第157話―旅をしながら闘う―
翌朝、宿を出て自警団から馬車を返してもらい、旅に出る。どこも異常がないことを確認すると、お礼にと、金を渡そうとした。
しかし、俺からは受け取れないと自警団の者たちは金を拒む。聞くと、魔獣の大山の破山大猿を討伐したのが、俺だということを昨日のうちに確認し、そんな奴から金を巻き上げるのは忍びないとのことだった。
そういえば、俺がこなした依頼について、信じられないという者たちにアヤメが、伝令魔法を転送していたっけな。馬車を預けた自警団の者たちが、俺のことを自警団の長の者に報告して、発覚したようだ。
自警団の者たちは、むしろ俺に感謝しながら、昨日渡した金を返し、手を振りながら、俺達を見送った。
「いやあ~、今回の輸送、ムソウに頼んで本当に良かった。少し、儲けた気分だ」
「俺からすれば、破山大猿も噴滅龍も大したことなかったがな」
「そう言える時点で、アンタはやはり“規格外”だな」
グレンは得したという顔でそう言っている。正直なところ、以前の討伐の中で、苦労したものは、水場で戦ったリザードマンか、集団で戦ったスライムの殲滅くらいだ。
スライムの方は特に数が多かったからな。素材も残さないといけないと考えながら戦うのは辛かった。けど、そのおかげで色々な冒険者に知り合えてよかったんだがな。
さて、街を出て街道を進むと、魔獣の大山が見えてくる。あの時の浄化はまだ続いているようで、前に見たように禍々しい雰囲気は一切なかった。
ただ、魔物自体はまだ居るようである。また、被害が出るようになったら依頼があるんだなと思いながら、俺達は街道を進む。
いつしか、道は荒れてきて、だんだんと山道になってくる。道のすぐ横は崖だ。落ちないようにと気を付けながら進んでいく俺達。
「ここで、魔物に遭遇したらやばいよな……」
「そんなこと言うなって。実際遭遇したらどうすんだよ……」
グレンの何気ない一言に思わず突っ込んじまう。そんなこと言うから、こういう時に限って魔物が出てやばいことになるんだ……。
「ギャオオオ~~~!!!」
……そら見ろ。出たじゃねえか。
辺りを見ると、数匹のワイアームが飛んでいる。見ると、ワイアームに交じって、ブルムというよく似た魔物も飛んでいる。
ワイアームの方は、何か炎を纏っているようだ。鑑定スキルを使うと、レッドワイアームという、普通のワイアームからレッドワイバーンに成長する過程で生まれた個体だという。
慌てるグレンの横から、崖に向けて飛び出し、神人化する。
そして、辺りの魔物どもを一掃した。流石に素材は手に入らなかった。なんせ死骸は消滅するか、下まで落ちていくからな。いちいち取りに行くのも面倒だと思っている。
グレンはもったいないという顔をするが、素材と命のどちらが大事かと聞くと、渋々という感じであきらめてくれた。
その後も、俺は飛びながら、グレンの馬車を狙う魔物どもからの警戒を行う。そうすることで先ほどのような空から襲ってくる魔物に素早く対応するためだ。
俺は馬車を狙うワイアームなどをことごとく斬っていく。
「流石、ムソウだな」
「まあ、これくらいはどうってことないが……それにしたって数が多くないか?」
ひとしきり、魔物どもを狩っていき、ふと、そう思った。ブルムもワイアームもすでに100以上は倒している。
だが、一向に減る気配がない。精霊人の森に居た奴らが少なく感じてくるほど、立て続けに出てくる。
「ひょっとしたら、近くに巣があるのかもしれないな」
グレンは慎重に山道を進みながらそう呟く。ワイバーンの繁殖力はマシロの一件で、身に染みて分かっている。
俺も恐らくそうだろうなと思う。こいつらの親であるワイバーンが来たら面倒だなと思いつつ、俺達は先へと進んだ。……しかし……
「ギャオオオオオオ~~~~!!!」
突如、ひときわ大きな雄たけびが聞こえる。声のする方を見ると、上空にワイアームやブルムとは違う大きな龍が飛んでいるのが見えた。案の定、ワイバーンだ。
それも一体だけじゃない。普通のワイバーンから、レッドワイバーン、更には紫色の瘴気を纏った緑色の個体、グリーンワイバーンといった数多くのワイバーンが空を飛んでいる。
その中でも、他のワイバーンよりもひときわ大きなワイバーンが目についた。普通のワイバーンを何倍も大きくしたようないで立ちで、足に生えている爪だけで、他のワイバーンと同じくらいという規格外の大きさを誇っている。
あいつは何だろうと思っていると、グレンが馬車を止めて震え出した。
「……あ、あれは……古龍ワイバーンか!? 何でこんなところに居るんだよ!?」
「古龍ワイバーン?」
