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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナの動乱を斬る
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第205話―天災級を斬る―

 屋敷を飛び立って、地図を見ながらしばらく飛んでいると、前方に大きな山が見えてくる。岩肌がむき出しとなっており、いかにも険しい山というのが一目でわかる。

 そして、頂上付近は、黒く分厚い雲に覆われており、ここからでもゴロゴロという止まない音が、聞こえていた。


 どうやら雷雲山に着いたらしい。話に聞いていた通りだなと思いながら、しばらくその周りを飛んでいた。

 気配を探りながら、闘鬼神の奴らを探す。……が、それらしい反応はない。奴らが、息を潜め、何かから隠れているということであるのならば、それも頷ける。

 そう思った俺は、ひとまず地上へと降りて、山を進んでいくことにした。


 すると、地面に足を着けて歩き出そうとした瞬間……


 ドカンッ!


 一つの雷が、すぐ近くの木に落ちたようだ。雷が直撃した木は縦に裂け、そこから煙を立ち上らせる。


「危ねえな……よくもまあ、ハルキたちは無事に依頼をこなせたもんだ」


 以前ここに雷光鉱石を採集しに来て、雷恐怖症になりながらも依頼を達成したハルキの顔を思い出し、本当に大したものだと思った。

それと同時に皆の顔も思い出され、早いところ、皆の救出をしようと先を急ごうとする。


 だが、先ほどのようにいつどこに雷が落ちてくるかわからない。進む先を見てみると、以前コモンの言っていた、避雷塔というのは見える。

金属で出来た高い建物のようなものが、一定区間ごとに建っている。時折、その建物に雷が落ちてはいるが、コモンの懸念通り少し古いものなのか、雷が落ちる度に大きく揺れるものまであった。


 とてもじゃないが、不安だと思った俺は、光葬針を俺の頭上に何本か展開する。ベヒモスの攻撃を防いだ時のように、これを避雷針代わりにすれば良いと思った。


 そうやって取りあえずは、この避雷塔が並んでいる道を進みながら、皆を捜索し、山頂を目指すことに決める。


 だが、いくら進んでも、闘鬼神の奴らの気配は感じない。時々声をかけてはいるが反応はない。頭上に展開している光葬針をいくつか武者の姿に変えて、辺りを捜索しても、結局、生き残りを発見することは出来なかった。


 まさか、もう……いや、憶測でもそんな後ろ向きな考え方はやめておこう。

 俺は必ず、あいつらを救い出すと思いながらなおも山道を進んでいく。


 すると、突然……


 ドオオオオオオンッッッ!!!


「ッ! 何だ!?」


 突如、俺めがけて、大きな雷がいくつも降り注いでくる。頭上に展開してある光葬針は弾き飛ばされ、狙ったかのように俺に向かってきた。

 俺は、無間を抜き、何本かの雷を斬ることには成功した。


 しかし、数が多い。何本かは無間が間に合わず、凄まじい電流が俺の体を突き抜けていく。


「グウゥゥゥッッッ!!!」


 ジゲンの奥義や、ミサキの龍言語魔法の比じゃない衝撃だ。つまり、この世界に来て、一番大きな衝撃といっても過言ではない。手足が痺れ、全身に強烈な痛みが走る。


「くッ! ……ガアアアアッッッ!!!」


 俺は気合と共に、痛みを吹き飛ばし、雷が発生している雲の切れ目を狙って、斬波を放った。斬波が切れ目に当たると、雷はいったん止んだ。

その隙に態勢を立て直し、無間を構えなおす。懐から回復薬を取り出し、それを飲んで、傷を癒しながら、頭上を睨んでいると、その雲が段々と晴れていく。


「何だッ!?」


 俺は、雲が晴れていき、そこに居たものを見ながら絶句する。


 そこに居たのは、九つの首を持つ巨大な蛇……いや、龍だった。一つの胴体から九つの巨大な首を生やし、爛々と怪しく、強く輝く目で俺を見ている。


 一つ一つが巨大な首で、全体的に見ると、トウショウの里がある山よりも大きく感じる。身に纏っている鱗は巨大で、そこらの民家よりも大きく、城壁のように分厚い。

 そいつは、低く唸り声を上げながら、俺のことをジッと睨んでいた。流石にここまでの魔物に出くわし、更には俺だけを睨んでいるという状況になると、体中に緊張が走り、冷や汗をかく。


