第214話―援軍現る―
突然のことで、ジゲンはサネマサを見つめたまま、頭が真っ白になった。何故ここに居るのか分からない。そんなジゲンの前で、サネマサは、ツバキとリンネを下し、地面へと寝かせた。
そして、懐から水晶の板のような魔道具を取り出し、魔力を込める。
『……はい、何でしょう?』
すると、その魔道具から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。それは、離れた者同士が、会話をするために作られた魔道具だった。
サネマサは、ツバキとリンネ、それからジゲンを見下ろしながら、魔道具から聞こえる声の主と話をしている。
「ああ、やはりこちらに来てくれ。重傷者が一人……と、一匹居る」
『了解しました』
軽く何言かの会話を済ませると、サネマサの魔道具から、声が聞こえなくなった。
一体誰を呼んだのかと思っているジゲンに、サネマサは懐から回復薬を取り出した。
それをジゲンの口元に持っていき、ゆっくりと飲ませる。すると、ジゲンの体が輝き、先ほど斬られた大きな傷と、体中に残っていた細かな傷が癒えていった。
「……すまない」
「いいって、気にすんな。あと、これも飲んどけ」
サネマサは更に、魔力回復薬と、気力回復薬、疲労を癒す活力剤をジゲンに渡した。受け取った回復薬を服用し、ジゲンの体調は万全のものとなる。
体の調子を確かめながらジゲンが立ち上がると、ふと自分たちが居る近くの地面が白く輝きだし、魔法陣が浮かぶ。
そして、そこから一人の女が現れた。どうやらこれは転送魔法のようらしい。
ジゲンは現れた女の姿を見て、首を傾げる。女は亜麻色の髪を三つ編みにし、衣の上に白い羽織を纏っている。
背には、十字架のようなものの周りを色とりどりの花が囲んでいるという、綺麗な紋章が描かれていた。どこかで見たことあるなとジゲンは思う。
そして、女は長い錫杖を手にし、こちらに近づいてきた。
「お主は……?」
「え? 貴方は……?」
現れた女を不思議そうに眺めると、その女も自身を不思議そうに眺めだす。特にジゲンの目を見て、う~ん、と悩んでいるようだった。
すると、隣に居るサネマサが笑い出した。
「ハハハッ! ジェシカ、忘れたのかよ。俺の親友のジロウだよ」
サネマサの言葉に女……十二星天のジェシカはハッとし、手をポンと叩く。
「やはりそうでしたか。あまりにも雰囲気が違うので一瞬誰だか分からなかったです。お久しぶりですね、ジロウさん」
頭を下げるジェシカを見ながら、ジゲンは、ああ、と思い出す。昔、自分が呪われ、サネマサに斬られたとき、治療してくれたのがジェシカだった。長い間会っていないので忘れていた。
ジェシカの羽織の背中に描かれているのは、ジェシカが設立した、新薬などの開発や、けが人の治療などを目的として、王都に本部が置かれている、「治癒院」の紋章だ。
女の正体がわかり、なるほどと頷くジゲン。
しかし同時に、更に困惑した。“武神”サネマサだけではなく、“聖母”ジェシカまで居る、つまり十二星天がこの場に二人も居るということに驚いている。
ジェシカはニコリと微笑み、軽く会釈をした後、サネマサの方を向く。
「それで、サネマサさん。重傷者というのは……?」
「ああ、こいつらだ」
サネマサは地面に寝ているツバキとリンネを示した。ジェシカは真剣な眼差しになり、その場にしゃがんで、二人の容態を伺う。ツバキの方は先ほどよりも、呼吸が弱くなっているとジゲンは感じた。血を流し過ぎたのか、肌の色は青白くなっている。
リンネの方は、封印術の影響もあり、更に体力を失っているように感じた。
二人は時折、何かに助けを求めるように、小さくうなされていた。
一目見て、一刻を争う状態だと思ったジェシカは、そのまま二人に手をかざした。すると、朝の陽ざしのような柔らかな光が二人を包み込んでいく。
「奥義・癒しの風」
