第210話―領境を探索する―
クレナの樹海を飛び立ち、しばらくすると、チャブラとの領境である山岳地帯が見えてきた。ここでは一体何が起こるのだろうかと思っていると、山の周辺から剣戟の音が聞こえてくる。
何かと何かが争っているようだ。時折、雄たけびのようなものも聞こえて、さながらそこは合戦をしている雰囲気だ。
もしかしたら、闘鬼神の奴らが残っているのかも知れない。そう感じた俺はひとまずカドルを上空に待機させ、音がより多くする方向へ向けて降りていく。
しかし、そこに居たのは、闘鬼神の皆では無かった。冒険者の腕輪を付けた多くの男女が戦闘を行っているという光景だ。
彼らの相手は、山賊風の格好をしたごろつき共、そして、ワイアームや、ゴブリンなどの下級の魔物たちだった。
魔物と手を組んだのか、使役しているのかは定かではないが、数が多いということもあり、冒険者の方が劣勢だと感じる。
だが、俺は冒険者たちの姿を見て、ハッとした。闘っていたのが、以前俺と共にシンムの里でスライムを殲滅したツルギ達、更に、冒険者たちの先頭に立ち、指揮を執りながら大きな十字の槍をふるっている男がチャブラのギルド支部、支部長レックスということに気付く。
レックスは大きな刀を持つ山賊の長のような男と、オウガ二人を相手取り、必死な形相で槍をふるっていた。
知り合いが戦っているということで、俺はそのまま両者の間に割って入った。
「レックス! ツルギ! 何が起こっている!?」
「アンタは……ムソウのおっさんか!」
「何故ここに居るのだ!?」
俺の姿を確認したレックスとツルギは手を止めて驚いているようだ。すると、俺めがけて山賊の長の男が突っかかってくる。
「何だ、テメエは! 邪魔をするなあああッッッ!!!」
「やかましいッ!」
大きな刀での一撃を躱し、男の腹を蹴飛ばした。短い悲鳴を上げた山賊の長はそのまま吹っ飛び、その先にあった大木にぶつかり気絶する。
そして、今度はそばに居たオウガが吠え、俺に襲い掛かってくる。すると、レックスが飛び出し、オウガの眉間を一突き、俺が腹の辺りを横に一文字に斬ると、オウガの胴体は二つに分かれ、その場に倒れた。
続いて、近くにいたツルギやレミナが、仲間たちと共に、対峙しているワイアームや山賊どもをレックスと一蹴する。敵が倒されたことを確認すると、ツルギは深く息を吐き、レミナはその場に座り込んだ。
「はあ~……取りあえずはひと段落か……」
「疲れましたあ~……」
レミナはそう言いながらもツルギ達の傷を回復魔法で癒しだす。一息ついたようで、安堵の表情を浮かべるツルギは、レックスと共に、俺のそばに近寄ってきた。
「まさかここでオッサンと出会うとはな。助かったよ」
「しかし、なぜここに居るんだ? もしかして、既にクレナの方に連絡が行ったのか?」
「連絡? 何のことだ?」
レックスの言葉に、きょとんとすると、レックスも、俺の様子にきょとんとして、違うのか、と呟く。何のことか分からなかったから、俺は一応、レックス達に俺がここに来た事情を説明した。レックスは、俺の話を聞いて、大層驚いているようだった。
「そんなことが……それは心配だろうな……」
「ああ。だからここに来たのは偶然と言っても良いだろう。
……で、ここは今、何が起きているんだ?」
周りからは依然闘いの音が聞こえている。この状況は早いところ片付けておかなくてはならない。そう思っていると、レックスとツルギは語り始める。
