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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
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第203話―少し面倒なことになる―

 ギルドに着くと、最初にケリスが居ないか確認する。だが、辺りを見渡してもその姿は見えなかった。

 良いことなのだが、あれだけ言ったにもかかわらず、居ないとなると、どこか不気味で落ち着かない。

 本当にケリスは惚れっぽい奴だったんだなと思うしか無いようだ。


 まあ、居ないなら良いやと思いながらも、一応ツバキは外套を被ったままだ。ツバキの容姿は目を引くからな。他の冒険者に絡まれても面倒くさい。


 そして、まずミオンの所に向かった。いつものように、仕事をしていたミオンは、俺達が近づいていくと、顔を上げて、ニコリと笑う。


「あ、ムソウさん、それから、ツバキさん、お疲れ様です」

「おう、いつものように、報酬を貰いに来たぞ」


 そう言って、天宝館で貰った査定受け取り票を渡した。ミオンは、頷き受け取り票を見ながら、依頼の資料と照らし合わせる作業を始める。

 いつものように、ミオンから質問が来るたびに、俺はそれに答えている。


「えっと……今回はいつもと違い、こちらの資料よりも討伐数の方が少ないですね。何かございましたか?」

「スライムだったからな。倒すことは出来たが、素材は残らなかった」

「はあ、ムソウさんの場合、そういうこともあるのですね……ただ、確認がとれていない以上は、完全達成にはなりませんが、よろしいでしょうか?」

「ああ。問題ない」

「かしこまりました。ただ、完全達成との確認が取れましたら、後日改めて報酬をお支払いいたします」

「そうか。わかった」

「それから……」


 と、手続きが滞りなく進む。そして、ひとまず全体的な項目の確認が済んだミオンは、奥の部屋から報酬と、素材の売却金が入った袋を持ってきた。


「お待たせいたしました。こちらが、今回の依頼の報酬、銀貨300枚と素材売却金である銀貨91900枚、合計銀貨92000枚ですので、両替しまして、金貨92枚となります。今回もお疲れさまでした、ムソウさん、ツバキさん。それから、リンネちゃんも」