すると、ツバキとリンネの全身の傷が無くなっていき、二人の呼吸が落ち着いていく。ジェシカのEXスキル「神々の癒し」による治癒術の一つだ。
応急的に簡単な傷なら治っていく。ひとまず、二人の血が止まったことを確認した、ジゲンはふう、と胸を下す。
そして、傷の治療を続けていく、ジェシカと、周りの神兵達の動向を伺っているサネマサに、何故、ここに居るのかと尋ねた。
すると、サネマサはニカっと笑い、口を開く。
「いやあ……コモンと同じくお前もあの屋敷で過ごしているとは思わなかったが、それなら聞いていると思うが、近々ムソウを尋ねて、オウエンがここに来るという話は知っているよな?」
「ああ、知っておるが……」
一か月前にムソウから聞いた話だ。というか、昨晩までその準備をしていた。
しかし、調査隊の依頼も終わらず、どういうことなのかと思い始めたのが、今回の一件の始まりだった。
ただ、それは、サネマサやオウエン達も思っていたらしい。約束の一か月が近づいても、アヤメからの返事が無く、サネマサ達は王都で不審に思っていたらしい。そこで調べてみると、雷雲山などの調査が未だ済んでいないということに行きついたのだという。
このままだと何時まで経っても、クレナに行けないと思ったオウエンは、サネマサに頼んで、クレナに視察に行くように指示、サネマサはすぐに承諾し、オウエンとムソウの会談でも連れてくる予定だった、ジェシカ、更にもう一人の十二星天を連れて、ここに来たのだという。
「ちょっと待て。もう一人、十二星天の者が来ておるのか?」
「ああ。少し遅れてるが、もう少しで着くと思うぞ……多分、驚くぞ、良い意味で……」
ジゲンの質問に、あっさりと答えるサネマサ。そして、最後にそう言って、ニコッと笑う。
先ほどまでは圧倒的に不利な状況だったにも関わらず、サネマサが来て、ジェシカが来て、更にもう一人の十二星天が来るとは、思いもよらなかった。
それはともかくとして、サネマサらがクレナに入ったのはちょうど二日ほど前だったという。この間は、各地の村々や集落を見たり、オウエンと寄りたい場所などを、正体を隠して、回っていたという。
そして、最後にここに来て、調査依頼のことについてアヤメに、ついでにムソウに会おうとして、トウショウの里に来たというわけだった。
「それで、何かおかしい状況になってるトウショウの里に着いたら、見覚えのある羽織を着た、見覚えのない爺さんが、闘っているからなあ。急いで助けに来たってわけだ」
サネマサはそう言って、ニカっと笑う。言い方が気に入らず、少しだけムッとしたジゲンだったが、助けられたというのは事実だった。頭を掻きながら、再びサネマサに頭を下げる。
すると、二人の治療を続けていたジェシカが、ふう、と息を吐き、治療を終えた。見てみると二人の体に傷はどこにもなく、ツバキも、リンネも先ほどよりも、穏やかな顔をして、眠っている。
ジェシカは立ち上がり、口を開いた。
「……ひとまずは大丈夫です。ただ、女性の方は精神的な疾患が、魔獣の子供の方は封印術で体を蝕んでいるという状態です。
しばらく安静にしておいた方がよろしいですね」
やはり、心に関しての問題は、本人次第とのことで、ジェシカにも、どうにもできないらしい。ゆっくりと目を覚まし、落ち着いていくのを待つしかないようだ。
リンネも似たような状況なのと、ケリスの封印術によって、力が上手く使えない状態であるため、傷が癒えても目を覚まさないのだという。
流石に神族の使う封印術はジェシカのスキルでも治すことが出来ないらしい。
ということで、二人はこのまま屋敷へと下がり、ジェシカの治療を続けるということになった。
ジゲンは頷き、ジェシカの提案を承諾する。
「ああ、頼むがそうしてくれ。それから、シロウ達……あそこに倒れている者達も、頼む」
ジゲンは、周りに倒れているシロウや、自警団の者たちを指さした。ジェシカは分かりましたと頷く。
