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主人と従者と大団円Ⅱ 公爵爆発する之巻

「前回のあらすじ!」

「うむ!」

「王子さんの危機に、おいら参上!」

「完全に隊長を食ってたな」

「貴様らなぁ……!」

「今回のあらすじ! ラストだよ全員集合!」

「え、もう終わり?」

「ラスト・バトルって意味だ。最終回じゃない」

「紛らわしいわ!」

「死にぞこないどもがッ。邪魔をするなぁー!」

 黄金剣が振り上げられた。

 だが、その刃が振り下ろされる寸前────

「う……ッ!?」

 公爵が咄嗟に身を退いた。

 その眼前を、小さなナイフが掠めていった。

「くそッ、惜しい!」

 四人から離れたところで、フルレラが地団駄を踏んで悔しがった。

 純白の鎧には革のベルトが巻かれ、おびただしい数のナイフが納められている。

 その隙に、マオはニギエラとイリーズの襟首を掴んで後ろへ跳んだ。

 イリーズはともかく、重量級のニギエラすら軽々と運び去る。キツネビゲシによって、本来以上の力が引き出されていた。

 着地するや、マオは懐から包帯を取り出してイリーズに投げ渡す。

「これで王子さんの手首を。あのジジィは、おいらが抑える!」

「一人でか!? 無茶だ!」

「てやんでぇ! 腐ってもご主人の一番弟子、マオ・ニャンニャンの実力ぅ、目ン玉ひん剥いて、よぉく拝みやがれ!」

 叫ぶや否や、鍋を構えてマオは突撃した。

「小童! また儂にいたぶられたいか!」

 それを迎え撃って、ヴランティールが剣を薙ぐ。

 次の瞬間、闘いを見守っていた全員が、呆気に取られた。

 ポン──ッ!

 黄金の刃が閃いた瞬間、マオが消えたのだ。

「うにゃ!」

 コォーン! と、公爵の頭にフライパンが炸裂した。

 背後に出現したマオの不意打ちであった。

 しかし公爵は堪えた様子もなく、即座に斬り返す。

「うにゃ!」

 その剣が空を裂くや、真上からの鍋が再び頭を打つ。

 うにゃ、ポンッ──うにゃ、ポンッ──うにゃ、ポンッ──

 三度、四度、五度。マオは消えては現れ、鍋で殴ってはまた消える。

 シアンの弟子という口上がまったく関係ない、魔族ならではの戦法だった。

 出てくる方向にも、まったく予測が付かない。

 絶え間ない奇襲戦法に、公爵も完全に翻弄されていた。

 だが、何発殴られようと、その戦意と動きは一向に衰えない。

 マオの手数に反して、公爵の受けるダメージが少ないのだ。魔族の力とは関係なく、軽すぎるその体重と、空中という不自然な体勢が仇になっていた。

「やるじゃないか……」

 それでも公爵相手に攻勢を譲らぬマオの勇姿に、ニギエラは感嘆していた。

「あの主従には驚かされてばかりです」

 王子の手首にテーピングを施しながら、イリーズも頷く。巻かれた包帯には一寸の綻びもない。野戦治療は親衛隊の必須技能である。

「すまない。私が倒さねばならない相手だというのに。また、そなたらを巻きこんでしまった……」

 詫びるニギエラに、イリーズは首を振った。

「あなた様の妻になれずとも、私の想いはいつまでも変わりません、ニギエラ様。私の命は、あなた様のものです。喜んで、一生お仕えいたします」

「ありがとう。そなたがいてくれると、助かる」

 ニギエラも微笑み返す。

 敗北に泣き、叶わぬ恋と知りながら、なお一途な想いを貫く──それがイリーズの決意だった。

 ……と、言いたいところであるが、このときのイリーズの心情は、もう少し(したた)かなものだった。

(よくやったシアン・ルーン! あとは貴様の正体が男であると明かせば、今大会結果は無効! 間違いなくやり直される! そこで、絶対に……ぜぇーったいに! 私が勝つ!!)