 ミオンは報酬の入った、袋を俺に渡しながら、手を伸ばし、俺の懐に居るリンネの頭を撫でた。リンネはうっとりしながら喜んでいる。


「ありがとう、ミオン。さて、報酬も受け取ったことだし……」

「あ、ムソウさん、少々お待ちください。アヤメ様から、ムソウさんがいらっしゃったら執務室へ通すようにと仰せつかっております」

「ん? そうか。何だろうな」


 このまま明日取り組む依頼を決めて帰ろうかと思っていたのだが、どうやらアヤメから話があるらしい。俺達はミオンと別れて、アヤメの部屋へと向かった。

 そしていつものように戸を叩く。


「アヤメ、居るか? 冒険者のムソウだ」

「ん? おお、ムソウか。入れ」


 いつものように、陽気に返事をするアヤメ。

 だが、何かを気取ったのか、リンネが俺の懐で震えている。


「またか?」

「キュウ……」


 何に気付いたのか確認するように聞いてみると、リンネはコクっと頷く。リンネの怯えぶりを見る限り、本当に今日は本気らしい。

 俺にだってわかる。戸の奥から今までよりも、強い殺気を感じる。下手すりゃ殺す気だな、これは。


 隣でツバキはきょとんとしている。初めてだからな。仕方ない。取りあえず、ツバキを一歩下がらせ、リンネを預けた。


 そして、俺はそのまま懐からクナイを取り出し、片方の手で、戸を開けた。


「何か用か、アヤ――」

「オラアッ!!!」


 雄たけびと共に、やはり、今日もアヤメは思いっきり刀を俺に振ってくる。俺は、クナイを使い、アヤメの刀の切っ先を逸らした。

 そして、アヤメの胸倉をつかみ、足を払ってこかせる。


「まだだっ!」

「ん?」


 倒されながらも、アヤメは口から毒針のようなものを飛ばす。俺はそれを躱し、アヤメの体を浮かせて、再度、床に叩きつけた。


「ガハッ!」

「ッ!」


 俺は、叩きつけられた衝撃で、上手く息が出来ないでいるアヤメの顔の横に、クナイを突き刺す。目を見開くアヤメ。

 そして、懐からもう一本のクナイを取り出し、アヤメの首筋に突き付けた。


「終わりってことで良いか?」


 そう言うと、アヤメは、はあ~と長い溜息をついて、渋々頷く。


 ツバキは未だに後ろで呆然としている。ああ、これだと勘違いされそうだ。俺は珍しくおろおろとして、何も言えないでいるツバキに事情を説明。

 俺が、何か言うたびに、ツバキの肩に居るリンネも頷いてくれている。

 全てを話し終えると、ツバキもため息をついて頷いた。納得はしていないが、仕方ないという表情だ。


「しかし、急に斬りかかるとは、まるでどこかの十二星天様のようですね」

「ああ。“武神”とかいう奴にそっくりだな」


 ツバキにそう返して、アヤメを見下ろすと、フンッと言って、顔を逸らし、起き上がる。そして、刀を鞘に納めると、椅子にドカッと座った。


「あの爺いと一緒にされるのは心外だな」

「じゃあ、お前は誰の影響でそうなっているんだよ」


 そう言うと、アヤメはまたプイっと俺の方から視線を外した。誰の影響かは分かっているが一応本人の思いを確認してみる。


「サネマサってよりは、ジロウって奴っぽいな」


 俺が呟くと、ギクッとした様子のアヤメ。


 ……うん。俺達が思っていた通りの結果だ。良かったな、ジゲン。本当にアヤメはお前の言うところのいい子に育ったようだぞ。


 まあ、そんなことは正直どうでもいい。俺達は、アヤメの正面に座り、呼んだ理由を尋ねてみた。


「で、結局何の用だ?」

「ああ……少し面倒な用件だ……」


 アヤメはそう言って、俺の顔を気まずそうに見る。面倒な用件か。毎度ここを訪れる度に行われるアヤメの奇襲ほど面倒なことなど無いのだがな……。

 まあ、いいや。特に思い当たることが無いな。何のことだろうと、思っていると、アヤメは重々しく口を開く。


「……王が、お前に会いたいと言っている」

「……は?」


 アヤメの言葉が一瞬理解できない。横のツバキもそれは同様で、目を大きく開けたまま微動だにしなかった。

 やがて、言葉の意味を理解してくる俺。王と言うと……一人しかいないよな……。確認の意味も込めて、アヤメにもう少し聞いてみよう。


「王というと……人界王のことか?」

「……他に誰が居るんだよ」


 ……あ、やはりそうか。


 話を聞くと、噴滅龍、破山大猿、古龍ワイバーンといった災害級の魔物の討伐、および、数多くの超級依頼の達成の報は、既に人界王の耳にも届いている。何故なら、それらの報酬を求める際に、ギルドの長であるセインに報告したからな。

 そして、マシロでのデーモンロードとミリアンの討伐といった功績もあり、俺に対して王宮から感謝状の授与という話があった。

 それは知っている話だ。以前、アヤメから聞いた。もちろん、蹴ったがな。あまり目立つのはよくないと思っていた。


 だが、その後も度重なる超級依頼及び、クレナの冒険者不足の解決等々の功績を聞き、人界王オウエンが直接俺に会いたいと言ってきているらしい。

 この世界で一番偉い王がそう言っているのだから、いかにアヤメでもどうしたら良いのかわからず、俺に相談してきたということらしい。


「というわけなんだが、何か質問はあるか?」


 質問も何も、今聞いたばかりで頭の中は混乱している。何故王が……たかだかそれだけの為に会いに来たいというのだろうか……。

 一つだけ疑問に思うことがあるので聞いてみた。


「ちなみに、王は誰の勧めで、俺に会いたいと言ってきているんだ?」


 王自らが会いに来たいと言っているというのはよほどのことだ。誰かから俺のことを聞いたに違いない。一応、疑わしいのは、ギルド長のセインだが、セインと王は、ミサキやコモンの話によると、仲が良いとは思えない。

 ましてセインは俺のことを嫌っている。人界王に俺のことを勧めるとは思えない。一応、誰の差し金か確認する必要がある。


「え~っと、王が言うには、サネマサの爺いと……ミサキの小娘らしい」

「……ああ、なるほど」


 大体予想していた答えが返ってくる。俺と関りがあり、王にそんなことを勧められる奴など限られてくる。十中八九、十二星天だと思っていたが、やはりあの二人だったか。

 コモンは言うわけないからな。俺が、面倒ごとに巻き込まれるというのが嫌いだということを分かっているから、そういうことはしないはずだ……と、信じている。


 そして、サネマサは知らないが、ミサキ辺りは、先述のセインとの関係もあり、俺と王を会わせたいと思いそうだと想像がつく。十二星天内の問題を俺に解決してほしかったみたいだからな。


