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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
197/534

第196話―女たちを騎士団に預ける―

 一通り作業が終わり、その場を発った俺達。女どもは俺が渡した着物を着て、後をついてきた。

 一応、俺は後方から魔物たちの襲撃が無いか、確認する。女たちは時々後ろを振り返りながら、ひそひそと話をしていた。


「あの人、本当に冒険者かしら……」

「というか、人なのかな……」

「このまま売られたりして……」

「でも、あの女の人は信用できそうよ……」


 などと聞こえてくる。なんで、ここまでしたのに、疑われなくてはいけないのだろうと頭を抱えた。

 だが、女たちの言葉を聞きながら、この世界にも、奴隷みたいなことをやる奴というのが居るということに気付く。今まであまり見たことは無いが、そういうのもあるんだな、と思った。

 ツバキは先頭で、女たちの話し声を聞き、リンネと共に、クスクス笑っている。まあ、アイツらのことは女たちにとって安心できる存在のようだから、このままにしておこう。


 やがて、森を抜けて街道へとたどり着く。久しぶりに森から出たという実感があるのか、女たちは気持ちよさそうに、背筋を伸ばしていた。

 そして、シンムの里へと向かう。森から出れば、見通しも良くなる。俺も何となく力を抜いて、街道を進んだ。

 辺りは平和そのものだ。時期的に冬前ということもあってか、田畑に人影は居ない。ただ、街道には旅人や、領民のような者たちがまばらに居る。


 俺達が通り過ぎると、ぎょっとしたような目で見てくる。まあ……無理もないか。男は俺だけで、先頭には女の騎士と、魔獣が多くの女たちを連れているのだからな。

 何か、変なものを見ているような目で、俺をちらっと見て、関わらないようにと、通り過ぎていった。ホント、傷つく……。


 これは、シンムの里に行っても似たようなことがありそうだな。面倒なことにならないように気を付けておこう。最悪、エンライに話を付ければいいだけの話だ。そう思いながら、街道を進んでいく。


 その後、しばらくして、シンムの里に到着する。街が見えてくると、今度こそ安堵の表情を浮かべる女たち。そのまま門から入ろうとすると、やはりというべきか、門番の騎士に止められた。


「止まれ。こんな大所帯で、この街に何の用だ?」


 門番は三人ほどだ。女たち、それから魔獣の姿のリンネを見て、眉を顰めながら、ツバキとやり取りをしている。ツバキは一歩前に出て、懐から何かを取り出した。


「お疲れ様です。私は騎士団マシロ師団、師団員のツバキと申します。先ほど、冒険者ムソウと共に近くの森でトロルの群れを討伐したのですが、そこに囚われていた者達を解放しました。この者たちの保護を求めて、ここまで来たのですが……」


 ツバキは懐から取り出したものを、門番に渡す。門番はそれを見て、目を見開く。どうやらそれは、自分は騎士だという証となるものらしい。じっくりとそれを見た後、門番は口を開く。


「む? 本物だな。それに……冒険者のムソウ殿とな? ……おお! ムソウ殿! お久しぶりです!」


 門番は女たちの陰に居た俺に気付き、声をかけてくる。よく覚えていないが、以前訪れたときに、俺のことを知ったのだろう。

 先ほどまで、俺達を不審がっていたが、にこやかな表情になり、俺を迎えてくれた。


「おう。こいつらを助けたのは良いが、どうすれば良いのか分からなくてな。これから騎士団の駐屯地に行きたいのだが、入っても良いか?」

「もちろんですとも! ささっ、どうぞ……」


 そう言って、門番は俺達を街の中に入れてくれた。一応、門番からの頼みで、リンネには小さくなってもらう。やはり住民たちが驚くからだそうだ。

 小さくなったリンネを肩に乗せて、騎士団の駐屯地に向かおうとした。すると、門番がツバキを呼び止める。


「あ、ツバキ殿」

「はい、なんでしょうか?」

「ここにあなたが居るということは、マシロ師団長の耳には?」

「ええ、それは問題ないのですが、遠征滞在許可がまだなので、これから申請しようかと……」


 ツバキの言葉に、門番はなるほど、と頷き、俺達と別れた。門番との会話がいまいちよく分からなかった俺は、ツバキに聞いてみた。


「何だ? 遠征滞在許可って?」


 俺が聞くと、ツバキは答える。


 一応、ツバキの籍は騎士団のマシロ師団に属している。ゆえに本来ならば、マシロに住み、マシロの守護の任につかなくてはならない。

 しかし、今は特例で、トウショウの里に住み、俺と共に行動している。その場合ツバキは、本来の任を離れ、違う領で生活をするために、その領を統括する騎士団の師団長に許可を得なければならないとのことだった。


