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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナの動乱を斬る
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第223話―住民たちを避難させる―

 次の瞬間、屋敷の上空の広範囲にわたって、白く輝く障壁のようなものが張られて、瓦礫と、光線を止めた。上からの被害に、騒然としていた辺りは静かになる。

 ツバキは取りあえず被害を食い止めることが出来たと安心したが、やはり、光線の部分だけかなり力をもっていかれる感覚があった。

 決して、長くはもちそうにないと判断したツバキは、屋敷の外で呆然としているジゲンとサネマサ、牙の旅団に顔を向けた。


「……ジゲンさん! ……大師範! ……皆さん! 今のうちに、こちらへ!!!」


 ジゲンたちは、ツバキの声を聴いてハッとする。そして、訳が分からないといった表情で、最初にこの屋敷を目指していた者達、続いて少し遅れて、光線の対応をしていたサネマサ達が屋敷に入って来た。


 庭にはすでに避難の準備をするためにシロウを始めとしたジロウ一家の者達と、アザミたち、闘鬼神の女中たちが並んでいる。

 庭に入って来たジゲンを見るなり、たまが駆けだした。


「おじいちゃん!」


 ジゲンは駆けよってくるたまをそっと抱きしめて頭を撫でる。


「ただいま……たま」

「うん! おかえりなさい!」


 たまは涙を流しながら、ジゲンにニコッと笑った。ジゲンも優しくたまに微笑みながら更に頭を撫でる。

 後ろから、牙の旅団の者達の茶化すような声だったり、シズネやエンミの鼻をすするような音が聞こえてきた。


 ジゲンは振り返り、たまを自慢げに見せると、牙の旅団の者達はフッと笑った。そして、辺りを見渡しながら、たまの方を再び見つめる。


「……じゃが、まだ安心は出来んようじゃからな。もう少しだけ、頑張ることは出来るかの?」

「うん! おじちゃんが、帰るまで、だよね!」


 たまの言葉に笑って頷き、ジゲンはツバキが出していると思われる障壁を指しながら、ジェシカに口を開いた。


「……それで……この状況は一体……?」

「申し訳ありません、ジロウさん、それからサネマサさん。時間が限られておりますので、説明は後ほどということで……今は、住民たちの避難を……」

「むう……そうじゃの」


 上からの攻撃や瓦礫を防いでいるのはツバキだということを確認したジゲン。どういった力を以て、あの障壁を出しているのか定かではない。

 しかし、ツバキの様子から長続きはしないようだった。ジェシカの言葉に頷き、指示を仰いだ。


「では、牙の旅団の皆さん、ジロウ一家の皆さん、そして、アザミさん達で、怪我をした住民の皆さんを集めてください。

 私とサネマサさんで転送魔法を使い、離れた場所に移動させます……サネマサさん、よろしいですね?」

「ああ。だが、一度に送れるのはせいぜい十人くらいがやっとだろ? 何回もやってたら、魔力が無くなっちまう。ただでさえ、闘いの後で俺もギリギリなんだが……」


 苦々しい顔をするサネマサ。牙の旅団の者達からは、気合で何とかしろとの声が上がる。だが、ジェシカはニコッと笑い、サネマサの胸に手を置いた。


「大丈夫です……」


 ジェシカはそのまま不思議そうな顔をするサネマサに自らのスキルを発動させた。優しい光が体を包んでいくと、サネマサの目が見開かれる。


「……え、魔力も回復した……どうなってんだ!?」

「説明は後で行います。これで、大丈夫でしょうか?」

「ああ、問題ないぜ!」


 ニカっと笑い、サネマサはジェシカの言葉に頷いた。色々難しいことは後回しにして、あまり頭を使わないというサネマサで良かったと皆笑った。


 すると突然、庭に集まった者たちの背後から、弱弱しい、疲れ切ったような声が聞こえてきた。


「ジェシカさん……僕も……手伝わせてください……」


 ハッとしたジェシカたちは、声のする方に視線を向けた。

