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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
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第158話―チャブラ領に入る―

 翌朝、目が覚めて天幕の外に出ると、既にグレンが起きていて、飯の支度をしていた。肉を焼いていたグレンは俺が起きたことに気付き、パッと振り返る。


「あ、ムソウ……昨夜のことなんだが……」


 グレンは何か気まずそうな顔だ。昨晩酒を呑んで俺をイラつかせたことを謝りたいのかなと思っていると、


「すまねえな……昨日飲み過ぎたみたいで、酒飲んだ後のことは何も覚えていないんだ。気が付いたら荷台で寝てたんだが、アンタが運んでくれたんだよな。ありがとよ」


 グレンはニカっと笑い、再び肉を焼き始める。

 ……こいつ、覚えていないのか。酔い方はホリーやエリーと同じらしい。一応は、俺が気絶させたことさえも覚えていないらしく、それは良かったのだが、何となく腑に落ちん。俺は後ろからグレンの頭を小突いた。


「痛って! ……何だよ?」

「……何となくだ」


 俺は焚火の前に座り、グレンが淹れてくれていた茶をすする。そして、昨晩と同じ話を二度としてやらねえと心に決めた。


 その後、飯を食いながら、グレンが今日の行程を説明する。今日目指す場所は森を抜けたその先にある町だという。地図で見ると、大体夕方頃には着くくらいだ。クレナから続く街道の、チャブラ最初の町だけあって、なかなか大きな街だという。


「てことは、冒険者も多いのか?」

「ああ。武器屋や道具屋も多い。そして、その街に冒険者が集まるということは、この森も恐らく安全だということだ。夜は何も無かったようだし、ゴブリンとかも居ないかもしれないな」


 領が一つ違うだけで、クレナに来る冒険者はちゃんとしているらしい。そのおかげで、ここいらには魔物の被害はあまりないということで、今日からは神人化せずに、グレンと共に馬車に乗っての護衛ということになった。

 昨日も一昨日も思ったが、やはり、一日中神人化しているのも結構疲れるからな。そもそも、何故疲れるのだろうかと疑問に思うが、ゆったり出来るのならそれでいいやと思っている。


 さて、飯を食った後はそのまま出発した。森の中を進むのはグリドリの時に比べるとだいぶ楽だ。植物獣が居ないからな。本当に安心して進むことが出来る。

 グレンの方は二日酔いらしく、馬車が揺れるたびに気持ち悪そうにしている。時々、手綱を持つ手が緩み、馬が早足になったりして危ない。


「おいおい、大丈夫かよ」

「あぁ……悪ぃ、代わってくれるか?」


 グレンはそう言って、俺に手綱を渡し、グテッとした。荷台に行って、休むかと聞いたが、そっちの方が酔ってしまうと言って、俺の隣で茶を飲みながら落ち着いている。こいつこそ爺いみたいだなと呆れながらも俺は馬を歩かせた。


 一応、周囲の気配を探ってみたが、近くには魔物はいない。……近くには、な。


 ……そこまで強そうというわけではないが、そう離れていないところに何かが居る気配がある。こちらには気づいていないようだが、近づくと面倒だ。

 俺は辺りに死神の鬼迫をぶつける。


 ブルルッ!


 ……あ、馬が怯えた。極楽鳥の時も、ワイバーンの時も落ち着いていた馬が、俺の殺気で、少し慌てた……死神の鬼迫は辞めとこっと。


 まあ、近づいてきたら対処するだけだと思い、少し警戒しながらも、馬車を歩かせた。そんなことを思っていると、隣でグレンも怯えている。


「……な、何だ……今の……何か感じたことあるような……」


 などと、呟いている。酒に酔ってはいたが、その時に感じた恐怖感というのは頭の中に残っているようだ。俺は知らん顔をして、気の所為だろと言っておいた。


 その後も馬車を進ませ、昼頃になると、グレンは調子を取り戻していく。そして、予定よりも早く進んだということで、今日は昼飯を食おうと言い出した。俺は頷き、馬車を止める。グレンは火を起こし、昼飯の準備に取り掛かった。