すると、ジゲンが少しだけ落ち込んだような雰囲気になったのが、嫌だったのか、単純に自分が耐え切れなかったのか、わからないが、サネマサがジゲンの肩に手をまわして陽気に口を開く。
「ところで、綺麗な嬢ちゃんのようだが、ムソウのこれか? お前のこれか?」
サネマサは自らの小指をジゲンに向ける。突然の行動に、一瞬戸惑うも、ジゲンはすぐにフッと笑う。
そして、空気の読めない行動をするサネマサを咎めようとするジェシカを制し、穏やかに口を開いた。
「どちらかと言えば、ムソウ殿じゃの」
サネマサはジゲンの状態に安心したのか、自らの質問についてきちんと答えてくれたことに納得したのかニカっと笑って、そうかと頷く。
すると、ジェシカが思い出したかのように、口を開いた。
「……あ、もしかして、こちらの方が、ミサキちゃんの言っていた騎士のツバキさんで、こちらが妖狐のリンネちゃんでしょうか?」
「む? ああ、そうじゃよ。……二人とも、ムソウ殿の為、よく闘ってくれたわい」
ジゲンはそう言って、二人を見下ろした。特にリンネは、自分やシロウ、自警団、屋敷の者たち、たまをよくぞ守ってくれたと思っている。今はゆっくり休めと思いながら、優しく頭を撫でた。
ジゲンの言葉を聞き、感心したようにサネマサが頷き、口を開く。
「にしても、この嬢ちゃん、大したものだなあ。あのムソウに付き従うなんて……」
精霊人の村でのことを思い出しながら、サネマサは呟いた。自分と互角以上の強さを持つ男に従い、共に戦い、若いのによくやるなあと、信じられないという顔だ。
そんなサネマサに、ジゲンはフッと笑い、口を開く。
「それは強いじゃろう。何せ、お前の弟子だったのじゃからな」
ジゲンの言葉に、目を丸くするサネマサ。
「……へ? どういうことだ?」
「ツバキちゃんは武王會館出身の騎士じゃよ」
サネマサは再び、パッとツバキの顔を眺めた。目を見開き、動揺しているようだ。
そして、寝ているツバキの下でしゃがみ、手を取って、しばらく頭を下げた。
その後、ジゲンにゆっくりと口を開く。
「……ジロウ……二つほど……確認したいことがある」
「……何じゃ?」
先ほどの陽気な態度から一変し、真剣な眼差しのサネマサにジゲンは顔を向ける。
「……お前を呪い……シズや、コウシ達……俺達の……牙の旅団を殺させたのもアイツなんだよな?」
「……ああ」
「……そして……俺の弟子を傷つけたのも……あの野郎……なんだな?」
「ああ、そうじゃよ……」
ジゲンが頷くと、サネマサはギリッと歯を食いしばる。そして、体からゆらゆらと闘気を立ち上らせた。
サネマサはツバキの手を放し、ゆっくりと立ち上がり、ケリスを吹っ飛ばした方向へ顔を向ける。
ケリスは顔に手を当て、こちらを睨みながら、傷を癒している。サネマサは刀を抜きながら、ゆっくりと歩いていった。
「くそっ! くそっ! クソッ! 何故、ここに貴様らが居るのだッ!?
もう少しで“刀鬼”を亡き者に出来たのにッ! 余計な真似をしおってッ!!!」
ケリスは傷を癒し終えたのち、サネマサを強く睨み、喚き散らす。
そして、手をかざし魔法を発動させた。サネマサの周りにいくつもの魔法陣が浮かび、そこから、多くの魔物や、屋敷を襲っていた黒い戦士たちを先ほどよりも多く召喚する。
魔物の中には、オウガロードや、ワイバーンといった超級の魔物も数多くいる。ジゲンの横に居たジェシカはハッとし、手にしていた錫杖を魔物たちの方に構える。
しかし、サネマサはそんなことお構いなしに、ケリスの方に歩いていった。
錫杖を構え、サネマサの周りの魔物を攻撃しようとするジェシカ。だが、横に居たジゲンに止められた。
「何を!? このままでは――」
「いや……サネマサの好きにさせてやるのじゃ」
慌てるジェシカに、ジゲンは首を横に振って、再びサネマサの方に目を向ける。サネマサは、ここからでも分かるくらい、後姿でも分かるくらい、怒っていた……。
