第222話―ツバキが目を覚ます―
時は、ジゲンたちがケリスを倒した頃にさかのぼる。
屋敷の中から、ジゲンたちの闘いを眺めていたシロウは、刀精達により、魔物の軍勢とケリスが倒されたことを確認し、屋敷の中へと駆けこんだ。
闘いに勝ったということを伝えると、女中たちや、ジロウ一家の者たちから歓声が上がる。それぞれ手を叩き合ったり、涙を流して喜び合っていた。
たまとアザミも、後はムソウと、闘鬼神の者達が帰って来るだけと思い、胸を撫でおろす。
一方ジェシカは、まだ眠っている方々が居るのですから、と騒ぐ皆を落ち着かせながら、ツバキとリンネの体を拭いていた。
ジェシカは、リンネの体に描かれた封印術式が未だ解かれていないということに違和感を抱いていた。ケリスが倒されたのなら、これも解けるはずだと思っていたが、違うらしい。もう少し、時間が経ってから解けるのだろうかと考えている。
そして、未だに目を覚まさないツバキの、額に当てられていた手ぬぐいを交換しようと手を伸ばした。
すると……
「う……ん……?」
閉じられていたツバキの瞼が、僅かに動き、声が聞こえてくる。ハッとしたジェシカは、ツバキの体をゆすった。
「ツバキさん? ……ツバキさん! 目を覚まされたのですか!?」
ジェシカの声にたまとアザミ、近くに居た女中たちが近寄ってくる。心配そうに、皆で眺めている中、ツバキはゆっくりと目を開けた。
「おねえちゃん!」
「た……まちゃん?」
ツバキは虚ろな目で、たまを確認し、ゆっくりと口を開いた。たまはそのままツバキに縋りつくように抱きしめた。
「良かった……良かったあ……」
「くる……しいです……たま……ちゃん」
ツバキは少し困ったような顔をしながらも、たまの頭を優しく撫でた。するとアザミがツバキからたまを引きはがして、白湯を渡した。
「どうぞ」
「あり……がとう……ございます……」
ツバキは身を起こして、アザミから白湯を受け取る。ゆっくりとそれを口に運び、全身が温かくなる感覚の中で、ツバキは落ち着いていった。
すると、隣で見知らぬ女が、じっくりと自分の体を眺めていることに気付く。全身をくまなく観察しているようだ。ツバキはきょとんとした表情で、ジェシカを眺めた。
「あな……たは……?」
「あ……すみません。私は十二星天ジェシカ・ベルウッドと申します」
「十二……星天様……!?」
ジェシカの自己紹介に目を見開くツバキ。何故ここに十二星天の一人が居るのかと驚いているようだった。
ジェシカはフッと笑い、ツバキの体に手を掲げた。すると、柔らかな光がツバキを包み込んでいく。光に包まれていくと、ツバキの全身に力が戻り、青白くなっていた肌の色に赤みがさしていった。
「これは……?」
ツバキは自身の体に起こったことに、驚きの表情をする。ジェシカは優しく、口を開いた。
「私のスキルの効果です。体の調子は、落ち着かれましたか?」
「え、ええ。すごく……もう、本当に、物凄く良くなりました……」
ジェシカは、そうですか、と、安心したように頷いた。
元気になったツバキは、そのままジェシカとアザミに今の状況を確認した。ひとまず、ケリスはジゲンたちが倒したこと、闘鬼神の者達が無事であることなどを聞くと、ツバキは目を見開き、胸を撫でおろした。
「それは……良かったです……ですが……」
ツバキはそう言って、辺りで未だ眠りについているアヤメ達、トウショウの里の住民たちを見回した。そして、最後にリンネを見ると、ガクッと俯いてしまう。
「私は……結局、何のお役に立つことも……出来なかったのですね」
ツバキは膝を抱えて、震え出す。ケリスに囚われ、そのまま意識を無くし、ジゲンやシロウがこの屋敷を護っているさなか、ずっと眠っていたことにひどく後悔しているようだった。自分も、ムソウの為に皆と共に戦いたかったと悔しさをにじませるツバキ。
すると、アザミがそんなツバキの肩を掴んで、顔を上げさせた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「ツバキさん。何を落ち込まれているのか、存じ上げませんが、私は、ツバキさんが目を覚まして、こうして会話が出来ているということにどれだけ喜んでいるかご存じでしょうか?」
