第216話―ジェシカ、頑張る―
その頃、ムソウの屋敷内では女中たちと合流した十二星天ジェシカが、たまたちと共にけが人の介抱をしていた。
ジロウ一家の者達により、捕縛された住民たちに、ムソウが作った薬と合わせ、自らのスキルを使い、呪いや傷を治癒していくジェシカ。
「ミサキちゃんに渡された時は驚きましたが、これほどとは……」
呪殺封の薬や、黄金神薬を与えていくたびに、ジェシカはその薬の効能に驚いている。
呪いを治す薬……それは人界の歴史上、どこにも存在しえなかったもの。ミサキに渡された時から、自身が設立した「治癒院」にて、研究と開発が進められている。一応は、聖杯から湧き出る聖なる水を用いて、それに近いものは出来ていた。
しかし、それよりも純度が高く強力な効果を発揮する薬を見ながら、ジェシカは何度も感嘆している。
ミサキから、ムソウのことは聞いていた。とにかく“規格外”だと。サネマサからも、取りあえず、強くて、どことなくおっかない、ということしか聞いていない。
だが、手にした薬を眺め、私も早く、これを作ったムソウという男に会ってみたいと、感じるようになったジェシカ。
そして、住民たちの治療が終わった後は、未だ眠っている、同じく十二星天であるコモンの元へと向かった。
そこでは、現在たまが、コモンや、そばに居るアヤメ、ショウブ、ナズナ、そして、ツバキと先ほど運ばれてきたリンネの世話をしている。
必死そうな顔で、がんばって、がんばってと言いながら、頭に当てる手ぬぐいを交換していた。
ジェシカはフッと微笑み、たまの肩を叩いた。
「あ……じゅうにせいてん様……」
「ジェシカで構わないですよ、たまちゃん。あなたも体を休めてくださいね。朝からずっと働きっぱなしだとアザミさんから聞きましたよ」
少し疲れているような表情をするたまにジェシカは優しく微笑む。しかし、たまはブンブンと首を横に振った。
「だめ! おじちゃんも……おじいちゃんも……コモン様も、リンネちゃんも……みんな、頑張ってるの! 私も頑張らないと!」
たまは手ぬぐいを絞り、ツバキの額に当てた。
「私だって……私だって、「とうきじん」だもん……おじちゃん……私にも……「頼む」って言ってくれたんだもん……」
そう言って、たまは更に手ぬぐいを濡らし、それを絞ろうとする。
ジェシカは、たまの頑張っている姿と、コモンたちを介抱する真剣な眼差し、そして、幼いながらも、この屋敷で働く一員としての覚悟を目の当たりにし、ある種の迫力に気おされて何も言えなかった。
しかし、たまも疲労が溜まり、フラフラだということは目に見えている。手ぬぐいを絞る手にも力が入っていないようだ。
これ以上無理をさせるわけにはいかないと、たまの作業を止めようとした。
すると、近くで作業していたアザミと、何人かの女中たちが、立ち上がり、フッと微笑みながら、たまに近づいていく。
そして、アザミは、手ぬぐいを絞っているたまの手を優しく包み込んだ。
「おねえちゃん……?」
ハッとした様子のたまは、アザミの顔を見上げる。
「ふう……そんなに濡れていると、流石のコモン様も風邪ひくわよ? もう少し力を入れて、絞らないと」
「お手てが疲れてきたら本当に無理しないでね~」
「そうよ~。たまちゃんが料理作れなくなったら、私たちが頭領に怒られるんだから~」
女中たちはそう言って、たまに微笑み、手を優しく揉み解した。
「あの……ありがとう……」
たまはペコっと頭を下げた。すると、アザミたち、屋敷の女中たちはたまを囲み、抱きしめる。
「もっと……私達を頼って。貴女は私達の上司なんだから、何でもお手伝いするわよ」
「そうですよ~。それに、たまちゃんだけじゃないんですよ」
「私達も闘鬼神の一員で~す」
アザミたちの優しい言葉に、たまはうんうんと頷き、涙を流した。
その後、ツバキたちのことは、女中たちに任せ、たまは、アザミに連れられて部屋の隅へと向かい、休息をとり始めた。
ジェシカは、たまの元から戻ってきたアザミに頭を下げる。
「ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらです。皆さんを治療するだけでなく、私たちの上司にもお気遣いをしてくださり、ありがとうございます」
