第198話―コモンの手紙を確認する―
ギルドに着くと、早速ミオンの所に向かう。だが、その前に、階段から下りてくるダイアン達に気付いた。依頼の帰りにアヤメに会って、調査についての話を聞いたらしい。依頼票のようなものを見ながら歩いていた。
「よう、ダイアン。それに皆も、お疲れさん」
「ん? お、頭領じゃないっすか。お疲れっす」
「お疲れ様です」
皆は俺に気付くと、軽く会釈をする。俺の肩の上に居るリンネを見ると、皆、喜びながら、リンネの頭を撫でていた。
女の冒険者たちは、癒される~などと言いながら、撫でている。今回も、苦戦こそしなかったが、苦労したようだな。
「頭領は、トロルの方は大丈夫だったんで?」
「問題ねえよ、あれくらい」
そうっすね、と頷くダイアン。そして、手にしている紙切れについて聞くと、やはりこれから行く調査依頼についてのものだった。
「リアたちも今朝方向かった。内容は知らないが、たぶん雷雲山だろ。お前たちは?」
「俺達は、頭領が大鎌カマキリを殲滅したっていう樹海の調査っす」
「スケルトンが出たって依頼があって、その調査ですね」
スケルトンというと、ミリアンなどが使っていた、あの動く骸骨の魔物だな。ということは、そいつらを作った奴が居るかも知れないな。
ダイアン達は、そういう奴が居るかどうかという確認と、スケルトンの規模などを調べるらしい。
「そうか。気を付けろよ」
「うっす……と言っても、明日出発する予定っすよ」
「たまちゃんの顔を見ておきたいからな。それに、ツバキさんも……ぐふふ」
「ちょっと、マルス。頭領が怒るわよ」
嫌らしい笑みを浮かべるマルスを、女たちが叱る。別にそこまで怒らねえよと思いながら頭を掻く。
にしても、明日に出発か。なら、準備が色々出来るな。俺は、ダイアン達に、虫よけの香などの昆虫型の魔物に対して有効的な道具を買うようにと指示し、いくらか金貨を渡そうとした。
だが、ダイアン達はそれを断る。持っていくものは自分で用意したいとのことだった。殊勝な心構えに驚き、喜ぶ俺だった。
その後、ダイアン達といったん分かれて、ミオンの所に向かう。作業をしていたミオンは俺に気付き、目を見開いたあと、なんだか安堵したような表情を浮かべた。
「あ、ムソウさん……よくぞご無事で……」
「おう、ミオン。遅くなってすまないな」
「何か、ありましたか? 「不測の事態」とか」
「まあな。だが、全て解決した。取りあえず、報酬は貰っていくぜ」
そう言って、査定受け取り票をミオンに渡す。ミオンはそれを受け取り、報告通りの依頼なのかどうか確認していく。
「あの……こちらの……トロルキングというのは?」
「……それも不測の事態だな」
ああ、やはりトロルキングの報告は無かったか。ミオンにそう答えると、はあ、と頷き、納得する。
最初の頃に比べると、疑われることもないので、余計な説明をしなくて助かる。
そして、全ての項目の確認がとれたのか、ミオンは頷き、奥の部屋へと向かった。そして、いつものように報酬の入った袋を持ってくる。
「お待たせいたしました。こちらが、今回の依頼の報酬と、素材売却金になります」
「おう」
ミオンから受け取った袋の中には、報酬である銀貨500枚と、素材を売った分の、金貨15枚が入っていた。今回も良い稼ぎになったなと思い、笑っていると、ミオンが口を開く。
「あ、ムソウさん。アヤメ様が、ムソウさんが来られたら執務室に通してくれと仰せつかっております」
「ん? そうか。俺も用があったから、多分そのことだろうな」
恐らくコモンの手紙のことだろう。ミオンに礼を言って、俺は二階へと上がり、執務室の戸を叩いた。
「アヤメ、居るか? 冒険者のムソウだ」
「お、来たか。まあ、入れよ」
