第18話―“武神”と約束する―
途中、精霊人姉妹がムソウについて語り合うという場面があります。会話多めなので、ご了承ください。
屋敷に戻ると、マリーが言っていたように、長老たちは夕食をとっていた。
ワイアームの肉を使ったらしいな。机の真ん中の大皿には肉が山盛りとなっている。
「おう、ムソウ、戻ったか」
ロウガンが俺に声をかけた。
「ああ。遅くなってすまないな」
「何してたんだ?」
「精霊人たちと遊んでいたよ」
そうかと頷き、ロウガンは肉を食べるのを再開する。
俺も椅子に座り、夕飯を食べ始める。うん、うまいな。ワイアームの肉は鳥の胸肉のような歯ごたえだが、脂がのっていて、なかなかうまい。
「ムソウ殿、こちらも」
と、長老がわいんを勧める。ありがとうと礼を言い、わいんを飲んだ。ワイアームの脂っこさを中和し、口の中は幾分かすっきりする。これはよく合うなあ。
「ハハハっ!ムソウは旨そうに酒を飲むなあ!」
サネマサは美味そうに大きな肉にがっついていた。それを見たワイツ卿は眉を顰める。
「これ、サネマサ殿。行儀悪いですぞ」
「いいじゃねえか。気にすんな!」
ワイツ卿の言葉にサネマサはそう返す。十二星天といえども、どこか人間味があっていいなあ。って当たり前か。俺と同じ人間だしな。
「しかし、今日はロウガンは、あまり酒を呑んでいないようだな。酒好きじゃなかったっけ?」
普通の果実水を飲んでいるロウガンに、サネマサは不思議そうな顔をする。ロウガンは、多少ビクッとしたまま何も語らなかった。
「私や、サネマサ殿に遠慮しているのか?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「ふむ……今日こそは、皆が頭を抱えるロウガン支部長の暴れるところを見れると思っておったのだがな……」
ワイツ卿の言葉に、更に身を震わせるロウガン。なるほど……ロウガンは酔うと暴れるのか。困ったもんだなとは思うが、それを自覚し、自分で制している辺り、ロウガンはまだ、まともだ。闘鬼神の頭領は酷かったなと思い出しながら笑った。
そんな感じで、俺たちの夕食は進む。
夕食の後は、各々風呂に入ったり、自分の部屋へと戻っていった。
俺は最近やっていなかった、刀で素振りをするため外に出た。
さすが森の中だ。涼しいな。
俺は素振りを始める。
森の中は、虫などの声がして気持ちいい。素振りはいいな。何にも考えたくないときや、暇なときはちょうどいい。
こっちの世界に来てからは、本当に怒涛の毎日だったからな。たまにはこういうのも悪くないな。
……
ブンッブンッブンッ
「……お、やってるなあ」
ふいに誰かの声が聞こえた。声のする方を見ると、サネマサだった。
「ああ、サネマサか……どうした?」
「邪魔して悪いな。俺も鍛錬に来たんだが、刀を振っている音が聞こえてな。気になって来てみたらお前だったというわけだ」
「そうか」
「……でよ、俺ともう一回試合してくれねえか?」
「……お前がそう言うなら……やるか」
俺がそう言うと、よっしゃあ!と言って、サネマサは俺に木刀を渡す。
「本気でやるとみんなを起こすからな、これで」
「ああ、そうだな。わかった」
「あと技の使用も無しだ。ここは屋敷の庭だからな」
「そうだな……」
俺とサネマサは木刀をじっと構える。俺は下段に、サネマサは二本の木刀を、太鼓を打つように構えた。
あたりからは風の音と虫の鳴き声しか聞こえない。
ふいに強い風が吹いた。そして俺とサネマサの間を葉が舞う。そして、最後の一枚が落ちた瞬間……
ガキンッ
俺とサネマサはぶつかり合った。
「ハハッ同時とはな!」
「まったくだ!」
しばらく鍔競り合いが続く。と、ここでサネマサは片方の木刀を手から離した。そして体の力を抜く。
俺の体はサネマサの方へと傾いた。すると、サネマサは離した木刀を逆手に持ち、切りつけてくる。力の使い方が上手いな。
俺は持っていた木刀から手を離し、宙返りしながら、その一太刀を躱す。そして、サネマサの腹を蹴った。
サネマサは後方に吹っ飛ぶ。俺は近づきながら木刀を拾い、追撃の上段打ちを仕掛ける、が、サネマサは砂を拾い、俺の顔にぶつけてくる。
「ぶはっ」
俺は目をつむり、追撃は失敗した。直後、サネマサが走ってこちらに来る足音が聞こえる。まずい、このままだとサネマサから攻撃が来る!