 ひょっとして、コイツが雷帝龍かと思い、息を整えながら、鑑定スキルを使った。だが、俺の頭に入って来た情報は、雷帝龍のものでは無かった。


 ……


 九頭龍

 龍族を核とし、複数の魔物が集まった巨大な合成龍。ヒュドラの最上位種。

 核となった龍族の力を倍増すると共に、素材となった魔物たちの能力も引き継ぐ、天災級の存在


 ……


 雷帝龍では無かったしろ、俺は今までの出来事からこいつが、人界を襲う大いなる災いと、直感した。何しろ、初めて出会う天災級の魔物だからな。

そして、鑑定によれば、こいつは一体の龍族を核としているようだ。先ほどの攻撃、更にはここの場所から考えても、その核となっている龍族が雷帝龍と考えた方が良いだろう。


 にしても、厄介だな。ただでさえ強力といわれる雷帝龍の力を倍増させているとは……。さらには、ここまで大きくなるのに素材となった魔物たちの力も引き継いでいるという。確かにこんな奴が山を下りれば、クレナなど一瞬で火の海、一か月もせずに人界など滅んでしまうだろうな。


 そんなことを思っていると、一つの首がガバっと口を開け、攻撃を仕掛けてきた。それはすさまじい熱気を放つ溶岩だった。


 俺はハッとし、そいつの攻撃を躱す。だが、飛び散った大量の溶岩が、向かってきた。俺は溶岩の切れ目を斬って対処する。

 しかし、すぐさま、他の首が俺に噛みつこうとして来た。


「チッ!」


 無間を構えて、その攻撃を防ぐ。だが、衝撃で、俺は空中へと投げ出された。翼を上手く使い、空中で態勢を立て直して、さらに続く他の首からの攻撃を対処する。

しかし、こいつらの体は固い。いくら無間で弾いても、かすり傷すら負わせられない。

 俺は光極波を放ち、いったん距離をとった。やはり曲がりなりにも、聖なる龍族である、雷帝龍を核にしているのか、光極波を当てても大した効果は無かった。


 俺は九頭龍に向けて連続で大斬波を放った。だが、その斬波すらも、鱗に阻まれ、あるいは噛み砕かれたりして、九頭龍にはたいして効いていないようだった。

 一応、体には切れ目が見える。あれを狙えば良いのだが、近づこうとすると、それぞれの首から溶岩、雷撃、時にはワイバーンがするような高密度の熱波、空気の塊だったりが襲ってきたり、それぞれの首が、噛み付き攻撃を仕掛けてくる。


 更には頭上からは空から雷が降り注いできて、なかなか近づくことが出来ない。ギルドで、災害級よりも上の、天災級に定められている魔物というのは伊達じゃないと感じた。


 だが、悩んでも仕方がない。俺は再度接近し、無間を大きく振り上げる。


「奥義・無斬ッッッ!!!」


 またも噛みつこうとしてくる首を避けながら、無間を当てていく。ガキンッと弾かれるが、この技は振る度に大きく強くなる技だ。弾かれても気にせず、何度も何度も振っていく。

 そして、九頭龍の攻撃を弾くだけでなく、九頭龍自体を仰け反らせることが出来るようになった頃、目の前の一つの首に見えている切れ目を狙い、無間を思いっきり振った。


「ウオオオオオラアッ!!!」


 無間はそのまま切れ目に入っていく。そして、一本の首を切断することには成功した。大きな龍の頭が、谷底へと落ちていき、下の方で大きな音が鳴る。

 残りはあと、七つかと思い、無間を構えて九頭龍を見据えた。


 ……しかし、俺の斬ったところから大量の血が噴き出ているにも関わらず、九頭龍は苦しんでいる素振りすら見せない。ヒュドラの時は、いくつもある龍のが連動していたらしく、一つ斬るごとに苦悶の表情を浮かべていたはずだが……。


 そう思った時、俺は思い出した。ハッとして、九頭龍の方に目をやると、俺の斬ったところがぼこぼこと音を立ててうごめく。流れていた血が止まり、体の内側から、まるで木が生えてくるように肉体が再生し始め、しばらく経った後に、一本の首が再生した。


 ヒュドラの持っていた再生能力を、やはりコイツも持っているらしい。こうなれば、肉体が残る限り、九頭龍は再生し続ける。殺すなら、一気に殺さないといけないということを実感し、技の用意を始める。


 しかし、それより早く、九頭龍は、上空に向けて雄たけびを上げる。


「ッギギャアアアオオオオオ~~~~~ッッッ!!!!」

「ッ! 何だッ!?」


 耳をつんざくほどの爆音は、古龍ワイバーンの比じゃない。辺りの岩肌が砕け、俺も少しめまいがしたほどだ。何とか空中で態勢を立て直し、九頭龍の様子を見ると、頭上に大きな魔法陣が描かれている。


