表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
162/534

第161話―依頼を終えてクレナに帰る―

 翌朝、荷物を纏めて宿を出た。出る際に面白い話を聞いた。昨日、俺達を襲ってきた追剥たち、あの後、騎士団に連行されたという。連行される際に、追剥の奴らは口々に、


「もう……こんなの……辞めよう」


 と呟いていたらしい。ざまあねえな、と俺とグレンは笑った。


 さて、今日はもう朝からギルドへと直行した。ここのギルドは木と土、そして屋根は藁ぶきと、どこか粗末なもののように感じるが、グレンは農耕民族らしくて良いなと話している。

 まあ、確かにこうやって見ると、領の特色が出ていて、良いなと思ったが、それでも宿よりも粗末な造りに苦笑いした。


 そして、受付を済ませると、奥の部屋から俺と同い年か、少し若めの男が現れる。左目に眼帯をしており、十文字の槍を手にしていた。体格は少しやせ気味だが、がっちりとした体格である。男は俺達に近寄り、自己紹介をした。


「おう、俺がここ、チャブラギルド支部長、レックスだ。遠路はるばるご苦労だったな」

「どうも、商人のグレンっす。で、こっちが……」

「護衛の冒険者、ムソウだ」


 グレンに続き、俺も自己紹介をした。すると、レックスは目を見開き、俺の方に歩み寄ってくる。


「アンタが、冒険者のムソウか……。話は聞いている。各地で大活躍らしいな」


 どうやら、アヤメから俺がここに来ることは伝わっていたらしい。レックスは手を出してきた。何の話を聞いたのか知らないが、とりあえず握手に応じる。


「よろしくな、レックス」

「ああ、こちらこそ。しかし、まさか噴滅龍や破山大猿を倒した本人がその素材の輸送依頼の護衛を引き受けるとはな。会えて光栄だぜ」


 そう言って、レックスはニカっと笑った。そして、ある程度のやり取りをした後、ギルドの倉庫へと案内される。


 そして、レックスはグレンの異界の袋から、素材を出し始めた。素材を出していくたびに、何やら感動しているようだった。


「すげえな……実際に見ると本当に一人で倒したのか疑わしくなってくるくらいだ……」

「てことは、本物であると認めたってことで、良いんすね?」

「ああ。素材の状態でも力を感じる。この街の上役も納得するだろうよ」


 レックスは、グレンにそう言って、手にしていた書類に何やら書き込んでいる。素材が注文通りかどうか確認しているようだった。


 俺とグレンは作業を眺めながら、レックスに今回の依頼について確認している。一見平和そうだが、本当に領主に、こういうのが必要なのか疑問だったからな。すると、レックスは苦々しく口を開いた。


「平和なのは、上役たちの統制の下、俺達ギルドや、騎士団が上手いこと機能しているからに過ぎない。魔物たちは対処できているが、領主自らが民の先頭に立ち、民を導かないのは事実だ。

 そんな状態がもう10年くらい続いている。平和に見えて、その実、領民たちの不安や不満は大きい。反乱分子の話は聞かないが、いつ出たっておかしくない状態だ」

「そうなのか? 柔らかな人間が多いと感じたが……」

「たいていはそうだろうが、昨日だって冒険者や旅人狙いの追剥が、この街に出たくらいだからな。それだけ、生活に困っている奴らも居るってことさ。

 内政に関しては上役だけでは事足りないことだって出てくる。そう言った小さな問題が積み重なっていくと、どこかで何かが決壊してしまうものなんだよ」


 レックスはそう言って、頭を掻いている。なるほど、昨日の追剥の奴らにはそんな理由があったか。領民が領主に反感を少なからず抱いているという話は本当らしい。そこで、俺が狩った災害級の魔物の素材を手にし、威厳を取り戻そうというのか……。


「それにしたって、領主が大したことないというのは分かっているから、遅いんじゃないか?」

「まあな。だが、一つの牽制にはなるだろう。俺だって今の領主のままでいいとは思わない。

 だが、後任が誰かと言われるとパっとは思いつかない。今のところは平穏だからな。現状を維持するためにもこの素材は必要なのさ」

「そういうものか……」


 う~ん……若干腑に落ちない部分もあるが、領民がそれで納得しているなら良いかと思った。後任となるべき人間が居ないのであれば、確かにことを荒立てるよりも、現状のままにした方が良いのかも知れない。無理に何か変わっても、やはり、損をするのはそこに住んでいる人たちだからな。