 そのためにも、まずは公爵を倒さねばならない。

 打倒ヴランティールの気炎に愛の炎が加わり、イリーズの闘志を今までになく沸き立たせていた。

「マオッ!」

 フルレラの悲鳴が、二人を現実に引き戻した。

 公爵の大きな手に片足を掴まれ、マオが宙吊りになっていた。

「ちくしょー。時間切れー」

 皮下に埋め込んでいた、キツネビゲシの効力がなくなったのだ。

 無防備なその身を狙って、黄金剣が振りかざされる。

 イリーズたちが走っても間に合わない。

 マオが盾にされているせいで、フルレラも迂闊にナイフを投げられない。

 その時、ニギエラが叫んだ。

「イグニス!」

 鉄の爪が飛び、黄金剣を握る腕に鎖が絡みついた。

 間髪入れず、魔族の女が躍りかかった。

「貴様──ッ!」

 だが、公爵の反応も速い。

 マオを放り出すや、その手に剣を握り直して鎖を断ち切った。

 そして体を捻り、すんでのところで鉤爪を避けた。

 逆に隙の出来たイグニスに、剣を振り下ろす。

 その刃も虚空を裂くに終わった。

 ポンッ──イグニスが消えたのだ。

 マオもいない。

 再びその姿が現れたのは、ニギエラの隣だった。

「おめ……王子さんの使い魔だったのか!?」

 マオが驚いた顔で覆面の女を見上げる。

 その手は、イグニスのそれに握られていた。

 魔族の空間転移は、相手が同じ魔族か契約者である場合に限り、身体に触れることでその者も巻きこむことが出来る。

「ニギエラ様……まさか、あなた様が……!」

「お兄様……」

 さすがにこの状況には、イリーズとフルレラも困惑している。

「この……雌狐が……!」

 ヴランティールも怒りを隠せないでいる。

 無理もない。スワルに並ぶ手練れの駒として雇っていたはずの女戦士が実は魔族だったばかりか、甥の放ったスパイだったのだから。

「みんな、隠していて悪かった。伯父上に対抗するために力を借りていたんだ。あ、もちろん司祭長の許可はもらっている」

 なるほど、とマオは合点した。

 たしかに呪具《偽りの面》さえ付けていれば、イグニスは少し露出度の高い普通の女戦士だ。契約しているならば裏切ることもない。

 ニギエラが〝腕のいい腹心〟と言ったのも頷ける。マオによって正体が露見したあとも、その身体能力を活かして敵の動きを探り続けていたのだろう。

 そう考えると、試合で面を割ったのは彼らにとってかなりの痛手だったはずだ。

 そんなことをマオが考えていると、その心を読んだかのようにイグニスが声を発した。

「ほんま、あんたに面割られたせいで大弱りやったで」

 マオはさらに驚いた。

「おめ……! 口がきけたのか!? しかも、すっげー訛り! さては、ド田舎だな!」

「人のこと言えんのかいワレ……」

 眼を吊り上げて、鉄爪をちらつかせるイグニスだった。

「べらんめぇ、もう一戦やるかこのぉ?」

 マオもフライパンをクルクルと手首で回しつつ、薮睨みに見上げる。

 謝る気などさらさらない。正体を暴かれて困ったのは自分も同じなのだから(あれは十中八九、八つ当たりだったとマオは踏んでいる)。

「ヴランティール公爵! 貴殿の野望もこれまでだ。おとなしく降伏されよ!」

 二人をよそに、剣を握りなおしたニギエラが叫んだ。

 気がつけば、ヴランティールは完全に孤立していた。

 円形の包囲陣を組んだ親衛隊が、闘技場の中に、もうひとつのアリーナを作りだしている。

 その中から、二人の女戦士が前へと出てきた。

「近衛隊は全滅しましたよ、閣下。大将ひとりで戦をやる気ですか?」

「栄光あるメガロニアの公爵ならば、潔く負けをお認めなさいませ?」

 二人揃って痛烈な皮肉を浴びせる。

 だが、公爵は剣を捨てなかった。

