第155話―クレナの“暴れ姫武将”を斬る―
翌朝、目が覚めると顔を洗い、旅の支度を整える。いつもの装備と、食料、それから、一応と思い、風呂も持っていくことにした。
街に泊まれるとは限らないからな。ツバキから預かっている火炎鉱石も確認した後はいつもの食卓へと向かう。すでにジゲンとコモンは起きていて、たまや女中たちと飯を食っていた。
「おう、皆。おはよう」
「おはよ~!」
「おはようございます、頭領」
アザミに促され、席に着き、飯を食った。ふと見ると、コモンとジゲンが欠伸をしている。
「どうした? 二人とも。眠れなかったのか?」
そう聞くと、二人は頷く。ふむ……俺はそうでもないし、女中たちからも何も聞いていないが、冬も近いことだし、夜も寒くなっているからな。
気になる者はあまり眠れないのかもしれない。そろそろ、暖を取れるものを用意しておこうかな。俺の世界だと、火鉢などがあったが、この世界だと何なんだろう。火炎鉱石とか応用して、何とかなりそうなものだがな。
取りあえず、それは帰った後でということにしておこう。
そういえば、今日あたりからダイアン達も帰るかもしれない。晩飯は多めに用意しておけと、たまに伝えると、嬉しそうに笑って、
「私がんばる!」
と言った。皆疲れているだろうし、思いっきり振舞ってやれと伝えておく。
その後、飯を食い終えた後は、コモンと共に庭へ出た。今日は二人でギルドに行き、そのままアヤメの試し斬りに付き合う予定だからな。
コモンの準備が整うまで、俺は無間の様子を確かめている。すると、ジゲンが寄ってくる。
「……ムソウ殿。もう行くのかの?」
「ああ。屋敷のこと、たまのこと、色々と任せるようで悪いな」
「なに、いつものことじゃ。気にするでない」
ジゲンはそう言って、ニコリと笑った。まあ、この爺さんに任せておけば、何も問題は無いだろう。アザミも居るし、俺が帰るまでにはダイアンも帰って来るし、正直、屋敷のことは特に心配していなかった。
その後、支度を終えたコモンがたまと一緒に出てくる。たまは、小さな包みを俺に渡した。
「はいこれ、お弁当!」
「おっ! たまが作ってくれたのか? 嬉しいな~!」
旅に出る俺を気遣ってたまが作ってくれたらしい。今日の昼飯が楽しみだとたまの頭を撫でると、たまは首を横に振った。
「ううん。おじちゃんのはアザミおねえちゃん達! 私のは……はい! コモン様!」
たまはもう一つの弁当を取り出し、コモンに渡した。コモンはニコッと笑い、ありがとうございますと礼を言って、たまの頭を撫でる。
俺はたまの言葉を聞いて、弁当に目を落とし、屋敷の方を見た。玄関の所で、アザミを先頭に女中たちがニヤニヤしている。何故俺はここ最近、たまの飯を食えないのだと頭を抱える。
だが、まあ、美味いのだから文句は無いがな。ありがたく受け取ろう……。
さて、一通り、あいさつも済むと、俺とコモンは並び立つ。そろそろギルドに行く時間となったらしい。
「じゃあ、行ってくるよ、皆」
「うん、行ってらっしゃ~い!」
「気を付けての」
「家のことはお任せくださいね~!」
ジゲンたちが手を振ると、俺も振り返す。そして、コモンに目配せをすると、転送魔法を起動させた。地面が輝きだし、皆の顔が見えなくなると、すぐにギルドの前に俺達は立っていた。
「はい、到着ですよ。ムソウさん」
「おう、じゃあ、行くか……」
俺とコモンはギルドの戸を開けた。辺りを見ると、何人か冒険者が居る。冒険者たちは、ギルド内の酒場で飯を食っているようだ。ふと、そいつらがこちらを見て、驚いた表情をしている。
そして、コソコソと何かを話し始めた。……まあ、何のことかすぐにわかるがな。
「どうしたんでしょうか。皆さん、ムソウさんを見て、何か話しているみたいですね……」
「……いや、お前だって、絶対……」
流石に十二星天がいきなり来たら、そりゃ驚くよな……。コモンは、あ、そうか、という表情をして、笑っている。やれやれと思いつつ、ミオンの所に向かった。
すると、受付の所で、一組の冒険者が、依頼の受注をしている最中だった。五人ほどの若い集団だ。ここで、他の冒険者が依頼の受注をしているのは初めてだったので少々驚きつつ、そいつらを待った。
そして、しばらくすると、受付が終わったのか、冒険者たちがミオンに別れを言って、振り返る。終わったか、と思い、コモンとミオンの所へ行こうとした瞬間、その冒険者たちの先頭に居た、男と女と目が合った。
「あれ!? ムソウのおっさんか!?」
「む……ツルギか!?」
俺達は立ち止まり、お互いに驚いている。その冒険者はシンムの里で共にスライムたちと闘った、ツルギ達だった。俺達はしばらく呆然としていたが、お互いのことを確認しあうと、再会を喜ぶ。
「しばらくぶりじゃねえか、おっさん!」
「お前らもな。よう、レミナ、久しぶり」
「はい。どうもです……」