優しく微笑むアザミ。それに続き、他の女中たちもニコリと笑って、ツバキの前に出てきた。
「そうですよ~。すごく心配したんですからね~。でも、ご無事でよかったです」
「それに、調査に出ていたリアたちも無事ってことが分かって、ホッとしたわ~」
「皆が居なくなって、ツバキさんまで居なくなったら、頭領、きっと泣いちゃいますよ」
皆は、ツバキの顔を覗き込む。目を見開き、何も言えないでいるツバキ。すると、ツバキの袖をたまが引っ張った。
「……あのね、ジゲンおじいちゃんと、ムソウおじちゃん言ってた。
「たたかっているとき、いちばんつらいのは、じぶんがしぬことじゃなくて、なかまや、かぞくがしぬこと。いちばんうれしいのは、かえってきたときに、おかえりって言われた時」だって。
……私も、それわかるの……おとうさんとおかあさんが居なくなって、私、とてもさみしかった……
けどね……ジゲンおじいちゃんが居てくれて、いまはアザミおねえちゃんとか、リンネちゃんとか、居てくれてね、とても楽しいの。
だからね……ツバキおねえちゃんがげんきになってね……わたし……嬉しいの!」
たまはニコリと笑って、ツバキの体を抱きしめる。その顔はまるで、母親やと戯れる娘の笑顔そのものだった。
幼い時に親を亡くし、一人きりとなったたまは、ムソウの屋敷で過ごすうちに、屋敷に居る者達に親の姿を映し、家族同然に過ごすようになっていた。
ツバキは、そんなたまの思いは分からない。しかし、自分がどれだけ、たまや、ここに居るアザミたちにとってどれだけ大切な存在であるのかを自覚した。
アザミはツバキの手を取り、再び、優しく口を開く。
「……ツバキさん。頭領が一番望んでいることは、貴方が剣を持ち、闘うことではありません。今の貴方が出来る、頭領が一番してほしいことは、皆と一緒に、元気な姿で、頭領におかえりなさいと言うことだと私は思います。
そして、それは私達も同様だと思っております」
「アザミ……さん」
「何はともあれ……本当に……無事でよかったあ~!」
アザミは急に態度を変えて、くだけた様子でツバキに抱き着いてくる。ツバキが無事だと知り、たまの様子を見て、張り詰めていた緊張の糸が解けてしまった。
皆の前では毅然としていなくてはという思いも同時に解けて、思わずツバキを抱きしめて涙を流しながら笑っていた。
「ちょ、ちょっと、アザミさん!?」
「あ、アザミ姐さんずるい!」
「私も~!」
困惑するツバキに、他の女中たちも抱き着いてくる。皆にもみくちゃになりながら、ツバキは先ほどまで自分が何も出来なかったということを忘れ、必死にもがいていた。
「す、すみません! く、苦しいです!」
ツバキは必死な顔で、横で微笑んでいるジェシカに助けを求めるように視線を向ける。
この時ジェシカは、そう言えば、サネマサも牙の旅団が壊滅した時、酷く落ち込みながら王都に帰還し、その後、サネマサの身を案じていたセインや、ミサキ、リーにもみくちゃにされていたなあと昔を懐かしんでいた。
そして、ジェシカは、フッと微笑み、ツバキからアザミたちを引きはがしていった。
「はいはい、皆さん、そこまでです。まだ眠っている方も多いですし、やることはたくさんありますよ~」
ツバキから引き離されながらアザミはジェシカの言葉を聞き、ハッとする。そして、顔を赤らめながら、身なりを整え、静かに頷いた。
「失礼しました、ジェシカ様。……じゃあ、ツバキさんのことも解決しましたし、皆は、引き続き、皆の介抱をお願いね」
アザミがそう言うと、女中たちは手を上げて、は~い!と元気よく返事をする。
「わたしは~?」
「たまちゃんも、皆と一緒よ。さっきまでと同じで、皆に美味しい料理を作ってあげてね」
「わかった~!」
たまも、アザミの言葉に大きく両手を上げて、返事をする。
「それで、先ほどから、ぼーっとしているシロウさん?」
アザミは、部屋の入り口で、呆然としながら、自分たちを眺めていたシロウの方を向いた。
声をかけられたシロウはハッとする。ムソウの屋敷に居る女中たちはこれでも、元妓女。見た目は綺麗な者達ばかりだ。そんな女たちが、抱き合っているという現場を、目を点にして、眺めているだけだった。
