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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナの動乱を斬る
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第206話―次の目的地に向かう―

 さて、雷雲山で知りたいことは全て知ることが出来た。闘鬼神の奴らが生きている可能性があると思った俺は、すぐさま、ここを離れ、次なる目的地、クレナの樹海に向かいたい。


 しかし、九頭竜との闘いで体はボロボロだ。いったん休憩をとり、傷を癒してから向かうとする。


 そして、その間にこの山で、特に雷帝龍に何が起こったのか確認することにした。


「なあ、お前は何で、九頭竜になっていたんだ?」

「む? ……そうだな……」


 雷帝龍は顔を向け、自らに起こった出来事を話し始める。


 元々、雷帝龍は雷雲山に棲んでいた。といっても、山にではない。ジゲンから聞いていたように、雷雲山に常時存在する雷雲の中にいた。


 なんでも、30年前の壊蛇襲来の折に負った傷と、失った力を取り戻すために、めったに人の前には姿を見せず、ゆっくりと雷雲の中で過ごしていたという。


 だが、一か月ほど前、何か強大な力がこの山に入って来たことに感づいた雷帝龍は、その力の源が何なのか、確かめるために、山へと降りた。仮に自分を滅ぼそうとしている者ならば、滅ぼさないといけないからだ。それくらいの大きな力を感じたという。

 しかし、自分は療養の身、もしかしたら、逆に滅ぼされるという可能性もあったのだが、棲み家を奪われないためにも、そして、その力がこの大地に影響を与えないためにもと、ほとんど使命感にかられ、その力に向かって行った。


 しかし……


「山に下りたのは良いのだが、その瞬間、我は何かに引き寄せられ、気づけばすでにあの九頭竜の中で、力を使われる存在となっていた」

「急な話だな……それまでの記憶は?」

「残念ながら、わからぬ……」


 雷帝龍は申し訳なさそうに、項垂れる。

 雷帝龍を一瞬のうちに拘束し、封じ込める力か。それ程の強大な力など、この世に存在するのだろうか。

 まあ、それはさておき、そうやって雷帝龍は九頭竜の中に封じられながらも、何とか九頭竜を内側から制御しようと、力を使っていた。

 その結果、九頭竜が山から下りるということは無かったらしいが、俺が来たときにはすでにそれが限界に達していたという。

 闘いのさなか、俺に声が聞こえなかったらと思うと、ぞっとすると雷帝龍は身を震わせた。


 俺は話を聞きながら、気づいたことを確認する。


「九頭竜は、明らかに意志を持って俺を攻撃しているように見えたが、あれはお前の意志ではなかったのか?」

「ああ。信じては貰えんだろうが、それは違う。我は力を使われていただけだ。九頭竜の中には我と違う、中枢器官のような魂が別に九つ存在していたからな……」


 信じては貰えないって……いや、ここまで来たら信じるって。闘いの際中、自分を斬ってくれと言ってきた奴が、あそこまで抵抗したりするわけないからな。雷帝龍の言うことは正しいだろう。

 なるほど、つまり雷帝龍は普通の生き物で言うところの、魔力のような存在になっていたわけだ。だから九頭竜はあれだけ強かったというわけだな。

 そして、九頭竜にはそれらを使う、人間で言うところの頭脳をつかさどる魂が、雷帝龍とは別に存在していたらしい。それも九つあったという。ああ、だからそれぞれの首が連携をとりながら、別の攻撃を仕掛けていたのか。首一つに一つの魂と考えれば数は合うなあ。