「!? 龍言語魔法か!」


 描かれた魔法陣は、首の数に対応しているのか、全部で九つ。つまり、このままだと、俺は龍言語魔法の九連撃を浴びることになる。

 それは流石にマズイと思った俺は、魔法陣を斬ろうと、空へと飛び立つ。


 だが、それよりも早く、九頭龍の首はニヤッと笑い、魔法を完成させ、首を振り下ろした。

 それぞれの魔法陣の中から、巨大な岩の塊が見えてくる。古龍ワイバーン、ミサキがやっていた、隕石を呼ぶ魔法だ。岩というよりは山だな。流石にこの山ほどデカくはないが、それでも、この隕石自体もトウショウの里の半分ほどの大きさはある。

 そんな一つだけでも強力な大きな隕石が、九つもある。


 俺は無間に力を込めて、思いっきり振った。


「オオオオオッッッ!!! 奥義・飛刃撃ッッッ!!!」


 流石、デカい隕石だけあって、切れ目の数も多い。それだけの刃が無間から飛び出し、細かく削るように、隕石をどんどん小さくしていく。

 俺が、隕石を攻撃していると、九頭龍本体も攻撃してくる。むろん、飛刃撃の刃は、九頭龍本体や、口から吐き出される攻撃を斬り、俺を攻撃から守っていた。


 そして、全ての隕石と、九頭龍に攻撃を浴びせ続けた、今までで一番多いと感じる刃が、無間に戻り、周りに纏わりついた。バラバラと落ちる隕石の破片と、九頭龍が俺を結んで一直線上になった瞬間、俺は無間を振り下ろした。


「ウオオオオオッッッ!!!」


 無間から、凄まじい勢いで刃の奔流が解き放たれる。無間から若干軋むような音が聞こえてくるが、構わなかった。そんな場合じゃないと直感が告げている。

刃の渦は、そのまま隕石の破片を砂粒同然とし、九頭龍本体に襲い掛かる。


「ギ……ギャアアアオオオッッッ!!!」


 俺の攻撃の中から、九頭龍の絶叫が聞こえてきた。よく効いているらしい。このまま全ての首を粉みじん、いや、それよりも小さな破片にして、そろそろ死んでくれと念じていた。


 やがて、俺の眼前には、砂ぼこりだけが舞い、そこに残っていたのは、九頭龍の胴体だけとなった。

 ヒュドラを倒した時と同じ状況だ。流石にもう生きていないよなと思い、俺は胴体に近づいていく。


「はあ、はあ、はあ……ようやく終わったか……」


 正直、体は今の一戦でボロボロだ。大きな怪我こそしていないが、気功スキルを使いすぎた感覚だ。

 だが、一応、九頭龍は倒せた。人界の大いなる災いとやらはひとまず消え去ったことを確認し、安堵する。


 さて……それじゃあ、闘鬼神の奴らの探索を再開させよう。


 俺はそう思い、九頭龍の胴体を異界の袋へ入れようと、手を伸ばす。


 ……しかし……


 ……ドクン……ドクン……ドクン……


 何か、鼓動のようなものが脈打つ音が聞こえ、俺は手を止める。


「何だ……? ……まさか!」


 俺はハッとし、無間を抜いて、残った胴体を斬ろうとした。

 だが、それよりも早く、メキメキと音を立てて、俺が吹き飛ばした九つの首が再生、そのまま俺めがけて突進してきた。


「ギャオオオオオッッッ!!!」

「ガハッ!」


 無防備となった、俺の体全体に、龍の頭がぶつかる。凄い衝撃と共に俺は吹っ飛ばされ、背後の岩肌へと激突した。

 内臓がやられたのか、俺の口から血が垂れてくる。

 

 ……この世界に来て初めての流血だった。久しぶりに全身が痛い。異界の袋から、回復薬をとろうとするが、手に力が入らなかった。


「チッ……クソッ! やはり駄目だったか……!」


 必死な思いで、回復薬を飲み、傷を癒すと同時に、俺は再び空へと飛ぶ。無間を構え直し、九頭龍を睨んだ。

 九頭龍も俺を睨んでいる。先ほどの攻撃を浴びて、命の危機を感じたのだろうか、再生前よりも、俺に殺意をぶつけている。これは本腰入れないと駄目だなと思い、無間を握る手に力がこもる。


 ……しかし……


 俺は向かって行くことをためらっている。確かにこのまま行ってもまた、同じことの繰り返しだ。また強力な攻撃の連撃を浴びながら、首を一つ一つ落としていき、再生能力が及ばなくなるまでこいつを殺し 続けるというのは至難の業だ。

