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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
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第156話―グレンと再会してクレナを発つ―

「アヤメ様~!」


 俺達がお互いの刀を見ながら笑っていると、階段の方からミオンが走ってきた。よほど急いでいるのか、階段を駆け下りてきたようだ。

 そして、俺達の前まで来たところで、ミオンがつまずく。


「わっ!」

「おっと……大丈夫か?」


 転びそうになるミオンをアヤメが優しく、抱き留めた。


「は、はい! えっと……申し訳ありません……」

「気にすんなって。で、何の用だ?」


 頭を下げるミオンにニカっと笑って、アヤメはミオンの頭を撫でる。ミオンは嬉しそうに笑った。まるで親子みたいだな。


「はい。グレンさんという商人の方がお見えになっています」


 おっと、グレンの奴が来たようだな。アヤメと俺達は分かったと頷き、闘技場を後にした。


 階段を上がり、ギルドの受付へと行くと、見覚えのあるやつが俺達に手を振ってくる。


「よ~う! ムソウ! 久しぶりだな~!」

「グレン! また会えて嬉しいぜ!」


 俺はグレンに近づき、再会を喜びながら握手した。グレンは色々と話したいことはあるが、それはまた後でと言って、アヤメとコモンに挨拶をする。

 やはり、コモンに挨拶するときはびくびくしているようだった。俺は、やはり話したいことがたくさんあるのか、今回の旅は楽しそうだなと笑っていた。


 その後、輸送する荷物を取りに行くという話になり、俺達は天宝館へと向かった。俺がアヤメやコモンと話していると、グレンは何故だか、感慨深げに俺を見てくる。


「何だよ?」

「……いや、あの時は何も分からずマシロ領をさまよっていた奴が、領主様や十二星天様と対等に話しているんだなと思うと、何か、感慨深いなと思ってな……」


 どこで聞いたのか分からないが、グレンはすでに俺とアヤメやコモン達との関係を知っている模様。流石、商人の情報網は侮れないな。

 しかし、コイツは俺の親かよ、と思いグレンを小突く。まあ、確かにグレンに色々と教えて貰ってからこの世界での俺の生活が始まったんだしな。俺にとって、最初に出会った人間からすれば、そういった気持ちにはなるか……。


「ムソウにもそんな時があったんだな……」

「僕の時は転生だったので、小さい頃からこの世界のことは当たり前だったんですけどね……」


 などと、アヤメとコモンも、子の成長を見守る親戚のような目で見てくる。二人に辞めてくれと言うと、俺以外の奴らは全員笑った。


 さて、天宝館に着くと、既にコモンが輸送用の大きな馬車を用意していた。中身をコモンとグレン、それからアヤメが調べている。何か不備があってはいけないからな。数、状態を細かく調べながら、コモンは何か書いている。

 そして、作業が終わり、異界の袋に素材を入れると、袋と書類をグレンに渡した。


「はい、こちらが、チャブラに送る荷の詳細です。素材の方は袋のままギルドの方にお渡しください」

「どうもっす。ギルド支部長に直接でいいんですかね?」

「ええ、そう聞いております。それから買い取り金額はそちらに記載してありますので、しっかりと受け取ってくださいね」

「え~っと……金貨が……おっと、結構いくんすね。流石災害級の素材っすね」

「まあ、それを倒したのが、あそこのムソウさんですがね……」


 などと会話しながら二人は俺を見てくる。流石にグレンは目を見開いて、俺の方を見ていた。


「何だよ、ワイバーンくらいは軽く倒せることぐらい知ってんだろ」

「いや、あれも実際見たわけじゃねえし……そもそもワイバーンは超級だし……。

 噂では聞いていたが、災害級まで倒せるなんてな。俺が知っているのはスライムを瞬殺くらいだからな……」


 ああ、こいつと初めて会ったときはこいつがスライムに襲われていたのを助けた時だったな。噴滅龍に比べれば、スライムなど可愛いものだ。……いや、可愛くないけどな。

 取りあえず、グレンとコモンの方は用事が済んだらしい。すると、アヤメが俺の肩を叩く。振り返ると、コモン同様に、アヤメも何かの書類を俺に渡してきた。


「ほい、これが今回の依頼票だ。無事にチャブラのギルドにグレンを送り届け、向こうのギルドにそれを出したら、依頼達成の証書が貰える。それをこっちに持って帰ったら、報酬が受け取れるからな」