「まあ、この素材で領主が変わってくれることを願うしかないな。ひょっとしたら常に堂々とし出し、領主然とした行動をしてくれるかも知れない」


 レックスは表情を明るくして、そう言った。俺とグレンもそうなることを願っている。これを渡したところで、何も変わらなかったら、これまでの旅は何だったんだろうという話になるからな。

 まあ、俺としては久しぶりにグレンと再会できたというだけでも良かったと思っているがな。


 さて、素材の確認が終わった後は、レックスは何か書きこんでいた書類と、一枚の紙をグレンに渡した。


「おっし、確認は終わった。数字に間違いはない。これが、明細だ。依頼達成お疲れさん!」

「どうもっす」

「そして、冒険者ムソウ、商人グレンの護衛依頼、お疲れさん。これをアヤメ殿の所にもっていけば、報酬が手に入るぜ」

「ああ、ありがとう」


 レックスは俺の肩に手をポンと置いて、護衛依頼達成の証書を手渡してきた。それを受け取り、俺は懐に仕舞う。


「……さて、と。俺はこれから、領主の所に行って、素材を渡してくる」


 グレンは俺の方に振り返り、そう言った。やはりどことなく寂し気な顔だった。七日間という短い間ではあったが、楽しい旅だったなと俺も振り返っていた。


「……ああ。ここで、お別れだな」

「まあ、アンタが言っていたように、俺は商人、アンタは冒険者……またすぐに会えるさ」

「そうだな。その時はまた、たくさん、語り合おう」

「……ああ。聞かせてくれよ、お前が倒してきた魔物や、闘ってきた強者の話をな」


 俺はグレンの言葉に強く頷き、固く握手をした。そして、レックスとグレンに別れを言って、ギルドを出た。マシロの時と同様、こういう時、俺は振り返らない。名残惜しくなると、別れづらいからな。


 次会う時までに、グレンに聞かせるような面白い体験をもっともっとしようと思いながら、俺は神人化し、そのまま空へと飛び立った。


「……さて、帰るか」


 俺は、この数日間通ってきた道の方向を見据え、クレナに向けて帰っていった……。


 ◇◇◇


 チャブラを出て、しばらく、昼頃にはクレナ領に入った。領境の山では何かしらの魔物が出るかなと思っていたが、あれだけ暴れれば、やはり数は少ないらしく、そこまで魔物に遭遇しなかった。

 しかしまあ、上を行くのと、下をゆっくり行くのではやはり全然違うな。この七日間が凄い勢いで、逆戻りしているような妙な錯覚に陥ってしまう。


 ……あ、初日に泊まった街が見える。もうここまで来たのか……。


 何となく複雑な心境のまま飛び続け、しばらくすると、トウショウの里も見えてきた。俺はゆっくりと地面に着地する。


「ふう……帰ってきたな……」


 およそ七日ぶりに見るトウショウの里はどこも変わっていなかった。……って、当たり前か。長いようで、たった一週間だもんな。この間に劇的に変わっていたら、それこそリンネに化かされたのかと疑ってしまう。


 さて、と……取りあえず街に入ろうと思い、門の前まで来た。いつもの門番は俺に気付くと、声をかけてくる。


「おお、ムソウ殿か! 護衛依頼は終わったようだな!」

「まあな。なかなか楽しかったよ」

「それは何より……っと、それどころではなかった」


 門番はそう言って、何やら表情を暗くする。何だろうと思っていると、門番は俺の顔をパッと見た。


「ムソウ殿、悪いがこのまますぐにギルドへと向かってくれないか?」

「ん? ああ。護衛依頼の報酬があるからな。すぐに向かうが、その前に屋敷にでも寄ろうかなと思っているが……」

「いや、すまない。早急に行かないとまずいかも知れない。できれば、一直線に向かってくれ」

「あ? 何でだよ」

「ギルドに行けば、詳しい話が聞けるはずだ。……さあ!」


 そう言って、門番は門を開けて、街に入るように促した。何のことか、分からなかったが、取りあえず、トウショウの里に入り、そこからは屋敷にも、そして花街の高天ヶ原にも寄らずに急いで、上街へと向かった。