 だが、それ以前に俺には腑に落ちない点がある。


 どうしたものかと考えていると、九頭龍から先に攻撃を仕掛けてきた。数本の首が、俺に噛みつき攻撃を仕掛けてくる。俺はそれを躱しながら、再度、無斬を放ったり、今度は無尽を放ったりして、首を落としていく。

 しかし、やはり斬る度に、首はどんどん再生していく。


 やはり先ほどのように、飛刃撃で、今度こそ一気に片付けた方が良いかと、あきらめにも似た感情が渦巻き、俺は無間を振り上げた。


 だが、その隙を狙ってか、九頭龍の首の一本が首を伸ばし、再び俺に体当たりを仕掛けてくる。ハッとした俺は無間をそのまま振り下ろし、攻撃を防いだ。

 九頭龍は攻撃が止まると、そのまま胴体ごと俺の方に進み、体重差にものを言わせて、俺の体を岩肌へと押し付ける。


「ぐうッ! くうううぅぅぅッッッ!!!」


 体が潰されないように、腕にありったけの力を入れて、九頭龍の攻撃を耐えていた時だった。

 その時、拮抗しあっていた九頭龍の力が一瞬緩んだ気がした。


 ハッとする俺の頭の中に、一つの声が聞こえてくる。


 ―……何故……だ……人間……―


 それは、一人の男の声だった。どこか威厳を感じ、どこか寂しそうな男の声が聞こえてくる。

 その正体が、何となくわかった俺は、男の声に応えた。


「出たかッ! お前、雷帝龍だな!?」

 ―!?―


 俺の言葉に、声の主は戸惑っているようだ。俺の考えは当たりらしい。


 この声の主は、俺が今闘っている九頭龍の核となっている雷帝龍だった。雷帝龍は、驚いた様子で、俺に語り掛けてくる。


 ―何故……我が雷帝龍だと?―

「テメエ以外に誰が居るってんだ!? こうやって、俺の頭の中に直接語り掛けてくるあたり、お前は雷帝龍だろう!? 龍族だからな! それくらい出来て当然だ! 分かんねえけど! ……で、何だ!? 何か用か!?」


 俺は、攻撃を受け続けながら、こんな時に、何話しかけてきてんだとイラつき気味に問うた。すると、しばらく沈黙した後、雷帝龍は口を開く。


 ―何故……我を斬らぬ……我を斬れば……すべて終わる……―

「何故、斬らねえか? だと? 決まってんだろっ! 斬りたくねえからだよッ!」


 俺は、力を入れて無間を振りぬく。すると首は弾かれ、俺は自由になった。そして、地面へと降り立ち、九頭龍を見上げる。


 屋敷でジロウ達と話した時から、仮に相手が雷帝龍で呪われているのだとしたら、解呪術でも使って、呪いを解くだけで良いと思っていた。龍族は基本的には人族の味方だからな。

 大いなる災いと呼ばれようとも、そんな存在なら呪いを解くだけで、滅ぼす必要などないと思っていた。


 しかし、現れたのは「雷帝龍を核としている魔物」だ。こうなると話は別になってくる。呪いを受けていない雷帝龍は、恐らく寄せ集められた魔物たちにより、その力だけを利用されているのではないかと推察。


 そうとなれば、このまま九頭龍を滅ぼすと、善良なままの心を持った雷帝龍でさえ滅ぼすことになる。


 ……それは嫌だった。どうにかして、雷帝龍だけは無事にしたいと思い、先ほども攻撃を躊躇い、そして今も、九頭龍の再生能力を削ぐことだけに専念している。


「テメエは俺達人族……いや、大地の味方なんだろ? なら、殺すのは惜しい」


 壊蛇襲来の折には、人族の味方もしてくれていたわけだしな。ここでこのまま雷帝龍を斬ってしまったら、大地の大恩人に申し訳なくなってくる。どうにかして、雷帝龍の暴走を止めて、元の平穏な生活に戻って欲しいと思っていた。

 俺は、しばらく動かないままでいる九頭龍を睨みながら、無間を構え、どうすれば良いのかを模索する。


 すると、再び、雷帝龍の声が頭の中に聞こえてきた。


 ―……変わってるな……人間……―

「もう……そんな言葉は聞き飽きた。

それよりも、どうすればお前を無事な状態で、コイツを倒せるのか教えろ。俺はその通りに動いてやる……」

 ―……そうか……ならば……―


 雷帝龍は、何か一人で納得したようで、俺にその策を言ってきた。俺はそれを聞き、少々戸惑う。


「……良いのか? それはつまり……」

 ―……良い……我はお主を信じる……だからお主も我を信じよ……―


 神話の頃から生きていると云われる存在は、俺の頭の中で、そう言い切った。まさか龍族に信用されるとは思ってもいなかった。何となく安心した俺は、雷帝龍の言葉に頷く。


「……分かった。お前の言葉に従おう……責任は俺がとる」

 ―フッ……本当に面白い人間だ……もうそろそろ我の拘束も解ける……その瞬間に……決めてくれ―

「……ああ」


 俺が頷くと、ハッとした様子の九頭龍が、俺を睨みつけ、動き出す。九つの首が、俺を取り囲むように展開し、それぞれ口を大きく開き、口の中から熱波を放出しようとしてくる。