「お前……もう二か月近く住んでいるが、大丈夫なのか?」

「まあ……それは……何とも言えないですね」


 ツバキは少し気まずそうに笑っていた。ただまあ、ツバキがそれを出来なかった理由というのもしっかりとあるし、住むことになったのは、急な話だったし、それにエンライなら許してくれるだろうと思う。

 どうしても、必要なことだったら、俺と会ったときに、何らかの話くらいはしただろうしな……。

 ……しなかったよな、と前のことを思い出しながら、少々固まる。していたとしたら、今までにツバキにこの話をしなかった俺が悪い……。


 うん、大丈夫だ……多分。俺も一応、ツバキについていこっと……。


 さて、そうやって歩いて行くと、騎士団の駐屯地にたどり着いた。俺達は中へと入り、俺とリンネ、それから女たちはツバキの手続きが終わるのを待っていた。

 リンネは俺の肩から下りて、女たちと遊んでいる。頭を撫でられたり、くすぐられながら、リンネは喜んでいた。

 俺は以前と変わらず、サネマサの彫像を見上げる。……うん。やはりこの彫像は少し美化してある。ここまで毅然とした感じでは無かった。


 そういや、ここに牙の旅団の墓があるんだよな。俺達がここに来たときに、ジゲンは墓参りをしていたらしいが。俺もしておきたいところだが、今日は時間が無い。仇討もまだだし、全てが片付いたら、ジゲンと共に来ようと思った。


 その後、手続きを終えたツバキが数人の騎士を連れて戻ってきた。話を聞くと、このまま女たちはこの街の宿に泊まらせてもらい、騎士団の護衛の下、故郷に送られるとのことだった。それを聞いた女たちは喜ぶ。


 故郷を襲われた者達については、一応確認してみるとのことだ。街を奪われても、生き残りが居て、どこかに避難しているということもあるからな。そういった情報を集め、知人が居るところに改めて、女たちを送り届けるとのこと。そういった女たちは、騎士の言葉に頷き、よろしくお願いします、と頭を下げていた。

 そして、全ての手続きが終わり、女たちは宿へと向かう。別れ際に、皆、俺に頭を下げてきた。


「ムソウ様、ツバキ様、本当にありがとうございました」

「気にすんな。もう、攫われるなよ」

「皆さん、どうぞ、お達者で……」


 女たちは軽く会釈をして、駐屯地を出ていった。何はともあれ、女達のことについては片付いたので安心だ。ただ、俺が行ったから早く片付いたものの、あのまま、この依頼が放置されていたら、散々だったかも知れない。


 最悪の場合、サキュバスの時の亡骸のようになっていたかも知れないと思うと、ぞっとする。帰ったらアヤメに、調査団の調査項目に、捕虜の有無があるのか聞いてみることにしよう。


「さて……じゃあ、行くか?」

「あ、はい」


 次はエンライに、ツバキの滞在許可を乞いに行く。俺達は駐屯地の奥にあるエンライの部屋の戸を叩いた。


「む? 誰だ?」


 中からエンライの声が聞こえてくると、ツバキが口を開く。


「あの……マシロより、冒険者ムソウの護衛の任を賜った、騎士団マシロ師団、師団員のツバキと申します。本日はお願いがあり、参りました」

「俺も居るぞ~」


 ついでにと、ツバキの後に続き、声をかける。


 ……しばらく沈黙。


 そして、ドタドタと戸の方に駆け寄る音が聞こえ、ガチャっと戸が開かれた。そこには何か慌てた様子のエンライが立っている。


「む、ムソウ殿か!? 急にどうしたのだ?」

「おう、久しぶりだな、エンライ殿。いや、依頼をこなしたついでに、少し挨拶ついでに、助けた女たちを保護したついでに、ツバキの要件を済まそうかとな」

「ついでが多いな……。まあ、いい。ゆっくり話すとしよう。

 あ~……マシロ師団のツバキ殿だな? 合同演習の時の覚えがある」

「お久しぶりです、エンライ殿。長く挨拶が遅れてしまい申し訳ございません……」

「ま、まあ、その話も聞こう。さあ、中へ……」


 そう言って、エンライは俺達を部屋の中に入れた。俺は出された茶を飲みながら、今回の依頼についての事情を話す。女たちを、受付の騎士に任せたという話をすると、エンライは、そうかと頷いた。