 見ると、何やら街の様子がおかしい。どこかバタバタとしているようだ。住民たちは不安そうな顔で、ジロウ一家の者たちと何か話しているようだ。うちの奴らには会わないが……何だろうな、気になる。


 そして、今回ばかりは、花街の門もすんなり通してくれた。というよりも、俺の顔を見るや、めんどうだから、とっとと行ってくれという雰囲気だ。

 いつもなら一言二言、何か絡んでくるのにこれまた珍しいことだと感じながら、花街をかけていく。

 すると、街に入ってから、気づいたのだが、いつもより冒険者や、貴族の数が少ないと感じた。時間は昼過ぎ、いつもなら多いはずなのに、どこに行ったんだろうか。

 それに妓楼から通りを妓女たちが覗いているという光景も目にしない。休みか? 花街の妓楼が? 何かおかしいな……。


 何か違和感を抱きながら、花街を抜けて、上街を走り、ギルドに入った。中ではギルドの職員たちが、何やら騒ぎながら辺りを走り回っている。


「冒険者はまだ集まらないのか!?」

「方々に連絡しているのですが……」

「くそっ! こんなときに……ムソウ殿の闘鬼神は!?」

「はい! すでに動いてくれています!」

「おい! 調査報告の書類どこにやった!?」

「あ!? お前に預けただろうが!!!」


 ……などと、いたるところから怒声が聞こえてくる。俺の所の奴らまで駆り出されるような言葉が聞こえてくるが、何だろうな。

 不思議に思いながら、こちらも何やら慌てて仕事に取り組んでいるミオンの所へと行った。


「よお、何かあったのか?」

「……!」


 声をかけてみたが、ミオンは手を止めず、仕事に取り組んでいる。


「お~い、聞こえてっか?」

「……少し待ってください! 今忙しいんですから!」


 ……え、何だ? ミオンは怒っているような感じで、俺に怒鳴ってきた。これまた珍しいなとは思うが、状況が分からない。取りあえず、何が起こっているのか確認するため、再度ミオンに声をかける。


「なあって、いったい何が――」

「後にしてくださいって言ってるじゃないですか!」


 ミオンは机をバンッ! と叩いて立ち上がる。俺は思わず、ビクッとして固まった。すると、ミオンは俺と目が合うと、目を見開く。


「……あ! む、ムソウさんっ! お、お戻りになられたのですね!た、大変失礼しました!」


 俺だと確認すると、ミオンは深々と頭を下げる。気づいてなかったようだ。それほどまでに何を慌てているのか分からない。

 取りあえず、ミオンが落ち着くのを待って、口を開く。


「なあ、何をそんなに? アヤメはいるか?」

「あ、はい! アヤメ様でしたら、天宝館にいらっしゃいます! 詳しいことはそこでアヤメ様に! 少し今立て込んでいまして……」

「そのようだな……分かった」


 ミオンに促されるまま、俺はギルドを出て、天宝館へと向かった。ミオンのあの様子からただ事ではないことが起こっているようだ。少し急いで向かおう……。


 そして、天宝館へと着くと、こちらも職人や職員たちが何やら慌てて仕事をしていた。多くの人間が走り回っている中をかき分け、いつもの受付の所へと向かう。


「よお、アヤメは居るか?」

「あ、はい! あ、冒険者のムソウさんですね!?」


 受付の女はミオンと同じく慌ただしく、俺のことを確認した。またも少々驚きつつ、アヤメの居場所を聞く。


「アヤメ様は大倉庫の方におります!」

「そ、そうか、ありがとう」


 取りあえず、女に礼を言って、いつもの広い倉庫に向かった。中に入ると、多くの職員たちと共に、アヤメ、それからショウブと、ナズナ、更にはツバキにリンネまで居る。リンネは妓楼での姿と違い、小さな魔獣の姿になって、ツバキの肩に乗っていた。久しぶりに見るが、やはり可愛いなと思う。