 俺は無間を高く掲げ、静かにスキルを発動させた。


 ―かみごろし発動―


 無間から、真っ黒な波動があふれ出し、俺の体を包んでいく。

 それを見た九頭龍は、口に溜めていた力を放出してくる。

 俺は漲ってきた力を込めて、無間を横なぎに思いッきり振った。それぞれの攻撃が弾かれ、俺は無傷だった。


 そのまま自分の体に目を通す。神人化の時と同じく、髪が伸び、そして、腕には何やら文様が浮かんでいる。

 神人化と違うのは、手の爪が伸びているということ、黒髪のままだということ、見たわけではないのでわからないが、感覚的に、牙も生えているようだ。


 そして、おもむろに頭の上の方に手をやった。何かに当たる感覚がする。無間の腹で自分の顔を見てみると、額の右側からだけ、角が生えていた。

……いや、生えているというよりは、神人化の翼と同じく、気で作られた疑似的なもののように感じる。顔にも何か文様が浮かんでいる。瞳は、ジゲンと同じような赤い目となっていた。


 どうやら、鬼人化とやらは終わったらしい。俺は無間を構えながら、どんな技が使えるのかと自分を鑑定する。


 だが、やはりというか、この姿で使える特殊な力は一つだけだった。まあ、神人化の時も、実質使えるのは「光葬針」だけだ。俺はそれを改良させて、技を増やしているだけだからな。この点は同じなのだろう。


 さて……俺は試しにと思い、首の一つに向けて手を向けた。そして、気を集めていく。 

 俺の手の前に黒い塊が、バチバチと音を立てて、集まりだした頃、頃合いを見て、放った。


「鬼火!」


 黒い塊はそのまま人魂のように揺らめき、首の一つに飛んでいく。その首はがぱっと口を大きく開き、中から溶岩を噴出してきた。どうやら、俺の技を防ぎたいらしい。

 だが、九頭龍の予測は外れることになる。

 俺の攻撃と、溶岩の攻撃がぶつかった瞬間、俺の鬼火が、溶岩を焼き尽くしながら、首の一つへと伝っていき、その首を燃やし始めた。


「グギギャアアアア~~~ッッッ!!!」


 雄たけびを上げ、苦しむ首の一つ。他の首にも神経がつながっているのか、いわゆる冥界の波動に触れてかで、苦悶の表情を浮かべ、何も出来ないでいる九頭龍の首の間に駆けていき、そのまま、燃えている首を斬り落とした。

 斬り落とした後も、なお、黒い炎は消えることは無く、ついに、首の一つを焼き尽くしたところで、同時に炎も燃え尽きた。


 九頭龍のそれぞれの首は、首の一つが斬られていても余裕そうな顔をしている。本来なら、これくらいの欠損くらいは再生するからな。


 だが、俺が斬った首は何時まで経っても再生しない。九頭龍たちの顔から余裕そうな表情が消えていった。


 どうやら、鬼火には魔物……いや、この場合、龍族の力を封じることが出来る力があるらしい。鬼火というか、冥界の波動にはな。


 鬼火はやはり神人化のときの光葬針と同じく、冥界の波動を俺の意識に応じて、形を変えるという技のようだ。だが、光葬針と違うのは攻撃性が強い技だ。形を変えるだけではなく任意の対象を燃やしたり、俺の思い通りの効果を発揮することが出来る。

ただ、他にも何か出来るようだが、今はこれで充分だ。


 さて、九頭龍の首は自らの体がついに再生しないということに気付くと、怒ったのか俺に向けて首を伸ばしてきた。そして、口を大きく開き、噛みつこうとしてくる。

 俺は無間を前に出し、そいつの牙に当てて、動きを止めた。自分が止められたということが信じられないという表情で再度俺を見て、驚いている九頭龍。


 俺はその首、更に、近くにあった二つの首まとめて、鬼火を纏わせた斬波を放つ。


「焦熱斬波ッッッ!!!」


 黒い斬波が無間から放たれ、俺の目の前にあった首の上あごから上と、近くの二つの首を焼き切る。痛みにもがき、暴れる九頭龍から、離れ、近くの岩場でその様子を見下ろしている。