ツルギの横でレミナはペコっと頭を下げる。よく見ると、あの時とは比べ物にならない力を感じる杖を持ち、ろーぶを身に纏っている。
レミナだけじゃない。他の奴らも、そして、ツルギも以前よりも強力な装備を身に着けているようだった。
話を聞くと、スライム殲滅で得た金で買い揃えたという。ちゃんと装備に使ったんだと思い、安どした。花街で遊んで、すってんてんと言ったら、殴り飛ばしてやろうと思っていたんだがな。
「おっさんに言われた通り、あの金で皆の装備揃えたらよ、あっという間に無くなってな。ちょっと遊んだりするのにも金は要るから、あれから、討伐依頼ばかりやってるよ」
「そうか、それは何よりだ。ちったあ、強くなったか?」
「おう! ……と、言いたいが、おっさんに比べるとまだまだだな。まあ、すぐに並んで戦えるようになるから、心配すんなって!」
ツルギはそう言って、ニカっと笑う。俺は、あの時交わした、もう一度共に戦おうという約束をきちんとツルギが守ってくれていることが嬉しかった。
そして、ツルギによると、同じく、あの時、約束した他の冒険者たちも、分け合った金で、装備を整え、討伐依頼をこなしながら、腕を上げているという。
時々依頼先で再会したり、ギルドで一緒になったときなどは、連名で依頼を受注して、共に研鑽を積み、報酬を分け合っているらしい。冒険者のいい形だなと思い、俺は頷いている。
「ここの冒険者共は頼り甲斐が無えからよ、討伐依頼も多い。それを俺達が倒して、稼ぎまくるってのは良いなって、思ってな。まあ、すぐに強くなってやるよ」
「ハハハッ! 楽しみだな、それは。それで、これから受ける依頼は何なんだ?」
「鉄鉱ゴーレムって奴だ。鉄鉱石で出来たゴーレムだってよ。中級から上級くらいの強さらしいが、まあ、俺達ならいけるだろう」
ツルギはそう言うと、仲間たちの顔を見る。レミナはじめ、ツルギの仲間たちは、コクっと笑って、頷いた。見た感じ、問題ないらしいな。そう思っていると、俺の後ろから声が聞こえる。
「鉄鉱ゴーレムは普通のゴーレムと違い、硬いですからね。刃こぼれに気を付けてください。
もしくは、火属性魔法でいったん熱した後、氷や水魔法で一気に温度を下げることで、脆くなりますから、試してみてください。
魔法が使えない場合は、火炎鉱石や氷冷鉱石を持っていくことをお勧めしますよ」
振り返ると、コモンがそう言って、ツルギ達にニコッと笑った。ツルギ達は、目を見開き、コモンの顔を見ながら、口を大きく開けていた。
しばらくすると、何とかして、俺にツルギが言葉を紡ぎ出す。
「お、おい、おっさん……こ、このひとって……」
少し震えながらコモンを差すツルギ。教えなくて申し訳ない、と心で念じ、ツルギの言葉に頷いた。
パっとコモンを見るツルギ達。誰なのか、確信したようだ。今にも大声を上げそうなツルギ達に、コモンはフッと微笑み、人差し指を口の前に置いた。
「申し訳ありません。騒ぎにならないように、黙っていたのですが、鉄鉱ゴーレムに挑まれるということで、つい、助言をしてしまいました……こちらはお詫びです」
そう言って、コモンは懐から小さな紙きれを出し、ツルギに渡した。唖然としながらそれを受け取り、紙を開くと、ツルギ達は更にぽかんとする。
「それは、我が天宝館への紹介状です。素材と共に受付でそれを渡すと、僕に連絡が行くようになっています。良ければ、どうぞ」
コモンはそう言って、また、ニコリと笑った。状況に追い付いていないような反応のツルギ達だったが、しばらくすると、呼吸を整え、コモンに頭を下げた。
「い、いえ! このようなものを……本当にありがとうございます!」
俺のことはおっさんと呼ぶのに、俺より見た目年下で、むしろツルギ達の同年代くらいに見えるコモンに、ツルギが、丁寧な口調になり、頭を下げるという光景が少し面白く、俺は笑った。
取りあえず、ツルギ達に俺とコモンの関係を教えた。無間を調べてくれているということと、今日はアヤメの試し斬りに付き合ってくれているということ。
そして、俺の家で今は生活しているということを伝えると、ツルギ達は羨ましいなあ~と俺をうらやんだ。
そして、しばらく談笑していたが、そろそろ時間だと言って、ツルギ達は俺達と別れる。
「じゃあな、おっさん。あんたも仕事、頑張れよ!」
「おう、てめえらもな。暇になったら、俺の屋敷にでも来いよ。いつでも歓迎してやる!」
別れ際に、そう言葉を交わして、ツルギ達はギルドを出て行った。奴らの背中を見送った後、コモンはフフッと微笑む。
「ムソウさんと一緒に戦って、それがきっかけで、ああいった冒険者が増えるって、とてもいいことだと思いますよ」
「そうか? そう言われると、俺も嬉しいよ。それより、あんなに簡単に天宝館への、しかも、お前宛の紹介状を渡しても良かったのか?」
「良いんですよ。僕がお世話になっているムソウさんのお友達という方々ですからね。精一杯、仕事して見せますよ」