「全てのワイバーンの祖と云われる個体だ! あいつは災害級の力を持つぞ!」
ワイバーンなどに代表される魔龍は、龍族と魔物との間に生まれた種族である。そのため、本来なら、龍族の持つ強大な力を持っていると思われるが、長い年月の間に、ワイバーンも繁殖のため他の生物と交わってきた。
それにより、龍族の血も薄まり、そこらに居るワイバーンは龍族の力を使うことができない。
ただ、稀にその力を備えたワイアーム、もしくはワイバーンが生まれるという。それが、目の前に居る古龍ワイバーンだ。数百年生きているのか、隔世遺伝なのか、その個体は、龍族の持つ力を備えているらしい。
そう言えば、精霊人の森の時は一体だけ、龍言語魔法を使うワイアームも居たが、それかな。今となっては定かではないが、ああいった個体が成長した姿なのかもしれないな。
「で、倒されたって記録はあるのか?」
「情報が残っているからあるにはあるが……今、確認されているのはサネマサ様だけだぞ?」
一応と思いグレンに聞いてみると、グレンは答えづらそうにそう言った。あ、そう言えばサネマサの生家に素材が置いてあったな。
なるほど、あいつだったらこの魔物くらいは倒せるというわけか……。
俺は大空を飛びながら、こちらを伺っている古龍ワイバーンを見据え、無間を構える。
「お、おい! 何する気だよ!!!」
グレンは俺が何かするのか悟ったらしい。今にも逃げようぜ! という感じに荷物を持って馬車を降りようとしていた動きを止めて、俺に叫ぶ。俺はグレンにニヤッと笑った。
「お前……俺がワイバーン倒したってこと、まだ半信半疑だよな? ……いい機会だからこの場で証明してやるッッッ!!!」
無間を握る手に力を込めて、空へと向かっていく。グレンは何やら叫んでいるが、そうしていると、多くのワイバーンやワイアームたちが襲ってきた。
俺は空中で斬波を放ったりして対処する。グリーンワイバーンなどは毒液のようなものを吐いたりしてくるが、天界の波動のおかげで、難なく対処できている。
レッドワイバーンなどが吐いてくる熱線などは廻旋刀を使い、防ぎながらそのまま竜巻を生み出し、吹き飛ばしたり、そのまま螺旋斬波を撃ったりして倒していく。
そして、光葬針を武者の形にし、十体出現させる。そいつらを五体はワイアームやブルムへの露払い、五体を倒した魔物の素材集めに分けて、俺はワイバーンを狩っていく。
そして、合計二十体ほどのワイバーンを倒した頃、古龍ワイバーンが怒ったように咆哮を上げる。
「グオオオオオッッッ!!!」
流石に巨体ともあってデカい声だった。雄たけびだけで、辺りに飛んでいた魔物たちは気絶したのか次々と落ちていき、岩肌がむき出しのそこらが砕けたりしている。
俺は大丈夫だったが、グレンの方が心配になり、馬車の方を見た。両手をしっかりと抑えたグレンは何とか無事だった。
安心していると、古龍ワイバーンから大きな爪の攻撃が俺に降りかかってくる。
「む!? させるか!」
―すべてをきるもの発動―
俺に降りかかってくる爪の切れ目を、迎え撃つように叩っ斬る。すると古龍ワイバーンの爪は砕かれ、バラバラと下に落ちていく。
攻撃が空ぶったと思った古龍ワイバーンは、もう一方の脚で俺を攻撃したが、先ほどと同様にそちらの爪も叩っ斬る。古龍ワイバーンはいったん下がって、自分の脚を確認する。
「ギャオオオ~~~!!! ヨクモオ~~~!!!」
ワイバーンは怒り心頭だ。……というか、喋れたのか。まあ、災害級だからな。知能が高いのは何となくわかるが。
「コレデモクラエッッッ!!! クソガアアア~~~ッッッ!!!」
古龍ワイバーンはそう叫び旋回しながら、上空へと飛び立つ。すると、ワイバーンの頭上に魔法陣が描かれた。
そして、そこから巨大な岩の塊が降り注ぐ。ミサキとの闘いで見た、隕石を降らせる龍言語魔法だ。流石は古龍ワイバーン、龍言語魔法も使えるんだな。
だが、ミサキのものよりは小さく感じられた。
「オトナシクツブレロッッッ!!! カトウシュゾクガアアアアアッッッッ!!!」
俺に向かってくる隕石にワイバーンは後ろから突撃し、隕石を砕くと同時にその身に纏わせ、隕石と一体化し、巨大な炎の塊となって、俺に向かってきた。
俺は無間を上段に構え、気を纏わせる。そして、大きな一本の刃状に変換し、古龍ワイバーンに突っ込んでいく。
「奥義・破界ッッッ!!!」
口を開けるワイバーンの頭の切れ目をめがけて、巨大な刀となった無間を振り下ろす。
「グ……ギャアアアアアアァァァァッッッ!!!」
勢いそのままに、俺は尾の先までワイバーンを斬った。ワイバーンの体は両断されて、地面に落ちていく。