 そこに居たのは、こちらに向けて重い足取りで歩いて来ていたコモンだった。


「コモン様!」


 コモンの姿を確認したたまや、ジゲン、女中たちはコモンに駆け寄り、ジゲンは倒れそうなコモンの肩を支える。


「コモン君! 無理をするでない!」


 呪いにかかった者は少なくとも、一日以上は目を覚まさないことだってある。現に今でも、足取りはフラフラだ。

 立って歩ける状態ではないと判断したジゲンやたまは、コモンにもう少し休んでいろと言った。

 しかし、コモンは首を横に振り、ジェシカとサネマサの前に立つ。


「僕も……十二星天です……皆さんに迷惑をかけたままというのは……納得できません……。

 いえ……それ以前に……僕も……闘鬼神の一人です……たまちゃんや……ジゲンさんや……皆さんと一緒に……最後まで闘いたいんです……。

 お願いします! ジェシカさん! サネマサさん!」


 ジゲンに支えられながら、コモンは二人に頭を下げた。人界の頂点に立ち、人々を導く存在である十二星天。

 そんな自分がケリスに呪われ、この屋敷を襲っただけに終わるというのが我慢できないコモンは、涙を流しながら、ジェシカ達に懇願した。

 ジゲンたちは、コモンの覚悟を知り、伝わってくる迫力に何も言えないでいる。


 しばらく黙っていたジェシカとサネマサだったが、ふと、顔を見合わせてお互いに微笑みあい、口を開いた。


「コモンさん、顔を上げてください。一緒に戦いましょう!」

「お前が居れば百人力だ! 頼りにしてるぜ、“鍛冶神”!」


 二人の言葉を聞いて、パッと顔を上げるコモン。そして、ジェシカはコモンにスキルを発動する。ジェシカの掌から放たれた優しい光は、コモンの体を包んでいき、コモンの体力、気力、魔力を全回復させた。


「ありがとうございます……ジェシカさん、サネマサさん。

 そして……ジゲンさん、たまちゃん、皆さん。本当にすみませんでした……」


 コモンはジゲンたちに向き直り、深々と頭を下げようとした。だが、それをジゲンとたま、アザミが止める。


「それは後じゃ。さっきも言ったように、ムソウ殿が帰ってきてからじゃぞ」

「そうですよ。たまちゃんと一緒に頭領からのお説教がありますからね~!」

「たのしみにしててね!」


 たまがニコッと笑うと、コモンは目を見開く。そして、フッと笑って、素直にコクっと頷いた。


「よ~し! 話もまとまったところで、急いで行動開始だ~!」


 牙の旅団の一人、コウシがそう言うと、他の者たちからも気合の声が上がる。


「私とエンミは女中の皆と一緒に、妓女たちを主に運ぼうかしらね~! 男どもに触らせるわけにはいかないでしょ!」

「え~!? じゃあ、俺達はどうするんだよ!?」

「俺達は、捕縛されてる闘宴会とかいう奴らだ。暴れられたら面倒だからな。ジロウ一家の者達もそれでいいな?」

「「「「う~っす!」」」」

「ちぇ……ミドラがそう言うなら、仕方ねえか。ソウマ、多少乱雑でも構わねえぞ」

「言われなくてもそうする!」

「駄目ですって。皆さん、平等に行きましょ?」

「……タツミは真面目だね……ジロウはどう思う?」

「ん? 良いのではないか? ムソウ殿も散々煮え湯を飲まされていたことじゃし……アザミ殿たちも、それで良いよな?」

「ええ、お願いしますね、牙の旅団の皆さん」

「「「「「よろしくお願いしま~す!」」」」」

「「任せとけ!」」

「後で酌しろよ!」


 コウシの言葉に、闘鬼神の女中たちが、一同に頷くと、庭に居た者達から、呆れ声と笑い声が上がった。

 すると、屋根の上から、ツバキの必死そうな声が響き渡る。


「皆さん! お話が済んだのでしたら、早くしてください! 結構辛いんですから!!!」


 声を聞いた者たちは、恐る恐るツバキの方を見た。半分怒っているような表情をしたツバキがこちらを睨んでいる。

 普段、ムソウ以外には笑顔を絶やさないツバキが、自分たちにも怒っていることを感じ、女中たちやたま、ジゲンやジェシカまでも身を震わせ、初対面である牙の旅団も、シロウ含めたジロウ一家も目を点にしている。