少し恥ずかしくなり、シロウはパッと視線を庭の方に向ける。
「見てないぞ! 何も!」
「いえ、それは良いのですが……」
慌てた様子のシロウに、アザミがそう言うと、クスクスと女中たちから笑い声が起こる。ジェシカとツバキもなんだかおもしろくなって、クスっと笑った。
シロウは更に恥ずかしくなり、その場で、項垂れる。
そんなシロウにアザミも微笑み、口を開いた。
「シロウさんも、ご協力をお願いしたいのですが……」
「……ああ、わかったよ」
アザミの頼みに、シロウは頭を掻きながら、頷いた。ツバキは起きても、未だアヤメ達は目を覚まさない。見たところ落ち着いているようだが、呪いにかかった者達のことについては、シロウもよく分からない。
つまりは、ナズナの容態についてもよく分からないということで、シロウには、このまま屋敷にとどまってもらうことが大切だとアザミは考えていた。
そして、皆がそれぞれに動き出し、ツバキの元には、ジェシカ一人となった。ツバキは改めて、ジェシカに深々と頭を下げる。
「本当に……ありがとうございました」
「礼なら、皆さんに後できちんとお願いしますね。皆さん、本当にツバキさんのことを心配なさっていましたから」
「はい。私が、アザミさんたちに言わなければいけなったことは、後悔の言葉ではなく、感謝の言葉だということに気づかされました。
……そして、皆さんと同じように、私も笑って、ムソウ様を出迎えられるようにしておきます」
「そうですか……では……」
そう言って、ジェシカは立ち上がり、ツバキの背後でしゃがんだ。そして、ゆっくりと髪を整えていく。
「ジェシカ様?」
「身なりだけでも整えておかないといけませんからね。綺麗な簪もあるようですし……。ミサキさんから聞きましたよ。こちらは、ムソウさんから貰ったものなのですよね?」
ジェシカはそう言いながら、ツバキの髪を上げて、簪を差した。ツバキは、簪に手を当てながら、コクっと頷く。
「ええ。ムソウ様の昔のお仲間の方のものだそうです。……私には過ぎたものです」
「そうですか? よくお似合いになっておりますよ」
ジェシカはツバキの正面に座り、簪を整え終える。二人は顔を見合わせながら、クスっと笑い合った。
ツバキは笑いながら、口を開く。
「……ジェシカ様とは、初対面ですよね?」
「ええ、そうですね」
「ですが……何だか初めてお会いしたとは思えません」
「私もです……何か、不思議な感覚が致しますね」
ツバキとジェシカはお互いに、同じような感情を抱きながら笑い合っていた。そして、一緒に笑い合っている時でも、それはひしひしと感じている。
ずっと以前にもこうやっていたような、妙な懐かしさを思っていた。
「ツバキさんは、私を対等な存在と見てくださってもよろしいのですよ?」
「あ、いえ……流石にそこまでは……」
ジェシカからの急な申し入れに、ツバキは笑うのをやめて、畏れ多いと首を横に振る。
目の前に居るのは、自らの師であるサネマサと同じ、十二星天の一人。その中でも多くの命を救ってきた“聖母”である。
いくら、お互いに同じような思いを抱いているとしても、そこまではやり過ぎだと思ったツバキは先ほどまでの行動を改めて、深々と頭を下げた。
しかし、ジェシカはツバキの頭を上げさせて、首を横に振る。
「良いのです。私と同じように、ツバキさんも、私のことを「ジェシカさん」と呼んでくださるとありがたいのですが……?」
ニコッと笑うジェシカ。しかし、妙な迫力が伝わってきて、ツバキは目を見開く。果たして、このまま断るというのもどうなのだろうかと感じたツバキは、ジェシカの言葉に素直に頷く。
「は、はい……ジェシカ……さん」
「フフッ、ありがとうございます、ツバキさん」
これで良いのかと悩むツバキの思いとは裏腹に、ニコリと笑うジェシカの顔を見て、ツバキは諦めるしかなかった。
まあ正直、同じく十二星天であり、先ほどジェシカの口から出てきたミサキとも、友人のように接することが出来たし、そのあたりは、あまり関係ないかと思い、ツバキはジェシカと手を取り合って、笑っていた。
その直後……
ズウウウウゥゥゥン……!
