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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナの動乱を斬る
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第213話―仇敵現る―

 そこに居たのは、敵の総大将、神人の貴族、ケリス・ゴウン卿だった。ケリスは、肩で荒く息をしながら、シロウ達を睨む。


 上街で様子を伺っていたケリスは、バークたちが滅せられ、第二陣まで壊滅させられたことを確認すると、自らこの闘いに終止符を打つべく、ここに来たようだった。


 先の戦いで、体中ボロボロにも関わらず、突然現れたケリスに対し、シロウ達は、武器を構え、リンネは低く慟哭の声を鳴らす。


 ケリスは、シロウ達、特にジゲンを強く睨みながら、ゆっくりと口を開いた。


「よくも……我が計画を……ここまで……許さんぞオオオッッッ!貴様らあああッッッ!!!」


 ケリスは、自らを中心として、ありったけの魔力を辺りに解放する。衝撃波が発生し、シロウ達に迫った。すると、リンネが躍り出て、結界を張り、シロウ達を護る。


 衝撃波が収まると、リンネは結界を解き、ケリスに向かって、突っ込んでいく。


「クワアアアアンッッッ!!!」

「儂も続くぞッ! リンネちゃんッ!」


 先ほどのケリスの不意打ちから、持ち直したジゲンは刀を抜き、リンネに続いた。そして、二人は跳躍し、リンネは爪で、ジゲンは刀を振り上げ、ケリスに迫っていく。


 ケリスは慌てることなく、懐から異界の袋を取り出した。そして、不敵な笑みを浮かべ、向かってくるリンネとジゲンに口を開く。


「狐に……死にぞこないの爺い風情が……斬れるものなら斬ってみろッッッ!!!」


 ケリスは異界の袋に手を入れて、中からあるものを取り出し、ジゲンたちの前に出した。


「クウッ!?」

「むっ!?」


 ケリスが取り出したものを見て、ジゲンとリンネの攻撃がピタッと止まる。

 二人の動きが止まったことを確認したケリスは手に魔力を溜めて、放った。


「ぐはッッッ!!!」

「クワアアアッッッ!!!」


 ケリスの魔力弾をまともに浴びたリンネとジゲンは吹っ飛び、地面に激突する。

 そして、よろよろと立ち上がり、ケリスを睨んだ。


「貴様……どういうことじゃ……何故……」

「クウウウゥゥゥ……!!!!」


 ジゲンとリンネは、ケリスが異界の袋から取り出したものを凝視している。彼らの目には信じられないものが映っていた。


 それは、体中に打撲痕や、刀傷を負い、血を流している、ツバキだった。綺麗だった着物のあちこちが切り裂かれ、白い肌が見える。ムソウに結われた髪もほどけており、椿の簪は外れそうになっていた。