「ハハハッ! “武神”ともあろう者がこの程度の魔物の数に臆したか!? そのまま“刀鬼”と共に、死んでいった仲間達の元へと行くがいいッ!!!」
ケリスはそう言って、手をかざす。サネマサの周りに居た、100を超える魔物たちが一斉にサネマサに襲い掛かっていった。
「ッ!」
しかし、魔物たちが自分に触れる瞬間、サネマサは刀を持つ手を大きく開き、その場で回転する。
「獅子牙嵐ッッッ!!!」
その瞬間、巨大な竜巻がサネマサを中心として発生し、魔物たちを空へと吹き上げる。空中で身動きが取れない魔物たちに、サネマサの刀から、獅子の形をした気の塊が飛び出していき、爪や牙で魔物たちを切り裂いていく。
そして、サネマサが動きを止めると、竜巻は収まり、空からボトボトと大量の魔物の肉塊が落ちてきた。
「なっ!? だが、まだまだだッ!!!」
呆気にとられるケリスだったが、すぐに手をかざし、今度は魔石を高く掲げた。
魔石が黒く強く輝くと、サネマサに斬られた魔物たちの肉塊が動き出し始める。そして、バラバラになった死骸同士で再生し、異形のものへと形を変えていった。
それを遠目から見ていたジゲン。そして、刀を抜きながら、ツバキとリンネの前に立つ。
「……では、ジェシカ殿。先ほど伝えたように、動いてくれ」
「え、じ、ジロウさんはどうなさるのですか!?」
「決まっておるじゃろう……奥義・六道斬波ッッッ!!!」
ジゲンは刀を振り、六つの斬波をその異形のものへと放つ。巨大な斬波を受けたそれは、再び、バラバラの肉塊となっていった。
そして、ジゲンはサネマサの元へ駆け出す。
「儂はここでサネマサと共に、敵を食い止める! 屋敷の……皆のことは任せたぞッ!」
ジゲンは走りながら、ジェシカにそう言った。ジェシカは深く頷き、ツバキとリンネに転送魔法をかけて屋敷へと送った。
その後、立ち上がり、急いで、シロウ達の元へと向かう。
ジェシカの行動を確認したジゲンは、既に、再び蠢きだしている肉塊を切り裂き、残骸を飛び越えて、サネマサの横に立った。あれだけの技を放ったにも関わらず、サネマサは汗一つかかず、呆然とするケリスを睨んでいた。
「大丈夫かの? サネマサ」
「……ん、ああ……心配ない……つい、頭に血が上っちまった」
「無理もない。さっきまで儂もそうじゃった……じゃが、やはりケリスの力は未知数じゃ。ここからはかつてのように……共に戦おう」
ジゲンはそう言って、サネマサの胸を小突く。一瞬目を見開くサネマサだったが、フッと笑い、頷く。
「ああ。一緒に皆の仇……とってやろうぜ、ジロウ」
「うむ。では……行くぞッ!」
二人の周りではすでに百を超える魔物たち、更にはケリスが新たに召喚した黒い戦士や魔物たちの大群が囲んでいる。
しかし、二人は臆することなく、刀を握り、魔物の大群に向けて駆け出した。
“刀鬼”と“武神”……かつてこの地で最強の傭兵部隊の先頭に立ち、人々から畏れられていた男たちによる、真の弔い合戦が始まったのである……。
◇◇◇
その頃、クレナの上空――
……我は雷帝龍、名はカドル。長らく雷雲山にて壊蛇の戦いで負った傷を癒していたところ、一人の男により、突然九頭龍の核にされてしまった、駄龍である。
一部精神まで支配され、あと少しの所で、ここ、クレナ、更には人界そのものを襲うところであった。
だが、そんな時、勇敢にもたった一人で、九頭龍に挑み、我や、我と共に封じられていた魂を解放した男が居た。
男の名は、冒険者ムソウ。人族の男である。
だが、本当に人族なのか分からない。今でも、我ら龍族を生み出した神族のような姿となり、我と共に、空を飛んでいる。更に、九頭龍と闘った際などは、鬼族のような姿となり、冥界の波動を発していた。
今は、神族の姿ということもあり、天界の波動を発している。本当に人族なのか、はなはだ、疑問は尽きない。
この男は、自らのことを、異世界から来た者、つまり「迷い人」と言っていた。