 ひょっとして、サネマサもミサキに何か言われたか? 俺が今、あいつの故郷に住んでいるということもあるし、人界王に引っ付いてここまで来そうな気がする。


 まあ、ミサキのことを悪く言うつもりはないが、人界王と会うというのは確かに面倒、というか、どちらかと言えば、複雑な心境だな。

 だが、断るわけにもいきそうにないというのも確かだ。


「……どうしたものかな……」

「そう言うと思った……ただ、俺個人の話をすると、人界王がここに来るという話は、悪い話じゃないと思っている」

「ほう……それはなぜだ?」

「この領の現状を直接訴えられるからな。王がここに来て何かを感じ、行動してくれれば、流石の貴族たちも黙るだろう」


 なるほどな。アヤメがここに人界王を呼びたいという気持ちがよく分かった。現状、貴族、あるいはアヤメが王都にこの領のことについて訴えている。

 だが、アヤメと貴族たちの言うことは恐らく食い違っている。そうなった場合、どちらの言うことを王都が信じているかというのは、この領に住んでいてよく分かる。


 人界王というのは俺も話で聞く限りでしかわからないが、心根は良い奴らしい。ここの現状を知っていたなら、必ず王としての行動をとるだろう。それが無いということは、王都の貴族、あるいはセイン派閥でアヤメの訴えが、止まっているのだろう。

 この状況を打破するには、確かに人界王がここに来た方が良さそうだ。


 ……だな。ここで俺が一歩下がって、決断するだけで、クレナの問題が快方に向かうと考えたら、答えは一つだ。


「……分かった。人界王の申し出、受け入れよう」


 俺が人界王と会うということを承諾すると、アヤメは意外そうに眼を丸くした。


「良いのか? 返事はそこまで急いでいないぞ」

「ああ。こういうのはだらだら長く考えるよりも、即決した方が良いだろう。……ただし、条件がある」


 取り合えず、俺は人界王と謁見する……というか、直接会うことを決意するが、いくつか条件を貰う。


「まず、会うなら、うちの屋敷でだ。下手に妓楼とかでやるよりも落ち着くからな」

「それは向こう次第だが、問題ないだろう。他には?」

「人界王の護衛は、サネマサと、サネマサが選んだ奴らで頼む」

「ああ……それも大丈夫だ。俺の方から爺いに連絡しておこう」

「ありがとう。で、最後だが、会うのは、現在闘鬼神が行っている調査依頼が終わった時だ。領内の安全が確認されないといけないだろ?」

「まあ、それもそうだな……以上か?」


 アヤメの言葉に頷く。

 一つ目の条件については、単純に話すなら落ち着いたところでやりたい。下手に妓楼とかでやると、話しづらい話も出来ないし、今回王はお忍びらしい。となれば、花街に居る貴族たちにも内緒ってことだ。貴族と関わりたくないので、俺の屋敷にて行う。

 そして、この願いが通れば、サネマサの護衛は確実にしてもらう。向こうにも俺の知り合いがいて欲しい。話をうまく丸め込まれないようにするための策だ。

 それに、こないだ話したばかりのことだが、屋敷にサネマサが来れば、たまも喜ぶだろうしな……まあ、王が来ても喜びそうだが。

 ……ジゲンについては……後で、きちんと説明しておこう……。


 最後の条件については、アヤメにも言ったように、王に危険が及ぶのを避けるためである。仮に王が死んだら後味悪いし、俺の所為にされそうだからな。だからこその、サネマサの護衛なんだが、一応、きちんとした安全が確保されている状況で、王とは話がしたい。


 というわけで、調査が終わり、取りあえず今判明している、樹海のスケルトンを倒すまでは、人界王には会えないと、サネマサに伝えることにした。

 アヤメは、分かったと頷き、今日中には、伝令魔法を飛ばすという。


 何とも予想だにしなかった用件ではあったが、不思議と面倒くさいとは感じていないのが不思議だ。人界王については、そこまで悪い印象ではないからな。それにお忍びみたいだし、目立つこともないかと思っている。どうなるかはわからないがな。


 ふと、横を見ると、ツバキが微笑みながら俺を見つめていた。


「いつも通り、ムソウ様らしくしていれば、問題ないと思いますよ」

「いつも通りか……無礼者って斬られねえと良いがな……」

「それだと爺いは、すでに墓の下だな」


 アヤメの言葉に笑う俺達。なるほど、アヤメから見ても、ツバキから見ても人界王というのは良い奴らしい。こんな冗談が言えるのだからな。ならば俺も楽しみにしておこうかと思い、話を進める