 かろうじて、死んではいないようだが、呼吸は弱い。意識も無いように見える。


 ケリスはツバキの長い髪を掴みながら、なおも、盾のように自身の正面に立たせ、弄びながら、ジゲンとリンネに邪悪な笑みを浮かべている。


「ククク……やはりこうすると、貴様らは我を襲えないよなあ?」

「黙れ! どういうことかと聞いておるのだッッッ!!!」


 ケリスの挑発的な態度に、ジゲンは激高。大切な仲間の一人を傷だらけにし、気絶させ、更には弄ぶという行為に流石のジゲンも我慢が出来なかった。


 それは横に居るリンネも同じ。常に共に居た、姉のような存在を傷つけられたという怒りに燃えている。

 二人からの強い殺気を受けても、ケリスは、嫌らしい笑みを崩さない。


「ククク……どういうことか、だと? 歴戦の強者である“刀鬼”殿なら、分かるだろう? 敵を無力化し、更には絶望させることの有意義さをな……」

「ふざけるなっ!」

「クワンッ!」


 ケリスの態度に、怒りが頂点へと達した二人は、再び駆け出す。だが、ケリスは余裕の態度で、再びツバキを二人に向けた。

 しかし、突如として、リンネの姿が消え、ケリスの目の前にはジゲンだけとなった。


 ケリスが一瞬驚いていると、背後から物音がする。振り返ると、獣人の姿となったリンネが周りに狐火を浮かべながら、こちらに向かってくる。

 リンネは飛び出た瞬間に、既に獣人の姿に変化し、あたかもジゲンの横に本体が居るように、ケリスを化かしていた。このまま挟み撃ちの形になれば、どちらかはケリスを攻撃でき、どちらかはツバキを倒せるものだと思っていた。


 だが、ケリスはニヤッと笑い、何も無い所から魔刀のようなものを取り出し、ツバキをリンネに向けて放った。


「……!」


 リンネはハッとし、狐火を収め、ツバキを受け止める。だが、二人の体格は大人と子供の差がある。抱えきれずに、その場に倒れるリンネ。

 しかし、ツバキを取り戻せたことには成功したと、必死にツバキにしがみつく。


 ケリスは、そのまま魔刀を振り、ジゲンの攻撃を防いだ。


「くっ、防がれたか。じゃが、これでツバキ殿は取り戻したも同然、後は貴様だけじゃっ!」


 刀を合わせながら、ジゲンは吠える。いかにバークたちとの闘いで疲弊していても、ケリスは敵ではない相手だ。ムソウから呪殺封の薬も貰い、呪いに対する耐性もある。

 いったん、シロウ達にツバキを安全なところまで移動させた後は、リンネと共にこのまま勝負を決めようとした。

 だが、ケリスはジゲンの言葉をあざ笑うように口を開く。


「……さて、それはどうかな?」


 ケリスは、刀を持っていない方の手を倒れているツバキとリンネに向ける。リンネはツバキに攻撃が当たらないようにと、ツバキの上に覆いかぶさるようにして、結界を発動させた。

 しかし、それは間違いだった。


「神術・魔封印!」

「……!」


 ケリスの手から光の玉が出現し、結界をすり抜け、リンネに当たる。すると、光の玉の表面に文字のような模様が浮かび、リンネを光で包み込んだ。

 すると、光の中でリンネの体が小さくなっていき、それが収まると、獣人の姿だったリンネは、本来の姿である、小さな獣の姿に戻る。

 そして、リンネの体には、先ほど光の球に浮かんでいた文字が刻まれた。


「キュウッ!? キュウゥゥゥ~~~……!!!」


 リンネは慌てて、結界を張ろうとする。しかし、いくら頑張っても、結界は現れない。ならば、攻撃して、先にケリスを倒そうと、狐火を出そうとする。

 ……だが、狐火も現れなかった。


「ククク……これで、狐の魔力は封じた。もはやこいつは役に立たんッ!」


 ケリスはリンネに更に魔法を放つ。


「キュアッッッ!!!」


 魔法はリンネとツバキに直撃し、離れた所へ吹っ飛ばす。全身に傷を負い、リンネはよろよろと立ち上がる仕草をするが、上手く立てないようで、そのまま地面に突っ伏す。


 リンネの様子を見たジゲンは目を見開いた。


「貴様……リンネちゃんに何をした!?」

「フッ……神族が使う封印術……やはり便利なものだな……」


 封印術。それは、解呪術と共に、神族、あるいは神人だけが使える技の一つだ。対象の力を封じたり、行動を抑制させる。

 ケリスが使ったのは、魔物の力を封じることが出来る、封印術の一種だ。発動が成功すれば、術を受けた魔物は一切の力が使えなくなる。

 リンネの闘う時の大きな姿や、獣人の姿になるのはリンネの持つ、「変化」という能力に過ぎない。能力である以上、封印術の効果は適用され小さな姿に戻り、結界も、狐火も封じられたというわけだ。