「ふむ……あのトロルたちに囚われた者たちが居たとはな……。まことに感謝する、ムソウ殿」

「気にするなって。行きがけの駄賃ってやつだ。まあ、今回のこと含め、アヤメには報告する予定だが、それで良いか?」

「ああ。聞けば、こないだのオオイナゴの大群の殲滅もムソウ殿が取り組んだらしいな。あの時も予想に反して大規模な大群だったと聞いている。

 調査結果に間違いがあると、我々騎士団の対応にも不備が出てくる可能性がある。その旨、よく伝えてくれると助かる」


 エンライの言葉に頷いた。一応、調査団には闘鬼神の奴らも加わるので、その辺りは減ってくると思う。

 エンライは、俺に部下が出来たこと、それからそいつらが調査団に入るということで、大層驚いていたが、俺の下についている者達なら信用できると言って笑った。ずいぶんと信頼されたものだなと俺も笑い、固く握手をする。


 そして、エンライは横に居るツバキに視線を移した。


「では、次にツバキ殿の件だな。聞けば、もう二か月以上もトウショウの里で生活していたと聞く。何があったのか、聞かせてくれないか?」

「はい、実は……」


 と言って、ツバキはこれまでのことを説明した。俺の護衛任務に就き、クレナまで来たこと、クレナに来て、コウカンとワイツの書状を受け取り、俺と共に住むことが許されたこと、住む場所が決まるまで、高天ヶ原で世話になったことなど、ありのまま、エンライに報告している。

 エンライは途中、眉を顰めるものの、ゆっくりと頷きながら、ツバキの話を聞いていた。


「……なるほど。それは大変だったな」

「いえいえ、そうでもありませんでしたよ。それで、この先もクレナに住むことになりましたので、遠征滞在許可を……」


 ツバキがそう言うと、エンライは腕を組み考え事を始めた。何やら難しそうな顔をしている。


「う~む……話を聞く限りツバキ殿の場合は、特例中の特例のようだからな……。認めても良いものなのか分からないな……」


 だよなあ……。何となく俺もそういう結論になるのではないかという予想をしていた。本来ならば、所属する領の守護が、騎士としての仕事だ。それを放っておいて、ここまで来るというのはやはり無理があったかと思う。

 諦めた方が良いのかなと思っていると、エンライは、自分をジッと見つめてくるツバキの視線に気づく。どうか、お願いしますという必死に嘆願しているような目だ。エンライは深くため息をついて、口を開いた。


「……まあ、マシロのコウカンのみならず、領主のワイツ卿までがそう言っているのだから、向こうは大丈夫か。それに、アヤメ様にも良いようにされているようだ。ここで私が断る方がおかしい話かも知れないな……よし」


 エンライはどこか納得したように、棚から書類を取り出す。それを俺達の所に持ってくると、書類の下の方に自らの名前を書いた。


「一応、こちらが遠征滞在許可証だ。ここにはツバキ殿を騎士としての身元を私が保証するという旨が書かれている。

 簡単に言えば、滞在は許可するが、何かあれば、クレナ師団の要請に応えよというわけだが……良いな?」


 と、あっさりと、許可証を持ってきた。意外と簡単だったなと思っているが、ツバキは何故だか浮かない顔をしていた。


「……それはつまり、緊急時はムソウ殿の元を離れよ、というわけですか?」


 あ、なるほど。そういうわけか。そこは妥協しろよ、と俺は呆れる。だが、エンライの方はツバキの問いかけにフッと笑い口を開いた。


「どうだろうな。お前がコウカンに与えららえた任務は、冒険者ムソウ殿の護衛だ。そして、その任はまだ続いているそうではないか。ならばそちらが優先だ。

 ……まあ、もっとも、ここの守護で人手が足りないという事態になるということはクレナ全域が危険な状態というわけだ。となれば、ツバキ殿がムソウ殿の元を離れるわけにはいかないという状態になると思うがな……」


 エンライはそう言って、ニヤッと笑う。なんとも、意地悪そうな笑みだ。それを見たツバキはぱあっと表情を明るくさせる。そして、許可証を受け取った。


「ありがとうございます、エンライ殿。これからも、ここクレナで命に従い、行動いたします」


 ツバキが胸に手を当ててそう言うと、エンライは頷く。

 要はどんな時でもツバキは俺の元を離れないということが決まっただけじゃねえかと頭を掻く。エンライも上手い言い訳を考え付いたものだな。


 その後、マシロに居るコウカンにこれらのことを伝えるため、書状をしたためた。後で、エンライが送ってくれるという。

 そして、受付で、騎士団の証に刻まれる身分証明を更新するため、ツバキは席を立つ。へえ、そんなことも出来るんだな。

 ツバキが出ていこうとすると、俺の肩からリンネが飛び出す。退屈になりそうと思ったのか、ツバキの肩に駆け上った。俺はツバキにリンネを任せて、ツバキは部屋を出ていった。本当に仲良くなったものだな……。