そう言って、アザミが頭を下げると、他の女中たちもジェシカに頭を下げた。
自分たちは、そこまで力を持っているわけではない。正直、今も疲労が体を蝕んでいる状態だ。
だが、そこにジェシカが来て、増えていく住民たちを癒していき、負担が大幅に減った。
ムソウから、この屋敷を任されたことを危うく反故にするところだった。それを助けて貰ったことについて、アザミたちは深く感謝している。
ジェシカは頭を下げるアザミたちに優しく微笑み、頷いた。
「皆様も、充分お強いと思いますよ」
「それは……まあ、何と言いましょうか、頭領曰く、「闘鬼神の女は強くないと」とのことなので、私達も、ここで過ごすうちに成長していっているのだと思います」
「たまちゃんやジゲンさんは優しいけど、頭領はあれだからね~」
「怒ったら怖いし……」
「普段はお優しい方なんですけど~」
アザミに続き、女中たちからムソウの愚痴がこぼれる。多少は、緊張の糸がほどけたらしい。ジェシカはクスっと笑い、ますますムソウに会うのが楽しみになってきていた。
そして、ひとまずこの場は女中たちに任せ、庭へと出た。屋敷には入りきらなかったけが人が、他の女中たちや、下街の住民たち、ジロウ一家の者達により介抱されていた。一通り状態を見ていくジェシカ。
ここに居るのはそこまで怪我を負っていなかった者達だ。後はゆっくりしておくだけで大丈夫だろう。
しかし、季節は冬。外は寒い。庭のあちこちにある焚火を絶やさないようにとジロウ一家の者達に伝えた。
ふと、崩れてしまった門の方を見ると、傍らに刀を置き、壁にもたれていたシロウが目に入った。
シロウはジゲンとサネマサが戦っている前線をぼーっと見ているようだ。
ジェシカは気になり、シロウの方に寄っていく。
「どうされました? シロウさん」
「……ジェシカ様」
ジェシカが声をかけると、シロウは顔を上げて、ジェシカの方を向いた。けがは治したが、やはり、気功スキルを使って身体能力を限界以上に高め、闘った代償は大きいようだった。活力剤は与えたが、それほどの効果は無いようで、シロウの体からは弱々しい力しか感じなかった。
それは、シロウ本人も分かっているようで、座ったまま、ジェシカの顔を見上げ、そして再び、ジロウ達の居る方向を見つめた。
そして、フッと微笑む。
「すげえな……あれが親父とサネマサ様の闘いか……あれが、クレナを護ってきた男たちの闘いなんだな……」
ジェシカはシロウの言葉に驚いた。てっきり、闘いに参加できない自分を嘆いているのだと思っていた。
肉体だけでなく、精神的にも弱っていたらどうしようかと考えていたが、杞憂だったらしい。
シロウは、ジロウからトウショウの里を護る自警団の長という役目と、責任を継いだ。以前は、自分はそこまでの器じゃない。ジロウに比べるとちっぽけな人間であると劣等感にさいなまれていた。
しかし、ここ数か月の間に、ムソウと出会い、叱咤され、結果的にジロウ本人から刀を授かり、ジロウ一家の二代目としての自覚を持つようになっていた。
そして、今日、ジロウと共に戦い、戦功を褒められ、その自信は確信へと繋がっていった。今日一日で自分は大きく成長できたのだと、シロウ本人が嬉しく思っていた。
今は闘うことが出来なくなった。代わりに、ジロウの戦いというものを目に焼き付けている。
どうやったらあそこまで強くなるのか、どうやったらあそこまで優しくなれるのか、今まであまり見たことが無かった、“父親”の背中を、シロウは一生懸命見て、学んでいるようだった。
ジェシカは、微笑みながら、シロウに口を開く。
「ジロウさんやサネマサさん、牙の旅団の皆さんの伝説、教えましょうか?」
ついでに聞かせてあげようと思い、言ってみたが、シロウはフッと笑い、首を横に振った。
「いえ……後で本人たちに直接聞くっす」
そう言って、シロウはニカっと笑った。
ジロウが次代に託した思い、それはきちんと受け継がれているんだなと思ったジェシカは、その方が良いと、シロウに微笑み、それ以上は何も言わなかった。