 呆気にとられるジゲンに、ケリスは不敵に笑う。


「では……先ほどの言葉を返そう。残るは貴様だけだ! “刀鬼”ッッッ!!!」


 ケリスはジゲンと合わせていた刀に魔力を込め、そこから大きな炎を噴出させる。そして、そのまま振り切った。


「ぐはっ!」


 羽織のおかげで、炎の熱による痛みは少ないが、魔法による衝撃が増えたことにより、ジロウはそのまま後方へと吹っ飛び、地面に倒れる。

 そして、力が入らず、そのまま地面からケリスを睨んだ。


「親父ッ! 今行くぞッッッ!」


 ふと、屋敷の前で控えていたシロウ達が、ジゲンの加勢に加わろうとする。


 すると、ケリスはシロウ達に目を向け、空へと飛んだ。


「ふむ……まだ雑魚が残っていたか……貴様らにはこいつ等の相手をしてもらおうっ!!!」


 そう言って、ケリスは異界の袋から大量の何かを取り出す。地面にボトボトと落ちていくそれは、何かの肉片のようなものだった。

 ジゲンは目を見開き、驚いた。


「それは……魔物の死骸か!?」


 ケリスが取り出した肉片、よく見ると毛でおおわれたものや、固そうな分厚い外殻で覆われたものなどさまざまある。そればかりか、ワイアーム、グレムリン、オウガ、ゴブリンと言った、そのままの姿の死骸もみえた。どうやら全て魔物の死骸のようである。


 そして、ケリスは翼を大きく広げ、自らの羽を魔物の死骸に降らせた。死骸に舞い降りていく羽は、溶け込むように、スーッと消えていく。

 更にケリスは、懐から、先ほどジゲンが倒した女が持っていたような黒い魔石を取り出す。


「少しもったいないが……まあ、良いだろう」


 そう言って、魔石に魔力を込めた。魔石は、ケリスの魔力を受け、怪しく黒く輝きだす。

 すると、魔石から無数の光が飛び出してきた。100、200……いや、それ以上だ。1000はくだらない数の光は、辺りにふよふよと漂い始める。


「さて……次は……」


 ケリスは手を合わせ、強く念じた。これから何が起こるのか分からないが、絶対に止めた方が良いと思ったジゲンは、シロウ達に指示を出す。


「シロウッ! ケリスの動きを封じるのじゃ! あ奴の思い通りにさせるでない!」

「りょ、了解だ! ウオオオオオッッッ!!!」


 シロウはジゲンの言葉に慌てて頷き、体中に気を纏って、先ほどの龍の形を形成する。ナズナ、バークたちと続いて、今日三回目だ。恐らくこれが最後だろうと思ったが、そうも言ってられない状況だ。

 身体能力が強化されたシロウは、そのまま飛び出し、ケリスに向かって行く。

 しかし、シロウが到達する前に、ケリスはカッと目を開き、手を前に出した。


「もう遅いッ! 神術・魂結呪ッッッ! 奥義・神兵召喚ッッッ!!!」


 ケリスの言葉に呼応するように、突如、死骸の中から黒いもやのようなものが線状になって、飛び出してくる。それらは、辺りを浮かんでいた光の一つ一つに纏わりつくと、死骸に引きずり込むように、引っ込んでいった。

 すると、黒い柱のようなものが、空から降り注ぎ、死骸を包んでいく。それに驚いたシロウは止まり、ジゲンと共に、呆気にとられた。


「な……何が……!」

「一体……何が……起きているのじゃ……!」


 あまりの光景に言葉も出ない二人の前で、魔物の死骸に変化が起こる。


 突如、死骸同士がずるずると動き始め、一つの大きな肉塊へと固まっていく。そして、その中から、まるで肉団子のように次々と肉の塊が飛び出してきた。


 それはケリスの周りへと集まり、ぐにょぐにょと形を変えていく。段々と人型の形になり、背には黒い翼を生やし、全身を黒い鎧で覆い始めていき、手には長い剣のようなものが形成された。

