第217話―更なる援軍が現る―
屋敷の中では、シロウがアザミとたまと共に、けが人や眠っている者達を裏の洞窟へと運ぶ作業の指揮を執っていた。
だが、裏の洞窟は亜空間コアの力で広くなってはいるものの、全員を避難させるということは難しい。更に魔力を込める人員が不足しているからだ。
けが人をどうすれば良いのかと考えている。
「やはり、領主様とコモン様は優先させた方がよろしいのでは?」
「ああ。だが、生き残れたとして、あいつらはそれで納得するだろうか……」
シロウの考えている、アヤメやショウブ、ナズナという人間は、少なくとも、自分には厳しいが、領民には優しいというところがある。
生き残る優先順位で考えれば、領主アヤメや十二星天“鍛冶神”コモンはもちろん、上街の自警団の頭領であるショウブと、高天ヶ原の管理人であるナズナは、最優先で護らなければならないのだが、住民たちが死に、自分たちが生き残ったところで、果たして皆は納得するのか、というところが引っ掛かっていて、シロウは行動を移せずにいた。
すると、そんなシロウの袖をたまが引っ張っている。
「シロウお兄ちゃん……ツバキお姉ちゃんとリンネちゃんも……」
「そうなんだよな……ただ、この二人に関しては、このまま動かして良いのかどうか分からない。
……まあ、最悪の場合、俺もジェシカ様と共に魔物を迎え撃つ。その隙に、皆は出来るだけ、生き残るようにしろ」
ツバキとリンネに関しては、呪いの影響がないにも関わらず、未だ目を覚まさないでいる。ジェシカから聞いたように、精神的な部分で弱っているのかも知れない。下手に自分たちが触らない方が良いのではとシロウ達は考えている。
だが、このままだと魔物に襲われてしまう。最悪の場合を考え、シロウは皆を護るために、闘う覚悟を決めた。
そんなシロウを、たまは心配そうに見つめる。
「シロウおにいちゃんは、だいじょうぶなの?」
朝から働き詰めで自分こそ辛いはずなのに、シロウのことを心配するたま。
シロウはニカっと笑って、たまの頭を撫でた。
「心配すんなって。ジェシカ様も居るし、そう簡単にはくたばらねえよ。それよりも、今となっては、あの魔物たちに立ち向かうことよりも、後でムソウのおっさんに怒られることの方が怖い」
心配そうにするたまとナズナにそう言って、シロウは外に出ようとする。
しかし、その瞬間、襖がガラッと開き、外から何者かが入って来た。その者たちは、一応人の姿をしているが、全身から光を放つ異様な集団だった。
「お? ここはけが人の手当てをしている部屋だったか」
「そのようだ。だが、人はいるみたいだ、丁度いい」
集団の中の大柄な男と、屈強な体つきをした男がそう言うと、アザミは不審者が入って来たと感じ、サッとたまを自身の後ろに隠し、身構えた。
「何者!? ケリスの刺客というのなら出ていって!」
アザミは、腰に差した短刀を抜く。敵わないまでも、手傷を負わせることは出来ると思っている。最悪の場合、シロウに任せるか、自身の体を使おうとまで、思っていた。
部屋に入って来た集団は、アザミを見て、ギョッとした表情になり、両手を前に出して、慌てて口を開く。
「ま、待て待て待て! 俺達はアンタらの味方だって!」
「怪しすぎよ! 見たところただの人間じゃ無さそうだし!」
「いえ、本当に味方なのよ~! 落ち着いて、武器を下げて頂戴!」
集団の中に見える女が、男たちの隣で手を合わせながら、近寄ってくる。だが、アザミは、これ以上、その者達を屋敷に踏み込ませまいと、威嚇しながら声を上げた。
「女が居れば油断すると思った!? 生憎と、私もクレナの人間で闘鬼神の女よ! それで油断するとでも思っているの!?」
「……駄目だ……この女、話を聞かねえ……」
「あの男の下で働くと別嬪さんもこうなってしまうのか……」
「何とももったいねえな……」
「何とでも言うが良いわ! 闘鬼神はね、女の方が強いのよ! シロウさんも早く刀を抜いて! ……シロウさん?」