「さて、謁見……というか面会は、調査完了までということだが、ダイアン達が受けている調査はどれくらいの期間がかかりそうなんだ?」

「ん? そうだな……まあ、最悪でも一か月くらいかな」

「ああ、やはりそれくらいはかかるんだな。では、俺たちも準備ができるか」


 やはり、アヤメの考えでも、調査依頼にはそれほどの時間が必要みたいだ。だが、今回に関しては運がいい。ゆっくりと俺達も人界王との面会の準備をすることが出来る。

 それまでの間に、スケルトンの軍勢だけでも、俺が対処すれば良いだけのこと。後は、出来るだけ多くの依頼でもこなしていこう。


「さてと、そろそろ帰ろうかな」

「そうか。また何か分かったら連絡するからよ」


 アヤメは仕事をしながら、俺達を見送った。

 俺達はその後、明日取り組む依頼を受注する。そこまで大きなものは無かったから、取りあえず、ツバキの新しいクナイなどの練習にと、下級の魔物の討伐依頼を受注した。

 実戦で教えていく方が良いと思うからな。明日から、ビシバシ鍛えていくぞ、とツバキに言うと、ニコリと笑って、頷いた。


 そして、ギルドを出た後、帰りながら、ツバキと人界王について話す。


 ツバキから見ても、現在の人界王、エンオウは良い印象らしい。会ったことは流石に無いのだが、噂だと、王としての奢りなどはなく、全ての者達に平等に接する男のようだ。居を構える王都だけではなく、他の領についても何か問題があれば、その地を治める領主と連携し、小さな問題事にも積極的に向き合っているらしい。

 さらに、世界で唯一の鬼人ということもあり、闘いの腕前も相当なものだという。


「それは……ますます会うのが楽しみだな……」


 人界王が強いということを聞いた俺は、少しほくそ笑んでしまう。うまく言いくるめて立ち合いというのも出来そうかな、などと思っていると、ツバキが横で咳払いする。


「ムソウ様、斬っては駄目ですよ」


 ツバキは呆れたような目つきで、ジトっと俺を見てきた。別に斬りたいわけでは無くて、一戦交えたいだけなのに、何故こんな対応をされるのかと頭を抱える。


 まあ、そんなことはさておき、取りあえず王との謁見まで一か月の猶予がある。その間に、俺達も出来る限りのことをやっておこう。

 その間に、コモンも帰ってきてくれれば、大助かりなんだがな。

 まあ、あいつも忙しいみたいだし、無理なら無理で、諦めておいた方が良いだろう。


 そんなことを思いながら、屋敷に居る奴らには何て説明しようかとツバキと相談していると、俺の方の上に居るリンネの腹が鳴る音が聞こえる。


 長い一日だったからな。流石に腹が減っているらしい。実を言うと、俺もだ。早く帰ってたまの飯が食いたい。

 俺達は、やや早歩きになって、家路を急いだ。


 その後、家に帰ると、早速今いる女中たち、そしてジゲンとたまに飯を食いながら、アヤメから聞いた人界王との謁見について報告した。


 流石に皆、信じられないという顔で、俺を見ている。俺もアヤメから聞いた時は、そんな反応だったから皆の気持ちは分かった。

 やがて、落ち着いてきた皆に、ことの仔細を説明し、それでも一か月の間に色々な準備をしようと伝えると、皆は頷く。良かった。反対されたらどうしようかと思ったが、杞憂だったらしい。

 たまは、自らが作る料理を人界王が食べるということで、やる気に満ちている。怖気づかない辺りがたまらしいなと思う。女中たちに、たまの補佐をしっかりと頼むと、先ほどよりも強く、大きく皆は頷いた。


 一方、ジゲンの方は、サネマサが人界王についてここに来るということに関して、遠い目をしている。

 確かに俺も、アヤメから話を聞いた時は、何も思わなかったが、サネマサがここに来るということは、ジゲンと会う……というか、再会するということだ。目的を達するまでは、ジゲンのことを秘密にしたかったのだがな……。

 しかし、後で確認すると、ジゲンは大丈夫なようにすると笑った。具体的なことは何も言わなかったが、恐らくアヤメたちにやったように、変装でもするのだろう。もしくは、その間だけ、姿を眩ませるかだが。