なんでも、チャブラ内で最近になって、領主への鬱憤が溜まった領民たちが各地で暴動のような騒ぎを起こす事件が多発していたらしい。騎士団やギルドはそれの鎮圧をしていくが、なかなか数が減らなかった。
ああ、そういや、チャブラは一見平和そうに見えて、そういうことも起こりうるという何とも微妙な領土だったな。前に俺が来たときも、グレンと共に、見栄を張らせたい領主に壊蛇の素材を持っていくって内容だったもんな。
そして、その依頼をしてきたのは、領主の側近たちだった。どちらかといえば、領主よりも内政が上手く、騎士団やギルドとも連携して、チャブラをしっかりと治めていたという話だったな。
しかし、レックスによれば、一か月ほど前にその側近たちが突然姿をくらましたらしい。そうなると、領主だけでは統治がおぼつかなくなり、冬を越す前に、色々なところで問題が生じ始めた。物流の停止や、ギルドの依頼の激減などの問題により、元々内政に不満を募らせていた領民たちの怒りはついに爆発。
皆剣をとり、各地で火事、窃盗、殺人などの各地の暴動にまで発展したという。
これを重く見たギルドと騎士団は、領主を罷免しようと動き出す。頭をすげ替え、新たに領主となる者を選びなおすという行動を始める。
しかし、時すでに遅し。今度はチャブラの領主までも家族と財を持ち、行方を眩ませたという。
こうなってしまうと、もう暴動は止まらない。今や、チャブラはそれぞれの領民同士で、争い、モノや命を奪い合っているという状況になっているらしい。
ギルドと騎士団はすぐさま、このことを王都に報告。そして、王都から応援、さらには仮の統治者が来るまで、各地の暴動を収め、一般の領民たちの安全を守るために奔走している。
それで、ここで起こっている闘いは、領境の森……俺が迷彩トカゲを倒した森に、新たに山賊の一団が居て、各地の暴動に武器や人間を売りさばき、更には魔物たちを使役して、傭兵のようなことも行い、暴動を煽っているという情報が入った。
そこでレックスはその山賊たちを殲滅しようと、近くにいた多くの冒険者たちを率いて、自ら出陣。
その後、ここまで山賊を追い詰めたというのが、ことの顛末である。
「そんなことがあったんだな……クレナでは何も聞かなかったが……」
チャブラでそれほどのことが起こっていたというのに、俺は何も知らなかった。アヤメも特に何も言っていなかったし、この話はここで初めて知っただけに少々戸惑ってしまう。
だが、レックスによれば、近隣の領に余計な不安をさせないために、黙っていたとのことだ。確かにそれも必要なことだよなと思っていたが、レックスはそれがまずかったのかも知れないと呟く。
「もう少し早かったら、それこそ近くの冒険者を集め、より多くの者達を散会させ、各地の暴動を一気に止めることが出来たからな。主だった冒険者の多くはクレナに居ることだし……」
ああ、なるほど。現在近隣の名のある多くの冒険者たちは、ケリスによってクレナに集まっている。それにより、チャブラでも冒険者の不足が発生していたというわけか。
俺に挑み、倒された奴らでも、冒険者は冒険者だ。居るのと居ないのとでは話が変わってくる。レックスも、領主の側近が居なくなった時点で、広く公表するべきだったと苦々しく呟いた。
「で、俺達は偶々その時、チャブラに居た冒険者の一人ってやつでな。
腕を磨きながら、依頼をこなしているところに、レックス支部長に頼まれてここに来たってわけだ」