侵入者と口論を続けるアザミ。しかし、怪しい者達が入って来たというのに、シロウは立ち尽くしたままだった。アザミが様子を見ると、信じられないものを見ているような目で、シロウはその集団を眺めていた。
「そんな……まさか……」
ぶつぶつと独り言をつぶやいているシロウ。
すると、九人の集団の背後から、ジェシカの声が聞こえてきた。
「アザミさん、この方々は、間違いなく味方です。そちらはしまってください」
「え、知り合いなのですか!?」
アザミはジェシカの言葉を聞き、短刀を下した。そして、この人たちは誰なのかを聞こうとしたのだが、ふいに、ひときわ若い見た目の男が、ジェシカの方を向いた。
「あ……思い出してくださいました?」
「え、ええ……その紋章を見れば、何となくは……」
「ああ、なるほど。色々と聞きたいこととかありそうですが、それはまた、後でということでよろしいでしょうか?」
「はい、構いません」
「ありがとうございます……ところで、こちらの方々は……?」
若い男はアザミたちを示しながら、ジェシカにそう聞いていた。すると、ジェシカは頷き、九人の前に来る。
「こちらは、この屋敷の女中の一人、アザミさんです」
「女中かよ……」
集団の先頭に立っていた大柄な男は、何か残念なものを見るような目で、アザミを見回し、額に手を当てながら俯いた。
「あら、良さそうな子じゃない~。クレナの女って言っていたし、これくらいは普通でしょ~?」
女の方は、クスクスと笑いながら、アザミ達に近づいてくる。何となくムッとしたが、ジェシカの様子から、本当に安心できると思ったアザミは、先ほどの行いについて、頭を下げた。九人は気にするなと、アザミを許す。
すると、アザミの後ろから、おずおずとした様子で、たまが前に出てきた。不安そうな顔で、九人の顔を見上げている。
九人も、何でこんなところに少女がという目で、不思議そうにたまと、未だ呆然と自分たちを見つめるシロウを見ていた。
ジェシカはスッと前に出てきて、二人を紹介する。
「こちらの女の子はたまちゃん。ジロウさんがお世話をしている子です。そして、こちらの方は、自警団「ジロウ一家」の二代目頭領の、シロウさんです。
かつて、ここでジロウさんたちと過ごされていたみたいですよ」
ジェシカの紹介に、九人はパッとたまとシロウの顔を見る。
そして、何人かはしゃがみ、たまをジロジロと見だした。
強面の男たちに顔を見られて、たまは少し怯えて、後ずさる。それを見た、先ほどから居る女が前に出て、男たちの肩を叩いた。
「ちょっと……怯えてるじゃない。アンタたちが怖いからよ」
「いや……だって、アイツが育ててるんだとよ」
「そう言われたらなあ……」
「まったく……」
頭を掻く男たちをどけて、女はたまの前にしゃがむ。
そして、スッと手を伸ばした。たまが固まって動けないでいると、女はそのまま優しく、たまの頭を撫でる。
「……へ?」
「驚かせてごめんね……え~と、たまちゃん、だったかな?」
女の問いに、たまはコクっと頷く。
「そう……可愛いわね。ジロウには勿体ないくらいだわ」
女はそのまま、たまを優しく抱きしめる。
先ほどまで硬直していたたまは、急に抱きしめられ驚いたが、じんわりと体が温かく包まれていくような、安心感を覚えた。
そして、女を見て、目の前に居る男たちを見て、ボソッと口を開く。
「……おねえちゃんは……おじいちゃんの……おともだち?」
「おじいちゃんって……ジロウ?」
「……うん……ほんとうは……ジゲンおじいちゃんっていうの……ジロウは……ないしょだって……」
たまの言葉に、女はなるほどと、頷き、周りに居た男たちと顔を見合わせ、たまに、ニコッと笑いながら頷く。
「そうよ。私たち皆、あなたのおじいちゃんと友達なの!」
「なんつーか、友達以上だな!」
「家族だ、家族!」
女の言葉に続き、男たちからも声が上がり、たまにニカっと笑った。
すると、たまは目を潤ませて、女に抱き着く。
「おね……がい……おじいちゃんを……たす……けて……」