 それどころか、獅子の吼えるような哄笑が場内に響き渡った。

 その場にいた全員が呆れるのを通り越して、戦慄した。

「大将ひとり、か。面白い! ならば貴様ら全員を屠って、儂こそが真の王であることを証明してくれる!!」

 あろうことか、ヴランティールの口から発せられたのは降伏宣言ではなく、宣戦布告だった。

「遊びは終わりだ! 全員でかかってくるがいい!!」

 最後の一言を合図に、全員が武器を構えた。

「マオ、ありがとう。きみは休んでいてくれ。あとは、ボクらがやる」

 公爵を見据えながら、ニギエラが言った。

「皆……力を貸してくれ!」

 王子が走った。二刀流のイリーズと、イグニスがそれに続く。

 反対側からも、ウィリアミナ、マデリーンが迫る。

 フルレラはナイフをいつでも投げられるように構え、援護の姿勢を取る。

 五本の剣と鉄爪が、公爵に躍りかかった。

 ニギエラが中心となって攻め立て、イリーズも多方向から間断なく刃を繰り出す。

 ウィリアミナもニギエラの動きに合わせて強烈な一撃を放って公爵の防御を切り崩さんとし、自軍に隙が生まれればマデリーンの素早い反応と、狙い澄まされたフルレラの投擲がフォローする。

 イグニスは公爵の周囲を飛び回りながら一撃離脱を繰り返した。

 メガロニア随一の剣士四人と魔族、そして王女による一斉攻撃である。

 マオも、周囲の親衛隊員も、つむじ風のようなその闘いを、固唾を呑んで見守っていた。

 すると次第に、六人の剣がヴランティールを捉えはじめた。

 当初は完璧に捌ききっていた公爵が、一撃、二撃と、その身に刃を浴びている。

 重厚な鎧に阻まれて有効打とはいかず、公爵も安全な攻撃だけを選んで、あえて受けているようだった。

 だが、このままいけば、間違いなく押し切れる。

 誰もがそう思った。

「やるではないか! ……ならば!」

 不意に、公爵が自らの鎧の胸をドンッと叩いた。

 その瞬間、公爵の〝何か〟が変わった。

「うおぉぉぁぁ!!」

 獣のような咆吼が響き渡り、黄金の剣がつむじ風を断ち切った。

「あぅ──ッ!」

 まず、マデリーンの剣が砕かれた。本人は直撃を免れたものの、衝撃で後方に吹き飛ばされる。

「マデリーン────きゃぁッ!」

 相棒の敗北に気を取られたウィリアミナも、揺らいだ太刀筋を真っ向から粉砕される。

「あッ!」

 フルレラが悲鳴を上げ、手を押さえて蹲った。

 その指の先から血が滴り落ちる。

 投げたはずのナイフによる裂傷だった。

 信じられないことに、公爵は飛来したナイフを剣の一振りによって、正確に、射手へと弾き返したのだ。

「くそぉッ!」

 部下と王女の仇を討たんと、イリーズが二刀での刺突をしかける。

 だが公爵はその双撃を一振りで切り払うや、眼にも止まらぬ速さで刃を翻す。

 剣の軌道が、親衛隊隊長の首を捉える。

 避けられない──イリーズが死を感じた瞬間、キツネ色の髪が、その視界を埋めた。

 イグニスが(かば)いに入ったのだ。

 黄金の剣が籠手を砕いた。破片が舞うなか、吹き飛ばされたイグニスと、その背を受け止めたイリーズが揃って地面に転がった。

「イリーズ! 貴様ァ!」

 仲間が次々と倒されてゆくなか、ニギエラは奮戦する。腕も砕けよとばかりに揮われるその太刀筋は、もはや傍目(はため)から見てさえ、とうてい眼に追えるものではない。

 しかし、その迅速の剣さえ、公爵は悠々とかわしてみせる。

「つぁ……ッ!」

 突然、ニギエラの表情が歪んだ。包帯に守られた手首が、再び限界を迎えたのだ。

 そして、オリハルコンの剣が叩き落とされた。

 刃が返され、武器を失ったニギエラの首へと走る。

 ポンッ!