 ふと、九頭竜の首を見ていると、すでに鬼火は消えている。どうやら鬼火は、焼き尽くすまでの間だと、俺の任意の下、あるいは鬼人化を解くと消えるらしい。

 一応素材として持って帰ろうと思い、残していたのだが、我ながらよくもまあ、一人で倒せたなと実感している。

 この世界に来て最初に血を流すほどの闘いはこいつだったかと思うと何となく感慨深かった。

そんなことを思いながら、回復薬を飲んでいると、雷帝龍が不思議そうな顔をして呟いている。


「む? ……そう言えば、九頭竜の魂が抜け出た痕跡も無いのお……」

「何だとッ!?」


 俺は雷帝龍の言葉を聞き、すぐさま立ち上がり無間を抜いた。肉体が滅んでいるというのに、魂が抜けていないということは、まだ生きているかもしれないということ。

また動き出す前に片を付けないと危ないかもしれない。

 しかし、雷帝龍は俺の肩に手を置き、動きを制した。


「いや、慌てる必要はない。仮に再び動き出したとしても、そいつらはもはや、九頭竜ではない。そこらに居る魔物と何ら変わりない力しか発揮できないだろう」

「……核となるお前が居ないからか?」


 雷帝龍は頷く。こいつが居なくなっただけでどれだけ弱くなるんだよ……。


 だが、確かに仮に動き出したとしても、九頭竜の首から感じる力は、せいぜい、上級から超級くらいといったところか。たとえすべてが復活したとしても、簡単に対応できるなと思い、無間をしまった。


 しかし、何故魂が出てこないのだろうか。普通生き物が死ぬと、人間でも動物でも、もちろん魔物でも龍でも、魂というものが出てくるのだが、コイツの場合は出てこない。

 俺と雷帝龍はしばらく、九頭竜の魂が出ていくのを待っていた。


 すると……


「……ん? 何だ?」


 突然、目の前にあった九頭竜の首の中でぼんやりと何かが光る。そして、それはそのまま首の中から出てきて、俺の周りを囲むようにして、ふわふわと飛んできた。先ほど見た雷帝龍の魂よりは小さいが、似たような感じである。


「これが、九頭竜の魂か?」


 光を指さしながら、尋ねると雷帝龍は頷き、フッと笑った。


「本当に魂までも見えているとはな。天界の波動といい、その姿といい、本当に面白い人間だな、お主は……」

「茶化すなよ。で、どうなんだ?」

「ああ。その魂が九頭竜のものというのは間違いではない。今やあの肉塊には何も感じないからな……だが……」


 雷帝龍は、俺の周りに飛んでいる魂を眺めて表情を曇らせる。何だろうと思っていると、雷帝龍はゆっくりと口を開いた。


「この者たちは、人間の魂だな。九頭竜の素材となった魔物たちの魂とはまた別の魂だ……」

「……ん? どういうことだ?」


 雷帝龍に詳しい話を聞くと、本来九頭竜というのは、素材となった魔物の中で特に強い九体の魔物、あるいは核となった魔物の魂によって動く。今回の場合は、雷帝龍は力を封じられていたわけだから、俺が戦った九頭竜は素材となった魔物の魂によって動かされていたと考えられていた。

 しかし、九頭竜の死骸から出てきたのは、人間の魂だ。本能的に人間を襲う魔物の魂ならともかく、本来ならば、自分よりも弱い人間が、雷帝龍の力を使いながら、九頭竜を支配し、俺を襲ってくるなどあり得ないと、雷帝龍は語った。

 確かにな……。それに、俺に対して、九頭竜、一つ一つの魂は明らかな殺意を持っていた。この世界に来て、そんな人間居るのか?


 と、自分のことについても踏まえ考えてみたのだが、そこまでする人間が思い浮かばない……いや、自信ないけど。

 雷帝龍の話を聞きながら、俺も目の前の魂たちを見ながら、首を傾げていた。


「……せめて話が出来れば良いんだがな……」


 俺は、先ほどの闘いのさなかに、雷帝龍の声を聞けることが出来たように、魂の声を聴くことが出来る。今までも何度かそう言う状況になったことがある。

 今回もこの魂から何かしら話が聞ければいいのだがと思っている。今のところ、この魂からは敵意は感じられないし、かと言って、九頭竜として俺のことを襲ってきた魂だ。放っておくわけにもいかない。どうしたものかと頭を抱えていた。