 ただまあ、せっかく来るのだから、会っていけばいいのになとは思う。その上で、サネマサにも事情を説明すれば、安心だと言ったが、やはりジゲンとしては、自分の目的にサネマサを巻き込む形にはしたくないとのこと。まして、それで、人界王を巻きこむ形になるのは避けたいとの思いだ。

 相手は、厄介な貴族。俺もその意見には賛成し、サネマサについては、ジゲンの言うことに任せることとなった。


 そして、一応アザミたちに、ダイアン達の依頼が、遅くて一か月ということもきちんと伝えた。昨晩の時点では不明瞭なところも多かった調査依頼のことだったが、アヤメの口から出た言葉をそのまま話すと、本当に安心したように、安堵の表情を浮かべる。


 俺の方も、ダイアン達について、詳細なことが分かり、安堵している。そして、早く帰ってこいと念じた。帰って来た早々に、驚かせてやろうとな。

 流石のリアとかでも、人界王がここに来るということを知れば、凄く驚くだろう。いつもはすましているリアや、ルイがどんな表情で驚くのか、それから、いちいち反応が面白いロロや、礼儀正しいカサネなどが、どんな感じになるのか、楽しみである。


 皆が帰ってきたら、そのまま人界王、サネマサ、そして、サネマサが連れてくる十二星天、さらには、アヤメ、この街を護るジロウ一家、ついでにショウブとナズナを呼んで、大宴会といきたいな……。


 そんなことを夢見ながら、明日も依頼に取り組むわけだしと、俺は今日も、リンネとツバキと共に、眠りについた。


 ◇◇◇


 ……


 ……


 ……


 ……俺は自室にて、地図を広げ、腕を組み今の状況を思案している。

 俺の前には、寝ているリンネを膝の上に乗せているツバキ、そして、ジゲン、最後に、念のためにと俺が呼んだ、この街の自警団の長、シロウが居た。

 現在ここでは、重要になるかどうかは分からないが、一応の会議というものが行われている。


 内容は、一か月前から行われている、ギルドの調査についてだ。あの時点で、アヤメは言った。ダイアン達が帰ってくる……すなわち、調査が終わるのは、遅くても一か月後だと。つまり、今頃になるわけだ。


 ……だが、未だにダイアン達は、帰ってきていない……。


 一応、アヤメの話を聞いてから十日は普通に過ごしていた。俺の方はツバキやリンネと共に、依頼をこなしながら、領の大小ある様々な問題に取り組んだりしていた。


 屋敷では、アザミやジゲンの指揮の下、人界王が来るための準備が行われていた。まあ、やることはいつもと変わらず掃除を念入りにしたり、庭の手入れをしたりだがな。

 たまとジゲンは、もてなしの料理の練習をしていたみたいで、あれから食卓には、練習で作ったという以前よりも煌びやかになった飾り料理が並べられるようになった。流石のたまも、今回は味だけでなく、見た目の感想を求めてくる。俺にはよく分からないので、全て良いものだと思っていた。

 そのあたりは、武王會館で学んだことを元に、ツバキと、妓楼で見てきた豪華な料理を思い出しながらアザミたちが、事細かに、たまの感想を言っていたので、問題なかった。

 そうやって、もう少ししたら、皆帰ってきて、その後は、人界王との謁見だとそれぞれ、自分が出来る準備というものをこなしていた。


 だが、二十日が過ぎても、ダイアン達は帰ってこなかった。そればかりか、調査に赴いた場所からの連絡も無かった。

 流石におかしいなと思った俺は、ツバキを伴い、アヤメに確認をとった。アヤメの方も、この状態に違和感があったみたいだが、闘鬼神は初めての調査で、慣れないことが多いだろうと言っていた。

 まあ、確かにな。慣れないことをやっているのだから、これくらい時間が経って当たり前かと俺もツバキもその時は納得した。


 そして、一応、シンムの騎士団、それからそれぞれ調査に赴いた場所に近い所にある集落の自警団と連携をとって、追加で調査隊の人員を派遣するということで、その日は落ち着いた。


 そして、現在……それからの情報は何一つ無かった。


 流石に何か、おかしいなと焦りを感じた俺は、こうやって皆と会議というか、これから俺がどうするべきかを知るために相談しあっている。


 シロウは万が一、連携をとることがあったときの保険のつもりで呼んでいる。忙しい身だが、事情を話すと、真剣な眼差しとなり、いつも世話になっている俺の為に、と会議に参加してくれた。本当にありがたい話である。