「最初からそのつもりよ。ね、皆!」
たまの言葉に、女がそう言うと、周りに居た男たちは、おう!と強く返事をした。それを見たたまは、安心し、涙を拭ってニコッと笑う。
そして、シロウの方にも、何人か寄ってはシロウの顔をジロジロと眺めている。しばらくすると、一番前に居た長髪の男が口を開く。
「この男が、ジロウが泣き虫だと頭を抱えていたシロウ君か? ……にわかには信じられないな……」
「ああ。ちょっくら試してみよう」
そう言って、大柄な体格をした蛮族のような男が、呆然としているシロウの肩に手を回し、口を開いた。
「なあ、お前があの、シロウ君ってなら、ジロウあたりから何か俺達について聞いているだろ。何でもいいから言ってみろ。俺達しか知り得ないこと言ったら、お前をシロウ君と認めてやろう」
男はそう言って、シロウをニヤニヤしながら見つめた。果たしてそれは、本物かどうかの確認になるのかと、長髪の男は頭を抱える。
だが、面白そうなので、あえて口には出さず、シロウの様子を伺っていた。
シロウは、何が起きているのか分からいという様子で、頭の中は混乱していた。そして、下を向いたまま、ポツリと語り出す。
「……コウさんは……チョウさんと仲が良かったけど……喧嘩も多くて……中でも一番印象深かったのは……女の取り合いで喧嘩して……コウさんが勝ったけど……その女が実は親父のことが――」
「分かった、もういい」
「ああ。もう大丈夫だ」
シロウの言葉を遮るように、大柄な男と、たまを撫でていた髭面の男が口を開く。
しかし、シロウはそれに気づかないのか、再び語り出した。
「ソウマさんは……昔から体を動かすことが好きで……鍛錬をよくしていた……けど……崖を上っていたら……途中で疲れて……動けなくなって……そのまま夜が来て……泣きながら大声で――」
「シロウ君、もう良いぞ」
袖なしの男がずいっと前に出てきて、シロウの肩を揺さぶる。時折、顔を覗き込んで、お~いと声をかけるが、シロウは話を辞めなかった。
「エンさんは……甘いものが好きなんだけど……自分の性格上それは似合わないって言って、それを隠してた……けど……ある日露店で……すごく欲しかったものがあって……買おうか悩んでいたところ……親父がそれに気づいて……買ってあげたら……誰にも見せたことが無かった笑顔で――」
「ちょ、ちょっと! なんで貴方が知ってるのよ!? 内緒にしてって言ったのに~!」
シロウの独白をつまらなさそうに聞いていた若い女は顔を赤らめて、叫ぶ。よほど恥ずかしいことだったらしい。
九人の空気が微妙になっていくが、シロウは口を開き続ける。
「タツミさんは……ショウブによく懐かれたり……十二星天のミサキ様と……関わることが多くて……それで皆からは……実は年下好きなんじゃないかと疑われていて――」
「え、その誤解まだ、解けていなかったのですか!? ジロウさん、シロウ君に何てこと……!」
「サンチョさんは……一度だけ皆に渡した薬の調合間違えて……なかなか治らないって皆に問い詰められ……逆上して……後で親父が確認したら……泣きながら許しを――」
「うおっと~! それは言っちゃダメなやつだ~!」
「ロウさんは……」
「お、おい……俺にも何かあるのかよ」
「……特にない」
「無えのかよ!!!」
それはそれで嫌だなという顔で、武闘着を着た男は宙を見上げた。
そして、シロウの言葉に反応した者たちがそれぞれ頭を抱えたり、恥ずかしがったりしていると、たまを撫でていた女がスッと立ち上がり、長髪の男の横に立って、シロウを見つめた。
「ふう……皆の様子を見ると、全部本当らしいわね。ということは、貴方がシロウ君っていうのは本当のことなのね?」
女は微笑みながら、シロウの顔を覗き込む。シロウは顔を上げて、女の顔を眺め、他の者たちに視線を移した。
シロウの目に何かこみあげてくるものがあり、パッと手を当てる。
今日一日で色々なことが起こった。だが、そのどれよりも信じられないことが起きている。シロウは、そう感じ涙を流した。