と言って、ツルギは自らの胸を叩く。ツルギ達は主に、最近はこの辺りで活動しているそうだ。古龍ワイバーンが倒され、ここらにはそこまで強い魔物というのは居ないからな。時にはチャブラに行って、採集依頼をこなしたりと領境付近を駆け回っているらしい。
そして、ちょうどチャブラに居た頃に今回の騒動に巻き込まれ、以来、チャブラ各地の暴動を鎮圧したり、増えていく山賊を倒しながら、傷ついた領民たちを癒すということを続けているという。
若いのに大したものだな~と思っていると、ツルギは更に口を開く。
「あ、ちなみにここには、フゲンや、フジミといった、オッサンとスライムを殲滅した奴らも集まってるぞ」
「へえ……それは何とも奇縁だな」
アイツ等も居るんだと思いながら、未だ闘いの音が聞こえている方向に顔を向けると、レミナが首を横に振って、ニコッと笑った。
「奇縁じゃないですよ。私達、時々“ムソウ一派”と名乗りながら、一緒に戦ったりするんです」
「……あ? 何だって?」
レミナが放った言葉に驚く。
ツルギ達によれば、シンムの里でスライムを共に殲滅し、その報酬を分け合ったことと、コモンを紹介し、天宝館でコモンに武具を作ってもらうことになったという俺への恩から、共通の思いを持った絆のような者が芽生え、それぞれの部隊を纏め、新たに冒険者集団「ムソウ一派」を結成したという。
最近は連絡を取り合い、自分たちだけでは倒せそうになかったり、こなせそうになかったりする依頼には、他の部隊と共に依頼をこなし、報酬を分け合い、腕を競い合っているという。
今回もいったんチャブラに、全員でやってきて、レックスの要請に応じているとのことだ。
クレナで冒険者不足などの、問題に頭を抱えていただけに、この話はとても良いものだと感じていたが、部隊名が気になる……。
「なんで、勝手に俺の名前使ってるんだよ」
「え~、良いじゃねえか。俺達が知る一番強い奴の名前だから縁起が良いし……」
「そうですよ。皆で名前を決めるときに、それにしようって、全会一致だったのですから!」
ツルギとレミナたちは目を輝かせて、俺の顔を見てくる。なるほど、恥ずかしい。ただまあ、悪いことに俺の名を使っているわけではないので、俺は渋々分かったと頷いた。
そして、一息ついた後に、レックスが手を叩いた。俺達はレックスの方に振り向く。
「……ではそろそろ戦闘を再開させる。ツルギ達は苦戦している部隊が居れば、救援を頼むぞ」
「了解! っと、レミナ、あまり無理すんなよ。回復役は重要なんだからな」
「分かってます!」
「よし。それで、ムソウ、急いでるのは分かるんだが……」
「ああ、良いぜ。俺もここで用事があるからな。その用事を済ませるためにも、お前たちに協力する」
「助かる」
「あ、その前に、紹介したい奴が居る……カドル~! 降りてこい!」
闘いに入る前に、コイツも戦力をと思い、上空に待機させていたカドルを呼んだ。
すると、俺達の頭上からゆっくりとカドルが降りてくる。
ぽかんと口を大きく開けるレックス達の前でカドルは地面に降り、俺の前まで近づいた。
「どうした? ムソウ殿」
「ああ。ここで起こっている闘いを止める。冒険者たちの相手をしている魔物や山賊を殲滅ってことなんだが、いけるか?」
「それは容易いことだ。任せてもらおう……」
カドルは俺の言葉に頷く。すると、恐る恐るという感じに、レックスが俺の肩に手を置いた。
「む、ムソウ……こいつ……いや、こちらの龍族は……?」
「ああ。雷帝龍のカドルだ。頼りになるぞ」