 さて、俺は地図を差しながら、今回の調査について、皆と確認を取り合っている。


「最初に調査に出たのは、リアの部隊。場所は、雷雲山、そして、翌日から、ダイアン達がクレナの樹海、カサネ達がチャブラとの領境である山岳地帯だったか。

 この中で、時間がかかりそうなのは、リアたちの行った雷雲山とツバキと爺さんは言っていたな?」

「ええ。調査の目的が不明ということですからね」

「それと、クレナの樹海もじゃの。相手が悪かったら、時間がかかるかもしれないと言ったはずじゃ」

「ここまで、かかるものなのか?」


 俺の問いに、ツバキとジゲンは、何か相談を始めた。そして、お互いの考えが一致したのか、頷き合い、考えを話す。


「儂は、ギルドや騎士団の調査についてはよく知らん。じゃから、これといったことは言えないのじゃが、クレナの樹海については、スケルトンの軍勢の規模が大きかったと考える他無いのう。

 そして、それらを使役するくらいじゃから、召喚した者が、強大な力を持っていると考えられるのお」


 つまりは、最初の予測通りの結果になっているかもしれないということだ。それだけの魔法使いならば、姿を確認することだけでも難しいからな。

 これに関しては、明日あたりから、俺が現地に行くということも考えておかないといけないな……。


 取りあえず、樹海についてはジゲンの考えに納得した。冒険者では無いにしろ、やはり元は一流の傭兵だ。地理にも明るいし、ジゲンの考えには毎度助けられる。


 そして、次にツバキも口を開く。


「雷雲山に関しては、情報がほとんど無いということが、問題ですね。以前アヤメ様から聞いた話ですと、最初の一度以来、調査の発端となった地震というのが起きていないということでした。現象が起きていない以上、調査のしようがありませんから、時間がかかっているのでしょう」

「その場合は、異変無しということで落ち着かないのか?」

「ええ。現地からその連絡があれば、そうなりますね。ただ……」


 ツバキはそこで口をつむぐ。そう、先も言ったように、アヤメに伝令魔法が届いていないのだ。つまりは未だに調査を行っているという可能性もある。

 だからアヤメとしてもどのようにすれば良いのかわからないそうだ。


 雷雲山に関しては、このままリアたちの対応を待つしかないのかと皆に伺うと、渋々といった感じに、頷いている。やはり、何かしらの違和感はあるようだ。ここにも、アヤメから了解を得たうえで、俺自身が赴いた方が良いだろう。


「次は、チャブラとの領境についてだが、これについて何か思う者は居るか?」

「こちらが一番謎ですね。何故ここまで時間がかかっているのか……」


 ツバキの言うように、ここの依頼はそこまでの問題はない。内容は、一応俺が倒し尽くしたはずになっているワイバーンに生き残りが居るかどうかの確認、および周辺の生態系の調査だ。古龍ワイバーンの出現の所為でめちゃくちゃになっているらしいからな。

 一応クレナからチャブラに行く唯一の道だ。街道の安全確保の意味もあり、調査が行われている。

 そんなわけで、他の二つよりもそこまで懸念はなかったが、ここからも伝令などは届いていない。調査に行ったカサネたちにも何かあったのだろうかと疑っている。


 だが、俺もツバキも、ジゲンも特には何も思い当たらなかった。

 そこで、一応と思い、シロウに視線を移す。今まで会話の外に居たシロウは、急に俺と目が合い、ぴくっと反応した。


「シロウは、何か思い当たることは無いか?」

「急に言われてもな……俺は騎士でもないし、冒険者でもないし、ましてや、傭兵でもないからな……」


 そう言いながらも腕を組み、思案を始めるシロウ。なんだかんだ言って、俺達の力になろうとしていることはありがたいと思った。

 横で、ジゲンもそんなシロウを微笑ましく眺めているようだった。


 すると、何か思いついたように、あ、と言って、身を乗り出した。そして、地図上の、領境の山岳地帯の周りにある森林地帯を指さした。


「そういや、この辺りって、昔から山賊だったり、盗賊だったり多かった気がするんだが、違ったっけ? 爺さん」


 そう言われたジゲンは、地図を覗き込みシロウに頷いている。


「ふむ、確かにその通りじゃの……じゃがのお、カサネ殿たちにかかれば、ここいらの山賊どもなどに遅れはとらんと思うのじゃが……」


 ジゲンの言葉に、シロウは、だよなあ~と頷いている。聞けば、この辺りには昔から山賊や盗賊などが頻繁に現れており、チャブラへ向かう行商人などを襲うといった被害が頻発していたらしい。