我が昔出会い、共に戦ったエレナという少女と同じだ。だから、彼も何かしらの不思議な力を持つものと考えている。
ムソウ殿は、行方不明の仲間達を探す途上で、九頭龍に遭遇し、我らを解放したそうだ。なんでも、我を核とした九頭竜と合わせて、いくつかの強大な力を持つ何かがこの辺りに発生し、ここ人界に、大いなる災いとやらが起こっているとのことだった。
そんな災いの一つである九頭龍を、すぐに切ってしまえば良かったものを、核となっている我を救い出したいと言い、そして、それを実行した。
その心意気と、仲間を想う心に感服した我は、こうしてムソウ殿に付き従い、行動を共にしている。ついでに、ムソウ殿から発せられる天界の波動を受け、かつての力を取り戻している。
本当に、ムソウ殿は“規格外”な存在だ。九頭龍のみならず、デーモンロードや、リリスと言った強大な力を持つ魔物にも臆することなく、完勝するほどの強大な力を持っている。
しかし、それに驕ることは無く、ただただ仲間達のことを想って、行動し、今でも自分が残した、家族とやらの為に、住んでいる街へと戻っている。
先ほど我は、向かっている方向から、強大な雷が放たれた気配がし、それをムソウ殿に伝えた。我の話を聞いたムソウ殿は険しい顔つきになり、それまで以上に急いで、飛び続けている。
何があったのか、定かではない。だが、ムソウ殿の様子を見る限り、ただならぬ状況だということは分かっている。我も急ぎ、ムソウ殿の後を追って、飛び続けている。
我は、意識を集中すれば、このように、何か強大な力が使われた場合、クレナ領のみならば、感知することが出来る。先ほどと同じく、意識を集中させて、辺りの様子を伺いながら、今でも飛んでいる。
先ほど、強い雷の力が発せられた場所、つまり、我らの向かう先からは、ずっと、何か強大な力を感じている。
しかし、それに立ち向かうような力が、つい先ほどそこにたどり着いたことを確認した。恐らくはムソウ殿の仲間であろう。これならば、我らがつかずとも、何とかなりそうな感覚である。
だが、力は感じるが、実際はどうなっているのか分からない。ムソウ殿が急いで、帰られるように、我もそこに急いで向かった。
我と共に九頭龍に封じられていた小さな魂も、そこに向かっている気配がする。もう、間もなく到着しそうだ。何者かは分からないが、彼らはれっきとした味方だということが分かっている。
そして、彼らも死してなお、友と呼ぶべき存在を助けようとしている。我はその思いに応えるべく、魂に仮の肉体を与える力を持つ、自らの鱗を渡した。彼らなら、きっちりと自らの願いを果たすだろう。我はそう信じておる。
……だが……気になっている気配がある。我らと同じく、強く、大きな力がもう一つ……いや、三つほど、そこに向かっている。
人族で言うところの天災級の魔物の気配だ。これも、ムソウ殿の言うところの、人界の大いなる災いというものかと思ったのだが、それとは違うようだ。そこまでの禍々しさは感じられない。
一体何者だろうか。一応、敵意や悪意のようなものは感じられないので、ムソウ殿には伝えていない。
しかし、それよりも、我らの向かう先にある力の方が気になっている。
だが、未だ仲間が行方不明ということもあり、精神的にも疲労が溜まっているムソウ殿の為、我も余計なことは考えず、しっかりとムソウ殿に付き従おう。そして、必ず、救い出してくれた恩を返そう。
そう思い、更に飛び続けていく。
……しかし、我らの目指す先から伝わってくるこの力……波動……妙に懐かしい気配がする。
……懐かしい……嫌な気配だ……。
◇◇◇
場所は変わってトウショウの里、ムソウの屋敷前。
ケリスが召喚した並み居る魔物たちを倒していくジゲンとサネマサ。
昔に比べて体力が少ないジゲンは比較的多く居る、下級から上級までの魔物の相手をし、黒い戦士、超級の魔物はサネマサが相手をしている。だが、それぞれ別に戦うというわけではなく、近くでお互いの背中を護るように闘っている。