「ああ、わかった」

「チャブラの支部長は俺と違って温厚な奴だからな。そこは安心して良いぞ」


 アヤメはニカっと笑う。自分で自分をダシに、そういったことを言うものじゃない。アヤメだって、噂はともかく、実際会ったらいい奴だったのにな。

 何となくもったいないと思った。


 それで、グレンはここに帰らなくて良いのかと聞くと、チャブラに着いたら、グレンはそこで商売をするらしい。だから、チャブラまでで護衛は良いとのことだった。

 じゃあ、チャブラに着いたら、帰りは俺だけ飛べばいいだけの話だな、とアヤメと確認すると、グレンは、飛んで? と、不思議そうにこちらを見てくる。後で話してやるからとグレンに言うと、絶対だぞ! とニカっと笑った。


 さて、俺達の準備が整った後、俺はグレンの馬車に乗り込む。馬を引くグレンの横で、地図を見たり、何かあれば即座に対応するように、とのことだった。

 そして、コモンとアヤメに手を振る。


「じゃあ、行ってくる。コモン、ジゲンと共に屋敷のことは任せた。お前も早く自分の部屋を何とかしとけよ」

「はい。ムソウさんが戻られるまでには完成させておきます。どうか、お気を付けて」

「ああ。で、アヤメ。ツバキとリンネのこと、引き続き頼む。それから闘鬼神の奴らもな」

「ん? ああ、任せろ……ところで、屋敷でコモンがどうのって――」

「よし、もう良いな。グレン、じゃあ、行こうか!」

「了解だ……ところでムソウ、コモン様に屋敷を任せたって?」


 俺達は天宝館を出発する。グレンはコモンが俺の屋敷で何をするのか興味深げに聞いてくる。同様のことを後ろで、アヤメがコモンに聞いているのが聞こえた。

 コモンは困りながら、現在俺の屋敷に住んでいるということを話している。俺も同じことをグレンに言うと、アヤメとグレンの驚く声が辺りに響いた。

 それでもなお、馬を止まらせることは無く、俺の名を呼ぶアヤメに手を振って、天宝館を出て、街を下りて行った。


 その後、上街を抜けて花街へと入る。馬車を進ませると、道を行く人間がこちらを何事かと振り返る。俺もグレンも面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだと、外套を深く被るが、無間の所為で、俺はここでも顔が広くなっている。

 何やらヒソヒソと話しているのが見えた。グレンの方は花街に寄れずに残念という顔をしている。クレナに帰るということならば、そういうことも出来たのだろうがな。

 仕方ないなと思いながら街を見ていると、若い男女の声が聞こえる。


「また会いに行くから、待ってろよ!」

「ええ! 必ず来てくださいね!」


 声のする方を見ると、冒険者風の男が、格子の向こうの妓女とそんなやり取りをしている。また、こんな時間からお熱いことで、と思っていると、二人は格子越しに接吻を始める。

 呆気にとられる俺とグレン。おいおい、良いのかよ、客と妓女があんな店先で、と思い、周囲を見ると、そこらの店で同じようなことをしている男女が目に入る。男衆とか怒らねえのかなと思っていたが、店番をしている男たちまでもが、恋人なのだろうか、道行く女と唇を交わしていた。