 だが、ジゲンの言うように、カサネたちが、そこらの山賊たちに後れをとることは無いと思っている。

 シロウはそいつらに調査を妨害されているのではないかと思ったらしいのだが、流石にそれは無いだろう。


「しかし、山賊か……俺がグレンと旅していた時にはそんなの居なかったな」

「それは、あの時、こちらにはワイバーンが群れを成していたではありませんか。その影響なのでは?」


 俺の疑問にツバキが即答する。まあ、そう考えるのが一番だよな。今でもここに山賊が居たとしても、古龍ワイバーンの出現で、逃げたか、あるいは食われたか……。


 まあ、何にせよ、調査の遅れに山賊が関わっているという線は無いな。考えてくれたシロウには悪いが、ここについても、何らかの影響で遅れが出ているということで話は纏まった。

 ただ、カサネたちについては、チャブラからも応援の調査隊というのが派遣される予定らしい。そいつらと合流すれば、クレナかチャブラ、どちらかに報告が届くだろうと思っている。だから、ここに関しては、俺が行く必要もないという結論になった。


 そして、会議が終わり、四人で茶を飲みながら落ち着いている。いつの間にか寝ているリンネを撫でていると、項垂れながらシロウが呟く。


「くう……おっさんに頼られていると思って勇んで来たのに……俺今日、ここに何しに来たんだよ……」


 どうやら先ほどの山賊の件を気にしているみたいだった。そこまで落ち込まれるとなあ。正直、何か言ってくれただけでもありがたいと思っていたのだが、本人は納得していないらしい。

 だが、俺はそんなシロウに向き合い、口を開く。


「……まあ、そんなに気にするな。俺がお前を呼んだのはまた、別の頼みがあるからだ」


 そう言うと、シロウはゆっくりと顔を上げ、目を見開く。ジゲンとツバキも同様に、俺の方を見てきた。

 正直に言えば、これから話すことが本題に近い。もちろん、調査隊の遅れについても何かしら関係があるのではないかと思っている。

 皆の視線がこちらに向かれる中、俺は思っていたことを語った。


「間もなく、人界に大いなる災いってやつが発生するらしい。そして、俺はその真っただ中に突っ込むことになる」


 さんざん悩んだが、ここに居る奴らにだけは伝えておこうと思った。

 流石に皆はきょとんとしている。俺は、ありのまますべてを話した。


 きっかけは、トウショウの里の朝日を拝みに行ったときに、変な現象が起きて、このことを聞かされた。そして、二度目は魂の回廊で鬼人の女に同じことを言われたと。


 状況が状況だけに、どうしようかと思っていたのだが、俺がそれに関わるということ、原因不明で調査が遅れていることなどを考えると、何となく嫌な気配がしてきていた。

 ひょっとしたら、闘鬼神もその波に呑まれているのではないかと思うと、気が気でない。思い切って三人に全てを打ち明けた。


 俺の話を聞き終えた皆は、少し視線を落とし、考え込む。

 そして、最初に口を開いたのはジゲンだった。


「……ムソウ殿は、闘鬼神の者達がすでにその、大いなる災いによって危ない目に遭っているか、もしくは最悪の状況になっていると考えておるのか?」

「いや……危ない目に遭っているということは考えている。伝令魔法を送らないのではなく、送られない状況になっていると思っているくらいだ。

 最悪の状況にはなっていないだろうと……思っている」


 ジゲンの質問に、そう言い切った。最悪の状況、つまりは、ダイアン達の死だ。そこまでは考えていない。大いなる災いというのは、どうやら魔物らしいからな。それも、天災級の魔物の可能性が高い。

 流石にそんな奴が現れていて、ダイアン達が襲われていたとしたら、既に何らかの情報は入っているはずだ。

 だが、そんな情報は入っていない。だから大丈夫だ……と、信じたい。ただ、それだけだった。

 ジゲンにそう言うと、そうか、とだけ頷いて、そのまま黙った。


「んで、俺をここに呼んだ本当の理由というのは何だ? そこまでの話になると、俺ではむしろ、役不足な気がするのだが……」


 次に口を開いたのは、シロウだ。天災級の魔物が出たとしても自分に出来ることは無いとシロウは言いたいみたいだが、俺は首を横に振る。


「いや、お前にも協力してほしいことがある。簡単な話だ。俺が災いと闘っている間、爺さんやツバキと共にこの屋敷を護って欲しい。もちろん、この屋敷を住民たちの避難場所として使っても構わない」