 だが、その中で、サネマサだけはニカっと笑っていた。そして、手を口元に当てて、大声で返事した。


「了解だ~! 避難が済んだら、俺もそっちに行くからな! それまで頼むぞ!」


 サネマサがそう言うと、ツバキは目を見開く。そして、フッと優しく微笑み、サネマサに口を開いた。


「はい! お任せください、大師範!」


 武王會館に居た時と違い、ちゃんとサネマサが自分のことを信じてくれていることが分かった。

 サネマサに「頼む」と言われたことが嬉しかったツバキは、更に力を込めて、障壁を展開させた。


 サネマサは皆の方に向き直り、号令をかける。


「あいつは大丈夫だ。俺のところの弟子だからな! では……行くぞ!」

「「「「「お~!」」」」」


 サネマサの号令に庭に集まっていた者達は手を上げて行動を開始させた


 ◇◇◇


 屋敷に集まったトウショウの里の住民たちを移動させる……それは、かなり大変な作業だった。

 トウショウの里の人口は、1000を超えている。ジェシカ、コモン、サネマサが全力で転送魔法を使えても、一度に送れるのは、せいぜい30~60人ほどだ。


 何度も避難場所を往復する必要がある。ジェシカは、自身の力の配分も考えて、他の二人の魔力を回復させることを念頭に、避難の指揮を執っていた。


 牙の旅団やジロウ一家の男たちは、先ほど決めたように、捕縛した闘宴会の者達を避難させている。

 しかし、時折言うことを聞かない者達も居た。


「おら、立て! 動け! このままだと危ないんだよ!」

「だ、誰がテメエらなんぞの指示に従うか!」


 かたくなに、避難を拒絶する闘宴会の者達。だが、そういう態度をとっている者達は、牙の旅団のコウシ、チョウエン、ソウマ、ロウが、


「「「「やかましい!」」」」


 と言って、殴りつけている。そのまま気絶させ、転送魔法で強制的に屋敷から追い出される様子を見て、闘宴会の者達から声が上がることは無くなっていき、その場に居たジロウ一家の者達は目を点にしながらも、


「先輩には敵わねえな」


 と、笑っていた。


 避難先である街から少し離れた小高い丘の上で、転送されてきたボロボロの闘宴会の者達を確認したミドラや、アザミたち闘鬼神の女中は、頭を抱えながらも、まあいっかと言って、他に転送された住民たちの介抱を行っている。


 未だ眠っているアヤメたちやダイアン達を移動させていたのは、ジロウとシロウ含めた、残ったジロウ一家の者達とコモンだった。

 コモンは自身の前に運ばれてくる呪いにかかった者たちを眺めながら、何度も頭を下げていた。


「僕が……もっとしっかりしていれば……」


 運ばれてくる者達の中には、天宝館の者達も居た。ヴァルナや、受付の女たちなど、一般の職員たちも居る。

 自分が管轄している、いわば、コモンにとっての最大の仲間達の姿を見ながら、何度も頭を下げる。


「すみません……皆さん……」


 今更口にしたところで、どうしようもならない後悔の言葉をつぶやきながら、コモンはうつむいていた。すると、ジゲンがコモンの肩を叩いた。


「コモン君……今は、皆を助けることだけに集中するのじゃ」

「ジゲンさん……」

「そして、次こそはと思いながら、もっと強くなれば良い……儂も、そうやって生きてきた。もう、同じ苦しみを味あわないためにのう」


 コモンと同じく、呪いにかかり、過ちを犯した過去を持つジゲンの言葉は、深く、重く、コモンの胸に突き刺さった。

 コモンはジゲンの言葉に、コクっと頷き、魔法を使っていく。すると、ジロウ一家の者達の楽し気な声と、シロウの慌てるような声が聞こえてくる。


「ほら、シロウの旦那。ナズナ姐さんは慎重に運ばねえと」

「お、お前らも手伝えよ!」

「いやいやいや、ナズナ姐さんは、旦那の仕事だろ~?」


 顔を向けると、シロウがナズナを抱えて、その周りをジロウ一家の者たちが、ニヤつきながら茶々を入れているようだった。

 こんな緊急事態に何を、と思ったコモンだったが、横に居るジゲンまでもが、優しく微笑みながら皆の様子を傍観している。何となく察したコモンが、呆気に取られていると、ジゲンはコモンの方を向き、