 さて、部屋の中には俺とエンライだけとなる。エンライは茶をすすりながら、笑って口を開いた。


「やれやれ、ムソウ殿も隅に置けないな。まさか、ツバキ殿にあそこまで慕われているとは」

「最近、よく聞くなあ、その台詞。まあ、便宜を図ってくれたことには感謝する」

「礼は良い。ムソウ殿にはいつも世話になっているからな。

 聞いたぞ、古龍ワイバーンを討伐したのも、ムソウ殿だとな。いやはや、貴殿の噂を聞くたびに、私達も毎回驚かされている」

「まあ正直、あれも行きがけの駄賃ってやつだがな」


 エンライは更に笑い、そこがムソウ殿らしいと、膝を叩いた。だが、俺の活躍が、こうやってエンライのみならず、いろんな奴の生活を守っていることを知れて、何となく嬉しかった。前の世界同様、闘って褒められるというのは、嬉しいことだ。

 しかし、そう思っていると、エンライは少し微妙そうな顔をし始めた。


「だが、ムソウ殿には本当に申し訳ないと思っているが、クレナは少し異常だな」

「異常? 何がだ?」

「魔物の数が多い。それに強力な個体も他の領に比べると多過ぎる」


 エンライによれば、俺がすでに倒しているとは言え、ついこないだまで、噴滅龍に破山大猿、古龍ワイバーンといった災害級の魔物が三体も同じ領内に居て、さらに超級の依頼が続けざまに発生しているという状況だ。いかに言っても、多過ぎる。

 そして、それらをすべて俺が解決しているということに申し訳ないようだ。


「冒険者の者たちが少ない、やる気ない、というのはもう理解できているが、それにしては、という気持ちがあるな」

「まあ、それは俺も思っていたのだが、アヤメたちに聞くと、領内の問題事を片付けるのが傭兵団から冒険者に移行されたごろから多くなったと聞いたが……」

「うむ。大体二十年以上前からだな。壊蛇襲来までは、そこまで魔物の数は多くなかった気がするな」


 なるほど……少し気になる話だな。俺はてっきり、腕の立つ傭兵団が無くなった代わりに、やる気のない冒険者が増えたせいで魔物も増えたと思っていたのだが、どうやら違うらしい。それ以前にも魔物は多く居たようだ。

 だから、傭兵団が各地で名を上げたと考えるべきだな。壊蛇襲来時に何かあったのだろうか。チャブラの森林の件もあるし。

 一応、エンライもそういう風に思っているらしい。ゆえに、傭兵団が少ない今、頼れるのは俺達冒険者で、その中でも特に俺、それから、俺と共にここでスライムを倒した奴らには期待しているということだった。


「しかし、ツルギ殿たちもまだまだ若い。そんな世代が、手本となるような存在として、私はムソウ殿こそふさわしいと思っている」

「おだてんなよ。アンタだって、師団長ってことは相当な手練れだろ? エンライ殿も、強い者というのはどうあるべきか、若い奴らに見せねえとな」


 そう言うと、エンライはいやいやと少し恥ずかしそうに首を横に振った。


「ハハハ、私は闘いというのはからっきしでな。普段は皆の指揮ばかりしているよ」

「え、そうなのか? その戟は何だよ?」

「これは飾りだ。私は攻める戦いというのはどうも苦手でなあ。本来使うのはこれだ」


 と言って、エンライは仕事で使う机の横に立てかけられた、大きな盾を取り出す。本当に大きいものだ。大人一人がすっぽりと隠れるくらいはある。そして、重そうだ。何せ分厚い。だが、コウカンはそれを軽々と持ち、俺に見せてきた。


「私はどちらかというと、これで敵の攻撃を防ぎ、その間に怪我人を治癒させる時間を稼いだり、敵の攻撃を集中的に浴びて、その隙を皆についてもらうという闘いしか出来ないな」


 つまりは時間稼ぎの囮のような立ち回りをするらしい。ちなみにこの盾、シンムの里で師団長をやるなら、使ってくれとサネマサから貰った壊蛇の鱗一枚に、永久金属を精製した、オリハルコンというこの世で最も強力な金属をふんだんに使っていて、天災級の魔物の攻撃に耐えられるらしい。