そして、崖下で大きな音を立てて、先に落ちた多くの普通のワイバーン達を押しつぶしながら、古龍ワイバーンは息絶えた。そこは大きくすり鉢状に凹んでいる。
幸い、グレンの居た所に影響は無かった。良かったと安心し、これだけはと思い、亡骸を異界の袋に入れて、グレンの所に戻った。
未だ開いた口がふさがっていないグレンの前に立ち、神人化を解く。
「……ふう。ここまでやれば、神人化して飛びながら護衛ということもしなくていいだろう。さあ、先に進むぞ」
そう言って、馬を引かせようとしたが、グレンは未だに俺を凝視している。
「……ムソウ」
「あ? 何だよ」
「アンタって……本当に“規格外”なんだな……」
何かをあきらめたかのようにグレンはボソッと呟く。そして、ゆっくりと馬を引き出した。何はともあれ、グレンは俺の強さを本当に信用してくれたようで何よりだ。
俺は先ほどの戦いもあり、少し疲れたので何かあったら起こしてくれと、グレンに伝え、荷台で仮眠をとった。御者台から空を見上げながら、ホント、とんでもない男を護衛に選んでしまったと、後悔にも、喜びにも聞こえる口調で、呟いていた。
◇◇◇
仮眠をとって起きた時には夕方となっていた。俺が御者台に戻ると、グレンは起きたかと言って、その後も馬車を進ませる。まだ、野宿というわけにはいかないみたいだ。
というのも、俺達が進んでいる道は、この馬車一台分くらいよりも少し大きいという幅で、とてもじゃないが、野宿にしては狭すぎる。もう少し、広い場所まで進むということだった。
寝ていた代わりに、俺の地図で野宿に良さそうな場所を探してくれと言うので、俺は魔法の地図を広げる。
しばらくは細い道が続くようだが、その先に広場のようなところを見つけた。見ると、そこは山の頂上となっているところだった。ここはどうか、と指を差すと、グレンは頷いた。
「そういえば、トウショウの里から素材を渡すギルドまでは七日ほどと聞いたが、ということは後六日ほどと考えても良いのか?」
「う~ん……先ほどのように、よく確認されていない魔物が出たら分からねえな。まあ、ムソウにとっては、それもどうでもよくなるから案外予定通りかもな。
ちなみに、明後日にはこの山道を抜ける予定だ。山道を抜けたら、そこはもうチャブラ領だな」
グレンによると、この山岳地帯まではまだクレナ領らしい。てっきり山の中に領の境があると思っていたのだが、違ったようだ。
ただ、だからこそ、先ほどのように強大な魔物が確認されていなかったのではとグレンは推測する。クレナ領の問題の一つである、冒険者怠慢の弊害は、こういった辺境にこそよく現れるようだな。
帰ったら闘鬼神の奴らを使って調査団を組むというのもいいかもしれない。今度アヤメに相談してみよう。
さて、しばらく進んでいくと、日は沈み、辺りは暗くなる。このまま山道を進んでいくのは危ないと判断し、グレンは灯の準備をするが、俺はそれを止めて、神人化する。
俺だけでも光っているが、俺は更に光葬針を四つ出し、球体の状態にした後、馬車の四方を囲むように配置した。無論、光葬針も輝いているので、暗い夜道でも馬車の周りくらいは見通せるようになっている。
横でグレンが、便利な能力だなと苦笑いしながら、呟いていた。こいつの場合、馬鹿にするように嘲笑う感じで言ってこないというあたりが、良いと思い、俺も特に、嫌な気はしなかった。
まあ、グレンは先ほど、この姿で思いっきり戦ったところを見ていたからな。便利だということも、強いということも知っているから、下手なことは言いたくないのかも知れない。仮に言ったとしてもどうするわけでもないのだがな……。
取りあえず、辺りを見通しながら進んでいくと急に開けた場所に出る。地図で確認するとどうやら頂上に着いたようだ。俺は光葬針をさらに生み出し、武者の形にして、辺りを探らせる。
……ふむ、魔物はいないみたいだ。その後、武者から球の形にした後は辺りを照らしながら、天幕の用意をした。この間に、異界の袋から風呂を出し、そちらと火の用意はグレンにしてもらった。
火炎鉱石くらいは使ったことがあるらしく、グレンは、ようやく風呂に入れるとウキウキしながら、準備を進める。
ちなみに、俺が持っていた給水岩を見たときは驚きのあまり、売ってくれ! とせがんできた。
天幕の用意を終えた俺は火が付いたことを確認すると、神人化を解き、ひとまず落ち着いた。
山の頂上ということもあってか、空気は澄んでいて、眼前には大きな星空が浮かんでいる。それはとてもきれいな光景だった。
さて、グレンが風呂の準備を終えると、ゆっくりしている俺を見ながら、風呂は先に入っていてくれと言った。