離れて闘うよりも、この方が強力な技を放つときに、巻き込まなくて済むし、何よりお互いの状況がすぐに分かる位置に居て、変わっていく戦況に、すぐに対応できるためである。
ジロウと、サネマサ、二人ならではの、昔からの戦い方だった。
ジゲンが、刀を振り六道斬波を放つ。刀身から六つの斬波が飛び出し、眼前に居たグレムリン、ゴブリンの群れを薙ぎ払った。
「相変わらず、器用なことをするなあ。未だに俺には、そんなことできねえよ!」
離れた所に居るワイバーンに十字斬波を放ち、落ちたところに、さらに巨大な斬波を放ち、周りに居たオウガ達を巻き込みながら、とどめを刺すサネマサ。
ジゲンはサネマサの言葉に笑った。
「練習すれば出来るじゃろう。シロウにも出来たのじゃから」
「へえ、あのガキも強くなったもんだな。それ、アイツが単に天才だからじゃねえのか?」
「じゃろうな」
「……親馬鹿め」
うんうんと頷くジゲンに、サネマサは呆れるように笑い、更に刀を振る。サネマサの刀から飛び出した斬波が、空へと上っていき、五月雨のように、振ってくる。地上にいた魔物たちは、上からの攻撃に対処できずに、ただただ切り刻まれ、蹂躙されていく。
「弟子というのは可愛いものじゃよ。……お前も同じじゃろ? さっきの、ツバキ殿から聞いたが、お前、弟子の前では虚勢を張って、ビシッとしておったらしいのお」
「虚勢って何だよ。大師範として、弟子の前では弱みを見せないし、心配させないというのは当然だ」
「ツバキ殿は、それが嫌だったらしいぞ。もう少し、自分を隠さず接してほしいと思っておったそうじゃ」
「ん゛ッ!? ……本当かよ……それ……」
今まで自分がやってきたことが、弟子にとっては嫌な思いをさせていたことを初めて知り、サネマサは顔色を悪くする。ジゲンはフッと微笑み、魔法で出来た無数の風の刃を辺りに散らしていく。ジゲンの魔法は、辺りに居た魔物たちを切り刻んでいった。
そして、ジゲンは刀を構え、フッと笑う。
「ツバキ殿が目を覚ましたら、きちんと誤解を解いておくのじゃよ」
「お、おう……」
サネマサは頷き、刀を掲げる。すると、サネマサが纏っていた赤い闘気が獅子の形になり、刀を振ると、巨大な獅子の形をした気が、魔物たちに向かって行く。そして、群れの奥に居たオウガロードにぶつかり、巨大な牙で、引き裂いた。
「……にしても、さっきから思っていたが、ジロウ、その喋り方……どうにかならねえのか?」
「む、気に入らんか? ムソウ殿は何も言わんが……」
「そりゃ、昔のお前を知らねえからだ。違和感がすげえ……」
サネマサが放った技を逃れ、かろうじて息のあった魔物たちに、ジゲンは刀に気を集中させて、前に突き出す。刃先から巨大な気の塊が飛び出し、その魔物たちにとどめを刺し、魔物の軍勢に風穴を開けた。
「そうは言ってものお……もう、これで慣れてしまったし、たまもいるからのお……」
「たまって?」
続いて、サネマサは、魔法で刀に炎を纏わせ、回転させた。すると、大きな竜巻が発生し、辺りの魔物たちを焼きながら、空へと吹き飛ばしていく。空に居たスカイグレムリンや、ワイアームなども、サネマサの攻撃に巻き込まれていった。
そして、空から、消し炭となった魔物たちの死骸が落ちてくると、サネマサは刀を払い、火を消した。
「ああ、儂の……今度は孫みたいなものじゃな……」
ジゲンは少しだけ、偶像術を使い、刀精の力を借りて、雷を落としていく。雷に当たった魔物たちは、その場で痺れ、膝をついた。間髪入れずに、ジゲンは斬波を放ち、魔物たちを倒していく。
「へえ……それが、お前の次の護るべき世代ってわけか……嫁も居ねえのに、すっかり大家族になってんな」
「ああ。そこに、ムソウ殿も来て、毎日が楽しいものじゃぞ?」
ジゲンは更に、手に気を溜め、手の中で練り合わせ、指先から糸のようにして放った。それらは魔物に絡みついていき、動きを封じる。そこへサネマサが連続で斬波を放ち、魔物にとどめを刺した。