 シロウにやって欲しいこと。それはいつもシロウがやっていることとほとんど同じ内容だ。天災級の魔物との闘いとなれば、俺はここに居ることが出来ない。そうなると、たまや、女中たちを護ることが出来なくなる。

 街に被害が及びそうならば、住民達をもここに連れてきて、ジゲンやツバキと一緒に護って欲しいだけだ。


 今日ここにシロウを呼んだのは、急に天災級の魔物が現れて慌てないようにするためのものだ。幸い、ここには大量の薬もあるし、ミサキの結界魔法の魔道具もある。避難場所としてはうってつけだ。

 俺はシロウに頭を下げて、懇願した。しばらく悩んでいる様子のシロウだったが、一つため息をついて、ニカっと笑う。


「わかった。オッサンたちも護ると言ったのは俺だからな。オッサンの頼みくらいは聞いてやるよ。まあ、オッサン達なら無事に帰れると信じているけどな」

「感謝する、シロウ」


 いつもよりもだいぶ頼られる雰囲気のシロウに再度頭を下げて礼を言うと、気にすんなとシロウは笑った。こいつも強い男だ。きっと大丈夫だろう。


「そして……ツバキ。お前にも頼みがある」


 最後にツバキの方に顔を向けた。ツバキは黙って頷き、まっすぐに俺を見ていた。


「万が一の際、お前とリンネにもここで屋敷を護って欲しい。俺の代わりにジゲンやたま、女中たちを護っていてくれ」


 ツバキにも頭を下げて、そう頼むと、しばらくツバキは口をつぐんだままだった。


「私達は……お供についていっては駄目なのですか?」

「ああ。正直に話すと、今回ばかりは危険すぎる。お前やリンネを連れて行くわけにはいかない。

 だが、お前達の力を疑っているわけではない。お前を信じているからこそ、ここを任せたいのだ。重ねて言うが、頼む、ツバキ。俺の代わりに皆を護ってくれ」


 そう言うと、ツバキは、俺の手を取り、コクっと頷く。


「お顔を上げてください、ムソウ様。私のような者を頼ってくださり、本当にありがとうございます。ご用命、確かに承りました。ここは私達にお任せください。ですから、ムソウ様も無茶をせず、必ず生きてこちらにお戻りくださいね」


 ツバキは、ニコッと微笑みながらそう言った。俺はツバキの決意を信じ、頷いた。


 さて、これで懸念だった人界の大いなる災いというものについても、一応の策というものは完成した。このことについては、時間がある時に、アヤメにも伝えようと思っている。そのまま人界全土に広まってくれれば、少しでも安心できるからな。


 その後、シロウは自らの家に、ツバキは飯の用意をと、俺に寝ているリンネを預けて、部屋を出ていった。

 その際に、一か月も完成しないナズナへの手紙を早くしろと、シロウに伝えると、わかってる! と慌てて口にしながら、シロウは出ていった。忘れていたな? 二人の未来に先が思いやられると笑っていた。


 部屋に残ったのは、俺と寝ているリンネ。そして、ジゲンだけである。ジゲンは俺に闘鬼神のことについて聞いた時から一言も喋らない。


 ただ、俺には何を思っているのか、大体理解できている。ぼんやりとジゲンの様子を伺っていたが、ジゲンは茶をすすりながら、ポツリと口を開いた。


「ムソウ殿……儂が……何を考えておるのか……わかるかの?」

「……ああ……大体な」

「そうか……ムソウ殿、その時が来れば……儂は……自分の思った通りの行動をするが……良いかの?」


 ジゲンは決意を固めた目で、俺のことを見てきた。ようやく待ち望んでいた時が来たという強い目だ。俺は、ジゲンの言葉に静かに頷く。


「構わない。ただ、皆のことを護るってことだけは、忘れないでくれよ。特に……」

「わかっておる。今度こそ……儂は……大切なものを護ってみせる……」


 俺の言葉に、ジゲンは強く頷いた。


 そして、俺達は、その来るべき日に向けて行動を開始する。取りあえず俺は、この先一週間、何も連絡が無かったら、闘鬼神の者達の元へと向かうことにした。アヤメが何を言おうとも、何も言わなくても、独断でそうするつもりだ。

 その間に、色々と準備をする。道具だったり、薬だったり、必要なものは、ツバキと相談して、揃えていくつもりだ。

 万全の態勢で、ことに当たりたいからな。


 ……だが、そうやって過ごしていくうちに、突然、事態は急展開を見せることになった。


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