なんなら、ツルギ以外のスライム殲滅に参加した冒険者全ての装備の面倒を見ますと、付け加えた。俺は更に嬉しくなり、よろしく頼むと、コモンに頷いた。
そして、ツルギ達が力をつけ、依頼にどんどん取り組んでいる様を見て、俺の闘鬼神も負けていられない。良い好敵手が出来たなと、静かに笑っていた。
さて、ツルギ達との再会が終わった後、ミオンの前に立つ。俺達のやり取りを見ていたのか、ここで働いている以上、度々会っているのか知らないが、コモンを見ても平静だった。ミオンは俺の顔を見て、一礼する。
「おはようございます、ムソウさん」
「おう。アヤメは居るか?」
「あ、はい。すでに闘技場の方で、お待ちしておりますよ。コモン様もどうぞ……」
俺とコモンは顔を見合わせ、ミオンに礼を言って、ここ、ギルドの地下にある闘技場に向かった。
ここに来るのも、ショウブとナズナとの闘い以来だなと少し、懐かしい気持ちで階段を下りていく。ふと、コモンの方を見ると、やはりこれくらいがちょうどいいですね……と訳の分からない独り言をつぶやいている。どうした? と聞くと、何でもないです、と言って、階段を下りて行った。変な奴だなあ……まあ、いいや。気にしないでおこう。
さて、下へと降りると、闘技場の真ん中あたりで、アヤメが準備体操をしているのが見えた。いつもと違い、長い髪を後ろで束ね、羽織を脱ぎ、袖なしの衣に、袴を履いている。ツバキみたいな格好だな。得物も刀だし、似たような戦い方なのかな、なんて思っていると、アヤメと目が合った。
「よ~う! ムソウ! それにコモンのガキ! よく来たじゃねえか!」
アヤメは体操を終えて、俺達に手を振る。コモンのことを敬わない態度は俺以外であまり見た事が無かっただけに、若干驚きつつも、アヤメらしいなと思い、俺とコモンはアヤメに手を振り返し、近づいていった。
「どうもです。アヤメさん、花鳥風月の調子はどのような感じですか?」
「おう、万全だ。お前んトコのヴァルナは相変わらずいい仕事をしやがるな!」
そう言って、アヤメは刀を抜き、刃をコモンに見せた。俺も横から見てみる。
昨日、アヤメが襲ってきたときには気づかなかったが、それはとてもきれいな刀身だった。見る角度によって、赤、青、緑、黄に色を変化させながら淡く光っている。
そして、伝わってくる力も、そこらの刀とは比べ物にならないくらい大きい。以前強化されたが、噴滅龍の素材によって、更に強化されたと聞く。
どうやら、それは本当らしく、前見た時よりも、圧倒的に大きな力を感じた。噴滅龍の素材って凄いんだな。もしくは、ヴァルナの腕が良いのか、その両方か……。
そんなことを思っていると、コモンは刃を見ながら頷いている。
「……はい。見たところどこにも問題は無いようです。しかし、見ただけではわからないこともありますからね」
「全く、その通りだ。武具ってもんは使ってなんぼ。……というわけで……」
アヤメは俺の方を向き、刃先を俺の顔に向ける。そして、ニカっと笑った。
「早速勝負と行こうか! ムソウ!」
……やはり、こういうところはあの女そっくりだ。俺の気など知らず、自分の面白いことに俺が絡むとなれば、即実行しようとする。まして、戦いとなれば、目の色を変え、向かってくるのが、例え鬼でも“死神”でも斬ってしまいそうな、気迫を感じさせる。
懐かしい感じに、俺は笑い、後方へ跳躍して、アヤメと距離を取り、無間を抜いた。
「望むところだ! アヤメ! かかってこいッッッ!!!」
そう言うと、横に居たコモンはフッと笑い、闘技場の隅の方に行く。そして、手を上げた。
「それではこれより、“暴れ姫武将”アヤメ、“死神”ムソウの、一騎打ちを行います。両者……はじめ!!!」
生きな紹介と共に、コモンが合図と同時に手を下す。俺達は同時に地面を蹴り、互いに突っ込んでいった。
まず仕掛けたのは俺だ。アヤメに向かっていき、跳び出すと同時に、上段から斬りかかった。
「フンッ!」
「ッ!」
アヤメはそれを何とか受け止める。それと同時に、腹に蹴りを入れてやると、アヤメは後方に吹っ飛んでいく。すぐさま、追撃の斬波を放った。アヤメは態勢を立て直し、それを躱す。
「最初から容赦ねえな!」
「最近になって思い出したんだよ。やれるときにやらねえとな!」
俺は手に気を集め、剛掌波を撃つ。アヤメはそれを刀でいなすと、俺の方に向かってきた。
前々から、俺は敵の初撃をまずは受けてみて、相手の力量を計るという戦い方をしていた。
だが、噴滅龍の噴火攻撃など、予想以上に強い場合も多く、こちらの態勢が崩されることもある。なので、昔のように最初から攻めていくようにした。そっちの方が次につなげやすいし、俺の戦い方に合っていると思っている。
さて、剛掌波を対処したアヤメが、こちらに向かってくる。そして、近づくと同時に刀で連撃を繰り出してきた。
「ハアアアッッッ!!!」
ふむ、素早い。だが、避けられないほどではない。繰り出される連撃を、躱し、腹に拳を当てる。
