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主人と従者と大団円Ⅳ ご主人青ざめる之巻

「前回のあらすじ!」

「うむ!」

「おいら、あらすじコーナーでブッた斬られる!」

「どこのあらすじしてる!」

「今回のあらすじ!」

「うむ!」

「今回のあらすじコーナー、七行で五回も〝あらすじ〟って言ってる!」

「今ので六回だ! ええい代われ!」

「ほい!」

「読者のみなさまに。今回の私と公爵との闘いが思いのほか長引いてしまったため、前回の次回予告で紹介した部分までは掲載できませんでした。お詫び申し上げますと同時に、予めご了承くださいますようお願いいたします」

「ここへきて作者の進行力のガバさが露呈しやしたね」

「ぐぁが──ッ!?」

 巨体が反り返る。

 城門を破る衝車のような一撃が、難攻不落かに見えた黄金の鎧をついに揺るがせた。

 息を詰まらせながらも、公爵は振り向きざまに剣を袈裟斬りで振り抜こうとする。

 だが、やはり振り上げたところで、腕が止まる。

 事態を把握できず、表情を強張らせたまま、ヴランティールは腹に二発目の蹴りを受けていた。

 身体を「く」の字に曲げて吹き飛び、公爵は再び地面に倒れた。

 もはや歓声も起こらない。シアンの動きに圧倒されると同時に、誰もが公爵の身に起こったことを理解できないでいた。

「き、貴様……何をした……!」

 当人すらも、片膝をつきながら苦々しげに問う。

 それに対して、シアンは冷然と言い放った。

「お前の腕は、もう自由にはならん」

 ざわ……と、親衛隊員達の間にどよめきが走る。

 ニギエラやイリーズでさえ、感嘆を通り越して戦慄を覚えた。

 公爵の剣をかわしながらシアンが成していた謎の動きの意味がこれだったとは。

 いや、そもそも武器で打ち据えることなく、手だけで相手の関節を傷付ける技など、彼らにとっては(にわか)には信じがたいものだった。

「本来なら、とうに激しい痛みを感じているところだ。痛覚が消えているのが仇となったな。私の初手で気付けば避けようもできたものを」

「ぐ……!」

 ヴランティールの額に青筋が浮く。

 まるで、二人が最初に執務室で出逢ったときの再現だった。

 そして今度ばかりは、公爵も冷静さを保ちきれなかった。

「お前はたしかに強い。だが、その鎧と、剣と、忌まわしい薬の作用こそが己の力と過信して、私の技を受け続けた。それがお前の敗因だ」

「だまれぇ!!」

 公爵が激昂し、立ち上がった。

 シアンの最後の一言が、痛烈に効いたようだ。

「すでに勝ったつもりか青二才が! それこそ貴様の過信と、思い知らせてくれる!」

 胸甲の中央にある装飾をドン、と叩いた。

 その瞬間からヴランティールの気配が変わってゆく。

 それこそ、血に飢えた悪鬼(オーガー)のごとき狂暴な気配が、全身からふつふつと沸き立っているような……

「シアン・ルーン気をつけろ!」

 イリーズが叫んだ。

「さっきも、それをやってから公爵は格段に強くなったんだ!」

 親衛隊長の警告に、シアンは静かに頷く──眼は、倒すべき相手を見据えたまま。

「力が漲っておるわ! 死ねぃ!」

 ヴランティールが地を蹴った。

 刃が、空を裂いて走る。

 腕が動いたのだ。キツネビゲシの強壮効果は、傷付いた神経の回復すら行うようだ。

 そして公爵が勝利を確信した瞬間────懐に、シアンがいた。

 ドン、と包帯で固められた拳が公爵の二の腕を撃ち、剣の動きを止めた。

 すかさず、公爵は剣をひるがえして二の太刀を浴びせる。

 だが、その時すでに、シアンの姿はそこになかった。

 背後──公爵が知覚したと同時に、鉄槌のようなボディブローがその脇腹を連打した。

 衝撃が鎧を貫通して、内臓と骨を激しく揺さぶる。

 蝿を振り払うかのように、公爵が振り向きざまに剣を薙ぎ払う。

 シアンの身体は、その刃の上にあった。

 剣の一閃を跳び越えるジャンプ。そこからの後方回転突蹴(ローリング・ソバット)が、公爵の顔面を直撃した。

「あの公爵が……」

 イリーズが呻くように呟いた。

 その声にはもはや畏怖すら感じられる。

 目の前の闘いが本当に現実のものなのか、彼女にも信じられなくなってきた。

 自分達を圧倒的な力で降したヴランティールが今、さして上背もない青年に、素手で圧倒されているのだ。

 イリーズの見たところ、公爵は剣筋は──相変わらず怪物じみているとはいえ──明らかに鈍っている。あの爆発的な強化作用をもってしても、腕の損傷は癒えきらなかったのだ。