「……仕方ない。斬るか」


 やはり、このまま九頭竜の魂を放置というわけにはいかない。俺は魂を斬ろうと思い、無間を抜いた。すると、雷帝龍が口を開く。


「ん? お前は魂も斬ることが出来るのか?」

「ああ。恐らく、だがな……」


 雷帝龍の言葉を聞き、やはり普通の人間には魂というものは斬れないらしい。物体として存在しないのだからな。霞や霧と同じだ。いくら刀を振っても、実体が無いのでは話にならないのだろう。


 だが、俺にはEXスキルがある。これならどうかと思い、すべてをきるものを発動させた。


 すると、俺の周りを浮かんでいた魂に、赤い切れ目が浮かび上がる。どうやら斬れるらしい。

 俺は無間を振り上げ、そのまま魂を斬ろうとした。魂たちは動かない。意識というものは無いようだ。少し可哀そうな気もするが、俺を本気で殺そうとして来た奴をこのままにしておくわけにはいかない。俺は切れ目めがけて無間を振ろうとした。


「……ん?」


 だが、あることに気付いた俺は、無間を下げる。

 こいつらが出てきた九頭竜の死骸とそれぞれの魂が何かひものようなものでつながっている。そして、その線にも、切れ目が見えた。


「どうかしたのか?」


 雷帝龍は突然動きを止めた俺を不思議に思ったのか声をかけてくる。どうやら、雷帝龍には見えていないらしい。

 何だろうとは思ったのだが、一応、そのひもの切れ目を斬った。


 すると……


 ―……ハッ! 拘束が解けた!―


 突如、頭の中に若い男の声が聞こえてくる。俺はハッとし、雷帝龍の方を向いた。

 雷帝龍も目を見開き、驚いた様子で頷いている。どうやら、この声は目の前にある九つのうち、俺がひもを斬った魂から発せられているようだった。


 俺はその魂に近づき、手を差し伸べる。


「お前……一体……」


 声をかけると、またも慌てたような様子の同じ声が聞こえてきた。


 ―あ! すみません! 詳しい話は後でしますので、今は皆さんも僕と同じく助けてください!―


 男の声は必死な様子で、俺に頼んできた。訳が分からなかったが、必死な声に突き動かされるように、俺は他の魂につながっているひもを斬っていく。


 そして、全てを斬り終え、無間を仕舞うと、頭の中に次々と声が響いてきた。男女混じって、何やら騒いでいるようだ。


 ―おおっ! 自由になれたぞ!―

 ―本当だわ! ついに……やったのね!―

 ―ふむ……ようやく解放されたな―

 ―これで、晴れて自由の身だな! よ~し、このままさっさとあいつの所に行こうぜ!―

 ―だな! きっちり落とし前ってのをつけておこう!―

 ―ただ、このまま私たちが行ったところで力になれるかな……―

 ―まあ、そん時はそん時だ!―

 ―おう! 取りあえず行くぞ!―


 と言って、魂たちはどこかへ飛び立とうとする。だが、それを、最初の魂が前に出て行って、他の魂たちの動きを止めた。


 ―皆さん! 待ってください! その前にやることがあるでしょう!―


 その魂は光を激しく上下に揺らしながら、他の魂の行く手を遮っている。


 ―うおっと! 何だよ、止めるなよ。この勢いに乗って行った方が良いだろうが―

 ―それも分かりますが、今は助けてくれた礼をするのが当然でしょう?―

 ―そんなの後で良いじゃないの~?―

 ―駄目ですって。結果的にあの人は生きていますが、下手をすれば殺すところだったのですよ―

 ―それはあの男も一緒だろ? さっきまで俺達を斬ろうとしていた奴にどうして、俺達が頭を下げるんだ?―

 ―ゔ、それはそうかもしれませんが……で、ですが、元はと言えば、頼んだのは僕たちじゃないですか! その頼みを達成してくださったのですから、頭を下げるのは当然のことでしょう?―