 しかし、こいつらが揃うとは珍しいなと思いつつ、皆の所に向かった。


「よお、何の騒ぎだ?」


 俺が声をかけると、皆はパッとこちらを向く。


「お~! ムソウッ! 今帰ってきたのか? ちょうどいい!」


 何がちょうどいいのか分からない。取りあえず、状況を教えて欲しいものだがと近づいていくと、ツバキの肩から、リンネが俺に飛びついてくる。


「キュウ~~~!」

「おっと、その姿は久しぶりだな~。元気にしていたか?」

「キュウ、キュウ!」


 リンネは何度も頷く。なるほど、元気そうで何よりだ。俺はリンネの頭を撫でてやった。


「お土産たくさんあるからな~。楽しみにしてろよ……っとそうだ。これ食えよ、美味いぞ~」


 そう言って、異界の袋から、バタークッキーを取り出し、リンネに食わせた。リンネはうっとりとしながら、俺の肩で食べ始める。……気に入ったみたいだな。


「はあ~……ムソウ殿、今はそれどころじゃないのじゃが……」


 俺がリンネを撫でていると、頭を抱えながら、ショウブが口を開く。


「本当ですよ、ムソウ様。少しは緊張感というものを持ってくださいって」


 ツバキも何故だか呆れたように言ってきた。だが、そんなツバキをナズナがなだめている。


「まあまあ、ツバキさん。このタイミングでムソウさんが戻ってきたということはある意味で幸運ですよ」

「そう言われましても……」


 などと、二人は話しているが、先ほどから皆が何に慌てているのか知らない俺からすれば、呆れられるのは不本意も良いところだと、アヤメの方を向いた。


「で? 何が起きているんだ? 誰も何も教えずに、お前から聞けって言うから何のことだか、さっぱりだ」

「そうか、すまないな。じゃあ、説明するぞ」

「ああ」


 アヤメは深く深呼吸して、口を開く。


「数日前、クレナに災害級上位の魔物が出現したという報告が上がった。その魔物は空を飛ぶということで、移動範囲が大きい。ゆえにクレナ全域で厳戒態勢を敷いている」


 ……ほう、災害級上位か。いわゆる、天災級までもう少しというくらい強力な魔物だ。そんな奴が現れたってのはまた急だな。

 まあ、クレナの調査団には色々と問題があるから仕方ないか。


 アヤメによれば、その報告があったのは昨日のことだが、確認されたのは俺がここを出てすぐだったとのこと。

 そして、その魔物は空を飛ぶことが出来るので、もうすでに確認された場所には居ない可能性があるという。現在はその場所にコモンが転送魔法で向かっているとのことで、調査しているらしい。


 だが、未だコモンが戻っていないとなると、その魔物がどこに居るのか分からない。ゆえに、クレナ全域に厳戒態勢を敷いて、町ごとに事に当たっているという。


 トウショウの里も例にもれず、下街から上街まで、住民たちの安全を確保しているのに忙しいらしい。ジロウ一家は下街を、ショウブ一家と闘宴会で、貴族たちを、そして、花街の妓女たちをナズナがツバキと共に守っているとのことだった。

 で、ギルドがバタバタだから、こちらに拠点を移し、ことに当たっているという。


「なるほどな……で、俺はどうすればいい?」


 大体の状況が理解できた俺は、何をすれば良いのかアヤメに聞いた。すると、アヤメは頷き、


「お前は神人化し、この辺りを飛びながら警戒していてくれ。そして、そいつが現れたら、対処してほしい」

「神人化は出来るだけ、隠したいんだが……」

「……すまない」

「冗談だよ。四の五の言ってる場合じゃねえってのは理解している」


 頭を下げるアヤメの肩を叩き、笑った。この際、個人的な悩みはどうでもいい。俺はアヤメに従うことにした。横で、ツバキがありがとうございますとニコッと笑った。

 ちなみに、ツバキは、騎士団の護る戦いの戦法をアヤメたちに伝えるために、ここに来たようだ。妓楼の時と違い、旅をしていた時と同様の衣に、羽織、そして、俺が渡した鎧を身に着け、腰に刀を差している。

 ああ、やはりこちらの方が美人だと感じるな。俺はツバキの頭を撫でてやった。


「それで、その魔物ってのは何なんだ?」


 と、敵の情報について聞いてみる。相手が何者か知らないと、こちらも対応しづらいからな。どういうやつなのか聞いておかないと危ないかも知れない。俺の質問にアヤメは頷き、何やら、一枚の紙を取り出した。そいつの資料らしい。


「その魔物は……古龍ワイバーンだ。全てのワイバーンの祖とされ、龍言語魔法も使うことが出来るという噂だ。かつて、サネマサの爺いが倒したんだが、他にも居たのか、それとも突然変異なのか……」


