した、おにごろしとひとごろしの重ね掛け。以前マシロの呪いの一件の時は一日眠っていたが、今回は、それに加えてかみごろしも発動させている。

 先ほど、刀精が語ったように、俺に襲い掛かる疲労、倦怠感は相当なものになっているらしい。

 そして、神怒による体中に被った怪我により、大量の血を失っている以上、下へと降りる体力すらも、残っていないようだ。


 刀精のことを心配して、安心したのもつかの間。今は、俺自身が危ない状態となっているというのは、流石に笑えて来るなとふと、思った。


「く……そ……」


 ……そして、とうとう俺の意識は薄れていき、身体の変化が元に戻った途端、俺は地上に向けて真っ逆さまに墜ちていった。


 地上に向かって落ちていきながら、薄れゆく意識の中でふと、この世界に来た時のことを思い出した。

 あの時も俺、落ちていたな。打ち上げられて、そのまま地面に叩きつけられると思った瞬間、こちらの世界に来ていた。

 今回もひょっとしたらそのまま、また違う世界に行くのかも知れないなあ、などと思っていた。


 だが、それは嫌だった。もう一回、闘鬼神の皆とたまの飯を食いたい。もう一回、リンネの背に乗って旅したり、あいつを撫でてやりたい。


 ……もう一度……ツバキの笑った顔が見たい。


 ……俺はそんなことを思うようになっていた。


 どちらにせよ、この高さから落ちたら確実に死ぬなあと思い、再び神人化しようとした。……が、身体に反応はない。


 やはりもう、何をやっても駄目なのかとあきらめにも似た感情が俺の中で渦巻いていった。そして、段々と意識の方も、落ちていき、身体から力が抜けて、このまま死を迎えるのだと思った時だった。


 ……ウオォォォン……


 ……ん? 何か聞こえた気がする。近くに居る魔物か何かが、住民たちを襲おうとして近づいたところをカドルとかに襲われたのか?

 まあ、今の俺にはどうでも良いか……。皆が無事なら、それで良い。


 ……そして、俺の目には、だいぶ近くなったトウショウの里の上街……だいぶ様変わりしているが、ボロボロとなったギルドの建物だったものが目に入る。


 ……ああ、これは、駄目だな……。


 四十になった途端死ぬってのもなんだかな……ようやく会えた無間の刀精には悪いが、俺の方は駄目だったようだ。

 まあ、あいつが居るのなら、闘鬼神も、リンネも……そして、ツバキも大丈夫だろう。上手くやってくれるさと思いながらそっと目を閉じた。


 ……サヤ……カンナ……


 二人の顔を思い出しながら……俺は意識を閉じようとした……。


 その時、落ちていた俺の身体が、地面に落ちる前に、何かの上にそっと落ちるような感覚がした。

 殆ど何も感じない意識の中、少しだけ目を開くと、それは大きな生き物の背中のようだった。

 リンネ……? いや、違う。リンネの毛にしては、少し硬い気がする。それにリンネよりも一回り大きいし、色も違う。

 リンネは白だが、こいつは全体的には白だが、少し灰色が混じっているような色合いだった。これは一体、何なのだろうかと思っていた。すると……


「……ったく。お前はどこに居ても、無茶してんだな……」


 突然、誰かの声が聞こえてきた。刀精じゃない。俺の耳から聞こえている普通の声だ。更にそれは聞いたことの無い声だった。

 一体誰だ、と思い、身体を起こそうとするが、既に限界を超えた俺の身体はピクリとも動かなかった。


「……だ……れだ……?」


 絞り出すように口を開くと、今度はそいつの心配するような声が聞こえてくる。


「おいおい、無理をするな。お前に死なれたら、俺は皆に顔向けできないんだよ。……おとなしくしてろよ……ダチ公」


 ますます声の主が分からない。こいつは俺のことを知っているという口ぶりだ。だが、本当に聞いたこともない声に、「ダチ公」と言われ、俺は更に頭を巡らせた。

 しかし、その度に、頭が考えることを拒否したのか、頭痛がして、意識が更に薄れていく。


「……ゔぅ!」

「今はゆっくり休め……俺も……後で……お前と……」


 俺の意識は、謎の声の言葉が言い終わらないうちに、スーッと消えていき、深い眠りに入っていった。


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