その間に自分は飯の支度をするからと言って、俺の異界の袋から、前日狩った極楽鳥とワイアームの死骸を出し、解体し始める。
「そんなことも出来るんだな」
「調理スキルを持ってるからな。まあ、ゆっくり風呂に浸かってろよ」
グレンの言葉に頷き、俺は風呂に入った。今日は屋根を取っ払って、星空の下、湯に浸かっている。ツバキとの旅の時はこういうことはしなかった。ツバキは女だし、屋根をとっていてもあいつは覗き込んできたりするからな。初めて、こういう使い方をしたなと、笑った。
そして、しばらくすると、肉の焼けるいい匂いが風呂の方にまで香ってくる。香辛料を使ったのか、ただ肉を焼いたようなにおいではなく、どこかの飯屋で嗅ぐような何とも食欲をそそられるような匂いだった。
早く食いたいなと思いながらも、ゆっくりと風呂に浸かっている。
しばらく、星空の下での露天風呂を楽しんだ後、風呂から上がった。グレンの方を見ると、まだ飯の支度をしている。冬も近いし、山の上なので風も強く冷たい。上手いこと火が通らないとのことだった。
ひとまず、寒さで震えるグレンを風呂に入れて、俺は料理の続きを行った。と言っても、肉が焼けるのを眺めるだけだがな。ただ、ここまで寒いと、鍋物も欲しいと思い、鍋に水を入れた後、味噌と街で買った野菜、それから細かく切ったワイアームの肉を入れて、その中に火炎鉱石を入れて煮詰めていった。
ある程度、煮立ってきたら火炎鉱石を取り出し、鍋を火にかける。
蓋を開けると、豚汁もどきが出来上がり、温かい湯気が俺を包んだ。これなら夜も越せるなと思い、未だ焼いている肉をもう一つの鍋に入れて、そこで焼き始めた。こうすることで、風を防ごうと思ったのだが、功を奏したらしい。ジュワジュワと肉汁を出しながら、肉が焼けていく。
良し、これで準備は整ったなと、落ち着いていると、グレンが風呂から上がった。
「さて、と……じゃあ、食うか」
「おう。今日はほとんど飯食ってねえからな。腹ペコだ」
風呂から上がったグレンはドカッと座り、二つあるうちの大きい方の肉を食い始めた。そこはワイバーンと闘った俺に先に選ばせて欲しいものだと思うのだが、まあいいや。俺も極楽鳥の肉にかぶりつく。
……美味い。噛めば噛むほど、肉汁が口いっぱいに広がっていく。脂っこいと言えば、脂っこいのだが、そこは香辛料が上手く中和していき、そこまで食べていてしんどいものではなかった。
そして、ワイアームの豚汁もどきも食べてみた。……ああ、温かいな。未だ辺りは少し肌寒いが、ちょうどよくなってくる。作って良かったなと思いながら、また、肉を食っていく。
「そういや、チャブラの領主は何で、噴滅龍の素材を欲したんだ?」
飯を食いながら、今回の仕事について聞いてみる。噴滅龍の素材はその特性からか、コモンのEXスキルでないと加工ができないと聞いた。素材だけ貰っても意味ないと思ったが、どうなんだろうと思っていると、グレンは口を開く。
「大きな加工は出来なくても、そのまま鎧に張り付けたり、研磨して武具くらいは作れるだろう。
それで、強力な装備を作って自慢でもしてえんじゃねえのか?
まあ、噴滅龍の素材は他の領や腕利きの冒険者の方にも渡るみたいだから、あまり意味はねえかも知れねえがな」
「自慢? 誰に……?」
「例えば、他の領主に見せて、自分はこれくらいの財力と力があるという風に誇示ができるだろ? それによって政を上手く行っていく領主も多い。
後は、領民に力ある領主だということを示せれば、反乱因子も居なくなるだろうし、むしろ頼られることが増えるからな。いい考えだとは思うぜ」
グレンはいやらしい笑みを浮かべる。話によれば、チャブラの領主はそこまで領地を治める力はないという。マシロ領主のワイツ卿に比べると、天と地ほどの差があるらしい。
それで、よく領主としてやっていけるなあと思っていると、その領主に仕えている者たちが優秀なものばかりで、それぞれ騎士団と連携し治安維持に努めていたり、各産物の流通を担っていたりと、度々、領主の補佐をしているという。
今回のグレンへの依頼もその補佐官たちが行っており、自分たちの領主にせめて威厳だけでもと噴滅龍の素材を求めてきたという。
そいつらも大変だなと、俺もグレンの言葉に苦笑いした。そんなことだから、領民たちにも、既に不審がられており、ここらで安心感を与えるためにも、補佐官たちは、必死に商人ギルドに頼み込んできたという。
まあ、他にも噴滅龍の素材を求めている奴が居ることを考えると、あまり効果は無さそうだし、事情も知っていて、なおかつ身に纏っているもので人を判断しないアヤメや、聡明なワイツ卿辺りにはもともと効果は無さそうだなと俺とグレンは頷いた。