 ……


 ……


 ……


「……え? なんだって?」


 聞き間違いかと思い、アヤメにもう一度、魔物について聞いてみた。すると、苛立ったようにアヤメは魔物の資料を指さす。


「だから、古龍ワイバーンだ! 普通のワイバーンよりもデカくて、強い! 本気になりゃ、トウショウの里くらいは一撃で滅ぶほどの力を持っている魔龍だ!」


 怒鳴るアヤメの指の先には確かに大きなワイバーンが描かれている。


 ……見覚えが……ある……大きな爪、デカい牙が、そこには描かれていた……。


「……」

「ムソウ……様……?」


 俺は無言になり、皆から離れていく。そして、倉庫の真ん中に立った。ツバキが心配そうに声をかけたが、俺は頭を抱えながら、異界の袋を取り出し、辺りを見渡した。


 ……うん。大丈夫だ。充分な広さを確保している。これなら、問題ないだろう。何せ、デカいからな。


 ……え~っと……高さは……うん。大丈夫だ。デカいからな。気を付けよう……。


 俺はゆっくりと異界の袋に手を突っ込み、それを出した。ドシンと大きな音を立てて、倉庫に収まる、巨大な魔龍の死骸。

 何事かとこちらを振り向く大勢の天宝館の職員たち。そして、それを確認すると、職員たちの目は大きく開かれる。


 アヤメたちも同様の表情をする。目を大きく開き、口をあんぐりと開け、死骸と俺を見ていた。


 その時、シュンと音を立てて、倉庫の中に魔法陣が描かれる。すると何もないところからコモンが現れた。転送魔法を使ったらしい。コモンは頭を掻きながら、アヤメに近づいていく。


「ただいま戻りました。報告にあった場所に行ってきましたが、何も居ませんでした。ただ、辺りがクレーター状に凹ん……で……・」


 ……あ、コモンが倉庫内の死骸に気付いたようだ。コモンも目を大きく開き、死骸を眺める。すると、俺と目が合った。


「……よ、よお、コモン。今帰ったぜ……ところでよ……」


 俺は親指を立てて、後ろの真っ二つに斬られた死骸を指さす。


「古龍ワイバーンって……こいつ……だよな?」


 俺はニカっと笑って、そう聞いてみた。しばらく、静寂だけが倉庫内を包み込む。すると、黙っていた奴らが手を上げ、死骸を指さしながら震え出した。アヤメも、ナズナも、ショウブも、ツバキも、そしてコモンまでもが同様の仕草をする。


 いつもなら面白い光景なのだが、何となく次の展開が読めたので、俺は耳をふさぐ。リンネの耳もふさぐように指示したのだが、獣のままでは難しいらしい。俺は、手ぬぐいをちぎって丸めて、自分の耳に詰め、リンネの耳をふさいだ。……よし、来い!!!


 俺達が身構えていると、指を差しながら皆の震えは大きくなっていく。そろそろだな……


 ……


 ……


 ……


 一瞬の間……そして……






「「「「「え~~~~~~~~ッッッッッ!!!!!?????」」」」」


 皆から一斉に、耳をつんざく爆音が聞こえてくる。古龍ワイバーンの威嚇なんて比じゃないほどデカい。壁とか割れねえよな……。リンネには影響ないようだが、やはり布じゃだめだな……。俺はほとんどもろに食らっている。


 はあ……帰って早々、少し、面倒なことになりそうだなと思いながら、しばらく、皆が黙るのを待っていた……。


 だが、いくら待っても 皆の叫び声は止まない。リンネがこの声で驚いてしまわないように俺は必死で、リンネの耳をふさいでいる。

 しかし、こいつら驚きが長いな。いい加減やめてくれと思っていると、アヤメがずかずかとこっちに向かって歩いてきた。


「……!!!」


 アヤメは何か言っているが皆の声で聞こえない。……はあ、仕方ない。


 ―死神の鬼迫―


 俺が辺りに殺気をばら撒くと、アヤメは気分の悪そうな顔をして立ち止まり、皆は黙った。大きな音が響いていた状態からいきなり静かになったので、耳がおかしくなりそうだ。俺はリンネから手を離し、立ち上がる。