 そして、頭全体を覆う兜の隙間から、二つの赤い輝きが見え、シロウ、ジゲン、ジロウ一家の者たちは冷や汗をかく。

 肉塊は最終的に、一人の戦士のような何かを次々に生み出し、その数は1000を優に越えていた。

 そして、黒い光の中から最後の一人が生み出されたことを確認すると、ケリスはゆっくりと口を開く。


「大量の魔物の死骸と魂たちを生贄に召喚した我がしもべたちよ……あの者共を滅ぼすのだッッッ!!!」


 ケリスの合図と共に、黒い戦士たちは、翼をはためかせ、ジゲンたちを襲っていく。ジロウ一家の者達や、シロウは慌てて武器を構え、応戦する。しかし……


「なっ!? こ、こいつら……」

「強いッ!」


 黒い戦士たちの攻撃を受け、反撃しようとすると、他の戦士たちに邪魔され、攻撃が無効に届かない。そればかりか、当たったとしても、纏っている鎧には一つの傷もつかないみたいだ。

 更に時には強力な魔法なども放ってきて、ただでさえ少ないジロウ一家の者たちは散り散りになり、苦戦しだす。


 シロウは気を溜めて闘い、何とか勝てているようだ。しかし、その戦士たちも、バークと同じく、斬ったそばから再生してキリがない。

 ジゲンは戦士たちが迫ると同時に、気合を入れて立ち上がる。そして、目の前に来ていた数十体の戦士たちに、六道斬波を浴びせ、消滅させたりしていた。

 だが、体力が段々と無くなっていくのを感じ、息も荒くなってくる。


 そして、この隙にリンネとツバキが再びケリスの元へと戻った。最後まで抵抗していたリンネだったが、ケリスが何らかの魔法を使うと共に、その場で意識を失った。


「ッ!? リンネちゃんッ!」

「この者たちは……冒険者ムソウへの土産としてやろうか……」


 ケリスは、ツバキとリンネを抱え、嫌らしく笑った。それを見たジゲンの怒りは頂点に達する。


「貴様ああああッッッ!!!」


 ジゲンは戦士たちの軍勢を押しのけ、ケリスへと迫っていく。だが、周りから戦士たちに群がれ、更には魔法を放たれ、なかなか思うように進めなかった。ギリッと歯ぎしりをしながら、ジゲンはケリスに吠える。


「何故じゃ!何故、貴様は平然とそんなことが出来る!? 何故、儂を操り、シズたちを……コウシ達を……皆を殺させた!? 答えろ! ケリスッッッ!!!」


 ケリスのやり方は、相手を呪って信頼する者同士で争わせたり、こうやって人質を突き付け、相手の動きを抑えたりと、人の精神に揺さぶりをかけてくる手段が多い。

 戦略上そういう手段をとるということは頭では分かっているジゲンも、あまりの卑劣さに激怒した。

 そして、この二十年もの間、溜めていた怒りをケリスにぶつける。


 しかし、ケリスはジゲンの言葉に嗤って答えた。


「何故だと? 知れたこと! 我が貴様らのそうやって、悩み、嘆き、悲観して殺し合うのを見たいだけだ!

 それに、我が計画で最も邪魔だった牙の旅団。貴様らは確かに強かった。危険を冒さずに、あの者達を倒すには、同じく牙の旅団の者を呪った方が手っ取り早いであろう!

