第167話―女装した結果を皆に報告する―
さて、話は俺の旅のことについての話題になる。グレンとの旅はとても楽しかったが、チャブラでは本当に暇だったと言うと、ツバキはクスっと笑う。
「平和なのはいいことではありませんか。ムソウ様もゆっくりできて良かったのではありませんか?」
「それはそうだが、体がなまってしまいそうで敵わなかったな。実際風呂に入ったら結構疲れが溜まっていたと感じたよ。やはり人間ずっと動かないというのもダメなんだな……」
そう言って、肩を揉むと、コモンは笑った。
「やはり、一つ歳をとったこともあり、ますます老いを感じるようになってきましたか?」
「まあな。こっちに来て魔道具のおかげもあって、動けることは動けるのだが、やはり若い頃のようにはいかないかな」
「その見た目で言われましても……」
女の格好をして、爺臭いことを言う俺をみて、コモンは呆れたようにそう言った。すると、ツバキが不思議そうな表情をしていることに気付く。
あ、そうかと思い、俺は旅の間か、その前かに一つ歳をとったことをツバキに伝えた。すると、ツバキはハッとした様子で、背筋を伸ばし、頭を下げる。
「おめでとうございます、ムソウ様」
「そんなに畏まるなって。俺としては年老いたことを少しだけ嘆いているというのに……」
「ふふっ、そうですか。ムソウ様らしいですね」
そう言って、ツバキは頭を上げて微笑む。その後、ツバキはお祝いにと酒を注いでくれた。ありがとうと礼を言って、酒を呑む。いつもしてもらっているのに、今日だけは特別な感じがして、ツバキの頭を撫でた。
「ありがとうございます。いつもしていただいているのに、今日は何か特別な感じがしますね」
「ん? そうか……」
ツバキも俺と似たようなことを思ったらしい。歳をとった分、俺もどこか成長したところがあるんだろうなと思った。
コモンの方は、十二星天なので、歳を取るという感覚というものが、ここ数十年無いという、俺達としてはどうしようもない悩みを言いながら苦笑いしていた。
だが、歳を取る以外にも、未知の素材を扱ったり、創ったことが無いものを作り上げることが出来たときなどは、自分の成長をしっかりと感じることが出来るので、それはいつまで経っても、嬉しいものだと語った。
その後、ふと、外を見ると日が暮れて暗くなっていることに気付く。ああ、やはりこの季節だと日が沈むのも早くなってきたなと感じ、そろそろ帰ろうかと立ち上がる。
「あ、ムソウさん。もうお帰りに?」
「ああ。家で待っている奴らも居ることだからな。そろそろ帰ってやろうぜ、コモン」
コモンはわかりましたと言って、頷き、リンネに手を振っている。リンネは寂しそうにしたが、俺とツバキが頭を撫でると、ニコッと笑い、コモンに手を振り返した。
「またすぐに会えますよ。今度はムソウさんのお屋敷でね」
「……!」
コモンの言葉にリンネは何度も頷く。それを見たコモンはリンネにニコッと笑った。ミサキと同じく、何時の間にか懐かれたものだなと苦笑して、ツバキの方に視線をやった。
「じゃあな、ツバキ。また近いうちに来るよ」
「ええ。その時を楽しみにしておりますね」
「ああ。リンネも……またな」
「……!」
リンネは俺の言葉に頷き、最後にもう一度、ギュッと俺を抱きしめる。やはり温かいなとリンネの頭を優しく撫でた。
「よし……では、帰ろうか、コモン」
「はい。じゃあ、ツバキさん。今日はありがとうございました。武具の強化が済んだら必ずお渡しいたしますので」
「よろしくお願いいたします。では、お二人とも、お気を付けて……」
ツバキの言葉に頷き、俺とコモンは部屋を出ていった。コモンはツバキの刀と鎧を預かったそうだ。何でも、薄刃刀の方はベヒモスの牙に古龍ワイバーンの牙を合わせるらしい。少し重くはなるが、気になるほどではないとのこと。
薄さもそのままに刀身を強化させるとのことだ。