 俺はどうしても、先ほどから続く気配のことが気になっていた。


「……悪い、グレン。少し離れるが、良いか?」

「んあ? 護衛だろ、アンタ」

「ああ、そうだ。それで、気になる気配が、朝からずっと俺達の近くにある。魔物だったらいけないから確認しておきたいのだが……」


 そう言うと、グレンはしばらく考え、辺りを見渡す。近くに魔物の気配がないことを確認すると、頷いた。


「分かった。だがせめて、あの光る鎧武者だけは置いて行ってくれないか?」


 グレンの言う、光る鎧武者とは、光葬針のことだろう。俺は頷き、神人化する。そして、光葬針を鎧武者の形にして、馬車の周りに四体配置した。これで、何か襲ってきても大丈夫だろう。


「じゃあ、行ってくるよ」

「ああ。気をつけてな」


 俺は気配のする方向へ飛び立つ。俺が近づいて行ってもその気配の主はジッとして、動かない。俺に何かしらの反応くらいはすると思ったのだがな。


 そして、しばらく森の中を進んでいくと、気配が強くなった。だんだん近づいてきたなと思い、無間を構える。……だが、


「あ? 何も……ない、か……?」


 気配のある所に行ってもそこには何もなく、ただ木々が生えているだけだった。おかしいなと思い地面に下りて、辺りを探っていると、突然、俺に殺気を向けられたことに気付く。

 俺は無間を構えた。そして、どこから何が来ても良いようにと、辺りに意識を集中させる……すると……


 ヒュッ!


 何か、空気を切るような音が聞こえた。飛び道具かと思い、音のする方に無間を構える。すると、突然、無間がその方向に引っ張られた。


「うおっと! ……あっ!」


 俺は若干油断していた。無間を握る手の力が緩まったとたん、無間が俺の手から離れ、飛んでいく。魔法か何か使われて奪われたのかと思い、無間が飛んでいった方向に気を撃とうとした。すると、突然……


 シャアアアアァァァ~~~!!!


 と、断末魔のようなものが聞こえた。それは無間が飛んでいった方向、つまり、敵の居る方向からだった。何だろうと思い、行ってみると、大きなトカゲの亡骸が、地面に横たわっていた。

 見ると、すごく奇妙な見た目だ。見た目……というか、見えづらい。向こう側の地面が透けて見える。

 そして、トカゲの頭を無間が口から貫いていた。どうやらこれで死んだらしい。一体どういう状況だよと、無間を見てみると、刃の所に長い舌が絡みついている。いや、見てもよく分からないな。何が起こったのかと思い、鑑定スキルを使ってみた。


 ……


 迷彩トカゲ

 森の中に潜み、長い舌で獲物を襲う。迷彩トカゲの体表は特殊な構成で出来ており、周囲の風景に合わせて擬態することが出来る。そのため、素材は暗殺者や斥候、狩人などに重宝されており、貴重


 ……


 ……なるほど、こいつが迷彩トカゲ。確か、レイカがこいつの素材で出来た外套を持っていたな。魔力を込めると見えなくなるってやつ。

 恐らくそれで気配があっても姿までは見えなかったというわけか。

 そして、こいつが死んだ理由も分かった。無間を舌で絡めとったのは良いが、口に入れた途端、無間が中から頭を貫いたってところだな。見えないところから獲物を狙うとは話だけ聞いたら、恐ろしいよな。気づいたらこいつの腹の中ってことになりかねん。

 しかし、目の前に横たわる亡骸を見ていると、なんというか……


「馬鹿だ……こいつ……」


 せっかくの能力も宝の持ち腐れだなと思い、無間を引っこ抜き、迷彩トカゲの亡骸を異界の袋に収めた。素材の方は貴重らしいからな。帰ったら査定して売っておこっと。


 そう言えば、無間が手から離れたが、神人化は解けなかったな。無間を持っていなくてもすべてをきるものは使えるわけだし、俺のEXスキルと無間はそこまで関係ないのかもしれない。そう思いながら、俺はグレンの元に帰っていった。