俺は音のする方に向けて、足で砂を蹴った。と、同時に、地面を木刀で打ち、砂埃を上げる。
「ッ!、おっと!」
サネマサは引いたみたいだ。俺も跳躍し、一旦引く。目の砂を払うと、サネマサがこちらへ走ってくる。
俺は居合をするように木刀を下げた。
「「ッ!」」
サネマサと俺がぶつかる刹那、俺とサネマサの木刀がぶつかる。そして、衝撃に耐えられず、俺とサネマサの手から木刀が離れた。離れた木刀は地面へ落ち、3本ともパキンと砕けた。
俺たちはその様子を見ながら……
「引き分けだな……」
「だな……」
と、笑いながら頷き合う。
お互い肩で息をしている。
「……あ~!また、勝てなかった~!」
サネマサが座り込みながらそう言う。
俺もサネマサの隣に座り、
「いや、俺も前もこれも、完全な勝利とは言えねえからな。若干悔しい」
「ハハハ! “武神”の俺に完全に勝利か?それはまた――」
「無理そうか? “武神”殿?」
俺の問いにサネマサは
「……いや、あり得るなあ。そうなったら“武神”の名をお前に渡すことになるなあ」
そう言って、ニカっと笑う。
「“武神”か……。前の世界のあだ名に比べたら、マシだな……」
「ほう。それは興味深いな。何て呼ばれていたんだ?」
顔を覗き込んでくるサネマサに、俺は苦笑いした。
「“死神”だ……」
「ハハハッ! ピッタリじゃねえか!」
サネマサは俺に向かって、何とも失礼なことを言ってくる。……だが、こういうのも久しぶりだなと思い、俺も笑った。
この男はやっぱり気持ちいいな。この世界に来て、初めてできた好敵手という感じだ。俺の強さはこの世界では異常みたいだからな。こういう奴は少ないと思っていた。
だが、こういう冗談でも笑いあって言える、初めての人物に俺は巡り合ったのかもしれない。他の迷い人もこうだとありがたいのだが……。
「なあ、アンタはどんな世界から来たんだ?」
「ん? 俺は日本という世界から来た」
少し、気になってサネマサのことを聞いてみたが……。
ニッポン? たしかに聞いたことないなあ。俺が首を傾げていると、サネマサが口を開いた。
「……やっぱりな。お前は俺と同じ世界から来たんじゃないかと思っていたが、安備の国なんて聞いたことねえからな」
「どういうことだ?」
「お前の武器や、言葉はどことなく日本のものに似ている。きっとどこかには、日本と似たような世界があって、そこからお前は来たんじゃないかなと思ってな」
「ああ、そういうことか」
「だが、これを知ったのは、ミサキ・サトウという奴に出会って初めて分かったのだがな」
ミサキ……たしか魔法帝とか呼ばれる女でいろいろな資源を生み出した者だったか。
たしか時空間魔法とかいうやばいやつを生み出していたりもする、魔法使いの最高峰だったな。そいつがどうしたんだ?