質問に答えると、レックスやツルギ達はカドルを見ながら汗をかきだす。やはり、天災級以上の、それも神話の頃から生きているという龍族をいきなり見るということに関して、かなり驚いているようだ。
本当に信用して良いのかという戸惑いの様子が、表情からうかがわれる。
すると、カドルは、頷き、ゆっくりとレックスの前に近づいていった。流石の支部長もその場から動けないようで、レックスは硬直したまま、カドルを見ている。
「ふむ……そんなに怯えないでくれ。確かに我らはお主らで言うところの天災級の魔物と何ら変わりはない存在だ。
しかし、我は今、ムソウ殿の味方をしている。そして、お前たちもムソウ殿の仲間のようだ。決して危害を加えようとは思っておらん」
そう言って、カドルはレックス達に頭を下げる。強大な力をもつ純粋な龍族が、人族に頭を下げることなどめったに無いはずだ。そんなカドルの行動にレックス達はますます驚き、困惑している様子だった。
だが、沈黙を破るように、レミナがおずおずと口を開く。
「あ、あの……雷帝龍様……いえ、カドル様……?」
「ん? 何だ、娘よ……」
「あの……お体に……触れても……よろしいでしょうか?」
レミナは少し顔を赤らめながら、カドルに尋ねた。違った意味で、きょとんとし、レミナの顔を見るレックスやツルギ達。ツルギに関しては、レミナの横で、やめとけと首を横に振っている。
すると、カドルが口を開き大笑いした。
「ハッハッハッハ! なるほど! 人族というのは、雌の方が雄よりも気骨が太いとみえる! エレナといい、なかなか見どころのある娘だ!」
そう言って、カドルは笑い続けた。ぽかんとするレックス達の前で、ひとしきり笑い終えたカドルは、レミナの方に振り向く。
「触れたいのならいくらでも触れるが良い。だが、それはこの闘いが終わった後だ。
……良いな?」
「は、はい! ありがとうございます!」
レミナはカドルの言葉に大層喜び、頭を下げた。すると、安心したのか、驚いたのか、ツルギ達も、カドルの前に飛び出してくる。
「あ! 俺も俺も! 良いっすか!?」
「無論だ。特に害があるということでもないから、それくらいは構わんよ」
「よしっ! 龍族に触れるなんて、なかなかできねえから最高だ!」
「あ、私も!」
「お、俺も!」
我も我もとツルギ達はカドルに群がり、触らせてくれと頼んでいる。その度カドルは満足そうに、皆の言葉に頷いていた。
すると、最後にレックスもカドルの方に近づいていく。レックスは何か言いづらそうに、口を開いた。
「……俺、いや、私も……よろしいでしょうか……?」
最終的に、カドルはレックスにも頷いた。いい歳をしたオッサンが、まるで子供のように龍族を触りたいという光景を見て、俺は何となく可笑しい気持ちになってくる。
きょとんとするツルギ達の見えないところで、レックスは拳を作り、喜んでいた。
「……さて、人間たちよ。そろそろ行こうか」
「ハイッ!」
「オウッ!」
「では、カドルはツルギ達を頼む。俺は単独で、他の者たちの救援に向かおう」
「うむ。気をつけてな、ムソウ殿」
カドルの言葉に頷き、俺達はいったん分かれた。
俺は更に剣戟の音が響く場所へと向かい、「ムソウ一派」の救援を始めていく。
最初に目についたのは、フジミ達だ。後方からフジミが指揮を執りながら、気で攻撃している。前衛は四人といったところか。やはり相手は山賊と魔物が混じり、数が多いようだ。
すると、前だけを見ていたフジミの背後から魔物が奇襲をかけるのが見えた。フジミはハッとし、後ろへ振り返り、対応しようとする。が、間に合わない。