「……で、何だよ?」


 呆然としていたアヤメだったが、殺気を解くと、アヤメはハッとして、再び早足でこちらに近づいてくる。


「ムソウ! こいつは何だ!」

「見て分かるように古龍ワイバーンだ。旅の途中に襲ってきたんでな、返り討ちにしてやった」


 アヤメはパッと後ろの死骸を見て、嘘だろ!? という顔をしている。辺りに居た天宝館の職人たちや、ツバキたちも同様に。鑑定スキルでも使っているのか? 死骸をジッと見ながら呆気に取られていた。


 すると、コモンが近づき口を開く。


「ムソウさん、こちらの古龍ワイバーンはどこで?」

「クレナとチャブラの境の山の中だよ。おっと、他にも大量のワイバーンが居たんだった」


 俺は異界の袋から、ワイバーンやその亜種の死骸を出していく。それを見た皆は更に口を大きく開けて、俺の作業を見守っていた。


「領境の山……情報通りですね……」


 などと、コモンは呟いている。どうやら、今クレナを騒がしている古龍ワイバーンというのは俺が倒したこの個体で間違いないようだ。


「い、い、何時倒したんだよ!?」


 ようやく我に返ったアヤメが俺に詰めよってくる。何故だか、怒っているような表情だ。


「旅に出て、二日目だったかな。山を越えていたら襲ってきた」

「てことは五日前か! お前、こういう時はもう少し早く連絡してくれれば……」

「その手段が無かったんだよ。伝令の魔道具は闘鬼神の奴らに全部渡したからな。だいいち、クレナがこんなことになっているとは全く知らなかったから、報告の必要すら要らないと思っていた」


 正直、一番の問題はそこだ。俺の方に何の連絡もなかった。そりゃそうだ、アヤメに報告が上がったのは、俺が旅立って後のことだからな。災害級の魔物が出るというのに、輸送依頼でそこを通ると知りながらも何の対策をしない馬鹿はいない。

 それで俺やグレンを行かしたのだとしたら、俺ももう少し違った行動をとっていただろう。

 そして、クレナが厳戒態勢を敷いているということもたった今知ったことだ。仮にチャブラに居る時にその連絡くらいしてくれたら、そこからギルド同士で伝令の魔法を使い、古龍ワイバーンを倒したことを報告することだって出来ていただろう。

 古龍ワイバーンの確認から、ギルドへの報告までの間に、俺がたまたまあそこを通って古龍ワイバーンを倒すことが出来たのは本当に運の良いことだと思った。……どちらかといえば、悪いけどな……。


「まあ、今回の事態も一番の要因は冒険者不足だということが明らかになったな。オオイナゴの時といい、調査団はもう少し、迅速に、それでなお、正確に行動してほしいものだ」

「それは……わかってるが……」


 アヤメは大層落ち込んでいるようだ。だが、今回ははっきりと伝えておこうと思っていた。今回の場合、下手をすれば、俺はまだしもグレンはやばかった。もしも、俺がグレンの護衛を引き受けていなかったら、奴は死んでいたかも知れない。クレナのギルドの問題は早々に片付けないといけないと思っている。


 ガクッと落ち込んでいるアヤメを眺めていると、ショウブたちが近づいてきた。


「ムソウ殿、そうアヤメを叱らんでくれないか? ここの冒険者の怠慢による問題は、長いこと解決できていない問題の一つじゃ。

 アヤメも色々と手を尽くしているが、当の冒険者たちが、あの様子ではな……」

「私たちも妓楼から呼びかけてはいるのです。協力しましょうって。それでも、効果は薄いようで、なかなか人が集まらないのです」


 ショウブとナズナはアヤメを弁護している。気持ちは分からなくもない。ここの冒険者たちのことはうんざりするほど、見てきた。今日だって、街がそういう状況であるにも関わらず、ギルドにもいなかったし、偶に見るとすれば、報酬を巻き上げようと絡んできたりする。クレナに居る冒険者たちはそんな奴らばかりだ。