 やはり、飛ぶことは出来ない。が、ひとごろしを使っている時と同等に体が動く。飛んでいる敵にもこれなら対処できそうだ。


「ギャオオオオ~~~ッッッ!!!」


 突然九頭龍は雄たけびを上げて、地面から離れようとする。俺はその場から飛び降り、上から無間を振り下ろした。


「オラアアアッッッ!!!」

「グギャッ!」


 俺が斬った首は一つだけ。無間が当たると共に、焼き切られる首を捨て、九頭龍は空へと飛び立つ。

そして、首を上空に向けた。先ほどのように龍言語魔法でも使うらしい。


 俺は手を上空に掲げ、九頭龍の頭上に鬼火を放つ。そして、魔法陣が展開された瞬間、鬼火を九頭龍に落とすように、手を振り下ろした。


「くらいなッッッ!」

「グギッ!?」


 鬼火が九頭龍の一つの首に当たった瞬間、その首だけが地面へと落ちていく。つられて、九頭龍は再度地面へと叩きつけられ、上空に展開されていた魔法陣は霧散していく。

 よろよろと起き上がる九頭龍だったが、鬼火が当たった首だけは、なおも地面にくっついたように、辺りをへこませながら、めり込まれていく。


 俺は鬼火に加える力を強めるように、手を握った。すると、鬼火は大きくなり、ぐしゃっという嫌な音と共に、その首を潰した。


 この技は、相手に頭上に大きな重力の塊を降らせるという技だ。天に行こうとしても行けない鬼族が、ならば天に居る敵を引きずり降ろそうとして編み出された技なのかもしれないと思ってしまう。

 まあ、こんな感じで、鬼火を使い攻撃するというのは、どうにも幅が広がってくるみたいだ。


 さて、残った首はあと四つ。流石に半分以上の首を落とされた九頭龍に、段々と焦りのような感情が芽生えたようだった。

先ほどから、俺を見るだけで攻撃は仕掛けてこない。


 天災級ともあろう魔物が、ただ一人の人間である俺に対して、こんな態度をとるというのが、何とも滑稽な光景に思えてきた。


「……頃合いか……」


 もうそろそろこの闘いにもケリをつけて、先ほど交わした雷帝龍との約束でも果たそう。そう思った俺は、九頭龍に無間を向ける。

 目を見開き、一瞬ビクッとした九頭龍は再度空へと飛び立とうとする。俺は死神の鬼迫を使い、九頭龍の動きを止めた。


「ギャッ!?」


 ……へえ、こんな奴でも恐怖くらいはするのか……。


まあ、良い。さっさと終わらせよう。


 腰なんて無いのだが、腰を抜かしたようにその場から動けないままでいる九頭龍に向けて駆け出す。

 九頭龍は観念したのかどうか、知らないが、玉砕覚悟といった感じで、残った四つの首で俺に向けて一斉に突進してきた。

 俺は九頭龍とぶつかる瞬間、無間をふるう。


「ウオオオオッッッ!!! 奥義・焦熱無斬ッッッ!!!」


 技を発動させると、無間から勢いよく鬼火が噴き出てくる。それは刀身に纏わり、無間を振るごとに勢いが強くなっていく。斬撃自体も強力なものになっていき、九頭龍の首は細かくなりながら、もう再生も何も出来ないようにと、焼かれていく。