「辛い過去があっても、楽しい今が、幸せな未来を創る……儂はそう信じておる」


 と、語った。コモンはしばらく黙り、そうですね、とジゲンに笑って頷いた。


 すると、コモンの前にシロウがナズナを寝かせる。


「ふぃ~……疲れた」

「そんなに重かったのか?」


 ドサっとその場に座り、少しばかりの休憩をとっているシロウにジゲンがそう言うと、シロウは慌てて立ち上がり、首を横に振る。


「ち、違うって! ほら、あれだ! 闘いの疲れってやつだよ! ナズナは軽い! 軽いぞ~!」


 シロウがそう言うと、ジゲンはクスっと笑った。そして、横でコモンもクスっと笑い、アヤメとショウブを指さす。


「それでは、シロウさん。アヤメさんたちもよろしくお願いしますね……いえ、これはジゲンさんの方がよろしいのでしょうか?」


 そう言って、ニヤニヤしながら、ジゲンの方にパッと視線を向けるコモン。シロウも、それが良いと言って、ジゲンの方を向いた。

 皆の視線が集まる中、ジゲンはコモンに向けて、一つため息をして、アヤメとショウブの方に近寄る。


「この二人は……こうじゃの」


 ジゲンは肩にアヤメを担ぎ、もう一方の手でショウブを抱えて、軽やかな足取りで、コモンの前に立ち、二人を寝かせた。

 ジゲンは肩を揉みながら、これで良いじゃろ? とシロウ達を眺める。


「親父……本当に歳食ってんのか?」

「ほっほ、どちらもまだまだ子供じゃよ。儂から見ればな」


 成長したアヤメとショウブを、実際に軽くあしらったという事実を知っているシロウとしては、ジゲンの言葉が冗談なのか本気なのか区別がつかなかった。

 いくら強くなっても、ジロウの前では自分たちも小さな子供なんだなと思っていると、ジゲンがシロウの肩を叩く。


「冗談じゃ……皆、立派になっておる。もちろん、お前もな」

「親父……」

「……さて、無駄話はこれくらいにして、さっさと皆を避難させるぞ!」

「おう!」


 ジゲンの言葉に、大きく返事をしたシロウ達はその後も次々と屋敷で寝ている者達を、すっかり元気を取り戻したコモンの前まで運んでは、避難を完了させていった。


 洞窟内の住民たちは、たまと数人の女中達、そして、牙の旅団から、シズネ、エンミが協力し、サネマサが転送魔法を行うという手順で避難活動を行っている。


 下街の住民たちは、シズネとエンミ、サネマサが居るということにも驚いていたが、避難を開始すると、その者たちの横で、自分たちを誘導しているたまの姿にも驚いた。

 幼いながらも、女中たちや牙の旅団の者達と協力し、率先して、不安そうな顔をする子供たちや、老人たちの世話をしている。

 それは、サネマサやシズネ達も一緒だった。初めて目の当たりにする戦友の孫というのは、これほどまでに出来た子なのかと目を見開く。


「……嬢ちゃんは、ジロウ……いや、爺さんのことは好きか?」

「おじいちゃん? うん! 大好きだよ~! サネマサ様もおじいちゃんのこと好き?」

「……ああ、当り前だろ!」


 たまの質問に、サネマサはニカっと笑い、頭を撫でた。サネマサに頭を撫でられたたまは、嬉しくて更にニコッと笑う。

 恐らく、サネマサは、昔自分に会ったことがあるということには気づいていない。

 だが、それでもたまは嬉しかった。また、憧れの十二星天に撫でて貰えたことはたまにとって、大きな喜びとなっている。

 全部終わったら、サネマサやジェシカにあの時のことを教えよう。きっと驚くから、とたまは笑っていた。


 サネマサは、そんなたまの手元にふと目を向けた。そこには、未だにケリスの術式が体中に刻まれ、目を覚まさないリンネの姿があった。リンネだけは、自分の手で避難させたいというたまの言葉に皆が承諾し、今も大切にたまはリンネを抱えている。

 ケリスの術式を眺めながら、サネマサは嫌な汗をかいた。術者を倒したというのに、術が解けていない。……と言うことは……。


「……いや、憶測でもそんなこと考えるのはやめておこう」

「サネマサ様?」


 サネマサのつぶやきに、反応したたまは、不思議そうな顔で、サネマサを覗き込む。サネマサはハッとし、たまにニカっと笑う。


「何でもねえよ。もう少ししたら、俺達の仲間が来る。そいつは、魔物に詳しいからな。その魔獣もきっと良くなると思うぜ」

「まじゅうじゃないよ~。リンネちゃんだよ!」

「お、そうだったか。確か、ムソウの従魔だったな。大切に守ってやれよ」

「うん!」


 再び強く頷くたまを優しく撫でるサネマサ。二人のやり取りを遠くから羨ましそうに眺めていたシズネとエンミはふう、とため息をついた。


「サネマサ……昔から子供には好かれてたわよね~」

「うん。考え方が似ているからかもね」


 などと言いながら二人は笑い合っていた。声に気付いたサネマサが二人の方に顔を向ける。


「ん? 何かあったか?」

「なーんにも!」

「たまちゃん、サネマサをよろしくね~!」

「は~い!」


 二人の言葉に、たまは両手を上げて返事をする。話を聞いていた周りの女中たちや住民たちがクスクスと笑う中、サネマサはきょとんとして、まあ、いっかと言って、転送魔法を続けた。