 グレンは光葬針に守られながら、のんきに飯を食っていた。


「おう、戻ったぞ」

「お、何か居たか?」


 俺が戻るとグレンは出迎えてくれる。迷彩トカゲが居たことを伝えると、グレンは固まり、大きく息を吐いた。


「あっぶねえ~……あいつ、襲ってくるのだけは本当に察知しづらいからなあ」

「そうか。ちなみに、ギルドの基準で言うとどのくらいの強さなんだ?」

「ああ……そうは言っても、探知系のスキル、つまり鑑定や心眼スキルを持っていたら見つかるからな。そして本体もそこまで強くないから、上級ってところだな」


 グレンの言う言葉になるほどと思う。実際、俺は戦わずして倒したからな。そこまで強い魔物ではないと思っていた。

 だが、素材の方は汎用性の高いものらしく、グレンは俺の異界の袋をもの欲しそうに見ている。


「……ダメだぞ。これは持って帰って役立てるつもりだ」

「ちぇっ……まあ、いいや」


 迷彩トカゲの素材で出来たものは姿をくらませることが出来る。俺が使ってもいいし、闘鬼神の奴らに使わせてもいい奴が居るかもしれない。

 それにツバキに渡しても良さそうだ。素早い上に気配まで消せたら、あいつも強くなれるだろうと思っている。


「そういや、こいつらもう良いぞ」


 と、グレンは光葬針を指さして、そう言った。護ってくれていたのにぞんざいな扱いだなと思いながらも近くには何もいないことを確認して、光葬針を元に戻す。


「ご苦労だった」


 俺が何気なくそう言うと、


「アンタ、自分の力を別に気遣わなくてもいいだろ……」


 と、グレンが呆れたように言ってくる。何となく、気分的にそう言っただけとグレンに言って神人化を解いた。


 そして、焚火の前に座り、昼飯を食う。今回もワイアームの肉を焼いたものだ。そろそろ別のものが欲しくなる。今日は宿に泊まるから、良いものが食えるかなと空を見上げ、肉を食い続けていた。


 昼飯を食い終えた後は静かな森の中を進んでいく。綺麗な木漏れ日、小鳥の囀る声、目だけでなく耳でも森の雰囲気を充分に楽しんでいる。グリドリの一件があっただけに、森での旅というのは嫌なものという思いがあったが、やはり平和な森の中というのは良いものだな。


「そういや、この森にはピクシーっていないのか?」

「さてな……綺麗な森には居るくらいだから、ここにも何体か居るとは思うが、めったに姿を見せないからな……」


 グリドリで俺が浄化した森はピクシーの楽園という名前だった。その名の通り、浄化した後は、俺の前にピクシーが現れ、俺にこの首飾りをくれた。この森にも居るのかなと思ったが、やはり、あの時は感謝の気持ちとして現れたというだけで、普通は姿を見せないらしい。

 ということは本当に貴重な体験をしたんだなと、首飾りを眺めながら思った。


 さて、馬車をどんどん進ませていくが、朝から闘ったりと忙しく、森の心地いい雰囲気を浴びていると、眠くなってきた。すっかり酔いも醒めたグレンに手綱を握らせ、俺は荷台に移動。そのまま仮眠を取り始める。馬車の側面にもたれていると、疲れがどっと出てくる。夜も寝ているとはいえ、少しばかり、気を張り詰めているからな。その分も出たのか、俺はそのまま眠り始めた。


 ◇◇◇


「……おい、ムソウ! 起きろって!」

「……んぁ? 何だ……?」


 ふと、俺を起こすグレンの声が聞こえた。魔物でも出たかなと目を開けて、御者台の方に向かう。すると……


「おお……」


 俺の目の前には、夕焼けに照らされた黄金色の大地が目に映った。よく見ると、それは麦の畑で、ずっと先まで続いている。

 そして、また違う方向を見たら、広大な草原を牛や羊が駆けっている光景が見えた。と言っても、俺の知る、俺の世界の牛とはやはり少し違う。角が四本あったり、球に近い体型だったりする。