 といっても、スキルを発動させると、切れ目は見える。だが、誇らしげにその盾を見せてくるエンライにそれを伝えるのはかわいそうな気がしたので黙っておいた。

 ちなみに、持とうとしたのだが、少し気合を入れないと持てなかった。その点は、エンライの方が凄いと正直に感心した。


 にしても、損な立ち回りだなあと呟くと、エンライは、


「まあ、それで皆が救われるならそれで良いと思っている」

「何とも、騎士らしいな。コウカン殿にはまた、違った戦い方もあり、それも騎士らしいと思ったが……」


 コウカンは、人々を護る為に、敵を足止めしたり、し止めるという戦い方だった。エンライは逆で、自分が前に出て、敵の猛攻を食い止め、仲間達に闘ってもらうという役割だ。

 二人が組んだら、攻めも護りも難しそうだなと笑っていると、エンライはフッと笑みを浮かべた。


「ちなみに、コウカンと私は、士官学校の同期でな。よく一緒に立ち会ったり、呑んだり、泣いたり、そして、夢を語り合った同志だ。二人合わせて、当時の士官学校内で、“最強の矛と盾”と、謳われたものだ」


 エンライは懐かしそうに語った。生まれは別だが、若い時に士官学校で出会ってから意気投合、何人かの友人も混じって、よくつるんでいたという。

 その友人たちも、コウカンやエンライ同様、各領の師団長として活躍したり、第一線で戦ったりしているということらしい。

 それはいずれ会うのが楽しみだというと、エンライは笑ってよろしく頼む、と言った。


「そんなコウカンの部下の頼みだ。私が融通を利かせんでどうする。ツバキ殿の件は私が責任をもって何とかしておくよ……コウカンにも借りを作っておかねばな」


 そう言って、エンライはにやりと笑った。親友と言うよりは、悪友だな。だが、それもまたいい関係だなと思い、エンライの言葉に頷いた。


 その後、ツバキが戻ってくる。全て上手くいったようだ。これで、ここにはもう用事は無いなと思い、俺も席を立った。


「では、エンライ殿。俺はそろそろ帰る。いずれ、また会おう」

「ああ。またいつでも遊びに来てくれ。ツバキ殿もな」

「はい。お世話になりました」


 ツバキが頭を下げ、俺達は部屋を出ていった。ふと見ると、リンネが居ない。どこへ行ったのだろうかと探していると、ツバキが人差し指を口の前にして、静かにしてと合図をする。何だろうと思っていると、ツバキは自らの背中を指さす。見ると、羽織の中でリンネが、ツバキにおぶさる形でしがみつきながら寝ていた。

 器用なことするなあ、と思い、寝ているリンネをそっと俺の懐の中に入れた。そして、頭を撫でながら、俺達は騎士団の駐屯地を後にした。


 ◇◇◇


 さて、リンネが寝ているというわけで、シンムの里を出た後は目を覚ますまで歩いてトウショウの里方面へと向かう。

 俺が神人化して、ツバキを抱えて行くという提案もあったのだが、空には魔物が居る。危ないということで却下した。

 リンネにも乗らず、馬車もなく、地面を歩いての旅というものは本当に久しぶりだ。ゆっくりと歩を進める。


「夕方に間に合いますでしょうか?」


 空を見ながら日の位置を確かめ、ツバキが口を開く。


「まだ、昼過ぎだ。充分間に合うだろうよ」


 そう言って、俺は歩いていく。後からツバキが慌てて駆け寄ってきた。

 しかし、のどかな景色だ。魔物の気配も無いし、平和だな。エンライの言った魔物増加については想うところもあるが、こうやって街道に出ない当たり、被害は少ないのだろうと思っている。そう思いながらぼんやりと歩いていた。


「そういえば、先ほど変な話を聞いたのですが……」

「ん? 何だ、その変な話って」


 おもむろに口を開くツバキ。先ほどシンムの里の駐屯地で少し気になる話を聞いたそうだ。


「クレナの北方に位置する雷雲山で、地震のようなものが観測されたのですが、揺れたのは一瞬だけという話でした」

「雷雲山と言うのは聞いたことあるなあ。確か、常に雷雲が発生している場所だっけか?」


 ハルキが雷嫌いになった場所のことだ。


「はい。普通の地震のように揺れ続けるのではなく、ズシンと一度だけ、付近の村で揺れが起こったそうです」

「デカい雷でも落ちたのではないのか?」

「恐らくそうだとは思いますが、何かの前触れではないかということで、近々ギルド、そして騎士団で調査隊を組み、周辺を調べるそうですよ」

「へえ……って、俺は何も聞いてないが……」

「まあ、今のところは現状不明ですが、万が一に何かあったらいけないという態勢ですからね。アヤメ様もエンライ殿も、そこまでは気にしていないようです」


 なるほど。俺の言うようにデカい雷が落ちた程度ならば、特に気にする必要は無いからな。そこまで大々的にするというのも馬鹿気た話だ。

 だが、そうなると、闘鬼神が調査隊として活動するのは、それが初めてということになりそうだな。今依頼に出ている奴らが帰ってきたときにでも、アヤメから何らかの話が上がるだろう。それを待つしかないか。