俺は素早く飛び出し、フジミを襲おうとしたグレムリンたちを斬り捨てた。
「無事か!」
「な……ムソウさん!? どうしてここに!?」
「説明は後だ! 取りあえず今は加勢に加わる!」
「りょ、了解! じゃあ、ムソウさんは前衛に加わって!」
「分かった。だが、先ほどのようなこともある。お前も気を付けろよ!」
俺はフジミの率いる前衛に加わり、眼前の魔物や山賊を殲滅していく。といっても、フジミによれば、山賊は出来るだけ殺さないことを言われた。
元は不満を募らせた領民ということもあり、労働などで罪を償わせた後は、再びチャブラに住むことを許すということらしい。
魔物は倒し、山賊は生かす。なんとも戦いにくいが、そういうことなら仕方ないと、大規模な攻撃範囲をもつ技の使用はやめて、無間を収める。
そして、敵全体に向けて強めに殺気を飛ばした。
―死神の鬼迫―
「う゛……!」
「ガッ……!?」
俺の殺気を受けた山賊たちは口から泡を吹き、そのまま気絶していった。
そして、残った魔物たちに向けて、光霊波を放つ。天界の波動に当てられた魔物たちはそのまま消滅した。
「……あ、素材を残さなかったが、大丈夫だったか?」
敵が居なくなったことを確認し、一息ついているフジミに尋ねる。すると、苦笑いしながら、近づいてきた。
「ムソウさんが来た瞬間にそれは諦めたから……」
「す、すまない……こちらも少し急いでいてな……」
「冗談よ。今はそんなこと言ってられないものね」
頭を下げる俺に、ニコッと笑うフジミ。今回は俺の方も時間が無いので仕方ないと思い、許してくれたフジミに再度頭を下げた。
そして、取りあえずフジミ達に、ここへ来た事情を説明し、レックス達からも事情を聞いて、今は山賊たちの殲滅を手伝っているということを伝えた。
すると、フジミは森の奥を指さし、その辺りで、今度はフゲンたちが主に多くの魔物を相手取って闘っているとの情報を聞いた。
俺は頷き、フジミの差した方向に向かい、フジミはツルギ達の救援へと向かった。
森を進んでいくと、少し開けた場所に着く。そこでは多くの魔物をフゲンとその仲間たちが相手取り、主にフゲンが大きな斧を振り回し、魔物たちを薙ぎ払っていた。
だが、いかんせん魔物の数も多く、フゲンは時折、肩で息をしている。仲間達もそんなフゲンに身体能力向上の魔法だったり、回復魔法を使ったりして、フゲンを強化させたり、フゲンに魔物が近づかないように魔法や気を撃ったりしている。
あいつの部隊って、あいつ一人が前衛で、後は後衛なんだな。なんとも均衡がとれていないというか、危なげな部隊だな。
まあ、一応は、フゲン一人で何とかなっているようだが、やはり乱戦となるとフゲン一人では厳しいか。
俺は飛び出し、フゲンの周りにいた敵を一掃する。
「加勢に来たぞ! フゲン!」
「むぅ!? ムソウ殿か!?」
「ああ! 細かい話は後だ! 取りあえず魔物を一掃するぞ!」
「う、うむ!」
俺はフゲンの背後に回り、俺達は背中合わせになって、近づいてくる魔物を倒していく。地面に居る奴は問題ないが、時折空から襲ってくるワイアームや、スカイグレムリンなども居る。
そいつらにはフゲンの仲間が対応し、撃ち損じた奴らは、俺が下から光極波を放ち、消し去っていく。
と、そこで気付いた。周りは下級の魔物ばかりだ。これは、俺が天界の波動を辺りに放出すれば、少なくとも敵方の戦力は一気に落ちるのではないか?