「……色々とすげえな、この街は……」

「……ああ。俺も初めて見た」


 頭を抱えながらグレンのボヤキにそう答える。この時間帯に来ることはめったに無いからな。いつもはこうなのかと呆れ果てながら、花街を進んでいった。


 ふと、高天ヶ原の前を通る。グレンが、デけえ妓楼だなと見上げているが、俺は入り口の所でせっせと掃除をしている禿に気付く。


「……悪い、グレン。止めてくれ」


 グレンは、不思議そうな顔をして馬を止める。俺は、馬車から下りて、その禿に近づいた。


「……よお」

「……!」


 禿はリンネだ。リンネは、俺が声をかけると、パッと顔を上げて、こちらに駆けだし、俺に飛びついてきた。俺はリンネを抱き上げて頭を撫でる。


「毎日、ご苦労さま」

「……!」

「昨日言っていたように、今日からしばらく会えなくなる」

「……」


 俺が後ろに居る、馬車に乗ったグレンを指さす。すると、リンネは納得したように頷いた。

 そして、グレンに手を振る。呆気にとられながらもグレンは手を振り返した。すると、リンネはニコリと笑う。


「お……また、可愛いらしい子だな。知り合いか?」

「ああ。仲間のリンネだ。こう見えて、強いんだぜ?」

「へえ~! そいつは想像できねえなあ。だが、あんたの仲間ってんなら、そうなんだろうな……」


 グレンは馬車から下りて、リンネをじっくりと見る。ニコニコと見つめてくるリンネの前でグレンは段々と、驚いた表情になっていく。


「おっと……こいつはすげえ奴を仲間にしたものだな……」

「鑑定眼か?」

「ああ。ちょっくら視させてもらった。だがまあ、ムソウに懐いている……というか、アンタのことが大好きみたいだから、その辺は安心だな」


 グレンは少女姿のリンネの正体を妖狐と見抜き、感心しながら、リンネの頭を撫でた。リンネは更にニコリと笑い、両手を上げて喜んでいた。


「悪いな。しばらくムソウを借りるからな」

「……!」


 グレンの言葉に、リンネはわずかながら心配そうな顔を、グレンに向ける。旅の無事を祈っているようだが、俺じゃなくて、グレンのことを心配するのは優しいなとは思うが、何となく腑に落ちなかった。

 そんなリンネに、グレンはニカっと笑った。


「ん? なあに、ムソウなら大丈夫だから心配すんなって。ひょっとしたら、お土産を持ってきてくれるかもしれないぞ」

「……!」


 グレンの言葉に、リンネは何度も頷き、キラキラとした目で、俺を見てくる。知らぬ間に俺がこいつに土産を買ってくるという流れになっているようだ。俺の心配よりも、俺のお土産を期待し始めるリンネ。

 ……仕方ない。チャブラの美味いものでも買って帰るとしよう。


 その後、俺はリンネを地面に下した。


「じゃあ、リンネ。ツバキのこと、頼んだぞ」

「……!」


 俺の頼みにリンネは頷き、ギュッと抱きしめてくれた。そして、俺達は馬車に乗り込み、高天ヶ原を後にする。リンネは昨日と同じく、俺が見えなくなるまで、手を振り続けた。


「いい子じゃないか。とても妖狐とは思えないな」

「ああ。誇れる仲間だよ」

「そうか」


 グレンは穏やかな目をして、頷く。そして、無言になり何かを考えだした。


「どうかしたか?」


 たまらず聞いてみると、


「いやな……一人だったお前が、あんなにも信頼を置いている仲間に巡り合えたんだなと思うと、やはり俺としても嬉しくてな。またもや感慨にふけってしまった」


 またしても、こいつは親みたいなことを言ってくる。聞けば、マシロで俺と別れた後も俺のことは心配だったらしい。

 だが、俺が強いということはわかっていたので、何とかなるだろうという期待もあったという。


「で、その後、噂で、アンタがワイアームの群れを殲滅したとか、十二星天と共にデーモンを倒しただとか、色々と聞いてな。

 心配していた俺が馬鹿だったと気づかされたよ」


 グレンはそう言って、苦笑いする。その後しばらくこの辺で活動していたらしいのだが、俺が噴滅龍を倒したと知り、その素材をチャブラの領主が欲していると知るや、ここに来て、護衛依頼をアヤメに頼み込んだという。どんな具合に俺がこの世界で過ごしているか、どうしても一目見たかったらしい。


 この依頼の経緯を聞き、なるほどと頷く俺。そして、グレンに聞いてみた。


「で? お前から見た俺はどんな感じになっていた?」


 そう尋ねると、グレンはニカっと笑い、口を開く。


「真っ先に安心した。それと同時に、驚いたぞ。ワイバーンなど比べ物にならないほどの装備を纏っているし、領主と十二星天と仲良く談笑しながら俺の前に現れたときは、俺はとんでもない男を冒険者に勧めてしまったと思ったぐらいだ。

 ……だがまあ、中身は変わってないようだがな」


 グレンはそう言って、拳を俺の胸に当てる。俺も安心した。こいつもあの時とほとんど変わらない、よく喋る奴だと。

 そして、そういった生活が出来るようになったのも、リンネやツバキのような素晴らしい仲間が出来たのも、あの時、色々教えてくれたグレンのおかげだと感謝した。


「ありがとよ、グレン」


 俺が頭を下げると、グレンは照れるわけでもなく、苦笑いするわけでもなく、おう、と頷いた。本当に食えない奴だな、と苦笑いしていた。


 その後、花街を抜けると、門をくぐる。門番は相変わらずの態度だった。荷物を必要以上に調べたり、グレンの体をまさぐったりしていた。

 なので、俺が御者台から死神の鬼迫をぶつけ、奴らを震えさせる。すると、急におびえたようになり、グレンの体を調べるのを中断した。その後、もう行っても良いと言われたので、俺達は下街へと向かう。