「分かった。一応俺も気に留めておこう。良い情報、ありがとな」

「いえいえ、喜んでいただき幸いです」


 嬉しそうにするツバキに、今後も噂話程度でもおかしなことを聞いたら積極的に教えてくれと言っておいた。

 俺は主に、依頼に取り組んだりで噂話などあまり気にしないからな。気になったことがあれば、何でも言ってくれとツバキに頼むと、喜んで、と引き受けてくれた。


「そう言えば、ギルドにはケリス卿が居るかもしれないのですよね? 私は行かない方が良いのでしょうか……?」

「あ~……そうだな……」


 更なるツバキの言葉に、どうしようかと悩む。

 最近会っていないのですっかり忘れていたが、そう言えばそんな話だったな。本来なら明日以降に受ける依頼をツバキと共に決めたかったのだが、ツバキの言うように、ギルドには俺が一人で行った方が良いのかも知れない。せっかく高天ヶ原に居る間にあれだけ頑張ってもらったのだから、ここでそれを台無しにするわけにもいかないからな。少し、悩んだが、ツバキの提案に頷いた。


「すまねえがそうしてくれ」

「かしこまりました。それにしても、ムソウ様がケリス卿から私を遠ざける理由、私は好きですよ」

「何の話だ?」

「私のこと、「美しい」と仰ったこと、今でも忘れておりません」


 嬉しそうな顔のツバキの言葉に、そうか、とだけ、頷いておいた。


 しかし、ギルドに行くのにも、色々と考えないといけないというのが、何とも面倒だ。今日は気分の悪くなるトロルの討伐も終え、女達の解放という仕事も加わり、若干ではあるが、いつもより疲れている感覚がある。

 少し悩んだが、今日は俺もそのまま帰ることにしよう。


「う~ん……ツバキも家に帰るのなら俺もそのまま帰ろうかな。何も今日中に全てを終わらせる必要なんて無いものな……」


 そこまで急ぎの案件でもない。依頼達成の報告は今日じゃなくてもいいはずだ。

 それなりに量もあるし、明日ゆっくりと天宝館で査定をして、報酬受け取って、高天ヶ原に行って、コスケから牙の旅団の武具を回収しても問題は無いはずだ。

 俺の提案にツバキも賛成している。今日は色々とあったから、疲れはとっておいた方が良いという話になった。もう時間も遅くなりそうだし、今日の所はまっすぐ家に帰ることにした。


 ふと、懐に入れたリンネの様子を見てみる。リンネは未だに気持ちよさそうにすやすやと眠っていた。


 起こそうかどうしようかと迷ったが、このままだと今日中に帰ることが出来ない。帰りを待つたまを、また寂しがらせるわけにはいかないと思い、リンネを取り出し、頭をつついた。


「おいリンネ、起きろ」

「……キュ……キュウ……?」


 すると、リンネはパチッと目を開けて、俺に会釈する。おはようございますと言っているようだった。その後、そばを流れていた小川でリンネの顔を洗った。冬なので少し冷たいが、そのおかげでリンネの眠気はばっちり覚めたようである。

 体を震わせ、水気を落としたリンネは、俺とツバキの前で、シャキッと立った。


「キュウッ!」

「調子の良いことだな……さて、リンネ。俺達はこれから家に帰る。だが、このまま歩いて帰っているとあっという間に日が暮れてしまう。分かるな?」

「キュウ」


 リンネは俺の言葉にコクっと頷く。


「そこでここからは、以前もやってくれていたように、お前に、エンテイに変化してもらって、飛んで帰ろうと思うのだが、出来るか?」

「キュウッ!」


 リンネは再び、強く頷いて、変化の態勢をとる。リンネが力を込めると、体が輝きだした。光は段々と大きくなっていき、それは大きな鳥の形に変化する。

 そして、輝きが収まると、俺達の目の前には、エンテイの姿に化けたリンネの姿があった。リンネは俺達に背中に乗るように促した。

 すると、ツバキが頷き、先にリンネの背中に乗る。ツバキはリンネの体を触りながら、気持ちよさそうにしていた。

 リンネは更に俺に背中に乗るように促す。だが、空では下級の魔物が襲ってくることもある。念のため、俺は神人化しリンネの前を飛びながら、二人を護ることにした。

 少し残念そうにするリンネだったが、また、これからも依頼をするときはお前の背中に乗ってやると言うと、納得してくれたのか、頷いた。


「さて……それじゃあ帰るか。我が家に……」

「はい。お願いしますね、リンネちゃん」

「……」


 ツバキの言葉にリンネは頷く。この状態になると喋れないからな。本当に仕草だけで何を考えているか、当てなければならない。だがまあ、この場合は分かりやすいな。

 二人の準備が整ったことを確認し、俺は神人化した。そして、リンネと共に、その場を飛び立った。


 ◇◇◇


 やはり空を飛ぶと違うな。どんどんトウショウの里に近づいて行っているということを実感できる。

 だが、やはり下級の魔物は襲ってきた。俺は、天界の波動を放出し、近づいてくる前に魔物たちを倒している。リンネも闘おうとするのだが、背中にツバキが居るため、止めさせた。向かってくる敵はひとまず俺だけで対処している。