すると、長髪の男が、笑って口を開いた。
「ハハハ! こいつがシロウ君というのは間違いないようだ。泣きっ面に見覚えがある」
そう言って、シロウの肩を叩く男。シロウは恥ずかしくなり、手を使ってガシガシと目を拭った。そして、長髪の男、それから女の方に視線を向ける。
「あの……俺も確認したいことがあるのですが……よろしいですか?」
「ええ、良いわよ。なあに?」
女が微笑むと、シロウは聞きたかったことを聞いた。
「皆さんは……「牙の旅団」ですか?」
シロウが笑って、そう聞くと、頭を抱えていた者達は、サッとシロウに近づき、それぞれニカっと笑った。
そして、最初の大柄な男から口を開く。
「……その通りだ、シロウ君。俺たちはクレナの傭兵部隊「牙の旅団」。俺はその一人、コウシ」
「俺はロウだ。さっきの話、誰にもするんじゃねえぞ」
「同じく僕はタツミ。言っときますけど、僕はどちらかというと年上好きです」
「お前、意外と恥ずかしいこと言っているのが自分で分からねえのか? まあ、いいや。俺はソウマだ。久しぶりだな、シロウ」
「私はエンミよ。……で、正直に言うわ。確かに私は甘党よ。これはジロウしか知らなかったのに……」
「さっきまでジロウに謝りてえとか言っていたのに、ずいぶん変わったな。
俺と一緒に、叱ってやろうぜ、エンミ。さて……俺はチョウエンだ」
「俺はサンチョだ。ちなみに言っとくが、その時も皆の傷は治ったんだからな! 俺の腕は間違いないんだぞ!」
サンチョがそう言うと、他の皆は、それでも薬の配合は間違っていたのは事実だろ、という目でサンチョをジトっと睨む。何も言い返せないサンチョはシュンとして黙り込んだ。
そして、残った女と長髪の男が前に出る。
「で、私は……」
「はい。シズさん、ですよね? 親父のことが好きで、追っかけて行くうちに牙の旅団に入ってしまったという……」
シロウがそう言うと、シズネはかあっと顔を赤くして、慌て出す。
「な、何で、そんなことまで知ってるの!? ていうか、ジロウ、私の気持ち知ってたの!?」
シズネはそう言って、顔を赤くし、恥ずかしがっている。すると、他の者たちが、シズネを意外そうな目で見てきた。
「お前……あれで、バレてねえと思っていたのか?」
「はたから見てれば気付くって……」
「洞察力において右に出るものは居ないジロウが、気づかないわけないだろ」
「シズさん、意外とそういうところは駄目駄目なんだね……」
エンミがそう言うと、シズネは皆の方を振り向く。
「え!? 皆も気づいていたの!? だったらさあ、私に協力してくれても良かったじゃない!」
顔を真っ赤にしたシズネが、皆に捲し立てる。するとシロウはクスっと笑い、口を開いた。
「親父……シズさんの気持ちには気づいていたけど、「自分は闘いの中でしか生きられない。だから、嫁をとる気は毛頭なかった」って言っていましたよ」
シロウがそう言うと、皆頷いた。どうやら、シズネ以外はそのことを知っていたらしい。呆気にとられるシズネだったが、ふう、とため息をついて、
「ジロウらしいわね……」
と、呟いていた。
ちなみに、ジロウがシロウに語った、シズネと結婚しなかったもう一つの理由、
「アイツは、女らしいというよりも、どっちかつったら、男勝りな性格だったからなあ。そういう目で見れなかった。ナズナは、あんな感じになるなよ!」
と、酒を呑みながら語っていたことは、何となく内緒にしたシロウだった。
そして、シロウは残った長髪の男に視線を移した。
「それで……貴方は参謀のミドラさんですね。親父が、サネマサ様含めた皆さんを纏めるのに共に苦労したと笑って話していました」
「ほう……俺だけは良いように伝わっているようだな。まあ、事実なのだから仕方がないか」
他の皆と違い、一人だけ誇らしげにするミドラ。しかし、シロウは、再びクスっと笑い、口を開いた。