 ニギエラが消え、イリーズのもとに現れた。

 ニギエラ自身の技ではない。背後から忍び寄ったイグニスが、己の空間転移に巻きこんだのだ。

 辛うじて公爵の剣を避けられたニギエラだったが、生き残ったという安心感はない。

 王子を守らんと、イリーズ、ウィリアミナ、マデリーンがその目の前に集う。

 マオとフルレラも駆けつけ、七人で身を寄せ合うように固まる。それが、彼らの焦りと悲壮を象徴していた。

「ふはは、手に入れたぞ! これは儂のものだ!」

 ヴランティールが黄金の剣を捨て、オリハルコンの剣を拾い上げたのだ。

 戦慄と絶望が、ニギエラたち全員を捉えていた。

 オリハルコンはダイヤモンド以上の硬さと、金のような強さを併せ持ち、さらにはガラスよりも軽い、地上で最高の鉱物である。

 その刃を持つ最強の剣が、今、もっとも恐るべき敵の手に渡ってしまったのだ。

「これで文句はあるまい。最強の力と最強の剣。儂こそが、メガロニアの王なのだ!」

 ブランティールは意気揚々とオリハルコンの剣を天に掲げた。

 もはや、新たに挑みかかる者はいない。

 包囲しているはずの親衛隊も、完全に気圧されていた。

 ニギエラたちにも、打つ手はない。

 ただひとり、イリーズだけが折られずに済んだ剣の(きっさき)を、公爵に向け続けている。

 その手と脚は、震えていた。

 親衛隊の意地と、王子への想いに賭けて、退くわけにはいかない。

 この怪物を倒す。差し違えてでも。

 だが、恐い。悪鬼(オーガー)を相手取った時ですら、ここまでの恐怖は感じなかった。

 そのイリーズを、ヴランティールの血走った双眸が見据えた。

「ふっ、この期に及んで、まだ儂に剣を向けるか。面白い」

 公爵の目に、好色げな嘲りが過ぎる。

「どうだ、親衛隊隊長よ。ひとつ取引をせんか?」

「取引……だと?」

「そうだ。これでも儂は貴様のことを高く評価しておってな。殺すには惜しい。そこでだ……」

「帰順などせんぞ!」

 震え声であるが、イリーズは機先を制した……つもりだった。

「さて、どうかな? ここにいる全員の命と引き替えに、儂の妻となれ、と言ったら?」

「な……!?」

 イリーズは絶句した。

「伯父上、あなたという人は!」

「なんて、ひどいッ!」

 ニギエラ兄妹が声を荒らげる。

「イリ姐! 聞くことない!」

「ええ、私達は最後まで闘います!」

 腹心たちの言葉も虚しく、イリーズは深い逡巡に陥っていた。

 その眼は、もう何も見ていない。

「儂は今やメガロニア最強の戦士、王であるぞ。貴様もメガロニアの王妃を目指す身であれば、そこにおる若造よりも儂を選ぶべきであろう?」

 そうじゃない、とイリーズは叫びたかった。

 声が出ない。

 自分が断ればニギエラが死ぬ──最悪の未来が、イリーズを鉤爪に捕らえて放さない。食い込む爪に、心が引き裂かれそうだ。

 闘っても勝ち目がない。その事実が迷いに拍車をかけ、心の天秤を傾かせる。

 私一人の身で、皆が助かるなら…………

 公爵の妻に────天秤の皿が地に着こうとした瞬間だった。

「王の素質とは、力と剣のみで決まるものではない」

 少しかすれた声が、イリーズの天秤をもとに戻した。

 叫び声ではない。

 だが、それは闇夜に響く鈴の音のように、場を切り裂き、震わせた。

「『ご主人は女傑恐怖症』裏話コーナー!」

「このコーナーも残すところあと少しだな」

「ってなわけで、今回は前回の続き! マデリーンさんが辿るかも知れなかった死の運命について伺いやす」

「マデリーンについては正直なところ、ミラウラ、つまりフルレラの影武者と平行する形でキャラの設定が迷走していたんだが、最後は単身公爵に闘いを挑んで殺される、という結末を考えていた」

「ええー、なんでそんな無茶を……」

「たしか、クーデター開始直前に、そこで彼女が公爵を足止めしなければならないシナリオを組んでいたと思うんだが、没にしてよく覚えていない。ただ、ウィリアミナの仇討ちという私怨も含めていたはずだ。親友のあとを追う形だな」

「仲良さそうですもんね」

「で、マデリーンが死んだことで、彼女にぞっこんだった私の、公爵に対する怒りは倍加。本編とは異なって、怒りに我を忘れたまま公爵とガチンコ」

「ギャグで始まって、最後の最後でシリアス&血なまぐささ満載でやすね」

「前にも言ったが、それを避けたかったからこそ二人を生き残らせたんだ」

「今の本編もかなりシリアスな気がしやすが……」



次回予告!

 頂上決戦幕開ける!

 オリハルコンを手にした公爵か!?

 神速拳法シアン・ルーンか!?

 ここまでくれば説明不要!

 もしかしたらば予告も不要!?

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