 今の公爵は本人の力量に身体がついてこられない状態。早晩、肉体が限界を迎えるのは必定だ。

 こうなることすら見越して腕を封じにいったのだとすれば、シアン・ルーンとは恐るべき男である。

 そして精彩を欠いてゆく公爵に対して、シアンの動きはますます冴え渡ってゆく。

 相変わらず剣の懐を維持しながら、嵐のような連撃を的確に捌いている。まるで激流の中をスイスイと泳ぎ渡る川魚のようだ。

 だが、その拳、その脚が今どう動いて、公爵のどこを撃ったのかがまるで分からない。

 気がつけば公爵が呻いてよろけているのだ。あの細い腕──ニギエラ王子に比べれば細枝にすら見える腕──の何処に、そんな力が隠されているのか。

「何者なんだ……シアン・ルーンとは……」

 イリーズの気持ちを代弁するかのように、ニギエラが呟いた。

「分かりません」

 王子は自問のつもりだったかもしれないが、イリーズは自らの言葉で答えた(答えた、といえるものでもないが)。

「ですが、奴と出逢ってから今日までの短い間、私は幾度か、奴に(ドラゴン)が重なって見えたことがあります」

「あ、アタシもです」

 ウィリアミナが同意した。

「人でありながら(ドラゴン)……」

 なるほど、とニギエラは得心した。

 何者も寄せ付けない強さ──今のシアン・ルーンを見ていると、それ以外に相応しい形容はないかもしれない。

(ドラゴン)は──」

 フルレラが言った。

「──大地の秩序を守る使命を帯びていると聞きます。その怒りで国ひとつを滅ぼすのも、その国が大地を汚したか、そうなる運命にあったからだと」

「ではフルレラ様……」

 マデリーンが真意を拾う。

「あなた様はシアン・ルーンもまた、大地の秩序を守るために、このメガロニアにやってきたのだと?」

「夢を……見過ぎかしら?」

 シアンを見つめる王女の頬は、熱病にかかっているかのように真っ赤に染まっていた。

 だが、全員の感傷を鼻で嗤う者がいた。

「へっ、そんなんじゃねぇやい」

 マオである。

「ご主人はただの人間さ。ただの人間だから、一人じゃ生きていけねぇことを知ってるし、決して驕らねえし、他人を敬えるし、小さな幸せを感じ取れる…………んまぁ、これ全部ご主人の受け売りだけどね」

「ただの人間……」

 全員が、その言葉を胸に、今一度シアンを見る。

 その〝ただの人間〟は公爵の腕に取り憑くや、枝に登る猿のような動きで軽やかに肩へとよじ登り、脳天に肘打ちを見舞っていた。

「まったくもって〝ただの人間〟の動きではありませんわね」

「同意する」

「ほんまやで」

 他の者もうんうんと相槌を打つ。

「しかもさぁー!」

 メガロニア勢の総意を無視してマオは叫び、一気にまくし立てた。

「あんだけ格好いいのに、いざ闘いが終わったら、飯は作れねぇわ、服もろくに畳めねえわ、金銭感覚もガバガバだわの、超ダメご主人なんだぜえ! おいら、そのギャップがもー可愛くて可愛くて!」