 屋敷の屋根の上に立ち、降り注ぐ瓦礫を防いでいたツバキは、屋敷の外まで張っていた障壁の範囲を狭めた。もはや、あそこに張る必要は無いと考えたためだ。屋敷の前に光線が落ちて、そこから衝撃と共に、砕かれた破片が飛んでくるが、結界に阻まれ、屋敷自体に被害はない。

 屋敷の上だけに集中しようと思い、ツバキは障壁を張り続けている。


 今のところは大丈夫だった。しかし、光線が段々とこちらに近づいてくるのを感じている。瓦礫も段々と減っているところを見ると、山の上の方はすでに破壊され尽くされたのだろうかと考えた。

 だが、光線がこちらに近づいているのはなぜだろうと頭をひねる。あの眼球は、この屋敷を狙っているのだろうか。

 だとすれば、あの光線がここを直接襲ってくるという可能性も高い。その時のことを考えてツバキは力の配分を考えながら、障壁を展開している。


 初めて使うこの力を使うということもあり、やはり力の使い方が難しい。障壁を張るのにも、かなりの力が必要だ。屋敷の外に展開していた障壁はおさめたとはいえ、あの光線が収まるまでにという考えは持てないほど力が失われていく感覚がある。

 せめて住民達の避難が完了するまではもってくれとツバキは思っていた。


 その時だった……。


 ドオオオオオオォォォォンッッッ!!!


「くゥッッッ!!!」


 ついに、光線がトウショウの街のある山を破壊し尽くし、屋敷を直接襲ってきた。太い強力な光線が、ツバキの障壁に直接あたり、その部分にひびが入る。ツバキは更に力を込めて、障壁を修復する。一発当たっただけで体力が根こそぎ減ったのを感じた。


「はぁ、はぁ、はぁ……なかなか辛いものがありますね……ですが……」


 ツバキは大きく息を吐き、目を閉じた。


 屋敷を出る前にムソウと約束した。必ずここに居る者達を護り切ると。

 この力を授けてくれた者達に誓った。必ずムソウを守り抜くと。


 様々な思いを胸に、ツバキは目を開けて、迫りくる光線に対応していく。


「負けるわけにはいかないのです! はあああああッッッッ!!!」


 ツバキは気合を入れて、障壁を展開させた。次々と打ち込まれていく光線を弾き、屋敷を護っていく。

 庭に居たジェシカは、ツバキの様子に気付き、慌ててスキルを発動させた。


「ツバキさん! ご無事ですか!?」

「大丈夫です! それより、避難の方はどうですか!?」

「あともう少しだ! それまで頑張ってくれ!」


 洞窟内に居た住民たちの避難を完了させたサネマサが、庭に出ながら、ツバキに叫んだ。ツバキはコクっと頷く。見ると、たまもアザミたちもすでに避難を完了させているようだった。

 庭には現在ジェシカとサネマサ、それから残っている者達を転送させているコモンとそれを手伝っているジゲンを始めとした牙の旅団の者達の姿が見える。

 ふと、ジゲンとサネマサが何か話しているのが見えた。サネマサはジゲンの言葉に頷き、大きく跳躍して、ツバキの隣に立った。


「だ、大師範! 何故……?」

「ジロウとジェシカに言われた。弟子を護るのは師範の役割だって。もしもの際は俺がお前を全力で護ってやる!」


 サネマサは刀を抜き、上空を見上げた。万が一障壁が破られるようなことがあったら、この光線をどうにかして、ツバキの身を転送魔法で送るとのことだった。

 呆気にとられるツバキの前でサネマサは、自身に強化魔法をかけながら口を開いた。


「ジロウから聞いた……すまなかったな。弟子と師という関係のお前らと、距離をとるようなことしちまって……」


 サネマサはツバキに頭を下げた。どうやらツバキがサネマサに抱いていた思いというものをジゲンから聞いたらしい。

 武王會館時代、他の十二星天などと接するサネマサの態度と、自分たちに接する態度があまりにも違い過ぎていたことを、ツバキは疑問だった。自分たちの前でも、人当たりの良い性格で接して欲しかったと思っていた。もっと、本来の姿で接して欲しかった。