そして、鎧の方も古龍ワイバーンの鱗を張り付けたうえで、ツバキの素早さも損なわないようにするとのことだ。あまり頑張りすぎるなよ、と言うと、ほどほどにしておきますとニコッと笑う。
さて、帰ろうとコスケの所に行くと、やはりまだ慣れていないらしく、俺の姿を見ながら、おどおどとしている。
妓夫なんだからいい加減慣れろよなと思いながらも、コスケから無間と腰に差す刀を受け取り、礼を言った。その際に、高天ヶ原の皆にと買ったチャブラの土産を渡す。
妓楼にものを送るということになるので、少し心配になったが、大丈夫だったようだ。コスケはありがとうございますと喜んで受け取ってくれた。
そして、金を渡して妓楼を出た。花街の夜は相変わらず、煌びやかだ。あちこちから笑い声が聞こえてくる。俺は、また帰るのにも一苦労するんだろうなと思い、足を踏み出すと、コモンが肩を叩く。
「あれ、ムソウさん、そのまま帰る気ですか? また、声とか掛けられたら鬱陶しいのでは?」
「いや、そうは言うが、どうしろってんだよ」
「転送魔法を使いますが……」
……あ、そうか。もう外の用事は済んで家に帰るだけだから転送魔法で一気に屋敷に帰っても良いのか。鬱陶しい視線も、声を掛けられることも無いし、門をくぐる必要もないし、その方が良いのか。俺はコモンの言葉に頷いた。
「ぜひ、その方法で頼む」
「ああ、やっぱりこちらの方がよろしいですよね。先ほどから視線も感じますし……わかりました。早速いきますね」
コモンはそう言って、魔法を起動させる準備を行う。
すると、ちょうどその瞬間に道の向こうから見覚えのある奴が歩いてくるのが見えた。群衆はその者の通る道を開け、深々と頭を下げている。俺はその姿を見た瞬間、殺気とともに焦燥感を感じた。
コモンもそれに気づいたようだ。羽の生えた貴族が、先ほどと同じく大柄な男と先ほどとは違う女を三人ほど侍らせてこちらに向かってくることに気付き、少し、急いで魔法を起動させようとする。
すると、その者と、俺の視線が合った。男は、パッと目を見開き、こちらにずんずんと近づいてくる。俺はコモンに魔法を急ぐように迫った。
「早くしろって!」
「もう少しお待ちを! 行先場所……屋敷の庭……二人分の魔力……」
コモンは何かぶつぶつと呟きながら、俺達の足元に魔法陣を展開させる。俺はなおもずんずんと近づく神人に来るな来るなと、何度も心の中で祈った。
そして、男は俺のすぐ前まで来ると、手を振り、口を開く。
「そなたは……ムイ殿だな! こんなにもすぐ会えるとは、やはり私たちの――」
「出来ました! 転送魔法!」
男が俺に話しかけたその瞬間、コモンは魔法を起動させた。そして、シュンッという音とともに、男の顔や花街の煌びやかな風景から、俺の屋敷の庭の風景へと視界が変化した。
本当にギリギリだったと胸をなでおろす俺。隣で、コモンがフラフラと歩きだし、縁側にペタッと座った。
「ふう~……間一髪でしたね……」
「だな。すまないな、コモン。無理させちまったか?」
「魔法はあまり得意ではありませんからね……急な作業になったものだから少し疲れただけですよ」
ため息をつき、少し顔色を悪くするコモンに魔法回復薬を渡した。コモンは礼を言って、それを飲む。魔力が回復し、落ち着いていくコモン。
しかし、あんなところでケリスに遭うとは思わなかったな。この後は高天ヶ原にでも行ったのかな。店の中で鉢合わせしていたら面倒だったなと思い、早々と魔法を使ってくれたコモンに感謝した。
そして、二人で笑い合っていると、背後から声をかけられる。
「む? コモン君か?……それにムソウ殿……じゃな……一体、どうしたのじゃ?」
声の主はジゲンだった。長着姿で、俺とコモンを不思議そうな目で見ている。急に庭に現れたから、驚いたのだろうな。
「あ、ジゲンさん、ただいまです。高天ヶ原から、転送魔法で直にここに帰ってきました」
「なるほどの……ムソウ殿を見てひそひそとされるのがつらかったというわけじゃの?」
ジゲンはコモンの言葉を聞いてニコッと笑う。本当に、こいつには隠し事とかできねえなと笑った。