「急にどうしたんだろうな」

「知るか」


 グレンが不思議そうに俺に聞いてきたが、笑ってそう答えると、グレンは後ろを振り向きながら、


「来たときも思ったが……あいつら嫌いだ」


 と、呟く。俺はグレンに頷き、この街のことを説明してやった。グレンは頷きながら、噂以上にひでえ所だと頭を抱えている。しかし、


「けど、領主のアヤメ様は噂とは異なる人間だったな」


 と、俺に言ってきた。グレンもアヤメの人柄の良さに気付いたようで、何よりだ。実際に会って話すのは初めてだったが、話してみて、粗暴そうだが、人々を導く大きな器のようなものを感じたとグレンは語る。

 人を見る目はあるんだな、と言うと、それは自分をほめているようにしか聞こえないと、グレンに言われて、俺達は、先ほどの闘宴会から受けた嫌な気分を忘れて、再び笑っていた。


 さて、そのまま下街を抜けて、トウショウの里を出る。屋敷には、朝に言いたいことを伝えられたので寄らなかった。

 さらには寄ったらまた、出発しづらくなりそうだと思ったしな。いつもの門番にはしばらく留守にすると伝えておく。一応、シロウにも連絡が行くようにと頼むと、門番は快く頷いてくれた。


 その後、街道に出て地図を広げる。チャブラ領は、破山大猿の居た魔獣の大山の方向にあるみたいだった。あの山間を越えた先に領境があるようだ。

 魔獣の大山は浄化したことだし、それまでは、強力な魔物に遭遇することも無いなと安心する。


「そういや、チャブラってどんな所なんだ?」


 馬を引きながら、グレンは答える。


「ああ、チャブラは山間に囲まれて、草原が多い領だ。牧歌的と言えば良いかな」

「牧歌的?」

「早い話が、畜産ものが盛んな場所だ。主な特産物は乳製品だったり、羊毛だったりな。

 だがまあ、時折、家畜目当ての魔物が出るから、それの討伐依頼も多く、冒険者や俺達、商人も多いような場所だ」


 グレンによると、チャブラはマシロやグリドリと同じく、人が住む町などが少ない代わりに、山や草原などが領地の大部分を占める。

 そのため、牛や羊などを放牧して生活している者が多くいるそうだ。てことは、チャブラも飯が美味そうだな。楽しみの一つにしておこう。


 その後、俺達は街道をのんびりと進んだ。輸送する素材は異界の袋に入れてあるので、馬車の荷台はグレンの荷物で埋まっている。何を積んでんだ、と聞くと、商売するときの道具らしい。

 棚や、敷物など様々だ。商人は冒険者と違い、異界の袋は持っていないという。巨大な魔物や、大群を殲滅した時など、冒険者は荷物が増えるため、異界の袋が必要になるが、商人は売りたいものを売れるだけ用意すれば良いので、異界の袋は必要ないとのことだった。


「じゃあ、このデカい馬車は何なんだよ」

「そりゃ、寝たりするためだよ。天幕も良いが、幌付きの馬車だったら、そのまま荷台で寝ることが出来るし、意外と天幕ってかさばるだろ?

 だから、馬車自体を大きくしとけばいいじゃねえか」


 グレンはそう言って、荷台を指さす。この馬車は天宝館や、アヤメの持ち物ではなく、グレンの私物らしい。俺の馬車よりも一回りデカいこの馬車でグレンは普段は、この中で飯を食ったり、寝たりしているそうだ。