 そして、残った首を斬り終えると、俺の目の前には、九頭龍の胴体だけが残った。先ほどのように、何か脈打つ音が聞こえてくる。

 俺は、少々戸惑ったが、意を決し、そのまま最大の攻撃力となった無間を縦に思いっきり振り下ろした。


「ウオオオオオオッッッ!!!」


 九頭龍の胴体に縦に一直線の線が現れ、そのまま左右に裂けていく。多くの血を吹き出しながらも、鬼火によって焼かれていく九頭龍の胴体。


 それを眺めながら、俺は無間をしまった。これだけやれば、もう九頭龍が復活することは無いだろう。俺は鬼人化を解き、再び神人の姿になった。


 そして、焦げ跡だらけの九頭龍の死体に向けて手をかざす。


 さて……約束は守らないとな……。


「……おい。言われた通りにしたんだ。さっさと出てこい。俺は忙しいんだからな……」


 半ばイラつき気味に声をかける。だが、返事はない。流石にやり過ぎたかな、と思っていると、九頭龍の死骸が突然輝きだす。また、復活かと思ったが、違うようだ。

 目の前の九頭龍の死骸に目を向けていると、死肉の中から大きな光の塊が、出てくる。

俺はその死肉と光の塊に、光霊波を当てていく。すると、俺の光霊波、つまり天界の波動がどんどん、その光に吸い込まれていった。

 そして、段々と強くなっていくその光の塊。流石にこれ以上目を開けていられないと俺は目を瞑ってしまった。


 その後、しばらくすると、俺の頭の中に声が響く。


 ―……待たせたな……―


 俺はゆっくりと目を開ける。

 すると、そこに居たのは、全身が真っ白の長い龍だった。先ほどの九頭龍と違い、牡鹿のような立派な角に、鬣、純白の鱗を身に纏ったそれは何とも荘厳で、厳格な姿をしている。


「もう……良いのか?」

「……ああ……すまないな、人間……そして……感謝する……」


 龍の姿になってからは、直接頭の中に声を届けることなく、そのままの姿で俺に語り掛けてくる。その龍、雷帝龍は、俺に頭を深く下げて、感謝の言葉を述べていた。


「気にするな……まあ、行きがけの駄賃ってやつだし、正直上手くいけば幸運だという認識しか持っていなかった。アンタが無事ならそれでいい」


 そう言うと、雷帝龍は何故か再度俺に頭を下げてきた。


 あの時、雷帝龍から聞いた策。それは、九頭龍自体を斬ってくれというものだった。そうすることで、雷帝龍を封じる兼、雷帝龍を核として使われている、「九頭龍の肉体」自体が破壊されるというわけだ。

だが、その分雷帝龍も弱体化する。それを俺から出ている天界の波動で癒せば、かつてのまではいかないが、ある程度雷帝龍の力も回復し、この世に顕現することが出来るのという考えだった。

 肉体自体は、ここにある多くの魔物の集合体である、九頭龍の死骸を使えば良いとのことだった。後はそれに憑りつき、雷帝龍の魂自身が、死骸を内側から組み替えるとのことだったので、一応、死骸は残したというのが先ほどまでの一連の流れだ。

 そして、俺も残った部位を異界の袋に詰め込んだ。それを見ながら雷帝龍は口を開く。


「しかし、ここに人間とは……ひょっとして、我を倒しに来たのか?」

「いや……っと、そうだ……聞きたいことがあるんだった……」


 俺は、作業を一回止めて、背中の無間を抜き、雷帝龍に向けた。雷帝龍は目を見開き、俺をジッと見ている。


「……一か月ほど前に、ここに人間が来なかったか? 俺のこの紋章と同じものを付けた奴らなんだが……」


 俺は自らの背中を指さしながら雷帝龍に闘鬼神のことを尋ねた。


 先ほどまでは、九頭龍に利用され、力だけを使われ、人界の大いなる災いとなっていた雷帝龍をどうにかして助けるということで、コイツに接してきた。


 しかし、ここからは別だ。もしもこいつがリアたちを傷つけた本人だというのならば、この場で叩き斬ってやる。そして、万が一、闘鬼神を全滅させていたのならば、魂でさえも滅ぼしてやると思い、俺はすべてをきるものを発動させた。


 雷帝龍は自身に突き付けられた無間を見て、俺の顔を見て、静かに口を開く。


「……何か、事情がありそうだな。話してみてはくれんか……?」


 俺は、雷帝龍の言葉に、ここに来たいきさつを話した。闘鬼神の調査依頼のこと、いろんな奴らから聞いていた、人界の大いなる災いのこと、そして、闘鬼神を探しに来たのは良いが、なかなかその姿が確認できないということ。