その後、コモンはジゲンに連れられ居間へと向かい、俺は風呂へと直行した。早く化粧を落としたかったからな。着物を脱いで、風呂場に向かうと、何人かの冒険者がすでにいて、大層驚かれた。
「だ、誰だ!?」
「し、侵入者か!?」
「ここは女湯じゃねえんだッ! 隣に行けッ!」
怒鳴ってくる男共に、俺は怒鳴り返す。
「俺だ! 馬鹿ッ!」
俺を侵入者だと思った男たちが慌てて身構えるのを見て、殴り倒した。男たちは、きょとんとして、俺の顔をじろじろと見る。
それを無視し、顔を洗うと、おしろいと、紅が顔から取れていき、普段の顔に戻っていった。髭は無いがな……。早く生えて欲しいものだ。
すると、俺の顔を見た男たちが騒ぎ出す。
「うわ! 本当に頭領だった! というか、朝ギルドに居た女じゃねえか!?」
「あ、そうだ! コモン様と一緒に居た美女だ! ありゃ、頭領だったのか!」
げ……こいつらは俺がギルドに居た時にフゲンと一緒に居た奴らか。だから、俺の顔見ても、誰だか分からなかったというわけだな。
……クソ……あの時、一生懸命正体を隠していたのに、結局バレてしまったか。何があったのかと言う、その冒険者達に、知っている奴らにでも聞け、と言って、風呂場へと向かった。
そして、俺は体を洗い、髪を洗うと湯船に浸かった。一日だけだったが、色々あったからな。疲れがほぐれていくような気がする……。
「あ~……気持ちいいなあ~♨」
脚と背中を伸ばしていると、風呂に入っていた、冒険者たちが口を開く。
「そういや、頭領、歳とったって? おめでとうっす」
「お~う。四十になったとたんにエライ目にあったがな……」
「俺らは珍しいもん見れたけどな!」
一人の男がそう言うと、風呂場は笑い声に包まれる。俺は何となく、嫌な気になって、そいつらを睨んだ。
「じゃあ、次はお前らが、やるか? 女装。アヤメに頼んで潜入依頼かなんかをもってきてもらおうか……?」
ミオンから聞いた話だと、他の冒険者たちに協力するためにもそういった役割を求めることがしばしばあるということだからな。
女装が珍しくて面白いというなら、お前らもやれよと言うと、皆は一様に黙った。
「あ~……頭領、それは辞めて欲しい」
「俺らがやっても頭領みたいな美人にはならねえ……」
……いや、違うって。そういうことを言いたいのではなくてだなと頭を抱えた。俺だって、てめえらの女装なんて見たくねえよ。これで、少しは俺の気持ちが分かったかという気持ちで、聞いてみたんだが、分かっていないらしい。俺は全てを諦めた。
すると、冒険者たちの中の一人の男が口を開く。
「いやあ、しかしもったいねえな~」
「お前、まだそれを言うのか? そんなに女装した俺を見たいのか」
化粧を落としたことを言っているのかと思い、少し苛立ち気味で男を睨む。しかし、男は首を大きく横に振った。
「いや、違うって! 頭領、髭似合っていたのになあって思ってただけで……」
あ、そっちか……。何となくそいつの言葉に感動した。昨日から、髭を生やしているということについて他の皆は「もったいない」と言っていたのだが、この男は逆に今の姿がもったいないと言う。
……少しだけ、嬉しくなった。
「そんなに似合っていたか?」
「そりゃあ、もう。男らしいというかなんと言うか、部隊長然としていて威厳があって、俺はあっちの方が、良かった気がするっすね!」
「そうか、そうか。なかなか良いことを言うじゃないか!」
俺は男の言葉に嬉しくなって笑った。本来髭を伸ばしていたのはそのためだからな。俺が思って欲しいように、俺のことを思ってくれていたみたいで安心した。他の奴らは、そうか~? と首を傾げているが、俺はそいつの言葉に満足し、笑っていた。
ちなみに、ソイツの名は、ヨウキ。歳と言動の割に、幼顔で、待てど暮らせど、髭が生えてこず、今まで散々馬鹿にされながら生きてきたのだという。そういう奴も居るんだなと思いつつ、コイツにこそ、女装が似合いそうなものだよなあ、と思いながら、風呂に浸かっていた。