 しかし、俺と共に戦ったツルギ達のような奴らも居る。少しずつではあるが、変わってきているというのも感じている。

 そして、こういった時のための準備というのもしてきた。クレナの問題を解決する。それは、俺とこいつらとの約束だからな。

 俺は未だ、どうしようかと落ち込んでいるアヤメの肩を叩いた。


「……まあ、人手が足りないのなら、俺や、俺の所の闘鬼神の奴らを自由に使うと良い。元々そういう話だからな」

「……良いのか?」


 アヤメは少し元気を取り戻したようで、顔を上げて、俺を見てきた。


「ああ。元々、ここの冒険者不足で増えすぎた依頼に追い付かないからどうにかするという面目で集めた奴らだ。だから自由にするといい」


 そう言うと、アヤメはスッと背筋を伸ばし、頷いた。


「……ありがとう、ムソウ」

「気にすんなって」


 俺とアヤメはその場で固く握手をした。


 その後、アヤメの指示で、ショウブが自警団を使って、街全域、およびクレナ領の各町に古龍ワイバーンが倒されたことと同時に、両全域に敷かれていた厳戒態勢の解除を伝えるため、天宝館を出ていった。

 ナズナも、妓楼の皆にそのことを報告すると言って、ショウブの後に続く。ツバキとリンネもショウブの後を追って、ここから離れるようだった。


「では、ムソウ様。また……」

「ああ、今日はもうお互いゆっくり休むとしようか」


 ここのところ、お互い色々とあったから、疲れを癒すという意味で、高天ヶ原に行かないということにした。ツバキはそれでいいようだが、リンネは寂し気に俺の顔を覗いている。


「キュウ……」

「そんな顔すんなって。明日になったら、お土産たくさん持っていくから、楽しみにしていろよ」

「……キュウッ!」


 俺の言葉にリンネは元気よく返事をして、俺の肩から地面へと下りた。その後、ぴょんと跳ねたと思ったら、高天ヶ原で働くときの少女の姿になる。

 そして、ツバキと手をつないで、俺に手を振る。


「……!」

「ムソウ様、今日はごゆっくり。また、明日……」

「ああ」


 リンネとツバキに手を振り返すと、二人はナズナの後を追って、天宝館を出ていく。


 残ったのは俺とアヤメとコモンだ。コモンはさっそくといった顔で、ワイバーン達の査定へと取り掛かろうとするが、俺が呼び止める。


「あ、コモン。こいつは他の奴には売らねえから、そのつもりでな」


 俺の言葉にアヤメはパッとこちらを向いた。


「な、なに言ってんだよ! 古龍ワイバーンの素材なんてめったに手に入らないものだぞ! これを売ったら、どれだけの金がクレナに入るかわかってんのか!?」

「知らねえよ」


 アヤメは領主兼ギルド支部長として、至極まっとうなことを言ってきたが、俺はバッサリとそれを切り捨てる。


「こいつは、てめえらギルドの失態の所為で、ほとんど前情報も無いまま、俺が苦労して依頼人を護ったときの魔物だ。どうせ、まだ正式な依頼は出てねえんだろ?

 だったら、こいつは俺がどうしようと当然だろ」


 まあ、苦労して倒したというのは嘘だがな。飛んだり、龍言語魔法を使ったりと確かに、少々手こずったが、問題ない。ゼブルの方が強いんじゃねえかと感じるくらいだった。ほとんど、一撃だからな。

 そのおかげで、ほとんど破損はしていない。これなら、屋敷に居る奴ら全員の装備を改めて整えることが出来ると考えている。


 俺が、ギルドの失態を指摘すると、アヤメはぐぬ……と黙った。それは沈黙の了解ということで良いんだなと、コモンの方を向く。


「つーわけだ。そいつから闘鬼神、それから、ジゲン、ツバキ、そして、俺の装備を整えてくれないか?」

「かしこまりました! え~っと、ちなみに、ムソウさん?」

「何だ?」

「僕も屋敷でお世話になっているのですから、貰ってもいい人の対象には入っていますよね?」


 なんだ、コモンも欲しいのか、この素材。まあ、コモンも、俺の屋敷の一員だし、屋敷の補修に大きく貢献したからな。お礼も兼ねて、何の問題もなく渡せる。


「良いぞ~!……あ、ついでにこいつの素材からも頼むよ」


 俺は更に、異界の袋から、チャブラで倒した……というか、勝手に死んだ迷彩トカゲの死骸を出した。コモンは死骸を見て、ニコリと笑う。


「迷彩トカゲですか……状態が良いですね……。分かりました。いくつか作ってみます!」

「おう、頼りにしてるぜ。ところで、俺が居ない間に依頼に行っていた奴らって、帰ってきたのか?」

「ええ、帰ってきまし……た……けど……」


 ん? コモンが何やら、困った顔をし出した。一応は冒険者たちが帰ってきたことは確認できて、安心するが、何かあったようだ。


「何かあったか?」

「いえいえ。大したことではないですので、屋敷でジゲンさんからにでも話を聞いてください」

「ん? ああ、わかった……」


 今回のことのように重要なことだったら、言って欲しいがコモンはそこまで気にすることでもなく、どちらかといえば、良いことだと言うので、帰ったときのお楽しみということで、それ以上は聞かなかった。