 羊の方も、白い毛のものもいるが、赤や、青の毛をしているものまで居た。人が飼っているのか、動物たちの周りには柵がしてあったりもする。

 欠伸しながら、その光景を見ていると、グレンがニカっと笑った。


「チャブラに着いたぜ。もうそろそろ街に着く。森が平和だったおかげで、早く着いちまったな」


 俺は、そうか、と頷き、グレンの横に座り、地図を広げる。確かにこの先に、チャブラ最初の町があるようだ。日が沈む前には着きそうだなと思いながら、しばらくそこらの景色を楽しんでいた。


 そして、日が暮れてくるころには街にたどり着いた。街の門の前に騎士が立っているという光景は何だか、懐かしいなと感じながらも、馬車を預ける。

 先にグレンが言っていたように、冒険者の姿もちらほらと見られ、そこらの店先で飯を食ったり、酒を呑んだりしていた。

 食べ物屋も多いが、道具屋や武具屋も多いようなので、明日の朝、時間があれば寄っておこう。クナイや炸裂弾などが減ってきているからな。

 後は……と、考えながら歩いていると、何やら甘いいい匂いがしてきた。においのする方を見ると、年老いた婆さんが、鍋で何かを似ている。その横には茶色い小さな何かがいくつも置かれていた。

 何だろうと思い、婆さんの方へ行く。


「これは……何だ?」

「キャラメルじゃよ。買っていくかい?」


 きゃらめる? 聞いたことがない。買っていくかと言われても、知らないものは買いたくない。どうしようかと悩んでいると、婆さんは台に置いてあった、一つを俺に渡してきた。


「一触は百見に如かず、じゃ」

「……そうか。じゃあ、遠慮なく」


 俺は婆さんに促されるまま、キャラメルを口に入れた。……お、何やら妙な触感だな。飴のように舐めても良いが、柔らかい。歯にくっついてくる。

 味は、すごく甘く、砂糖を焦がしたような香ばしい香りが鼻を抜けていき、とても心地よかった。


 婆さんに聞くと、この食べ物は牛の乳と砂糖などを煮詰めたものを固めて出来たものだという。

 俺も感じたようにとても甘いので、子供たちに人気だそうだ。それに、牛の乳には栄養が豊富に入っているので、冒険者の携帯食などにも用いられるという。


 いいな、これ。リンネとか好きそうだ。何個か買って行こっと。


「気に入ったよ。三つほどくれないか?」

「はいよ。子供への土産かい?」

「ん? まあ、似たようなものだな」

「そうかいそうかい、ならもう一つおまけしておくよ」


 婆さんは一袋多めに追加して、俺に渡してくる。俺は礼を言って、代金を支払った。子供ってわけではないんだが、グレンの所為で、リンネは俺が土産を買ってくるのを期待しているからな。これは喜びそうだと思い、異界の袋にきゃらめるを入れた。


 しかし、流石酪農などが盛んな領だな。牛の乳を使った菓子まであるとは思わなかった。これ以外にも美味そうなものがありそうだと、辺りの露店を見ていると、誰かが俺の肩を叩く。