 そして、魔物を退治するときなども、一緒に連れて行って欲しかった。一緒にサネマサと闘いたかったとツバキは感じていた。

 そのことについて、謝るサネマサに、一瞬困惑するが、フッとツバキは笑った。


「……もういいですよ。大師範のお気持ちはわかりましたから」


 ツバキは以前、ジゲンと話した時から、サネマサの行動について深く考えるようになっていた。何故、サネマサは、自分たちと距離を置くような行動をとっていたのかを。

 そして、気づいたことがある。それはサネマサが武王會館を設立した理由だった。


「……大師範は、私達のような次代を生きる者達が強く生きるように、武王會館を設立されたのですよね?

 力の無い者達が、この先どんなことがあっても生きていけるように、との思いを込められていたのですよね?

 ですから、私達に危険なことはさせたくなかったのですよね?」


 ツバキが優しくそう言うと、サネマサはハッとして顔を上げて頷く。


「……あの時……牙の旅団を失った時……俺は感じたんだ。俺だけが強くても駄目なんだって。

 仲間達が危機に陥っているというのに、あの時、俺は何も出来なかった……。

 だからせめてお前らには、俺が居なくても強く生きていて欲しかったんだ……」


 サネマサは自らの思いを、ツバキに語り始めた。皆との距離をとっていたのも、いざという時には自分が居る、という思いを抱いて欲しくなかったため。どんなことがあっても、自分たちだけで対処できるように強くなって欲しかったためだった。

 俺は皆の目標であって、頼られるだけの存在ではない……ずっと、そういう思いで、武王會館の大師範として立ち続けていた。


 そんなサネマサの言葉を聞いて、ツバキはコクっと頷く。


「……ありがとうございます……ですが、今、この時ばかりは、大師範のお隣で共に戦うことをお許しいただけるでしょうか?」


 ツバキの言葉に、サネマサは目を見開き、笑って頷いた。


「今だけでなくこれからもだ! よろしくな、ツバキ!」

「はい!」

「差し当って、お前には特別に俺の本気というのを間近で見せてやろう。腰抜かすなよ!!!」


 サネマサは、闘気を解放させる。赤く強力な気が天に向かって伸びっていった。間近で感じるサネマサの本気に、ツバキは身を震わせながらも、喜んでいる。

 武王會館に所属していた者達の中で、自分程幸運な人間はいないだろうと思っていた。

 そして、サネマサは刀を掲げ、刀精を喚び出した。


「これが、クレナに伝わる偶像術ってやつだ! しっかり見とけ! 後で俺直々に教えてやる!」


 ツバキにニカっと笑い、更に気を込めると、サネマサの刀から一本角を生やし、甲冑に覆われた武神が姿を現す。武神はサネマサの気合と共に、大きな刀を振り回し、降り注ぐ光線を受け止めた。

 ギリギリと音を立ててぶつかり合う光線と武神の大刀。


「ウオオオオオオオッッッ!!!」


 サネマサの気合と共に、武神は力を込めて、刀を払う。すると、光線の軌道がそれて、屋敷の近くに向かって落ちていった。打ち消すことは出来なくても、攻撃を逸らすことは出来ると分かったサネマサは、その後も、光線を、屋敷から逸らしていく。

 高い威力を持つ技の軌道を逸らすというのは並大抵のことではない。それも刀精を介して行うという離れ業に、ツバキは歓喜の声を上げる。


「流石です!」

「おうよ! このままここを守り抜くぞ!」

「はい!」


 ツバキはサネマサに頷くと、上空からの光線を障壁で受け止める。


 それを見たジゲンたちは、屋敷を護るのはツバキとサネマサに一任し、住民たちの避難を急がせた。

 ジゲンたち牙の旅団の者達は、サネマサと、サネマサが設立した武王會館出身であるツバキが共に力を合わせ、自分たちを護っているという光景に満足した。

 自分たちの親友がやりたかったこと、更にその先の夢が叶えられているようだと、皆で笑い合っていた。

 出来ることならこの先も、サネマサ達と一緒に、若い世代の者達の行く末を護っていきたいと感じている。しかし、それはすでに叶わない夢だと思っているコウシ達は、ジゲンの方を向いた。