中からアヤメの声がして、戸に手をかけた。すると、突然リンネが俺の頬を叩く。
「キュウ……」
リンネは少し怯えるように、首を横に振った。このまま戸を開けるのが嫌らしい。俺はフッと笑い、リンネの頭を撫でた。
「大体分かってる。いつも通りだからな。お前は、懐の中……いや、少し考えがある。あのな……」
そう言って、リンネにあることを耳打ちした。すると、リンネはコクっと頷く。
そして、俺はアヤメの部屋への戸を開いた。
その瞬間、空を切る音と共に刃が迫ってくる。俺は特にそれを躱さず、向かってくる刃をその身に受けた。
「がはっ!」
「……え」
肩口から袈裟切りに遭い、血を吹き出しながら倒れる俺。切った張本人であるアヤメは、俺から噴き出た血を浴びながら呆然としている。
そして、しばらくすると、状況が呑み込めてきたのか、目を見開いて、横たわる俺の姿を見ていた。
「む、ムソウ!? 嘘だろ!? いつものように何かしてくるかと……! い、いや、そうじゃない! 落ち着くんだ、俺!」
などと言いながら、慌て始めるアヤメ。俺は、内臓から上がってきた血を吐きながら、アヤメの袴を掴む。
「アヤメ……よく……も……」
「やばいやばいやばい!!! そ、そうだ! 回復薬!」
アヤメは俺の手を振り払い、異界の袋から回復薬を取り出した。そして、それを俺に飲ませようとするが、もちろん俺は上手く呑むことが出来ない。切られた痛みがひどいのと、呑んでもすぐに血と共に吐き出してしまう。
アヤメは更に慌てて、あたふたし出す。
「ど、どどどどどうすれば!? ……くそっ!仕方ない!」
アヤメは、回復薬をぐっと口に含んだ。そして、俺の顎に手を置いて、顔を近づけてくる。
……流石に罪悪感が生まれた俺は、口を開く。
「……そういうのは大事な時にとっておけ」
「……へ?」
アヤメは俺の声のする方を見上げる。見下ろすのではなく、見上げたのだ。アヤメの向いた先、部屋の戸の前で、俺は腕を組み、アヤメを見下ろしていた。
「な!? ム、ムソウ!? な、なんで……こ、これは!?」
訳の分からないことが起きているという顔のアヤメ。そりゃそうだ。アヤメの手の中には、未だ血だらけの俺が居る。俺が二人に見えるのだろうな。
俺は、肩に居るリンネを撫でて褒めた。
「偉いぞ、リンネ。もうそろそろ、流石に可愛そうなので、解いてやれ」
「キュウ!」
リンネが大きく頷くと、俺達が居る空間がゆがみ始める。呆気にとられるアヤメと、平然としている俺の前で、その歪みは収まった。
見ると、先ほどまでアヤメの手の中にあった血だらけの俺は消えている。ふむ、リンネはこういうことも出来るのか。何かに使えそうだな……。
何も言えず、ただただ呆然としているアヤメの肩に俺は手をぽんと置く。
「化かされたんだよ……お前は。うちの可愛いリンネにな」
「キュウ!」
「……へ?」
アヤメはすごく間抜けな声を出す。俺の腕を伝い、アヤメの肩へと移ったリンネは、アヤメの頬をポンポンと叩く。
アヤメはリンネの姿を見て、俺を見て、色々と考えを巡らせていた。そして、段々と目が開かれていく。
「あ……ああ……あ~~~~!!!」
酷く悔しそうに叫ぶアヤメ。この姿は本当に滑稽で面白い。俺に手を出すとこういうことになるのだ、と思いながらしばらくそんなアヤメをリンネと共に、眺めていた。
◇◇◇
がっくりと項垂れていたアヤメは、スッと立ちあがり、刀を収めた。そして、長椅子に座り、再度項垂れる。俺は何も言わずアヤメの正面に座り、笑った。
「どうだ? 面白いだろ」
「……面白くねえよ」
ブスッとした態度でそう言ってくるアヤメ。そんな態度取られても、毎回俺は被害者の方だと言いたくなる。が、いつもは闘鬼神の説教、こないだは、ジゲンに返り討ち、今日はリンネと俺の屋敷の者たちに散々な目に遭わされているアヤメが少し不憫になってくる。