「ガハッ!」
そのままアヤメに襟を掴み、思いっきりぶん投げた。吹っ飛んでいくアヤメに剛掌波を放つ。近づいていく俺の技に向けて、アヤメは刀を振った。
「煉獄斬波ッッッ!!!」
アヤメの刀が赤く燃え上がり、刀から燃える斬波が放たれる。ロウガンの刀から放たれる斬波と同じく、すごい熱気が伝わってくる。そして、俺の技とぶつかり相殺された。
へえ、あの刀もロウガンのと同じく、炎の属性でもあるのかな。近づくと燃やされそうだと思い、その場で刀を振り上げ、思いっきり振り下ろした。
「大斬波ッッッ!!!」
特大の斬波が放たれ、地面を削りながらアヤメに向かっていく。アヤメは避けられないと悟ったのか、刀を地面に差した。すると、刀に向かって地面から何か光のようなものが、上っていくのが見える。
アヤメは俺の放った斬波が、ぶつかる寸前、ニヤッと笑い、そのまま刀を振り上げる。
「地殻斬波ッッッ!!!」
アヤメの刀から、俺の大斬波よりも大きな、黄色の斬波が放たれ、ぶつかる。ギリギリと音を立てて、俺達の攻撃はせめぎあったが、しばらくすると、お互いの斬波がさく裂。降りかかる瓦礫から身を守っていると、その中から、アヤメが俺に一気に近づいてくる。
「ッ!!!」
アヤメはまたも、俺に斬りかかってきた。だが、今度は先ほどと違い、早い。
そして、花鳥風月の刃の周りを、風が渦巻いている。見ると、その風のおかげで、アヤメに土煙の影響がないようだった。ああ、だから一瞬の間に、ここまで突っ込んでこれたのかと思いつつ、アヤメの攻撃を受け止める。
「フッ」
「ん? ……っと!!!」
俺が攻撃を受けると、アヤメはニヤッと笑う。何だろうと疑問に思ったが、すぐに分かった。アヤメが力を籠めると、刀の周りを渦巻いていた風が強くなり、渦を巻いて俺の体を宙に浮かす。そのまま吹き飛んでいく俺にアヤメは刀を振る。
「風刃斬波ッッッ!!!」
普通の斬波よりも鋭く大きな斬波が俺の方に飛んでくる。見ると、その斬波も風が渦を巻いていた。
そして、その風は鎌鼬のように付近のがれきをバラバラに切り裂きながら飛んできている。あれは……やばいな。
吹っ飛びながら俺は、態勢を整え、壁に激突する瞬間、壁に立つように、足から着地、そのまま、反動を利用し、壁を蹴って、アヤメの攻撃に突っ込んでいく。
―すべてをきるもの発動―
斬波の中に見える赤い切れ目を無間で斬る。すると、風は止み、アヤメの斬波は霧散していった。そのまま、アヤメに突っ込んでいくが、アヤメは刀を構える。
「突っ立ってんなら、そのまま斬ってやるッ!」
「ハッ! させるかっ! 大瀑布の陣ッッッ!」
突如、アヤメの刀が青く輝き、ものすごい勢いで、刀から大量の水が飛び出す。まるで、津波だ。俺はそのまま大量の水に押し流されていく。
「うおおおおぉぉぉぉ~~~!!!」
「へえ、ムソウもそんな雄たけび上げるんだな。なら、おまけに、もう一つ食らっとけッッッ! 水簾斬波ッッッ!!!」
アヤメがさらに刀を振るうと、水に流される俺に向かって、今度は水で出来た斬波が襲ってくる。
先ほどから炎以外にも様々な属性の斬波が飛び出てくることに驚きつつも、俺は水中で無間を振り回した。
(連撃大斬波ッッッ!!!)
刀を振る度に、無間から斬波があらゆる方向に飛び出していく。どれかは切れ目か、アヤメの斬波に当たるだろうと思っていたが、成功したらしい。切れ目を斬ると、そこから、水が割れていき、俺の姿があらわになる。
そして、運よく、アヤメの斬波にも当たり、相殺してくれたことを確認した。ずぶ濡れのまま、俺はアヤメに駆けだし、無間で連撃を与えた。
必死に、刀でそれを受け止めていくアヤメだったが、受けきれず、体のあちこちに小さな傷が増えた頃、無間を思いっきり振り上げ、アヤメの腕を上げると同時に、頭に回し蹴りを叩きこむ。
「オラアッッッ!!!」
「グハッッッ!!!」
濡れた地面を思いっきり滑りながら、アヤメは吹っ飛んでいく。アヤメはフラフラと立ち上がった。赤く綺麗だった衣は泥だらけで、アヤメの顔は血と泥でぐちゃぐちゃだった。アヤメは魔法で自らを癒し始める。
「ハハハッ!領主様でもそんな泥だらけになるんだな!」
先ほどのアヤメの言葉を言い返すように、俺は笑ってそう言った。すると傷を癒しながらアヤメが口を開く。
「……これでも……女だ……もっと……丁重に扱えないのか?」
「悪ぃな。俺に向かってくる者は老若男女関係なく、全て敵だ。赤ん坊から、白髪の爺い、動物までも、歯向かう者には容赦はせん」
これは、エンヤの考え方だ。自分を敵とみなした以上、相手には全力で向かい合う。手心をしたとして、それはゆくゆく自分に降りかかる災難の種になるからな。
そういう意味では、俺も“親”の意志を継いだと言えるだろう。アヤメは俺の言葉を聞き、腹を抱えて笑った。
「おっかねえな~。まあ、お前らしくて良いか」
「だろ?」