 今回は俺も居るから、ということで、大きめのものを用意してくれたみたいだ。ありがたいことだが、俺は自分が持ってきた天幕で、外で寝ると伝えておいた。

 魔物や山賊の襲撃に即座に対応するためだと言うと、グレンはそうか、と納得してくれた。

 それから、風呂も持ってきていることを伝えると、グレンは喜ぶ。なんでも、クレナとチャブラの間にある、山岳地帯にはほとんど何もないらしい。

 つまり、街がないので、宿もないとのことだった。しばらくは何もない山道を進むことになるので、風呂があれば嬉しいとグレンは語る。これも持ってきておいて、良かった。


「しかし、飯はどうするんだ? そこまで多くは持ってきてないぞ?」


 一つ気になることを確認する。俺は、食料は自分のものしか持ってきていない。干し肉や、簡単な調味料と米くらいだ。山越えともなると、もっと多く必要になるが、流石に二人分には少ないと思った。食料が少し心配だと言うと、グレンはニカっと笑う。


「それはだな……っと、ちょうどいいところに!」


 グレンはそう言って、前方を指さす。見ると、空を大きな怪鳥が飛んでいた。鑑定眼で見ると、極楽鳥という魔物らしい。グレンは俺の肩をポンと叩く。


「ほら、ムソウ! 仕事だ! 魔物が馬車を狙っている。護ってくれ! ついでに食料確保だ!」

「……ああ、なるほど」


 グレンの言った意味が分かった。つまり、襲ってくる魔物を俺が倒し、それを解体し食料にすることで、食いつないでいくということらしいな。

 まあ、俺もマシロからの旅で、リンネが狩ってきた魔物を調理しながら旅を続けていたので、問題ないか。


 ……さて、極楽鳥は空を飛んでいるな。よし、ここは先ほどの約束も兼ねて、これでいこう。


 ―おにごろし発動―


 俺は馬車を飛び出すと共に、神人化する。驚き、口笛を吹くグレンを尻目にその場から飛び立ち、極楽鳥に近寄った。


「キュイイイィィィ~~~!!!」


 極楽鳥は大きく鳴き、くちばしで突いてきたり、足の爪で引っ掻こうとしてくる。俺はそれらをよけ続け、拳を握った。


「無間を抜くまでもねえなッッッ!」


 極楽鳥の頭を思いっきり殴る。すると、ギャッ! と短く悲鳴を上げたかと思うと、極楽鳥は地面へと落ちていった。

 そして、俺も地面へと下り、首の辺りを無間で切り裂き、血を抜いて、異界の袋へと収納する。


「ふう……こんなもんで良いか?」


 馬車の上に居るグレンに確認すると、グレンは頷いて寄ってきた。


「なるほど。トウショウの里で聞いた、お前が飛ぶってのはこのことだったのか……」

「ああ。あんまり広めたくはないんだが、実はな……」


 と、俺は自らのEXスキルについてグレンに教えた。初めは半信半疑だったが、鑑定スキルを使えと言うと、目を見開き、驚いている。


「うわ……本当にあるなあ。言葉が通じてたから言語系のスキルはあると思ってたが、まさか固有スキルまで持っているとはな。それも複数も……」

「あ、スキルが分かるってことは、お前、鑑定スキル上達したんだな」

「まあな。商人としてはやはり必須なスキルだからな」


 以前グレンと出会ったときは、スキルまでは視えていなかった。鑑定スキルは商品の状態や、素材の優劣を決める際に必要なもの。偶に粗悪品を仕入れそうになったりするので、これだけは鍛えておこうと、グレンは幾度も使っているという。


 まあ、そんな話はさておき、今回の神人化については、俺のEXスキルの中のおにごろしだと説明すると、グレンは分かったと頷く。

 そして、他のスキルについても説明を求めてきたので、使えるものは全て伝えておいた。俺の戦力のことを一つでも多く知っておいた方が何かと便利だからな。

 説明を終えるとグレンは頷く。


「了解だ。まあ、素手で極楽鳥を倒したり、災害級に単騎で挑めるということは分かっている。今回の旅は安全に行きそうだということはわかったが、にしてもアンタって……」

「ん? 何だよ」

「……“規格外”だな」


 ……うん、そう言われるのは慣れている。


 さて、極楽鳥を倒した後も旅は続いている。一応、今回目指す場所は、魔獣の大山近くの町ということで、宿には泊まれる。さっき倒した魔物は何時食うんだろうかと思いながら、俺達の旅は進んでいく。


 ◇◇◇


 街道を進み、ちょうど夕方ごろになると、目的の町が見えてきた。街に入る際に、門番に馬車を預け、いくらか金を払う。

 そして、素材の入った異界の袋だけ持って、グレンと共に宿を目指した。荷台の荷物くらいは俺の異界の袋に入れるかと提案すると、少し悩んだ挙句、グレンはそうしてくれと頼んだ。