 更に、俺自身のことも話した。こことは違う世界から来ている、迷い人だということも全て。


 すると、雷帝龍は目を閉じ、しばらく考え込んだ。そして、ゆっくりと目を開けて、俺の顔をまっすぐと見てくる。


「異世界の人間よ……すまぬが、お主の仲間がここに来たとき、我はすでに九頭龍の核となっていた……その間のことはわからぬ……」

「……そうか」


 やはりというか、予想していた答えだった。九頭龍となっていた時、コイツの意識は皆無だった。闘いの際中俺に話しかけてきたのは、何かきっかけがあったからだろう。

 恐らくはあの時、俺は神人化していたから、その影響かもしれない。

 ゼブルと闘っていた時にゼブルの中に居た魂と会話することが出来たからな。神人には恐らくその能力があるのだろう。


 雷帝龍の言葉を聞き、ならばこいつとはもう、関わることは無いなと思い、無間を収める。

そして、光葬針を使い、更なる捜索を始めようとしたとき、雷帝龍は更に口を開いた。


「……だが、お主の仲間というのがこの山に居るのかどうかというのは、すぐにわかることが出来る」

「本当か!?」


 俺は立ち止まり、雷帝龍の顔を見た。雷帝龍は、俺の言葉に、深く頷いている。


 そして、静かに瞑想を始めた。すると、雷帝龍の腹の辺りが輝きだす。その光は段々と強さを増していき、雷帝龍の気合と共に、辺りに広がっていった。

 俺は身構えるが、痛みはない。辺りを見ると、雷帝龍を中心として、何か結界のようなものが張られていることに気付く。

 雷帝龍から出た光はどんどん広がっていき、この山や、その周辺全てを覆い尽くすほどにまで、大きくなっていった。


「これは……?」

「うむ……これは我の作り出した結界陣だ」

「結界陣?」

「ああ。龍族が、己が領域の範囲を他の者に知らしめるために使うものだ。この中では、領域の主の力が増し、更には領域内の情報をすべて知ることが出来る」


 つまりは、自分の陣地はこの範囲だという意思表示をするときに使われるものだという。

そして、その陣地の中では、自分や、自分が子分と認めた存在、雷帝龍が言うには、「眷属」と呼ばれる者達の力が向上し、外敵に対抗できるようにするという。

 陣地の主は、自分の陣地で何が起こっているのか、わかることが出来るという。

 その特性を生かし、雷帝龍は現在、この山のどこに闘鬼神たちが居るか探っているようだ。


 雷帝龍の頭の中には、この山のありとあらゆる風景が駆け巡っているのだという。もし、生き残りが居れば、すぐにわかると言って、雷帝龍は、そのまま瞑想を続けた。


 やがて、ゆっくりと目を開けた雷帝龍は、展開していた、陣地の結界を解いた。力を使って、疲れたのか、雷帝龍は、地面へと降り、一息ついている。

そして、俺の方を向き、口を開いた。


「この山をくまなく見てみた……だが、その姿を見つけることは叶わなかった……」

「……そう……か」


 俺は思わず、言葉を失った。何となくそんな気はしていた。これだけ探しても出てこないのだ。もうここには居ないのかという気は確かにあった。


 最悪の事態……か。


 俺は、雷帝龍に頭を下げ、ここの探索を終え、次にスケルトンが居る樹海に行こうと飛び立とうとした。

 しかし、突然慌てたように雷帝龍が語り掛けてきた。


「待つのだ! 確かにお前の仲間を確認することは出来なかった。だが、死んでいるとは一言も言っていない! 死んだ形跡が見当たらないのだ!」

「死んだ……形跡?」


 俺は立ち止まり、雷帝龍の言葉に耳を傾ける。


 話を聞くと、龍族、あるいは神族には、生きている者達の死んだ形跡というのが分かるという。

 命あるものが死ぬ時というのは、肉体が滅んだ時、あるいは生命活動を辞めた時である。分かりやすく言えば、肉体を破壊されたり、心臓が止まったり、血を流し過ぎたりといった時、いわゆる、俺達で言うところの、普通の「死」の形だ。

 そうなると肉体に宿っている魂というものが出てくる。そうなった状態がこの世界での、正確な意味の「死」となる。ちなみに、魂までも無くなる状態のことは「無に帰す」というらしい。

 それで、死んだ形跡というのは、肉体を喪った魂が、辺りを漂っていたり、魂そのものに宿っていた魔力があたりに残留していたりしている状態だという。

 魂を生み出すと云われる、神族が生み出した龍族は、能力の一つとして、それらを感知できるという。


 そして、雷帝龍曰く、この山には、闘鬼神たちの魔力、あるいは魂の残痕などが見当たらないし、感じることもできないという。

つまり、死体が無く、更には死んだ形跡というものが無いので、少なくとも闘鬼神は生きていると、言いたいらしい。


 俺は、雷帝龍の言葉を聞き、段々と心が軽くなっていくのを感じた。

 未だ安否を確認したわけではないのだが、死んだと思い込みそうになっていた闘鬼神の奴らが生きているという可能性が分かっただけでもうれしかった。


 俺はその場に跪き、雷帝龍に頭を下げた。


「感謝する……」


 すると、雷帝龍は頷き、俺のそばに寄ってきた。


「礼は良い……我を九頭龍から解放した……それだけで、我にはお主に十分すぎるほどの恩がある……お主の助けになれたのなら……良い」


 俺は雷帝龍の言葉に頷き、立ち上がる。

 可能性という段階ではあるが、ここに来たのは間違いではなかった。ただ一つ芽生えただけの希望だったが、それがあるだけでも、充分だ。


 そして、次なる行動に向けて、しばらく俺は、その場で休息をとった。

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