「あ、そういうこともあるから、古龍ワイバーンの素材は隠しておいた方が良いかもな。知られたら絶対欲しいとせがまれるぞ」
「そうだな。せめて普通のワイバーン止まりにしておこう」
噴滅龍だけではなく、先ほど狩った、災害級の古龍ワイバーンの素材を持っていると、その領主に知られたら、あるいはその補佐官たちから譲ってくれと頼まれそうだ。こいつも良い素材になりそうだからな。それにデカいし、闘鬼神たちへの新しい装備になりそうだから、コモンに渡そうと決めている。これだけは絶対に守ろうと決めた。
ともあれ、仕事の大体の内容は分かった。何も気にすることなくこれからは旅が出来ると汁をすする。ちなみに、と思い確認したいことがあったので、最後にもう一つグレンに質問した。
「ちなみに、これから行く先にはもう災害級の魔物なんていないよな?」
「う~ん……正直古龍ワイバーンは想定外だったからなあ……もう正確なことは分からねえよ……」
「噂の域でも構わねえよ」
「え~っと……いや、特に思いつくものは無いな。仮に出るとしたら、山を抜けるときにゴブリンか、もしくは下級の魔物の大群くらいは出るんじゃないかとは思っているがな……」
ふむ……めぼしいものはいないようだな。出たとしても下級の大群程度なら問題ないし、ゴブリンの上位個体である、ゴブリンロードもマジックゴブリンも、一度見た相手だ。旅には差し支えないだろう。
ただ、油断はできない。明日も常に神人化して馬車の周りを飛びながら進んだ方が良いかとグレンに聞くと、ぜひ頼むと、即答した。
その後、飯を食い終えた後、グレンは先に寝ると言って、馬車の荷台へと向かった。俺はしばらく周囲の警戒を行ったが、山頂付近に魔物の気配が感じられなかったので、安心して、眠りについた。屋敷の皆は大丈夫だったのだろうかと思いつつも、やはり疲れていたのか、すぐに俺の意識は深く落ちていった……。
◇◇◇
翌朝目が覚め、天幕を出るとだんだんと朝日が昇ってきて、山の上から大地が照らされていくという神秘的な光景を目にすることが出来た。
今日も良く晴れそうだなと伸びをして、火を起こし、朝めしの準備に取り掛かる。
昨日残ってしまったワイアーム汁の中に米を入れて、塩と味噌で少々味を調える。少し味見をすると、塩っ気がちょうどよく効いた美味いおじやが出来上がっていた。
次に、極楽鳥を薄く切り、生姜と醤油、それからにんにくを合わせたものを塗り、焼いていく。表面が黄金色に焼けてくると同時に、食欲をそそる何ともうまそうなにおいが鼻を突いた。早く焼けてくれないかと思っていると、後ろからグレンの声が聞こえてくる。
「お~っす……早いなあ~……」
グレンはぼりぼりと自分の頭を掻きながら一つあくびをしていた。俺はニヤッと笑い、
「どうも、依頼主殿! 朝餉の準備は出来ております!」
と、言ってみた。グレンはぽかんとして、そんな冗談はやめろと笑っていた。
その後、肉を焼いている間に俺は着替えを済ませる。いつもの衣と袴を履き、無間と小手を持ち、天幕を異界の袋に詰めていると、グレンが口を開く。
「しかし、改めて見るとどれも上等なものばかりだな……どこで手に入れたんだ?」
「ほとんど、マシロだ。小手と鎧はクレナに入って強化したがな」
「ほう……マシロって言うと、ギルド専属のギリアン作ってところか?」
「ああ。よく分かったな」
「そりゃ、アンタは冒険者だし、ギリアンは俺ら商人には有名だからな」
聞くと、ギリアンの作る武具や服飾品は質が高いので、商人たちから自分の所に卸すようにという問い合わせが多いという。
しかし、ギリアンは首を縦に振らない。自分が作るのは、苦労して魔物を狩ってきた冒険者に対し、その素材で作るくらいだということで、素材はともかく、製品を商人に卸すということはしたくないとのことだった。
つまり、ギリアンの装備が欲しければ、自分で狩った素材を持って、マシロのギルドまで行かないと手に入らないものだという。この世界に来て、最初に行った街がマシロで本当に良かったと実感した。
腕のいい職人の一品ものを装備できるとはやはり光栄なことだからな。
ちなみに、グレンもギリアンの製品を卸そうとしたのだが、やはり断られたという。だが、その説明を受けたときにギリアンの仕事にかける情熱というものを感じ、それ以来、何も言わなくなっていったと語った。
「まあ、良いものってのは往々にして手に入りづらいと相場は決まっているからな。それくらいの方がちょうどいいかもしれない」
「へえ~。商人なら他の商人を出し抜くくらいの商品を並べて、儲けるものだと思うんだがな……」