「すまねえな。やはり自警団に馬車を預けるとなると、心配だ」

「気にすんなって、気持ちはわかる」


 クレナの各自警団はピンキリだ。ジロウ一家や、温泉街の自警団のように気のいい奴らも居れば、闘宴会のような連中も居る。グレンが心配するのも分かる気がする。

 まあ、多少多めに金を払っておいたから、ここに関しては大丈夫だと思いたいが。馬車に何かあれば、全力でぶっ飛ばしておこう……。


 グレンは金を払った礼にと、街にある露店で、肉の串焼きを俺に買ってくれた。ここでも、流石商人と言うべきか、値切るのが上手く、半額にまけて貰ったりしていた。


「ほらよ」

「すまねえな。にしても、相変わらずよく回る舌だな」

「へっ、商人なんだからこれくらいは出来るさ。向こうも商人なんだから、客が値切ってきても負けなかったら良いだけの話なのにな」


 と、グレンは串焼き屋の店員を指さして、笑っている。こういう交渉術、俺も欲しいな。俺はいちいち死神の鬼迫を使わねえといけないからな。

 まあ、まけてもらう必要がないくらいの金を持っているから別に良いんだが。


 その後、宿に着き、部屋へと案内されて、俺達は一息つく。部屋に着いてもお互いの近況などは尽きることなく続いている。色々と話していくと、グレンはふと思い出したように俺に尋ねてくる。


「そういや、アンタが神人になったら、天界の波動ってやつで、色々と浄化できるんだよな?」

「ああ、そうだが、それがどうかしたか?」

「いや、グリドリに居る商人仲間から聞いたんだが、植物獣が絶えなかったピクシーの楽園を浄化して元に戻した冒険者が居て、王都レインやグリドリ領は、その冒険者のことを知りたがっていたが、その商人仲間に聞いたら、そいつはデカい魔獣と、女騎士を従え、大太刀を背負った者だと聞いたんだが、ひょっとして……」


 ……あ、そういえば、グリドリの森を抜けた後に商人に会ったな。あいつらから、実は今まで来ていた道順が遠回りだったということと、あの森をどうにかする方法として、浄化すれば良いということを聞いて、俺はあの森を浄化したんだよな。


「それは……俺だな」

「やっぱり……何で、名乗り出ねえんだ? 莫大な褒章が貰えるんじゃないか?」

「あまり、派手な動きを見せたくないんだよ。俺は平穏に暮らしたいからな。それに、報酬なら貰った」


 そう言って、俺は胸で輝いている、ピクシーから貰った首飾りをグレンに見せる。何か分かっていないようなので、再び鑑定スキルを使えと言うと、グレンは目を見開き、なるほど、と頷く。


「確かにそれを貰ったら、王都の褒美なんぞ、どうでもいいな。にしてもお前が平穏に暮らしていくってガラじゃねえだろ」

「いや、もう歳だからな。余生はゆったりと過ごしたい……」

「爺さんかよ!」


 俺とグレンは話しながら笑っていた。


 その後、風呂に入って飯を食った。グレンも俺も美味いと言って、喜んでいたが、確かにたまの作ったものと比べると、そこまで美味しいものかと疑問に思う。最近はずっと、あの子の作ったものばかり食っていたから、舌が肥えてきたようだ。

 ……あ、俺の飯はアザミだったか……。まあ、こうやって考えると、あいつの作る飯も美味いということで良しとしよう。

 すると、そこで思い出したのが、屋敷を出る際に貰った弁当だ。宿の飯を食い終えた後、少し物足りなかったので、弁当を開き、食ってみた。……うん。簡単な焼き魚と握り飯だったが、この宿のものよりは美味かった。本当に大した女達だなあと、しみじみ思う。

 もの欲しそうにしていたグレンにも少し分けてやると、大いに喜び、商品化して売った方が良いんじゃねえかと言われた。確かに、そういう稼ぎ方も面白いかも知れないが、しばらくは、俺達でこの味を独占したいと笑って応えると、グレンは、勿体ないと言いながら、笑って頷いた。


 そして、飯を食った後はお互い寝た。今日は特に何事もなく旅を続けられて良かった。

 だが、明日からしばらく山越えだ。気を引き締めて行こう……。



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