 そして、そのまま飛んでいき、トウショウの里が見えてきた。街に入ると騒ぎになってしまうので、いつも通り、少し離れた所で地上へ降りる。ゆっくりとツバキをリンネから下すと、ツバキは嬉しそうな顔を向けてきた。


「やはり上からの景色というのは違いますね。それに、飛んでいると気持ちの良いものでした」

「それは何よりだ。リンネにもきちんと礼を言っておきな」


 ツバキは俺の言葉に頷き、小さくなったリンネを抱き上げて、頭を撫でた。リンネは、抱えられながら、ニコリと笑っている。

 そう言えば、ツバキは空を飛ぶのは初めてだろうし、リンネも久しぶりだっただろう。長く高天ヶ原だけで過ごしていた二人にとっては、空から見た広いクレナの風景など、開放感あふれる場所で、充分楽しめただろう。


 まあ、俺の方は魔物から二人を護るのに、それどころではなかったがな。果たして地上と、空、どちらで旅をすれば良いのか本当に悩ましい所だ。早く帰るという制約が無ければ、地上でも別にいいかな。

 ……改めて、早くコモンの奴に帰ってきて欲しいと思った。


 さて、その後、門から街へと入り、屋敷へと向かった。やはり段々と日が傾きだしている。先ほど決めたように、三人で屋敷の門をくぐった。庭では何人かの女中が掃除をしている。俺達が帰ってきたことに気付くと手を止めて頭を下げた。


「あ、おかえりなさいませ。頭領、今日は早かったですね」

「まあな。えっと、たまと爺さんは居るか?」

「今は、アザミ姐さんと買い物に出かけていますので、お待ちになられてはいかがですか?」

「ああ。そうするよ」


 俺がそう言うと、その女中は、かしこまりましたと言って、風呂の準備に向かった。その前に、俺の肩に乗るリンネの頭を撫でて、気合を入れていた。嬉しそうにするリンネと女中を見ながら、リンネは妓楼でもここでも、皆の癒しとなるようだなとツバキと笑っていた。


 俺達は部屋へと戻り、荷物を置いて、着替える。

 そして、部屋で遊ぶツバキとリンネを見ながら、薬を作る作業を始める。と言っても昨晩の続きだ。ナオリグサと古龍ワイバーンの肝を混ぜたものを火で温めながら、神人化し、天界の波動を注ぎ込む。そうすることで、呪殺封の薬が出来るというわけだ。

 火炎鉱石を用意し、陶器の上に置いておく。そして、その上に薬の入った容器を置き、少し沸騰してきたところで、天界の波動を送りながら、薬を混ぜていた。

 ……意外と、この作業も恥ずかしいと思っている。ぱっと見、何か光る男が、怪しげに薬を作っているのだからな。本来なら、一人でやりたいものだと思いながらも、薬作るから出ていけとも言えず、俺は黙って薬を混ぜていった。


 俺が作業を始めると、リンネとツバキは食い入るように薬を見つめる。リンネの方は白く濁っていた液体が段々と透明になっていくさまが、気に入っているようだった。


「そういや、リンネは魔獣だが、俺の天界の波動はやはり嫌いか?」

「キュウ」


 俺の問いかけに、リンネは首を横に振る。どうやら嫌いではないらしい。いまさらと言うわけではないが、少し気になったが、魔物と言えども、リンネは天界の波動は気にならないらしい。


「一応は、魔物なのにな……ツバキ、分かるか?」

「いえ……妖狐自体が謎に包まれていますからね……」


 流石にツバキもこの謎については分からないらしい。ただまあ、これについては寧ろ困ることではないので、気にしないでおいた。


 その後も薬を作り続ける。ツバキにも手伝ってもらおうとしたのだが、ツバキは調合スキルも、調理スキルも持っていないということだったので、遠慮していた。

 ふと、この際にツバキを鑑定眼で視てみようと思った。そう言えば、こいつに使ったことは無かったからな。良く知っておこうと思い、一応ツバキに確認すると、俺の頼みを受け入れてくれた。