「いや、それだと珍しく高価なものばかり並べる商人が増えちまう。元々商人ギルドは、一般の人間では手に入らないが、便利で役に立つものを民たちに普及させるという理念のもと、セイン様が設立したんだ。
それなのに、一般の人間には手が出せないものばかり売っちまったら、俺達のいる意味がなくなるってもんだろ?」
なるほど、グレンの言うことは分かる気がする。あくまで俺達冒険者や、商人たちは魔物と闘ったりすることができない力の弱い者達のために存在している。
グレンの言うように、己の儲けのことばかり考えていると、そういった弱い者達の生活が苦しくなるというわけだな。
まあ、今回のような素材の輸送依頼に関しては、そういった者達に直接は関係してないが、これで、チャブラ領主の面目が立てられるのなら良しとしようか。
さて、そんな話をしている間に、飯が出来上がる。俺達は焼けた極楽鳥の肉と合わせておじやをすすっていく。朝方ということもあり、山頂はやはり寒いが、おじやのおかげで体が温かくなってくるのを感じた。
そして、朝めしを食べながら、今日の行程を確認する。グレンによると、明日の昼には山を抜けたいとのことだった。山道はまだまだ続いている。そのため、やはり今日も俺が飛んで、辺りを警戒しながら、進むということで話は落ち着いた。
目指す場所は山を下りた所の森に入る少し手前だ。山からは離れられるし、森に入ってしまうと、魔物が居る可能性もあるので、そこにしようと言うグレンの言葉に俺も頷いた。昨晩気付いたが、やはりずっと飛んでいるのはしんどいからな。夜くらいは、ゆっくりと休みたいと思っている。
その後、飯を食い終えた俺達は、荷物を纏め、野営地を後にする。グレンが馬車に乗り込み、馬を引くと、俺は神人化し、昨日と同じく光葬針を四人の鎧武者の形にして、馬車の四方を囲むように配置し、俺は飛びながら、山を下っていく。
グレンは時々、俺の出した鎧武者に話しかけたりとしているが、もちろん反応は無く、光葬針は淡々と歩いて行く。ガクッと項垂れるグレンに時々話しかけながら、山道を進んでいった。
◇◇◇
「おっと……!」
山道を進んでいき、俺達は現在、魔物の大群と闘っている。こいつらは、スカイグレムリンと、普通のグレムリンの大群だった。弱いので難なく倒していくが、数が多い。一応二人の鎧武者にグレンと馬車を護らせ、残り二人と辺りの魔物を狩っていく。
グレムリンは下級の魔物だから、俺は光霊波を放出したり直接斬ったりして、魔物たちを消滅させていく。
光葬針は球の形にして、辺りを飛び回るグレムリンに突撃させたりして、対処している。だが、ある程度倒していくが、やはり数が多く少し面倒になってきた。俺は光葬針を粒上にし、無間で起こした竜巻に纏わせる。
「光葬嵐雨ッッッ!!!」
浄化する竜巻をグレムリンの軍勢に放つ。風が当たったところから、次々とグレムリンが消滅していくことを確認した。
そして、攻撃を逃れたグレムリンたちに死神の鬼迫をぶつける。
「グギッ!」
グレムリンたちが硬直したすきを狙って、グレンを促し、俺と馬車は急いでその場を離れた。ある程度、離れるとグレンは馬を引き、馬車を止める。
「ふう~……ここまで来れば大丈夫だな。しかし、素材が残らねえのはやはりもったいなく感じるな」
「まあそうだが、神人化しねえと飛べないからな。この状態で戦う以上は、下級の魔物の素材はあきらめた方が良いだろう」
「だな」
俺の言葉にグレンは頷く。……しかし、俺が出すことができる天界の波動、強くなっていっているような気がする。前に比べると、そこまで技に使わなくても、グレムリンたちも少し近づくだけで、波動に当てられて消滅、もしくは傷を負ったりしている。
実は、ここクレナに来てから、気功スキルが上達したらしい。前よりも少ない力で気を多く集め、威力を上げるということが可能になった。同じく、剣術スキル、武術スキルも上達している。
武術スキルの方は前よりも拳打の威力が上がり、体も軽くなっている。少し、若返ったようで、嬉しかった。
そして、剣術のスキルの方は、あまり実感は無いが、無間以外の得物を使う時はそれがよく分かる。例えば、そこまで上手くなかったクナイなどの扱いも、上達しているような気がする。普通の小刀を振るう時と同じ感覚で、クナイも使うことが出来ていた。。
これらの、スキルが上達するという感覚は初めてだったので、俺が嬉し気に自分を鑑定していると、グレンが口を開く。
「それでも、まだ極めて無いんだからな。これ以上強くなってどうする気だよ?」
「強くなることは悪いことじゃないだろ。俺にとっては今までよりも多くの仲間を、より強力な敵から護ることができるから嬉しいと思っているがな」