俺はそう思い、掌に気を集めていく。そして、ある程度溜まったら、そのまま空中へと向かい、気を拡散させるように、ここら一帯に放った。
「光霊波ッッッ!!!」
俺が放った天界の波動は、近くの森全体を包み込み、下を見てみると、フゲンを襲っていた魔物たちは消滅していた。やはり、素材は残らないか。
悪いなとは思いつつも、先ほどフジミと話したように、今は山賊たちを殲滅するのが先だ。長の男も先ほど倒した。魔物たちが居なくなれば、圧倒的に楽になる。
そして、後で何か言われても、俺が頭を下げ、その分の金を支払おうと思い、俺はなおも、天界の波動を放出していく。
……ん? 一部、天界の波動が無くなっている区域があるな。そこからは未だに魔物たちの声が聞こえてくる。
何だろうな……まあいい。後で確認しておこう。
そして、あらかた魔物の気配が無くなったことを確認すると、俺は地上へと降りた。
そこには跪いて、仲間達から治療を受けているフゲンの姿があった。
「ムソウ殿、すまないな。またも俺達はアンタに助けられたようだ」
フゲンは顔を起こし、頭を下げてきた。
「いや、こちらこそすまなかった。素材が残らず申し訳ない」
「ああ、それは気にしないでくれ。ムソウ殿が救援に来た時から、それは諦めている」
フジミと同じようなことを言って、ニカっと笑うフゲン。気にしてはいないようだが、何となくむかついていると、フゲンの仲間達が笑った。
未だここは戦場だというのに、それすらも感じさせられないゆかいな笑い声を聞いているうちに、何となく俺も笑った。
その後、フゲンたちにも、俺がここに居る理由を説明した。この他にも救援が必要そうなところはないかと聞くと、フゲンは首を横に振る。
なんでも、ここらに居た敵というのは、魔物が主だったらしい。近くに戦っている奴らはいるが、先ほどの俺の行動で、魔物はすでに消滅したのではないかと、フゲンは笑いながら語った。
すると、あちこちから他の冒険者たちがやってくる。どうやらフゲンの言っていたことが正しかったらしく、皆、急に相手にしていた魔物たちが消滅して、何が起こったのだろうかと思いながらも、残った山賊たちを捕縛し、こちらに来たようだった。
フゲンが事情を説明すると、皆は表情を明るくして、俺の方に寄ってきた。
「いやあ~、何かと思ったがなんと、オッサンだったか~」
「相変わらず、とてつもないですね、ムソウさんは」
「何にしても、またも楽して報酬を得るってことになるのか。嬉しいとは思うが、やはり、それも駄目な感じがするなあ……」
などといいながら、再び俺に会えたことを喜ぶ、ムソウ一派の者達。握手を求められたりするが、俺に魔物を倒される形になった冒険者たちは、やはり悔しそうな顔をしていた。
それを眺めながら、やはり、こいつらは良い冒険者の形だなと思った。それと同時に、闘鬼神の奴らのことも思い出した。
―お前ら……どこにいるんだよ……―
ふと、そんなことを思いながら、冒険者たちと再会を喜んでいた。
すると、木々をかき分けながら、レックス達やツルギ達、更にはカドルが俺達の居る所までやってきた。そばには、カドルに対して、怯えるような目を向ける他の冒険者が居る。
こちらも同じ。突然出てきた雷帝龍に無言になり、目を見開いて固まるフゲンたち。
かく言う俺もだ。こいつらとは意味が違うが、カドルを見て、言葉を失った。
そこに居たのは、先ほどよりも一回りくらい大きくなっているカドルの姿だった。さっきまでは、全体的に見ても、ワイバーンほどだったのが、今ではそこらに生えている大木よりも大きな姿だ。同時に大きくなったと思われる手足の爪には常時電撃を纏っているらしく、バチバチと音を立てながら、爪の周りに雷のようなものを纏わせていた。
そして、何故かカドルの表情は上機嫌だった。笑いながら、先ほどの約束か、カドルは、ツルギ達やレックスを、触らせるどころか、背に乗せてこちらまで来ている。
俺はカドルに近づき、声をかけた。
「お前……どうしたんだ? その姿」
「うむ、無事で何よりだ、ムソウ殿」
「いや、こちらの質問に答えてくれ」