……ああ、俺も甘くなったものだな。
「分かったよ。次からは普通に返り討ちにしてやるから」
もう他の者たちの手は借りない。自分に向かってくる者には正々堂々自分でやり返すことにする。それならアヤメもここまで落ち込むことは無いだろう。そう思っていると、アヤメはビクッと身を震わす。
「……それも恐ろしい」
じゃあ、どうすれば良いんだ……。
まあ、この話は置いておこう。ここに来た目的はアヤメをいじめるためではない。本題に入る。
「で、呼んだ理由は? コモンから手紙が来たって話だよな?」
「ん? ああ、聞いていたか。ちょっと待てよ……」
と言って、アヤメは懐からコモンから届いたという手紙を取り出した。昨日の夕方、この屋敷に届いたという。
俺はアヤメから手紙を受け取り、中を開いてみた。
……
こんにちは。コモン・ロンドです。留守にして申し訳ありません。皆さんにご心配をかけていると思いますが、ひとまず僕は無事です。
現在、ゴルド領領主、オーロ・ゴルド氏の屋敷にて家具や調度品、オーロ氏の装飾品の修理をしながら、そのままゴルドに滞在しています。急なことだったので、皆さんに何も言わず、出て行ってしまい申し訳ありませんでした。
ただ、一応、こちらでも納得のいくまで、仕事をしたいと思っておりますので、二月ほどクレナに戻れないかもしれません。重ね重ね申し訳ないのですが、ムソウさんにもそのようにお伝えいただくと助かります。
何かありましたらまた、ご連絡ください。
――天宝館館長 コモン・ロンド
追伸 くれぐれもムソウさんに、僕のことを伝えるのを忘れるのはやめてくださいね。後で絶対怒られますので。僕も……貴女も……
……
最後の、追伸は要らない。もう、怒ることは確定だ。俺じゃなくて、たまがだけどな。
にしても、ゴルドか……。レイカの故郷だったな、確か。あそこにはエルフやギリアンのようなドワーフの住処があり、そいつらは手先が器用だということで、数多くの装飾品が出回っていると聞いた。
なるほど。そんなところの領主となれば、こだわりとかも強そうだな。どこかに小さな傷が入っただけで、コモンを呼ぶことくらいしそうだ。
コモンの方もこだわりが強いし、夢中で仕事をしているのかも知れない。手紙が遅れた理由については分かった。なんとも呆気なく、そしてコモンらしい理由に力が抜ける。
「あ~……心配して損した……」
「十二星天を心配か。すげえな、お前は」
俺のひとことをからかってくるアヤメ。先ほどまでとは打って変わって、ニカっと笑っている。
「心配だろ。そうは言ってもコモンは子供だし……お前だって、サネマサのこと心配したことねえのか?」
「爺いの心配? するだけ野暮ってもんだろ」
おお、サネマサよ。故郷に居て、幼い時からお前のことを知っている奴でさえも、お前のことは心配じゃないみたいだ。何となくサネマサのことを不憫に思った。あいつはあいつなりに苦労しているんじゃねえかと思っている。
すると、思い出したように、あ、と言って、アヤメは口を開く。
「そういや、爺いからも返事が来ていたな。今となってはあまり意味が無いが、見るか?」
なんでも、コモンの行方について、サネマサに伝令魔法を飛ばした返事が返ってきたという。コモンから手紙が届いた以上、確かに必要は無いが、確認してみることにした。
俺が頷くと、アヤメは魔石を取り出す。今回はいくつか種類のある伝令魔法のうち、映像と、音声がついているものだった。アヤメは魔石に魔力を込めだす。すると、魔石の中に何かが、ぼんやりと見えだしてきた。
それは、懐かしいとも、感じられるサネマサの顔だ。魔石の中でサネマサは語り出す。