 その後、コモンは他の職員たちと共に、魔物の解体作業を行う。俺達のやり取りを、不機嫌そうに眺めていた、アヤメに俺は近づき、手を出した。


「何だよ。まだ、何かあるのか?」


 古龍ワイバーンの素材を俺が売らないとなるや、急に不機嫌になったアヤメは何のことだか、分からないといった顔で俺を睨んでくる。


「いや、報酬だよ。グレンの護衛、完了したからよ。チャブラのレックスにこれ貰ったから、とっとと報酬をくれよ」


 俺は懐から今朝貰った、護衛依頼達成の証書を取り出した。アヤメは、あ、という顔をして、それを受け取る。


「ああ……次から次へと仕事が増えていくからすっかり忘れていたな……。

 しかし、これはミオンに渡せば、すぐ貰えるからよ、ギルドで受け取ってくれよ」

「わかった。ところで、お前は帰らなくて良いのか? ギルドの連中、特にミオンとかはバタバタとしていたぞ」

「あ、いっけね……帰って、皆を休ませねえとな」

「ったく……さっさと行ってやれって」

「あいよ。じゃあ、また何かあったら頼むわ」

「おう」


 アヤメはそう言い残し、天宝館を小走りに出ていった。俺はどっと疲れが出てきて、そこらにあった木箱の上に座り、コモンたちの作業を眺めていた。大きな魔龍の死骸が、杭や槌、大きな斧と鋸などでバラバラに分解されていく様を見ながら、あれだけ、町中が騒ぐほどの魔物なのに、終わりというのはやはり呆気ないなとしみじみと思っていた。


 しばらく作業を眺めていたが、そろそろ俺も屋敷に帰ってやろうと思い、コモンに別れを言って、天宝館を出た。もうそろそろ夕暮れってところか。冬が近いからな。日が沈むのもあっという間だと思い、少し急いで、ギルドに向かう。

 職人街を通ると、皆安心したのか、表に出て、にこやかに作業をしていた。何はともあれ、平和になって良かったと思いながら、道を進み、ギルドへと着いた。


 中に入ると、先ほどのような慌ただしさはない。皆落ち着いた様子で、片付けか何かの作業をしている。喧嘩をしていた職員などは、今はお互いに笑いながら、書類の整理などをしていた。

 今日の業務は終わりかなと思ったが、受付の所にはまだ、ミオンが居た。俺は近づき、証書を出す。


「よお、護衛依頼の報酬を受け取りたいんだが」

「はい! あ、ムソウさん! あの……アヤメ様から古龍ワイバーンのこと伺いました。本当にお疲れ様です!」


 ミオンは深々と俺に頭を下げる。正直、行きがけの駄賃ついでに倒したくらいに思っているからな。そこまで仰々しくされると、何となく、申し訳なくなってくる。


「気にすんなって。それより、報酬……」

「あ、はい! 確認いたします!」


 ミオンはニコッと笑って、証書を確認する。そして、色々と項目を読んだ後、後ろの部屋から、報酬が入った袋を持ってきた。


「護衛依頼達成証書、確認いたしました。こちらが、報酬銀貨70枚です」


 護衛依頼の報酬は一日銀貨10枚程度が、相場らしい。確かにクレナは大変だったが、チャブラは楽だったからな。それに、良い宿にも泊まれたし、グレンとも旅が出来て良かったと考えたら、今回はいい仕事をしたなと納得した。

 俺は金を異界の袋の中に入れる。


「ありがとう、ミオン」

「はい! また、依頼にお取り組みの際は声をかけてくださいね!」


 ミオンの言葉に頷き、ギルドを出た。暗くなるころには屋敷に着くと良いなと思いながら、いつもと変わらない、トウショウの里を歩いて家路についた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