前の世界以上に、この世界に来ても多くの仲間が出来た。それに、クレナに来てからは家族のようなものも。
あいつらを護る為に強くなって、災害級のみならず、天災級の魔物だって、倒せるくらい強くなれるのなら、俺は喜んで敵を斬っていくとグレンに言うと、呆れながらもグレンは俺の言葉に頷いた。
その後は魔物の出現は無く、夕方には山を下りることが出来た。馬車を止めて野営の支度にとりかかると同時に、光葬針を辺りに飛ばして魔物が居ないか探る。念のために俺も周囲の気配を探ったが、今のところ近くに魔物が居ないことを確認し、安どした。
そして、今日はグレンから風呂に入ってもらい、俺が飯を作った。極楽鳥がまだ余っていたので、骨と一緒に鍋に入れて、煮立ったところで野菜を入れて、蓋をする。今日はあっさりと鳥鍋だ。
そういや、極楽鳥って食ってばかりだが、素材にはならないのかとグレンに聞いてみた。すると、俺も食用でしか見たことがない、と返答が返ってきたので、一安心だ。
一応、羽などは装飾品に使われるとのことだったが、グレンが解体した際に既に捨てたということらしいので、そちらはあきらめている。
さて、もう一品は昨日と同じく、ワイアームの肉を焼いた。山を下りたこともあり、風もそこまで強くないので、直火で焼いている。辺りに美味そうなにおいが立ち込めた頃、グレンが風呂から上がり、そのまま俺が風呂に入った。
この旅の間は、常時神人化しているので、そこまで体は汚れていない。ただ、やはり疲れてはいるらしく、湯に浸かると共にそれが抜けて落ち着いてく自分に、皆が言うように、本当に爺さんみたいになってしまったと苦笑いした。
しばらく湯に浸かり、風呂から上がって外に出ると、グレンがさらに料理を盛って、既に夕餉を摂っていた。
この野郎、と思いながら俺も椅子に座り、飯を食い始める。先に食ってんじゃねえとジトっとグレンを見ていると、これやるから許してくれと、果物を使った酒を俺に注いでくれた。俺はグレンを許し、二人で乾杯し、飯を食っていく。
「アンタを怒らせるとやばいということを思い出したぜ……」
「それを、酒渡せば許してくれると考えている辺り、そこまで恐れていないということが分かるがな……」
「はっはっは! 闘い見ていたらおっかねえが、根は優しいってことは知っているからな! さあ、じゃんじゃん飲んでくれ!」
「いい気なもんだな……まあいいや」
若干顔を赤らめながら、グレンは俺にさらに酒を注いでいく。ワイアームの肉をつまみに俺達の酒宴は止まらなかった。
グレンは酒にそこそこ強いようだが、明日も森を進む。そんなに飲んで大丈夫なのかと聞くと、
「ムソウが居ればだいじょーぶだあああ!!!」
と、盃を高く上げて、叫んだ。……今ので魔物とか襲ってこないよな、と思い、冷静に周囲の気配を探る。……うん、大丈夫だ。問題ない。
グレンは急に黙った俺を不思議そうに眺め出すが、俺が酒を呑むのを再開させると、機嫌を取り戻し、更に俺に酒を注いでくる。
だいぶ出来上がってきたな、こいつ。呆れながらグレンの顔を見ていると、グレンは、陽気に喋り出す。
「なあなあなあ~! ムソウって、マシロ出たときに女騎士と一緒に来たんだよなあ!その子はどんな子なんだよ」
この旅で、グレンに色々と俺の話をする中で、ツバキやリンネのことも話している。一度会ったことのある、リンネは置いておいて、未だ会ったことが無いツバキがどんな者か気になったらしく、そんなことを聞いてきた。
「どんなって……マシロの騎士団の中でも女だてらに強い方の者だ。師団長の次の次くらいに強くて、呪いの一件では――」
「そうじゃなくてよ~、可愛いのか可愛くないのかってことだよ!」
……あ、そっちか。こういう話題は女の方が好きそうなものなのだが、グレンも気にするのかと更に頭を抱える。
まあ、こいつとはこの旅が終わったらまた別れるわけだし、正直に言ったところで何もないだろう、と俺は思っていることを正直に話した。
「まあ、見てくれは美人だな。最近は妓楼に預けているってこともあり、化粧をして、綺麗な着物を纏い、女らしいところしか見ていないが、どちらかと言えば、普段の武人然としている方が俺は好みだな……」
正直に言うと、ツバキに関してはそういう風に思っている。座敷で男の相手をするために着飾っているよりも、俺と共に旅をしながら戦っていた時のツバキの方が、やはり好みだ。何と言うか、一番あいつらしいと思うしな。
無論、高天ヶ原で見るツバキも美しいと思っている。他の妓女はもちろん、四天女にだって引けを取らない。だからこそ、他の客の前には出るなと忠告しておいた。絶対客がつくという絶対的な予感と、危機感を感じる。