「ミサキが言うには、俺は自分と同じ世界の、違う時代の人間だというんだ。
俺がいたエチゼンというのは、自分がいた時代から数百年前の日本の、ある地域の呼び名で、さらに、俺はセンゴク時代という時代に生きた過去の人だと言っていた」
「つまり、お前らは同じ世界の違う時代から転生された、ということか?」
「まあ、そうなるな。転生者は死んだ者の魂だからな。そのあたりは過去も現在もどうでもいいらしい」
「それで、お前はそこで何してたんだ?」
俺がそう聞くと、サネマサは生前の自分を語り出した。
「俺がいた世界では戦が多くてな。大名と呼ばれる者たちが天下統一を目指して隣国と戦う、そんな世界だった。
俺は、もともとは百姓の生まれだったが、武芸も好きでな。近くで戦があると見に行っては、兵士たちの戦い方を見て覚えたり、庄屋の家に遊びに行っては、名のある者たちの武芸を見て勉強し、真似していた」
サネマサの話では確かに、俺の世界と似ているな。「だいみょう」というのは居なかったが、代わりに領主というのがいたが、似たようなものだろう。
「ある時、後の世に天下分け目の大戦と呼ばれることになる戦が始まってな、俺はそれに志願し、参加した。
目につく敵は倒しまくった。そして、あたりに敵がいなくなると突出して指揮官の声も聴かずただ、目につく敵を斬っていった……だが、敵の策略にはまり、伏兵からの奇襲を受け、殺されてしまったということだ」
なるほど。そんな戦は俺の世界には無かったな。いや、これからあったのかもしれないが。
しかし、生前からこいつは調子に乗るときはとことん乗る悪い癖があるみたいだな……。
「敵に斬られた後のことはよく覚えていないが、俺の才能を天下に知らしめる大戦で、こんな死に方はありえないだろう。もっともっと、自分の名を天下に轟かせたい! と、死んでも思っていたが、俺の意識はそのまま深いところへと眠りについた」
死んでも思っていたってどういうことだよ……。よっぽど前の世界に未練があったんだな。
「……そして、ふと気が付くと、俺の前に大きな鬼のような者が座っていた」
「鬼?」
「ああ。すぐさまこれが地獄にいるという閻魔様なんだろうと、直感的に思ったよ」
エンマってたしか、この世界の冥界の王だったよな。100年戦争で人間とともに神に勝ったっていう。なんで違う世界のサネマサがわかるんだ、と思い聞いてみると、サネマサの世界の宗教の中に同名の者がいたらしい。
「閻魔様は俺に、もう一度生きてみたいか? と尋ねた。俺はその申し出を一も二もなく、ただ、生きたい! 生きて、俺の名を天下に轟かせたいッと言った。すると閻魔様が手をかかげ、俺は生まれ変わった、というわけだ」
「……ちょっと待て! 最後のほうは少しわけがわからなかったぞ」
「実際そうなんだから、仕方ないだろう。閻魔様は、よかろうとだけ言って、そのまま俺は意識をなくし、気が付けばここから離れたところにある、クレナ領のとある町の夫婦の子供として生まれていたのだからな」
ん? また、わけのわからないことを……子供として、生まれていた? どういうことだ? 俺が不思議そうな顔をしていると、
「ん? なんだ知らんのか。転生者は、元の世界で死んで、この世界で違う人間として、生まれ変わった者だ。文字通り、人生をやり直すものだ。まあ、ある一定の……死んだ年齢くらいになると不老になるみたいだがな」
「え、じゃあ、アンタは……」
「むろん不老だ。もう何年生きたことか……。ちなみに召喚者というのは、元の世界そのままの姿でこちらに来る者で、そこから不老だ」
サネマサはそう言った。……じゃあ、実際のところは俺よりも年上なのか?こいつ……。
俺もそうなのか? と聞くと、知らん! と言った。
「お前は存在自体が謎だからな、俺も鑑定を使って視たがロウガンの言うように、究めた鑑定スキルでもわからないことが多いからな。何とも言えん」
「……そうか。……なあ、迷い人ってここに来るときに何かを頼まれるって聞いたが、アンタはエンマになんて頼まれたんだ?」
「ああ、民衆にはそう広まっているようだな。……だが、俺は特に何も頼まれてはいないぞ?」
「そうなのか!?」
サネマサの言葉に驚く。サネマサは人生をやり直せと言われたから、この世界に来ても、好きなこと、こいつの場合、自分の武を世界にとどろかせることをしていたら、いつの間にか十二星天の一人になっていたという。