突如、屋敷の外から、何かが崩れるような音が聞こえてきた。そして、屋敷全体がわずかに揺れる。
「何……?」
ツバキとジェシカはその場で身構える。すると、庭の方から、ジロウ一家の男たちの慌てる声が聞こえてきた。
「大変だ! 街の上空にでけえ魔法陣が……!」
「そこから途轍もない攻撃が街に降り注いでいるッ!」
声を聞いた二人は、顔を見合わせて立ち上がり、急いで庭へと出た。そして、空を見上げると、男の言う通り、街の上空に巨大な魔法陣が描かれ、大きな眼球のようなものが浮かんでいる。そこから白く太い光線が街を蹂躙していた。
あまりの光景に、言葉を失うツバキとジェシカ、更には、屋敷に居た者達。ケリスが倒されたというのに、一体なぜ……と、疑問の声があちらこちらから上がっている。
そして、ふと屋敷の外に目を向けると、サネマサを始め、牙の旅団の者達が、その光線を対処しようと必死に得物を振るっている姿が見えた。
何人かは、光線を防ごうとし、何人かは、屋敷の方に向かおうとしている。その中にはジゲンも居た。
しかし、魔法陣からの攻撃は苛烈で、なかなかこちらに近づけないというのが現状だ。
一応、山の陰になっていて、光線本体は、屋敷に当たらないようにはなっているが、大きな瓦礫は降ってくる。屋敷を覆っている結界で、それは防げては居るのだが、もしも、今よりも大きな瓦礫が降ってきたら、耐え切れないかも知れない。
さらに言えば、山が削られていくと、光線自体も直撃するようになるかも知れない。
そうなってしまえば、自分たち含めて、ここに居る者達も危険な状態となる。ツバキとジェシカは、この状況にどう対処するのか頭を抱えた。
「一体……どうしたら……」
ツバキは不安げに声を漏らす。せっかくケリスも倒され、自分も目を覚まし、更には、闘鬼神の者達も無事ということを確認したのだ。
なのに、最後の最後で、屋敷ごとこの街に居る住民たちの命が奪われるということになれば、どれだけムソウが悲しむか。どれだけ、絶望するのか計り知れない。ツバキは、それだけは嫌だった。
それは、ジェシカも同じである。ここまで苦労して、皆の傷を癒してきたのに、全てを台無しにしようとするこの光景が許せなかった。
何より、二十年前の一件から、ずっと様子を見てきたジェシカは、牙の旅団とも、ジロウとも再会を果たし、ようやく過去の因縁に決着をつけたサネマサの心に影を落とすことになるのは嫌だった。
二人は必死で対抗策を考える。だが、ツバキは起きたばかりで、力が思うように入らない。ジェシカも、けが人の治療などで、疲労が溜まっている。この状況で、今の自分たちに一体何が出来るのかと思いながら、ただただ、上空を見上げているだけだった。
その時、屋敷の方から、空を切る音が聞こえてくる。
「今度は何!?」
「あれはっ!」
ハッとした二人が屋敷の方を見ると、屋敷の奥から強い輝きを放つ何かが、襖を突き破り、凄い速さで、二人の方に飛んできた。思わず身構える二人だったが、それは二人の前で止まった。
それは一本の刀だった。ムソウが、自室に置いていた、零の刀「斬鬼」である。斬鬼は、優しく光を放ちながら、二人の目の前で浮かんでいた。
「一体……」
「何が……え……?」
ツバキとジェシカは訳の分からない状況に困惑しながら、斬鬼を眺めていた。
その瞬間、二人の体が輝き始める。
「「ッ!……」」
自身から出ている光に、思わず目を閉じるツバキとジェシカ。こんな時に、立て続けに起こるわけの分からない事態に、戸惑いを隠せない。
だが、その瞬間、困惑するツバキの頭の中に声が聞こえてきた。
―行こう……ツバキ……―
「ッ!?」
突然脳内に響いた声に、ツバキは驚く。
そして、ハッとした。ツバキはその声を聞いたことがあった。それは、先ほどまで眠っていた時に、魂の回廊らしき場所で感じた、小さな女の子の声だった。
やがて、二人の体から光が収まり、ツバキとジェシカは、目を開けた。ツバキは辺りを見渡す。近くに居るのは自分とジェシカだけ。耳元で聞こえたはずの声の主はどこにもいない。呆然としながら、ジェシカの様子を伺った。
す ると、ジェシカも目を見開き、不思議そうな顔をしている。そして、自分の体を見ながら、言葉を失っていた。
だが、ハッとした様子で、急に口を開いた。
「力が……戻ってます……」
「え?」