「おっと、ムソウ。急にいなくなるからはぐれたかと思ったじゃねえか」


 振り返ると、グレンが肩で息をしながら俺にそう言ってきた。俺はすまないとグレンに頭を下げると、グレンは全くだ、と腕を組む。すると、


「おやおや、お若い方。疲れているようじゃの。これでも飲みなさいな」


 と、キャラメルの婆さんが、グレンに牛乳を渡した。


「ん? おおっと! すまないな、婆さん。詫びに何か買っていくよ」

「ええって。気にしなさんな」

「いやいや、ただでものを貰うと商人の名が廃るってものだからな。え~っと……このキャラメルを二袋、こっちのバタークッキーを五箱くれ」

「ほっほっほ。若いのに殊勝な心構えじゃの……。じゃあ、銀貨三枚じゃ」


 グレンは金を払って、商品を受け取る。婆さんは笑って、俺達にまたよろしくの、と手を振った。俺とグレンも手を振って、その場を離れる。


「良い婆さんだったな……」

「ああ。チャブラの人間はおおらかで優しい……というか、のんびりした性格の人間が多いからな。争いごともめったに起きず、他と比べたら、いくらか平和なところだ」


 なるほど。これだけ作物や生き物が伸び伸びと育っているのなら、そこに住む人間もどこかゆったりとしてくるというわけか。確かに、何となく、クレナよりは俺も落ち着いて生活できるような雰囲気だな、と辺りを見ながら歩いていると、グレンが先ほど買った菓子を俺に渡してくる。


「ほらよ、お前も食うだろ?」

「ん? 何だ、これは」

「バタークッキーだよ。知らねえのか?」


 生憎と、ばたあもくっきぃも知らない。少なくとも俺の世界には無かったとグレンに言うと、グレンは説明し始める。


 バターというのは、牛やヤギの乳を固めたもので、主に何かに塗って食べるという。そのままでも食べられないことは無いが、気持ち悪くなるからやめとけとグレンは言った。

 クッキーというのは、小麦粉に卵や砂糖、牛乳を加えて、それをこねて焼いた菓子だと言いう。サクサクとして子供から大人まで、お茶うけとしてこの世界ではよく食べられているとのことだった。


 言われてみると、クッキーの方は俺の世界でも見たことあるな。興那や玲邦の先の海の向こうにある国のものだと、トウヤから貰ったことがある。それと似たようなものかと、グレンから貰い、口に入れると、やはり食感は似たようなものだった。

 だが、濃厚な香りが口から鼻へと抜けていった。先ほどのキャラメルのような香りだ。あ、これがバターなのか。これは美味いな。確かに茶に合いそうだと思う。


「……美味いな、これ」

「だろ? チャブラにはまだまだこういった珍しい菓子が多い。旅の間にリンネちゃんへの土産、たっぷり買い込んどきなよ」


 グレンはそう言って、ニカっと笑う。こいつもリンネに土産を買うということを忘れていなかったらしい。リンネのことを思ってくれて、俺は嬉しいと思い、グレンの言葉に頷いた。

 ただ、今日でリンネ、ツバキ、それからたまやジゲンたち、屋敷の皆への土産をすべて買うというわけにはいかなかったので、ひとまずグレンと今日泊まる宿に向かった。


 その後、宿に着くと、荷物を置いて、風呂へと向かう。浴場は真っ白だった。足元も壁も、天井も。……そして、湯も。

 グレンによると、牛乳風呂だという。湯気ももちろん白いので、俺達は一瞬白い空間に放り出されたのかと錯覚を覚える。

 しかし、どこまで牛乳なんだよと頭を抱えていると、グレン曰く、牛乳は肌に良いらしい。だから、この湯に入れば、肌がすべすべになるとのことで、女たちには割と人気だという。そのため、ここからクレナの妓楼に大量の牛乳の注文などもあり、グレンもなんどかその運搬に携わったことがあると言った。

 まあ、それなら風呂に牛乳を使うのも良いかと思い、入ってみると、これがなかなか心地よく、湯が肌に引っ付いていくような感覚がある。撫でてみると、確かに肌が綺麗になっていく感覚があった。


「あ~~~……悪くないな~~~♨」

「だろ~~~♨」


 意外と真っ白な空間というのも、湯に浸かってみれば、何となく落ち着き、俺とグレンは今日の疲れを一つ残らず落とすように、その後はお互い一切喋らずに、風呂を楽しんだ。


 その後、風呂から上がり部屋へと戻る。そろそろ飯の支度がしてあるはずだ。楽しみだなとは思いつつ、まさか晩飯まで、牛やヤギの乳を使ったものじゃねえよなと疑っていた。だが、部屋に戻ってみると、卓の上には数多くの肉料理が並んでいる。焼いた肉から、刺身と色々だ。