さらに、サネマサ以外の転生者も同じで、やりたいことをやっていたら、それが偉業になったという。これだけ聞いたらすごいと感じるが、目の前のサネマサを見る限り、転生者は案外人間味のいいやつらなのかもしれないな。
「……ただ、召喚者は違うらしい。神と何らかの制約を交わし、こちらの世界に来たようだ。現にどいつも俺らよりは人間の生活に貢献しているからな。ギルド、騎士団の創設とか、ウィニアの守護、神族の味方である龍族との和解、それから、ジェシカがやった、シルバ再興は大きいな。どれも魂の管理問題に直接影響を及ぼす貢献だ」
確かにそうだな。言われてみれば、どれも大地にとって有益なものなんじゃないかという貢献ばかりだ。神族は、たしか天界と大地の間の結界のせいで、直接の干渉はできないんだっけか。あ、だから召喚者に頼み、力を与えているのかもしれないな。
「……この世界に生まれてからは、本当にいい生活だった。こっちの世界の両親は、ずいぶん前に死んだが、クレナ領にある一つの地域の管理者でな、まだギルドなんかなかった時代、その時は魔物が出ても自分たちで何とかしてた。俺もEXスキルの効果で究めた様々なスキルを駆使し、まわりから、最強と呼ばれ、はしゃいでいた。
そうして、仲間達と共に闘い、武芸を磨き、ロウガンに出会い、最終的には壊蛇を倒し、俺の名は世界に轟いた。本当に閻魔様には感謝しかねえな……」
どこか感慨深げに、サネマサは語った。
「……なあ、アンタとロウガンの関係って?」
「ああ、聞いてなかったのか。ロウガンは俺の弟子だ」
え……そうなのか。たしかに戦い方や技は似ているが……
「ロウガンは俺がこの辺りを旅しているときに出会った。あの時は15、6だったが、俺が魔物を倒すところを見て、感動したらしい。すぐさま弟子にしてくれって頼んできたよ。
俺は自分の強さがいつの間にか誰かの憧れになっていたことを知り、うれしくなったよ。その後、稽古をつけたり、ともに壊蛇と戦ったりして過ごし、ロウガンが30のころかな? 一通りの技は教えたから、あとは自分で磨けと言って、卒業させた。
その後、ロウガンは冒険者になったが、ある魔獣との戦いで、ロウガンは目をやられた。それで、冒険者をやめたが、俺がセインに頼み込んで支部長にしてもらったというわけさ」
たしかに長老からそんな話を聞いたな。なるほど、あの時言っていたのがサネマサか。しかし、弟子のことを最後まで気にするとは、こいつもいい師匠だな。ちょっとだけ、尊敬したぞ。
それにしても、ロウガン……ということは腕が落ちて、あの強さか。一応は俺の勝利だったが、全盛期ってどんなだったんだろう?
「ロウガンがやられたとき、思ったよ。人々から崇められても、俺は自分の強さに酔っていただけだってな。それで、前は死んだのに、全然成長してないって。
だから今はウィニアで道場を開き、若い奴らや子供たちに教育している。死なないためのな。お前もウィニアに来ることがあったら、寄って行ってくれ。門下生と総出で歓迎してやるから」
「フッ、望むところだ」
俺とサネマサは固く握手をした。
いつか、きっとな。その時こそ、俺達も本気で勝負をつけようじゃないか……。
その後、サネマサとともに風呂に入った。風呂はホリーの家のものに比べるとすごく大きかった。温泉みたいだな。ロイドのやつ毎日これに一人で入っていたのか。
……あいつと同じところに入るのは嫌だが、まあ仕方ない。さっきの稽古で、おたがい埃まみれで、汗まみれだからな。我慢してはいるか。
「……いやあ、やっぱり風呂はいいなあ。この世界にきて、最初にうれしかったのは風呂があったことだからなあ」
サネマサによると、一応、米もあるらしい。というのも、ミサキがスキルを使って生み出したという。
……なるほど。ミサキって奴も相当だな。本当に好きなことやってるだけで世界を救っている感じだ。ちなみに、俺がサネマサとの戦いで寝てて、起きた後に来た着物もサネマサが用意したらしい。
自分の世界に似たところから来てるんだから、これがいいんじゃないかと置いてくれたようだ。ちなみに、これもミサキが製法を世界に広めたのだという。一回話してみたいなあ。
その後風呂を出て、サネマサと別れて、部屋に戻り、俺は布団にくるまった。集落に来てからはホリーの家に泊まりっぱなしだったからな。ちょっと落ち着かないが、昼間の遊びや、先ほどの稽古もあり、疲れていた俺はすぐに寝れた。
◇◇◇
ここは村から少し外れたホリーの家。ホリーは精霊女王の冠を手に取って笑っている。