アヤメの言葉に頷き、無間を構える俺。アヤメも傷を癒し、闘いを再開させる準備を整える。
「では、行くぞ!」
「来いッッッ!」
アヤメは刀を振り上げ、突っ込んでくる。すると、花鳥風月の周りにいくつもの岩が浮かぶ。走りながらアヤメが刀を振ると、その岩が俺に向かって飛んできた。ミサキの使っていた轢弾とかいう魔法のようだ。
俺は廻旋刀でそれらを防いだ。直後、アヤメが俺の懐に入り、横なぎに斬ってくる。俺は無間を地面に差し、飛び上がって、それを躱す。すると、アヤメは左手に魔力を込める。
「獅子牙炎ッッッ!!!」
獅子の頭の形をした炎の塊が、俺に向かって飛んでくる。俺は無間の柄に足をかけ、そのまま跳躍し、それを躱した。着地すると同時に、アヤメが振り向きざまに斬りかかろうとする。俺はアヤメの腕をつかみ、それを止めた。
「やるじゃねえかッ!」
アヤメはそう言って、もう片方の手で再度魔法を撃とうとする。俺は気を纏わせて、アヤメの掌を握った。
「これで、魔法は撃てないだろう?」
「へえ、とっさにこんなことしてくるのはお前くらいだな。だが、それだとお前、動けないよな?」
刀を掴んでいる手に力を込めながら、アヤメはニヤッと笑う。その手を俺が離すと刀からの攻撃が俺に飛んでくる。反対にもう片方の手を離すと、魔法が飛んでくる。俺は何も出来なくなってしまった……わけではない。
「こうすりゃあ、いいッ!」
俺はアヤメの両手を自分の方に引くと同時に、頭突きを食らわせる。
「ぐあッ!」
先ほど、傷を癒したばかりなのに、またもアヤメの鼻から血が出てくる。力が抜けたと感じた俺は、手を離し、アヤメの顔に拳を放つ。
「がっはッッッ!」
吹っ飛んでいくアヤメを確認し、俺はゆっくりと地面から無間を抜いた。
「五体全てを武具にしろ。そうすりゃ、刀が無くても何とかなるってエンヤの教えだ」
無間でアヤメを差しながらそう言うと、よろよろと立ち上がり、再度傷を癒し始めるアヤメ。
「……エンヤって?」
「俺の育ての親だよ……アイツからは色々と学んだ。
……ちと、馬鹿みてえなやり方だったがな……」
アイツのやってきたことは、全て俺を強くするため。俺が一人でも強く生きて行けるようにするためだった。
だが、もう少しやり方と教え方ってものがあるだろうと、アイツが俺にしてきたことを思い返しながら笑った。
「へぇ……ムソウにもそんな野郎が居たんだな」
「野郎じゃないぞ? エンヤは……」
今度は俺がアヤメに突っ込んでいく。そして、また無間で連撃与えた。一回目で慣れたのか、アヤメはそれをさばいていく。
だが、続けると、手に力が入らなくなってきたのか、動きが鈍ってくる。そう感じ、攻撃を続けていた俺は、最後思いっきり力んで、アヤメの刀に一撃を加えた。
カキンッ! といい音を立ててアヤメの手から離れる花鳥風月。そして、俺はアヤメの首筋に無間を向ける。
「女だ。これもあいつが好きな技だったな……」
この、ひと呼吸で無間をただただぶん回し、敵を斬りつけるという、技とも言えない攻撃……エンヤの好きな技だった。これにより、エンヤの前に立ちはだかる山賊の集団があっという間に血の海になっていくのを何度目にしたことか。
こちらの世界に来て、「無斬」という技になっていたのは笑ったな。その名の通りの光景がただただ、幼き俺の目に焼き付いていた。
さて、アヤメにエンヤの、特にバカみたいなところを言うと、アヤメはフッと笑う。
「そんなすげえ、女が居たんじゃ、てめえのそのゆがんだ男女平等もわかる気がするな……」
「そんな軽口叩いている場合か?」
大概の場合、こういう状況になると、手合わせをしていた相手は降参するが、アヤメはそうせず、いつまでも俺に口を聞いているようだった。一体どうするかと思っていると、アヤメは更に笑う。
「もう、仕掛けてるッッッ!」
「あ? ……ッ!」
突如、アヤメの足元から地面が尖って、俺を突き刺そうと伸びてくる。瞬時にそれを察知した俺は後方へ飛び、それを回避した。どうやらアヤメは足から魔法を使ったらしい。そういや、ミサキも同じ魔法を使っていたなと思い、俺は無間を構える。
アヤメは身を翻しながら俺から離れ、落ちていた花鳥風月を手に取った。
「さあて、いっちょやってみるか!」
アヤメが大きく刀を振り上げると、アヤメの言葉に呼応するように、刃が輝く。次に来る技は強力なものらしい。俺は、スキルを発動させて、準備を整える。
―ひとごろし発動―
アヤメの刀と同様、無間も輝き、そこらの気を集めると、だんだんと小さくなっていき、普通の刀の大きさになった。後が怖いこのスキルだが、こないだ対処法を見つけた。短い時間なら何とかなるだろう。
そう思い、頭上で無間を回す。俺の頭上に大きな竜巻が出来たことを確認し、準備が整った。
「へぇ……すげえな。小さくなったが、前以上の力を感じる。やはりただものじゃないな、お前もその刀も」
「当たり前だ。何せ元はエンヤの刀だからな。これくらいじゃないと、俺が困る」