 貴様の苦悶に満ち、かつての仲間達を斬り捨てていくあの顔、全く以って愉快だったわッッッ!!!」

「ッ!!!」


 ケリスの言葉に、激怒したジゲンは、残っていた僅かな魔力を使い、風魔法を使って、空へと飛ぶ。

 そして、周りの戦士たちを切り伏せながら、ケリスに突っ込んでいった。


 自分を呪い、仲間達を殺させたケリス。その理由はただ、自分が満足するため。そんなことの為に、自分を利用したということがジゲンにとっては我慢ならない。

 そのままケリスに近づいていき、刀を振りかぶる。


 しかし、ケリスはニヤッと笑い、抱えているツバキとリンネの二人をジゲンの前に出した。

 その瞬間、ジゲンの動きはピタッと止まり、ケリスの目の前で、刀が止まる。


「クッ!!!」

「そうだ! その顔だ! 今度も貴様は何も守れずただただ絶望しながら眠るがいい!“刀鬼”ッッッ!!!」


 高笑いするケリスの背後から二体の戦士がとびだし、刀を交差させて、ジゲンを斬りつける。


「ガハッ!!!」


 動揺していたジゲンは、防御が間に合わず、そのまま二振りの攻撃をその身に受けてしまう。そして、ジゲンの魔法は解除され、地面へと落ちていった。


 だが、ジゲンはそのまま刀を杖にして、立ち上がり、ケリスを睨んだ。胴に受けた×状の傷から、血がぽたぽたと落ちている。


「ほう……まだやる気か……」


 ケリスはジゲンを見下ろしながら更に嗤う。ジゲンは、肩で息をしながら、口を開く。


「……貴様を……斬るまで……亡き友たちの……無念を晴らすまで……儂は……()()……死なん……そして……再び……護ると決めたものを……護り切るまで……死ぬわけには……いかん」


 息も絶え絶えに、ジゲンは刀をケリスに向けようとした。


 しかし、そこで力が抜け、再びジゲンは地面に突っ伏す形になる。


「ククク……そんな状態で、護るものを護り切るだと? よく周りを見てみるんだな。貴様は……いや、貴様らはもう何も護ることなど出来ない」


 ふと、周りを見ると、シロウやジロウ一家の者たちが敵の戦士たちの足元で倒れているのが見え、ジゲンは目を見開く。どうやら、敵の戦士たちにやられたらしい。

 だが、息はあるようだということを確認した、ジゲンはこんな状況の中だったが、少し安堵した。


 しかし、皆がもう起き上がってこないということを確認した黒い戦士たちはゆっくりと屋敷に向けて歩き出していく。


「もうじき、我が神兵達が、屋敷を襲う。“魔法帝”の結界も時間の問題だろうな……そして、屋敷に居る者達全員を血祭りに上げよう……」

「させん……絶対にさせん……そして、例え()が死んでも……必ず……ムソウ殿たちが……」


 ジゲンは倒れながらも、もう一度立ち上がり、ムソウや、他の闘鬼神の皆が帰りさえすれば、ケリスを滅ぼし、たまたちを護り切れると信じていた。それは自分が死んだとしても、たまの命は守りたいという思いから生まれた考えだった。

 きっと、必ずムソウが多くの仲間達を連れて帰ると信じていた。

 しかし、更にケリスはジゲンの言葉に嗤い、口を開く。


「ククク……まだ、そんなことを言っているのか。冒険者ムソウの部隊……闘鬼神と言ったか? 私が直接呪った者達はまだしも、それ以外の者達は、今頃全員、死んでいるだろう」

「何……じゃと……?」


 ケリスの言葉に、ジゲンが目を見開き、驚いていると、ケリスは更に続けた。


「ここに来た冒険者達、数が少ないと思わなかったのか?