しばらくすると、風呂の外から、飯の用意が出来たとアザミの声が聞こえる。俺達は、風呂から上がって、皆の待つ部屋へと向かった。
今日の飯は肉ばっかりだ。俺の土産のものを中心とし、黄金牛の焼き物や、ハクーマの刺身、炒めた野菜などが置いてある。相変わらず見事な料理を作ってくれる女中たち、そして、たまを褒めた。
「どれも、美味そうだな。食いごたえがありそうだ」
「ほんと!? ありがと~! おじちゃん、たんじょうびだから、頑張っちゃったよ!」
嬉しそうにするたまに、そうかと頷いて、頭を撫でた。
そして、席につき、今日も皆で楽しく食卓を囲んだ。アザミは街での反応はどうだったかと俺に聞いてくる。俺は話したくないとそっぽを向くと、コモンが色々と語り出した。
指さして、どこの人間かとヒソヒソ話されたり、ケリスに言い寄られたり、ショウブに怒られたりしたという話をすると、皆は爆笑した。それを見ながら、もう絶対女装なんてするもんかと固く誓った。
そうやって、ムスッとして酒を呑んでいると、たまが心配そうに顔を見上げてくる。
「おじちゃん……怒ってる?」
「……そんな目で見るなって……怒ってねえからよ」
流石に今回の言い出しっぺのたまは、俺が怒っているのではないかと心配だったようだ。しかし、そう言ってたまを安心させてやると、
「ホント!? じゃあ、今度またやろうね!」
と、満面の笑みで言ってきた。それを見て、ほっこりした様子の俺以外の皆。勘弁してくれと思いながら苦笑いし、たまを撫でる。
「あ! そうそう、リンネちゃんとツバキさんはどうだった? 驚いてた!?」
「ああ。ツバキは大層驚いていたよ。リンネの方は、少し悩みながらも、すぐに俺だって気づいてくれた」
「そっか~。リンネちゃん、おじちゃんのこと大好きなんだね!」
たまは、まだ会ったことも無いリンネに、だいぶ好感触なんだろうなと思い、嬉しくなった。二人を早く会わせてやりたいものだ。リンネも会いたいというような顔をしていたし。
俺の知らないところで、すくすくと成長していくリンネだが、やはり同年代の友達というのは欲しいだろうからな。たまと触れ合うことで、どんどん成長してほしいものだなと思っている。
その後は、俺がいろんな奴に「美人だ」と言われていたことをコモンが話す。皆は大笑いしたが、ケリスには言い寄られ、挙句求婚までされたということをすると、苦々しい顔になった。
流石、元々花街で浮浪者だった奴らだ。ケリスのことに関しては良い思いをしないらしい。
すると、アザミやリア、他の女たちが、俺に深々と頭を下げる。
「すみません、頭領。少し調子に乗り過ぎたみたいで……」
「ごめんなさい……」
などと、俺に謝罪の言葉を投げかける。ノリノリで俺の化粧をしていたくらいだからな。多少責任は感じているらしい。
ただ、朝までの態度とは真逆の反応をされて、俺も少々戸惑った。
「いや、良いって。あのボケ貴族の目が節穴だっただけの話だ。特に気にしてねえよ」
そう言って、女たちを許してやった。アザミは、ありがとうございますと言って、俺に酒を注ぐ。女たちもほっとした様子で礼を言ってきた。
「しかし、なんでも女装した俺に会うために明日からギルドに毎日来ると言っていた。俺も気を付けるが、お前らも気を付けろよ。目を付けられたら溜まったもんじゃない。特に女の冒険者はな……」
「了解です」
「わかりました」
俺の言葉に冒険者たちは頷く。男の方は何もしなければ問題ないと思うが、女の方は下手したら言い寄られる可能性がある。くれぐれも気をつけろと念を押しておいた。
「しかし、ムソウさんの女装が綺麗過ぎたというのも問題でしたね。僕も少し反省しました」
コモンはポツリとそう呟く。反省しているのは良いが、そういう反省の仕方は何となく腹立つなあと思っていると、ジゲンが口を開く。
「ふむ……女装したムソウ殿はコモン君にとっても綺麗に感じられたのじゃな?」