「ムソウか……アイツは化けもんだろ? よくもまあ、一緒に生活できるな……」
「そこまで怖い人間では無いぞ。お優しい武人そのものじゃよ……昔の儂らに比べるとな」
「ハハハッ! ……まあ、そうだな。マシロでアイツに会った時、すぐに感じたよ。ああ、コイツ、実はいい奴なんじゃないかってな。実際話したら、本当に感じが良い奴で安心したもんだ」
「うむ。もう少し早く出会っておれば、儂らの仲間に入れたかったものじゃの」
「違えねえ……いや、そうしていたら、乗っ取られそうだな……」
「ほっほ!そうじゃの」
あらかた魔物たちを倒していくと、今度は黒い戦士たちが向かってくる。ジゲンとサネマサはニヤッと笑い、向かってきた戦士たちを直接切り伏せていく。
息を合わせた連携で、眼前に迫る敵を倒しつつ、お互いの隙を埋めるように、体を動かし、刀を躍らせ、黒い戦士たちを倒していく。
そして、互いに目配せをすると、ジゲンはサネマサの頭上に飛び、サネマサは刀の峰の部分にジゲンの足裏を合わせた。
「準備は良いぞ! サネマサ!」
「おうッ! かませ! ジロウッ!」
サネマサは刀を思いっきり振り、ジゲンを空高く打ち上げる。それを追って、黒い戦士たちも翼を広げて空を飛んだ。しかし、何体かはその場でサネマサに斬られる。
残った戦士たちが、空中で身動きが取れないジゲンに向けて刀を振り上げた。
だが、ジゲンは不敵に笑い、いつの間にか鞘に納めていた刀の柄を握る。
「遅いッ! 奥義・瞬華終刀・二式ッッッ!!!」
ジゲンはすさまじい勢いでその場で回転し、刀を抜き、誰にも目視できない速さで刀を振るい、黒い戦士たちを切り刻んでいく。
そして、刀を納刀し、地上へと降りていった。一瞬止まり、不思議そうに首を傾げる黒い戦士たち。直後、体中にジゲンが斬った切れ目が浮かび、音も無く塵となっていった。
ジゲンは、地面へと着地し、辺りを見渡して、残っている魔物の数を数える。残り少なくなっていることを確認すると、サネマサと目を合わせた。
「……さて、そろそろ良いか」
「ああ、取りあえずこいつらを……」
そう言って、二人は刀を掲げる。すると、二人と同じく、背を合わせるように、二人の刀精が現れる。
ジゲンの方はいつもの四本腕の鬼神、「死神鬼」を出現させる。
サネマサの方は巨大な甲冑を身に纏い、巨大な一本の刀を持った武神だった。兜を突き抜けるように頭には大きな角が二本生えている。
二つの刀精が放つ圧倒的な存在感に、呆然とする魔物たち。ジゲンとサネマサは魔物たちに向けて、刀を振り下ろす。
「終いじゃ。奥義・素戔嗚ッッッ!」
「くたばれ! 奥義・伊邪那岐ッッッ!!!」
サネマサが刀を振り下ろすと、サネマサの刀精が、巨大な刀を地面へと突き刺す。すると地面が盛り上がっていき、そこから溶岩が噴き出てきた。魔物たちは、地割れに呑まれたり、打ち上げられたり、溶岩に灼かれながら、死んでいく。
かろうじて生き残った者達も、ジゲンの刀精が放つ雷に打たれ、蹂躙されていった。
「……こんなもんか?」
「うむ、今のところはな。じゃが、どうせすぐに再生、もしくは新たに召喚するじゃろう。あの男のことじゃからな……」
あらかた魔物を倒せたジゲンとサネマサは、いったん偶像術を解いた。ジゲンの雷雲とサネマサの溶岩が消えていき、辺りには魔物の死骸と自分たち、さらに目を見開くケリスしか残っていなかった。
サネマサが使った魔道具。
以前、ミサキとムソウが話していたものです。
名称は「スマホ」です。
「スマートフォン」ではありません。「スマホ」です。
ミサキ曰く「スマートじゃないし(魔法陣を刻んだ魔石を使っているから、意外と重たいし、更にはある程度の魔法を使える者しか使えない)、フォンですらない(そもそも電話じゃない)けど、呼びやすいからこれで良いや~♪」
です。