「よし……っと。あ~、アヤメ、伝令魔法は受け取った。結論から言えば、俺の知る限りコモンは王都には居ない。同じく、王都に居るジェシカとレオにも確認したが、心当たりは無いそうだ。力になれず申し訳ない。
ちなみにだが……ジロウの行方も分からない。どこ行ってんだろうな、アイツら……。
……にしても、あの冒険者ムソウがクレナに住んでいて、そこでコモンが世話になっているとは思っていなかった。あいつにもよろしく伝えておいてくれ。近々暇になったら帰るからよ。そっちも、頑張れよ。……じゃあな」
ニカっと笑うサネマサの顔が消えて、映像はそこで途切れた。なんとも、あいつらしく簡単で、短い伝令だったな。コモンの手紙が無かったら、もう一度送り返したいところだ。
にしても、何も変わっていないようで安心した。またいつか、会える日を楽しみにしている。
「まあ、というわけだ。コモンのガキのことについては以上だな」
「ああ。色々とありがとう。天宝館の奴らには俺から伝えておくよ」
取りあえず、ヴァルナは仕事がありそうだし、あの受付の女には伝えておこう。天宝館の奴らだけでなくて、たまにも伝えておかなくてはな。帰るのはまだ先だろうが、無事なのは確かだと。それを知るだけでも、たまにとっては大きな安心となるだろう。
さて、その後はアヤメと調査依頼について話をする。やはり俺が聞いていた雷雲山にはリアたちが行ったらしい。危険は無いのかと確認をすると、それを知るための調査だと言われて、納得する。ただまあ、そこまでの心配は無いだろうとアヤメは語った。
ダイアン達の樹海の件については、スケルトンが居ること自体は確認がとれているらしい。その他に強い魔物はいないようなので、まず安全だろうとのこと。規模だけを知れれば、良いとのことだ。
もう一つの調査は、チャブラとの領境の調査らしい。曰く、俺が倒した古龍ワイバーン、もしくはワイバーンの生き残りが居るかどうか、街道の安全が確保できているかどうかの調査らしい。あそこには俺も行ったから分かるが、そこまでの魔物はいない。闘鬼神の奴らでも大丈夫だろう。闘うわけじゃないし、と思いながら、俺は安心していた。
最後に、アヤメはトロルの討伐において、女達が囚われていたという報を聞き、大層驚いていた。やはり、事前の調査結果では判明していなかったようだな。
今までがずさんだっただけに、今後は闘鬼神の奴らとも上手く連携して、調査の精度を上げると約束した。
「色々、問題だらけだな、ここは……」
「まあ、何かあったらまた、言ってくれ。牙の旅団のように……とはいかないかも知れんが、力を貸してやるからよ」
何だかんだ、アヤメには結構世話になっているからな。街にも住まわせてもらっているし、闘鬼神にも色々と便宜を図ってくれているようだし。
ジゲンの代わり……というわけでもないが、何かしら、役に立てられるのなら、アヤメの力にはなりたいと思っている。
ポリポリと頭を掻いていたアヤメは、顔を上げて、フッと笑った。
「まあ……期待しておく」
「おう」
さて、一通りの話をした後、アヤメと別れて、ギルドを出た。明日は休みと決めているので、依頼票の確認はしない。
そして、天宝館へ再び行き、受付のコモンのことについて、ヴァルナに言伝を頼んでおいた。
受付の女も、取りあえずコモンの居場所、そして、無事だということを安堵し、胸を撫でおろしている。良い部下をあまり困らせるなと、コモンが帰ってきたときにでも言っておこう。
その後、天宝館を出て、俺は高天ヶ原へと向かう。ジゲンに頼まれた、牙の旅団の武具を回収するためだ。高天ヶ原に向かうということを伝えると、リンネは嬉しそうに笑った。流石に中に入る時くらいは、少女の姿に化けさせよう。その方がコスケたちも喜ぶだろうからな。
俺は、肩に乗るリンネの頭を撫でながら、門を抜けて花街を歩いていった。
◇◇◇