「ムソウさんから……フフッ」
ムソウが来てからまだ数日。この、たった数日の間に嬉しいことがたくさんあったなあとホリーは思う。
正直、一人で、いろいろ我慢するのはつらかった。けど、信じていればきっといいことがあるって思ってた。そうやって過ごすうちに、ムソウさんは来てくれた。私の願いを聞いてくれた。あの人にはどれだけ感謝しても足りない、とホリーはこの数日のことを思い出す。
すると、風呂から上がったマリーが部屋へと入ってきた。
「ホリー、お風呂気持ちよかったよ~」
マリーがホリーに話しかける。
「……何見てるの?」
マリーはホリーの持つ精霊女王の冠を見る。ああ、よほど嬉しかったのね、と思っていると、ホリーが口を開いた。
「……ねえ、お姉ちゃん。ムソウさんて、どんな人?」
ホリーの言葉にマリーはふと考えこむ。会って数日の人間にここまで興味を示すのは、なかなか無いからだ。
……というか、そんなに日数変わらないんじゃ……とマリーは思う。
「一日中一緒にいる時間が長いホリーのほうが詳しいと思うよ?」
「それでもいいからおしえてよ~!」
ホリーはマリーに飛びつく。家の中で、ましてやムソウの前に居ないときのホリーは子供っぽい性格だ。さらに、今はマリーと二人きりだ。ホリーは妹らしく、マリーとじゃれる。
「わっこら! やめなさい!」
「教えないとこうだ~~~!」
と、ホリーはマリーをくすぐり始める。
「わっ! あはははは! やめ、やめてって! あははは! こらっ! い、言うから、や、やめなさい!」
「よし!じゃあ、おしえて!」
マリーは観念するとホリーに話す。
「そうねえ……最初にギルドに来た時は、正直怖かったのを覚えてるわ。なにせ抜き身であんなに大きい刀を持っているもの。でも、話すと自然で、最初は自分のスキルがわからないって言ってたから、リリーのところに案内したわ」
「リリー姉さんのところに!? 大丈夫だったの?」
「見たわけじゃないからはっきり言えないけど、リリーが「私の名前はな~んだ?」って言ったときはじゃっかん引いているように感じたわ」
「ああ……わかるかも」
「で、そのあと、私のところに来たから、試験のことを伝えると、きょとんとしていたわ。冒険者になりたい人なら、当然知っていることだから、私も驚いたけど……」
「ムソウさん、迷い人だから、知らなかったのね」
「そうね。私も今日知ったわ。それで、その後、試験会場に行ったんだけど、すごかったのよ。会場の方からすごい音が聞こえてきて……。後で支部長に確認したら、本気の支部長と戦って勝ったらしいの」
「え~! すごい! ロウガンさんに勝つなんて!」
「そうよね。まあ、ワイアームの大群を倒すんだから、今考えれば、不思議じゃないわね……」
「そ、そうだよね」
「そして、そのあと腕輪を渡して、帰っていったわ。……そうね。あれはまだほんの少し前だもんね。このところ、衝撃続きで、もうかなり昔のことに感じるわ」
「冒険者になった後は?」
「二日後だったかな。また顔を見せたのは。そのまま依頼書の貼ってある壁を見ながら、あれこれ考えていたけど、ほかの冒険者と一緒に一枚を持ってきたわ」
「ほかの冒険者?」
「ハクビさんって方で、獣人の女性だったよ。全身純白の毛並みをして凛としている方だったわ」
「……むぅ」
ここで、ホリーが訝しげな顔をした。マリーはそれを見て不思議に思う。
「どうしたの?」
「……なんでもない」
マリーはすこしふてくされて頬を膨らませるホリーをみてははーんと、何か思い当たったようだ。
「ふふっ」
「なに?」
「何でもないわ。話を続けるね。ムソウさんたちが選んだのは、オオイナゴの大群の討伐だった」
「えっ、オオイナゴって、大群になるとなかなか手が付けられないっていうあの!?」
「そう。だから私も心配したんだけど、二人は問題ないって言って、出かけて行ったわ。私は正直心配だったけど、エリーからここに来る前にワイバーンを倒したって聞いてちょっと安心したの」
「どうして、エリーたんは知っていたの?」
「グレンさんという商人に聞いたそうよ。なんでもマシロまでの道中、その人と旅をしていたらしいの」
「へ~。それで依頼はどうなったの?」
「二人は翌日帰ってきたわ。しかも昼過ぎぐらいに。あまりにも早かったから、10匹でも狩っていればいいななんて思っていたけど……」
「どのくらい倒していたの?」