 ―いや、まだそれは終わってないだろう。俺達の頼みを完遂したとはまだ言えない。だからこそ、とっととあそこへ行って、あいつらを助けてやらねえと、取り返しがつかないことになるかも知れんぞ―

 ―それこそ、礼も言えない、受け取ってもらえない状況になるかもしれない―

 ―こうやって、言い争いをしている時間も無駄ってことよ……―

 ―それは……―


 などと、俺の頭の中には、どこかに行きたいと急かす八つの声と、それを止めて、まずは俺達に一言挨拶をと説得する一つの声が聞こえていた。

いや、俺だけじゃないな。ちらっと横を見ると、雷帝龍も何やら困ったような顔をしている。


 どうしたものかと頭を掻くが、俺もここで無駄に時間を使いたくはない。取りあえず、こいつらのやり取りを止めようと、手を叩いた。その音を聞き、こいつらの問答は止まった。俺は近寄りながら口を開く。


「はいはい、お前ら少し静かにしててく――」

 ―若造は黙ってろッッッ!!!―


 しかし、魂に声をかけようとすると、急に怒鳴り声が聞こえてくる。若造と言われたのは久しぶりだ。声の感じでよく分からないが、こいつらは俺の年上らしい。ああ、何時死んだのかわからないな……。


 そして、俺が黙り込むと、再び、あれやこれやと頭の中に議論が聞こえてくる。


 流石にむかついた俺は、魂たちに、殺気をぶつけた。


 ―死神の鬼迫―


 ―ゔ……―


 俺の殺意に当てられた魂たちは、低く呻き、黙り込んだ。なるほど、死神の鬼迫は実体のない魂にも効果的なようだ。

 皆が黙り込んで静かになったことを確認した俺は無間に手をかけながら、口を開く。


「てめえら……黙らねえと……本当に……斬るからな……取りあえず……俺の話を聞け」

 ―……おう―

 ―……はい―

 ―……う、む―


 俺の説得に快く応じてくれたことを確認し、無間から手を放した。最初からそうしてくれれば良かったのだ。俺は一つため息をつき、魂に語り掛ける。


「話を聞いていて、大体の事情は理解した。お前らは行きたいところがあるってことで良いんだな?」

 ―おう……友を助けに行きたいんだ……―

「そうか。だが、お前は迷惑をかけたとして、俺達に頭を下げたいと言うのだな?」

 ―はい。このまま行くのは少し躊躇われます……―

「しかし、時間が無い、下手をすれば、今よりももっとひどい状況になるんだな?」

 ―ええ、多分ね。もしかしたら、もう……―


 なるほど……。話を聞いていくと、どうやらこいつらには、生きている友人のような奴が居て、そいつに危機が迫っているということらしい。魂たちはそいつを一刻も早く助けに行きたいようだ。

 しかし、九頭竜となって、俺を殺そうとして来たことについての罪悪感もあり、事情を説明しながら、俺に謝罪をしたいという魂も居る。俺が最初に解放してやった、礼儀正しい青年の魂だ。

 まあ、確かに事情を聞きたいという気持ちはある。そして、こいつらの正体というのも、知りたいが、そうも言ってられない状況というのは、こいつらの必死さから理解できていた。


 俺は雷帝龍と顔を見合わせ、頷き合い口を開いた。


「分かった。じゃあ、すぐさまそいつの所に行ってやれ」


 俺は魂たちがここを離れることを許可した。魂として残ったにも関わらず、悔いが残ったとなれば、何とも後味が悪いからな。手遅れになる前に、早くここを離れた方が良さそうだ。こいつらも、俺もな。