すると、ジロウ達を見ていたシロウの目が途端に険しくなる。
そして、額に手を当てて、遠くを見るような仕草をした。
あっ、という声を上げると、慌ててジェシカの方に振り向く。
「ジェシカ様! 魔物の大群がこちらに向かってます!」
「何ですって!?」
シロウの言葉に驚いたジェシカは、慌てて屋敷の外を見た。そして、眼力スキルを使い、遠くの方に視線を向ける。
そこに居たのは、シロウの言った通り、凄い数の魔物たちだった。100……200……いや、それ以上だ。ゴブリン、オウガ、スライム、ワイアーム、トロール……様々な種類の魔物や、先ほど、ジロウ達が相手をしていた謎の黒い兵士のような者達まで居る。
シロウは膝に手を突きながら、スッと立ち上がった。
「ど、どうする気ですか!?」
ジェシカは、その体のままシロウが闘いに赴くと思い、肩を掴んだ。だが、シロウは少しきょとんとして、口を開く。
「そこまで馬鹿じゃないですって! 屋敷の皆に避難するように、それから結界魔法を強めるように指示を出してくるだけですっ!」
シロウの言葉にハッとするジェシカ。どうも最近自分の考えが、ただの勘違いになることが多い。いや、この場合、シロウとサネマサの雰囲気がどことなく似ていることが原因だ。
サネマサだったらこういった時、ボロボロの体を引きずりながら闘いに赴くことが多い。後で傷を癒しながら、サネマサに注意をするが、一向に聞く気配がなく、ジェシカは心配を通り越し、呆れてさえいる。
なるほど、シロウはサネマサよりは冷静な思考が出来る男のようだ。流石、ジロウに育てられた男。
そう感じたジェシカは、掴んでいたシロウの肩を放し、深呼吸した。
「分かりました……では私は、あの魔物たちを何とか食い止めてみせます」
「え、ジェシカ様が戦うというのはあまり聞いたことがないのですが……?」
十二星天の“聖母”ジェシカは、傷ついた者達を癒すという伝説は何度も聞いたことがあるが、魔物と闘うというのは聞いたことが無かったシロウは、大丈夫なのか、という顔をする。
すると、ジェシカは得意げな顔をして、胸を張った。
「ミサキちゃんほどではありませんが、私だって上級の魔法くらいは使うことが出来ます。それに、倒すのではなく食い止める程度ですから、結界の準備が出来ましたらすぐ呼んでください」
言い換えれば、この屋敷の避難と、結界の強化を終えるまでの時間稼ぎをするということらしい。それならば納得というシロウはジェシカの言葉に頷いた。
そして、シロウは庭に居る者達に指示を出しながら屋敷の中へと入っていく。途端にジロウ一家の者達や、下街の住民たちで、負傷した者達を屋敷の裏にある洞穴に運び入れる作業が始まる。
負傷した者達の中には、花街の妓女たちも居る。もちろん、高天ヶ原の四天女も居る。誰がどの妓女を運ぶか下街の男たちがもめることがあったのだが、そういう時はジロウ一家の者達や、その男たちの妻などが一喝し、作業は順調に進んでいった。
ジェシカは屋敷の前に立ち、魔物たちを見据えた。そして、自らに強化魔法を唱え、障壁の魔法を発動させる。
「多少の時間稼ぎが出来ると良いですが……」
魔物の数を数えながらジェシカは汗を垂らす。シロウにああは言ったものの、自分はそこまで戦えるという人間では無い。
使える魔法も上級のものが限界だ。更にはミサキのように全般の属性魔法を使えるというわけではない。使えるものは、自身の適正属性である水と、地属性の上級の魔法くらいだ。
限られた魔法だけを使い、魔物たちの足止めくらいはと考えている。ジロウとサネマサは未だに前線で戦っている。ここに戻ってこられないということは、ケリスの力が想像以上だったということ。二人の足を引っ張るわけにはいかないとジェシカは錫杖を構える。
「はあ……後でサネマサさんに何か奢ってもらいましょ!」
ジェシカは迫ってくる魔物に対し、土壁を作る魔法を発動させた。地面を歩いてくる魔物はこれで大丈夫だ。
問題は飛んでくるワイアームや、スカイグレムリンなどの群れだ。まずはあれを対処して……だが、それだと土壁を破壊されるのも時間の問題になってくる。それまでには空の敵を駆逐しないと。