「それがね、完全達成だったの! 私も驚いて、エリーの所に向かわせたわ。そうしたら、報告にあった数と一致してたから驚いちゃって! 報酬や、素材の売却金を金貨に換える時なんか、袋を持つのが精いっぱいだったわ」
「すごいっ!さすがムソウさんだね!」
「そうね。そして、その時に、今回の依頼のことを話したの。そしたら、すぐに承諾して、準備に取り掛かっていたわ」
「そっかぁ。そうやって、ムソウさんはここに来たんだね……お姉ちゃん、ありがと!」
また、この子は……。私がムソウに頼んだのはあなたの手紙があったからよ。
マリーはホリーの頭を撫でて優しくほほ笑んだ
「ねえ!ほかには!?ほかにはないの?」
ホリーはマリーにもっと、ムソウの話をするようにせがむ。マリーは少し考え込み、思い出したように口を開く。
「……そういえば、その次の日、ここに来る前の日だったかな? 一緒に食事をしたの」
「しょ、食事!? そ、それって……」
「二人で、じゃないわよ! ……ムソウさんがギルドに泊まっていってね、朝食はギルドの食堂を使っていたのよ」
「な、なんだ……そうか」
ホリーは安心したように胸をなでおろす。
「リリーとエリーと一緒に食べていいか聞いたら、おうって言って迎えてくれたわ。それで食べながら、ギルドの部屋の寝心地を聞いたら、悪くはないって言ってくれたわ。
そのあと、支部長たちとも一緒にワイアームの話をして、ここの説明をしたときに、他のギルド職員も出勤してきてね、リンス副支部長が、いろいろと説明してたわ。説明を聞きながら、ムソウさんは何度もうなずいていたわね」
「やっぱりこの世界のことまだまだ知らないことが多いみたいだね」
「そうね。リンスさんのことも知らなかったみたいだから、ギルドでロウガンさんに次いで強いと教えると……」
「え、ムソウさんどうしたの?」
「ムソウさんは悪い顔で笑っていたわ……」
「……な、なにを考えていたのかなあ」
「多分きっと、手合わせしたいってところじゃないかしら。ときどきそんな風に思うから。
今日だってサネマサさんと戦った後も満足そうな寝顔だったしね」
「……私、すごく心配したんだよ~」
「はいはい。ホリーは偉いわね。それで、そのあとは私たちも席を離れたんだけど、エリーがね職場に戻るときに、また、依頼達成の時にはお声掛けくださいって言ったら、ムソウさん、エリーの頭を撫でたの! エリーは顔を真っ赤にして走っていったけど、私はお父さんみたいなことするなあって思ったの」
「エリーたんにもしてたのかあ……」
ホリーはガクッとした。
「ん? どうしたのホリー?」
「……ムソウさん、私にもよくするんだあ。私にだけかと思っていたけど他の人にもするんだあ~」
「あ、やっぱり。あんなに自然に他人の頭を撫でる人、初めて見たものね」
「うん。でもね、なんかムソウさんに頭を撫でられるとすごくうれしくて安心した気持ちになるの。本当にお父さんみたいだった」
ホリーの言葉にマリーはにやける
「……ホリー、ムソウさんのこと好き?」
「え!?」
ホリーは突然の質問に慌てる。
「ち、ちがうの! 好きだけど、その好きって言うのは、そういう好きじゃなくて、えっと……その……」
「やっぱり好きなんじゃないの! 妹の恋、お姉ちゃんは応援するわよ!」
「だから違うってば! そんなんじゃないの。……本当にお父さんみたいだなって思ってるだけだから、そういうのとは……違うの……」
ホリーは顔を真っ赤にしてそう言った。
「アハハ! 冗談よ。それにしてもムソウさんはこの世界に来てから、いろいろなことをしたのよね」
「うん。私はこれからも何かをしてくれるって信じてる」
「そうね。迷い人の偉人たちはみんなそうだからね」
「うん、それもあるけど、ムソウさんのはもっと大きなことだと思うの」
「……大きなこと?」
「そう。いいことなのか悪いことなのかわからないけど、ホントにすごい何かをしそうな、そんな気がする」
「ふふっ良いことだといいわね!」
「うん!」
「……さあ、明日は私、朝起きてやることがたくさんあるから、もう寝るわね」
「うん。私ももう寝るね」
「そう、じゃあおやすみ」
「おやすみ!」
マリーは部屋を出ていく。
一人残されたホリーは木彫りの像を手にする。
「……あなたもそんな思いでしたか?」
木像に微笑み、彼女も眠りについた。
窓から差し込む月明かりが木彫りの像を照らしていく。
◇◇◇
「……きて……さん」
誰かの声が聞こえる。誰だ?