 俺は作業を止めて、ツバキを鑑定してみた。


 ……


 名前:ツバキ

 年齢:18

 出身:モンク

 職業:騎士(マシロ師団)

 種族:人族

 所持武器:魔刀「薄刃刀」

 スキル:剣術、武術、心眼、眼力、隠蔽

 技:斬波

 薄刃斬波


 抜刀術

 瞬華

 鬼蜻蛉

 奥義・雀蜂


 ……


 ふむ……スキル、意外と少ないんだな。技も少ない。だが、斬波にしろ、抜刀術にしろ、それぞれに、派生の技が多くあるので、手数が少ないというわけでも無いようだ。

 鑑定スキルも持っていないとは驚きだな。ツバキ曰く、鑑定も調合も持っていないため、冒険者をするよりは騎士の方が良いと判断したようだ。鑑定スキルは俺も割と使うからな。知らない魔物と対峙した時だったり、見たことない素材を見つけたときなどは重宝する。何となく勝った気になり、得意げになった。


 さて、そんな感じに、ツバキの鑑定を終えた。ツバキが、いかがでしたかと聞いてきたので、鑑定で視えなかったもの以外にも、色々と出来るツバキは大したものだと褒めると、嬉しそうな顔をした。


 その後、薬作りを再開。リンネの方は飽きたらしく、再びツバキと一緒に遊び始めた。部屋の中ではあったが、ツバキが小さな球を転がし、リンネがそれを拾ってくるという簡単な遊びだ。ただ、こちらに届くと危ないので、少し離れて遊んでいる。

 後は、獣人の姿になって、座敷遊びなどを始めた。鈴に向けて扇子を投げたりしている。一向に当たらないリンネに比べて、ツバキは何度も当てては、リンネに得意げにしている。悔しそうにするリンネに、どうやったらまっすぐ飛ぶかを教えるツバキ。

 教えたとおりにリンネが投げると、扇子はまっすぐと飛んでいき、見事鈴に命中する。リンネは嬉しそうにツバキに抱き着き、ツバキはリンネの頭を撫でていた。


 何となく、微笑ましい気持ちになりながらも、薬を作り続けていると、リンネが撫でてと、俺に近づいてくる。俺がリンネを撫でると、嬉しそうな顔をして、その後も、ツバキと一緒に扇子を投げて遊んでいた。


 そして、しばらくして、日が沈みだした頃、部屋の外から、小さな足音が聞こえてきた。襖がガラッと開かれると、そこにはたまが居る。


「ただいま!」

「おう」

「おかえりなさい、たまちゃん」

「……!」


 たまを見たリンネは、遊びを辞めて、たまに飛びつく。たまは嬉しそうにリンネを受け止めると、優しく頭を撫でていた。


「おじちゃん、今日も疲れてる?」

「ああ。くたくただ」

「じゃあ、おゆうはん作るから待っててね!」


 たまはニパっと笑ってそう言った。すると、リンネがたまに頷き、手をつないで、もう一方の手を高く上げている。


「何だ? お前も手伝うのか?」

「……!」


 俺の問いかけに、リンネは笑って頷いた。流石に料理というのはやらせたことないな。だが、いい経験になると思い、リンネの申し出に頷いた。


「分かった。しっかりやれよ」

「……!」

「つまみ食いとか、するなよ。ちゃんとたまの言うことは聞くんだぞ?」

「……!」

「よしよし。じゃあ、たま。リンネのこと、頼んだぞ」

「うん! まかせて! 行こ、リンネちゃん!」


 たまはリンネの手を引き、炊事場へと向かった。そして、後を追うように、ツバキも立ち上がり、二人の後を追う。


「あ、私も何かお手伝いします」


 そう言って、ツバキは部屋を出ていった。気を利かせたのだろうが、あいつは時々、俺と一緒に居たいのか、どうでも良いのかわからない時がある。

 だが、それでも、というかその方がいいやと思い、ツバキを見送った。

 残った俺は道具を片付け、風呂へと向かった。今のうちに入っておこっと。風呂場へと向かう途中、廊下を歩いていると、居間の方から声が聞こえてくる。何人かの冒険者が帰ってきているらしい。

 チラっと見ると、いつもと同じく、それぞれで茶を飲みながら団らんしている。十人ほど帰っているな。やはり今朝早く出ていったのは正解だったようだ。ジゲンとも茶を飲みながら楽しく語らい合っている。

 よく見ると、皆はすでに風呂に入ったらしく、何人かの女は髪を乾かしたりしていた。


 ……あれ……ということはまた一人で入ることになるのか……。


 まあいいや。せっかく用意してくれたのだからな。俺も早く入ろっと……。


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