俺の言葉にそうか、と頷くアヤメ。そして、
「じゃあ、これは今日付き合ってくれた分と、面白いものを見せてくれた礼だ。しっかりと受け止めなッッッ!」
「来いッッッ! 全てを斬ってやらあッッッ!」
「奥義・四神陽光大斬波ッッッ!!!」
アヤメの刀の輝きが増していくと、背後に大きな四本腕で屈強な男のような幻影が浮かび上がる。
そいつはそれぞれの手で、赤、青、緑、黄の色に輝く刀を持っていた。ナズナもやっていて、ジゲンから聞いた、偶像術というやつだな。ということはあれが、花鳥風月の精霊か……。
精霊が、アヤメの動きに合わせ、それぞれの刀を上げ、アヤメと共に、思いっきり振り下ろす。
すると、刀からアヤメがこれまでに使ってきた、燃える斬波、水で出来た斬波、風を纏った斬波、そして、尖った岩を纏った斬波が放出される。全ての斬波は交差し、アヤメの放った斬波と混じり合い、白く輝く一つの巨大な斬波となって、俺に迫ってくる。
あれは、俺の斬波じゃ相殺できるかわからない。下手すりゃ、かき消される感じだ……竜巻、作っておいて良かった。
俺は、無間を回しながら、竜巻の中に斬波を撃っていく。それをしながら、回転させる刀の速度を上げた。小さくなった分、それが出来るようになった。前よりも一回り大きく、数の増えた斬波を含む竜巻を、アヤメの放った巨大な斬波に向ける。
「迎え撃つッッッ! 奥義・大螺旋大斬波ッッッ!!!」
俺の技は、地面を削りながら、アヤメの攻撃とぶつかる。ギリギリと大きな金属音を上げる、俺達の攻撃同士のせめぎ合いはしばらく続く。
俺はすべてをきるものを発動させて、アヤメの斬波を視た。すると、数こそ少ないが、切れ目は見える。手首で、無間を操作し、うまいこと、その切れ目に斬波を当てる。
「これで……終わりだッッッ!」
斬波が切れ目を斬ると、アヤメの斬波は霧散していった。目を見開くアヤメに俺の竜巻が襲っていく。身構えるアヤメを見て、これは受けきれないだろうと、刀の向きを少し変えて、竜巻の行く方向をずらす。
螺旋斬波はアヤメのすぐ横を通り、後ろの壁に激突した。攻撃を止めると、壁は大きくえぐれている。地下ということもあり、崩れなくて良かったと思いつつ、すぐさま、無間を構え、俺は駆けだす。
そして、アヤメに一気に近づき、力んで、アヤメの刀を弾き飛ばすと同時に、アヤメの襟を掴み、そのまま、壁に押し込む。
「グアッ……!」
「……終わりだ」
―死神の鬼迫―
今度はアヤメの首に無間を突き立てた。最後のあがきということで、何かしても最悪の場合、アヤメをすぐ殺せるといった意味で。
ついでに、強い殺意を向けると、アヤメは目を見開き、フッと笑い、両手を上げた。
「ま……まいった……俺の……負けだ……」
アヤメの降参を確認すると、俺はアヤメから手を離し、無間を引っ込めた。アヤメはその場でドサっと座り込む。
それと同時に、ひとごろしを解く。無間が元の大きさに戻ると同時に、疲労が一気に押し寄せてきて、ふらつくが、まだ、何とかなる具合だ。俺は活力剤と気力回復薬を呑みながら、アヤメを立たせた。
「いい勝負だったぜ」
「ああ、まったくだ……今日はありがとうな、ムソウ」
手を出すと、アヤメは俺の手を握り、立ち上がった。そして、ボロボロな状態の自身の姿を見て笑い、辺りを見渡した。
「こっちもボロボロだな……」
周りは、俺とアヤメの戦いの跡で、ボロボロだ。地面は派手にえぐれ、地表がめくれ上がり、あちこちにひびが入っている。よくもまあ、地下なのに崩れもしなかったな、と二人で苦笑いしていると、俺達に駆け寄ってくる足音が聞こえる。
「いやあ、お二人とも凄かったですね。特にムソウさんの攻撃は僕の魔法でも耐えきれませんでしたよ……」
コモンはそう言って、頭を掻いている。何でも、闘いが始まると、どこへ飛んでいくのかわからない、俺とアヤメの攻撃から、この空間を守るために、壁に結界魔法をかけていたという。
流石にミサキの天岩戸よりは弱いので、俺の最後の攻撃は防ぎきれなかったらいい。とはいえ、あれだけの戦いをここまでの被害に止めたコモンはさすがだなと感心した。
その後、コモンは土魔法を使い、闘技場の整備を一人で行っていく。俺は汚した詫びにと、アヤメの着物を神人化して綺麗にした。アヤメは、同じ神人なのにえらい違いだな、と例のケリス卿と比べながら笑っていた。
さて、本来の目的だったアヤメの試し斬りと、俺の無間の状態はどうだったのか。闘技場の整備が終わったら、コモンに感想を聞かねえとな。俺達はしばらく、コモンの作業を眺めていた。
しばらくすると、コモンが整備を終えてやってくる。見ると、荒れ放題だった闘技場は平らにならされていた。俺がえぐった穴も見事にふさがっている。額の汗を拭っているコモンに魔力回復薬を渡すと、コモンは頭を下げて飲み始めた。
「さて……アヤメさん、どうでしたか?」