……なんか前にもこんなことがあった気がする。あの時は夢だったな。じゃあ、これも夢かな……。
「起きてください! ムソウさん!」
布団を思いっきり剥がされた。
「なんなんだ!」
俺は起き上がるとともにそう叫ぶ。目の前にはおびえた表情のホリーがいた。
「ホ、ホリー?」
「ご、ごめんなさい!何度も声をかけたのですが起きなくてつい……」
あ~、そうだったか。悪いことしたなあ。
「あ、いや、すまない。怒鳴ったりして悪かった……」
「い、いえ。……あ、それよりも、皆さんがそろそろお帰りになりますよ!」
ホリーがそう言う。俺は慌てて、着替え、村の広場へと向かった。
「……おお~、来た来た」
広場につくと、サネマサが俺に手を振る。
「あんまり気持ちよさげに寝てたからな。起こすのも悪いから、もう行こうと思ってたところだ」
ロウガンは笑いながらそう言った。
「いや、すまない。……で、もう帰るのか?」
「ああ。ギルド支部長ってのは忙しいんだ」
「領主というのはさらに忙しいぞ」
「十二星天というのはその100倍忙しいがな」
「ギルドの受付はもっと忙しいです」
俺の問いにみんなはそう答える。誰が一番忙しいんだよ……。どうでもいいよ。
などと考えていると、
「「「「我々は忙しい皆さんのために、忙しいです!!!」」」」
と騎士の奴らが言った。
「うるせえ! おまえらには聞いてねえ!」
俺がそう言うと、騎士団は兜の上からでもわかるくらいしゅんとなった。
皆は笑った。
「……さて、話にオチもついたし、そろそろ行くか」
「ええ。……ムソウ殿。マシロに帰るなら、道中の魔物の討伐も出来るだけで良い。頼むぞ」
ワイツ卿の言葉に俺は大きくうなずいた。
「じゃあな、ムソウ。昨日の話忘れんなよ!」
サネマサと俺はがっちり握手をした。
「じゃあ、俺たちも行く。報酬は帰ってからな」
「ああ」
ロウガンが馬車に乗り込んでいく。
あれ、マリーは? と思い回りを見ると、精霊人たちに囲まれていた。
「じゃ、ホリー、長老様、みんな、元気でね!」
「うん!また手紙書くからね!」
「機会があればいつでも姉妹そろって帰るがよい」
「そうだぜ! 精霊人の寿命は長いからな! 気長に待ってるよ!」
「じゃあね、マリー。リリーとエリーにもよろしく伝えておいてね!」
「あ、俺の分もだ! リリーさんに会いてえ!」
「俺はエリーたんだ!」
最後のやつがそう言うと、ホリーはそちらをキッとにらそいつは黙った。それを見て、精霊人は笑う。
もう、マリー達が人族の街で働き、生きていくということに、何も文句は無いようだ。皆、マリーの無事を祈って、見送っている。
「……じゃあね、みんな!」
マリーは馬車に乗り込んでいった。
馬車はそのまま動き出し、集落を出て行った。
◇◇◇
「……さて、今日は何しようかな」
馬車を見送った後、俺がそう言うと、
「すまんが、ムソウ殿にしてほしいことがあるのじゃが……」
と、長老が俺に何やら頼みごとをしてきた。見るとほかの精霊人たちも俺を見ている。
すると、長老が付いてきてくれ、と頼むので後に従った。ほかの精霊人たちもついてくる。
そして、到着したのはロイドの屋敷だった。
「これを……跡形もなく、破壊してほしいんじゃ」
長老はそう告げた。
「……どういうことだ?」
「これはわし等にとって負の遺産、忘れたくても忘れられない忌まわしき記憶の産物じゃ。これがある限り、わし等はつらい過去を思い出すことになる」
「俺たちはもう、昔を見たくない。今を生き、未来を生きるって決めたんだ」
「こんなもの、あっても嬉しくない! ムソウさん、お願いします!」
俺の問いに、長老をはじめ精霊人たちは口々に言った。ふと、ホリーを見た。