カドルはニカっと笑い、更にツルギ達も笑い、説明し出した。
なんでも、先ほど、俺が天界の波動を放った頃、カドルも山賊は生かし、魔物たちは倒すという戦いに何ともやりづらさを感じていたという。
そんな時に、俺が技を出し、強力な天界の波動を感じたカドルは、
「む!? これは……ムソウ殿か! ありがたい!」
と言って、俺の天界の波動を吸収し、更に強くなったという。そして、自身の力が強くなったと実感したカドルは、敵に対し、
「これならば、あの技も使える! くらえッ! 雷伝!」
と、小さな雷を一体の魔物に向けて繰り出した。その雷は、その魔物から別の魔物、更に別の魔物と伝っていき、レックス達が会敵していた者達だけを伝っていく。
そして、全ての魔物を倒し終えると、今度はより威力の低い同じ技を、山賊の一人に放った。すると、何も出来ず呆然とするレックスや他の冒険者たちの目の前で、死にはしなかったものの、その雷も、山賊だけを伝っていき、辺りに居た敵を無力化することに成功させた。
「敵だけに攻撃したいときに有効な技だ。緻密な操作が必要だったが、ムソウ殿のおかげで使うことが出来た。感謝するぞ」
そう言って、胸を張るカドル。
なるほど。先ほど、天界の波動の効果が無くなった区画があったが、あれはカドルの所為だったのか。
しかし、何度も言うが流石龍族だ。あっという間にこの争いを止めやがった。なんとも、凄まじい力を見せてくれる。
そして、カドルの背に乗っているツルギ達は感動しながら、カドルの鱗や鬣、角などを触れている。レックスに関しては泣きそうだ。何で、お前が一番喜んでいるんだよと思いながら頭を掻いた。
その後、カドルがレックス達をその場に下すと、闘いの事後処理が行われる。残った魔物たちの死骸を回収し、山賊たちを縄で縛っていった。
皆の作業を眺めていると、俺の肩をカドルが叩く。
「ムソウ殿、そろそろ……」
「……ああ、頼む、カドル」
俺の言葉にカドルは頷き、目を閉じて、結界陣を発動させた。力を取り戻したカドルならば、クレナ側だけでなく、チャブラに入ったところまで範囲を拡大することが出来るらしい。
流石にそこまでは必要ないと思ったが、念のためにと思い、調べて貰った。
カドルが力を使い、作業の手を止めるレックス達。その後、カドルは、ゆっくりと目を開けて、口を開いた。
「……ふむ。ここにも、ムソウ殿の仲間は居ない。そして、死んだ形跡も見つからないな……」
「そうか……」
カドルの言葉を聞き、項垂れる。ひとまずは無事という可能性がここでも示されたのは確かに嬉しいことだ。
だが、ここでも行方が分からないとなると、やはり不安だ。結局のところ、全員の安否が分からないのだからな。誰か一人でもどこかに居れば、何か分かったのかもしれないが、その可能性も潰えた。
全ての調査依頼の場所を巡って、闘鬼神について分かったのは、そんなところだった。
これからどうするべきか悩んでいると、レックスやツルギ達が心配そうな表情で近づいてきた。
「ん? 結果はどうだったんだ?」
「ああ……残念ながら分からなかったよ」
「そうか~。そいつはオッサンでも不安になるよな……」
「ああ。ついでに聞くが、お前らは何か心当たりは無いか?」
念のためにと思い、ツルギ達に闘鬼神の奴らのことを聞いてみたが、皆、首を横に振った。
「悪いけど、私達も知らないわね。何せここに来たのも今日だし……」
「俺にも分からないな。クレナのギルドがここを調査するという話は聞いていたが……」
皆の言葉に続き、レックスも首を傾げていた。
それを見て、ふと疑問に思ったことがあるので、聞いてみる。
「ん? ここの調査もなかなか終わらないということで、チャブラからも調査隊を派遣するという話では無かったのか?」
「ああ。そういう話もあったのだが、丁度その頃に領内で暴動が起こり始めてな。手が回らなくなったんだ」
ああ、なるほど。先ほどの話でもそうだったな。暴動が起こり始めたのは、ここ最近での話だ。今もなお続いている暴動を鎮圧するとなると、調査隊を組む余裕など無くなるか。レックスの話には納得した。