薬を飲み終えて、今回の試し斬りの感想をアヤメに聞いた。自身の感想よりも実際の所有者であるアヤメに使い心地の確認をしたいそうだ。アヤメは頷き、花鳥風月を抜く。
「使い勝手、威力は見たとおりだ。何の問題もない。ただ、これ以上があるのかと思うと、扱いきれるか不安だな……」
アヤメはそう言って、コモンに刀を渡した。なるほどと、コモンは頷き、俺の方を見てくる。
「では、実際闘ったムソウさんはどうでしたか?」
「いや、その前に、その刀の秘密を教えて貰えねえと、何を言えば良いのかわからない」
俺がそう言うと、コモンはアヤメに視線を送る。アヤメが頷くと、コモンは花鳥風月について、説明だした。
この刀は、この世界の魔法の四大属性である、火、水、土、風の属性攻撃を、所有者の適正属性関係なく行使できるらしい。
そして、その威力はそれぞれに対応した魔物の素材によって大きく変わってくる。
ちなみに、今使われている素材は、火は、こないだ俺が倒した噴滅龍、水は、サネマサの生家にあった災害級の魔物である海王鯨、土は、硬く巨大な角を持ち、一度走り出すと、山にそのまま穴を開けてしまうほどの突進力を持つ災害級の魔物、剛突犀、風は、一度翼をはためかせると、巨大な竜巻を起こすことも出来る、ミサキの召喚獣でもあった、オピニンクスのものだという。
噴滅龍とオピニンクスのもの以外はサネマサが倒したもので、オピニンクスの素材は、ミサキとぴよちゃんに頼み込んで、分けて貰ったという。
なるほど、アヤメの多種多様な斬波はそういうわけだったか。この刀で、それぞれの属性を付与し、斬波を放っていたわけだと納得した。
そして、魔物には災害級の上に、天災級がある。天災級の魔物の素材を使うことが出来れば、この刀はもっと強くなるらしい。今でも充分だなと思うがな……。
「それで、どうでしたか?」
「どうって言われてもな……そういや、この刀はそれぞれの属性を同時に扱えないのか?」
取りあえず、思ったことを言ってみると、アヤメは首を横に振る。
「ああ、出来ない。魔法と同様、属性同士で反発しあうからな」
先に上げた四大属性は、それぞれ火は土に強く、土は風に強く、風は水に強く、水は火に強いという特性がある。よって、属性を同時に扱うことは不可能とアヤメは語る。
しかし、コモンの話によると、火と風は力を与えあい、水と土も同様に力を与えあっていると語る。もしかしたら、その属性の組み合わせだと使えるかもしれないという話らしい。
アヤメは少し黙り、努力はするよ、とコモンの言葉に頷いた。
……だが、俺は二人の話を聞きながら首を傾げている。一つ疑問が思い浮かんだからだ。おもむろにコモンが持つ花鳥風月を手に取った。
「ムソウさん……?」
「おい、何する気だよ?」
俺は二人の呼びかけを無視し、刀を構える。そして、出来ると思って、気を集めた。すると、アヤメがやっていたように、無数の土砂が、刃に纏わりついていく。ある程度溜まったら、そのまま闘技場の大岩に向けて斬波を放った。
「ッ!」
俺が放った斬波は刃が土で出来ている。言わば、岩の形をした刃だ。まっすぐ岩へと飛んでいき、当たると同時に、斬波はさく裂。
中から溶岩が飛び散り、辺りを焼き尽くした。唖然とする二人、特に口を大きく上げるアヤメの前で、再度刀を構える。
今度は風が刃を覆っていく。俺は突き技を繰り出すように、刀を前に出す。すると、台風のように雨が混ざった突風が刀から飛び出し、大岩に風穴を開けた。
次に行ったのは廻旋刀。頭上で花鳥風月を回す。すると、土煙を上げる大きな竜巻が、俺の手の上で発生した。そいつを大岩にぶつけると、すごい勢いで風に吹かれている無数の岩石が、大岩に無数の傷を入れていく。
最後に……これは少し難しいな。だが、いけそうだと、刀を振った。すると、刃の先から、螺旋状に水と炎が飛び出し、大岩の所で一つになると同時に、ボンっ! と大きな音を立てて爆発。
勢いよく出現した蒸気の圧力により、大岩は粉々に砕け散った。風を纏わせて刀を払うと、辺りに立ち込めていた蒸気が払われる。
俺は、驚きの表情を変えない二人の前に戻り、コモンに花鳥風月を返した。
「ふむ……反発しあうことなく属性同士を組み合わせることは出来るみたいだな」
花鳥風月の能力が分かった俺は、ニカっと笑う。それにしても、魔法が使えない俺にとっては、この刀は良いな。ミサキのように全ての属性に即した攻撃が出来る。気を使う感覚で、思い描いたように刀を振ると、火も、水も、岩石も、風も、いろんなものが出現する。この感覚は楽しいものだ。
そうやって、一人で頷いていると、アヤメが口を開く。
「え……ムソウ……どうやった?」
「いや、どうって……出来ると思ってやれば、このくらいは造作もないだろう」
「いや、出来るって……言っただろう、属性の組み合わせによっては反発しあうって……」
「ああ、それなあ。それを聞いて、思ったんだけどよ、確かロウガンの持つ夏至と冬至はまさしくそんな感じだったよな?