「力が戻っているのです! さっきまで、魔力も気力も無くなりそうでしたのに、全快……いえ、今までよりも、強くなっているのです!」
ジェシカはそう言って、錫杖を掲げ、自身のスキルを使った。錫杖の先端から優しい波動が広がっていき、屋敷全体を包んでいった。
ツバキも間近でその波動を受ける。すると、衰弱していた体全体に力がみなぎっていく感覚があった。
体力、魔力、気力回復の他にも、身体能力向上などの付与効果もついているらしい。それも、この屋敷に居る全員にそれを施したようだった。
屋敷の中や外から皆の元気な声が聞こえてくる。
「だ、大丈夫なのですか!?」
「ええ! まだまだ余裕です!」
流石にこの人数の状態を完全に、それも一度に回復させるとなると、よほどの力を使うと思ったツバキは、ジェシカの身を案じる。
しかし、ジェシカは余裕そうに笑って、錫杖を掲げ続けた。
確かに、言葉通りにジェシカは強くなっているようだ。輝いている間に、ジェシカの身にも、何かしらの変化が起こったのだろう。
そう思ったツバキは、自分にも何か、変化があったのではと思い、自身を鑑定してみた。
すると、とある変化に気付き、目を見開く。
「これ……は……?」
ツバキは更に鑑定スキルを使い、その変化について詳しく視てみる。
そして、今の自分に出来ることを確認したツバキは、掌を眺めて、ギュッと握った。
「これが……貴女の……力なのですね……?」
ツバキはフッと微笑みながら、そう呟いた。
「ツバキ……さん?」
ジェシカは、ツバキの様子を不思議に思い、顔を向けた。すると、ツバキは深呼吸して、ジェシカの方を見た。
「……ジェシカさん。上の瓦礫は私が少しだけですが、食い止めておきます。その間に、ジェシカさんは、ジロウ様や、大師範たちと合流し、住民の皆さんの被害をお願いします」
「食い止める……って、ツバキさん一人でですか!? それは危険です! 私も……!」
ツバキの言葉に、ジェシカは、流石にそれは無茶だと思った。上からの瓦礫を防げたとしても、それが終われば、次は光線本体の攻撃が来る。一人で対処するのは、難しいと思った。
だが、ツバキは屋敷に置いてきた自身の刀の代わりにと、目の前に浮いている斬鬼を手に取りながら、ジェシカに微笑む。
「大丈夫です。私を鑑定してみてください」
ツバキにそう言われ、不思議な顔をしながらジェシカは鑑定眼を使い、ツバキを視た。そして、ジェシカもツバキに起こった変化に気付き、目を見開く。
「こ、これは……!? 一体、何故!?」
「私にもわかりません……しかし、これならある程度は大丈夫かと思います」
困惑するジェシカにツバキは優しくそう言った。
ジェシカは、普通なら考えられないツバキの変化に驚きつつ、確かにこれならある程度の時間稼ぎが出来ると感じた。
そして、その間にサネマサと共に、転送魔法を使って、屋敷に居る住民たちをどこか離れた場所に転送することくらいは出来るのではないかと考える。
散々悩んだが、ジェシカは気を落ちつかせて、ふう~と息を吐き、ツバキの顔を見た。
「分かりました。それでは、お願いしますね、ツバキさん」
「はい。お任せください」
「それにしても……貴女も一人で戦っているわけではないのですね……」
「……はい」
ツバキはジェシカの言葉に胸に手を置いて、頷いた。
その後、ツバキは屋敷の大屋根の上に上り、辺りを見渡した。やはり上からの瓦礫は屋敷を覆っている結界に阻まれてはいるものの数は多い。
それに、少し大きなものだと、結界が若干弱まる感覚も起きている。
そして、屋敷の外を見ると、屋敷には降り注がない光線だったが、ジゲンたちが戦っているところには落ちているようで、ジゲンたちの苦しんでいる顔が見える。
これは、一刻も早く対処した方が良いと考えたツバキは、深呼吸し、胸と、腰に差した斬鬼に手を置いた。
「……お力、お借りします……」
自身に宿った力と、ムソウの力の一部である斬鬼に力を乞うように呟き、ツバキは上空を見上げた。
すると、ツバキの言葉に対応するように、斬鬼と、ツバキの頭に差してあった簪が淡く輝き始める。二つの優しく温かい波動を感じたツバキは、フッと笑い、両手を掲げた。
そして、落ちてくる瓦礫や、ジゲンたちを襲っている光線を見据え、口を開く。
「EXスキル……護るもの、発動ッッッ!!!」