 俺の言葉にしばらく何も聞こえなかったが、ふと、最初の魂が俺の方に寄ってきた。

 そして、頭の中にこいつの声が聞こえてくる。


 ―ありがとう……ございます―

「ああ。さっさと行って、その友人とやらを助けてこい」


 そう言うと、俺の頭の中には、他の魂たちから、威勢の良い返事が聞こえてきた。おう!だの任せろ! だの、死んだ魂にしては元気が良いな。

 そう思っていると、俺の隣で、雷帝龍も口を開く。


「ふむ……やはり人間というものは良いな。そんな状態となっても、友を助けたいという気持ちには感服する……よし、我からお前たちに渡すものがある。受け取るが良い」


 そう言うと、雷帝龍の体が輝きだす。そして、それぞれの魂に向かい、小さな光の粒を飛ばした。光は魂の光の中に吸い込まれていく。どうやら、きちんと受け取れたようだ。


 ―これは……?―

「それは我の鱗だ。龍族の体の一部にはいろいろな効果がある。その一つに、魂の「依り代」というものがある。これは魂に仮の肉体を与えるといったものだ。

……何かと闘うというのならば、それを使うと良い」


 雷帝龍によると、やはり魂の状態では、闘うどころか、今生きている俺達に触れることすらできないという。

しかし、何らかの方法を用い、肉体を得ることで、一時的に復活状態となり、生きている人間と何ら変わりない行動が出来るという。

 こいつらも九頭竜という肉体があったので、俺に攻撃が出来たわけだが、今は何も出来ない。ゆえに仮の肉体として、雷帝龍は自らの鱗を渡したというわけだ。


 鱗を受け取った九つの魂は雷帝龍の前に行き、跪くように、地面に降りた。


 ―感謝する。雷帝龍殿―

「気にするな。我と同じく九頭竜として封じられていた者同士の縁というものだ。それに、先ほども言ったように、我はお前たちを気に入った。それだけだ」


 魂たちの行動に雷帝龍はそう言って、大きく笑った。


 そして、それぞれの魂は再び浮きあがり、飛び立つ準備に入る。


 ―では、俺達は行くとする。世話になったな―

 ―全部終わったら、ちゃんと説明するからね―

 ―お主もそれまでは、自らの役目に全力で向き合うと良い―

 ―後ろは俺達に任せな、ムソウ―

 ―帰ってきたら一緒に呑めると良いな!―

 ―私は……先にあいつに謝らないとね……―

 ―い~や、あいつが俺らに謝るのが先だろ!― 

 ―その前に助けてやらねえとな!―


 などと言いながら、魂たちは空へと浮いていく。そして、最後に、最初の礼儀正しい魂が前に出てきて、俺に挨拶をした。


 ―では、行ってきます―

「ああ。さっさと行けよ」

 ―はい。ムソウさんもお気をつけて……災いはまだ続いていますので……―


 そう言って、最後の魂も上空へと上がっていくと、そのままどこかへ飛び立っていった。


「人間……お主……ムソウという名前なのか?」

「ん? ……ああ、そうだ。名乗ってなかったな……」


 ふと飛び出した、雷帝龍の質問に苦笑いしながら、そう答えた。


 俺は魂たちを見送りながら、ふと思い出したことがあった。あいつらの声、何か聞いたことがあるなあと思っていたが、いつだったか、トウショウの里の朝日を見に行った時に、今回のことを依頼してきた奴ら九人の声だ。


 なるほど、あれはあいつらの魂だったか。何かのきっかけで、俺の前に出てきて、助けを求めて来たってわけだったか……。

あの時、名乗ったかどうか覚えてはいないが、だからあいつら、俺の名前を知っていたんだな。


 そして、最後の奴曰く、まだ人界の災いというのは終わっていないらしい。闘鬼神のこともあるし、俺もそろそろここを発とうと思い、薬を飲んで、九頭竜の死骸を異界の袋に詰めていった。


 さて、ある程度後始末が終わったら、俺は次なる目的地、クレナの樹海に飛び立つ準備をする。道具を確認し、先ほどの戦いで装備の傷んだ個所を簡単に直し終えると、最後に雷帝龍に別れを言おうと近づいた。