熱気と冷気、相反する二つの能力を持って一対の刀だった。あいつが上手く操れるなら、俺にも出来ると思ったんだが、上手くいったらしいな」
ロウガンは、その二つの属性を上手く操り、更にそれぞれの力同士で、相殺しあうことなく、刀を操っていた。
あちらは、独立した刀同士だから何とかなっていたかもしれんが、この刀は一本の刀。属性の相性など関係なく、ああいったことが出来るのかと、疑問だったのだが、俺はそのロウガンに勝っている。
あいつに出来て、俺が出来ないわけないと、半ば対抗意識を燃やしつつやってみたのだが、上手くいき、嬉しかった。
俺の言葉とやって見せた技が未だに信じられないとでも言うように、アヤメは目を白黒させている。そして、コモンを見た。何か、祈るような目だ。
「そ、そんな目で見ないで下さいよ。僕だって、この刀で反発しあう属性同士の合わせ技なんて初めて見たんですから……」
「そうは言われてもよ……っと、そうだ。刀の精霊は何か言っていないのか?」
アヤメは期待を込めてコモンにそう言った。確か、コモンは刀精の声が聞けるんだっけか。無間は無理だったが、花鳥風月はいけるらしい。
コモンはふう、と一息つき、刀に手をかざした。そして、しばらくすると、そうですか、と頷き、アヤメを見た。
「……え~っと、そのままお伝えしてもよろしいでしょうか?」
どこかコモンは言いづらそうにしている。不思議に思う俺とアヤメだったが、アヤメは、
「おう、良いぞ。何だよ?」
と、軽い口調でコモンに言った。コモンはわかりましたと言って、口を開く。
「刀精曰く、「私の力を全て扱える者に出会えて嬉しい。アヤメにはもう少し頑張ってもらいたい。というか、頑張れ! この男はお前と同い年くらいだろう! 少しは見習え!」と言って――」
「何だと! この野郎!!!」
コモンが言い終わらないうちに、アヤメは激高し、コモンににじり寄る。コモンは僕じゃなくて、刀精です! と必死に、アヤメをなだめている。その光景を見ながら、俺は笑っていた。
他人の刀精に褒められるとはな。俺もまだまだ、捨てたもんじゃないらしい。そして、やはりあの技は花鳥風月本来の力らしい。となると、今回の試し斬りでは刀自体には問題は無いということが分かった。
「まあ、最初にアヤメが自分で言っていたように、今のままではアヤメは花鳥風月を上手く扱えないみたいだな。せめて、俺に勝てるくらいには努力してみろよ」
未だ怒って、コモンに寄っていくアヤメにそう言うと、深く長い溜息をつくアヤメ。そして、コモンから花鳥風月を奪うように手にすると、
「わかってる。次、やるときは今日みたいな結果に終わらないからなッ!」
と言って、ニカっと笑った。刀自体は強力だし、これに加えてアヤメも強くなれば、次やったら俺も、もう少しは手こずるかもしれない。その日を楽しみに俺とアヤメは固く握手をした。
取りあえず、コモンの見立てでも、刀には特に問題は無かったようだった。刀精も強化に満足しているらしく、コモンは、ヴァルナさんを褒めないと、と呟いている。
アヤメの方は何を奢ってやろうかと悩んでいるようだ。すると、アヤメはハッとし、コモンの方を見る。
「そう言えば……ムソウの刀はどうだったんだ?」
アヤメはコモンにそう尋ねてみた。コモンが今回立ち合った理由の大部分を占めるもの。それは単純にコモンが無間に興味を強く持っていることだ。俺も気になり、コモンに視線をやると、口を開く。
「はい……。残念ながらやはり詳しいことは何もわかりませんでした」
「そうか……」
まあ、予想していた通りだ。遠目から戦いだけ見てもわからないのは当然だと納得している。そう思って俯いていると、コモンは俺の方に寄ってくる。
「……ですが、無間で戦うムソウさんの姿を見ていると、武器と共に戦っているような強い一体感というものは感じることが出来ました」
「一体感?」
「ええ。武器を上手く扱うということは、それに宿る刀精と心を通わせるということ。そのために、多くの方は刀精の祠に行き、武具の精霊と対面し、それが出来るようになるのですが、ムソウさんと無間の場合はそれをしていないにも関わらず、ムソウさんの思い通りに無間が力を出していると見えました。
人と武器があそこまで一つになった姿というものを見るのは稀です」
前に無間を始めて調べて貰った時同様に、俺が無間に、無間が俺に力を与えている姿を戦っている俺達を見て、コモンは更に強くそう感じたという。俺と無間の間に確かに存在する絆を感じ、感服したとコモンは語った。
ただ、それを聞いても俺は、何故だか、何とも思わなかった。そんなこと、言われなくても分かっている。世界が変わってもこいつは親が最期に授け、俺と共に戦い、仲間たちを護ってくれている宝物だ。
それなのに、無間は俺のことを何とも思っていないとなれば、流石に困る。俺は無間のことをよく理解していないが、こいつのことは最高の相棒だと信じている。
コモンの言葉にフッと笑い、頷いた。
「じゃあ、まあ、取りあえず今は何も分からないにしても、無間に何かあったら、その時は頼むぜ、コモン」
「はい、お任せください。ムソウさん」
俺とコモンは固く握手をする。横で話を聞いていたアヤメは、花鳥風月をジッと見ながら、
「やれやれ、俺も頑張ってお前を使いこなしてみせようか。せめて、ムソウに勝ち、てめえから上から目線で喋らせないようにするくらいにはな……」
と、誓いにも似た言葉を呟いていた。