ということで、ツルギ達も闘鬼神のことは分からず、結局ここでも手掛かりは掴めないままだ。どうしたものかと宙を見ていると、ツルギ達が口を開く。
「けど、オッサンの所の奴らだろ~? アイツ等なら大丈夫だって!」
「ああ、何つったっけ? ハルキっつったか? やけに運だけが良い奴が居ただろ!あいつはそう簡単には死なねえぞ」
「ええ。それにロロさんって方も居ましたよね。少しおっちょこちょいなところもありましたが、彼女の魔法の腕も素晴らしいですからね。きっと無事です」
「それは人のこと言えないんじゃねえか? 天然ボケなところは、レミナちゃんといい勝負だな」
「ひどいです! フゲンさん!」
「ロロちゃんとは真逆で、おっかない女が二人ほど居たよな。フジミ嬢は親しそうだったが?」
「ああ、リアとルイね。特にリアの冷静さは味方としては確かに頼りになるけど、敵にしたら怖いと思うわ……」
フジミが顔色を悪くすると、ツルギ達は大笑いする。何かあったのだろうか……。
依頼に取り組んでいるときや、古龍ワイバーンの時などにこいつらと闘鬼神の皆は親交があったことなどは知っている。
皆から口々に闘鬼神の奴らの名前が出ては盛り上がったり笑い合ったりしている。最初は、俺を元気づけるために始まったのだろうが、いつの間にか、皆だけで笑い合い出していた。呆然として、それを眺めていると、俺の肩にレックスが手を置く。
「まあ、アンタの気持ちはよく分かっているつもりだ。俺も支部長として、何人もの冒険者の背中を見送っているからな。そして、帰りが遅く心配することも多い。
しかし、最後には、帰ってきて、依頼達成の報告をしに来るものだ。
俺達はそれを信じて……自分が信じた冒険者たちが、必ず帰って来るのをただ待つだけで良いのさ」
レックスはそう言って、ニカっと笑う。ふと見ると、ツルギ達も俺をまっすぐと見て、コクっと頷いた。
若干の不安はやはり残るが、俺は、闘鬼神の生存を信じるツルギ達の言葉に頷いた。レックスの言うように、皆が必ず家に帰ってきてくれることを俺も信じよう……。
「……分かった。じゃあ、俺はひとまず、トウショウの里に帰って皆を待つことにする」
「ああ。その方が良いだろうな」
「俺達も行きたいところだが、この山賊たちを護送しないといけないからなあ」
「ああ。頑張れよ、お前たちも。俺も、ことが終わったら皆を連れて、チャブラに向かう」
「おお! それは心強い! 待っているぞ、ムソウ!」
その後、レックス達は気絶した山賊たちを集め、護送車の中へ入れていく。そして、ひとしきり全員で、カドルを撫でまわした後、チャブラの方に帰っていった。
それを見送った後、俺はカドルの方を向いた。
「……では、俺は家に帰る。お前はどうする?」
もう、コイツの世話になることは殆ど無い。広い場所で闘鬼神の皆を捜索するということもないし、強大な敵というものも居ない。そろそろ雷雲山に返してやろうと思っていた。
しかし、カドルは予想に反し、
「ああ。無論ムソウ殿に着いていくつもりだ」
と、更についてくる意向を示す。
「……もう着いて来ても、特に用事は無いと思うが……」
「いや、我にも気になることがあってな。しばらく共にし、更に力を取り戻しても良いだろうか?」
えぇ……こいつ、まだ全力じゃないのかよ。先ほど闘いの中で強くなったとは言っても、まだまだ全盛期には遠いらしい。ケリスがまだ居るということもあるし、また呪われるわけにもいかないということで、もう少しだけ俺の近くにいて、天界の波動を取り込み、かつての力を取り戻したいという。
「分かった。ではついてくると良い。多分、屋敷でも同じように触られるかも知れんがな……」
特にたま辺りに。後は帰って来るだろう、闘鬼神の奴らにかな。そんなことを思いながら、俺、そして、続いてカドルはトウショウの里に向けて飛び立った。
次回からしばらく、ムソウさん出ません。
今回の「クレナ動乱編」は、いわば、ムソウともう一人の“最強の傭兵”が主人公のお話としていますので、そちらからお送りしたいと思います。