「え? ……ええ、そうですが……」
「なるほど……コモン君の好きな女性というのはああいった感じの者なのじゃな?」
ジゲンがにこやかにそう言って茶をすすると、皆はニヤニヤとし出して、コモンを眺めた。コモンは恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして、ブンブンと首を横に振る。
「ち、違いますって! 何、言ってるんですか!」
コモンは一生懸命、ジゲンの質問を否定した。俺も、それは何となく気持ち悪いなあと思い、ジゲンや他の奴らに向かって口を開く。
「そうだぞ、ジゲン。コモンが好きなのは同じ十二星天のエレナって奴だ。俺じゃない」
主に今日までのうっ憤を晴らすかのように、そう言うと、皆は目を見開き、ほう、と頷て、さらにコモンを見つめる。すると、コモンはもっと慌て出した。
「そ、それも違うって言っているではありませんか! ぼ、僕は別にエレナさんのことは……」
などと言っているコモン。皆の中でひょっとして……という空気になっていく中、たまが、コモンのそばに行き、肩を叩く。
「ねえ、コモンさま」
「な、なんですか?」
「あのね……よくわからないけどね、好きな人がいても恥ずかしがらないで、きちんとその人のことを好きって言わないと、自分に嘘をついているってことになって、そういう人は他の人にも嘘をつく悪い人になるし、その好きな女の子にも失礼って、おかあさんが言っていたの。
……コモンさまはどっち?」
たまの言葉を聞き、グッと黙るコモン。俺も、そして皆も思わず黙った。たまの親、子供になんてことを教えてんだと一様に思った。何かあったのかよ……。
たまに好かれているということが分かっているコモンは、そうだとも言えず、ただただ口を閉じて、ジッと見つめるたまに困っている様子だ。
すると、観念したのか、深くため息をついて、コモンはたまの頭を撫でる。
「はあ~……。たまちゃんにはかないませんね。分かりました。お話ししましょう。でも、これは内緒ですよ?」
「うん!」
コモンはたまの耳元で手を当てて、コソコソと何かを話し出す。何を言っているのだろうかと俺も皆も聞き耳を立てた。が、聞こえない。
そうやって、二人を眺めていると、だんだんとたまの表情が輝いてくる。そして、コモンが顔を放すと、
「すてき!」
とだけ言って、ニコッと笑った。そして、コモンは口元に人差し指を当てる。
「皆さんには内緒ですよ」
「わかった! 私とコモンさまだけの秘密!」
たまとコモンはゆびきりげんまんをしている。何のことだか分からず、聞いたが、たまはニコ~っと笑って、しい~、と人差し指を口の前に持ってくる。内緒だって言っていたもんなあと思い、皆と共に、詮索するのはあきらめた。
「ふむ……まあ、秘密にするということはそういうことなのじゃろうな……」
と、ボソッとジゲンが呟くと、コモンもたまも慌てて否定する。
「違いますって!」
「そうだよ! おじいちゃん!」
「ん? 儂は何も言っておらんがの」
ジゲンがニコッと笑うと、コモンとたまはハッとして二人とも自分の口を手で押さえた。二人して同じ行動をとったのが面白くて、俺達は笑った。
その後、飯を平らげた後は、先に風呂に入っていた奴らと女中たちの手伝いをした。流石に人数が増えると、洗い物も一苦労だなと思いながら、一つ一つ丁寧に洗っていく。
そして、片付けが済んだ後はもう、自分の部屋に戻った。
ふと部屋に目をやる。入って左側についている襖を開けた。そこには着ない着物などが置いてある。
……ここにツバキが来るのか。確かに箪笥もあるのに、物置なんか要るのかなとは思ったが、まさかツバキの部屋だったとはな。いつ来ても良いように片付けでもしておこう。
さて、襖を閉めた後は布団をかぶった。やはりすでに夜は冷えるなあと思いながらも、今日は一日疲れたなと思い、早々に眠りについた。
やはり、女装なんてするもんじゃなかったな……もう二度としねえぞ……。