高天ヶ原に着くと、リンネは少女の姿に変化させる。一応、営業はしているので、そこまで中には入らせないようにした。リンネは寂しそうにしたが、仕事の邪魔をしたくないのは、リンネも一緒だ。何とか自分で納得し、俺に頷く。
今度は、きちんと会いに来させてやろう。
さて、そのまま高天ヶ原に入っていくと、いつものようにコスケが座り、何やら仕事をしている。毎回思うが、何をしているのだろうか。帳簿でもつけてるのかな……。まあ、良い。
俺はそのまま仕事をしているコスケに声をかけようとする。
……だが、先にリンネが俺のそばから駆け出して、コスケのそばにいった。
「……!」
「……ん? おお! リンネちゃんか! ハハハッ、思ったより早く会うことが出来たなあ~」
リンネの姿を見たコスケは手を止めて、喜ぶ。そして、リンネの頭を撫でていた。
「リンネちゃんがここに居るってことは……ああ、やっぱり、ムソウさんもご一緒ですな……」
「おう。ちと用事があってな。寄らせてもらったよ」
俺に気付いたことを確認し、俺は履物を脱いだ。コスケは無間を預かろうと立ち上がるが、俺はそれを止める。客として来たわけじゃないからな、と言うと、コスケは不思議そうな顔をした。
「どういったご用件で?」
「ああ。牙の旅団の武具、預かろうと思ってな」
そう言うと、コスケは目を見開く。急な話だからな、少し驚いたようだ。
「それはまた……一体、どういう風の吹き回しで?」
いったん断った頼みを、引き受けるというわけで、少し不安そうな顔をするコスケに、俺は説明する。
「まあ、屋敷の奴と話をしたんだが、今、俺は、家で数人の冒険者たちの面倒を見ている。いずれも、腕は確かで、何と言うか、気持ちの良い連中だ。あいつらになら、牙の旅団の武具を任せてもいいかなと思ってな」
俺の言葉を聞いた、コスケはなるほど、と頷き、しばらく腕を組んで考え込んだ。そして、顔を上げて、
「ムソウさん、申し訳ないですが、少々お時間を……」
と言って、上の階へと移動した。ふむ。すんなり渡してくれると思っていたのだが、そういうわけにもいかないらしい。しばらくコスケの帰りを待つことにした。
偶に、ここで働いている禿たちが通っては、リンネは手を振っている。禿は驚き、リンネのそばに来て、再会を喜び合っていたり、お互いに頭を撫で合ったりして遊んでいた。
流石に妓女たちに呼ばれると、凄く落ち込んで引っ込む禿も居たが、中には妓女たちが、リンネに寄ってきたりする。
まだ二日足らずだというのに、顔を赤らめながらリンネの頭を撫でたり、頬をつついたりして、なごんでいるようだった。人の姿でも変わらないな、コイツは……。
ただ、このままだと、リンネが、店に迷惑をかけている気がしてきてたまらない。
俺が注意すると、渋々、という感じに妓女たちは店の中へと消えていった。
ブスッとした表情で、俺を睨むリンネ。楽しかったのを邪魔したのは悪いと思っている。俺はリンネの頭にポンと手を置き、
「また、連れてきてやる」
と言った。すると、リンネは、約束だよ、と言わんばかりの表情をして、俺の腕にしがみつく。
……やれやれ、おねだりも上手になったものだな。
「ああ、ムソウさん、お待たせいたしました」
と、上へと続く階段から、コスケが降りてきた。その後ろには何故だか、ナズナもついてきている。リンネはナズナの姿を見ると、コロッと態度を変えて、笑顔で寄っていく。ナズナはフッと微笑み、リンネの頭を撫でた。
「フフッ、元気そうで何よりです。あの屋敷での生活は楽しそうですか?」
「……!」
ナズナの問いかけに、リンネは頷き、手を上げる。そして、リンネは俺の元に戻ってきた。
「さて、コスケさんから話は聞きました。牙の旅団の皆さんの持ち物を回収するということですよね? ムソウさん、それから闘鬼神の皆さんにでしたら、私達も安心して渡すことが出来ます」