「では、そろそろ発つ。色々と世話になったな」

「む? もう行くのか?」

「ああ。先ほども言ったが、仲間が心配だからな」


 そう言うと、雷帝龍はうつむき、何やら考え事を始めた。早く行きたいんだけどなと思っていると、雷帝龍は顔を上げ、驚くべきことを口にした。


「ムソウ殿。その旅に我もついて行っては駄目だろうか?」


 突然の雷帝龍の申し出に目を見開く。何でこいつが、俺に着いてくると言い出したのか意味が分からない俺が、その真意を尋ねた。


「目的は何だ?」

「先ほど言ったとおりだ。九頭竜から解放してもらった礼をしたい。我ならば、クレナの樹海だろうと、広大な山岳地帯だろうと、あっという間に探索を終えることが出来るぞ」


 なるほど……。それは確かに便利だ。現にこの山の探索も一瞬で片が付いたからな。更にはそのおかげで、俺も一筋の希望というものが見えてきた。こいつの能力を活用することには賛成だ。


「だが、お前はここで療養中では無いのか? 下手をすれば今度こそ危ないかもしれないぞ?」


 こいつはここで壊蛇との闘いで受けた傷、失った力を取り戻すために、長い年月をかけて休養していた。そして、今回の騒動に巻き込まれ、九頭竜の核となった。

 俺との闘いもあるし、これから行くところに強大な魔物が居れば今度こそ危ないと思っている。流石に俺もそんな奴が居れば、コイツを護りながら闘うということは難しい。

 そう思っていたが、雷帝龍は、俺の忠告を聞き、何故だか笑った。


「フッ、心配するな。全盛期とまではいかないが、そうだな……人間たちの基準で言うところの災害級の魔物とやらなら簡単に屠れるほどの力はあるぞ」

「いや、そう言われてもな……」

「それにな、実を言うと、ムソウ殿からあふれ出ている天界の波動。それには我らのような龍族を癒す効果がある。

つまりはここに居るより、ムソウ殿についていった方が力も取り戻せるというわけなのだ……」


 雷帝龍はニヤッと笑う。ああ、そう言えばそんな効果があるかどうかは分からないが、何となくこの波動は癒されると、ミサキの契約獣、青龍のジンランもそう言っていたな。ましてや、こいつは純粋な龍族だ。あいつよりも強く天界の波動の効果を受けられるのだろう。


 なるほど……。俺の悩みは、俺の力によって解決されるというわけか……。


 どうしようかと散々悩んだが、第一の目的は、闘鬼神の探索、それに災いと呼ばれる存在の撃退、討伐だ。雷帝龍が居ればどちらも今よりはだいぶ楽になる。

 そう思った俺は、雷帝龍の頼みに頷いた。


「分かった……俺に力を貸してくれ」

「素直に、貸せと命令してくれても良いのだがな……相分かった、ムソウ殿」


 俺の言葉に、雷帝龍は大きく雄たけびを上げる。こうして、俺は雷帝龍を連れて、クレナの樹海を目指すことになった。

だが、その前に確認したいことがあったので、聞いてみた。


「そういや、お前には名前は無いのか? 雷帝龍というのは、種族名であって個体名では無いだろう? お前本来の名前は何というのだ?」


 名前を聞いておけば、いざという時にも連携がとりやすいからな。一応と思い、聞いてみた。

 すると、雷帝龍は嬉しそうな顔で頷く。


「うむ。我が名はカドルという。昔、人間に付けて貰った……改めて、よろしく頼むぞ、ムソウ殿」

「ああ、カドル。こちらこそ頼む……では、行くぞ!」


 お互いのことを確認した後、俺達は空へと飛び立ち、クレナの樹海を目指す。流石龍族は速い。置いていかれないように、そして、皆を早く助けたい一心で、俺も全力で飛び続けていった。


次回から、屋敷での話と、ムソウサイドの話が入れ替わるように展開されていきます。いわゆる、三人称の形式となりますので、よろしくお願いします。


ちなみに、カドルの名前の由来は、どこかの雷の神様です。

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