「……けど、一度だけ、弱いのに酒を呑んで、夜中酔っぱらって野営地を出て散歩しているときに魔物に遭遇して、苦戦していたところを親父が助けたって……」
「ん゛!? そ、そんなことあったか? 覚えてねえなあ……」
シロウの言葉に、ミドラは慌てふためく。すると、コウシとチョウエンがニヤニヤしながら、ミドラに近づいてきた。
「あ、それ覚えてるな。俺達が酒を呑ませた時だ」
「ああ。呑めねえんだったら無理するなって言ったのに、むきになったこいつが呑んでな、一口目で倒れた時は慌てたもんだぜ」
二人は笑いながら、ミドラを指さした。すると、ミドラがムッとした様子で口を開く。
「あの時はお前たちが、わざと強い酒を勧めてきたのが悪いんだろうが! 大変だったんだぞ! 魔物を倒そうにも刀を置き忘れたり、酔って足元もふらついたりで、散々だったんだからな!」
「「覚えてんじゃねえか」」
ミドラの言葉にそう返したコウシとチョウエン。ミドラは口をパクパクとしながら、もう知らんとあさっての方向を向いた。流石、我らが参謀は記憶力も良いなと、牙の旅団の者達から笑い声が起こる。
そして、コウシが、シロウの肩に手をまわした。
「まあ、いいや! こうして、お前がシロウ君だと確認も出来たし、シロウ君も俺達のことを忘れてなかったみたいだし。
聞いたぞ? ここの自警団の頭領をジロウから継いだらしいじゃねえか」
「僕たちが居なくなったあと、この街を護っているなんて……本当に立派になりましたね」
タツミがそう言うと、シロウは頷く。
「……ありがとうございます。でも……俺だけの力ではありません。アヤメや、ショウブ、そして、ナズナが居たからこそ出来たことです」
「ああ、そういや、アヤメちゃんはどこだ? 姿が見えないが……」
コウシはそう言って、きょろきょろと部屋の中を見渡した。すると、シズネの袖をたまが引っ張る。
「ん? どうしたのかな?」
「あっち……」
たまは、牙の旅団の者達に、寝ているアヤメたちの方を指さす。
アヤメの姿を確認したシズネたちは、ぞろぞろとアヤメの方に向かった。その間にたまは、牙の旅団と再び会えたことに感動し、感慨深げに立ち尽くしているシロウの手を引っ張り、部屋を出ていった。
アヤメを囲むように立つ牙の旅団の者達は、アヤメの状態と、これまでの領主としてのアヤメや横に居るナズナたちの説明をジェシカから受けている。
そして、ジェシカの説明が終わると、牙の旅団の者達は、しゃがみこんで、アヤメの顔を眺めた。
「……へえ、アヤメちゃんも立派になったものだな……」
「ああ。おどおどして、俺達を見送っていたのが昨日のことのように思い出される」
「“暴れ姫武将”なんて、似合わねえな。だがまあ、それも悪くはないか」
「ジロウの教育の賜物ね」
牙の旅団の者達はアヤメの成長を感じ、笑っている。寝顔だけ見たら、今年何歳になったのかすら分からない見た目だが、自分達が死んだ時と同じくらいになり、顔つきは立派になったと感じた。
皆で、若くして領主になり、多忙な毎日を送っていたアヤメの手伝いをしていた頃のことを思い出し、懐かしんでいた。
「ナズナちゃんは、美人になったものだね~」
「ああ。対してショウブちゃんは……変わらねえな、コイツこそ何歳になったんだよ」
更にアヤメの横で眠っている、ナズナとショウブにも目を移した。
ナズナの方は高天ヶ原の管理人兼妓女をやっていることを聞き、コウシやチョウエンが、生きていれば、酌してもらいたかったなどと言っている。
ショウブに懐かれていたタツミは、まだ幼い見た目だという他の者たちの言葉を否定し、
「綺麗になったじゃないですか」
と、言った。先ほどのシロウの言葉もあり、ジトっとタツミを見る牙の旅団の者達。ハッとしたタツミは、視線を逸らした。
ふと、横に置いてあるショウブの鉄扇が目に入ったタツミはそれを手に取る。
「これ……僕の「風神」ですね」
「ん? そういやあ、そうだな……あれ? ミドラ、これお前のじゃねえのか?」
コウシは、ナズナの横に置かれていた二本の刀を手に取った。どれどれ、と言いながらミドラは刀を受け取り、目を見開く。