 熱を上げて主人愛を語り出したマオに、全員が溜息を吐く。

 その瞬間、闘いが動いた。

「ぐぉ──ッ!?」

 自分が振った剣の勢いでヴランティールがよろめいた。

 イリーズの予想通り、限界が来たのだ。

 その膝裏を、シアンは容赦なく蹴りつけた。

 最初に使われたものとまったく同じ技で、公爵は片膝を突かされた。

 そして、豪雨が大地を叩くかのような音が響いた。

 シアンの拳の連打である。

 顔面を集中攻撃しながら、公爵が剣を振ろうとすれば二の腕を叩いて黙らせ、立とうとすれば肩に拳を振り下ろして押さえつける。

 もはやヴランティールには反撃も脱出も叶わない。

「ぐぁ──ッ!」

 だが、唐突にシアンが顔を引き攣らせて後ろへ飛んだ。

 その腹を、黄金の左腕が撃っていた。

 意地の一発とでも言うべきか、ここで徒手を使うとは思わず、シアンも不意を突かれてしまったのだ。

 脚が一瞬、力を失い、片膝を突いてしまう。さして勢いもついていないとはいえ、さすがに重量級の拳だ。

「ぬあぁッ──!」

 そこを狙って、公爵が真っ向から剣を振り下ろしてきた。

 間合いは完全に剣のもの──膝を突いたシアンに避ける暇はない。

 まさかの逆転にフルレラ達が悲鳴を上げそうになった瞬間だった。

「うぉあああぁぁぁ────!!」

 シアンが吼えた。

 全身に力を漲らせて立ち上がり、拳を振り抜いた。

 ギァァァン────耳障りな金切り音が、闘技場を満たした。

 それはウヮンウヮンという、一定の振幅とともに空に高く昇ってゆき、やがて大地に落ちてきて、アリーナに刺さった。

 赤く光る刃──だが、ヴランティールの手にはまだ剣の柄と、若干の刀身が残されている。

 そして、剣を振り下ろした姿勢で硬直する公爵の目の前には、拳を振り抜いた姿勢で自分と同じように硬直する、無傷のシアン・ルーンがいる。

 誰もが自分の眼を疑った。

「……折った? オリハルコンを!? 素手で!?」

 イリーズが全員の驚愕を代表して叫んだ。

「これ……夢、よね」

「え、マジ?」

「デタラメだわ」

「んなアホな」

「か、家宝が……」

 ニギエラたちも次々に戸惑いの声を発する。

(かっくいぃー! 痺れるぅー!)

 その脇でマオひとりだけが、自分の身体を抱いて、感動と興奮に打ち震えていた。

 ヴランティールは茫然自失として動かない。目の前の出来事を事実として認識出来ていないのだ。

 対するシアンは、なおも闘志を燃やして公爵の顔を見据えて…………心の中で首をかしげた。

 公爵の顔が、おかしい。

 自分の拳のせいでボコボコになっていることではない。

 髭が、歪んでいるのだ。

 付け髭だというのはわかる。今まで気づかなかったが、殴っている最中にずれたのだろう。

 だが、なんのために?

「お……おああああ!」

 突然、公爵が剣を捨てて突進してきた。

 その顔は恐怖に引き攣っていた。

 絶対無敵と頼んでいたオリハルコンの剣を折られたことで、自暴自棄に陥ったのだ。

 その髭の謎について考え込んでいたせいで、シアンの反応が遅れた。

 気がつけば巨体は眼前。今から拳を出しても、体重差で押し切られる。

 しかしそんな状況でも、シアンの身体は自然と反撃に転ずる動きを取った。

 そして、それが悲劇を呼んだ。

 ヴランティールの身体が跳ねるように前へと転がった。

 たちまち、股間を押さえて呻く。

 自ら後ろに倒れ込んで突進を避けたシアンが、真下から蹴り上げたのだ。

 全身を覆っているように見える甲冑でも、腰当(フォールト)の奥はインナーである。当然、下から蹴られれば、そこにあるものは直撃を受ける。

 だが、見事な逆劇を決めたはずのシアンは、脚を天に向けたまま動かない。

 その顔は青ざめていた。

 蹴った感触が気持ち悪かったのではない。金的への攻撃は、師から学んだ立派な技の一つである。

 問題は……無かったことなのだ。

 あるべき手応えが。

「いけない! シアン・ルーンは多分、伯父上の秘密を知ってしまった!」

 いち早く、ニギエラが事態を察した。

「そ……そんな!」

 フルレラも悲鳴に似た声を上げる。

「公爵の秘密!? なんですかそれは!?」

 イリーズが訊いた。親衛隊隊長でさえ、そのようなことは初耳だった。

「まさか……ご主人……ッ!」

 主人の様子から、マオはすべてを悟っていた。

 シアンとヴランティールが同時に立ち上がった。

「き、貴様……よくも……! よくも知ったな……ッ! 絶対に生かして────ッ!」

「あ、あんた……あんたは……!」

 二人の形勢は逆転していた。

 怒りに眼を血走らせてジリジリとにじり寄る公爵に対し、シアンは完全に気圧されて後退る。

 そしてシアンの口から、ついに、恐怖の叫びが迸った。

「あんた女じゃねぇかああああぁぁぁ──────!!」

「『ご主人は女傑恐怖症』裏話コーナー!」

「いやー、参った参った」

「まさか公爵がねぇ……」

「しかもアレな、プロットの段階で決まってたことではないんだよな」

「え……? じゃぁ、いつもの?」

「そう。〝書いてる途中で降って湧いたネタ〟」

「ええー、そのせいで、伏線みたいなものが全然なかったんですかい。 あ、そういやジジィ、おいらをアハンな意味で暴行したみたいな言い方してたじゃねぇですかい。アレ、どうみても男なんじゃ」

「みたいな言い方、だからな。多分アレの真相は普通に鞭でビシバシ打って『はースッキリ』みたいなものだろう。もっとも、お前が捕まった時点では完全に男性として設定されていたんだがな」

「一体全体どの時点で性別が変わったんでさ?」

「スワルが死んだあたり」

「すっげぇ終盤!」




次回予告!


 円は線を包むといって

 並み居る伏線・相関・矢印を

 円く収めて大団円。

 しかして包んだその円が

 実は大きな線だとしたら

 延々と走るループ線?

 終わったと思ったらまだまだ続く?

 シアンに慰安の暇はなし?

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