グレンにそう言うと、グレンは身を乗り出し、口を開いた。
「じゃあよ~、その女騎士、ムソウは好きか?」
「ぶっ!」
グレンの質問に思わず酒を吹きだした。今までそういう質問はあったが、正面から「好きか」と聞かれたことがなく、少々驚いてしまった。
そんな様子を見て、グレンはにやける。
「あ、その反応! 好きなんだなあ~?」
「い、いや、そういうわけじゃないんだが……」
「慌てる辺り怪しいなあ~」
「慌ててねえって! 酒が変なとこに入っただけだ!」
「おうおう、必死に取り繕っちゃって……好きなら好きと正直に言っちまえよ~」
……この野郎、だんだん腹立ってくるな。グレンはにやけ顔を辞めることなく俺に尋問するように話しかけてくるが、俺は全てを否定していく。
「別にツバキはそんなんじゃねえって! 普通に……そうだ、仲間だ! 信頼できる仲間の一人だ!」
「じゃあ、本当に恋愛の対象とは思わねえんだな?」
「思わねえってか、思えねえよ! 歳の差考えろ! 俺とツバキとじゃ親と子ほどの差があるんだぞ!」
「そういうものかね~。恋愛に歳の差なんて関係ねえと思うがな~」
「それはお前の考えだろッ? 俺の考えは違うんだよ!」
「そう言われても……あ! そうだ!」
グレンはそう言って、手をポンと叩く。俺は何か嫌な予感しかしなかった。
……というか、こいつ、いい加減にしろよ。早いとこ話題を変えてこの話を終わりたいものだと頭を抱えていると、グレンは俺の顔を見て、ニヤッと笑った。
「俺がそのツバキちゃんを嫁に貰おっかな!」
「……は?」
グレンは目を輝かせてそう言った。
―……え、急に何言ってんだ、こいつ……―
「だってよ、ムソウからしたら、信頼できる娘みたいなものだろう?じゃあ、俺が貰ったって良いよな! 器量も良さそうだし、美人みたいだしな!」
「……は?」
「それに強いってことは、一緒に行商でもしながら旅も出来るってことだよなあ~。
……うん、そういう生活も悪くないかも。子供もたくさんできて賑やかに旅が出来たらいいよな~」
「……は?」
「ん? さっきからどうしたんだよ! お前が娘のように大事に思ってる女性を嫁に欲しいって男が現れたんだぜ!そこはもう少し嬉しそうな――」
その瞬間、俺の中で何かが弾けた感覚があった……。
「あ゛ッッッ!?」
―死神の鬼迫―
「ゔッ……」
……パタッ
俺の強めの殺意を受けたグレンは、満面の笑みから一転、ひどく怯えた顔になり、そのまま気絶した。
俺はやってしまったと思いながらも、こいつに酒を呑ませると、普段口数が多い奴だとこういうことになるのかと頭を抱えた。
しかし、最後の方は本当に面倒だったな。ツバキを嫁にって言ったときは冗談かと思ったが、その後のことまで夢見てぺらぺらと喋る辺り、こいつもまだまだ子供だなとグレンを抱え、馬車の荷台に寝かせた。明日になったら謝っておこう……。
俺は一人、焚火の前に戻り、酒を呑みなおした。
「……ふう」
一息つき、空を眺めている。確かにべらべらと喋るグレンが鬱陶しかったのもあるが、何であんなに怒ったんだろうと疑問に思った。
ツバキとグレンが結婚……。悪い話ではない。グレンは良い奴だ。初めて会った時から、今回の旅の道中でもそれはひしひしと感じている。
そして、ツバキも良い女だ。二人が夫婦になるというのなら、俺は拍手の一つでも送ろうかという気分にはなる。
……だが、何かもやもやとはする。ひょっとして、これが娘を送り出す父親の気分というものなのかとも思ったが、それとも違う嫌な気持ちが胸の中で渦巻いている。
少なくとも2人が夫婦になるのを完全には喜んでいないということに気付いた。
……そして、この感覚は以前も感じたことがあるような感覚だった。
いつだったっけか……。
「どうしたものかな……?」
しばらく考え続けたが、思いつくものは何もなく、俺は残っていた酒を一気に飲み干した。
―……辞めよう、変なこと考えるのは。今は目の前の仕事に集中しよう―
そう思い、その後、食器を片付け、焚火を消して俺は天幕の中に入り、布団をかぶった。
だが、未だ、胸のもやもやは収まらない。寝付けないなと思いながらも目を閉じていた。
……すると……何故だか頭の中に、サヤとカンナの顔が浮かび上がる。二人は何か不思議なものを見るような目で俺の顔を覗き込んでいた。
―そんな目で見んな……俺自身が一番謎なんだからな……―
なおも覗き込んでくる二人の顔を見ながらそう思っていると、急に疲れが出てきて、二人の顔が遠ざかっていくのを感じながら、俺の意識もゆっくり、静かに、落ちていった。