「確かにそうだ。こいつは、俺の「千手・千眼」だな……何でこんなところに?」
「ジロウが継がせたんじゃねえのか?」
サンチョの一言になるほどと、頷くタツミとミドラ。自分たちが使っていた道具を、次の世代が引き継ぎ、街を護るという志をも継いでくれているということを感じた牙の旅団は改めてジロウに感謝の念を感じた。
「ナズナちゃんに使って貰えているとは、嬉しいものだな……ただ、今だけ、これは返してもらう」
「全て終わったら、きちんとお返ししますからね」
二人はそう言って、得物を握り、それぞれナズナとショウブの頭を撫でた。
「ふむ……二人の武器は良いが、俺達のは無いな。あいつらから借りるか?」
コウシはそう言って、寝ているツバキ、リア、ダイアン、カサネを指さす。牙の旅団の者達は、急ごしらえだが、剣術スキルもあって、そこまでの困ることは無いだろうと思っている。
ジェシカの障壁も時間の問題だし、そうしようかということになった。
その時、部屋の襖が開き、たまとシロウが戻ってきた。二人とも、何やら荷物を抱えている。
「持ってきたよ!」
「たまちゃん、何を? ……あら?」
フラフラとするたまの手から、荷物を受け取る。そして、それをまじまじと見つめるシズネは、あることに気付く。
「これ……私たちのよ!」
「ん!? 何だと?」
シズネの言葉に驚いた牙の旅団の者達は、ぞろぞろと集まってくる。そして、足元に並べられた武具を見て、目を見開いた。
「お、ホントだ。こいつは俺の「阿修羅」だな」
「私の「龍尾鞭」もあるわ」
「俺の手甲もあるな。素手だと外殻が固い奴が居たらどうしようかと思ったが、これならいけるな」
「これは、俺の「覇槍」だな。重たいのに……ありがとな、たまちゃん」
「あ、私の「与一」もある。弦は……ちょっと傷んでるかな」
「後でここのを借りればいい。お、俺の「金剛力」もあるな。こいつは……どこも傷んでないようだ」
「俺の調合道具といくつか薬の材料もあるな……ジェシカさん、ここに居る奴らに使っても構わねえよ」
各々、たまとシロウが持ってきた武具を手に取って、状態を確認している。以前、ムソウが、高天ヶ原から回収したものだ。
皆、たまに礼を言って、頭を撫でると、たまはニコリと笑った。
サンチョから薬を受け取ったジェシカは、このまま屋敷内に残り、皆の手当てをするという。
そして、エンミは弓の弦が無いかとたまに尋ねていたが、たまは首を傾げた。すると、アザミが肩を叩き、口を開く。
「弦でしたら、リアのものがあるけど……」
「リア? 誰よ、その人」
エンミが首を傾げていると、たまがエンミの手を引っ張って、寝ているリアたちの横に連れて行った。そばには、リアの道具一式が置かれ、その中に、弓もある。
エンミはその弓から弦を抜き、自らの弓にはめた。
「しばらく借りるわね。後で必ず返すから」
見た目は殆ど同じなのだが、エンミの方が年上だ。エンミは静かに起こさないようにリアの頭を撫でる。何となく感じが似てるなと他の者たちは笑った。
そして、寝ている闘鬼神の者達をまじまじと見つめる牙の旅団。ムソウが雷雲山で探していたのは、この人たちだったかと、ここで判明した。ふと、タツミが眠っているダイアンを見ながら口を開く。
「この方たちが、ムソウさんのお仲間ですか。なかなか頼もしそうじゃないですか」
「けど、もっと居るんだろ? 他の奴らはどうしたんだ?」
タツミとコウシが、アザミとたまの顔色を窺うと、急に暗くなった。聞いてはいけないことを聞いてしまったと思ったコウシは視線を外す。
すると、何か思い出したように、ジェシカが、あ!と声を上げる。
その場に居た者達は驚いて、ジェシカの方を振り向いた。
「大事なことをお伝えするのを忘れていました!」
「どうされたのですか、突然……」
不思議そうな顔をして、アザミがそう言うと、ジェシカは皆に、特にたまとアザミに、あることを告げ始めた。