 乳料理じゃなかったことには安どしたが、ここ最近は野営で、肉ばかり食っている。何かなあ……と思っていると、グレンが目を輝かせて、料理を見て興奮していた。


「すげえな! こいつは……どれも高級なもんばっかじゃねえか!」


 グレンは並べられた料理の前で、小躍りしている。意外と大層なものらしい。俺には何が何だか分からなかったので、一つ一つ聞いていく。

 まず、目を引く大きな肉の塊、これは黄金牛という体毛が金色の牛の肉だという。とても美味いらしく、肉汁すらも金色に輝き、口に入れた途端、ふわっと焼けた肉のにおいが口いっぱいに広がるほどだが、まったく癖が無いらしい。

 その横の刺身は、マシロでツバキに食わせて貰ったクーマという馬の魔獣の上位個体、ハクーマという魔獣の刺身だ。早い話が純白のクーマで普通の個体に比べると健脚で、さらに速く草原を走ることが出来るという。そのため、脂などはなく、あっさりとしていながらも、馬の味は確かに感じられるらしい。

 そして、皿の模様が見えるほど薄く盛られた料理は羽衣鳥という、鳥型の魔物の肉を薄く切ったものだ。野菜を巻いて食べると美味いとのことで、これはグレンの好物だという。

 その他にも、色々と料理が並べられていたが、食ってみないと分からないので、取りあえず席に着き、夕餉を始めた。

 まず最初に、黄金牛を口に入れる。……お、確かに美味いな。何も味付けされていないみたいだが、かえってそれが、肉の味をじかに感じられてとても美味い。

 そして、ハクーマの刺身だが、臭みなどは無く、いくらでも食えそうな味だ。それに普通のクーマの刺身よりも柔らかく感じる。これは酒に合うなあ……。

 その他の料理も申し分なく美味い。俺は料理と酒を楽しんでいたが、ふと、疑問に思ったことがある。


「これ……どれも高いんだよな? ここの宿代って誰が払うんだよ」

「そりゃ、依頼主の領主に決まってんだろ? 必要経費だ。んなこと気にしねえで、もっと食おうぜ!」


 俺の疑問をさらっと答えたグレンは、黄金牛の肉にかぶりついている。……まあ、ここはすでにチャブラだからな。チャブラの領主の依頼で、チャブラに来て、チャブラの飯をチャブラの宿で食っているわけだから、別に良いか。

 ……最悪、領主か、本来の依頼主である領主の部下たちに何か言われたら俺が払おう……。


 などと思いながら、飯を食い続ける。ちなみに、グレンは酒を呑んでいない。昨晩のことをずいぶんと反省しているようだ。少なくとも俺と共にいる間は、禁酒すると言っていた。

 昨晩は確かに腹が立ったが、それで良いのかと確認すると、元々、酒は得意じゃない、ムソウと再会できてうれしかったと、改めて申し訳なさそうにグレンは頭を下げる。

 そういう思いがあったのなら、もういいや、と昨日、俺を怒らせたことについては、もう、何も言わないとグレンを許した。


 そして、飯を食いながら明日以降の行程を簡単に説明し始めるグレン。俺は酒を呑みながら、グレンの話を聞いていた。


「取りあえず、今のところは順調だ。このままだと、明日はもう一回別の町で宿をとり、明後日の夕方にはギルドのある街に着くだろう。そして、荷を受け渡すのはそのまた次の日だ」

「そうか。荷を渡した後は俺はもう自由か?」

「ああ。アンタの依頼は俺の護衛だからな。俺の依頼が達成されたら、もう自由だ。……なんだか寂しい気がするがな」

「まあ、俺は冒険者、グレンは商人……またいつか会えるさ」


 少し寂し気な表情をするグレンにそう言うと、グレンはそうだな、と頷いた。


 俺も少し寂しく感じる。楽しい時間はあっという間とは言うが、グレンとまた離れるのはやはり、辛い。グレンに言った言葉を、自分にも言い聞かせ、俺は酒を呑んだ。


 その後、飯を平らげた後しばらく部屋で談笑し、布団をかぶった。風呂も飯も良かったから、明日からも頑張れる。そう思いながら、ゆっくりと眠りについた……。


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