こちらは一人、本当に気合を入れないと屋敷を護り切れる自信がない。手にした錫杖に魔力を込め、体中に気を巡らして臨戦態勢に入った。
そして、魔物たちに向けて駆け出そうとした瞬間だった。
「ッ! 何ッ!?」
突如、相対している魔物たちの背後、サネマサやジロウが戦っている前線の方から、凄まじい力を持った何かが迫ってくる。
ハッとしたジェシカが、力の方向を見ると、強い輝きを持った太い光線状のものが、こちらに迫ってくるのが見えた。
感じてくる力の大きさは、ジェシカの作り出した土壁など簡単に破壊し、屋敷を覆っている結界も問題なく砕きそうなものだ。
「まずい! はああああああッッッ!!!」
ジェシカはありったけの魔力を錫杖に込めていく。そして、溜めた魔力をその光線に向けて撃ちだした。
「爆流砲ッッッ!!!」
錫杖の先端から、いくつもの魔法陣が浮かび、そこから圧縮された大量の水のが放水され、屋敷に向かってくる光線に向かって行く。
ジェシカの持つ魔法の中でも、強い部類に入るものだ。打ち砕くことは出来なくても、動きを緩めたり、止めたりすることは出来るだろうと考えている。
その間に、サネマサ達が来ることを願っている。
だが、ジェシカが放った魔法は、その攻撃に当たった瞬間、パシンッという音と共に、かき消されてしまった。屋敷に迫る光線は勢いを止めない。
「くっ……時間稼ぎにもならないなんて……せめて皆さんだけでも!」
ジェシカは振り返り、再度魔力を高めていく。そして、転送魔法の準備に入った。通常、この魔法は、自分か、数人の人間しか送れない。
しかし、使用する魔力を高めることにより、更に多くの人間を別の場所へと送ることが出来る。
正直、この人数の人間を送ることは不可能に近いと感じる。しかし、少しでも多くの命を救いたいと思い、魔力を集中させていく。
「足りない……足りない……こんなんじゃ……駄目……」
しかし、ジェシカがいくら魔力を高めていっても、転送魔法を起動させるには足りなすぎる。そして、こうしている間にも、光線は背後に迫ってきている。
もう間に合わない。せめて少しでも結界を強く張ろうと、屋敷を覆っている結界に向けて自身の魔力を込めようと、錫杖を向けたとき、ジェシカの目に不思議なものが映った。
「何……あれ……?」
それは空を飛んでいる九つほどの、強い光を放つものだった。それはこちらに向けて飛んでくる。
またしても別の攻撃かと思ったジェシカは今度こそ、終わりだと思った。
しかし、その光は、屋敷を襲うことなく通り過ぎていき、すぐそばまで迫っている光線の前に降り立った。
そして、そのまま光線と光はぶつかり合う。光の塊は、屋敷を護るように、光線の動きを止めた。
凄まじい衝撃と余波が、屋敷を襲うが、問題は無かった。ジェシカは自身の周りに障壁を展開させ、衝撃から身を守っている。
やがて、光線が消え去り、ジェシカの視界には先ほどの強い光がふよふよと浮かんでいた。
「一体……何が……?」
呆然とするジェシカの前に、その光が飛んでくる。そして、自分を取り囲むと、その光がさらに輝きを増した。
すると、光の中で、何かが形を変えていくような影が浮かぶ。それは段々と人の形を成していった。
しばらくすると、光は収まり、ジェシカの目の前には、男女合わせて九人の人間が立っていた。
「……流石、純粋な龍族の鱗だ。駄目かと思ったが、何とか防げたな」
一人の男がニカっと笑い、口を開く。すると、その者たち中で二人しかいない女のうち、年上の女が自身の体を見渡しながらニコッと笑った。
「ギリギリだったね~。でも、皆も無事そうで何よりよ」
女がそう言うと、他の者たちも口を開いていった。
「にしても皆、死んだときのままの姿じゃねえか? 人のことは言えないが、もう少し若い時の姿でも良かったんじゃ……?」
「あ~……そうすりゃ良かったな。まあ、いいだろ。あまり若い時のままでいったら、一人だけ老けたあいつが馬鹿みたいになっちまう」
そう言って、男の一人が、前線で戦っているサネマサ達の方を指さすと、皆、そちらに顔を向ける。立ち尽くしている二人の周りに夥しい数の魔物の死骸が転がっているのが見える。