 他の者たちは、雷雲山や樹海に向かい、闘鬼神の者達を確実にしとめてくるようにと指示しておいた。後で戻ってきては面倒だからな……」


 ジゲンは、確かに先ほどの戦いで、冒険者の数が少ないと感じていた。

 だが、そんな作戦をとっているとはみじんも思っては居なかった。突然のケリスの言葉に、激しく動揺し、言葉を失う。


「たとえ、ムソウが帰ったとして、闘鬼神の者達、更にはここに居る者達が死んだことを知れば、絶望するだろう……。

 更にこちらにはこの女と狐も居る。そうなれば、絶望し、空になったムソウの心を操るなど造作もない……貴様の読みは外れだ……今度こそ、おとなしく……死ね……“刀鬼”……」


 ケリスは魔刀を振り上げ、ジゲンに近づいていく。

 ジゲンの目には倒れているシロウ達、ジロウ一家の者達、屋敷に張られた結界に攻撃を始めている神兵達が映る。あの中ではたまや女中たちが怯えているのだろうと思い、即座に立ち上がろうとした。


 しかし、既にその力は残っていない。


 自分に近づいてくるケリスに目を向けた。邪悪な笑みを浮かべるケリスに抱えられているツバキとリンネに目を向ける。


「……すまぬ……ムソウ殿……皆……たま……」


 段々と力が抜けていき、ジゲンはゆっくりと目を閉じた。


 頭の中に、笑っているムソウを囲む闘鬼神とたまの楽しそうな光景が浮かぶ。それが消えると、自分を囲む幼いシロウ、ショウブ、ナズナ、若かったときのジロウ一家の者たちが浮かぶ。


 そして最後に……まだ幼いアヤメを、自分と一緒に弄り回す牙の旅団の者達の姿が浮かんだ。


 ジゲンの目からは更に涙があふれ、頬を伝った。


 結局、誰も護ることなど出来ず、無念を晴らすことも出来ず……。

 最後は、自らの復讐に、新たに出来た友を巻き込んだにも関わらず、その全てを奪い……。


 ジゲンは目を閉じて、ただただ悔やみ、泣いていた……。






 ズドオオオオオオオオンッッッ!!!


「何だッッッ!?」

「……ッ!」


 突如発生した大きな音に、ケリスの動きが止まり、ジゲンはハッとして目を開ける。

 音がしたのは屋敷からだった。この間に、もう神兵達が、結界を越えて攻撃したのかと思い、屋敷に視線を移した。


 だが、ジゲンの考えは違っていた。屋敷の前まで来ていた神兵達が、謎の爆発と共に、何かの攻撃を受けて空へと吹っ飛ばされている。


 そして、それはジロウ一家の者達やシロウの周りを囲んでいた神兵達を吹き飛ばしながら、こちらに近づいてきた。ケリスはハッとし、魔刀をそれに向けて構えようとする。


 しかし、間に合わずケリスの顔に、何か強い衝撃が襲ってきた。


「ガハッッッ!!!???」


 鼻血を吹き出しながら、吹っ飛ぶケリス。反動で、ツバキとリンネが、ケリスから離れた。

 そして、ケリスを襲ったそれは、ツバキとリンネを受け止め、大事そうに抱える。


「よっ……と……」


 二人を抱えたのは、一人の男だった。二本の刀を腰に差し、袴の上には佩楯、脛には脛当てを付け、武人のような姿がジゲンから見えた。


 そして、その男は赤い羽織を身に纏っている。袖なしのもので、動きやすそうな軽装だ。男は羽織についている頭巾をかぶり、ジゲンからその顔まではうかがえなかった。

 しかし、羽織に描かれていた紋章を見て、ジゲンはハッとする。


「お……お前……は……」


 そこに描かれていたのは、ジゲンが着ている羽織にも描かれている、交差させた二本の刀を挟むように、向かい合う獅子が居るという、「牙の旅団」の紋章だ。


 言葉を失うジゲンの方に振り返り、男は顔を覆っていた頭巾をとり、ジゲンに白い歯を見せてニカっと笑う。


「久しぶりだな、親友! 助けに来たぜッ!!!」

「サネ……マサ……」


 そこにいたのは、かつてジゲンと共に、ここクレナで育ち、共に戦い、共に笑い、共に泣いた、生涯の親友。十二星天“武神”サネマサ・タケダの姿だった。


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