「……私も皆さんの意見には賛成です。
今なら言えます。ここでの日々は本当に辛いものでした。あと少しで私は人族だけでなく、精霊人の皆だって深く恨む結果になっていたかもしれません。……もう、あんな思いはしたくないんです……」
ホリーはまっすぐと俺を見ながら、そう言った。
「……わかった。もう、壊してもいいのか?」
「うむ。物品や貴重品などはすでに運び出されておる」
「よし! わかった」
そして、俺は無間を構えた。
「お前ら、ちょっと遠くに離れて――」
「防御結界を張っておる。存分にやれ」
俺の言葉を遮り長老は杖を高々と上げた。すると精霊人の周りに半透明の壁が現れる。用意がいいことで……。さすが、長老だ。
さて、やるか。
ーすべてをきるもの発動ー
視界に赤い線、屋敷の切れ目が現れる。
「奥義・無斬!」
俺は大きく息を吸いそれぞれの切れ目に無間を叩き込んでいく。
一撃、一撃を食らわせるたびに、ガラガラと屋敷は崩れ始める。
そして、斬撃は振るたびに大きくなっていく。
「おおおおおおッッッ!!!!」
大きくなった斬撃が屋敷を飲み込んでいく。飲み込まれた箇所はこぶし大の塊から徐々に砂に近いまでになり、砕かれていく。
精霊人たちはその様子を瞬きもせず、ただじっと眺めていた。
「ハアアアアアアッッッ!!!」
辺りが瓦礫の山になったころ、俺は、無間にありったけの気を送り、高く跳躍した。
「長老! 気張れよ!!!」
俺が言うと、長老はさらに気合を入れ、先ほどよりも明らかに強い壁を張る。……あれなら大丈夫そうだ。
「奥義・無尽!」
そのまま無間を振る。無間から特大の斬波が放出され、地面を斬った。斬撃に飲み込まれ、瓦礫は砂と化す。辺りは土煙でいっぱいになった。
この技は連撃もできるようだが、一撃で良かったな。
「ふんっ!」
俺は無間を思いっきり振って、土煙を払った。屋敷は跡形もなくなり、そこにはただ、更地が広がっていた。
―これで、二度目……だな―
俺は、無間を背負い、長老たちの方に振り返った。流石、長老の結界、傷一つついていない。精霊人たちは無事なようだ。
「……よしっ終わったぜ」
俺が精霊人たちにそう言うと、精霊人たちは俺を指さし、笑っている。よく見るとホリーも笑っている。
ん? どうしたんだ。そんなに嬉しかったのかな?
「やれやれ、締まらんのう……」
長老は呆れたように俺に言った。
「何言って……あ!」
俺は自分の体を見て、気づく。土煙によって、黒い服が真っ白になっていた。さらに、髪や髭にもついているらしく、白髪の爺さんのようになっている。
すると、更に精霊人の皆から囃し立てる声が聞こえてくる。
「いやぁ~、すごい爺さんがいたもんだ」
「そりゃそうだ長老だって爺さんだもの、そりゃいるさ!」
「これ! わしを爺さんと呼んだものは前に出よ!」
精霊人たちは結界の中でそんなやり取りをしている。俺は途端に恥ずかしくなった。
「アハハハハ! ムソウさん、お父さんからおじいちゃんになっちゃった!」
「オイッ! ホリー、そりゃどういう意味だ! お前らも笑うんじゃねえ!」
俺は皆に怒鳴る。怒鳴るたびに体が揺れて白い砂が俺の体から舞う。
それを見て皆は更に笑った。
「笑うんじゃねえええええ!」
俺の言葉はあたりにむなしく響き渡った。
初めのほうに書こうと思ったんですが、どう書いたらいいかわからずそのままにしてました。ようやく書けます。ムソウは日本とは違う世界の人間です。
戦国時代出身にしようと思っていたんですが、時代考証とかややこしくなりそうだったので、もうこいつも異世界出身でいいやということで異世界出身になった主人公です。
サネマサは、その構想を元に生まれたキャラクターです。