「ハハハッ、やはりコスケだけでは決められなかったか」
「面目ねえっす」
コスケは申し訳なさそうに頭を下げる。まあ、これは仕方ないか。俺だってコスケの立場なら、ジロウや牙の旅団に直接世話になったナズナか、アヤメ辺りに相談するな。後で何か言われても嫌だし。
気にするなとコスケの肩を叩き、俺達は、武具が飾ってある部屋に向かった。部屋に並んでいる武具の品々を異界の袋に入れる作業を始める。
「そういや、お前はここの中から何か要らねえのか? 一応使えるには使えるのだろ?」
一応、牙の旅団の者達の武具は一通り、ナズナは使うことが出来るとジゲンが言っていた。なんだったら、ナズナに全て渡したって良いものだと思っていたが、ナズナはそれを否定する。
「私には、ミドラさんの「千手・千眼」がありますから、もう充分です。こちらでも、他の皆さんの技を使うことも出来ますからね。
それに、私は妓女です。闘うということはあまりないので……そうなると、この武具たちももったいないような気がしますので……」
それならば、誰かに使ってもらった方がマシだというわけか。何となく理解できた俺は、作業をすすめる。
ここにある武具、どれを誰に渡そうかな……。少し悩む。まあ、ジゲンも居ることだし、焦らずゆっくりと話し合って、決めていこう。
ちなみに俺は……特に無いな。この、コウシって奴が使っていた「阿修羅」って刀が少し気になるくらいだ。長さ、重さ、丁度いい気がする。無間では闘いづらい、狭い洞窟内に……っと、その時は、零の刀の「斬鬼」を使うか。となれば、この刀も不要で、もう一方のチョウエンって奴の刀も要らないか。
ロウって奴が使っていた手甲もいらないし、ソウマって奴の槍も要らないな。
後は、弓矢だったり、これは……紐? いや、鞭か。これこそ、使いどころが分からない。使いこなせそうにないな……。
というわけで、俺が使えそうなものは無かったので、次々と異界の袋に収めていく。牙の旅団って、団長がサネマサとジロウということもあってか、やはり、一癖も二癖もありそうな奴らだったんだな……使っていた武具を見てたら、何となくそう思ってしまう。
さて、全ての武具を回収し、一息つく。コスケは奥から茶と、菓子を持ってきてくれた。俺は茶を飲み、リンネは菓子を頬張る。
「ありがとう、コスケ」
「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます」
コスケは長年溜まっていた憑き物が落ちたかのような晴れ晴れとした表情を浮かべていた。ほとんど、俺に丸投げと言う形になったのだが、実際には、ジゲンに返すというだけの話だ。俺の方としても問題は無い。
その後、しばらく団らんとしていたが、そろそろ高天ヶ原に客が入りそうな時間となった。俺とリンネは屋敷に帰ろうとする。そこに、ナズナがおずおずとした様子で、近づいてきた。
「あの……ムソウさん」
「何だ?」
「あの……シロウからの返事は……?」
「ああ……今日は預かっていないな」
ナズナはがっくりと落ち込む。よほど返事が気になるらしい。どんな内容だったのだろうか。確認すればよかった。
次来るときには持ってくるようにすると伝えると、ナズナは、絶対ですよ!と念を押してくる。本当に見ていて面白い。
そして、高天ヶ原を出る俺達。リンネはいつの間にか妓女たちから貰ったお菓子の山を抱えて、嬉しそうにしていた。
「そういや、腹減ったな。何か食いに行くか?」
「……!」
時刻は昼過ぎだ。俺の提案にリンネは元気よく頷く。旅の間はよくしていたリンネとの食べ歩き、今日はこれで時間を潰そう。
そんなわけで、俺はリンネと手をつなぎ、下街へと向かった。