二人とも、ジェシカと同じように、何が起こっているのか分からない様子で、立ち尽くしている。
サネマサ達の様子を見た九人は笑い声を上げる。
「ほ~、腕は落ちてねえみたいだな。相変わらず、すげえ団長だな」
「ジロウさんも、変わりないようですね」
「うん……安心した……ようやく……」
「ああ。だがその前に、俺達は魔物の殲滅だ。あのクソ貴族は二人に任せておこう。また、利用されるかも知れないからな」
「そうね……。けど、武器が無いけど大丈夫かしら……」
一人の女の言葉に、他の者たちはう~んと悩んでいる。拳闘士のような男と、皆よりも若干年若い男は、自分たちは、何とか今の状態でも対応できると言っているが、それでもあの数は厳しいだろうと、皆が言うと、どうしようかという顔をした。
助けに来てくれたようだが、どうしたものかと悩んでいる者達を見ながら、ジェシカは思案を巡らせている。
―この人たち……どこかで……―
ジェシカはこの者たちのことを知っている気がした。だが、いくら思い出そうとしても、思い出せなかった。
そうしていると、先ほどの若い男が、にこやかな顔をして、ジェシカの前に立った。
「あ……どうも、すみません。え~と……一応説明しておきますが、僕たちはあなた方の味方です」
「え、ええ。それは分かっております。先ほどは助けていただきありがとうございました」
頭を下げてくる男に、ジェシカも頭を下げた。すると、先ほどの女がこちらをジーっと見ていることに気が付く。
そして、何か思い出したように、手をポンと叩いた。
「あ! この人、ジェシカさんだよ! ほら、サネマサと同じ十二星天とかいう「迷い人」の集まりの!」
女がそう言うと、他の者たちも、パッと自分の顔を見て、目を見開いた。
「そういや、そうだな。昔、何度か会っただけだったからすっかり忘れてた」
「前会ったのは何時だっけ? 壊蛇の時だったか?」
「そうだよ。傷を治してもらったんだよな~」
「ああ、だからこの屋敷は未だに無事なのか。サネマサ以外にも、十二星天が居るんだからな」
「俺達、来た意味あったか?」
などと話しながらジェシカのことを眺めている。
ジェシカは更に不思議に思い、その九人を眺める。相手は自分と会ったことがあると言っている。壊蛇の時にけがを治してくれたと言っているが、それは民衆から、貴族まで数多く居る。そう言われても思い出せない。
しかし、確実に自分の知っている人たちだと思ったジェシカは、誰だろうと、その者たちを眺め続けた。
すると、一人の男が前に出て、ニヤッと笑い、口を開く。
「ふむ……ジェシカ殿は、俺達が何者か分からないようだな」
「え、あの……はい、すみません」
「謝らなくて良い。やはり、十二星天や他の者達にとっては、俺達など、サネマサやジロウのおまけみたいなもんだからな」
男がそう言うと、確かに、という顔をして、他の者たちは笑った。
キョトンとするジェシカをまっすぐ見つめながら、その者たちは再び輝きだす。何をしているのかと思っていると、ジェシカの目の前で、九人はそれぞれ羽織を纏った姿となった。
自分たちの姿を確認した九人は、屋敷の方を向いて、中へと入ろうとする。
「さて……取りあえず中に武器が無いか探してみるか」
「そうね。最低限使えるものがあれば良いんだけど……」
「ふむ……にしても、この屋敷も立派になったものだな。ジロウ達が住んでいた頃に比べると、一回りデカく感じる」
「それも、今やボロボロだけどな」
「あの人に怒られないと良いですが……」
「まあ、そん時は、俺達は潔く天に上ろう。あのムソウって若造も、流石にそこまでは追ってこないだろう」
「その前に……私はジロウに……」
「だな。まあ、エンミと違う意味で、俺はあいつに言いたいことがあるけどな」
「喧嘩するなよ。薬作るのも楽じゃないんだからな」
九人は楽しそうに、屋敷の門をくぐった。
ジェシカは、九人が新たに纏った羽織の背中に描かれた紋章を見ながら目を見開く。
そこには、サネマサやジロウが羽織っているものと同じ、牙の旅団の紋章が描かれていた……。