「……なあ、ジロウ」

「何じゃ、コウシ」

「……皆のこと、これからも頼んだぜ」


 コウシの言葉にジゲンは目を見開く。今はこうやって普通に話をしているが、コウシ達はすでに死んでいる。雷帝龍の力のおかげという仮の肉体が、何時まで続くか分からない。

 全てが終われば、また、長い別れの時というものがやってくる。ジゲンは拳を握り、コウシ達に頷いた。


「……分かった。お前たちの分まで……な」

「おう!」


 ジゲンの言葉に満足したのか、牙の旅団はニカっと笑って、頷いた。


 その後、しばらくすると、全住民たちの避難が終わる。屋敷に残ったのはジェシカとコモン、そして、ジゲンを含めた牙の旅団の者達だけとなる。


「では、コモン君。頼む」

「ええ。僕たちが行くまでの間に、皆さんのことをよろしくお願いしますね、ジゲンさん」

「任せろ、“鍛冶神”! 俺達は、牙の旅団、クレナの護り刀だぜ!」

「はい。頼りにしています」


 コモンの言葉に、牙の旅団の者達は頷く。避難先は街から外れた場所であり、住民たちが魔物たちに襲われるという可能性もある。ここからは牙の旅団が、ツバキたちが攻撃を抑えるまで警護に当たる手はずとなっている。

 ジゲンたちは、コモンの魔法により、屋敷から姿が消えていった。


 そして、誰も居なくなった屋敷をコモンが眺めていた。そして、フッと笑い、ツバキとサネマサが戦っている屋根の上に立つ。


「ん? どうした、コモン」

「コモン様?」


 光線を弾きながら、突然現れたコモンに首を傾げるツバキとサネマサ。

 するとコモンは全身に力を込めて、光線に向けて手を上げた。


「僕にも護らせてください! ムソウさんたちと一生懸命作ったここを壊させるなんて言語道断です! 奥義・蒼焔龍火ッッッ!!!」


 コモンの掌に、青い炎が浮かび上がったかと思うと、そのまま凄まじい熱気をもつ龍が放たれた。それは、上空から降ってくる光線と激突し、光線と相殺していった。

 呆気にとられるツバキと、サネマサの背後で、いつの間にか背後に来ていたジェシカが呆れたように口を開く。


「コモンさん、それをやるなら言ってください。あなたの炎で、ツバキさんたちも焼かれるところだったじゃないですか……」


 ジェシカはコモンが技を放つ刹那、熱からツバキとサネマサ、更に屋敷を護るために施した防護魔法を解き、呆れながらコモンに言った。

 コモンはハッとして、二人に頭を下げる。


「あ、すみません! つい……」


 何度も頭を下げてくるコモン。この屋敷は確かにコモンが作ったものだ。それを壊されるということは我慢できないらしい。気持ちは分かるが、もう少し落ち着いて欲しいものだとサネマサは思った。


 そしてツバキは、以前ムソウから聞いていた、「本気を出したコモンは怖い」という言葉を思い出して、身を震わせる。

 どうして今、自分の周りに、かつて人界を襲った未曽有の天災級の魔物、壊蛇にとどめを刺したサネマサとコモンが揃っているのだろうか、なんだか、場違いなような気がするなあと、苦笑いしながら、頭を抱えた。


 すると、後ろからジェシカが優しくツバキの肩を叩き、口を開く。


「ご安心ください。ツバキさんは私が、補助しますので」


 ジェシカはニコッと笑い、ツバキにスキルを発動させた。ツバキの体力は全回復し、弱まっていた障壁の力が上がっていく。

 光線を防ぐたびに、ツバキは自分も十二星天と肩を並べて闘うことが出来ていると感じ、ジェシカに頷いた。


「ありがとうございます。では皆さん、ここを護り切るまで、よろしくお願いします!」


 ツバキの言葉に三人は頷く。

 そして、サネマサは刀精で、ツバキとコモンはEXスキルで、光線を弾いていき、ジェシカは光線に対処するツバキたちが、疲弊する度に、スキルを使って回復させるという作業を始めた。


 際限なく続くこの攻撃も、いずれ終わりがやってくるはずだ。魔法というものは魔力が無くなれば終わる。そう信じて、四人は光線から、屋敷を護り続けていった。


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